超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス   作:友(ユウ)

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第33話 砕け散る(ラヴ ハート)

 

 

 

 

ある日の朝………………

シャルロットが食堂で朝食を摂っていると、

 

「おはよう、シャル!」

 

一夏が朝食を乗せたトレーを手に挨拶をしてきた。

その後ろには箒、セシリア、鈴音の姿もある。

 

「………おはよう」

 

一応返事をするシャルロット。

 

「一緒にいいか?」

 

相席を求めてきた一夏に対し、

 

「……………別にいいけど」

 

彼を一瞥したシャルロットは特に何とも思っていない棒読みで了承の返事を返した。

 

「サンキュー!」

 

一夏は笑いながらシャルロットの正面に座り、その両側にセシリアと鈴音が。

シャルロットの隣に箒が座る。

それを気にした素振りも見せず黙々と食事を続けるシャルロット。

そんな彼女に、

 

「そう言えば、シャルが1人でいるなんて珍しいな。最近はラウラとよく一緒だったろ?」

 

そう話しかける一夏。

 

「ラウラはつい先日、月影君が同室のプルルートさんやピーシェちゃんに御飯を作ってあげてることを知って、それからは一緒に月影君の部屋で食事を摂ってるんだよ」

 

シャルロットはそう返す。

 

「紫苑…………」

 

一夏は紫苑の名が出たことで無意識にだが眉を顰めていた。

それから暫く食事を勧めていると、積極的に一夏に話を振るセシリアと鈴音とは違い、シャルロットと箒はあまり一夏と言葉を交わしては居なかった。

それを不思議に思い、

 

(そう言えばシャルロットさん………後、箒さんも最近一夏さんから距離を置いているように思えますわ…………)

 

(何かあったのかしら? 気になるけど何となく聞くのは気が引けるし…………まあ、ライバルが減るのはありがたい事だけど)

 

セシリアと鈴音がそう思っていると、

 

「なあシャル?」

 

「何かな? “織斑君”」

 

「「「「!?」」」」

 

一夏を『織斑君』と呼んだシャルロットに驚愕する4人。

 

「…………俺、何かシャルから嫌われるようなことしたか? 話し方も何か他人行儀だし……………怒らせた原因があるのなら言ってくれ!」

 

一夏は真剣な表情でそう言ってくる。

すると、

 

「別に織斑君を嫌いになった訳でも怒ってるわけでもないよ。ただ、『好きじゃなくなった』だけ」

 

「「「ッ!?」」」

 

その言葉に大きな反応をしたのが一夏以外の3人。

 

「だ、だからその原因をだな…………」

 

「織斑君に原因があるわけじゃないよ。強いて言うなら原因は『私』かな?」

 

「ど、どういう事だよ………?」

 

シャルロットの言葉が理解できなかった一夏は聞き返す。

 

「じゃあ聞くけど、織斑君は私の事『好き』?」

 

「「「ッ!?」」」

 

シャルロットの予想外の言葉に目を見開く箒、セシリア、鈴音の3人。

 

「ああ、勿論好きだぜ!」

 

「「「なっ!?」」」

 

当然のように答える一夏と更に驚きの声を漏らす3人。

しかし、シャルロットは予想通りと言わんばかりに動じず、

 

「じゃあ、それを英語に直して言ってみてよ」

 

「へっ…………? えっと、好きは英語で確かlikeだったから…………I like you………だな?」

 

その言葉を聞いた瞬間、3人はガクっと脱力した。

 

「? どうしたんだよ3人とも?」

 

その反応に首を傾げる一夏。

それらには構わず、シャルロットは更に続けた。

 

「なら織斑君。『僕』が『一夏』に対して持っていた『好き』を英語に直してくれないかな?」

 

「………えっ? だから、I like youじゃ…………」

 

シャルロットの言い回しに違和感を感じる一夏だったが、自分の考えを言葉にすると。

 

「ハズレ」

 

シャルロットはそう言って間違いを指摘する。

 

「えっ? 何でだよ? 同じ『好き』なんだから間違ってるわけないだろ?」

 

一夏は納得いかなかったのか聞き返す。

 

「日本語では同じ発音でも、英語では2通りの言い方があるよね?」

 

「…………どういう事だよ?」

 

一夏は意味が理解できず、首を傾げている。

 

「………………ここまで言っても分からない?」

 

シャルロットは呆れた様にそう聞くが、

 

「おう」

 

一夏は何の悪びれもなくそう返事をする。

 

「………………はあ」

 

思わず溜息を吐くシャルロット。

つくづく自分の勘違いの恋に気付いて良かったと再確認する。

シャルロットは気を取り直すと口を開いた。

 

「じゃあ答えを言うけど…………『僕』が『一夏』に持ってた『好き』の感情を英語に直すと、I love you……………だよ」

 

「………………………えっ!?」

 

「「「なぁっ!?」」」

 

一瞬意味を理解できず呆けたが、遅れてその意味を理解した一夏は予想の出来なかった答えに驚きの声を漏らし、他の3人は、シャルロットがハッキリと自分の想いを口にした事に驚愕した。

 

「そ、それって…………!」

 

「やっと気付いたみたいだね。『僕』が『一夏』対して持っていた『好き』の感情は、友達としてじゃなく、異性に対する…………1人の男性に向ける『好き』…………言い換えれば、『愛』していたってことだよ」

 

「ッ……………!? そ、そうだったのか…………その、何と言うか………気付いてやれなくてすまん…………」

 

一夏は驚愕しながらも、シャルロットの想いに気付かなかった事に対して謝罪する。

 

「謝らなくていいよ。言ったでしょ? 『私』はもう『織斑君』を『好きじゃなくなった』って……………ううん、これは違うかな。元々私は一夏に恋してたわけじゃなかったんだよ」

 

「ど、どういう事ですの!?」

 

動揺しながらもセシリアが問いかける。

 

「私は織斑君じゃなくて自分が幻想した『織斑 一夏』に…………『恋』に恋してただけだったんだよ。それに気付いたんだ……………その事については織斑君に謝らなきゃね。私の『理想』を勝手に押し付けてごめん」

 

シャルロットはそう言いながら頭を下げる。

 

「えっ? いや、いきなり謝られても…………俺も何が何だか……………」

 

突然謝られた一夏は困惑する。

 

「私が辛い時に優しくされて、それだけが織斑君の全てだって思い込んでたって事だよ。本当の織斑君を見ようとせずに、私が幻想した『理想の織斑 一夏』に縋ってただけ。だからごめん」

 

「………………………………」

 

シャルロットの言葉に無言になる一夏。

すると、

 

「なあシャル…………一応聞いておくけど、俺を『好きじゃなくなった』切っ掛けって何だ?」

 

一夏は僅かに聞きにくそうな表情を浮かべてそう問いかけた。

 

「そうだね…………細かく言えば色々あるけど、一番の理由としては、織斑君は人の事にしろ物事にしろ、上っ面の『事実』だけに目を向けて、その裏にある『真実』を見ようとして無いって所かな?」

 

「『事実』を見て『真実』を見てない…………? どういうことだよ?」

 

理解できない一夏はそう聞き返した。

 

「分かり易い例えで言うと…………織斑君、君は月影君が優しいと思う?」

 

紫苑の名が再び出た為、一夏は表情がムッとなり、

 

「悪党じゃないだろうけど、優しいとは思えないな。卑怯な手も惜しみなく使うし…………!」

 

やや不機嫌そうな声色でそう言った。

 

「…………そうかしら?」

 

それに疑問の声を挟んだのは鈴音だった。

 

「何だよ鈴! あんな奴を庇うのか!?」

 

一夏は声を荒げる。

 

「いや、紫苑って言い方はきついし人付き合いも苦手かもしれないけど、ちゃんと相談に乗ってくれるし、助言もくれるわよ。私も会ったばかりの頃に相談に乗って貰ったことがあったし……………」

 

「それに、ただ冷たいだけならあの(普段は)優しいプルルートさんや純粋なピーシェさんがあそこまで慕うとは思えませんが…………ネプギアさん達も随分懐いている様子ですし…………」

 

「一夏の言う卑怯な手も、あくまでお前の主観であり、反則を使っているわけでは無かろう」

 

鈴音、セシリア、箒の順でそう言う。

 

「何だよ………皆して」

 

「それが織斑君が月影君の上っ面だけしか見てないって証拠だよ。私も月影君は人付き合いが不器用なだけで優しい人だと思ってるよ」

 

シャルロットもそう言って続けた。

 

「あと序に聞いておくけど織斑君、君は私の悩みについて何かいい解決方法を思いついた?」

 

「えっ? あ、いや…………それは…………」

 

その一夏の反応を見て予想通りだと溜息を吐くシャルロット。

 

「思った通り何も考えてなかったみたいだね」

 

最初から期待してなかったけど、と心の中で呟く。

 

「だ、大丈夫だ! まだあと2年半“も”あるんだし………!」

 

一夏は慌てたようにそう言うが、

 

「私にとっては2年半“しか”なかったんだけどね……………まあ、その事についてはもういいよ。解決したから」

 

「……………へっ?」

 

シャルロットの言葉に一夏は素っ頓狂な声を漏らす。

 

「私の悩みについてはもう解決したって言ったの」

 

「ど、どうやって!?」

 

一夏が身を乗り出すように訊ねる。

 

「というか、シャルロットの悩みって何よ?」

 

鈴音が口をだす。

 

「そう言えば皆は知らなかったね。私がIS学園に転校してきた時に男装してたのは覚えてるよね?」

 

「そう言えばそうでしたわね………最近はすっかり気にしてませんでしたが…………」

 

セシリアが相槌を打つと、

 

「あれはお父さんからの命令だったんだよ。男装すれば世界初の男性操縦者である織斑君に近付きやすくなる。だから白式のデータを盗んで来いって。後は序にデュノア社の広告塔にするって」

 

「どうしてそのような事…………?」

 

「フランスは第三世代型の開発が遅れてたからね。イグニッションプランからも除名されてたし、国からの支援も打ち切られる寸前だったんだよ。お陰で会社も経営危機。だから私の父であるデュノア社の社長が第三世代のデータを欲したから私が男装して送られたって訳」

 

「でも、実の娘にそんな事………」

 

鈴音がやや言いにくそうにそう言ったが、

 

「私は正妻の子じゃなくで、愛人との間にできた娘なんだよ。お母さんが死んじゃった後に父に引き取られたけど、お父さんは全然会ってくれなかったし、正妻の人にも初めて会った瞬間に『泥棒猫の娘が!』って殴られたよ。あれはビックリしたなぁ…………」

 

「「「……………………」」」

 

箒、セシリア、鈴音の3人は何とも言えない表情をしている。

シャルロットがそこまで波乱な人生を歩んでいるとは思っていなかったのだ。

 

「とまあ、そんな感じでIS学園に来たわけだけど、同室になった織斑君に私が女だってバレちゃってね。あの時は本気で牢獄行きを覚悟したよ」

 

「そうそう、それで俺が機転を利かしてIS学園の特記事項を盾にしてIS学園に居ろって言ったんだよな」

 

一夏もそう乗ってくるが、シャルロットは冷たい眼を向けた。

 

「どうでもいい事だけど、いくら同性と思っていた時だったからって、何の断りもせずにバスルームのドアを開けるのは感心しないかな?」

 

「いいっ!?」

 

一夏が拙い事を聞かれたと言わんばかりに顔を引きつらせ、

 

「「「!」」」

 

3人は絶対零度の視線を一夏へ向ける。

 

「まあ、それはそれとして…………」

 

シャルロットは場を和ませるために一旦話を区切り、お茶を一口飲む。

そして、

 

「これもさっき言った『事実』と『真実』の話になるんだけど、確かにお父さんがした『事実』は私にとって酷い事だったのかもしれない。だけど、その『事実』の裏にはある『真実』が隠されてたんだよ」

 

「真実………?」

 

箒が呟く。

 

「多分セシリアならさっきの話の中の違和感に気付いてるんじゃないかな?」

 

シャルロットがセシリアに視線を向けながら言う。

 

「え、ええ…………先程のシャルロットさんを男装させて白式のデータを盗もうとするなど、経営者としての選択としては愚策も良い所ですわ」

 

「えっ?」

 

一夏が声を漏らす。

 

「そう、私も言われてから気付いたんだけど、男性としてIS学園に編入するなんて、明らかにバレるリスクが高すぎるんだよ。その内本当に男性かどうか調べるための監査が入ったと思うし、身体測定の時にもバレる可能性は高いね。それだったら普通に女性として編入させてハニートラップでも仕掛けた方がまだ成功確率が高いって言われたよ」

 

「ですが、デュノア社長はそれでもあえてシャルロットさんをIS学園に編入させた」

 

「うん。お父さんの目的は白式のデータを手に入れることなんかじゃない。私を男装させたことも、白式のデータを盗みやすくするためっていう唯の良い訳でしかない。そんなことは、ただの後付けの理由だったんだ」

 

「な、ならシャルの親父さんがシャルをIS学園に送り込んだ理由って何だよ?」

 

「お父さんの目的は『私をIS学園に入れる事』そのものだよ」

 

「えっ? な、何で………?」

 

「君には分かりにくい話かもしれないけど、大会社の社長の娘っていう立場は君が思っている以上に危険なモノなんだよ。お父さんの後釜を狙って、暗殺なんて言う物騒な事を考える輩が出てくるほどにはね」

 

「あ、暗殺!? で、でもシャルは愛人の子なんだろ?」

 

「いくら愛人の子だって言っても、正妻の子がいなきゃ私は社長の唯一の娘に変わりは無いよ。つまり私はそう言う輩に狙われる立場って事。だからお父さんはそんな輩の目を欺くために男装して織斑君に近付いて白式のデータを奪って来いって名目で私をIS学園に送り込んだの。もちろん、私が特記事項に気付いて3年間はIS学園に留まる事を予め分かった上でね。デュノア社や国の影響力が及ばない、IS学園という安全な場所にね」

 

「シャルをIS学園に送り込んだのは、シャルの為だって言うのか!?」

 

「そうだよ」

 

驚く一夏にシャルロットは淡々と答える。

 

「だ、だけど、シャルの親父さんはシャルを蔑ろにしてたんだろ?」

 

「それもろくでもない輩を欺くためのブラフだよ。私を大切に扱ってれば、それだけ私がお父さんの後釜になるって事がハッキリと分かるからね」

 

「な、なんだよそれ…………シャルを守る為にシャルを傷付けるなんて…………矛盾してるじゃないか…………! そんなの俺は認めねえ!」

 

一夏は不機嫌そうにそう言う。

 

「お父さんを認めないのは織斑君の勝手だけど、お父さんを否定するのは許さないからね」

 

そんな一夏にシャルロットは口を挟んだ。

 

「どうしてだよ!? 親なら自分の手で子供を守るべきだろ!? それが出来ないなんて最低の父親じゃないかッ…………!?」

 

その瞬間、乾いた音が響き、一夏の言葉が遮られる。

 

「言ったはずだよ。お父さんを否定するのは許さないってね」

 

シャルロットが右手を振り切った状態でそう言った。

シャルロットが一夏の頬を叩いたのだ。

一夏は呆然とシャルロットを見る。

 

「やっぱり織斑君には分からないみたいだね。私のお父さんの………本当に私を護ろうとする気持ちが…………」

 

「何で!? シャルが大切なら自分の手で………!」

 

「それじゃあ護れないと判断したからお父さんはこんな手段を取ったんじゃないか!」

 

「ッ…………!?」

 

「織斑君、君はお父さんに四六時中私に付きっきりで守れって言いたいの?」

 

「えっ?」

 

「お父さんには私だけじゃない。社員全員の生活を保障する責任があるんだ。君はお父さんにその責任を放り出して私だけを護れって言うの?」

 

「だ、だけど、本当にシャルを護りたいならその位…………!」

 

「確かに何も手が無ければそうするのかもしれない。だけど、他に手があるからお父さんはそっちの方法を取っただけだよ。それに、お父さんは戦闘のプロでも何でもないんだ。自分じゃ私を護れないからせめてIS乗りって言う安全な地位とIS学園って言う安全な場所を私に与えたんじゃないか!」

 

「うっ…………!」

 

一夏はISを普通に使っているので忘れがちだが、普通の男性にはISなどというものは使えない。

もし何かの伝手でISによって襲撃されたらシャルロットを護れるのはシャルロット自身しかいないのだ。

 

「それが君の『事実』の上っ面しか見てないって所だよ。私の悩みを月影君に相談したら、あっさりと今言った『真実』に辿り着いたよ。まああくまで彼は『推測』って前置きがあったけど…………」

 

「な、なら今言った事が正しい保証なんて………!」

 

三度紫苑の名が出たことで一夏はムキになり、そう反論しようとしたが、

 

「そこは楯無さんの伝手で裏付けを取ってくれたよ。どうやら本当に私を暗殺するって話が持ち上がってたみたい。今はお父さんがそう言う輩を排除している最中みたいだよ」

 

「………………………」

 

再び黙り込んでしまう一夏。

 

「それに、正妻の人に殴られた事も、その理由を聞いたら納得できたし。もうあの人を恨んでなんか無いよ」

 

「り、理由?」

 

「そうだよ。あの人は子供が産めない身体なんだよ」

 

「えっ……………?」

 

一夏は一瞬絶句する。

 

「そ…………」

 

「うん?」

 

「そんなのただの八つ当たりじゃないか!!」

 

一夏は立ち上がりながら叫ぶ。

 

「うん、そうだね」

 

一夏の言葉にシャルロットはあっさりと頷く。

 

「そうだね……って、なんでシャルはそれで納得してるんだ!?」

 

声を荒げる一夏。

 

「世の中には正論でも納得できないこともあれば、正論じゃなくても納得できることもあるんだよ」

 

ヒートアップする一夏とは逆にシャルロットは冷静に答える。

 

「でも………それでも、“そんな事”でシャルを殴るなんて絶対に間違ってる!!」

 

一夏がそう叫んだ瞬間、バキィと鈍い音が響いた。

その音と同時に一夏が後ろに仰け反り、椅子を巻き込んで派手な音を立てながら倒れた。

何事かと周りの生徒達の視線が集まる。

何が起きたのかと言えば、一夏は殴られたのだ。

しかも平手ではなく拳で。

そして、その殴った人物はシャルロットでは無かった。

シャルロットはその人物の隣で目を見開きながら驚愕している。

その一夏を殴った者は、

 

「見損なったぞ…………一夏!」

 

右の拳を振り切った箒だった。

 

「ほ、箒…………?」

 

一夏は鼻血を流しながら戸惑いの表情で箒を見上げる。

 

「貴様がそこまで女心が分からない奴だとは思いもしなかった…………」

 

箒は冷たい眼で一夏を見下ろす。

以前から箒には一夏に対する恋心に疑問を覚えることがあった。

言わば、恋心に罅が入った状態だった。

そして、先ほどの一夏の一言でその疑問が確信に変わり、箒の心にあった恋心は粉々に砕け散ってしまったのだ。

その反動で箒は一夏を殴った。

全力で。

 

「貴様には、分からなかったようだな。『女』にとって『子を産めないという事』はどれだけ残酷なことか………………『自分が愛する者の子を産むことが出来ないのに、その愛する人の子を産んだ女がいること』の悔しさを……………! 『その愛する者の子なのに自分の子ではない娘が目の前にいる』葛藤を…………!!」

 

「だ、だけど、シャルには関係が…………」

 

「確かにシャルロットには責任は無い…………だが、それでもシャルロット自身は納得したのだ。お前が口を挟む余地はない」

 

箒はそう言うと踵を返し、

 

「貴様の顔など見たくもない………! 絶交させてもらう。もう私に話しかけるな!」

 

それだけ一方的に言うと、その場を去ろうとする。

そんな箒の背中に、

 

「ま、待てよ箒! 俺はただシャルの為を思って………!」

 

そう言いながら呼び止めようとしたが、

 

「織斑君」

 

その前にシャルロットが立ちはだかった。

 

「私が君に言いたいことは箒が殆ど言ってくれたから一つだけ」

 

「シャル?」

 

「君は『私』を護ろうとしたんじゃない。『自分』が『気に食わない事』を認めたくないだけ…………『自分の意地(プライド)』を守ろうとしてただけだよ」

 

「えっ…………?」

 

一夏は困惑した声を上げると、シャルロットもいつの間にか食べ終わっていた自分のトレーを持ってその場を立ち去る。

その場には、呆然と立ち尽くす一夏と、困惑したセシリアと鈴音だけが残された。

 

 

 

 

 

 

 

その日の実戦訓練の授業。

この授業までにも、一夏は箒に話しかけて許してもらおうとしたが、箒は完全に無視して取り付く島もない。

果ては「邪魔だ織斑」という言葉で切って捨てていた。

第三アリーナで授業が進む中、突然ヒュィィィィィという風を切り裂く音が聞こえてきた。

生徒達が何事かと周りを見渡すが、特に変わったことは無い。

しかし、紫苑がその音が上から聞こえてきているという事に気付き、空を見上げ、一夏も以前に似たような音を聞いていたために自然と上を見上げた。

すると、空の彼方からオレンジ色の何かが急降下してきてアリーナの真ん中に突き刺さった。

衝撃と共に砂埃を巻き上がらせる『何か』。

 

「くっ!」

 

「「「「「「「「「「きゃぁあああああああああっ!?」」」」」」」」」」

 

一般生徒達は悲鳴を上げ、紫苑や代表候補生であるセシリア、シャルロット、ラウラは即座にISを展開。

 

「皆! 下がれ!」

 

有事に備え、一般生徒を下がらせて4人は前に出る。

それから一呼吸遅れて箒も『紅椿』を展開。

前に出るが、一夏はえっ、えっ?と周りを二、三度見回した後、漸く緊急事態と判断してかなり遅れて『白式』を展開した。

6人が落ちてきた何かを注視する中、砂埃が風によって吹き飛ばされていき、落ちてきた物体が露になる。

それは………………

 

「へっ? ニンジン?」

 

シャルロットが素っ頓狂な声を漏らした。

落ちてきたそれは、全長2.5mほどのデフォルメされたニンジンの形をしたもの。

そしてそれは、紫苑、セシリア、一夏の3人には見覚えのあるものだった。

 

「………………これってもしかして」

 

一夏が呟く。

見れば、千冬が片手で頭を抱えていた。

千冬が頭を上げてそのニンジンに近付いていく。

そして、

 

「おい束! 何の真似だこれは!」

 

怒鳴るような声でそのニンジンに呼びかける。

しかし、反応は無い。

 

「束! 答えろ!!」

 

千冬はガンガンとニンジンの表面を2、3度叩きながら再び呼びかけると、そのニンジンの中央に縦に線が走る。

そして、パカッと言わんばかりにそのニンジンが2つに割れると、

 

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

それを目撃した者達は息を呑んだ。

何故なら、頭から血を流し、エプロンドレスも血によって赤く染めた束が力無くその場に倒れ伏したからだ。

 

「姉さん!?」

 

箒が一目散に束に近付く。

 

「姉さん………!? 姉さん!?」

 

箒が束を抱き上げながら体を揺するが、

 

「………………ぅ」

 

束は僅かな反応を見せるだけで目を開けない。

 

「千冬さん!」

 

箒は思わず『織斑先生』ではなく千冬の名を呼んでしまうが、

 

「うむ。授業は中止だ! 各自は教室で待機していろ! 言うまでも無いがこの事は他言するな! 篠ノ之! 束を医療区画へ連れて行け!」

 

千冬は頷き、生徒達へ指示を飛ばし、箒に束を連れて行くように言う。

 

「はい!」

 

「山田先生、ここは頼みます」

 

「わかりました!」

 

真耶はしっかりと返事をした。

慌ただしく行動していく一同。

突然現れた傷だらけの束は一体何を意味するのだろうか?

 

 

 

 

 







第33話です。
一夏ヒロインの処遇については3番に決定。
離れるヒロインはシャルロットと箒としました。
割と接戦だったんで不服な方も多いと思いますが…………
そんで全話でピンチだった束が登場。
この先一体どうなるのか!?







本日のNGシーン(というよりリクエストが2になってたらこうなってたVer.)




「それに、正妻の人に殴られた事も、その理由を聞いたら納得できたし。もうあの人を恨んでなんか無いよ」

「り、理由?」

「そうだよ。あの人は子供が産めない身体なんだよ」

「えっ……………?」

一夏は一瞬絶句する。

「そ…………」

「うん?」

「そんなのただの八つ当たりじゃないか!!」

一夏は立ち上がりながら叫ぶ。

「うん、そうだね」

一夏の言葉にシャルロットはあっさりと頷く。

「そうだね……って、なんでシャルはそれで納得してるんだ!?」

声を荒げる一夏。

「世の中には正論でも納得できないこともあれば、正論じゃなくても納得できることもあるんだよ」

ヒートアップする一夏とは逆にシャルロットは冷静に答える。

「でも………それでも、“そんな事”でシャルを殴るなんて絶対に間違ってる!!」

一夏がそう叫んだ瞬間、バキキキィと鈍い音が重なって響いた。

「がふっ!?」

その音と同時に一夏が後ろに仰け反り、椅子が後ろに倒れる。
その音に何事かと周りの生徒達の視線が集まった。
何が起きたのかと言えば、一夏は殴られたのだ。
しかも平手ではなく拳で。
そして、その殴った人物はシャルロットでは無かった。
しかも1人ではない。
シャルロットはその人物達を見て、目を見開きながら驚愕している。
その一夏を殴った者達は、

「見損ないましたわ! 一夏さん!!」

一夏の右頬に突き刺さる拳を放ったセシリア。

「子供を産めない事を『そんな事』呼ばわり? 最低ね…………アンタ」

一夏の左頬に突き刺さる拳を放った鈴音。

「貴様がそこまで女心が分からない奴だとは思いもしなかった…………」

そして一夏の鼻っ面に正面から拳を叩き込んだ箒。

「うぐぁっ!?」

一夏は耐えられずその場で尻餅を着き、鼻血をドバドバと流す。
そんな一夏を箒、セシリア、鈴音は冷たい眼で見下ろす。
以前から彼女達には一夏に対する恋心に疑問を覚えることがあった。
特に顕著なのが箒であったが、セシリアや鈴音にも内心僅かに揺れることが多々あった。
言わば、恋心に罅が入った状態だった。
そして、先ほどの一夏の一言でその疑問が確信に変わり、彼女達の心にあった恋心は粉々に砕け散ってしまったのだ。
その反動で3人は一夏を殴った。
全力で。

「貴方には、分からないのですか!? 『女性』にとって『子を産めないという事』はどれだけ残酷なことか………………!」

セシリアの、

「『自分が愛する者の子を産むことが出来ないのに、その愛する人の子を産んだ女がいる』っていうのがどれだけ悔しいかアンタには分かんないの!?」

鈴音の、

「『その愛する者の子なのに自分の子ではない娘が目の前にいる』葛藤を…………!!」

そして箒の責めるような言動が一夏に浴びせられる。

「だ、だけど、シャルには関係が…………」

「確かにシャルロットさんには責任はありませんわ…………!」

「でも、それでもシャルロット自身はそれで納得してんのよ。同じ女としてね!」

「その事にお前が口を挟むなど見当違いも良い所だ!」

3人はそう言うと一夏を非難する目で見下ろすと、フンと視線を逸らし、

「このような方に恋心を抱いていたとはわたくしの人生で最大の汚点ですわ!」

「アタシもよ! さっきシャルロットが言ってたことが漸くわかったわ! アタシもこいつの一部分しか見てなかった! 恋は盲目とは良く言ったものだわ!」

「同感だ! なぜこのような男に惚れていたのか自分でも理解できん!」

「えっ…………? えっ? 皆…………?」

一夏は困惑したように3人を見回すが、

「『織斑さん』、もうわたくしには話しかけないでくださいまし!」

「セ、セシリア!?」

「アンタの顔なんて見たくも無いわ! 絶交よ!」

「り、鈴!?」

「金輪際私に声を掛けるな!」

「ほ、箒まで………!? な、何で………? 俺はただシャルの為を思って………!」

一夏は何故こんなことになっているのか理解できない。
その間に3人は一夏に背を向けて立ち去ってしまう。
一夏は慌てて追いかけようとしたが、

「織斑君」

その前にシャルロットが立ちはだかった。

「私が君に言いたいことは皆が殆ど言ってくれたから一つだけ」

「シャル?」

「君は『私』を護ろうとしたんじゃない。『自分』が『気に食わない事』を認めたくないだけ…………『自分の意地(プライド)』を守ろうとしてただけだよ」

「えっ…………?」

一夏は困惑した声を上げると、シャルロットもいつの間にか食べ終わっていた自分のトレーを持ってその場を立ち去る。
その場には、呆然と立ち尽くす一夏だけが残された。







こんな感じです。
こっちの方が良いという方が大多数を占めればもしかしたら……………
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