超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス   作:友(ユウ)

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第35話 簪の決着(ケジメ)

 

 

 

 

楯無と簪の仲直りの翌日。

 

「姉さん!」

 

束が目を覚ましたと千冬から報告を受け、箒が医療室に駆け込む。

ベッドの上には、まだ横になったままだがしっかりと目を開けた束の姿。

 

「あ……………箒ちゃん…………」

 

弱々しくも箒の姿をその目に入れ、箒の名を呟く束。

 

「姉さん………!」

 

箒はすぐにベッドに駆け寄った。

尚、箒は気付かなかったが、この場には専用機持ち達と、紫苑、翡翠、ゲイムギョウ界のメンバーが揃っている。

箒は心配そうな表情を向ける。

すると、

 

「…………あれ? 箒ちゃん………髪型…………」

 

束がそんな事を呟いた。

見れば、箒の髪型はいつものポニーテールではなく、髪を降ろしたストレートだ。

箒はあの日以来、ポニーテールを止めてストレートにしている。

 

「姉さん、一体何が…………?」

 

箒がそう尋ねると、

 

「ううっ…………! この束さんとあろう者が、あんな紫色のオバサンに後れを取るなんて…………!」

 

束が痛みから一度身動ぎした後、そんな事を言った。

 

「紫色のオバサン…………? マジェコンヌの事か?」

 

束の言葉を聞いた紫苑がいの一番に思い当たる人物の名を呟く。

その呟きを聞いた全員が紫苑に視線を向けた。

 

「マジェコンヌ………というと、臨海学校の時に現れた奴か?」

 

千冬が確認の為に紫苑に訊ねると、紫苑は頷く。

 

「そうです。ゲイムギョウ界にいた悪党です。そこまで長く大人しくしている奴ではないと思っていましたが、いよいよ動き出した様ですね」

 

「…………奴の目的は分かるか?」

 

千冬がそう聞くと、

 

「………………あいつが何でこの世界にいるのかによりますが……………俺達と同じく事故でこの世界に飛ばされたのなら、目的の1つはゲイムギョウ界に戻る事。あいつは残念な所も多いですが、基本的に能力は優秀な奴ですからね。設備さえあれば元の世界に戻る方法を見つける事も不可能では無いかもしれません。もう1つとして、あわよくば俺達女神の力を持つ者達を始末できればと思っているかもしれません。特に、ユニ、ロム、ラムの3人はこちらの世界では変身出来ない。これほど絶好の機会は無いと考えていいでしょう」

 

紫苑が少し考えてそう答えた。

 

「なる程、そいつが束の研究所を襲ったのも、設備を手に入れるためか。こいつの研究所なら、この世界でも1番と言っても過言ではないだろうからな」

 

「俺もそう思います」

 

千冬の言葉に紫苑が頷く。

 

「うっ…………く、くーちゃんもあいつに捕まって…………!」

 

束が痛みを堪えながらそう言う。

 

「くーちゃん?」

 

「クロエ・クロニクルというらしい。こいつの話では、娘みたいな存在だそうだ」

 

「………………気休めになるかは分からないが、捕まったというのならまだ生きている可能性はある。マジェコンヌが捕まえたという事は、まだ利用価値があると判断したからだ。多分、俺達に対する人質か、もしくは洗脳して自分の手駒として扱うか…………」

 

「………………………」

 

紫苑の言葉に束は何とも言えない表情をする。

 

「きつい事を言うかもしれないが、1人で助けに行こうというのなら止めておけ。マジェコンヌは普通の人間が敵う相手じゃない。それが例え、人としてずば抜けた身体能力を持つ、あんたや織斑先生でもな」

 

「なっ!? 千冬姉があんな奴に負けるって言うのか!?」

 

紫苑の言葉に腹を立てたのか、一夏が紫苑に詰め寄る。

 

「そう言った。織斑先生や篠ノ之 束の身体能力は大よそ変身前の女神と互角。そこから例えISを使ったとしても、女神に匹敵するとは思えない。多少は抵抗できるかもしれないが、時間稼ぎが精々だろう」

 

「嘘だ! 千冬姉が負けるなんてこと…………!」

 

「一夏…………! 少し黙れ!」

 

尚も食って掛かろうとした一夏を千冬の静かで強い言葉が止めた。

 

「ち、千冬姉…………?」

 

「一夏、お前は私を絶対視し過ぎだ。私とて人間だ。完全無欠ではない」

 

「だ、だけど………!」

 

「ならばここではっきり言っておいてやる。私が例え専用機を使ったとしても、月影兄やプルルートには勝てん。それも僅差ではない。圧倒的な差でだ」

 

「そ、そんな…………」

 

千冬本人から言われていまえば一夏も何も言えない。

 

「話が逸れてしまったな。当面はマジェコンヌとやらをどうするか…………そしてクロエ・クロニクルをどうやって救出するか………」

 

その言葉を聞くと、束はハッとなる。

 

「助けて………くれるの…………?」

 

「腐れ縁のよしみだ。勘違いするなよ」

 

千冬はつっけんどんな言い方をして視線を明後日の方向へ向ける。

 

「あはは~、オリムラせんせ~、照れ隠しだ~!」

 

プルルートがニコニコ笑いながらそう言う。

 

「てれかくしー!」

 

ピーシェも真似して嬉しそうに叫ぶ。

 

「ば、馬鹿を言うな………!」

 

千冬はそう言うが顔を赤くして言っても説得力はない。

笑いが混じる中、

 

「俺の予想ですが、マジェコンヌは近々何か仕掛けてくると思います」

 

紫苑がそう言う。

 

「ほ、ほう、何故だ?」

 

千冬がここぞとばかりに紫苑の話に乗る。

 

「先程も話しましたが、マジェコンヌが俺達を狙ってくる可能性があるからです。自分達で言うのもアレですが、あいつは俺達に苦渋を何度も舐めさせられてるので、手出ししてこないという事は、まずあり得ないと考えます」

 

「それって、お前達が居るとIS学園が危ないって事じゃ…………ってぇ!?」

 

一夏がそう発言した瞬間、千冬に拳骨を落とされ発言を中断させられる。

 

「本気では無いとはいえその発言は見過ごせん! それに、月影達が居なければ我々は奴に対抗する力を持たぬのだぞ! 間違っても彼らを追い出すような真似はするな!」

 

千冬がそう諭すと、

 

「現在の状況は話した通りだ。近々戦闘になる可能性が高い。各専用機持ちは警戒を怠るな!」

 

「「「「「「「「了解!」」」」」」」」

 

「りょ、了解………!」

 

一夏だけは少し遅れて返事をする。

 

「この後の行動指針は専用機持ち各員に順次知らせる。では、解散!」

 

千冬が手を叩いて解散を促す。

それぞれが自室に戻ろうとした時、

 

「織斑、お前は少し待て。聞きたいことがある」

 

「?」

 

千冬の言葉に一夏は首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

全員が去った後、一夏は千冬に連れられて別室で対面していた。

 

「それで千冬姉、聞きたい事って?」

 

一夏が尋ねると、

 

「率直に聞く。篠ノ之やデュノアと何かあったのか?」

 

「ッ!?」

 

千冬の言葉に一夏は息を詰まらせる。

 

「そ、それが………………」

 

一夏は以前あったシャルロットの家族関係の話と箒の反応の事を話した。

すると、千冬は片手で頭を抱え、

 

「はぁ~~~~~~、お前がそこまでデリカシーの無い奴だったとはな…………」

 

深いため息の後そう呟く。

 

「千冬姉もそんな事言うのかよ!? だって、どう考えたって悪いのはその正妻だろ!?」

 

千冬の反応を不服に思った一夏がそう言うと、

 

「……………私もそこまで法律に詳しいわけでは無いが………確かにデュノアがその正妻を訴えて裁判を起こした場合、今の日本の法律ならお前の言う通り正妻が有罪となるだろう」

 

「だよな! やっぱり俺は………!」

 

間違っていなかったと一夏が続けようとした時、

 

「だがな、私も同じ女としてはその正妻の気持ちは良く分かる」

 

「……………えっ?」

 

「一夏、確かにお前は『正しい』のかもしれん。だがな、人は『正しい』ことだけが間違っていないわけでは無いぞ」

 

「ど、どういうことだよ…………?」

 

「お前の『正義』が他人にとっても『正義』だとは限らないという事だ」

 

「何で!? 善い事は善い事で悪い事は悪い事だろ!?」

 

言葉の意味をいまいち理解していない一夏に千冬は溜息を吐く。

 

「理由はどうあれ、デュノアは正妻に対して殴られたことを水に流している。そこにお前が口を出すのは筋違いだ」

 

「ど、どうしてだよ!? 俺はシャルの為を思って………!」

 

「それが筋違いと言っている。本人が納得している以上、お前のやろうとしていることはお節介であり『大きなお世話』だ」

 

「…………………」

 

「後、篠ノ之の反応については自業自得だ。私ですら腹が立ったぐらいだからな」

 

「う……………」

 

その言葉に一夏は何も言えなくなる。

 

「私が聞きたかったのはこれだけだ。お前も部屋に戻れ」

 

「………………………………」

 

千冬にそう言われ、一夏は黙って部屋を出ていくしかなかった。

 

 

 

 

 

 

それから1週間後。

 

「…………という事で先の襲撃事件の事を踏まえ、各専用機持ちのレベルアップを図るために全学年合同のタッグマッチを行う事となった」

 

朝のSHRで千冬の口から発表された事に、生徒達がざわつく。

 

「尚、このタッグマッチには月影も参加してもらう」

 

続けて言われた千冬の言葉に、紫苑がピクリと反応する。

 

「お前が参加することによって専用機持ちが奇数になってしまうため、お前の妹もこのタッグマッチに参加してもらう事になった」

 

千冬の言葉を聞いて、それなら翡翠と組むかと紫苑が考えていると、

 

「組む相手は基本的に自由だが…………織斑」

 

千冬が一夏を名指しする。

 

「は、はい」

 

「お前は月影と組め」

 

「なっ!? ど、どうして…………!?」

 

千冬の言葉に一夏は嫌な表情を隠そうともしない。

 

「お前が専用機持ちの中で一番『弱い』からだ。量産機でありながら専用機と互角以上に渡り合える月影の操縦技術を間近で見るいい機会だ。悔しければ少しでも月影の技術を盗んで自分の腕を上げるんだな」

 

「ぐ…………」

 

千冬の言葉に一夏は紫苑を見る。

紫苑は平然としていたが、一夏は逆にそれが癇に障ったらしい。

悔しそうに睨み付けた後視線を切って前を向いた。

紫苑はそんな一夏を見て、やれやれと肩を竦めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時が流れてタッグマッチ当日。

タッグが指定された一夏と紫苑以外では、翡翠と箒、楯無と簪、セシリアと鈴音、ラウラとシャルロット、そして2、3年生のダリル・ケイシーとフォルテ・サファイアがそれぞれタッグを組んでいた。

そして抽選の結果、第一試合は紫苑、一夏チームと楯無、簪チームの対戦となった。

 

 

その紫苑は、やや頭を悩ませながらピットへの道を歩いていた。

理由は言わずもがな一夏の事である。

紫苑はタッグマッチが決まった日から今日まで、一夏を毎日のように訓練に誘っていた。

しかし、相も変わらず意地になっている一夏は紫苑と訓練しようとしないどころか、ISの訓練すらしていなかった。

いつもならセシリア、鈴音と訓練していたのだが、その2人はタッグを組むことになり、互いのコンビネーションや技量を上げるために2人だけで訓練していたので、一夏は訓練する相手が居なくなったため、自主練すら怠っていた。

紫苑がやれやれと思いながらピットに入ると、そこには既に一夏が居た。

紫苑がピットに入るなり、一夏は紫苑を睨み付けるように見てくる。

紫苑は溜息を吐き、

 

「一夏、お前が俺を良く思って無いのは知っているが、今日は仮にも仲間なんだ。無理に仲良くしろとは言わないが、表情を表に出すのは止めた方が良い。相手によってはそれだけで不快感を与えるぞ」

 

「……………………ッ」

 

紫苑の言葉を聞いたのかは分からないが、一夏は紫苑から視線を切る。

それから紫苑は、試合までの空いた時間に一夏に対してとある話を振ってみた。

 

「話は変わるが……………第一試合の対戦相手の更識 簪という子なんだが、その子はこのタッグマッチに出場していることから専用機持ちの代表候補生だという事は分かっているだろうが、彼女の専用機はつい最近まで完成していなかったんだ」

 

「…………………………」

 

一夏は何の話だと訝しむ。

 

「本来ならこの学園に入学した辺りで専用機を貰えるはずだったんだが、突如としてその専用機の開発は無期限で凍結となった。その理由は…………その専用機の開発元は『倉持技研』だと言えばわかるか?」

 

「ッ……………!」

 

流石の一夏もそれは察したらしい。

 

「お前の考えている通り、開発スタッフが全員『白式』の開発の方に引き抜かれたからだ。彼女は開発途中だった機体を引き取り、最近までずっと1人で専用機の開発に取り組んでいた。そしてネプギア達の協力もあって漸く最近になって専用機が完成した」

 

「……………何が言いたいんだ、紫苑………!」

 

「別に…………お前が知っておくべきことだと思ったから話しているだけだ。どう受け取るかはお前に任せる」

 

紫苑はそう言い終わると、時間も迫って来ていたので立ち上がってカタパルトに向かう。

 

「…………………そんなの…………俺の所為じゃないだろ………………!」

 

一夏は吐き捨てるようにそう言うと、紫苑の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

アリーナの中央で向かい合う紫苑、一夏と楯無、簪の4人。

客席は生徒のほぼ全員が身に来ているのか満席だ。

歓声が飛び交う中、簪は静かに一夏を見据えていた。

 

(……………彼自身に責任は無いのかもしれない…………でも、ケジメだけはつけておきたい!)

 

簪はそう思って一夏を見続ける。

一方、楯無は楽しそうな表情を浮かべて紫苑を見ている。

以前、簪と向き合うために紫苑との勝負と言う嘘を吐かれた楯無だったが、楯無自身も紫苑との戦いには興味があった。

生身での戦いでは、素手同士ではほぼ互角だった。

紫苑はISでの戦いなら楯無の方が上だと評していたが、そこまで絶対的な差では無いだろう。

楯無は簪に続いて互角の戦いが出来る相手に心を躍らせていた。

 

『それでは、カウント3秒前!』

 

放送と同時にアリーナ中央上空にある投影モニターにカウントが表示される。

 

『3………2………1………試合開始!!』

 

「うぉおおおおおおおおおっ!!」

 

試合開始の合図と共に一夏が瞬時加速(イグニッション・ブースト)で楯無に向かって突撃した。

だが、

 

「あら、一夏君ってば大た~ん♪」

 

楯無はひらりと舞うように一夏の一撃を避ける。

 

「一夏君ったらそんなにおねーさんと踊りたいの? けど残ねーん! 今日のおねーさんのダンス相手は先約がいるの♪」

 

楯無はそう言いながら上空を見上げる。

楯無の視線の先に佇んでいるのは、真紅のラファールを纏った紫苑。

 

「俺如き、相手にする必要もないって事ですか? 舐められたもんですね!!」

 

紫苑を見上げている楯無に対して、一夏は再び瞬時加速(イグニッション・ブースト)で斬りかかった。

楯無は紫苑を見上げたまま一夏の方を向かない。

 

(入った!)

 

一夏はそう確信する。

だが、

 

「ッ…………!?」

 

ガキィィィッという音と共に楯無と一夏の間に簪が割り込んできて、『夢現・紫』の柄の部分で雪片の刃を受け止めていた。

 

「お姉ちゃん達の邪魔はさせない…………!」

 

簪はそう言うと一夏の雪片を弾く。

 

「あなたの相手は私…………」

 

簪は『夢現・紫』を構えるとその先にビームの刃を発生させる。

簪は一度目を伏せる。

 

「……………織斑…………一夏…………」

 

簪はそう呟くと目を開けて一夏を見据える。

 

「ッ!?」

 

その視線に僅かにたじろぐ一夏。

 

「………………あなたの所為で…………この子は見捨てられた…………」

 

簪は身に纏う『打鉄弐式・改』を見つめながらそう呟く。

 

「そ、それって『白式』の開発の為にその機体の開発スタッフを全員引き抜いたって話の事か………!?」

 

「そう、そんな欠陥機の為に、この子は……………」

 

「取り消せ!」

 

簪の言葉に一夏が叫んだ。

 

「『白式(こいつ)』は欠陥機なんかじゃない!」

 

「……………どうして? 武装は近接武器1本のみ。単一能力(ワンオフアビリティ)が使えると言っても自分のシールドエネルギーを消費する自滅武装。だから欠陥機」

 

「違う! こいつは千冬姉の剣を受け継いだ機体だ! その機体が欠陥機であるはずが無い!」

 

再び簪の発言に食いつく一夏。

 

「…………………確かに使う人が使えば最強クラスの攻撃力を持つ機体だけど、どう考えてもISの初心者に使わせるような機体じゃない………………」

 

簪はそう言うと再び目を伏せた。

 

「………………その機体の使い手が紫苑さんだったらまだ納得できた…………!」

 

『夢現・紫』を持つ手が震える。

 

「その機体の能力を100%………ううん、8割でも引き出せる人が使ってれば、仕方がなかったって割り切れた…………!」

 

その言葉を肯定するかのように、紫苑と楯無の剣と槍の舞が開始される。

連続で響き渡る剣戟の音。

まるで音楽を奏で、それに合わせて舞い踊るかのように飛び交う2人。

簪は勢いよく顔を上げる。

 

「だけどあなたは、その機体の8割どころか半分も性能を引き出せてなかった! そんな人の為に、今までの努力が無意味にされた私の気持ちが、貴方にはわかる!?」

 

ずっとため込んでいた思いだったのだろう。

簪は声を荒げてそう吐き出す。

 

「そ、それは俺の所為じゃ……………」

 

「確かに貴方自身には責任は無いのかもしれない! だけど、貴方の存在によって私の努力が無にされ、この子が見捨てられたのは事実! だから…………!」

 

簪は一夏に向かって突っ込む。

 

「ケジメだけは付ける!」

 

突き出した簪の一撃が一夏の左肩にヒットする。

 

「ぐあっ!?」

 

一夏はたたらを踏むように後退する。

 

「…………今の攻撃も対処できないの?」

 

簪は拍子抜けしたように呟く。

簪は少なくとも、今の一撃は躱されるなり、受け流されること前提にした小手調べの一撃だった。

そこから相手の次の行動をいくつも予測してその動きに対処することを計算していた。

それがまともに入ってしまい、簪は逆に追撃することが出来なかった。

 

「何おぉぉぉぉっ………!」

 

一夏は雪片を構えなおして簪に向かって突っ込む。

簪は柄の部分で受け止めると、『夢現・紫』を斜めに構え、雪片の刃を柄の表面を滑らせるように受け流す。

そして体勢が崩れた所に、『夢現・紫』の刃の方ではなく、石突の方を一夏の腹部に向けて突き出す。

 

「ぐふっ!?」

 

一夏は苦しそうに息を吐いた。

 

「………その程度?」

 

這い蹲るような体勢になった一夏に、簪は見下すような目を向ける。

 

「こんのぉおおおおおおおおおっ!!」

 

またも大振りで斬りかかってきた一夏を避けると、がら空きになった背中に向かって刃を振るう。

白式の背面部にある非固定部位のウイングが同時に切り裂かれ、爆発した。

 

「ぐぅぅ………!?」

 

その後も、何度も一夏は簪に斬りかかるが、簪はその全てにあっさりと対処し、一撃もまともに喰らうことなく的確に反撃していく。

それを何度か繰り返していると、

 

「…………もういい」

 

簪は一夏に対する興味を失ったように突然構えを解き呟いた。

 

「はぁ、はぁ、どういう意味だ?」

 

一夏は肩で息をしながらそう聞く。

 

「この程度の相手にムキになってた自分が逆に馬鹿らしくなった…………」

 

そう言いながら簪は『夢現・紫』を収納する。

逆に一夏はその言葉が頭に来たのか簪に突撃しようとしていた。

 

「もう………終わらせる…………」

 

簪は空間パネルを展開し、操作を始める。

 

「今回は2発で十分、かな…………?」

 

48門のレーザー発射口の内、2つだけが開きそこから白いレーザーが放たれる。

 

「なっ!?」

 

一夏はそのレーザーを避けることが出来ずに2発とも直撃。

身体が凍り付いていき、頭以外が完全に氷に包まれた。

 

「な、何だこりゃ!?」

 

氷漬けとなり、身動きが取れなくなる一夏。

すると簪は、『春雷・黒』を展開。

その砲口を一夏に向ける。

 

「……………発射」

 

簪が引き金を引き、ビームが砲口から放たれた。

一直線に一夏に向かって行くビーム。

その直後、一夏の視界が白く塗りつぶされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

気付けば一夏は、一面が水に覆われた不思議な場所にいた。

不思議な事に一夏は水面の上に立っている。

空には青空と雲が半々ぐらいの割合で広がっている。

 

「ここは……………?」

 

一夏はキョロキョロと辺りを見渡す。

すると、

 

「力を欲しますか…………?」

 

後ろから言葉が投げかけられ、一夏は後ろを振り向く。

そこには、騎士の様な甲冑を纏った女性が立っていた。

 

「力を欲しますか…………?」

 

同じ問いが投げかけられる。

 

「…………ああ」

 

一夏はその問いに頷いた。

 

「何のために…………?」

 

再び問いかけられる一夏。

その問いかけに一夏は、

 

「『正しい』事を貫き通すためだ! 力が無ければどんな『正義』も理不尽の前に屈してしまう。だから俺が! 俺が『正しい』って事を証明するために『力』が欲しい!」

 

「…………………………」

 

すると騎士は一夏に背を向けた。

 

「お、おいっ!?」

 

一夏は慌てて彼女を呼び止めようとする。

 

「今のあなたに、『力』を得る資格はありません…………」

 

背を向けたままそう言うと、そのまま立ち去ろうとした。

だが、

 

「……………待って」

 

また別の声がした。

幼い少女の様な声だ。

すると、いつの間にか女騎士の横には白い髪を持ち、白のワンピースを着た少女が立っていて、まるで女騎士を引き留めるようにその手を掴んでいた。

 

「あなたは……………」

 

女騎士は少女を見下ろし、少女はジッと女騎士を見上げる。

 

「彼に最後のチャンスを与えろというのですか?」

 

女騎士の問いに少女が頷く。

すると、女騎士は一夏に向き直った。

 

「……………いいでしょう。特別に貴方に力を与えます」

 

女騎士は一夏にそう言うと、

 

「これがあなたにとって最後のチャンスです………………今一度『正義』とは何なのかを見つめ直しなさい…………」

 

その言葉と共に一夏の意識が遠くなっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏にビームが直撃すると思われた瞬間、一夏が白い光に包まれた。

更に一夏に直撃したと思われたビームが四散していく。

 

「この光…………『二次移行(セカンド・シフト)』?」

 

光が収まると左腕にエネルギーシールドを展開した一夏の姿があった。

そして、『白式』の形も変わっていた。

第二形態『雪羅』。

一夏の前に表示されたモニターにそう表示されていた。

ウイングが大型化して4機に増え、左腕が右腕よりも大きく、多機能武装腕とも言える装備になっていた。

 

「これが俺の新しい力っ…………!」

 

その事実に思わず顔を綻ばせる一夏。

一方、簪は冷静に状況を把握していた。

 

「さっきのシールドは………ただの光学シールドじゃない。おそらく『零落白夜』をシールド状に変化させたもの……………それなら…………」

 

簪はブツブツと呟きながら一夏の新しい情報を頭の中に取り入れていく。

すると、一夏が左腕を簪に向けた。

 

「?」

 

簪は一瞬怪訝に思ったが、

 

「くらえっ!」

 

一夏の掛け声とともに、その掌から閃光が放たれた。

 

「きゃあっ!?」

 

簪は咄嗟に防御姿勢を取るが、その攻撃を受けて軽い悲鳴を上げる。

 

「今のは………荷電粒子砲? 遠距離武器が追加されたの?」

簪は再び一夏が左手を向けてくるのを見てその場を離脱する。

その直後に荷電粒子砲が撃ち込まれ、爆発する。

 

「荷電粒子砲…………威力は高め。だけど、織斑君の射撃能力は低いからさほど怖くはない」

 

簪がそう考えていると、一夏が今まで以上のスピードで突っ込んできた。

 

「速いっ………!」

 

避けるのは難しそうだったので、簪は『夢現・紫』を呼び出し、右手で振るわれる雪片の刃を防御する。

 

「雪羅! 『ソードモード』!」

 

その瞬間、左手にも雪片と同じ『零落白夜』の刃が発生した。

 

「ッ!?」

 

振るわれる刃。

簪は咄嗟に飛び退くが剣先を掠め、掠ったにしては少なくない量のシールドエネルギーが減った。

 

「…………『零落白夜』の………二刀流…………」

 

両手に『零落白夜』の刃がある事を確認して、簪は一度息を吐く。

そして息を吸い込んで再び一夏を見据える。

 

「ここからは俺のターンだ!」

 

一夏は『零落白夜』の二刀流で簪に迫る。

次々と振るわれる刃。

二刀流になった事で、隙が少なくなり、簪は反撃もせずに回避に集中する。

 

「そらそらっ!」

 

防戦一方になった簪を見て一夏は気を良くしたのかどんどん攻め立てる。

だが、それ故に気付かなかった。

簪の本当の狙いに。

それから数分間、簪は一夏の攻撃を凌ぎ続けていたのだが、

 

「………………そろそろ、かな?」

 

簪がボソッと呟く。

すると、突然『零落白夜』の刃が消えてしまった。

 

「なっ!?」

 

一夏は慌てて原因を探ると、

 

「しまった! シールドエネルギーが!?」

 

シールドエネルギーの残量が尽きかけていた。

 

「ただでさえ『零落白夜』はシールドエネルギーを消費する諸刃の剣。それが2本に増えれば消費するシールドエネルギーが2倍になるのは当たり前」

 

簪は淡々と事実を口にする。

先程まで簪が防戦一方だったのは、無理に攻撃しなくても勝手に相手のシールドエネルギーが減っていくからだ。

 

「何度も同じ過ちを繰り返すなんて、貴方はクラス代表決定戦の時から何も成長してないね」

 

簪は『夢現・紫』を構えなおす。

 

「やっぱりあなたは…………………………『弱い』…………!」

 

簪は一夏に止めを刺そうと振りかぶった。

その瞬間、ドゴォォォォォンという爆発音とともに、何時だったかと同じようにアリーナのシールドが破られた。

 

 

 

 

 

 








第35話の完成。
ちょいと駆け足でタッグマッチ戦まで行きました。
原作じゃタッグマッチの前に襲撃されましたけどね。
一夏対簪だけはやっておきたかったので。
まあ、結果は言わずもがな簪の圧勝。
二次移行しても一夏の自滅。
まあ、簪とこの小説の一夏の差はこんなもんでしょ?
後、描写は殆どありませんでしたが、紫苑と楯無は超ハイレベルな戦いを繰り広げてました。
とりあえず性能差で楯無がちょい優勢です。
その辺は皆様の脳内でお楽しみください。
今日は時間が無いので返信はお休みします。




それでは、恒例のNGシーンです。



「『正しい』事を貫き通すためだ! 力が無ければどんな『正義』も理不尽の前に屈してしまう。だから俺が! 俺が『正しい』って事を証明するために『力』が欲しい!」

「…………………………」

すると騎士は一夏に背を向けた。

「お、おいっ!?」

一夏は慌てて彼女を呼び止めようとする。

「今のあなたに、『力』を得る資格はありません…………」

背を向けたままそう言うと、そのまま立ち去ろうとした。
だが、

「……………待って」

また別の声がした。
幼い少女の様な声だ。
すると、いつの間にか女騎士の横には白い髪を持ち、白のワンピースを着た少女が立っていて、まるで女騎士を引き留めるようにその手を掴んでいた。

「あなたは……………」

女騎士は少女を見下ろし、少女はジッと女騎士を見上げる。

「彼に最後のチャンスを与えろというのですか?」

女騎士の問いに少女が頷く。
すると、女騎士は一夏に向き直った。
そして、

「………………………………………だが断る!」

「「え?」」




そして一夏は成す術無くビームに呑み込まれたのだった。
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