超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス   作:友(ユウ)

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第21話 闇に染まる福音(ゴスペル)

 

 

 

 

 

 

臨海学校2日目。

紫苑が朝起きてプルルート、ピーシェと共に渡り廊下を歩いていると、一夏とセシリアが何か見ていた。

 

「一夏、セシリア、おはよう。 どうかしたのか?」

 

紫苑が2人にそう声をかける。

 

「おう紫苑、おはよう。 いや、どうかしたってわけでもないんだが………」

 

一夏が歯切れ悪くそう言いながら視線を地面に落とす。

そこには、『引っ張ってください』と書かれた看板と、何故か地面に埋まっている機械的なウサ耳。

 

「何これ~?」

 

プルルートが声を漏らす。

 

「いや、ちょっとな………」

 

一夏はそう呟いて渡り廊下から降りると、そのウサ耳を掴み、

 

「でぇい!」

 

思い切り引っ張った。

その下から何か出てくるのかと思ったが、実際は何も付いていなく、見事にすっぽ抜け、一夏は尻餅をつく。

 

「おわっ!?」

 

一夏は痛みに顔をしかめるが、

ゴォォォォォォっと、何やら空気を切り裂く音が聞こえる。

 

「ッ!?」

 

紫苑は反射的にインベントリから刀をコールし、何時でも抜刀できる体勢を取った。

次の瞬間、赤い何かが猛スピードで落下し、地面に突き刺さった。

 

「うわぁ!?」

 

「きゃあ!?」

 

「くっ!?」

 

「わ~?」

 

「お~!?」

 

巻き起こった衝撃波に悲鳴を漏らす5人。

その目の前に突き刺さっていたものとは、

 

「おおっ! にんじん!」

 

ピーシェが驚いたような嬉しそうな声を上げる。

5人の目の前に突き刺さっていたものは、2.5mほどもある人参のデザインをした何かの機械。

すると、

 

『あははは! うふふふふ! あははははははは!』

 

その人参から笑い声が聞こえ、その人参が真っ二つに割れる。

その中から、

 

「引っかかったね、いっくん! ぶいぶい!」

 

紫の髪をしたやけにハイテンションな女性が現れた。

 

「お、お久しぶりです……束さん」

 

一夏は何とかそう言う。

 

「うんうん! お久だね~! ほんっとうに久しいね~! ところでいっくん。 箒ちゃんは何処かな?」

 

「え、え~っと……」

 

一夏は答えようとするがすぐに言葉が出てこない。

すると、

 

「ま、私が開発した箒ちゃん探知機ですぐに見つかるよ! じゃあね、いっくん! また後でね~!」

 

勝手に自己完結し、走り去る束。

まるで嵐のように過ぎ去った束に、

 

「い、一夏さん……今の方は一体………?」

 

セシリアが一夏に尋ねる。

 

「篠ノ之 束さん。 箒の姉さんだ」

 

そう答えた一夏の言葉に、

 

「ええっ!?」

 

驚愕するセシリアだった。

 

「……………今のが、篠ノ之 束……………」

 

何処か俯くように呟く紫苑。

 

「……………シオン君~?」

 

そんな紫苑を首を傾げながらプルルートは見つめた。

その時、

 

「んっ?」

 

紫苑は何かに気付いたように中庭の茂みを見た。

 

「……………………」

 

紫苑は暫くその茂みを注視する様に見ていたが、

 

「ぱぱ? どうかした?」

 

ピーシェに声を掛けられ、ハッと気を取り直す。

 

「いや、多分気の所為だ…………」

 

紫苑はそう言うと首を振ってその場を離れた。

 

 

 

紫苑達が立ち去った後、

 

「チュ~~~……………危なかったっチュ。それにしても、『守護者』のガキまでこの世界に来ているとは思わなかったっチュ…………これはオバハンに報告っチュね」

 

小さな影はそう呟くとその茂みから離れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから暫くして、海岸に生徒達が集合し、臨海学校の目的である各種装備試験運用及びデータ取りが始まろうとしていた。

紫苑と翡翠も一応専用機持ちグループとして割り当てられており、他の生徒よりも多い試験運用が待っている。

まあ、正式な専用機持ち達よりかはマシだが。

専用機持ちは他の生徒とは別の場所に集められ(邪魔をしないという条件でプルルートとピーシェも)、千冬の指示を待つ。

 

「よし、専用機持ちは全員集まったな」

 

千冬がそう言うと、

 

「ちょっと待ってください。 箒は専用機を持ってないでしょう?」

 

鈴音がそう発言する。

 

「そ、それは………」

 

箒は歯切れ悪く呟く。

 

「私から説明しよう。 実はだな……」

 

千冬がそう言ったところで、

 

「やっほ~~~~~~~~~~~~~~~~~!」

 

何処からともなく声が聞こえた。

その瞬間嫌な顔をする箒と千冬。

見れば誰かが岩の崖とも言える斜面を駆け下りてきていた。

そして、本当に人間かと思えるぐらいの跳躍力で飛び上がる。

それは、先程も現れた束だった。

 

「ち~~~~~~~~ちゃ~~~~~~~~ん!!」

 

そのまま一直線に千冬に向かって飛びこんできて、

ガシィっと千冬が容赦なく右手で顔面を掴んで止めた。

そして、そのまま手に力を込め、アイアンクローへと移行する。

だが、束はまるで効いてないと言わんばかりに、

 

「やあやあ、会いたかったよちーちゃん! さあハグハグしよう! 愛を確かめよう!」

 

顔を掴まれたままそうまくし立てる。

 

「うるさいぞ束」

 

千冬は手に更に力を込める。

 

「相変わらず容赦のないアイアンクローだね!」

 

すると、束はアイアンクローから抜け出し、箒に駆け寄る。

その箒は、頭を抱えていた。

 

「じゃじゃ~ん! やあ!」

 

「ど、どうも……」

 

「ふさしぶりだね~! こうして会うのは何年ぶりかな~? 大きくなったね箒ちゃん! 特におっぱ………」

 

そう言いかけた束を箒は何処からともなく取り出した木刀で殴り飛ばす。

 

「殴りますよ!?」

 

「殴ってから言ったあ! 箒ちゃんひどい~~~! ねえ、いっくん酷いよね~?」

 

「は、はあ……」

 

いきなり振られた一夏は曖昧に返事を返す。

 

「おい束。 自己紹介ぐらいしろ!」

 

千冬がそう言うと、

 

「え~。 めんどくさいなぁ~」

 

束はそう言いつつ佇まいを直すと、

 

「私が天才の束さんだよ! ハロー! 終わり!」

 

それだけ言って終了した。

 

「束って……」

 

「ISの開発者にして天才科学者の……」

 

「篠ノ之 束?」

 

それぞれが声を漏らす。

 

「さあ! 大空をご覧あれ!」

 

束が大げさに空を指差す。

すると、空から銀色のクリスタル型のケージが降ってきた。

それは一同の目の前に着陸すると、

 

「じゃじゃ~ん! これぞ箒ちゃん専用機こと、紅椿! すべてのスペックが現行ISを上回る束さんお手製だよ!」

 

ケージが量子分解され、内部のISが露わになる。

その名の通り紅に彩られた機体だった。

 

「何て言ったって紅椿は天才束さんが作った第四世代型ISなんだよ~!」

 

その言葉に一同は驚愕する。

 

「第四世代!?」

 

「各国で、やっと第三世代の試験機が出来た段階ですわよ……」

 

「なのにもう……」

 

それぞれが声を漏らす。

 

「そこがほれ! 天才束さんだから。 じゃあ箒ちゃん。 これからフィッティングとパーソナライズを始めようか!」

 

束がリモコンを操作すると、紅椿のコクピットが開く。

 

「さあ、篠ノ之」

 

千冬の言葉で、箒が紅椿の前に歩いてくる。

箒はまるで圧倒されるようにその機体を見つめた。

 

 

 

 

 

 

箒が紅椿を装着すると、束が操作を始める。

しかもその操作のスピードに全員が再び驚く。

そして、あっという間にフィッティングが終了した。

 

「それじゃ、試運転もかねて飛んでみてよ。 箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ」

 

束の言葉に、

 

「ええ、では、試してみます」

 

箒はそう言って意識を集中させると、紅椿は猛スピードで上昇を始めた。

そのスピードにそれぞれが驚く。

 

「どお? 箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」

 

「え、ええ、まあ………」

 

歯切れ悪く返事を返す箒。

束への苦手意識は拭えていない様だ。

その後は武装の試しに映る。

武装も強力で、雲を穴だらけにしたり、無数のミサイルを打ち落としたりしていた。

その力に一夏達は驚いていたようだが、

 

「………………あれじゃダメだな」

 

紫苑はそう呟く。

 

「どういうことだよ? 紫苑」

 

一夏が驚いたようにそう聞くと、

 

「あれはただ単に機体に頼り切ってるだけだ。確かに性能は良いが、その機体の性能を箒は全然引き出せていない。さっきも言ってたが、箒が思った以上に動くという事は、機体に振り回されているという事に他ならない。現段階で機体性能の3割を引き出せてれば御の字ってとこだろ」

 

紫苑は冷めた目で箒を見る。

箒は嬉しそうな表情をしているが、紫苑から見ればそれは新しいおもちゃを与えられて浮かれてはしゃいでいる子供にしか見えない。

どう贔屓目に見てもISを…………兵器という武器を受け取った者のする表情ではない。

紫苑は『力』を持つことが愚か…………とまでは言わない。

だが、その『力』に見合うだけの『強さ』が無ければその『力』は脆く、また『暴力』になりやすい。

 

「ラウラに聞くが、お前は今の箒を相手に勝てないと思うか?」

 

「ふむ……………」

 

紫苑にそう問われ、ラウラは改めて箒を見る。

 

「…………そうは思わんな。機体性能は厄介だと思うが、それだけだ」

 

そう結論を出す。

 

「そう言われてみると…………」

 

セシリア達も改めて箒を見上げる。

 

「確かに性能は凄いけど、勝てないとは思わないわね」

 

鈴音も自信を持って頷く。

 

「………だね。機体性能ばかりに目が行って大事な事を見落とすところだったよ」

 

シャルロットもそれに続いた。

 

「私も多分勝てる気がするかな………」

 

翡翠はやや控えめに発言する。

 

「えっ、えっ?」

 

一夏は何故か狼狽えている様だ。

 

「一夏だけは勝てないと思ってるみたいだな」

 

一夏の様子からそう推測する紫苑。

 

「し、紫苑も量産機で勝てるって言うのか?」

 

「むしろ完封できる気しかしないんだが」

 

紫苑は呆れた様に、だがそれでいて自信に満ちた発言をする。

 

「まあ真っ向勝負に限る…………という条件は付くが…………」

 

紫苑はそう付け加える。

例えば、操縦技術で埋めることの出来ない性能差…………主に機動性をフルに発揮されて、逃げ回りながら遠距離攻撃を乱射されれば完封するのは難しい。

それでも負ける気は更々無いが。

 

「フン。さっきから聞いてれば、お前偉そうだね!」

 

束がそう口を挟んできた。

 

「戦いの心得を持つ者として感じたことを言っただけなんだがな………」

 

そんな束に対し、紫苑はややケンカ腰な口調で言い返す。

すると、

 

「束、月影に突っかかるな」

 

千冬が束にそう言った。

 

「何さちーちゃん。そんなチビガキの肩を持つなんてどうしちゃったの?」

 

束は特に態度も変えずに聞き返す。

 

「丁度いい、束。私もお前に聞きたいことがあった」

 

千冬は束の言葉には答えずに自分の要件を口に出す。

 

「何々!? ちーちゃんが私に聞きたいことがあるなんて珍しいね!」

 

束は嬉しそうにそう言うと、

 

「束…………お前は知っていたのか? 『白騎士事件』の際、犠牲者が0という事が偽りだったことに………!」

 

千冬は束を睨みつけながらそう言う。

 

「「「「!?」」」」

 

「千冬姉!?」

 

「織斑先生………!? それは…………!」

 

その事を知らなかった鈴音、シャルロット、ラウラ、翡翠は目を見開いて驚愕し、一夏とセシリアは他言無用と念を押された事を口に出したことに驚いていた。

 

「構うものか。こいつにはどうしても確認しなければならん!」

 

千冬は一夏とセシリアを黙らせると束に向き直る。

 

「ん~? ああ! そういえば1人だったか2人だったかいたねぇ~? 別にいいじゃん。おバカな政府の人達が隠蔽してくれたんだし。政府の奴らにとって1人や2人はゼロと一緒って事でしょ?」

 

「ッ!?」

 

その言葉を聞いた瞬間、紫苑は思わず右腕を左手で掴んだ。

そうでもしないと反射的に刀をコールして斬りかかりそうになったからだ。

 

「束……………貴様は同じ言葉を犠牲者の遺族の前でも言うつもりか?」

 

千冬は低い声で問いかける。

 

「どうしたのさちーちゃん? そんな怖い顔して………他のおバカな人達がどうなろうと束さんには関係ないよ!」

 

更なる束の言葉に紫苑は歯を食いしばって我慢する。

 

「シオン君~?」

 

「お兄ちゃん………?」

 

そんな紫苑の変化にプルルートと翡翠が気付く。

 

「ならば教えてやる! ここにいる月影兄妹はその2人の犠牲者の子供だ!」

 

「……………」

 

「…………えっ!?」

 

紫苑は無言だったが、その事を初めて知った翡翠は驚愕から声を漏らす。

 

「ほ、本当なの………? お兄ちゃん…………」

 

翡翠は震えた声で問いかける。

 

「……………ああ…………本当だ………」

 

僅かな沈黙の後、肯定する紫苑。

 

「………そんな…………」

 

衝撃の事実に翡翠は狼狽える。

しかし、そんな2人に対し、

 

「ふ~ん。それは運が悪かったね。ご愁傷様~♪」

 

束は笑いながらそんな事を言っていた。

 

「…………束。よりにもよって今の話を聞いた態度がそれか………!?」

 

千冬は怒りの表情を露にする。

 

「さっきも言ったじゃん。他人がどうなろうと束さんには関係ないよ」

 

「……………貴様は自分が仕出かした事が原因で失わた命に対してもそんな態度を取るのか!?」

 

千冬は声を荒げる。

 

「区別のつかない人間の事なんてどうなろうと知った事じゃないよ。それに今こうしているうちにも世界中じゃどんどん人間が死んでるんだよ? そこに2人増えた程度で何か困ることでもあるの?」

 

だが束は反省の色も見せない。

 

「この……………っ!」

 

千冬は思わず手を出しそうになった瞬間、

 

「………良く知らないけど~」

 

束の目の前にプルルートが現れた。

千冬の振り上げそうになった手が思わず止まる。

しかも、プルルートの雰囲気はのほほんとした空気ではなく、重い空気を纏っている。

 

「あなたが仕出かしたことが原因で~、シオン君のお父さんとお母さんは死んじゃったんだ~?」

 

「な、何だよお前………?」

 

突然現れたプルルートに束は一瞬怯んだ。

 

「そうなんだ~?」

 

「さ、さっきも言ったけど他の人間がどうなろうと知った事じゃないよ! 何だいお前は突然…………」

 

「じゃあ~、何で一言だけでも謝らないのかなぁ~?」

 

「な、何で束さんが謝らなきゃいけないのさ!?」

 

「悪いことをしたら~、ごめんなさいって言うのは当たり前だよ~?」

 

「そ、そんなの知らないよ! それに謝るんならそっちだろ! 折角のちーちゃんといっくんとほうきちゃんの再会を邪魔するんだから………!」

 

「人付き合いが苦手なのは仕方ないかもしれないけど~、少しは変わる努力をした方が良いんじゃないかなぁ~?」

 

ますます空気が重くなっていくプルルート。

 

「人間が簡単にすぐ変わるわけないじゃん。馬鹿なの君?」

 

プルルートの言葉に全く耳を貸す気が無い束。

すると、

 

「……………そっか~。すぐは無理なんだ~……………? じゃあ………!」

 

プルルートは光に包まれ女神化する。

 

「へっ………?」

 

突然の事に束は声を漏らす。

するとそこには、

 

「ゆ~~~っくり痛ぶって、生まれ変わらせてあげようかしらぁねぇ?」

 

鞭を持ったアイリスハートが顕現した。

 

「ひっ!?」

 

流石の束もアイリスハートの姿と威圧感に本能的に恐怖を感じたらしい。

小さいが悲鳴を上げた。

 

「ナマイキでコミュ障のウサギさんにはぁ~、手加減はいらない………わよねぇ!!」

 

ビシッと鞭を一振りすると、アイリスハートは束に近付いていく。

 

「ひっ、こ、この束さんに何する気なのさ!?」

 

「フフフッ…………それはぁ、やってみてからのお・た・の・し・み!」

 

「ひぃいいいいいいいいいっ!?」

 

どんどん近付いてくるアイリスハートに束は思わず悲鳴を上げた。

 

「それじゃあ~、お仕置きタイムのは・じ・ま・り・よぉ~!!」

 

 

 

 

 

 

「あ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!??」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシーン、バシーンと鞭の音と悲鳴が響く中、

 

「ほっといて良いんですか織斑先生?」

 

紫苑がそう聞く。

 

「構わん! 束の奴にはいい薬だ!」

 

千冬は腕を組んだまま傍観している。

因みに他のメンバーはアイリスハートの恐怖を思い出して、震えながら縮こまっていた。

 

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、

 

「真に申し訳ありませんでした!」

 

紫苑と翡翠の前で土下座する束の姿があった。

 

「……………あの束さんが土下座してるよ…………」

 

「あの姉さんを更生させるなんて…………」

 

一夏と箒が呆気にとられた顔で呟く。

 

「俺としちゃ人格崩壊しなかった事に驚きだがな………」

 

紫苑もそう呟いた。

 

「ところで良かったの? アンタたちの両親の仇なんでしょ?」

 

鈴音が紫苑と翡翠にそう聞く。

 

「もう過ぎた事だ。プルルートのお陰で気も済んだし、これ以上如何こう言うつもりは無いさ」

 

「わ、私は実感が湧かないって言うか…………覚えてないので何とも…………」

 

2人がそう答えた時、

 

「織斑先生――ッ! 大変ですーーーーっ!」

 

真耶が端末を片手に慌てた表情で走ってきた。

息を切らせながら千冬に端末を渡すと、千冬は端末を操作して内容を確認すると溜息を吐いた。

すると、束に向き直り、

 

「…………束、これはお前の仕業だろう?」

 

端末の内容を見せつけながらそう問いかける。

 

「あ、あははははは……………ほうきちゃんの華々しいデビューの為にチョロっと………」

 

束は苦笑いを零しながらそう言うが、

 

「さっさと止めろ!」

 

「はいっ! 只今!」

 

先程までの態度が嘘の様に束は千冬の言われた通りに投影パネルを展開し、操作を始めた。

千冬はやれやれと思いつつ束の様子を見ていたが、その様子がおかしいことに気付いた。

 

「嘘…………何で…………?」

 

束が目を見開きながら呟く。

 

「どうした、束?」

 

千冬が怪訝に思いながら聞くと、

 

「操作を受け付けない………!」

 

「何ッ!? 馬鹿な、お前がやった事だろう!?」

 

「私も信じられないよ! この束さんなら簡単に制御を取り戻せる程度にはプログラムを弄ってたはずなのに…………!」

 

「原因は………?」

 

「信じられないけど…………私以外の誰かが制御を奪ったとしか……………」

 

束は悔しそうな表情を浮かべながらそう漏らす。

自他共に認める天災の自分がプログラムの制御を奪えないことが信じられないのだろう。

すると、千冬は一瞬思案すると、

 

「テスト稼働は中止だ! お前たちにやってもらいことがある」

 

千冬はその場のメンバーにそう呼びかける。

その場に不穏な空気が流れ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紫苑達は旅館の大部屋の一室に集められた。

その部屋は、パソコンやモニタ―などが運び込まれて一つのブリーフィングルームのような部屋になっている。

 

「では状況を説明する。2時間前、ハワイ沖で試験稼働だったアメリカ、イスラエルの共同開発の第三世代の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御下を離れて暴走。 監視区域より離脱したとの連絡があった。因みに原因だがこの馬鹿がやらかしたことだ。どういう訳かこいつでも制御を奪えないようになっている」

 

千冬は傍らで正座している束を指しながらそう言うと、一同が驚く。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから2km先の空域を通過することが分かった。 時間にして50分後。 学園上層部の通達により、我々がこの事態に対処することになった。 教員は学園の訓練機を使って、空域及び海域の封鎖を行う。 よって、この作戦の要は、専用機持ちに担当してもらう」

 

「いいっ!?」

 

千冬の言葉に、一夏が驚いた声を漏らす。

 

「つまり、暴走したISを我々が止めるという事だ」

 

ラウラが淡々と補足する。

 

「マジィ!?」

 

「いちいち驚かないの」

 

驚く一夏に、鈴音が冷静に突っ込む。

 

「それでは作戦会議を始める。 意見がある者は挙手するように」

 

「はい」

 

千冬の言葉に、早速手を挙げたのはセシリア。

 

「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

「うむ。 だが、決して口外するな。 情報が漏えいした場合、諸君には査問員会による裁判と最低でも2年の監視がつけられる」

 

千冬は頷き、同時に注意する。

 

「了解しました」

 

セシリアが了承すると、モニターに情報が映し出されていく。

 

「広域殲滅を目的とした、特殊射撃型………わたくしのISと同じ、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

 

「攻撃と機動の両方を特化した機体ね。 厄介だわ」

 

「この特殊武装が曲者って感じはするね。 連続しての防御は難しい気がするよ」

 

「しかも、このデータでは格闘性能が未知数だ。 偵察は行えないのですか?」

 

それぞれが意見を述べる。

 

「無理だな。 この機体は現在も超音速飛行を続けている。 アプローチは、1回が限界だ」

 

「一回きりのチャンス………という事はやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

 

千冬と真耶がそう言う。

その言葉に、全員の視線が一夏に集中する。

 

「え………?」

 

一夏は、一瞬その意味が分からなかったのか、声を漏らした。

 

「一夏、アンタの零落白夜で落とすのよ」

 

「それしかありませんわね。 ただ、問題は……」

 

「どうやって一夏をそこまで運ぶか、だね。 エネルギーは全部攻撃に使わないと難しいだろうから、移動をどうするか」

 

「目標に追い付ける速度が出せるISでなければいけない。 超高感度ハイパーセンサーも必要だろう」

 

驚愕する一夏を余所に話し合いを進める専用機持ち達。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ! お、俺が行くのか!?」

 

「「「「当然」」」」

 

セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラの声が重なる。

 

「ユニゾンで言うな!」

 

思わず突っ込む一夏。

 

「って言うか、俺が行くよりもプルルート達に行ってもらった方が良いんじゃないのか?」

 

一夏は思いついたようにそう言う。

 

「それは出来るなら遠慮してほしい。帰れる算段があるなら未だしも、いつ帰れるかも分からない状況で、安易に女神の力を見せびらかすのは得策じゃない。こうやって正式に作戦が回ってきたという事は、監視も当然されているという事だからな」

 

紫苑はそう言って一夏の案を却下する。

 

「織斑、これは訓練ではない。 実戦だ。 もし覚悟が無いなら、無理強いはしない」

 

「…………………………」

 

千冬の言葉に一夏は黙り込む。

だが、すぐに覚悟を決めて顔を上げると、

 

「やります。 俺が、やってみせます!」

 

そう言い切る。

 

「よし。 それでは作戦の具体的な内容に入る。 現在、この専用機持ちの中で最高速度が出せる機体はどれだ?」

 

千冬の言葉にセシリアの手が上がった。

 

「それなら、わたくしのブルー・ティアーズが。 丁度イギリスから強襲用高機動パッケージ『ストライク・ガンナー』が送られて来ていますし、超高感度ハイパーセンサーもついています」

 

「ふむ………超音速下での戦闘訓練時間は?」

 

千冬が思案し、再び問いかける。

 

「20時間です」

 

それを聞いて再び考え込む千冬。

 

「………………そう言えば束。お前はどんな作戦を押すつもりだったのだ?」

 

束に問いかけると、

 

「え~っとね~、紅椿ならパッケージ換装無しで超音速飛行が出来るから、適当に理由を付けてほうきちゃんをいっくんのパートナーにするつもりだったよ」

 

その言葉を聞いた瞬間、

 

「先生! それならば私も立候補します!」

 

箒が食いついたように手を挙げ、自薦した。

その表情は、どこか嬉しそうにも思える。

 

「……………………」

 

千冬はその表情を見て不安を覚える。

 

「だが篠ノ之。お前は紅椿に乗ったのは今日が初めての上に、超音速下の訓練もしていないだろう? ここはオルコットの方が適任…………」

 

「関係ありません! 私と一夏なら確実に出来ます!」

 

そう叫ぶ箒。

 

(その根拠のない自信は何処から来るんだか…………?)

 

「先生、発言宜しいでしょうか?」

 

紫苑は内心呆れつつ挙手をしながらそう口に出す。

 

「何だ?」

 

「先程の作戦ですが、万一失敗した時の事も視野に入れるべきだと思います」

 

そう言った瞬間、

 

「その必要などない! 私と一夏なら問題は無い!」

 

箒が突然叫ぶ。

 

「だから万が一って言ってるだろ? どんなことにも絶対はないんだ。失敗した時の事を考えるのは当然の事だ」

 

そんな箒に対し、紫苑は冷静に対処すると、

 

「ほう、具体的には?」

 

千冬が尋ねる。

 

「もし失敗した場合、その後のISの行動がどうなるかによって変わってきます」

 

「……………と、言うと?」

 

「つまり、攻撃が失敗した場合、そのままそのISは奇襲した一夏を放っておくかどうかと言う事です。そのまま超音速飛行を続けて戦域を離脱するのか、もしくは迎撃に移るのか…………それが問題です。そのまま戦域を離脱するなら作戦失敗で済みますが、もし迎撃行動に移った場合、一夏ともう1人だけでは戦力的に不安が残ります。先程の暴走したISのスペックを見るに、軍用ISと言うだけあってそのポテンシャルは相当な物でしょう」

 

「ふむ、それで?」

 

「俺の意見は、一夏ともう1人には先制攻撃を担って貰います。それで作戦が成功すればよし、もし攻撃が失敗してもそのままそのISが戦域を離脱すればそのまま作戦失敗。そこからは国の領分です。第一軍人でも何でもない学園生徒(一部除く)にそんな危険な事やらせるんですから作戦が失敗したって文句を言われる筋合いはないでしょう」

 

「まあ、もっともな意見だな」

 

「そして、もしそこで福音が迎撃の為にその場に留まった場合です。まずそれを考慮して一夏達が発進する際、他の専用機持ち達にも通常の速度で暴走ISに向かってもらいます。距離は2km先なのですから、通常速度でも大して時間はかからないでしょう。一夏達には最初は身の安全を考えて防御に専念してもらいます。例えそこで逃げられたとしても無理には追わず、逃げるなら逃げたでそこは先程と同じように国の領分です。それで、他の専用気持ち達が到着するまで耐えたらそこからは全員での総攻撃で暴走ISを無力化します」

 

「なるほど、2人だけで行かせるよりかは無難か…………」

 

「先生! その必要は………!」

 

「黙れ篠ノ之! 月影のいう事はもっともだ。悔しいなら実績で示せ。どちらにせよ保険を掛けておくに越したことは無い」

 

「う………了解しました…………」

 

「よし、直ちに準備を始める!」

 

 

 

 

 

 

外へ移動し、束が箒の紅椿の調整を始めている。

その途中で、

 

「織斑先生! わたくしとブルー・ティアーズなら必ず成功して見せますわ! 今回の作戦、是非わたくしに!」

 

セシリアがそう発言する。

が、

 

「お前の言っていたパッケージは、量子変換してあるのか?」

 

千冬はそう聞き返す。

 

「う………そ、それはまだですが………」

 

そう気まずそうに言うセシリア。

 

「因みに紅椿の調整は、7分あれば余裕だね」

 

そう口を出す束。

すると、

 

「セシリア。単純な戦闘能力だけを考えた場合、パッケージを使った方が強くなるのか?」

 

紫苑がセシリアにそう尋ねる。

 

「そ、それは…………スピードこそ飛躍的に上がりますが、BT兵器が使えなくなるため、火力は落ちます…………高速戦闘以外ならば、通常装備の方が戦闘力は上かと………」

 

「それなら今回は箒に譲って通常装備で出た方が良い。戦闘力を落とさずに一夏を運べるのなら、それに越したことは無い。初撃が決まるかどうかは一夏の腕次第だ。運搬係には左程作戦の成否は掛かってないからな」

 

「は、はい………そうですわね………」

 

紫苑の説明にセシリアは大人しく引き下がる。

それから少しして、

 

「はい! 紅椿の調整終了! 時間通り! さっすが束さん!」

 

束が調整の完了を知らせる。

 

「よし、これより作戦を始める! 各員、速やかに配置に着け!」

 

 

 

 

 

 

 

 

それぞれが海岸へ移動し、ISを展開する。

 

「じゃあ箒。 よろしく頼む」

 

「本来なら女の上に男が乗るなど、私のプライドが許さないが、今回だけは特別だぞ?」

 

一夏の言葉に、箒は何処か嬉しそうな表情でそう言う。

一夏が箒に近付くと、

 

「いいか箒? これは訓練じゃない、十分に注意して……」

 

「無論わかっている。 心配するな、お前はちゃんと私が運んでやる。 大船に乗ったつもりでいればいいさ」

 

言葉の中に微笑を混ぜながら、箒はそう答える。

 

「なんだか楽しそうだな? やっと専用機を持てたからか?」

 

「え? 私はいつも通りだ。 一夏こそ作戦には冷静に当たること」

 

「わかってるよ………」

 

2人がそんなやり取りをしていると、

 

『織斑、篠ノ之、聞こえるか?』

 

千冬から通信が入った。

 

「はい」

 

「よく聞こえます」

 

『お前たちの役目は、一撃必殺だ。短時間での決着を心掛けろ。ただし、初撃が失敗した場合は無理をせず後続が到着するのを待て。その間に逃げられてもお前達に責任は無い。いいな、討つべきは『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』。 以後『福音』と呼称する』

 

「「了解」」

 

2人が返事をすると、

 

「織斑先生。 私は状況に応じて、一夏のサポートをすればよろしいですか?」

 

『……そうだな。だが無理はするな。月影の作戦通り、初撃が失敗した場合は無理をせず防衛に専念しろ』

 

「分かりました。 ですが、出来る範囲で支援をします」

 

箒は、心なしか弾んだ声で返事をする。

すると、一夏にプライベート・チャネルで通信が入る。

 

『織斑』

 

「は、はい」

 

『どうも篠ノ之は浮かれているな。 あの様子では、何か仕損じるやもしれん。 もしもの時は、サポートしてやれ』

 

「分かりました。 意識しておきます」

 

『頼むぞ』

 

通信が、再びオープン・チャネルに切り替わる。

 

『では、始め!』

 

千冬が作戦開始の号令をかける。

一夏が箒の背に乗り、肩を掴む。

 

「いくぞ!」

 

「おう!」

 

箒の言葉に一夏が応え、紅椿は急上昇を始めた。

それに続いて他の専用機持ち達も発進する。

その中には紫苑と翡翠の姿もあった。

 

 

 

 

 

 

先行する一夏と箒は、レーダーに福音を捉える。

 

「暫時衛星リンク確立。 情報照合完了。 目標の現在位置を確認。 一夏、一気に行くぞ」

 

「お、おう!」

 

箒は紅椿を加速させる。

そして、福音の姿をその目に捉えた。

 

「見えたぞ一夏」

 

「あれが『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』か」

 

「加速するぞ。 目標に接触するのは10秒後だ」

 

箒はそう言って更に加速する。

一夏は雪片弐型を展開。

零落白夜を発動させる。

 

「うおおおおおおおっ!!」

 

一夏は全力で雪片を振り下ろす。

だが、福音は紙一重でその攻撃を躱した。

 

「躱した!?」

 

驚愕する一夏。

すると、福音は頭部の巨大な翼を広げ、複数の光弾を放ってきた。

その光弾は、高密度に圧縮されたエネルギーで、触れればその場で爆発するものだった。

これが福音の特殊武装『銀の鐘(シルバー・ベル)』だ。

2人は、その攻撃を掠りながらも避ける。

一夏は作戦通り防衛に徹しようとしていたのだが、箒が突如前に出た。

 

「箒!? 何やってるんだよ! 作戦では防衛に徹するって!」

 

「心配するな! 私とお前なら負けはしないさ!」

 

そう言いながら箒は福音に攻撃を仕掛ける。

 

「箒! くっ………!」

 

一夏も仕方なく箒と共に攻勢に出た。

2人はコンビネーションを駆使して福音に攻撃を仕掛ける。

だが、当然ながら箒は紅椿で一夏の白式と組むのは初めてであり、普段からも、それほどコンビネーションを訓練しているわけでもない。

即席のコンビネーションでは、どうしても福音に一撃を入れることが出来ない。

 

「一夏! 私が動きを止める!」

 

「わかった!」

 

箒は、自立機動兵装を射出。

その攻撃によって福音をかく乱。

その隙に斬りかかった。

その攻撃は受け止められるが、狙い通り福音の動きは止まる。

 

「一夏! 今だ!」

 

「おう!」

 

一夏はチャンスを逃すまいと福音に斬りかかる。

しかし、

 

「ッ!?」

 

何かに気付いたのか、一夏は福音を素通りした。

 

「一夏っ!?」

 

一夏の行動を怪訝に思う箒だが、一夏が光弾を弾いたずっと先の海上に一隻の船がいた。

 

「密漁船!? この非常時に!」

 

箒はそう悪態をつきながらも福音の攻撃を避ける。

一夏は、雪片で密漁船に向かう光弾を弾いた。

 

「馬鹿者! 犯罪者などをかばって………そんな奴らは………」

 

「箒!!」

 

放っておけばいいと続けようとした箒の言葉が、一夏の叫びで止まる。

 

「箒、そんな……そんな寂しいこと言うなよ。 力を手にしたら、弱い奴の事が見えなくなるなんて………どうしたんだよ、箒。 らしくない。 全然らしくないぜ」

 

「わ、私、は………」

 

一夏の言葉に、明らかな動揺を見せる箒。

持っていた刀を取り落とし、顔を両手で覆う。

しかし、今は実戦。

そんな隙を、福音は見逃さない。

翼を広げ、攻撃態勢に入ろうとしていた。

 

「箒ぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 

一夏は、咄嗟に箒の前に立ちはだかる。

 

「一夏ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

それに気付いた箒が一夏の名を叫ぶ。

その瞬間、

 

「!?」

 

福音がレーザーによって弾き飛ばされた。

 

「ッ!? 今のは………!」

 

一夏がそちらを振り向くと、セシリア、鈴音、シャルロット、ラウラ、紫苑、翡翠の専用機持ち達が到着した所であった。

 

「危ない所でしたわね、一夏さん?」

 

セシリアが微笑みを浮かべながらそう言う。

 

「セシリア! 助かったぜ!」

 

一夏は思わず笑みを浮かべてそう言う。

 

「それにしても何やってるのよ? 作戦じゃあ防御に徹するって言ってたじゃない」

 

「そ、それは…………」

 

鈴音の言葉に、口籠る箒。

 

「話は後だ。まずは福音を止めるぞ」

 

紫苑がそう言って全員の気を引き締める。

 

「そうだ紫苑! 船だ! 船がいるんだ」

 

「何っ!?」

 

一夏の言葉に声を漏らす紫苑。

一夏の指した先にはこの海域から慌てて離れようとしている一隻の船。

 

「密漁船!?」

 

「くっ! 馬鹿者共が!」

 

シャルロットとラウラがそう言うと、

 

「ッ…………鈴! それと箒! 2人はあの船を岸まで押して離脱させるんだ!」

 

「オッケー! 了解よ!」

 

鈴音はすぐに返事をしたが、

 

「わ、私は…………!」

 

「箒、今のお前の精神状況では足手まといになるだけだ」

 

「ッ………!」

 

紫苑の言葉にショックを受けたようだが、渋々それに従って船に向かって飛んでいく。

 

「残ったメンバーで福音を叩く! 行くぞ!!」

 

紫苑がそう叫んだ瞬間、

 

「おっと、そうはいかんな」

 

紫苑に聞き覚えのある声がその場に響いた。

 

「なっ!?」

 

それと同時に閃光が紫苑に襲い掛かる。

 

「くっ!」

 

紫苑は咄嗟にシールドで防ぐが、その閃光は一撃でシールドを破壊した。

 

「い、今のは………」

 

紫苑は驚愕の声を漏らす。

すると、

 

「フッフッフ…………」

 

上空から不敵な笑い声と共に、背中には悪魔を彷彿とさせるような刺々しい翼を持ち、手には両側に刃の付いた槍状の武器を持った青白い肌に白に近い紫の髪をした女が下りてきた。

 

「久しいな、『守護者』の小僧………」

 

「マジェコンヌ!? 何故お前がこの世界に!?」

 

その女は、ゲイムギョウ界で何度も紫苑達と戦ったマジェコンヌだった。

 

「お兄ちゃん、この人知ってるの!?」

 

翡翠が驚いたように訪ねる。

 

「ああ………こいつはゲイムギョウ界にいた悪党だ。だけど、何でこの世界に…………」

 

「さあ、なんでだろうな?」

 

わざわざ紫苑を挑発するような言動でそう言ってくる。

すると紫苑は、

 

「織斑先生! 聞こえますか!? すぐにプルルートとピーシェを応援に寄越してください! 大至急で!」

 

通信で一方的にそう呼びかける。

 

「皆! 何とかプルルート達が来るまで持たせるんだ!」

 

さっきと違い、消極的な発言の紫苑。

 

「紫苑、そこまでの相手なのか? この女は」

 

ラウラの問いかけに、

 

「ああ、残念な所も多いが、その力は女神に勝るとも劣らない………」

 

そう答える紫苑。

 

「まあ待て。そう急ぐな…………お前たちに面白いものを見せてやろう………」

 

マジェコンヌはそう言うと福音に近付いていく。

しかし、福音は逃げる様子も暴れる様子も見せない。

 

「まさか、お前が福音を!?」

 

そのことに気付いた紫苑が叫んだ。

 

「フフフ…………この世界に来た私は情報を集め、このISとかいう玩具がある事を知った…………この低レベルな文明の中ではまだマシな技術だったからな。少しは役立つと思ったわけだ」

 

そのままマジェコンヌは福音の頭部を掴む。

 

「とりわけこの玩具はその中でももっとも使えそうだと思ったものの1つでな、まだ欠陥の多い玩具だが、この私の手にかかれば………!」

 

そう言うと共に、白かった福音の各パーツが黒く染まっていきまるで吸い込まれるようにマジェコンヌの身体と同化する。

 

「この通り、優秀な力となるわけさ!」

 

マジェコンヌの一対だった翼が二対に増え、腕や足に装甲が装着された。

福音を掴んでいた右手には、操縦者であろう女性が掴まれている。

 

「「「「「なっ!?」」」」」

 

その姿に全員が驚く。

すると、

 

「おっと、こいつはもう必要ないな」

 

気を失っているであろう女性を無造作に前方へ放り投げる。

 

「一夏!!」

 

紫苑は一夏に呼びかけた。

 

「お、おう!」

 

呼びかけられた一夏は咄嗟にその女性を受け止めた。

その瞬間、ガキィィィィィィンと甲高い音が鳴り響き、一夏は思わず前を向く。

そこには、武器を直剣に変えたマジェコンヌが一夏に斬りかかってきて、それを紫苑がブレードで受け止めた所だった。

 

「良く分かったな………!」

 

「お前の行動は在り来たりなんだよ………!」

 

マジェコンヌの言葉にそう返す紫苑。

だが、ピキッっと紫苑のブレードに罅が入り、次の瞬間には砕け散ってしまった。

 

「そんな!? 一撃でISのブレードが砕けるなんて!?」

 

シャルロットが驚愕の声を上げる。

デュノア社の社長の娘であるシャルロットは他の生徒よりISの武器について詳しいのだろう。

そのブレードが簡単に砕けてしまった事が信じられない様だ。

 

「一夏! お前はその人を連れて早く離脱しろ!」

 

それでも紫苑は予め予想出来ていたのか動揺することも無く一夏にそう指示する。

 

「わ、分かった………!」

 

言われた通りその場を離れていく一夏。

 

「さて…………」

 

紫苑は予備のブレードを呼び出す。

 

「これ以上の好き勝手は許しませんわ! 踊りなさい! わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」

 

セシリアが叫びながら4つのビットを射出してマジェコンヌを囲う位置に移動させる。

 

「喰らいなさい!」

 

ビットからの一斉射撃。

 

「フッ…………」

 

マジェコンヌは避けようとはせず、その攻撃を受けた。

だが、

 

「それだけか?」

 

全く効いてない素振りを見せながらセシリアに聞くマジェコンヌ。

 

「そ、そんな………レーザーの直撃を受けて無傷………!?」

 

驚愕するセシリア。

 

「それに遠隔操作型の移動砲台か………それだけしか操れないとは情けない………どれ、私が手本を見せてやろう」

 

マジェコンヌがそう呟くと、翼の非固定部位が一斉に射出された。

 

「なっ………!?」

 

その光景に絶句するセシリア。

マジェコンヌが射出した非固定部位は30を超える。

そこから次々と放たれる光線。

 

「「「きゃぁあっ!?」」」

 

「「くっ!?」」

 

光線の嵐から必死に逃げる一同。

しかも、その光線の威力もセシリアのブルー・ティアーズとは比較にならない。

 

「皆! もう少しだ! 耐えてくれ!」

 

紫苑はそう叫ぶ。

紫苑の予想では、そろそろプルルートとピーシェが到着する頃だ。

マジェコンヌはISを吸収してパワーアップしたようだが、プルルートとピーシェの2人掛かりなら勝機はあると踏んでいた。

だがしがし、その時紫苑にも…………そしてマジェコンヌにも予想外の出来事が起こった。

彼らが対峙している上空に、黒い空間の歪みが現れたのだ。

その事に紫苑もマジェコンヌも気付く。

 

「あれは………!?」

 

紫苑は声を上げる。

何故なら、あの空間の穴は紫苑がこの世界に来た時の穴と同じだったからだ。

すると、その空間の穴から何かが吐き出された。

それは人だった。

白地に紫のラインが入ったセーラー服のような服装。

薄紫の長い髪をもった少女だった。

 

「えっ? きゃぁああああああああああああああああああっ!!??」

 

空中に投げ出されたその少女は当然ながら重力に引かれて落下を始める。

 

「へ、変身が解除されてる!? それに変身できない!? どうして!? きゃぁああああああああああっ!!??」

 

叫び声を上げながら落下していく少女。

だが、

 

「ネプギアぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

紫苑は叫びながらその少女へ向かって全力で飛翔した。

その声に少女も気付く。

 

「えっ? お兄ちゃん!?」

 

驚いた声を上げる少女。

 

「ネプギア!」

 

紫苑はその少女………ネプギアを空中で拾う。

 

「お兄ちゃん! 無事だったんだね!」

 

ネプギアは嬉しそうな声を上げる。

だが、

 

「隙だらけだ!」

 

マジェコンヌが複数の非固定部位から光線を放った。

 

「ネプギアッ!」

 

紫苑はネプギアを抱え込み、攻撃に対して背中を向けると、残ったシールドを展開する。

 

「ぐああああっ!?」

 

だが、その攻撃はシールドを容易く砕き、絶対防御すらも貫いて紫苑の身体にダメージを与える。

 

「お兄ちゃん!?」

 

ネプギアが悲痛な声を上げた。

更にマジェコンヌが直剣を構えて接近してくる。

 

「レイシーズダンス!!」

 

ブラックハートの必殺技である回転しながらの斬撃を放つ。

 

「くっ!」

 

それでも紫苑はネプギアを離そうとはせず、自分の背をさらけ出す。

マジェコンヌの斬撃は絶対防御を紙のごとく切り裂き、紫苑の背中から鮮血が舞い散る。

 

「「お兄ちゃん!?」」

 

ネプギアと翡翠が同時に叫んだ。

紫苑のISが強制解除され、落下していく2人を翡翠が回り込んで受け止める。

 

「お兄ちゃん!? しっかりして! お兄ちゃん!?」

 

翡翠が必死に呼びかける。

紫苑は気を失っている様だが、まだ息はあった。

 

「は、早く治療を………!」

 

翡翠は狼狽えながらも紫苑を助けようと行動に移そうとするが、

 

「逃がすと思っているのか?」

 

翡翠の前にマジェコンヌが立ち塞がる。

 

「!?」

 

「マジェコンヌ!」

 

翡翠が驚愕し、ネプギアが叫ぶ。

 

「久しいな女神の妹…………だが、これで終わりだ!」

 

マジェコンヌが剣を振りかぶった。

 

「「ッ!?」」

 

2人は思わず目を見開く。

その瞬間、

 

「させると思っているの!?」

 

猛スピードでアイリスハートが突っ込んできてマジェコンヌに斬りかかった。

 

「ッ!」

 

寸前で気付いたマジェコンヌは紙一重でアイリスハートの斬撃を躱す。

 

「き、貴様は!?」

 

「久し振りねぇ~オバサン。シオン君をこ~んな酷い目に合わせるなんて、どうやら躾が足らなかったみたいね!」

 

「ひぃ!」

 

怯えた声を漏らすマジェコンヌ。

何故ならマジェコンヌは3年前にアイリスハートのお仕置きを受けた被害者だからだ。

 

「プルルートさん!?」

 

ネプギアの声にアイリスハートは振り返る。

 

「あらギアちゃん。あなたも来たのねぇ」

 

笑みを浮かべるアイリスハート。

その時、

 

「ちぃ、これで勝ったと思うな別次元の女神! まだISが完全にこの身体が馴染んでないからな。完全になじんだ時がお前たちの最期だ!」

 

マジェコンヌはそう言い残すと背を向けて飛び去る。

アイリスハートは一瞬追いかけようとしたが、

 

「お兄ちゃん!」

 

「お兄ちゃん、しっかりして!」

 

ネプギアと翡翠の声に、紫苑を優先することにし、追撃を止める。

直ぐに彼女達は旅館へ帰還し、紫苑の治療を急いだ。

 

 

 

 

 





第21話の完成。
色々詰め込んだら長くなった。
でも半分ぐらいはコピペ…………(汗)
そして何の前触れも無くマジェコンヌ参上。
束はアイリスハートによって更生されてしまいました。
そしてギアちゃんも登場。
でもその所為で紫苑君が大怪我を…………
どうなるかは斯うご期待。
では次も頑張ります。
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