超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス 作:友(ユウ)
突然全体の電源が落ち、更に防御用シャッターまで降りた為暗闇に包まれたIS学園。
その中を紫苑達は指定された地下のオペレーションルームへ向かっていた。
途中でユニ達女神候補生とピーシェも合流し、オペレーションルームへ急ぐ。
途中、何枚か防御シャッターが下りていたが、破壊の許可が下りていたので指示通り破壊しつつ進んだ。
紫苑達が指定されたオペレーションルームへ辿り着くと、既に箒、セシリア、鈴、シャルロットが揃っていた。
因みに一夏だが、現在白式の開発元である『倉持技研』にオールメンテナンスに行っているらしく、この場には居ない。
「では状況を説明する!」
千冬が説明を始める。
現在ハッキングによって、IS学園の全てのシステムがダウンしているらしい。
独立しているIS学園のシステムにハッキングを掛けている手段、目的ともに不明。
それにより、専用機持ちは電脳ダイブでシステム侵入者を排除することとなった。
「それでは、これから篠ノ之さん、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさん、月影君、月影さんは、アクセスルームへ移動。 そこでISコア・ネットワーク経由で電脳ダイブをしていただきます。 更識 簪さんは皆さんのバックアップをお願いします」
真耶の指示でそれぞれがアクセスルームへ移動する。
その場に残ったのは、千冬、楯無、プルルート、ネプギア、ピーシェ、ユニ、ロム、ラムである。
「さて、お前達には別の任務がある」
千冬がそう切り出す。
「とはいえ、プルルート達はあくまで協力者という立場だ。この任務に参加するかどうかは本人の意思に任せる」
千冬はそう言うが、彼女達は女神として困っている人々を放ってはおけない性格なので、ほぼ確実に参加すると考えている。
その予想は外れておらず、プルルート達は誰一人として降りる者は居なかった。
千冬は改めて佇まいを直し、
「おそらく、このシステムダウンとは別の勢力が学園にやってくるだろう」
「敵―――、ですね」
楯無が確信を持った声で呟く。
この混乱に乗じて介入を試みる国は必ずある、と千冬は睨んでいる。
「そうだ。今のあいつらは戦えない。悪いが頼らせてもらう」
「任されましょう…………ですが、紫苑さんとラウラちゃんぐらいはこっち側でもよかったのでは?」
楯無は頷くがそんな事を尋ねた。
専用機持ち達のISは先日のゴーレムⅢの襲撃の時に戦闘不能になるほどにダメージを負っていて、未だ使用不能な状況にある。
その為、もしこの混乱に乗じて介入する勢力があれば、いの一番に狙われるのは専用機持ち達だ。
このような状況で介入してくると相手となればまず間違いなく精鋭部隊。
いくら代表候補生が軍人と同等の訓練を受けていると言っても、実戦経験も浅い新米軍人程度だ。
精鋭部隊に襲われればひとたまりもない。
まあ、紫苑やラウラは別だろうが…………
その為千冬はトラブルが起きた瞬間、専用機持ち達の安全を確保するためにIS学園でも深部にあるオペレーションルームへ集め、かつ電脳ダイブでシステム侵入者の排除という事を口実に外界との情報をシャットダウンし、余計な行動を未然に防ぐ。
全ては専用機持ち達を護るための行動だった。
「電脳ダイブ中にも不測の事態が起こるとも限らん。あの2人にはもしもの時のフォローに回って貰いたい」
「そういうわけですか、了解しました」
「お前には厳しい防衛戦になるな」
「ご心配なく。これでも私、生徒会長ですから」
千冬の心配する言葉に対し、楯無はそう言って不敵に笑って見せる。
「それにプルちゃん達も居ますから、戦力的には問題ないかと」
「…………では任せた」
千冬は一瞬迷う素振りを見せたがそう告げた。
尚、千冬の予想通り他国の特殊部隊とIS1機が侵入してきたが、楯無と女神達相手には成す術もなく、コテンパンに伸されていた。
一方、電脳ダイブを実行した紫苑達は、何故か不思議の国のアリスをイメージさせる絵本の様な世界。
更には女性陣の格好が青いドレスに白のエプロンというまんまアリスの様な格好だった。
何故か紫苑だけはIS学園の制服のままだったが。
それで二足歩行の兎が目の前を横切っていったので追いかけたら7つのドアを見つける。
ご丁寧にこの場にいる人数と同じ数だ。
「何これ?」
「入れってこと?」
『多分………』
簪は自信なさげに呟く。
『この先は………多分、通信が途絶えるから………各自の判断でシステム中枢へ………』
「「「「「「「了解!」」」」」」」
ノイズ混じりのウインドウでそう言う簪に全員が揃って返事を返し、それぞれの扉を潜った。
紫苑は扉を潜った際に包まれた光が収まるのを確認して目を庇っていた腕をどける。
その紫苑の目に飛び込んできた光景は、
「ここは…………プラネテューヌの教会…………?」
紫苑のよく知る場所。
自分の居場所であるプラネテューヌの教会、その居住区画であった。
紫苑はその光景に一瞬呆けていると、背後の扉がガチャリと開き、
「あ、シオーン! おはよう!」
紫苑が最も会いたい女神、ネプテューヌの姿があった。
「ネプ………テューヌ…………」
紫苑は思わずそう零した。
ネプテューヌは笑みを浮かべながら紫苑に駆け寄ってくる。
そのまま抱き着いてこうと手を広げるネプテューヌ。
そんなネプテューヌに対し、紫苑の取った行動は、
「………………………ッ!」
瞬時に右手に握られた刀による一閃だった。
「シオ……………?」
「アイツの姿で喋るな…………!」
体を斜めに切り裂かれたネプテューヌの姿をしたものは映像にノイズが走った様にブレる。
紫苑は一目で目の前のネプテューヌが偽物であると気付いたのだ。
「さっさと消えろ!」
怒りを露にして更に縦に剣を一閃する紫苑。
だがその時、ネプテューヌの姿をしたものは薄く笑みを浮かべた。
『掛かりましたね…………』
ネプテューヌの声が変わる。
その瞬間、ネプテューヌの姿が煙のように崩れ、黒いモヤのようになったかと思うと紫苑に纏わりつき、そのまま鎖と化して紫苑を雁字搦めに締め付けた。
「ぐあっ…………!?」
両腕を広げるように拘束され、宙吊りにされる紫苑。
『あなたの精神力は凄まじいものでした。私のワールド・パージを簡単に跳ね除ける程に……………ですが、一瞬の揺らぎさえ見せれば十分です』
更に残っていた黒いモヤが空中で固まり、無数の剣になると、それらが勢いよく紫苑の身体を貫き、串刺しにしていく。
「がああっ!?」
『私と共に闇に堕ちなさい。二度と目覚めぬ闇へ…………』
そんな声が聞けたかと思うと、紫苑の意識が急激に遠くなっていく。
「うぐ…………み、皆………………」
その言葉を最後に紫苑の意識は闇へ落ちた。
闇に堕ちる寸前、苦しそうな表情の銀髪の少女を見た気がした。
その瞬間、他のメンバーは強制的に電脳世界から排除された。
突然目を覚ます専用機持ち達。
「い、一体何が………!?」
簪はパネルを操作して原因を特定しようとしていると、
「お兄ちゃん!?」
翡翠の切羽詰まった声が聞こえた。
簪がそちらを見ると、翡翠が泣きそうな顔で目覚めていない紫苑に声を掛けている。
「お兄ちゃん! どうしたの!? お兄ちゃん!」
7人中6人が目覚めている状況で紫苑だけが目覚めていないのは明らかに異常だ。
「翡翠さん待って! 目覚めない原因が分からない内は無暗に動かさない方が良い………!」
簪が翡翠に落ち着くように呼びかける。
「簪ちゃん…………」
簪は再び紫苑が目覚めない原因を探ろうとパネルを操作しようとして、
「ふむふむ………これはこれは」
横から伸びてきた手が勝手にパネルを操作していた。
しかも、そのパネルの操作は段違いに速い。
その人物は、
「し、篠ノ之 束博士!?」
いつの間にかそこにいた篠ノ之 束だった。
束は驚く簪を他所にパネルを操作していき、次々と情報を集めていく。
すると、ある所でピタリと手が止まった。
「やっぱり…………これはクーちゃんのワールド・パージ………………!」
「束博士、原因をご存じなんですか?」
簪が尋ねる。
「まあね。そもそもこのISの能力を作ったのは私だし。あの紫オバサン、クーちゃんをこんなことに利用しやがって…………ほんとムカつく!」
束は不機嫌そうな表情を隠そうともせずにそう言い放った。
「これは電脳世界で相手の精神に干渉できる能力。それを利用して相手の意識を封印したんだね。全く! こんなことしたらクーちゃんも目覚めることが出来ないっていうのに!」
束はそう言いながらパネルを再び操作する。
「束、月影を救う手段はあるか?」
千冬がそう問いかけると、
「あるにはあるけど、助けるにはある条件と覚悟が必要だね」
「条件と覚悟?」
束の言葉に千冬は声を漏らした。
その頃、一夏は倉持技研の近くにある川の畔でのんびりと釣りをしていた。
別任務に当たっていた楯無やプルルート達が呼び戻され、紫苑の状況を大まかに伝えられる。
彼女達は当然のように紫苑を心配したが、千冬は束に問いかけた。
「それで束。先程言っていた月影を救う手段と、その条件と覚悟とは何だ?」
「ん。まずその子を助ける手段だけど、やることはさっきまでと殆ど変わりないよ。つまりは電脳ダイブだね。ただ、行き先はコンピューターじゃなくて、その子の意識の底まで潜って囚われてる意識を開放するの。まあ、
「「「「……………………」」」」
箒、セシリア、鈴音、シャルロットは冷や汗を流して何も言わない。
それ以前に条件に当てはまらないので彼女達には無理だが。
だが、迷わずに一歩踏み出した者達が居た。
「もちろんだよ~」
プルルートが、
「お兄ちゃんの事なら、よく知ってますから!」
ネプギアが
「私も行きます」
ラウラが、
「ラウラちゃんに同じ」
楯無が、
「わ、私も………!」
簪が、
「お兄ちゃんを助けるためだもん!」
翡翠が。
6人の少女達が名乗りを上げた。
「ぴーも!」
ピーシェもそう言ったが、翡翠はハッとして、
「あ、ピーシェちゃんは、ここで皆を護って欲しいな?」
「うゆ?」
翡翠の言葉にピーシェは首を傾げる。
「ほら、もしかしたら、あの顔色の悪いオバサンが来るかもしれないし………」
その言葉にピーシェは頷き、
「うん! ぴー、まもる!」
自信を持ってそう言った。
「お願いね」
翡翠はニッコリと笑ってピーシェを撫でた。
「…………お前達、本当に行くのか?」
千冬が改めて問いかける。
その問いに、全員が頷くことで応えた。
千冬が溜息を吐き、
「教師として情けないが、お前達に頼るほかあるまい。だが、必ずお前達も無事に帰ってこい! いいな!」
「「「「「「はい!」」」」」」
6人はハッキリと返事を返し、紫苑の精神へのダイブの準備を始めた。
同じ頃、IS学園から少し離れた空の上。
「……………そろそろか。お前達、準備は良いな?」
マジェコンヌが傍に居るISを纏った3人に問いかける。
「やっとかよ………待ちくたびれたぜ…………!」
獰猛な笑みを浮かべるアラクネを纏ったオータム。
「………………問題ない」
静かに呟くサイレント・ゼフィルスを纏ったエム。
「フフフ…………今ならアナタと契約を交わしたことは間違いなかったと思えるわ」
金色のIS、『ゴールデン・ドーン』を纏ったスコール。
彼らのISはマジェコンヌの手により大幅に強化されていた。
「調子に乗るなよ。いくら私が手掛けたとはいえ、3機で精々1人の女神を相手にできる程度だ。まあ、この世界で言う専用機程度なら圧倒できる性能があるが…………その性能も操縦者の腕が無ければ宝の持ち腐れだがな」
マジェコンヌは見下した態度でそう言う。
「なっ!? テメェ………!」
オータムは思わず食って掛かろうとしたが、
「やめなさいオータム」
スコールがオータムを宥める。
「けどよスコール………!」
「少なくとも、彼女の技術力と彼女自身の力は本物よ」
「……………チッ!」
オータムは納得できていないようだったが、スコールの言葉で渋々と引き下がる。
「私の予想では女神は恐らく1人だけ出てくるだろう。貴様たちの役目はその女神の足止めだ。その位は出来るだろう?」
「ッ…………!」
再び食って掛かろうとしたオータムをスコールが手で制する。
「わかったわ………だけど、倒してしまっても構わないのでしょう?」
「フン、出来るものならな。私もそちらの方がありがたい」
マジェコンヌはニヤリと笑う。
「無駄話はこの辺りでいいだろう。行け!」
「お前が命令すんな!」
「フン………」
「分かったわ」
マジェコンヌの言葉を合図に3人はIS学園に向かって飛翔していった。
ダイブを実行した6人は宇宙空間の様に視覚化された空間の中を潜る様に下に向かっていた。
「ここが紫苑さんの精神?」
楯無が呟くと、
『ここはまだ表層意識だね。この子の意識が囚われてるのはもっと深い所だよ』
束が通信でそう答える。
彼女達が暫く潜っていくと、底に着いたのか地面に立つように足を着くことが出来た。
そして、彼女達の前には大きな扉。
「これは………?」
簪が漏らすと、
『多分それが深層意識への入り口。それで恐らくそこからはこの子が心の許した人物しか立ち入る事が出来ない。通信も当然ながら届かないと思うから、後は自分達で何とかするしかないよ』
「了解した」
ラウラが頷く。
『それじゃあこの子の名前を呼んであげなよ。心を許した人物なら、多分それで開くと思うから』
束の言葉に6人は一度顔を見合わせると、
「シオン君」
「お兄ちゃん」
「紫苑」
「紫苑さん」
「紫苑さん………」
「お兄ちゃん!」
それぞれが呼びかけると、その扉が重そうな音を立てて開き始め、その中から溢れた光が6人を包み込んだ。
次に気が付くと、6人は夕暮れの浜辺にいた。
「ここは…………」
翡翠が辺りを見渡す。
すると、
『父さん! 母さん! こっちこっち!』
幼い少年の声が聞こえた。
その声に振り返ると、幼い5、6歳位の少年が、夫婦と思われる男性と女性に手を振っていた。
その女性の腕には、幼い少女の姿。
浜辺を走り回る少年は年相応の明るい笑みを浮かべている。
「……………………お兄ちゃん………」
走り回る少年を見て、翡翠は呟いた。
「なっ!? あれが紫苑!?」
ラウラが驚愕した声を漏らす。
「じゃあ、あそこにいる人たちは…………」
簪がそう言うと、
「うん………お父さんと、お母さん…………」
翡翠は呆然と両親を見つめる。
「シオン君って~、昔はあんな風に笑う子だったんだね~」
プルルートが紫苑の少年時代を見つめながらそう漏らした。
幸せそうな家族の光景に、6人はほんわかとした気持ちになる。
だが、次の瞬間その光景が移り変わった。
周りが火の海に包まれ、その中心に煤や土に塗れた少年時代の紫苑。
そして、その腕には少女時代の翡翠が頭から血を流しながら抱かれていた。
「「「「「「ッ!?」」」」」」
その光景に、思わず絶句する6人。
『父さん………! 母さん………!』
紫苑は泣きそうな顔で両親の姿を探す。
だが、その目に飛び込んできたのは、無残な姿で屍を晒す両親の姿。
「ウッ………!?」
その光景に簪は思わず口元に手を当てた。
「まさかこれって…………」
「……………『白騎士事件』」
翡翠の呟きに楯無が答えた。
「シオン君…………」
両親の姿を見て泣き叫ぶ紫苑を見て、プルルートは悲しそうな顔をしながら紫苑に手を伸ばすが、その手はするりと紫苑を通り抜けてしまう。
「…………やっぱり、これはお兄ちゃんの記憶だから、私達には干渉できないんですね」
ネプギアが悲しそうにそう言う。
紫苑に聞いたことがあったとはいえ、こうしてその光景を目にすると、やはり辛いものがある。
「お父さん………お母さん…………」
翡翠は我慢できずに涙を流した。
「ヒスイちゃん…………」
ネプギアは翡翠にそっと寄り添う。
そして更に場面が移り変わり、紫苑は病院の一室でスーツに身を包んだ政府の人間らしき人物と話をしていた。
当時7歳の紫苑に対して両親の死を悼むどころか、ISの有用性を語り続け、両親の死を隠蔽するために説得するその人物。
いや、脅しと言っていいだろう。
「何なのだこの男は!?」
ラウラが我慢できずに叫ぶ。
「家の役目だったとはいえ、こんな奴の言いなりになってた自分が嫌になるわ………!」
楯無はギリッと歯を食いしばり、拳を握りしめる。
すると、
「…………………………わたしぃ~! もぉ我慢できないかもぉ~!!」
突然プルルートが叫んだ。
「えっ? プルルートさん?」
ネプギアがプルルートの変化に声を漏らす。
「うふ、うふふふ。ダメだぁ。あたしぃ、怒り過ぎておかしくなっちゃったかもぉ……!」
変身はしていないものの、喋り方が普段とはかけ離れたドスの利いた声になっている。
「ど、どういうこと!? プルちゃんに一体何が起こったの!?」
楯無が困惑する。
「わ、分かりません………私もこんなプルルートさん初めてで………」
この中で一番付き合いの長いネプギアも困惑している。
「このむしゃくしゃした気持ちはぁ~! 何処にぶつければ良いのかなぁ~!?」
暴走するプルルート。
「お、落ち着いてくださいプルルートさん! これは記憶の映像です!」
ネプギアがプルルートを何とか宥めようと試みる。
「そ、そうよプルちゃん! この男の顔は覚えたから、紫苑さんを救出した後で私の伝手を全部使ってでも社会的に抹消するから!」
楯無も形振り構わずにそう宣言する。
「たっちゃん~………! 本当に~…………!?」
楯無の言葉にドスの利いた声で確認するプルルート。
「え、ええ、本当よ………!」
背中に冷や汗を流しながら頷く楯無。
「わかったぁ~………じゃあ、我慢するぅ~…………」
何とか落ち着きを見せるプルルート。
因みに翡翠と簪は完全に怯えていた。
すると、再び場面が移り変わり、紫苑は翡翠を護る事を誓い、剣の道を志した。
翡翠の相手と面倒を見てくれた祖父母の手伝い。
そして学業と睡眠以外の時間を全てを剣のみに費やした。
剣を振り続ける紫苑。
手に肉刺ができ、それが潰れ、血が滲んで皮膚が剥がれようと、それでも紫苑は剣を振り続けた。
全ては翡翠を護るため。
それだけを胸に剣を振っていた。
そんな紫苑の姿を見た翡翠は、不意に涙を流した。
「………私、知らなかった………お兄ちゃんはこんなにも私を護ろうとしてくれてたんだ………」
底から更に場面が移り変わっていく。
成長していく紫苑。
その中には楯無との出会いもあった。
そして紫苑が14歳となったある日。
紫苑と翡翠はISのイベント会場にいた。
楽しそうに会場を見て回る翡翠と、それを見守る紫苑。
IS適性で翡翠がSランクをたたき出したところでは、楯無達も驚いていた。
その直後、打鉄を纏ったテロリストの襲撃。
無残に肉塊にされる人々。
その光景は正に地獄絵図だった。
辛そうな表情を見せる翡翠や簪。
ラウラや楯無でも顔を顰めていた。
すると、鉄パイプ片手にISを纏ったテロリストと対峙する紫苑。
攻撃が効かないのはともかく、戦いの流れでは紫苑が優勢だった。
「…………話には聞いていたが、鉄パイプでISと渡り合うとは、やはり紫苑の技量は凄まじいな」
感心するラウラ。
「なんか、このまま行けば普通に逃げれそうな気がする」
簪もそう感じていた。
だが、
「……………駄目………」
翡翠が突然呟く。
「ヒスイちゃん?」
気になったネプギアが尋ねると、
「戻って来ちゃ駄目ぇぇぇぇっ!!!」
叫びながら昔の翡翠が逃げた方向に駆け出す翡翠。
すると、その方向から昔の翡翠が駆けてきた。
「駄目ぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」
翡翠は止めようとするが、無情にもその手はするりとすり抜けてしまう。
『お兄ちゃん!』
紫苑に呼びかけてしまう昔の翡翠。
『翡翠っ!?』
思わず振り返る紫苑。
『馬鹿ッ! 何で戻ってきた!? 早く逃げッ………!?』
その瞬間、背後から殴られ、吹き飛ばされる紫苑。
『がっ!?』
瓦礫に叩きつけられ身動きが出来なくなる。
『ひ、翡翠…………!』
『お兄ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁん!』
必死に叫び、紫苑に向かって右手を伸ばしながら駆け寄ってくる翡翠。
その伸ばされた右腕が銃声と共に鮮血をまき散らせながら宙を舞う光景。
「うっ………うぁっ…………ごめんなさい! ごめんなさいお兄ちゃん!」
改めてこの映像を見て、自分がどれほど軽率な行動をしたのかを思い知った翡翠。
涙を流しながら紫苑に対して謝っていた。
そして目覚めた紫苑が最初に見たのは翡翠の右腕。
『翡翠っ…………!?』
血溜まりに沈む右腕。
『あ………あ…………!』
紫苑は震える手でその右手を拾い上げる。
その右手にあったブレスレットをそっと外し、細部まで確認した。
『うあっ………あっ………!』
周りには、大勢の血で真っ赤に染まった床と大勢の死体。
そして、誰ともわからぬ数々の肉片。
『あ…………あああああっ……………!』
紫苑は叫んだ。
『うあぁあああああああああああああああああああああああああああっ!!!!』
紫苑の慟哭がその場に響く。
全てを失い、全てに絶望した少年の嘆き。
6人はその慟哭を辛い表情をしながら聞いていた。
「これは…………翡翠ちゃんが死んだと思っても仕方ないわね………」
楯無が呟く
すると、空間が歪み、まるでブラックホールのような黒い穴がその場に発生した。
「ッ! あれはっ!?」
それに見覚えのあったネプギアが叫んだ。
その穴は一瞬で紫苑を飲み込み、その直後に何事も無かったかのように消え去った。
そのまま場面が移り変わると、何処かの病室らしき場所だった。
そのベッドの上で目覚める紫苑。
『…………夢………だったらどれだけよかったか…………』
紫苑は身を起こし、ポツリと呟く。
『……………護れなかった………! 護れなかった! 父さんや母さんに翡翠を護ると誓ったのに!!』
紫苑は両手を血がにじむほど握りしめる。
だが、フッと力を抜くと、
『………………俺には何も護れない………何も…………』
その眼は絶望の色に染まった。
「紫苑が………あのような眼を………」
光を失った紫苑の眼を見て、ラウラが驚愕の表情を見せる。
「ギアちゃん、お兄ちゃんは大丈夫なの?」
翡翠が一番詳しいであろうネプギアに問いかける。
「私もお兄ちゃんが立ち直ることは知ってるけど、どうやって立ち直っのかは知らないの………お姉ちゃんが関係してるのは確かなんだけど………」
ネプギアはそう答えた。
「シオン君………」
プルルートも心配そうな表情を向ける。
その時、病室の扉が開き、2人の少女が入室してきた。
『あ、気が付いたねの』
『良かったです~』
「アイエフさん、コンパさん………」
ネプギアが入室して来た2人の名を呟く。
その2人は紫苑に話しかけたが紫苑は真面な反応は返さず、翡翠のブレスレットを見た瞬間に泣き出してしまった。
2人は退室し、しばらく時間が経った後、
『落ち着いたかしら?』
再びアイエスとコンパ、更にネプギアによく似た薄紫の髪の少女と宙に浮く本に乗った小さな金髪の妖精のような女性が入室してきた。
その妖精のような女性は浮遊しながら紫苑の前に来て、
『あなたがシオンさんですね。私はイストワール。ここプラネテューヌの教会の教祖をしています』
そう自己紹介をする。
そして、
『それで私がネプテューヌ!! この国の女神様だよ!!』
ビシッと左手を前に伸ばし、親指を含めた三本指で独特なピースサインを決めた薄紫の少女はそう名乗った。
「ッ! ネプテューヌって…………」
その名に一番に反応したのは楯無。
「その名前って………」
簪もそれに続く。
すると、
「はい。あれが私のお姉ちゃんです」
ネプギアがそう言う。
『も~! 暗~い! ほら! 笑顔笑顔!』
『………………………』
『ねぷっ!? 完全スルー!?』
紫苑に話しかけるネプテューヌだが尽くスルーされている。
何も反応されなかったネプテューヌはショックを受けた。
「………………何て言うか………確かに可愛い子だとは思うんだけど………」
楯無はやや困惑した声を漏らす。
「イメージと違う………」
簪もそう漏らした。
「私の勝手な想像だったんだけど、紫苑さんの好きになった人だから、何て言うか………こう、クールで知的なカッコいい女性をイメージしてたんだけど…………」
「あはは…………普段のお姉ちゃんはアレですからね」
ネプギアは楯無の言葉に苦笑する。
「でも、あながち間違ってませんよ?」
「「えっ?」」
ネプギアの言葉に、2人は声を漏らした。
その間にも記憶の世界のやり取りは進んでいき、
『妹を護るために必死で鍛えた剣術も何の役にも立たなかった! 俺には何も護るものは無いし、何も護れやしない! 元の世界に戻る意味なんかない…………! 生きる意味すら…………』
『ダメだよ!』
紫苑の言葉の途中でネプテューヌが叫ぶ。
『生きる意味が無いなんで言っちゃダメ! 生きていれば、そりゃ辛い事や悲しい事も沢山あるよ! でも、同じぐらい嬉しい事や楽しい事も一杯あるんだから!』
「あ………この言葉って………」
翡翠が気付いたように呟く。
「紫苑さんが前に言ってた言葉ね」
楯無も頷いた。
そしてまた場面が移り変わり、プラネテューヌがモンスターの襲撃を受けている映像になった。
その中で紫苑は大型モンスターの前にその身を晒していた。
「お兄ちゃん!?」
「紫苑!」
「紫苑さん!」
「逃げて!」
それぞれが叫ぶ。
大型モンスターは、腕を振りかぶっていた。
しかし、紫苑は動く気配を見せない。
だがその時、
『………………たす…………けて……………』
今にも消え入りそうな助けを求める声が聞こえた瞬間、紫苑は動いていた。
幼い少女の前に立ちはだかり、鉄パイプでモンスターに立ち向かう紫苑。
楯無達も、その少女に護れなかった翡翠の姿を重ねているのだろうと感じていた。
途中、武器屋から刀を受け取り、モンスターを倒していく紫苑。
だが、無数のモンスターが一斉に紫苑に向かってきていた。
それでも紫苑は立ち向かおうとして、
『32式エクスブレイド!!』
巨大な剣がモンスターの群れの中央に突き刺さり、衝撃が走った。
モンスターの大半が消し飛ぶ。
『一体…………何が…………?』
紫苑は何が起こったのか理解できなかった。
だが、
『…………女神様………』
後ろにいた少女が呟いた。
紫苑が振り返ると、少女が空を見上げている。
紫苑も空を見上げ、それに釣られて楯無達も空を見上げた。
そこには長い紫の髪を二股の三つ編みにして、黒いボディースーツに身を包み、光の翼で空に佇む美しい女性がそこにいた。
「お姉ちゃん!」
ネプギアの言葉に「えっ!?」と顔を見合わせる地球組の4人。
『………女………神…………?』
紫苑は呆然と呟く。
『女神様…………女神様だ!』
『女神様ぁ~!』
『パープルハート様!』
人々が歓声を上げる。
女神はゆっくりと地上に降りてきて紫苑の前に着地する。
その女神は視線を紫苑に向けると、
『よく頑張ったわ、シオン…………後は私に任せて………!』
その言葉遣いは正にクールで知的な女性をイメージさせる。
そうしてモンスター達を見据えて右手を前に翳すとその手に剣が現れ、その柄を握った。
そして次の瞬間、女神は猛スピードでモンスターにむかって飛ぶ。
『はぁあああああああああああっ!!』
モンスターを破竹の勢いで殲滅していく女神。
「えっと………ネプギアちゃん? もしかしてあれが………?」
楯無が呆然とネプギアに問いかける。
「あ、はい。あれが私のお姉ちゃんが女神化した姿です」
「……………プルちゃんとは別ベクトルで劇的ビフォーアフターね………」
思わすそう呟いた。
女神が現れてから、1分が経ったかどうかも分からない短い時間でモンスター達は全滅する。
女神は兵士たちに声を掛け、状況を聞いている様だ。
すると、彼女は紫苑に歩み寄り、
『私が来るまで貴方がモンスターと戦ってくれていたわね……………ありがとう。この国の女神としてお礼を言うわ。犠牲者が出なかったのは貴方のお陰よ』
そうお礼を言った。
しかし、
『俺は何も…………あなたが来なければ、きっと今頃……………』
紫苑はそう言って俯いてしまう。
『いいえ、それは違うわ』
彼女はハッキリと否定した。
その言葉に、紫苑は思わず顔を上げる。
『あなたがモンスターを食い止めていてくれたから、私は間に合った。あなたが居なかったら、もっと多くの犠牲者が出ていたかもしれないわ』
『そ、そんなことは……………』
紫苑はそれでも自分のしたことを認められなかったが、
『その証拠に、後ろを見てみなさい』
『えっ?』
紫苑はその言葉に振り返る。
するとそこには、先ほどの女の子がいた。
そして、
『お兄ちゃん、助けてくれてありがとう!』
笑顔を浮かべてそう言った。
『少なくともその子は間違いなく、あなたが護ったのよ』
『あ………………』
女神は優しい笑みを浮かべる。
『…………………………護れた………のか?』
『ええ』
『俺は………護ることが出来たのか?』
『間違いないわ。この国の女神である私が認めてあげる』
呆然と呟く紫苑に、女神はハッキリと頷いて見せる。
『…………………あ』
紫苑の瞳から涙が流れる。
『護れた…………護れたんだ…………!』
女神はそんな紫苑を優しい表情で見守る。
『今は存分に泣きなさい。その後であなたはきっと、立ち上がることが出来るから………』
その言葉を最後に、その映像が終わると、プラネテューヌの街並みだけが残った。
「あら? もう場面が切り替わらないのね?」
楯無がそう言う。
「多分ですけど、今の出来事が切っ掛けで、お兄ちゃんはプラネテューヌを自分の居場所だと認識したのかもしれません」
ネプギアがそう言った。
「じゃあ、この街の何処かに紫苑さんが?」
簪がそう言うと、
「多分ですけど………」
ネプギアは曖昧に返事を返す。
「ならば、早く探さねば!」
ラウラがそう言うと、
「大丈夫だよ~。シオン君の居場所なら~、多分あそこだから~」
そう言ってプルルートが指差したのは、この街の中央に位置する教会でもあるプラネタワー。
「あそこに、お兄ちゃんが………!」
翡翠が呟く。
「…………行きましょう!」
ネプギアの言葉に全員が頷いた。
第38話です。
予想以上に長くなったので2編に分けます。
とりあえず罠に引っかかって紫苑君大ピンチ編。
オマケにマジェコンヌ達も襲撃してきてさあ大変。
次回は一体どうなるのか!?
では本日のNGシーン。
電脳ダイブを実行した紫苑達は、何故か不思議の国のアリスをイメージさせる絵本の様な世界。
更には女性陣の格好が青いドレスに白のエプロンというまんまアリスの様な格好だった。
何故か紫苑だけはIS学園の制服のままだったが。
それで二足歩行の兎が目の前を横切っていったので追いかけたら7つのドアを見つける。
ご丁寧にこの場にいる人数と同じ数だ。
「何これ?」
「入れってこと?」
『多分………』
簪は自信なさげに呟く。
『この先は………多分、通信が途絶えるから………各自の判断でシステム中枢へ………』
「「「「「「「了解!」」」」」」」
ノイズ混じりのウインドウでそう言う簪に全員が揃って返事を返し、それぞれの扉を潜った。
そして、
【ハズレ】
と書かれた横断幕が掲げられた光景が、紫苑以外のメンバーの眼前にあった。
「「「「「「ムカッ!!」」」」」」
思わず青筋を立てた一同であった。