超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス   作:友(ユウ)

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第28話 離れる心(ブレイクハート) 繋がる心

 

 

 

 

夏休みが終わり、2学期が始まったIS学園。

その最初の実戦訓練の授業は、1組と2組の合同で行われていた。

そして、

 

「でやぁああああああっ!」

 

「くっ!」

 

現在一夏と鈴音による模擬試合が行われている。

しかし、

 

「逃がさないわよ! 一夏!」

 

終始鈴音が優勢に試合を進めていた。

一夏は何とか接近しようとするも、接近戦では鈴音の青龍刀に阻まれ、距離を開ければ衝撃砲が襲ってくる。

結局一夏は巻き返すことが出来ずにそのまま敗北した。

 

 

 

 

 

 

一夏はさっきの鈴音との試合の記録を見直す。

 

「はあ~………何で勝てないんだ………」

 

思わずそう零してしまう。

ここは男子用の更衣室。

因みに紫苑はさっさと着替えて行ってしまった

一夏が悩んでいると、突然目の前が真っ暗になった。

 

「だ~れだ?」

 

一夏に聞き覚えのない女子の声が聞こえてくる。

誰かに後ろから目隠しされたようだ。

 

「えっ? 誰だ?」

 

一夏は全くわからない。

 

「はい時間切れ」

 

その誰かはそう言って一夏の目隠しを解く。

一夏は後ろに振り向こうとして、

 

「うっ?」

 

頬に何かが突き刺さった。

 

「ウフフ! 引っかかったな♪」

 

もう一度見直すと、そこには楽しそうな笑みを浮かべた女生徒がいた。

リボンの色からして2年生。

水色の髪とルビー色の瞳、整った顔立ち。

 

「…………あれ………? あなたは時々紫苑と一緒に居る…………」

 

一夏がそう尋ねるが、

 

「それじゃあね~」

 

その女生徒――楯無――は何も答えずに立ち去ろうとする。

すると、立ち去り際に、

 

「君も急がないと、織斑先生に怒られるよ~?」

 

そう言って今度こそ立ち去った。

そこで、一夏はふと最後に言った言葉が気になった。

 

(千冬姉に怒られる?)

 

一夏は改めて時間を確認する。

 

「…………うおわぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

とっくに次の授業の時間だった。

 

 

 

 

 

授業に遅れてきた一夏が千冬に必死に弁明している。

 

「ほう? 遅刻の言い訳は以上か?」

 

「いえ、だから、あのですね。 見知らぬ………訳じゃないけど………とある女生徒が………」

 

「そうか! お前は女子との会話を優先して授業に遅れたのか!?」

 

有無を言わさぬ言葉にたじろぐ一夏。

 

「ち、違います! あ、あの………時々紫苑と一緒に居る上級生の生徒です!」

 

一夏は咄嗟にそう言うと、

 

「月影と一緒に居る上級生…………? 更識の事か?」

 

「た、多分そうです! 水色の髪をした綺麗な人でした!」

 

「はあ、更識の奴に絡まれたのか…………なら仕方ない………だが、ちゃんと時間に気を配っていれば遅れることは無かった筈だ。次は無いぞ…………!」

 

「はいっ!!」

 

千冬の言葉に一夏は直立不動で返事を返した。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。

約半月後に行われる学園祭の説明の為に全校集会が行われた。

その中で生徒会長の楯無が、『各部対抗織斑一夏争奪戦』なるものを発表し、生徒達を大いに沸かせた。

要は、各部の出し物に対して投票を行い、一番を取った部に一夏を強制入部させるというものだ。

ただし、本人未承諾。

因みに紫苑は夏休み中に本人の許可を得て生徒会に入っていることにしたため、景品にされることは無かった。

 

 

 

 

 

その放課後。

 

「紫~苑さんっ!」

 

楯無が紫苑に声を掛けてきた。

 

「どうした、楯無?」

 

「ちょ~っとお願いがあるんですけど………………」

 

「お願い?」

 

「はい、実は私が一夏君のISのコーチをやる事になりまして………」

 

「ふむ………?」

 

「ですが、普通に言っても一夏君はコーチなら沢山いるとか言って受けてくれないと思うんですよ」

 

「大いにあり得るな」

 

楯無の言葉に紫苑は肯定の頷きを返す。

 

「それで、ちょっと挑発して勝負を持ちかけようと思うんですけど、その際に紫苑さんが一夏君の相手をしてくれませんか?」

 

その言葉に紫苑は首を傾げる。

 

「何でだ? 楯無が相手でも一夏相手に後れを取るなど万に一つも無いと思うが………?」

 

「それはそうなんですけど、一夏君って割と男尊女卑な考えを持ってるじゃないですか」

 

「それは確かに………」

 

「だから、女の私に負けても何だかんだで認めない可能性もあると思うんです」

 

「あ~………確かにあり得そうだな……………」

 

「それに…………」

 

「それに?」

 

「一夏君ってラッキースケベ持ちじゃないですか! 私は紫苑さん以外にHな目に遭わされるのは嫌です!」

 

「……………………」

 

最後の言葉に紫苑は脱力した。

そして、

 

「まあ、最後の理由はともかく勝負については了解した」

 

その時、

 

「ほう、面白そうな話をしているな」

 

ラウラを先頭に、プルルート、ピーシェ、翡翠、ネプギア、ユニ、ロム、ラムがやってきた。

当然紫苑達は気配で来ることが分かっていたので驚きはしない。

 

「途中から聞こえたが、織斑 一夏と勝負するというのは本当か?」

 

「ええ、本当よ」

 

それを聞くと、ラウラは何か考えるような仕草をして、

 

「その勝負だが、観戦するのは構わんだろうか?」

 

「別に構わないけど………?」

 

「ふむ、ではシャルロットを連れて行きたいのだが………」

 

「それも構わないけど………何でシャルロットちゃん?」

 

「シャルロットは良き友人だ。故に、幻想の想い人(織斑一夏)に縋って不幸になるよりも、現実を見せて目を覚ましてもらいたい」

 

楯無の言葉にラウラはそう答える。

すると、

 

「それが原因でシャルロットが傷付くことになってもか?」

 

紫苑がそう問いかけた。

 

「傷付くことになっても………だ。もっと言えば、それが原因で嫌われ、縁を切られたとしても、シャルロットがこのまま織斑 一夏に縋り続けて不幸になるよりはずっといい」

 

ラウラのその言葉を聞くと、紫苑は笑みを浮かべる。

 

「そこまで覚悟しているのなら、俺からは何も言わないさ」

 

紫苑はそう言ってラウラの提案を受け入れた。

 

 

 

 

 

それから暫くして、紫苑がプルルート達と武道場で待っていると、

 

「お待たせ~」

 

楯無が一夏を伴って武道場に入ってきた。

一夏の表情は不機嫌で、明らかに楯無の挑発に乗ってきた事が伺える。

それから余り間を置かずにラウラが入ってきた。

その後ろにはシャルロット。

更には、箒、鈴音、セシリアの姿もある。

 

「あれ? 皆?」

 

入ってきた5人に一夏が声を漏らす。

 

「あらラウラちゃん。随分と大所帯じゃない?」

 

楯無がラウラにそう言うと、

 

「私はシャルロットだけを誘ったのだがな………近くに居て話を聞いたこいつ等も付いてくると言い出したのだ」

 

ラウラは無表情でそう言う。

楯無はあらあらと愛想笑いを浮かべると、

 

「随分とギャラリーが増えちゃったけど、一夏君は大丈夫?」

 

楯無が一夏に対してそう聞くと、

 

「問題ありませんよ! さっさとやりましょう!」

 

一夏はやや荒っぽい口調で答えた。

すると、楯無は手に持っていた扇子をパチンと閉じると、

 

「勝負の相手は紫苑さんよ。もちろん紫苑さん相手に勝てとは言わないわ。紫苑さんに『弱くない』と思わせたら君の勝ちでいいわ」

 

勝負の相手が紫苑と聞いて一瞬息が詰まりそうになった一夏だが、続けて言われた言葉にホッとする。

一夏は内心、紫苑に勝つのは無理でも一矢報いる程度は出来ると思っていた。

 

「一夏、頑張んなさいよ!」

 

「一夏、月影さんに勝つのは無理でもせめて一矢ぐらいは報いて見せろ!」

 

「一夏さん! あなたなら出来ますわ!」

 

鈴音、箒、セシリアが一夏を応援する。

だが、

 

「い、一夏………………!」

 

シャルロットだけは、一夏を応援しようとして、何故か声が出なかった。

 

「皆………よし!」

 

応援されて気合が入ったのか、一夏は真剣な表情で道場の開始位置へ歩いていく。

すると、紫苑は壁際に歩いていき、壁に掛けられていた竹刀を一本取るとそのまま一夏の前まで行き、

 

「使え」

 

竹刀を一夏に向かって投げ渡した。

 

「えっ………? わわわっ………!?」

 

突然投げられた一夏は竹刀を取り落としそうになるが、何とかキャッチする。

 

「な、何のつもりだよ…………?」

 

何とか竹刀を落とさずに済んだ一夏は声を漏らす。

 

「お前の一番慣れている武器は剣だろう? だから使え」

 

紫苑はそう言うと一夏の前で無手の状態で棒立ちになる。

 

「お、お前は使わないのかよ!?」

 

「その必要は無い」

 

一夏の言葉にきっぱりと答える紫苑。

その態度が気に食わなかったのか、一夏は険しい表情をする。

 

「いくら何でも舐め過ぎだぞ! 剣を持った相手に無手で勝つには…………!」

 

「『剣道三倍段』か…………? 『真剣を持った相手に無手で戦うには3倍の実力が必要』とされると有名だな」

 

「分かっているのなら…………!」

 

「因みにそれは間違いだからな。本来は『槍術を使う相手に剣術で戦うには相手より3倍の実力が必要』って意味だぞ」

 

「え? そ、そうなのか………?」

 

「まあ、剣術相手に無手で戦うのも似たような物だから、全くの的外れという訳では無いが……………」

 

「…………………………」

 

何も言えなくなってしまう一夏。

 

「とにかく安心しろ。無手の状態でも俺に一本入れることが出来たらお前は弱くないと認めてやる」

 

紫苑の言葉を聞き、改めて竹刀を構える一夏。

紫苑は棒立ちのまま微動だにしない。

 

「俺を舐めて油断したこと、後悔させてやる!」

 

気合を入れる一夏。

 

「……………………」

 

無反応で一夏を見据える紫苑。

 

「それじゃあ、いいかな?」

 

楯無が審判として両者に確認を取る。

 

「いつでも………」

 

「……………」

 

一夏は口で返事をして、紫苑は無言で頷く。

 

「それでは……………」

 

楯無が右手を上げるのを合図に、一夏は竹刀を握りしめる。

そして、

 

「始め!」

 

楯無の右手が振り下ろされると同時に一夏が飛び出す。

 

「おぉおおおおおおおっ!!」

 

一夏が気合の入った掛け声とともに紫苑に一直線に向かって上段から振り下ろす。

 

「………………」

 

だが、紫苑は僅かに半身をズラす。

それだけで一夏の剣は空を切った。

 

「くっ!」

 

一夏はすぐに切り返し、胴を薙ぎ払う。

それも紫苑は一歩下がるだけで、紙一重で間合いの外に出た。

 

「このっ!」

 

一夏は全く当たらない攻撃に焦りを見せながら竹刀を振り回す。

それを紫苑は次々と余裕を持ちながら紙一重で躱す。

その光景を見ていたネプギアは、

 

「え~っと………あれじゃあ何度やってもお兄ちゃんには掠りもしないんだけど…………」

 

そう呟く。

 

「そうね。大振りすぎるし、動きも直線的だし…………」

 

ユニが、

 

「フェイントも使わずにシオンに当たるわけないでしょ!」

 

「何でフェイント使わないのかな?」

 

ラムとロムもダメ出しを言う。

その時、飛び込んできた一夏の面打ちを躱した瞬間、紫苑は右足で一夏の足を払った。

 

「うわっ!?」

 

足を払われた一夏は成す術無く前のめりに倒れる。

 

「どうした一夏? もう終わりか?」

 

そう言葉を投げかける紫苑。

 

「まだ……まだぁ!」

 

一夏は起き上がって振り向き様に突きを放つ。

だが、その突きを躱すと同時に紫苑が懐に踏み込み、

 

「がはっ!?」

 

一夏の胸部に左の掌底を放った。

後ろに吹き飛び、倒れる一夏。

 

「げほっ! げほっ!」

 

肺へのダメージに一夏は咳き込みながらも立ち上がる。

 

「く、くそ………!」

 

そんな一夏に、楯無が声を掛けた。

 

「一夏君、紫苑さんは君を舐めて『油断』してるわけじゃない。ちゃんと自分と一夏君の力量差を正しく把握して無手でも十分だと判断した『余裕』なの。『油断』と『余裕』は似て非なるものだよ」

 

だが、一夏は再び竹刀を振りかぶって紫苑に袈裟懸けに斬りかかる。

が、それは先程と変わらずあっさりと避けられた。

 

「くそっ、何で当たらない!?」

 

一夏はそう悪態を吐くが、

 

「相手の体勢や意識を崩さずにそんな大振りの攻撃が当たるわけないだろ。せめてフェイントをつかえ、こんな風に…………!」

 

紫苑はそう言いながら踏み込んで左の掌底を放とうとする。

その狙いは顔面だと一夏にも見えていた。

 

「くっ!」

 

一夏は咄嗟に防御しようと竹刀を上げる。

その瞬間、紫苑の掌底がピタリと止まり、

 

「ぐはっ!?」

 

紫苑の右の膝蹴りが一夏のガラ空きなった腹部に入った。

 

「…………な?」

 

紫苑がそう続けると、一夏は腹を抱えて咳き込む。

 

「ぐぅぅ…………ひ、卑怯だぞ紫苑………」

 

「……………はぁ?」

 

呟かれた一夏の言葉に紫苑は顔を顰める。

 

「見損なったぞ…………そんな男らしくない真似するなんてな………!」

 

一夏は腹を押さえながら立ち上がる。

 

「いや、フェイントを掛けただけで卑怯と言われてもな………」

 

一夏の言い分に困惑する紫苑。

 

「っていうか、あんなバレバレのフェイントに引っかかる方も引っかかる方だと思うけど…………」

 

ユニが呟く。

 

「戦いを舐めてんの? あの人………」

 

「私も、あの言い方は無いと思う…………」

 

ラムとロムもそう漏らす。

 

「あのなぁ一夏、剣道は飛び込み技だけでやるものか? 剣道にも『見せかけ技』と言うのがあるだろう?」

 

紫苑は剣道経験者である箒に向かって問う。

 

「う、うむ…………『飛び込み技』、『返し技』、『見せかけ技』は剣道の基本だからな」

 

突然問われた箒は戸惑いながらも答える。

すると一夏は、

 

「『返し技』はともかく、『見せかけ技』なんて男のやる事じゃない!」

 

そう言い放つ。

 

「……………何を言ってるんだお前は…………?」

 

紫苑は呆れて物も言えない。

 

「むぅ…………確かに一夏は『飛び込み技』を主に使って偶に『返し技』を使うが、『見せかけ技』を使った記憶は無いな…………」

 

箒は額に指を当てながら記憶を掘り起こすが、一夏が『見せかけ技』を使った記憶は無いらしい。

まあ、一夏が剣道をやっていたのは小学生の頃なので、『見せかけ技』を使わなくとも勝つことは難しくは無かっただろう。

 

「それに、千冬姉だって『見せかけ技』なんて使わねえんだ! それが『見せかけ技』なんて使わなくても勝てるって証拠じゃねえか!!」

 

「………………………は?」

 

紫苑は思わず素っ頓狂な声を漏らす。

 

「な、何を言ってるのかな? 一夏君は?」

 

楯無も今の言葉は意味不明だったらしい。

すると、

 

「……………ああ…………なるほど、そういう事か………」

 

紫苑はその意味に気付いたらしく、呆れた様に溜息を吐いた。

 

「紫苑さん、今の意味わかったの?」

 

楯無がそう尋ねると、

 

「ああ………ラウラ! 竹刀を取ってくれ!」

 

「わ、わかった!」

 

いきなり呼ばれたラウラは一瞬驚くが、壁に掛けられた竹刀を取ると、紫苑に向かって投げる。

紫苑は回転しながら投げられたそれをあっさりと受け取ると一夏に向かって構えた。

しかし、いつもの『霞の構え』ではなく、一般的な『正眼の構え』だ。

一夏も紫苑に向かって構えなおす。

一夏には紫苑が『正眼の構え』でこちらを見ているとその目に映っている。

少しの間そうしていると、紫苑は摺足で2mほど右に移動し、一度立ち止まる。

また少しの間動きを止めていると、再び右に1mほど移動した。

そして次の瞬間、

 

「ぐはぁっ!?」

 

紫苑の姿が消えたと思ったら、ほぼ同時に胴を打ち抜かれていた。

今まで以上の衝撃が胴を貫き、一夏は倒れた後、立ち上がる事が出来ない。

 

「お前が言いたいのは、この事だろう?」

 

倒れている一夏に向かって、紫苑は見下ろしながらそう問いかけた。

 

「ぐっ………ああ! その通りだよ! 何でだ!? 何で『これ』が出来る実力があるのに『見せかけ技』なんて卑怯な手に頼る!?」

 

一夏は倒れながらもそう叫び、紫苑に問う。

その問いに紫苑は再び溜息を漏らし、今の動きを見ていた皆の方を向き、

 

「じゃあ聞くが、今の一連の動作の中で、俺は何回フェイントをかけたと思う?」

 

「えっ?」

 

紫苑の問いに一夏は困惑する。

一夏の目には、一度もフェイントを掛けたようには見えなかったからだ。

すると、まずネプギアが手を挙げる。

 

「最初に構えた時、ワザと隙を見せてました」

 

「その後、僅かだが踏み込む仕草も見せていた」

 

続けて箒が、

 

「視線で2回ぐらいフェイント掛けてたと思うわよ」

 

ユニが、

 

「横に移動するときに一度反対に動こうとしてたよね?」

 

ロムが、

 

「うん、立ち止まったときも、すぐに逆に動こうとしてたし」

 

ラムが、

 

「一度立ち止まったときも~、打ち込もうとしたり~、逆に下がろうともしてたね~」

 

プルルートが、

 

「多分だけど………2度めの移動の途中に打ち込もうとした気がしたけど………」

 

翡翠が、

 

「こうげきのとき、あたまねらってるようにみえた!」

 

挙句にピーシェまで。

それぞれが紫苑のフェイントを挙げていく。

 

「まあ、見てわかるのはその位だな。後は気迫とかの細かいところまで合わせれば20回近いフェイントを今の動きの中でかけていた。勿論、以前やった織斑先生の試合の時も、互いにフェイントの応酬だったぞ」

 

「そ、そんな筈は…………!?」

 

「いい加減にしろ一夏! 戦いはお前が思っているほど綺麗な物じゃない! 実力が拮抗していた場合、勝てるのは上手く騙して相手の裏をかいた方だ!」

 

紫苑はそう言うが、

 

「そんな筈ない! 千冬姉が…………俺の憧れた『守る姿』が、そんな汚い姿の筈が………」

 

尚も認めようとしない一夏。

そんな一夏を見て、ラウラがシャルロットに対して口を開く。

 

「見ろシャルロット。あれが織斑 一夏の本当の姿だ。あいつは『護る』と口にしている様だがその意味を全く理解していない。奴は織斑教官の『護る姿』の表面上だけに憧れ、自分の手を汚す覚悟すらない。『護る姿』の綺麗な部分だけを都合よく解釈し、自分の理想の『守る姿』として夢想しているだけ。シャルロット、もしあいつがお前にも『守る』という事やそれに類する言葉を宣言しているのなら、それはお前を守ろうとしているのではない。自分の理想の『守る姿』に自分を浸らせただけの、言わば『自己満足』に過ぎん」

 

「ラ、ラウラ……………」

 

「シャルロット、私が言っていることはお前にとって残酷な事かもしれん…………故に、私を嫌ってくれても、友としての縁を切ってくれても構わない。だが、この場は最後まで見届けて欲しい……………」

 

「ラウラ…………ううん、ラウラを嫌いになったりなんてしないよ………ラウラは僕の事を思ってくれてる。それは良く分かったから…………」

 

「シャルロット………」

 

「ラウラ、僕は最後まで見届けるよ……………この想いが単なる『幻想』に過ぎないと分かったとしても……………」

 

シャルロットは胸に手を当てながら、涙を堪えて前を見据える。

その視線の先では、一夏が立ち上がる所だった。

 

「認めない………俺は認めない…………! 千冬姉が…………あの『守る姿』が嘘だなんてこと、俺は絶対に認めない!!」

 

一夏はそう叫んで竹刀を構える。

 

「一夏………俺は別に嘘とは言ってない。ただ、お前が思っているほど甘いものじゃないと言っているだけだ」

 

「黙れ!! 俺は負けない! お前みたいな卑怯な奴になんて、絶対に!!」

 

頭に血が上っている一夏を見て、紫苑は溜息を吐く。

 

「分かった。お前が『見せかけ技』を卑怯と言い張るのなら、お前の土俵で勝負してやる」

 

「何っ?」

 

「互いに同時に面打ちを繰り出す………所謂『合い面』だな。それで勝負だ。面以外を使えば負け………どうだ?」

 

「おもしれ…………卑怯な手を使われなきゃ負けねえって所を見せてやる!」

 

紫苑の思った通り、一夏はその勝負に簡単に乗ってきた。

 

「意気込むのは良いが、これで負けた時には大人しく負けを認めて、大人しく楯無のコーチを受けろよ」

 

「はっ! やる前から勝った気になってるのかよ! その油断が命取りだ!」

 

「……………………」

 

紫苑は、先ほどの楯無の言葉を聞いたはずの一夏に対し、最早呆れ以外の感情を持っていなかった。

一夏の言葉は無視し、紫苑は正眼に構える。

一夏も正眼に構えてお互いを見やる。

紫苑は無表情に比べて、一夏の口元には笑みを浮かべている。

真っ向勝負なら負けないと自信を持っているのだ。

 

「楯無、合図を頼む」

 

そんな一夏とは裏腹に、無表情を貫く紫苑は楯無に合図を促す。

楯無は頷き、右手を挙げる。

そして一呼吸置き、

 

「始めっ!」

 

右手を振り下ろした瞬間に、2人は同時に飛び出した。

 

「うぉおおおおおおっ!!」

 

一夏は気合を入れた掛け声で大きく振りかぶった竹刀を振り下ろす。

 

「………………………ッ!」

 

対する紫苑はただ静かに、無駄な動きを完全に省いた鋭い面を繰り出す。

2人の竹刀が交差した。

その瞬間、

 

「なっ!?」

 

声を漏らしたのは一夏だった。

2人が合い面の状態になったとき、一夏の竹刀が逸らされていき、紫苑の竹刀はそのまま真っすぐ一夏の頭へ。

そして、

 

「がっ!?」

 

紫苑の竹刀は外れる事無く一夏の脳天を打ち抜いた。

誰がどう見ても紫苑の勝ちである。

だが、

 

「な、何だ…………何が起こったんだ………………紫苑! 今度は一体どんな卑怯な手を使ったんだ!?」

 

そう言われると思っていた紫苑は溜息を吐き、

 

「箒、お前なら今俺が何をしたのかわかるだろ? 説明してやれ」

 

箒に向かってそう言った。

 

「う、うむ…………今、月影さんが使った技は、おそらく『面切り落とし面』だ………」

 

「め、『面切り落とし面』? いったいどのような技ですの?」

 

剣道未経験者には聞き慣れない技名にセシリアは訊ねる。

 

「『面切り落とし面』とは、現代剣道において『奥義』と言われる技だ。合い面において相手の竹刀を落としながら打つ、『飛び込み技』と『返し技』の両方の特性を持つが、とても高い集中力と精度、タイミングを必要とする非常に難しい技でもある。それをあっさりと成し遂げてしまう月影さんの技量は、やはりずば抜けている」

 

箒の説明に一夏は困惑する。

 

「えっ………? じゃ、じゃあ紫苑は…………」

 

「月影さんは何も卑怯な手など使っていない…………! 純粋に一夏よりも月影さんの方が上手だった………それだけだ」

 

「うぐっ…………!」

 

言葉に詰まる一夏。

紫苑や楯無から言われていたら屁理屈を並べて負けを認めなかった可能性もあるが、幼馴染である箒からの言葉は流石に無視できなかったようだ。

まあ、それを見越して紫苑は箒に説明させたのだが。

 

「じゃあ紫苑さん。一夏君の評価をどうぞ」

 

唐突に楯無がそう言う。

一夏は忘れていたかもしれないが、紫苑が一夏を『弱くない』と判断すれば楯無のコーチは必要ないとする話だった。

その紫苑の答えは、

 

「『弱い』………! この一言に尽きる」

 

無情にも紫苑はそう言い切った。

 

「身体能力や技術は勿論の事、特に『精神面』が未熟すぎる。『見せかけ技』を卑怯と言ってる時点で尚更な。正直、お前の剣は『ヒーローごっこ』をしているようにしか思えなかった」

 

「なっ!?」

 

『ヒーローごっこ』と言われ、一夏は怒りで顔を赤くする。

 

「ま、それも当然だよね。気付かなかった一夏君? 最初の勝負の時、紫苑さんは左手と右足しか使ってなかったんだよ?」

 

「えっ!?」

 

楯無の言葉に一夏は絶句する。

 

「第一、剣道に限らずフェイントが無いスポーツがどれだけある? サッカーやバスケは勿論の事、テニスや野球のピッチャーですら、相手の裏をどれだけ掛けるかという駆け引きや化かし合いの連続だろう?」

 

「ッ……………!」

 

正論過ぎる紫苑の言葉に一夏は何も言えない。

 

「ま、お前がどう思おうと勝負には負けたんだ。『男』なら二言は無いよなぁ?」

 

『男』を強調する紫苑。

一夏は『男』としてのプライドが高いため、紫苑は逆にそれを利用したのだ。

 

「ぐ………………た、楯無さん……………コーチの程……………よろしくお願いします……………」

 

一夏は悔しそうに頭を下げる。

 

「うん、素直でよろしい」

 

楯無はそう言うが、一夏はどう見ても素直そうには見えない。

 

「とりあえず、ISを使った本格的な訓練は明日からにして…………今日はここで見取り稽古をしてよっか」

 

楯無はそう言う。

 

「見取り稽古………ですか?」

 

一夏が呟く。

 

「そ、私と紫苑さんで軽く乱取りするから、それを見て『見せかけ技』の大切さをちゃんと理解してね」

 

楯無はそう言うと、一夏と入れ替わるように紫苑の前に立つ。

 

「………というわけで紫苑さん、一つ御手合わせ願います」

 

「対戦方式は?」

 

「無手同士の勝負で良いですか? 学園最強を自負する私ですが、流石に紫苑さん相手に剣で戦うのは無謀ですから」

 

「ISの扱いならお前の方が上だろうに…………ま、いいぜ」

 

紫苑は楯無に向き直り、互いに礼をする。

そして、楯無が構えをとると、紫苑も一夏相手にはとらなかった構えをとる。

 

「「…………………………」」

 

一瞬の静寂。

次の瞬間、パァンと乾いた音が鳴り響いた。

気付けば互いが右手の掌底を繰り出し合い、左手でそれらを受け流していた。

そこで一呼吸置くと、次の瞬間には様々な技の応酬が繰り広げられた。

掌底、回し蹴り、水面蹴り、投げ技…………

ありとあらゆる技が繰り出される。

それでもクリーンヒットは互いに一つもない。

それは正に見取り稽古としてお手本となるべき素晴らしい乱取りだったのが、

 

「………………ぐ」

 

2人の乱取りは一夏には余り見えていなかった。

ちゃんと集中していれば少なからず見えたと思うが、今の一夏は紫苑や楯無に対する反抗心で一杯だったため、まともに集中していなかったので、一夏は何がどうなっているのか全く理解していなかった。

その時、パァンと再び乾いた音が鳴り響き、紫苑の掌底が楯無の頬を捉えていた。

 

「なっ!? 何してるんだ紫苑!!」

 

突然一夏が叫んだ為に、乱取りを中断してしまう紫苑と楯無。

 

「今度は何だ?」

 

紫苑がややぶっきらぼうに訊ねると、

 

「お前、女の顔を殴るなんて何考えてるんだ!?」

 

「………………………はぁ」

 

一夏の言い分に紫苑は再び深いため息を吐く。

 

「実力差があるのなら多少は気を使うが、楯無相手にそんな余裕は無い」

 

紫苑はそう言う。

 

「それでも男かお前は!? どんな理由があろうと、女の顔を殴るなんて最低だぞ!!」

 

「……………俺は別にフェミニストじゃないし…………第一、それは今の楯無にとって侮辱だぞ」

 

「何っ!?」

 

「紫苑さんの言う通りよ一夏君。確かに顔や髪は女の命と言うけど、今の私は1人の武道家………戦士としてこの場に立っているの。手加減されても負けるならともかく、手加減されて勝っても何も嬉しくは無いわ。それが、『女だから』って理由なら尚更ね、侮辱以外の何物でもないわ。そんな理由で私の今までの努力を否定しないで欲しいわね………!」

 

楯無が厳しい眼で一夏を睨み付ける。

 

「なっ………俺はそんなつもりで言ったわけじゃ………」

 

「同じことよ。今の世の中が女尊男卑の女が多い事に対し、一夏君は珍しく男尊女卑の思考に染まってるわね」

 

「そ、そんな事は………」

 

「あるわね。『女』は『男』に守られてればいい。強い『男』が弱い『女』に手を上げるのは恥だ。全部代表的な男尊女卑思考ね」

 

「う………………」

 

「一夏、いい加減に自分が考えてることが全て正しいと思ってるそのガキみたいな思考を止めろ。それは典型的な『自己中心的思考』だぞ」

 

「ぐぐぐ…………!」

 

一夏は悔しいのか顔を真っ赤にしている。

 

「これ以上は何をやっても無理ね。一夏君、今日は部屋に戻って頭を冷やしてちょうだい。明日からはISの訓練を始めるから体調はしっかりと整えておいてね?」

 

楯無は最後に笑ってそう言うが、一夏は不機嫌そうに踵を返すと荒っぽい足取りで道場を出ていく。

 

「ああ! 一夏さん、待ってくださいまし!」

 

「一夏!」

 

セシリアと鈴音は一夏を追って道場を出ていく。

だが、

 

「………………一夏…………」

 

寂しそうに一夏の名を呟いたシャルロットと、そして…………

 

「…………一夏………一体どうしたというのだ……………お前は、そんな男では……………」

 

困惑したように呟く箒がその場に残った。

 

 

 

 

それから暫くして、自室に戻ったラウラとシャルロット。

入り口の扉を閉めた時、

 

「結局………僕の『想い』は何だったのかな…………」

 

シャルロットがポツリと呟いた。

 

「シャルロット……………」

 

「辛い時に偶々優しくされて…………それが一夏の全部だって勘違いして……………僕は一夏の優しい所しか見えてなかった…………ううん、見ようとして無かったんだ…………」

 

「……………………」

 

懺悔する様に呟くシャルロットに、ラウラは何も言えない。

 

「ラウラ、覚えてる? 織斑先生がプルルートさんに月影君の何処を好きかと聞いた時、プルルートさんが、月影君が月影君だからって答えた事………」

 

「ああ…………」

 

シャルロットの問いにラウラは頷く。

 

「あの時はどういう意味か分からなかったけど、今なら理解できるよ…………僕は一夏に恋してたんじゃない。僕が幻想した『理想の一夏』に………………『恋』に恋してただけだったんだって……………」

 

「シャルロット………………」

 

シャルロットの目に涙が溜まっていく。

 

「シャルロット………その、私には上手く言葉にできないが、胸ぐらいは………貸してやる…………」

 

「ラウラ……………ッ!」

 

目に涙を一杯に溜めたシャルロットはもう我慢の限界だった。

それがラウラの思いやりの言葉で決壊する。

シャルロットはラウラに縋り付いた。

 

「わぁあああああああああああああああああああん!! うわぁああああああああああああああああああああああああああああああん!!!」

 

シャルロットは泣いた。

大きな声で、子供のように。

そんなシャルロットをラウラは黙って受け止める。

そのまま暫くシャルロットは泣き続けた。

 

 

 

 

やがて落ち着いたのか、シャルロットは目を擦りながらラウラから離れる。

 

「落ち着いたか?」

 

「うん………ありがとう、ラウラ」

 

涙は残っているが、それでも笑みを見せるシャルロット。

 

「気にするな。友であるお前の為だ、私の胸ぐらいはいくらでも貸してやる」

 

「ふふっ………その時はお願いね?」

 

シャルロットはそう返すと、少し考え込む様な表情をする。

 

「どうした?」

 

怪訝に思ったラウラが問いかけると、

 

「うん………一夏………織斑君が頼りにならないって分かった以上、自分の問題をどうしようかと思って…………」

 

「問題?」

 

「うん………僕と実家であるデュノア社との間には、ある問題があるんだ…………」

 

「ふむ………正直そう言う話は私では役に立てそうにない」

 

「気にしないで。これは僕個人の問題だから」

 

ラウラの言葉にシャルロットは気にしないように言う。

しかし、

 

「馬鹿を言うな。友であるお前が困っているのを黙って見ていられるか!」

 

「えっ? で、でも…………」

 

「確かに私は役に立たん。だがな、自分で分からなければ、他の誰かを頼ればいいだけだ」

 

「え………それって…………」

 

ラウラの言葉にシャルロットは声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

紫苑の自室では、紫苑と楯無の今日の反省と明日からの一夏の訓練について話し合っている。

更にその場には翡翠とゲイムギョウ界組の姿もあり、一つの部屋の中に9人というやや狭く感じるほどの人数が居た。

すると、トントンとドアがノックされ、

 

「ん? 誰だ?」

 

紫苑が来客者に声を掛ける。

 

「私だ。少し相談があるのだが良いだろうか?」

 

聞こえたのはラウラの声だ。

 

「お前が相談とは珍しいな。いいぜ、入れよ」

 

紫苑がそう言うと扉が開き、

 

「失礼する」

 

そう言ってラウラが入ってくると、

 

「お、お邪魔します…………」

 

シャルロットが続いて入室してくる。

紫苑はシャルロットの目が赤く腫れていて、泣いた形跡がある事に気付いた。

それぞれがベッドや床、椅子に座る。

 

「ラウラだけじゃなくてシャルロットもか………相談と言うのはシャルロットの事か?」

 

泣いた形跡からそう察する紫苑。

 

「ああ、まずはシャルロットの話を聞いて欲しい」

 

ラウラがそう言うとシャルロットを促す。

 

「う、うん…………まず、月影君達は僕がIS学園に編入された時に男装していたのは覚えてるかな?」

 

「ん? ああ、そう言えばそうだったな。正直一目見た時から怪しいと思ってたが」

 

「そ、そうなんだ………」

 

初対面で怪しいと思われていたと知ったシャルロットは若干やるせない気持ちになる。

 

「そ、それでその理由なんだけど、デュノア社の社長………つまり僕の父からの命令だったんだ」

 

その言葉を黙って聞く紫苑達。

 

「どうして、って思うよね? それは、僕が愛人の子だからだよ」

 

シャルロットがそう言う。

 

「“あいじん”って何?」

 

ラムがズバッと聞いてくる。

 

「え~っと、それはね………」

 

シャルロットが言いにくそうだったので、

 

「後で教えてやるから今は黙ってような、ラム」

 

紫苑はそう言ってシャルロットに先を促す。

 

「そ、それでね。2年ぐらい前にお母さんが病気で亡くなって…………その時に父の部下がやってきたの。それで色々と検査をする過程でISの適性が高いことが分かって、非公式だけどデュノア社のテストパイロットをやる事になってね…………父に会ったのは2回ぐらい………会話は数回ぐらいかな? 普段は別邸で生活をしてるんだけど、一度だけ本部に呼ばれてね。その時に初めて本妻の人に会ったんだけど、いきなり殴られたよ。『泥棒猫の娘が!』ってね。僕はその時何も聞いてなかったから戸惑ったよ」

 

「ひどい………」

 

ロムがそう零す。

 

「それから少し経って、デュノア社が経営危機に陥ったの」

 

「経営危機? 確か授業じゃデュノア社は量産機のシェアが世界第3位だって………ラファール・リヴァイヴもデュノア社製の筈だろ?」

 

紫苑が気になった事を口にすると、

 

「紫苑さん、確かにその通りなんだけど、あくまでラファール・リヴァイヴは最後発の『第二世代』なの。確か、第三世代型の開発が遅れてるからフランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』からも除名されていた筈よ。ISの開発って言うのは物凄くコストがかかるから、国からの支援無しじゃやっていけない。だから、第三世代の開発が遅れてる所は国からの予算が大幅にカットされるはめになるの」

 

楯無がそう説明する。

 

「楯無さんの言う通りだよ。もっと言えば、次のトライアルで選ばれなければ予算を全額カット。その上でIS開発許可も剥奪って流れになったの」

 

「…………んで? それがどうして男装と繋がるんだ?」

 

紫苑がそう尋ねると、

 

「簡単だよ。注目を浴びるための広告塔。そして、同じ男子なら日本で登場した特異ケースと接触しやすい。可能であればその使用機体と本人のデータも取れるだろう………ってね」

 

「………………一夏と白式の事か」

 

「そう、白式のデータを盗んで来いって言われてたんだ」

 

「……………………………」

 

「そうだったんだけど、ちょっとしたことから織斑君に僕が女だってバレちゃってね。今と同じ話をしたんだ」

 

「……………………………?」

 

紫苑はシャルロットが一夏の事を『織斑君』と呼んだことに多少の引っ掛かりを覚えたが話の続きを聞く。

 

「普通だったら代表候補生を降ろされて牢屋行きだったんだけど、織斑君は諦めてた僕に同情してくれて、特記事項第21を利用してここに居ろって言ってくれた。その時に僕は呆気なくコロッて行っちゃったんだけどね? 今思うと情けないよ………きっと織斑君は何も考えてなかったんだろうな…………要は問題の先延ばしだったんだ…………っと、これは余計な事だったね」

 

「ふむ、要するにこのままだとシャルロットが牢屋行きになってしまうから、何かいい解決方法が無いかという事か?」

 

紫苑はそう確認する。

 

「うん。でも、もし無理でも恨んだりしないから安心して。元々悪いのは父なんだし」

 

シャルロットはそう言う。

 

「……………………」

 

紫苑は腕を組んで少し思案顔になると、

 

「ねえ、ちょっと確認したいんだけど………」

 

ユニが挙手しながら発言した。

 

「え? 何かな?」

 

「その、あなたのお父さんは、社長としてはどうなの?」

 

「えっと………どういう事かな?」

 

「つまり、経営者としてはやり手かどうかって事よ。あなたの父という色眼鏡で見ずに、正当な評価でお願いしたいんだけど………」

 

ユニにそう言われ、シャルロットは少し考えると、

 

「どっちかといえばやり手………だと思う。今は経営危機に陥ってるけど、仮にも量産機のシェアが世界第3位まで行ったわけだし、少なくとも並以下って事は無いと思う」

 

「なるほど………」

 

ユニはそれを聞いて頷く。

 

「俺からも聞きたい。デュノア社の社長と正妻の間に子供は居るのか?」

 

「………えっと、居ない筈だよ? 少なくとも世間一般には公開されてないし、僕も会ったことは無いよ」

 

「なるほどな」

 

シャルロットの答えに紫苑は頷く。

 

「シオンも私と同じ結論みたいね」

 

ユニの言葉に紫苑も頷く。

 

「えっと………どういう意味?」

 

意味の分からなかったシャルロットは首を傾げる。

 

「今から言う事は私達の予想だし、絶対とは言い切れないけど、それなりに可能性は高いと思うわ」

 

ユニの言葉にシャルロットは何事かと唾を呑み込む。

 

「まず、私の予想じゃデータを盗んで来い云々は恐らく後付けの理由よ」

 

「えっ…………後………付け…………?」

 

ユニの言葉にシャルロットは呆然となる。

 

「注目を浴びるために男装させて広告塔とし、男性操縦者に男として近付いて機体のデータを盗んで来い。一見筋が通ってるように見えるけど実はとんでもない穴だらけよ」

 

「えっ?」

 

「話を聞くにISの男性操縦者っているのは今の所シオンとそのオリムラ イチカって人しかいないんでしょ?」

 

「う、うん…………」

 

「だとすれば、新たに男性操縦者が見つかったという話が上がれば、その内絶対に性別の確認の為の監査が入るわ。そうでなくても身体測定の時にバレる可能性が高いわね」

 

「あっ…………!」

 

「それに、広告塔として立てるって言うのも、発表したその瞬間は良いのかもしれないけど、バレた時はそれ以上のリスクが伴うと私は思うの」

 

「…………………」 

 

「それに、機体のデータを盗むためにそういう事は素人のあなたを使う事にも疑問が出てくるわ」

 

「本気でデータを盗みたいのならその道のプロを雇うべきだ。どう考えても、たった数ヶ月しか訓練していないシャルロットにやらせることじゃない。シャルロットが男装の訓練を始めたのも一夏がISを動かせると分かってからだろう? 咄嗟の時の行動に女の癖が抜けてなかったのもそれが原因だろう?」

 

「うん…………」

 

シオンの言葉にシャルロットが頷く。

 

「本気でシャルロットにデータを盗ませたいなら、ハニートラップでも命じて一夏に近付いた方が確率的にはまだ高いと考えるが…………まあ、実際にそうなってもあいつの場合は無意識にスルーしそうだが…………」

 

一夏の鈍感、唐変木を考慮してそう追加しておく紫苑。

 

「…………あはは、た、確かに…………」

 

ハニートラップという言葉を聞いて一瞬顔を赤くしたシャルロットだが、続けて言われた紫苑の言葉に納得したように頷く。

 

「そして、経営者としてやり手と判断されるデュノア社の社長がIS学園の特記事項を見逃すとは考えにくいってこと。いわば、犯罪を犯すのにその行き先の決まり事を確認してないなんてことはあり得ないわ」

 

「じゃ、じゃあどうして……………」

 

「ここから結論付けられることは、デュノア社の社長はそれを全部承知の上であなたをここに送り込んだって事…………3年間は貴方に手出しできない。逆を言えば、3年間は貴方は安全だとも言い換える事が出来るわ」

 

「ッ!?」

 

シャルロットはその言葉に信じられないと言わんばかりの表情をする。

 

「な、なんで……………………?」

 

「そもそも、デュノア社の社長は何故シャルロットを引き取ったのか? だ」

 

紫苑はそう口にする。

 

「そ、それは………僕のIS適性が高かったから…………」

 

シャルロットはそう言うが、

 

「でも、それが分かったのって引き取られた後の事よね?」

 

「あ……………」

 

ユニの言葉にシャルロットはハッとする。

 

「シャルロットを引き取り、狙ったようにISに乗せ、代表候補生にまでした。もしそこでシャルロットが愛人の娘でしたなんてバレたらスキャンダルになりかねんだろ? そんな事はデュノア社長も承知の筈。だが、それでもあえてシャルロットをその地位に付けた」

 

「…………………………そ、それって………」

 

シャルロットが信じられないといった表情で、震える唇で声を絞り出す。

 

「IS操縦者と言うのは世界でも最も保護された存在と言っていい。特記事項のあるIS学園なら更に安全性は増す」

 

「あ………あ…………」

 

「結論から言えば正妻はわからないが、少なくともデュノア社の社長はシャルロットを嫌ってはいない、むしろ大切に思っている。だから、シャルロットの為に理由を付けてIS学園に送り込んだ。って言うのが俺達の見解」

 

「じゃ、じゃあどうしてあの人は僕と全然会ってくれないの!?」

 

シャルロットは信じられないのかそう聞いてくる。

 

「それは社長と正妻との間に子供が居ないことが理由になる。シャルロットは、愛人とは言えデュノア社の社長の娘。普通に考えればデュノア社の後継ぎとなる可能性が一番高い。そして、デュノア社長がシャルロットを大切に扱っていれば、それは誰もが予想できる。そうなれば、デュノア社の後釜を狙い、シャルロットに対して政略結婚の相手を送り込むなら未だしも、最悪はシャルロットの暗殺なんて事を企てる馬鹿も出てくる」

 

「ッ!?」

 

その言葉を聞いて、シャルロットの顔から血の気が引く。

 

「だからこそ命を狙われる危険を少しでも少なくするためにデュノア社長はシャルロットを突き放していた…………と俺は考える。俺も似たような事をやったことがあるからな、『例え嫌われたとしても大切な人を護りたい』。その気持ちは良く分かる」

 

その言葉を聞いた時、シャルロットは衝撃を受けた。

 

「あ…………あ……………お、お父さん…………………」

 

シャルロットの瞳から涙がボロボロと零れだす。

しかし、その涙は先程のような悲しみの涙ではなく、歓喜の涙。

 

「僕は…………『私』は…………お父さんに愛されていたんだ……………」

 

喜びの涙を流すシャルロットを皆は優しく見守る。

 

「今ならわかるよお父さん……………織斑君のような薄っぺらな『守りたい』気持ちじゃない…………………お父さんの、僕を本気で『護りたい』と思う気持ちが……………」

 

シャルロットは、父から与えらた、待機状態のラファール・リヴァイヴ カスタム2(護るための力)を握りしめる。

父が自分をIS操縦者にした真の意味を初めて理解したシャルロット。

 

「ありがとう。月影君、ユニちゃんも…………私………やっと本当に自由になれた気がする!」

 

彼女を束縛していた鎖はようやく断ち切られた。

ここから彼女の、本当のシャルロット・デュノアが始まる。

 

 

 

 

 






第28話です。
すんごい長くなりました。
途中で区切ろうと思いましたがどうにも中途半端な気がしたので最後まで行きました。
今回は完全に一夏アンチ確定。
そんで今の所リクエストの3が優勢なのでとりあえずシャルロットは一夏からの完全離脱は確定。
おまけに箒もという意見がありましたので、まだ確定ではありませんが、少し切っ掛けっぽいものを入れておきました。
因みに今回の剣道の知識の半分以上は5年ぐらい前に少年ジャンプでやってたクロガネという剣道マンガからなので実際には違う所があるかも。
さてシャルロットは一夏から離脱しましたが、今の所は紫苑に靡く予定は無いです。
多くの人が望めば別ですが…………
その辺のご意見も含めて感想、お待ちしています。
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