超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス 作:友(ユウ)
1年1組の生徒達がプラネテューヌに来て一晩が過ぎた。
イストワールに案内されたホテルで宿泊した千冬は、早朝に目を覚まし、顔を洗って服を着替えると個室の扉を開けて廊下に出る。
すると、丁度隣の部屋から真耶も扉から出てきた所であった。
「あ、織斑先生。おはようございます」
「おはよう山田先生。よく眠れたか?」
「え、ええ…………とても快眠出来ました………これと言って不自由は無く………といいますか、至れり尽くせりでしたね」
真耶は苦笑しながらそう言う。
本来なら見知らぬ場所で一夜を過ごすなどとんでもないストレスがかかりそうなものなのだが、それも考慮したイストワールによって全員が快適に過ごせる環境が整えられていた。
「まあ、確かにな………」
真耶の言葉に千冬も同意する。
「織斑先生は、これから何を?」
真耶がそう尋ねると、
「とりあえずは月影の所に行って今後の方針を固めるつもりだ。山田先生はそれまで生徒達の様子を確認しておいてくれ」
「分かりました」
千冬の言葉に真耶が頷く。
すると、
「教官!」
そう声がして千冬が振り返る。
千冬を教官と呼ぶ生徒は1人しかいない。
「教官と呼ぶなと何度も言っているだろう、ボーデヴィッヒ!」
振り返りながらそう言うと、そこには千冬の思った通りラウラが駆け寄ってくるところだった。
「失礼しました! おはようございます!」
背筋を伸ばして挨拶するラウラ。
その後ろにはシャルロットも居た。
「ん? デュノアも一緒か」
「おはようございます。織斑先生、山田先生」
シャルロットはお辞儀をしながらそう挨拶する。
「はい、おはようございます。デュノアさん、ボーデヴィッヒさん」
真耶が挨拶を返す。
すると、
「先ほどのお話が聞こえたのですが、織斑教諭は紫苑の所へ往くのですか?」
ラウラが千冬にそう問いかける。
「ああ。そのつもりだが………?」
「ならば私も同行してよろしいでしょうか?」
「あ、私も一緒です」
ラウラがそう言い、シャルロットも付け足す。
「ふむ…………?」
千冬は腕を組んで少し考える仕草をすると、
「ま、いいだろう。お前達なら月影も気を許しているからな」
紫苑と友好的な関係を築いている2人なら紫苑も気を良くするだろうと判断して了承した。
3人がホテルを出て昨日行ったプラネタワーの前に来ると、
「改めて見ると、本当に大きいね」
シャルロットがプラネタワーを見上げながら呟く。
「そうだな。地球でもこれほどの建築物は類を見ないからな」
ラウラもそう言う。
「何をしている? 行くぞ2人共」
千冬が2人を促す。
「「す、すみません!」」
2人は慌てて千冬の後を追いかけた。
「それにしても、月影君って所謂この国の重鎮なんだよね? 簡単に会えるのかな?」
ふと紫苑の立場を思い出したシャルロットがそう零した。
すると、
「あら………? あなた達は…………」
彼女達の後ろから声を掛けてくる者が居た。
3人が振り返ると、そこには茶髪の一部を緑のリボンで縛った女性と、桃色の髪をしたのほほんとした雰囲気を持つ女性が居た。
「あっ! あなた達は確か昨日月影君と一緒に居た………」
「アイエフよ」
「コンパですぅ~」
シャルロットの言葉に繋げるようにアイエフとコンパは自分の名を名乗る。
「おはようございます。昨日は助かりました」
千冬がそう言いながら頭を下げる。
「気にしなくていいわ。困ったときはお互い様よ。それよりも、昨夜はよく眠れたかしら?」
「ええ、お陰様で………快適な夜を過ごさせていただきました」
「なら、よかったですぅ~」
千冬の言葉にコンパが答える。
すると、
「ところで、皆さんはどうしてここに?」
コンパが首を傾げると、千冬は佇まいを直し、
「はい、月影に………いえ、月影殿にお会いしたいのですが………」
紫苑がこの国の重鎮だという事を思い出し、紫苑の名に敬称を付ける千冬。
「シオンに会いに来たの? いいわよ。私達もこれから行くところだし、一緒に行きましょう」
そういうアイエフ。
「感謝します」
「ああそれから、いくらシオンがこの国の守護者だからってそんな風に畏まる必要はないわ。シオンはそんな事気にしないだろうし、むしろ今まで通りに接した方がシオンも安心すると思うわ」
「ですぅ~!」
アイエフの言葉にコンパも頷く。
「そ、そうか…………」
仮にも重鎮であるはずの紫苑に対してフレンドリーな言葉を使う2人に千冬は若干調子を狂わされる。
「それじゃ、シオンの所に行きましょう」
アイエフとコンパに案内されて、3人はプラネタワーの中に入っていった。
5人がやってきたのは、正に偉い人の仕事場です、と言わんばかりな雰囲気を持つ扉の前。
シャルロットはその雰囲気にやや気後れするが、アイエフは構わずにその扉をノックした。
「シオン! 私よ! 入るわね!」
そう呼びかけながら返事も待たずに扉を開けるアイエフ。
するとそこには、書類の山が摘まれた執務机で書類を捌いていく紫苑の姿。
「ん? ああ、おはようアイエフ」
そう言う紫苑の目元にはうっすらと隈が出来ていた。
「す、凄い書類の量だね…………」
シャルロットは机の上に積まれた書類の山を見てそう漏らす。
だが、
「流石ねシオン。一晩であれだけあった書類をここまで片付けるなんて」
「はいいっ!?」
アイエフの言葉に耳を疑うシャルロット。
「予想より全然マシだ。一週間ぐらいは徹夜する覚悟で臨んだんだが1日の徹夜で終わりが見えてるからな」
「ま、ネプ子も苦手なりに一生懸命やってたからね」
「……………あいつが?」
アイエフの言葉に紫苑は驚愕の表情を浮かべる。
「それだけアンタが居なくなったことがショックだったってことよ。ネプ子が帰ってきたら、ちゃんと甘えさせてあげなさいよ」
アイエフは呆れた表情をしながらそう言った。
「………わかった。今までの埋め合わせはちゃんとする」
そう頷く紫苑。
それから視線を彼女の後ろにいる千冬達に移し、
「おはようございます。よく眠れましたか?」
そう言葉をかける。
「あ、ああ………お陰様でな」
「そう言えば昨日各国の女神達から連絡がありまして、朗報………と言っていいのかは分かりませんが、他のクラスの生徒達もそれぞれ保護されているそうです」
「そうか………他のクラスもこちらの世界に来てしまっていたか………」
千冬はがっかりしたような、それでいて安心したような声を漏らす。
「とりあえず一旦情報共有の為に専用機持ちを連れてこっちに来るそうなので、その時には織斑先生にも同席をお願いします。それとネプテューヌ………この国の女神も一緒に帰ってくるそうなのでその時には顔合わせをお願いします」
「わかった……………ところで、これからの生徒達の行動なのだが………」
紫苑の話が一段落したために、千冬は今回紫苑を尋ねた要件を話し始めた。
「はい、昨日言った通りこの街の中なら生徒達の行動に制限はつけません。まあ、常識的に考えて立ち入り禁止の場所はありますが、それ以外は日本とあまり変わらない行動で構いません。道に迷ったりしたら近くに居る衛兵に訊ねる………よりもこのプラネタワーを目印にした方が手っ取り早いですかね?」
紫苑はそう言いながら机の引き出しを開けるとカードの束を取り出す。
そして、それを千冬に差し出す。
「これが昨日言っていた生徒達が自由に使えるお金です。まあ、クレジットカードと考えておいてください」
「うむ、ありがたく頂戴する」
差し出されたカードの束を受け取る千冬。
「それで? 後ろの2人はどんな要件なんだ?」
紫苑はラウラとシャルロットにそう問いかける。
「私はお前の顔を見に来ただけだったのだが…………気が変わった。紫苑、私に手伝えることは無いか?」
ラウラがそう言うと、紫苑は軽く驚いた表情を見せる。
「せっかくゲイムギョウ界に来たんだし、みんなと一緒に見て回った方が良いんじゃないのか?」
紫苑がそう言うと、
「何を言っている? これからこの世界を見て回る時間などいくらでもあるだろう? それよりも今はお前の力になりたいと私は思っている」
その言葉を聞いて紫苑はハッとする。
ラウラは帰れる手段が見つかっても皆とは帰らず、この世界に残ると自分から言っているのだ。
紫苑はそんな大事な事に気付かなかった事を恥じた。
「そうか………なら、頼めるか?」
「任せろ。これでも部隊長だ。書類仕事も経験がある」
ラウラは自信を持ってそう言う。
「それで、シャルロットは?」
紫苑は最後の1人、シャルロットに視線を向ける。
「あの………私にも何か手伝えることは無いかな?」
シャルロットはそんな事を言った。
「いや、ラウラにも言ったが折角ゲイムギョウ界に来たんだ。見て回らないと損だろう?」
紫苑がそう言うと、
「だって、あんなに至れり尽くせりだと逆に落ち着かないって言うか………なんだか悪い気がして…………」
真面目なシャルロットにとって、今の状況は割に合わないので少しでも働いて返したいと言っているのだ。
「そんな事気にするなよ」
「気にするよ! しかも今織斑先生に渡したお金だって月影君のポケットマネーって言ったし!」
「これでもこの国の重鎮だぞ。その程度大した負担じゃない」
「そ・れ・で・も・だよ!」
そう言って食い下がるシャルロット。
紫苑はシャルロットの真面目さに溜息を吐き、
「そこまで言うなら少し手伝ってもらうか………」
そう言うとアイエフの方を向き、
「アイエフ。今あるクエストの中から適当なのを見繕ってシャルロットに宛がってくれ」
「いいけど………大丈夫なの?」
アイエフは心配そうにそう言うが、
「大丈夫だ。シャルロットはISの専用機を持っている。ISならモンスターの危険種相手でも1対1なら上手く戦えばそこまで苦戦せずに倒せるはずだ。流石に上位危険種になると厳しいだろうが、普通の雑魚モンスターなら問題ない。一応念のためにアイエフも同行してくれ」
「まあ、アンタが言うのなら大丈夫なんでしょうけど…………」
アイエフはシャルロットに向き直り、
「シャルロットって言ってたわよね。よろしくね」
「は、はい! よろしくお願いします! アイエフさん!」
シャルロットは頭を下げる。
「それでは私は生徒達に報告をしてくる。デュノア、お前も一旦来い」
「わかりました」
「じゃあ、私はその間にクエストを見繕ってくるわ」
それぞれが行動指針を決めて部屋を出る。
後には紫苑とラウラだけが残った。
「それじゃあこっちも始めるか。目標はネプテューヌが戻ってくる前に全部終わらせることだな」
「了解した」
2人は並んで書類へと向いた。
千冬はホールへと生徒達を集め、必要事項を説明する。
「基本的にこの街の中なら行動はほぼ自由だそうだ。日本と同じように過ごして貰って構わんらしい。ただし、最低限の人としてのマナーは守るように!」
千冬の言葉に生徒達はざわつく。
「尚、その自由行動の際に各自が自由に使える支給金をこれより配る。こちらの通貨として10000Bit。日本円で言えば数万円の価値だそうだ。どう使うかは個人の自由だが、すぐに使い切ってしまって後で泣き付いてきても知らんからな! そしてこの支給金は月影のポケットマネーから出ている! 各自、月影に感謝しておけよ!」
千冬がそう言ってカードを配り始める。
全員にカードが行き渡ったことを確認すると、
「予定とは大分異なってしまったが、見知らぬ国を見て回るのも良い刺激になるだろう。これから先は自由行動だが、念のために単独行動は避け、最低でも3人1組での行動を心掛けろ。では、解散!」
千冬は手を叩いて説明の終了を合図する。
とは言え、いくら自由行動とは言ってもいきなり見知らぬ場所に跳ばされたのだ。
外に向かうのは少数派だ。
しかし、
「行くよ! くーちゃん!!」
「束様! お待ちください!」
今まで我慢していたのか我先にと束が外へ飛び出していった。
それを唖然と見送る生徒達。
すると、
「シャルロット、お待たせ!」
アイエフが入り口の方からやってきてシャルロットに声を掛ける。
「アイエフさん!」
シャルロットもアイエフに歩み寄った。
「それじゃあ行きましょうか?」
「はい!」
シャルロットがアイエフと共に外へ行こうとすると、
「シャル、何処に行くんだ?」
一夏が話しかけてきた。
近くにはセシリアの姿もある。
「…………何もせずに保護されてるだけなのは月影君やこの国の人達に悪いからね。少しでもお返しが出来るように出来ることを紹介してもらったんだよ」
「出来ることって………何をするんだ?」
一夏は首を傾げる。
「簡単に言えば、モンスターの討伐やアイテムの採集ね。どっちにしろ街の外に行くから多少は腕に覚えが無いと危ないのよ。だから街の人達が必要な依頼………クエストを受けて、その目的であるモンスターを討伐したり、決められたアイテムや素材を持ってくると報酬を受け取ることが出来るのよ」
「モンスターの討伐………って! 何でシャルがそんな危険な事をするんだ!?」
アイエフの説明にまためんどくさい事になったとシャルロットは呆れた表情をする。
「言ったでしょ? ただ単に保護されてるだけなのは悪い気がするって…………」
「だけど、シャルがそんな事する必要なんて………!」
「確かに『必要』は無いよ。だけど、それを言ったらこの国も私達を保護する『必要』も『義務』も無いよね? この国が私達を保護してくれているのは『善意』からだよ。だから私も、私なりの『善意』で何かしようと思っただけ」
「それは………そうかもしれないけど………! そうだ! そんな『モンスター退治』なんて危ない事こそ力のある紫苑がやるべきことじゃないのか!?」
シャルロットの言葉に対し、一夏はそう言う。
「そりゃ『女神』クラスじゃないと敵わないモンスターが現れたり、大規模な群れが街を襲ったりしたらシオンに要請が行くわよ? だけど、こういった腕に覚えのある人間でもクリアできそうな依頼までシオンが受け持ったら、いくら守護者だからって体がもたないわよ」
アイエフがそう言う。
「う………だけど、シャルに頼むんなら紫苑が一緒に行くべきだろ?」
「だから私が代わりに頼まれたんでしょうが」
アイエフが後頭部を掻きながら呆れた表情で呟く。
アイエフは内心めんどくさい奴と愚痴を零していた。
「でも、あなたは女神でもなければ、ISも持ってないんでしょう?」
「そりゃそうだけど、このゲイムギョウ界の事については良く知ってるわよ」
「だけど………!」
一夏が尚食い下がろうとした時、
「織斑君。アイエフさんと会ってまだ1日しか経ってないけど、月影君がアイエフさんを信頼しているのは見てて良く分かったよ? 月影君が信頼してるアイエフさんを私に付けたって事は、それだけで月影君が私を心配してるって証拠だよね?」
シャルロットが横から口を挟む。
「でも、ISも持ってない女の人じゃ…………!」
一夏がそこまで言った瞬間、アイエフがカタールをコールし、一夏の首筋に突きつけた。
「ッ…………!」
「確かに私は女だし、女神であるネプ子やシオンには敵わないわ。だけどね、単なる一般人に心配されるほど落ちぶれてはいないつもりよ? これでも私、ネプ子に会うまでは1人でゲイムギョウ界を旅してたの。真っ向勝負じゃネプ子やシオンに敵わなくても、生き残る術ならあの2人よりも上だと自負出来るわ………!」
一夏の頬に冷や汗がたらりと流れる。
「あなたの言葉はシャルロットを心配しての事かもしれないけど、それも行き過ぎれば単なるお節介にしかならないわ」
アイエフはそう言いながらカタールを引く。
そのまま踵を返し、
「行きましょ、シャルロット」
「はい」
シャルロット共にその場を立ち去ろうとした。
すると、
「待ってくれ!」
一夏が再び2人を呼び止める。
いい加減しつこいと溜息を吐きながら振り返ると、
「俺も行く!」
予想外の事を言い放った。
「「え?」」
思わず声を漏らす2人。
「い、一夏さん!?」
近くに居たセシリアも声を上げる。
「2人だけで行かせるなんて心配だ。だから、俺も行く!」
一夏は自信満々にそう言う。
「一夏さん…………」
セシリアはそんな一夏の姿に感動しているが、
「どうするの…………?」
「私としてはついてきてほしくないんですけど…………」
アイエフとシャルロットが小声で話す。
「とは言っても、ここで断っても勝手について来そうな気がします」
「あ~………それなら最初っから付いてきてもらった方がまだマシか………」
「ですね」
2人の間でそうやり取りする。
すると、
「わたくしも行きますわ一夏さん!」
セシリアも立候補した。
「………あの子は大丈夫なの?」
「セシリアはまあ、大丈夫です。織斑君の事になると若干周りが見えなくなる節がありますが、彼女のIS操縦の腕は確かです」
「なるほど………」
その時、
「私もいいだろうか?」
別方向から2人に話しかける声がした。
そこには、
「箒?」
箒が立っていた。
「箒は何で………?」
シャルロットは疑問を口にする。
箒は以前一夏とは完全に絶交したのだ。
着いてくる理由が見当たらない。
すると、彼女はフッと笑い、
「私が友人を心配することがそんなにおかしいか?」
そう問いかけた。
彼女はシャルロットが心配で付いて来ると言っているのだ。
「……………ありがと、箒」
結局アイエフとシャルロットに加え、一夏、セシリア、箒の3人が合流して5人でクエストに向かう事になった。
5人がクエストの依頼の目的地である平原に来ていた。
「とりあえず初めてのクエストだから依頼は簡単なものをいくつか選んできたわ。1つはスライヌ10匹の討伐。2つ目はひこどり5匹。3つ目はチャイルドウルフ5匹。4つ目がシカベーダー10匹。5つ目がゴーストボーイとゴーストガール各5匹の討伐ね」
アイエフがそう説明する。
「何度も言ってるけど、今回はあくまでクエスト完了が目的よ。目標以外のモンスターには絶対に手を出さないで! あなた達にはまだ通常のモンスターと危険種以上のモンスターの区別はつかないでしょうから。逃げに徹すれば大概はやり過ごせるはずよ」
「「「はい!」」」
素直に返事を返す3人。
「それじゃ、早速だけど、討伐開始よ!」
アイエフが振り向いた先には4匹のスライヌの姿があった。
2時間後。
「ここっ!」
アイエフがカタールでシカベーダー2匹を纏めて切り裂く。
「逃がしませんわ!」
セシリアがレーザーライフルでひこどりを打ち抜く。
「甘いっ!」
箒が二刀流でゴーストボーイとゴーストガールをそれぞれ突き刺し。
「逃がさないよ!」
シャルロットがチャイルドウルフをアサルトライフルで牽制しながらショットガンで仕留める。
「こいつでラスト!」
一夏が雪片でスライヌを斬り付け、光の粒子に帰す。
すると、
「オーケー、全ての討伐の完了を確認したわ。小休止した後に帰りましょう」
アイエフが皆にそう呼びかける。
それぞれが頷き、休憩を取っていると、
「ん?」
一夏が岩陰にいる何かに気付いた。
気になった一夏がそこを覗くと、
「…………………(カクカク)」
ナスに埴輪の顔と手足を付けたようなモンスターが居た。
「……………何だコイツ?」
その大きさは一夏の腰よりも低く、埴輪の様な顔とカクカクとした動きも相まって、一夏にはそのモンスターがスライム並みに弱いモンスターに見えた。
「………………モンスターって事は一応討伐しておいた方が良いんだよな?」
一夏は自問自答する様に呟くと雪片をゆっくりと振りかぶる。
今までのモンスターが殆ど手応えが無かったので、このモンスターも同じだと思い込んだ。
故に忘れてしまった。
討伐を始める前にアイエフに注意されていたことを。
目標のモンスター以外には、絶対に手を出すなと言われていたことを。
一夏は余裕の表情でそのモンスターに雪片を振り下ろした。
そして、
「ぐはっ!?」
予想外の衝撃を受けた一夏は堪らず吹き飛び、岩に叩きつけられる。
「な、何!?」
「い、一夏さん!?」
アイエフとセシリアが声を上げる。
セシリアが一夏に駆け寄り、アイエフは一夏が吹き飛んできた方向を警戒する。
「う、うぐぐ…………」
一夏は身動ぎしながら身を起こそうとするが、胸部装甲が大きく破損しており、今の一撃の威力を物語っていた。
アイエフが注視する先に、一夏を吹き飛ばした元凶が姿を見せる。
アイエフはその姿を確認すると、
「ナースビンダーじゃない! イチカ、あいつに手を出したわね!?」
アイエフが切羽詰まった表情で叫ぶ。
「アイエフさん! あいつは!?」
シャルロットが両手にライフルを展開しながら訊ねる。
「あいつは見た目があんなのだから勘違いしそうだけど、あいつは危険種を超えるモンスター、上位危険種よ!」
アイエフはカタールを構えながらそう言うが、その頬には冷や汗が流れている。
「アンタ達………隙を見て逃げなさい………!」
「アイエフさん!? 何を!?」
「私が殿を務めるわ! あなた達は先に逃げて!」
「そ、そんな事出来る訳………!」
一夏が身を起こしながらそう言うが、
「わかりました!」
一夏の言葉に被せる様にシャルロットが頷いた。
「シャル!?」
「織斑君………! 君はアイエフさんに再三と言われていたにも関わらず、目標以外のモンスターに手を出したんでしょ? それがこの結果だよ」
「そ、それは………あんな奴がここまで強いなんて思わなかったから…………」
一夏は言い訳がましくそう言うが、
「それに付いてもアイエフさんが言ってたよ! 私達にはまだ通常のモンスターと危険種以上のモンスターの区別はつかないって! それを無視して手を出した織斑君の責任だよ」
「だ、だったら、尚更俺があいつを倒さないと…………!」
「まだそんな事言ってるの? 君はいい加減自分と相手の実力差を推し量れるようになるべきだよ! ハッキリ言うけど、君じゃ到底あのモンスターには敵わない。多分、この場の全員で掛かって勝てる可能性がある、程度だよ」
「可能性があるなら皆で戦うべきだろう!?」
「私達がここで逃げた方が全員が生き残れる可能性が高いって事に気付かないの!?」
何度も食い下がる一夏にシャルロットも声を荒げる。
「アイエフさんも言ってたじゃないか! 生き残る術には自信があるって!」
そう言うシャルロットの後ろではアイエフがナースビンダーと戦闘を開始していた。
モンスターの攻撃をよく見て躱し、反撃にカタールで斬りつける。
「アンタ達!? いい加減ごちゃごちゃ言ってないで早く逃げてくれないかしら!? 結構ギリギリなのよ!」
アイエフが思わず振り返ってそう言った。
その瞬間攻撃を加えようとするナースビンダー。
「アイエフさん! 危ない!?」
シャルロットが叫ぶ。
「くっ!? きゃぁあああああっ!?」
アイエフは咄嗟に両手のカタールで防御するが、そのカタールが砕かれ、粒子となって消滅する。
そのままアイエフは吹き飛ばされて地面を転がった。
「アイエフさん!!」
地面に倒れるアイエフにナースビンダーが駆け寄っていく。
止めを刺すつもりなのだろう。
「アイエフさん! 逃げて!」
箒が叫ぶが、アイエフはダメージから立ち上がれない。
「ううっ………!」
アイエフが身動ぎしながら目を開けた時、ナースビンダーは目前まで迫っていた。
そのままナースビンダーは強力な蹴りをアイエフへ叩き込んだ。
その瞬間、時間が止まった様に感じる一同。
だが、
「………………(カクッ)!?」
驚いたように体を震わせるナースビンダー。
何故なら、その蹴りはアイエフへは届いておらず、紫の輝きを持つ刃に止められていたからだ。
そして、その刃を持つ者は、
「あいちゃん! 大丈夫!?」
「ネ、ネプ子…………!?」
プラネテューヌの女神ネプテューヌことパープルハートであった。
パープルハートはモンスターを睨み付ける。
「よくもあいちゃんを痛めつけてくれたわね! 絶対に許しはしないわ!」
パープルハートは背中の光の翼で前に飛翔すると同時に刀剣を振りかぶる。
「クロスコンビネーション!!」
必殺の連撃がナースビンダーに叩き込まれ、ナースビンダーは消滅する。
「すごい………あのモンスターを一瞬で………」
シャルロットは呆けた様に声を漏らす。
「あいちゃん、大丈夫?」
パープルハートは改めてアイエフに歩み寄る。
「ええ……大丈夫よ。少し擦り剝いただけ」
アイエフはそう言いながら自分の足で立ち上がり、大きなケガが無いことをアピールする。
「そう、良かった」
パープルハートはホッとした表情で頷く。
するとシャルロット達の方を向き、
「あなた達も大丈夫だった?」
「は、はい………あの、あなたは………?」
シャルロットが呆けながら問いかける。
「私はネプテューヌ。プラネテューヌの女神よ」
パープルハートはそう名乗る。
「ネプテューヌ……………そ、それじゃああなたが月影君の………!」
その名前に聞き覚えのあったシャルロットは思わず声を上げる。
「シオンを知っているって事は、あなた達がIS学園って所の生徒さんね?」
「は、はい………」
パープルハートの言葉にシャルロットは頷く。
「そう、いきなり知らない所に来て、大変だったわね」
「い、いえ………」
「多分、シオンも同じことを言ったでしょうけど、改めて約束するわ」
「えっ?」
「あなた達が帰る方法は、私達が必ず見つけてあげる。そして、その間の生活も保障するわ。女神の名において誓うわ」
堂々とそう言うパープルハート。
その姿に思わず釘付けになるシャルロット。
しかしそのすぐ横で、
「あ…………ああ…………」
パープルハートを熱の籠った視線で見つめながら頬を赤くしているものが居たことには誰も気付かなかった。
第45話の完成。
いやあ、一夏君やらかしてしまいました。
見た目でナースビンダーに斬りかかってあっさりと返り討ち。
因みに自分も初めてこいつに戦いを挑んだ時はあっさりと返り討ちになりました。(余裕ぶっこいて通常攻撃連打してたら普通に力負けしました。その後、全力で戦って辛くも勝利)
見た目の割には強いんですコイツ。(レベル上げをせずに普通にゲームをプレイしていた場合)
あいちゃんのピンチに駆け付けたのはやはり我らが主人公ネプテューヌ(この物語ではヒロインだが)
あっさりとモンスターを蹴散らしましたが不穏な視線が…………
ともかくやや中途半端でしたが次もお楽しみに。
本日のNGシーンはお休みします。