超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス 作:友(ユウ)
1年に渡って雪に覆われる国、『ルウィー』。
女神の住居であり、教会である館の一室。
朝日が差し込むそこで、少年…………一夏は目を覚ました。
一夏がこの国の女神、ブランの守護者になってから半年。
一夏がゲイムギョウ界に来て2年が経とうとしていた。
目を覚ました一夏の視界に一番に入ってきたのは、
「…………ん…………」
栗色の髪に幼い顔立ち。
彼が一番愛しく思うこの国の女神のあどけない寝顔。
因みに彼女は一糸纏わぬ姿だったりする。
更に、
「…………んんっ…………!」
一夏の背後でもぞもぞと身動ぎする水色の髪の長い女性。
彼女は西沢 ミナ。
ルウィーの教祖である。
尚、彼女も一糸纏わぬ姿で気持ちよさそうに眠っている。
この光景を見れば、3〇をしたと思うだろうがそうでは無い。
先程からベッドの近くで身なりを整えていた女性がもう一人。
その女性が身なりを整え終えてくるりと振り向く。
その女性が身に纏うのはメイド服。
そのスカートがふわりと翻ると共にセミロングの栗色の髪も翻る。
茶色の瞳で一夏を見つめ、
「おはようございます。旦那様♪」
「ああ、おはよう。フィナンシェ」
花の様な笑顔で挨拶をしたのはブランの侍女であるフィナンシェ。
因みに彼女もつい先ほどまで一夏達と同じベッドで床を共にしていた。
まあ要は昨晩は、3〇ではなく4〇をしていたという事だ。
ゲイムギョウ界は何故か女性の出生率の方が高いため、重婚が認められている。
ブランは一夏が守護者になった時に。
ミナとフィナンシェは、そのすぐ後に一夏に想いを打ち明けた。
頑張っている一夏をずっと支えて行きたいと。
当初、日本の法律で一夫一妻が当然だと思っていた一夏は困惑した。
ゲイムギョウ界で生きていく決意をしたとはいえ、幼いころから染みついた風習は中々変えることは出来ない。
ブラン一筋で生きていこうと思っていた一夏は当然ながら断ろうとした。
だが、それに待ったをかけたのは他ならないブランだった。
『私を想ってくれるのは嬉しい…………だけど、2人の想いともちゃんと向き合って欲しい………』
―――と。
一夏は悩んだ。
同じ守護者である紫苑に相談したりもした。
紫苑の言葉は、
『…………いいんじゃねえの?』
だった。
その言葉に一夏はポカンとした。
同じ日本出身の紫苑があっさりと重婚を認めた事に呆気にとられたのだ。
それから紫苑は続けて言った。
『郷に入らば郷に従え………って訳じゃないけど、その2人を受け入れたとして、何か不都合でもあるのか?』
『要は自分の気持ちだろ? お前がどうしてもその2人を受け入れたくないって言うのなら仕方ないし、好きでもないのに付き合うのは逆にその2人に失礼だしな』
『お前はその2人をどう思ってるんだ? ずっと傍に居て欲しいのか? 居て欲しくないのか?』
それから一夏は自分が思う限り考え抜いた。
そして考え抜いた結果出した答えは2人を受け入れる事だった。
それからはずっと4人で仲良くやってきている。
そして、これは誰も予想だにしていなかったことだが、ミナとフィナンシェが一夏と結ばれた時、2人は『戦姫』という存在になった。
その『戦姫』についてプラネテューヌの教祖であるイストワールにに3日掛けて調べてもらった所、『戦姫』とは女神に認められた女性が守護者と結ばれた時になり得るもので、女神や守護者の8割ほどの力を有し、守護者の『剣』となる存在。
同時に生命も共有しているため、寿命も無くなり、女神や守護者が命を失えば戦姫も同じく命を失ってしまうが、その逆は無い。
一夏は計らずとも、2人をまるで守護者の都合のいい道具の様な存在に変えてしまった事に苦悩したが、2人はむしろ喜んでいた。
これでずっと一夏やブランの傍に居られる、と。
力を得た事で一夏やブランのクエストにも付き合うようになり、4人の絆は益々深まった。
そのまま今日という日を迎えたのだ。
すると、フィナンシェの声でブランとミナが目を覚ます。
「おはようございます。ブラン様、ミナ様」
フィナンシェは礼儀正しく礼をしながら挨拶をする。
「おはよう、2人とも!」
一夏も元気よく挨拶した。
「ん………おはよう………」
ブランは寝ぼけ目を擦りながら、
「ふわぁ………おはようございます。ブラン様、イチカさん、フィナンシェさん」
ミナは一度欠伸をした後にすぐにシャキッとして挨拶をした。
「はい。本日はプラネテューヌのネプテューヌ様、シオン様、ネプギア様と共に、国境近くにある遺跡に現れたモンスターの討伐クエストの共同攻略の予定が入っております。お忘れなきよう」
「ん………覚えてる…………」
ブランはそう言いながら起き出す。
「では、私は朝食の御用意をさせていただきます」
フィナンシェはそう言いながら部屋を出て行った。
その後着替えた3人が食堂へ行くと、
「お姉ちゃん! お兄ちゃん! おはよう!」
「おはよう、お姉ちゃん、お兄ちゃん」
ブランの妹で女神候補生であるラムとロムが駆け寄ってくる。
「ロム、ラム、おはよう……」
「おはよう! ロム、ラム!」
ブランは静かに、一夏は2人に応えるように元気よく挨拶する。
そのまま席に着き、食事を始める一同。
「それじゃあ、今日はミナとフィナンシェは教会に残るのね?」
「はい、少し『教祖』としての仕事が溜まっておりまして…………」
「私も、少々仕事が…………」
ミナとフィナンシェはそう言う。
「ん、大丈夫よ。私とイチカが居れば問題ないわ」
ブランは自信を持って言う。
「お2人の事は信じております。ですが、油断なさりませんよう」
「大丈夫だよ。今日も無事に帰ってくるさ」
一夏は2人を安心させるようにそう言った。
食事が終わり、一夏とブラン、ロムとラムは教会の庭へと出る。
「それじゃあ………」
ブランが呟くと光に包まれる。
すると、白いボディースーツを身に纏い、水色の髪と赤い瞳に変化した女神ホワイトハートへと変身した。
「行くぜ! お前ら!」
口調は荒くなり、変身前の大人しい口調とは似ても似つかない。
しかし、変身前でも激怒すると口調が荒くなるため、まるっきり変わったとも言い切れない。
「ロムちゃん! 私達も!」
「うん、ラムちゃん!」
2人は光に包まれると、白色にピンクのラインが入ったボディースーツに身を包み、ロムは水色の髪にピンクの瞳に。
ラムは反対にピンクの髪に水色の瞳へと変化した。
最後に一夏が前に手を翳すと、
「シェアリンク!」
その言葉と共に一夏とブランのリンクが強まり、一夏の右手に光が集まっていく。
その光が形を成し、中央の芯が黒、その周りが青、そして水晶のように半透明の刃を持った一夏の身を超える大剣となる。
一夏はそれを握ると、
「シェアライズ!!」
その剣を空へと投げ放つ。
その剣は一直線に空へと向かうがその途中で突如反転。
一夏へ向かって突き進んでくる。
一夏は両手を広げてその身に受け入れる様に大剣に貫かれた。
すると、一夏の体が光を放つ。
160cm程度だった一夏の身長が175cmほどに成長し、その瞳に女神の証が浮かび上がる。
金色の縁取りがされたコートを纏い、同じく金色の縁取りがされたプロテクターが足、腕、体に装着される。
更に後頭部から側頭部にかけてをガードする様に非固定部位の装甲が浮いており、両脇にも大きな盾の様な非固定部位が浮遊している。
「シャドウナイト! 変身完了!!」
闇の力を使える騎士、『シャドウナイト』へと変身した。
4人は空へと飛び立つと、目的地へ向かって飛翔した。
目的地には、既にパープルハートとバーニングナイト、ネプギアが待っていた。
4人が合流すると、報告のあった遺跡へと入っていく。
道すがらモンスターが出てきたのだが、女神の力を持つ7人に敵うはずもなく、全て一蹴されていた。
「念のためにこれだけの人数で来たけど、どうやら必要無かったみたいね」
パープルハートがモンスターが消えるのを確認しながらそう呟く。
「だが、油断は大敵だ」
バーニングナイトが嗜めるようにそう言う。
「分かってる。油断はしないわ」
「うん、もちろんだよ!」
パープルハートとネプギアが頷く。
「つっても、大したことないモンスターばっかだけどな!」
ホワイトハートが、モンスターが新たに出てきたと同時に戦斧で真っ二つにする。
「楽勝よ!」
「うん、らくしょー!」
ラムとロムも余裕モードだ。
だが、最深部にある部屋に入った時、
「ん?」
シャドウナイトが何かに気付く。
「グルルル……………」
暗闇の奥で何かが唸り声を漏らした。
「………エンシェントドラゴンか!」
エンシェントドラゴンはゲイムギョウ界のモンスターの中でもそれなりの力を持っており、普通の人間では荷が重い相手だ。
しかし、
「導いてやる…………!」
シャドウナイトが大剣を構え、切っ先をエンシェントドラゴンに向ける。
そのまま一直線にエンシェントドラゴンに向かって行き、
「導!!」
そのまま真っすぐ大剣を突き出した。
切っ先がエンシェントドラゴンに突き刺さり、一瞬遅れて衝撃がエンシェントドラゴンの巨体を吹き飛ばした。
エンシェントドラゴンはそのまま壁に激突すると、光となって消滅する。
それを見届けると、
「腕を上げたな、一夏」
バーニングナイトがシャドウナイトへそう声を掛ける。
シャドウナイトがバーニングナイトに向き直ると、
「一撃の威力なら、既に俺を超えているな」
「よく言うぜ。今のぐらいならあっさりと受け流すくせによ」
バーニングナイトの言葉にシャドウナイトはそう言い返す。
「確かにその通りよね。戦いって言うのは一撃の威力で決まるわけじゃないし」
その言葉に同意したのはパープルハート。
すると、
「何言ってやがる!? 少なくとも相手の防御力を貫けなきゃ勝負には勝てねえ! 一撃の威力は重要だ!」
ホワイトハートがそう反論する。
「だけど、シオンとイチカじゃここ一ヶ月でも8:2でシオンが勝ち越してるのよ」
パープルハートはフフンと勝ち誇った表情をする。
その言葉を聞くとホワイトハートはムッとして、
「確かに結果から見ればそーかもしれねーけどよ、全く勝てなかった時期から考えればたった1年でイチカは勝率をそこまで引き上げたんだぜ。もう数年もすればイチカが勝つ!」
「確かに今は伸び盛りかもしれないけど、強くなればなるほど成長は難しくなるわ。頭打ちにならなければいいけどね」
パープルハートも負けじと言い返す。
そんな両者を苦笑いで見つめる妹達。
更に同じように眺めるバーニングナイトとシャドウナイト。
「毎回同じようなネタで喧嘩しないで欲しいんだがな…………」
「まあ、これはあれだ。喧嘩するほど仲がいいって奴」
「確かにな………」
彼らが見つめる2人には険悪さは感じられない。
その時だった。
先程シャドウナイトが吹き飛ばしたエンシェントドラゴンが壁に激突した際、罅の入った壁の一部が崩れ、振動が部屋の中に広がる。
すると、その拍子に何かの装置が作動したのか部屋の所々に光が灯る。
更に光が繋がり、丁度バーニングナイトとシャドウナイトの居た足元に魔法陣の様なものを描き出した。
「ッ!? イチカ! 離れるぞ!」
「あ、ああ!」
嫌な予感がした2人は咄嗟にその場を飛び退く。
だが、魔法陣の上でバチバチと電流の様なものが奔ると、そこに黒い空間の穴が発生した。
「「ッ!?」」
2人は更に離れようとしたが、その穴はブラックホールのように周囲の物を吸引し始めた。
その吸引力は強く、飛んで離れようとすれば即座に呑み込まれるほどのモノだ。
紫苑と一夏はその場に剣を突き刺して吸引力に耐えようとする。
「シオン!」
「イチカ!」
「「「お兄ちゃん!」」」
パープルハートとホワイトハート、女神候補生の3人は悲鳴のような声を上げる。
5人は空間の穴からある程度離れていたので何とか吸引力には耐えられていた。
5人はバーニングナイトとシャドウナイトを助けるために行動を起こそうとして、
「来るなっ!!」
バーニングナイトの怒鳴るような声に思わず足を止めた。
「俺達なら大丈夫だ!」
シャドウナイトもそう言う。
「で、でも………!」
今にも吸い込まれそうな2人にパープルハートは心配そうな表情をしている。
2人が床に突き刺した剣も徐々に抜けてきている。
剣が抜けるまであと僅かとなった時、
「ネプテューヌ!」
「ブラン!」
2人はそれぞれの女神に声を掛けた。
「「……………必ず戻る!」」
真剣な表情で、真っ直ぐそれぞれの瞳を見てそう言い放った。
パープルハートは今にも飛び出しそうな気持ちを堪え、
「…………絶対よ!」
「約束する!」
その言葉に即答するバーニングナイト。
「…………待ってるからな!」
「ああ!」
ホワイトハートの言葉にも迷いなく頷くシャドウナイト。
そして遂に剣が抜けるその瞬間、
「ッ! そうだ!」
ネプギアが何か閃いたようにハッとすると、
「お兄ちゃん! これを!」
インベントリから小型端末であるNギアを取り出すと、バーニングナイトに向かって放り投げる。
空間の穴の吸引力に惹かれながら向かってくるそれを、バーニングナイトは片手を伸ばして掴み取った。
それと同時に剣が抜け、空間の穴に吸い込まれる2人。
「シオン!!」
「イチカ!!」
「「「お兄ちゃん!!」」」
それぞれの名を叫ぶ5人。
すると、その穴はまるで役目を終えたかのように小さくなり、消え去った。
―――某所。
無人島であるその島の地下。
そこに秘密の研究所を作った1人の女性がコンピュータを構っていた。
すると突然手を止め、ガッカリしたように椅子の背もたれに身体を預ける。
「ここにもいない……………」
そう呟く女性。
その女性の名は篠ノ之 束。
ISを開発した張本人であり、世界屈指の大天才だ。
しかしその頭脳を狙い、世界各国から追われる身の為にこうして身を隠しながら研究を続け、同時にある1人の行方を追っていた。
その者は束の友人である織斑 千冬の弟で、2年ほど前に誘拐され、そのまま行方不明になってしまった
当時、千冬はISの世界大会である第二回モンドグロッソに出場しており、弟である織斑 一夏と織斑
千冬は2人の応援に応えるように勝ち進んでいき、見事優勝した。
だがその試合の後、一夏の姿が無いことに千冬は気付く。
春万に聞けば、決勝戦の前から姿が見えなかったという。
春万はどうせ迷っているのだろうと気にはしていなかった。
だが、いくら探しても一夏は見つからず、場内放送で呼びかけても一向に姿を現さなかった。
ただ事ではないと感じた千冬はドイツ軍から一夏が誘拐された可能性があるとの情報を得た。
ドイツ軍の協力を得た千冬は一夏が誘拐されたと思われる場所を特定。
すぐにその場に向かったが既にその場はもぬけの殻。
しかし、ドイツ軍が犯人グループを見つけ、大半の逮捕に成功した。
千冬は一夏の所在を聞き出そうとするが、犯人達は突然消えただの黒い穴に呑み込まれただのと訳の分からないことを言うだけで一夏の足取りは掴めなかった。
尚、その際に犯人グループが千冬に決勝戦を棄権させるために一夏、もしくは春万を人質に取ろうとしていたことを知り、一夏が攫われた事を知りながら黙っていた日本政府の役員達を顔が変形する程にボコボコにした。
ドイツ軍の協力を得る代わりに教官の任を引き受けた千冬から捜索を頼まれた束はこの2年間ずっと一夏の行方を追っていたが未だに成果はゼロ。
血痕1つ見つかっていない。
まるで、この世界から突然消えた様に……………
「………………いっくん」
束はポツリと一夏の愛称を呟く。
束は一夏の事を気に入っていた。
もう1人春万という双子の弟もいるが、そちらは束は好きになれなかった。
確かに春万は天才で、自分に匹敵、もしくはそれ以上の才能の持ち主だと感じていた。
しかし、才能に反比例して性格に問題があった。
千冬の前では良い子ちゃんぶっているが、その実周りの人間を見下しまくっている。
一夏も例に漏れず見下される対象だ。
いや、一夏はもっとひどい。
ISで世界一位になるほどの千冬の弟。
それだけでも世間はいやおうなしに期待する。
運が悪い事に、春万にはその期待に応えるだけの…………
いや、期待以上に応えられる才能があった。
しかし、一夏にはそれだけの才能は無かった。
いや、一般人から見て優秀だと言える才能はあった。
しかし、世界一の姉と100年に1人の天才の弟。
それらと比べられ、一夏は落ちこぼれのレッテルを張られた。
世間からは冷たい眼で見られ、罵声を浴びせる者もいた。
しかし、一夏は期待に応えようと努力していた。
自分が出来ることを必死に磨いた。
しかし、その努力を打ち砕いたのが双子の弟の春万の才能。
全く努力しない彼は、一夏の全てを上回り、彼の努力を無に返した。
だがそれでも…………一夏は努力を続けていた。
いつか認められることを信じて。
そんな一夏にも数は少ないが味方と言える友人は居た。
その友人たちは、今も一夏の無事を祈っている。
ニュースで一夏の行方不明を知った束の妹もその1人だ。
「……………よしっと!」
束は気を取り直し、一夏の捜索を再開しようと再びモニターに目を向けた時だった。
ピー、ピーっとコンピューターが異変を知らせるアラームが鳴る。
「ん? 何だろ?」
束はモニターを切り替える。
異変を知らせたのは束が気分転換に発明した空間観測用のレーダーだ。
「何これ!? こんな反応初めて!」
モニターを見た束が驚愕する。
観測器が今までにない反応を示していた。
束が驚いていると、
「束様、どうされたのですか?」
束の後ろから声が掛けられた。
「あっ、くーちゃん! スーちゃんにオーちゃん! マーちゃんも!」
後ろにいたのは4人。
「スーちゃん、オーちゃん、マーちゃん! すぐに出撃準備して! くーちゃんは状況が分かるまでこの場を離れないで!」
束はそう指示すると、『緊急出撃用エレベーター』と書かれた扉を開けて中に飛び込む。
「ほら! 3人とも早く!」
「お、おい! ちょっとぐらい説明を………!」
オーちゃんと呼ばれた女性が説明を求めるが、
「あの焦り様はただ事じゃないわね。行くわよ、オータム、マドカ」
「………了解した」
「…………スコールがそう言うなら………」
スコールと呼ばれた金髪の女性がそう言うと、3人は束が飛び込んだエレベーターに乗る。
すると扉が閉まり、エレベーターがかなりのスピードで上昇を始めた。割と地下深くにいたにも関わらず、十数秒で地上に到達するエレベーター。
岩に偽装された出入り口から出てくると、それぞれがISを展開し、反応があった場所へ向かった。
無人島の海岸線。
そこにある砂浜に黒い空間の穴が発生した。
そこに吐き出されるように出てくる2人の人影。
「おっと………」
「どわっぷ!?」
その1人、紫苑は冷静に状況を判断し、無事に足から着地するが、もう1人である一夏は体勢が悪かったことも相まって顔面から砂浜に突っ込んだ。
「ぺっぺ! 砂が口に………!」
一夏は砂を吐き出しながら立ち上がる。
「ここはどこだ…………?」
紫苑は辺りを見渡す。
時間は夕暮れ時で、日が傾いている。
もしかしたら明け方かもしれないが。
夕暮れ時なら時間のズレは無さそうだ。
「…………とりあえずさっきまでいた場所じゃないことは確かだな」
目の前に広がる大海原を眺めながら一夏が言う。
「……………いつの間にか変身も解けてるし」
「ッ!? ブランとのリンクが…………!?」
紫苑の言葉に一夏がブランとのリンクが感じられないことに気付く。
「良く感じて見ろ。僅かだがリンクは繋がってる」
紫苑の言葉に一夏がより深くリンクを感じ取ろうとすると、紫苑の言う通りほんの僅かだがリンクが繋がっていることを感じ取れた。
一先ずホッとする一夏。
すると、
「っと、そうだ。 ネプギアから渡されたNギアで………」
紫苑がネプギアから投げ渡され、ずっと手に持っていたNギアに気付く。
とりあえず通信で連絡を取ろうとするが、
「………………駄目だ。繋がらない」
ややがっかりした表情で紫苑が言う。
「Nギアでもダメか…………」
一夏も残念そうに呟く。
「とりあえず一度辺りを散策しよう。少なくとも寝床を確保しないと…………」
と、紫苑がそこまで言いかけた所で、
「「ッ!?」」
2人同時に近付いてくる気配に気付く。
それと同時に紫苑は刀を。
一夏は大剣をインベントリからコールして構えた。
「っと、インベントリは問題なく使えるようだな」
余りに自然にコールしたので気付くのが少し遅れる。
しかし、気配はどんどん近付いてくる。
すると、向こうもこちらに気付いたのか、動きに慎重さが見られた。
こちらを伺う動きに変わる。
「「………………………」」
紫苑と一夏は頷き合う。
すると、
「そこにいるのは誰だ!? 争う気が無いなら出てきてくれ!!」
一夏がそう呼びかける。
すると、
「ちょ!? 今の声ってまさか!?」
女性の声が聞こえて茂みがガサガサと揺れる。
それと同時に紫苑が最大限に警戒を高めた。
そして、その声の主が顔を出す。
その女性は長い髪に機械のうさ耳のような飾りを付けた、エプロンドレスのような服を着た女性。
その女性は一夏と目が合うと、
「………………いっくん?」
そう呼びかけた。
「………………………………………束さん?」
一夏が呆気にとられた表情で聞き返した。
その瞬間、
「いっく~~~~~~~~~ん!!!」
その女性が一気に飛び出し、一夏に抱き着いた。
「いっくん! いっくん!! いっく~~~ん!!!」
何度も一夏に呼びかけながら頬ずりする女性。
「うわっ!? ちょ!? 束さん! 落ち着いて!?」
激しいスキンシップにタジタジになる一夏。
因みに紫苑はその光景を眺めながらも他にこちらを伺っている3つの気配に警戒を割いていた。
「……………で? 一夏。 その人は知り合いか?」
一旦落ち着いたところで紫苑は一夏に問いかける。
「あ、ああ。こっちは篠ノ之 束さん。 ISの生みの親だよ」
その言葉を聞くと、紫苑はピクリと反応し、左手に握っていた鞘を強く握りしめる。
「落ち着いてくれ紫苑! 前にも言ったけど、束さんは決してあんなことをする人じゃない!」
紫苑の殺気に気付いた一夏が紫苑に呼びかける。
「……………いっくん、この子は?」
「こっちは月影 紫苑。俺の親友です」
「………………」
一夏は束に紫苑を紹介するが紫苑は黙って束を睨み付ける。
「月………影………………?」
だが、束は呆然としたように紫苑の名字を口に出した。
「も、もしかして…………白騎士事件で犠牲になった月影夫妻の…………!?」
更にそう問いかける束。
「その通りです」
その言葉に頷いたのは一夏だ。
その瞬間、
「ごめんっ!!!」
束は物凄い勢いで頭を下げた。
「!?」
紫苑も呆気に取られて反応が返せない。
「ゴメンね…………! 君の両親を助けられなくてごめんねっ……………!!」
束は泣きそうな声色で謝罪を口にしながら頭を下げ続ける。
「………………………はぁ~、とりあえず頭を上げてくれ」
束の行動に毒気を抜かれた紫苑は大きく溜息を吐いた後にそう言う。
頭を上げる束。
「言っただろ? 束さんは研究に没頭してるときは他人を蔑ろにしがちだけど、根は悪い人じゃないって」
一夏は紫苑にそう言う。
「まあ、極悪人じゃないのは理解した。ただ、その先の話は聞いてから判断する」
紫苑は白騎士事件の真相を話すように促す。
「その………信じられないかもしれないけど、軍事施設をハッキングしてミサイルを発射したのは私じゃない……………」
「ッ………………」
その言葉に僅かに反応する紫苑。
「私はハッキングにいち早く気付いて止めようとしたけど間に合わなかった。そこで完成してた白騎士を使ってミサイルを撃ち落とすことにしたの……………ちーちゃんも頑張って、何とか大部分は撃墜できたんだけど……………一発だけ………たった一発だけ撃ち漏らしちゃって……………」
泣きそうな震える声で説明をする束。
「…………………………」
紫苑は黙って束を見つめる。
「信じられないのは分かってる…………! 信じてくれなくてもいい………! でも、せめて謝らせて………! 本当にごめんなさい………!」
再び頭を下げる束。
「紫苑! 俺からも頼む! 束さんを信じてやってくれ!」
一夏も揃って頭を下げだした。
すると、紫苑は持っていた刀を上げると、まるで気持ちを抑える様に強く唾を鳴らして納刀した。
「正直、俺にはアンタの言葉が嘘か本当かは分からない…………」
「……………………」
紫苑の言葉に束は黙って頭を下げ続ける。
「けど、一夏に免じて真偽がハッキリするまではアンタを恨むのは止めにする」
「えっ?」
束は驚いた表情で顔を上げる。
「少なくとも謝罪は受け取ろう。その言葉は本気だと判断できる」
「………………ありがとう」
束は微笑む。
「…………ところで、話は変わるがさっきからこっちを伺ってる3人はアンタの仲間か?」
紫苑は先程から感じる3つの気配の事について尋ねる。
その言葉に束はハッとして。
「そうだった! ごめん、スーちゃん、オーちゃん、マーちゃん! この子達は大丈夫だから出てきて!」
束の言葉が切っ掛けで3つの気配が動き出し、3人の前に姿を現す。
1人は金髪の女性。
もう1人はオレンジの髪の女性。
最後は黒髪の少女。
だが、最後の少女の姿を見た時、一夏が驚愕した。
「えっ!? 千冬……姉………?」
何故ならその少女の顔は一夏の姉である千冬に瓜二つだったからだ。
「………………織斑…………一夏……………!」
その少女は怒りの籠った瞳で一夏を睨み付ける。
「…………君は誰だ? 何で千冬姉と同じ顔をしてるんだ?」
「……………知りたいか?」
その少女はそう問い返した。
「マーちゃん! 待って………!」
束が止めようとした時、一夏自身の手によって制止させられた。
そして、一夏は真っすぐに少女を見つめると、
「…………教えてくれ」
真剣な表情でそう言った。
すると、その少女は口を開く。
「…………………私の名は織斑 マドカ」
「マドカ…………」
「立場的には、貴様らの妹…………という事になるか」
「俺に………妹? でも、千冬姉はそんな事一言も…………」
「当然だ。姉さんは私の存在を知らないのだから」
「えっ?」
「プロジェクト・モザイカ―――織斑計画と呼ばれたそれは、究極の人類を創造するという狂気の沙汰」
「ッ………………!」
「その第一成功例。それが私達の姉さん、織斑 千冬」
「…………………」
「だがその計画はある時を境に中止となった。何故なら、そこの篠ノ之 束が発見された時点で全てが無意味となったのだから」
マドカの言葉に、束は辛そうな表情をしている。
「計画自体は中止となった。だが、その時点で成功例が2人と計画外の成功例が1人…………そして、予想外の失敗作が1人存在していた」
「……………………」
一夏は黙って話を聞いている。
「計画外の成功例と言うのが私。故に姉さんは私の存在を知らない。私は計画外だったのだからな。そして、もう1人の成功例が究極の人類をより広く、多く、長く繁栄させる為にXY染色体因子を持たせた織斑 春万」
「…………………………」
「しかし、織斑 春万がまだ人工受精卵だったとき、研究者たちにも予想外の出来事が起こった。偶然にも受精卵が2つに分裂したのだ。要は双子となったということだ」
「…………………………」
「だが、同じ遺伝子を持つからと言って、同じ究極の因子を持つかと言われれば、そうではなかった。究極の因子は全て片方の受精卵に集まり、もう片方は搾りかすだけが残った」
「………………………」
「その搾りかすこそ貴様だ、織斑 一夏。貴様は落ちこぼれと呼ばれていたそうだが正にその通りだ。究極の因子の搾りかす故凡人よりは優秀だったようだがそれだけだ」
「………………………」
一夏はまだ黙っている。
「いっくん………………」
束は堪らず声を掛けようとして、
「そっか…………千冬姉が親の話をしたがらないことはそういう事だったのか…………」
一夏が呟く。
そして一夏は顔を上げると、
「教えてくれてサンキューな。お陰でスッキリした」
一夏はその言葉通り何処かスッキリとした表情をしていた。
「なっ!? き、貴様、今の話を聞いて何も思わないのか!?」
マドカが声を荒げて問いかける。
「いや、ちょっとは驚いたぜ。まさか作られた存在って言うのは予想外だったからな。けどな……………それが如何した!?」
「ッ!?」
一夏の真っすぐな言葉にマドカが気圧される。
「作られた存在だろうが搾りかすだろうが、俺は俺だ! 織斑 一夏と言う1人の『人間』だ!」
「!?」
マドカが驚愕する。
すると、紫苑がフッと笑みを浮かべ、
「ああ、その通りだ。お前がどんな生まれだろうと、俺の親友である事に変わりはない」
その言葉と共に一夏も笑みを浮かべ、拳をぶつけあう2人。
「…………………………強くなったんだね、いっくん」
優しそうな微笑みを浮かべる束。
そして一夏はマドカに向き直ると。
「そして、それはお前もだ。マドカ」
「えっ?」
一夏の言葉にマドカは呆気にとられる。
「お前がどんな存在だろうと、お前はマドカという『人間』で、俺の『妹』だ。世界のだれもが否定しても、俺はお前を認めてやる」
一夏はそのままマドカを抱きしめる。
「ッ!」
それと同時に、マドカは涙を流した。
「そんな事…………誰にも言われた事なかった……………」
マドカの口から言葉が漏れる。
「私が一番言ってほしい言葉だったのに…………!」
「マドカ…………」
一夏はマドカを抱く腕に力を籠める。
「……………………兄さん……………!」
そのまま暫く2人は抱き合い続けた。
「なあスコール。さっきから私ら空気じゃね?」
「しっ! 空気を読みなさい、オータム」
さて、EXルート第1話です。
変更点もろもろです。
というか完全に別物ですかね。
最初のゲイムギョウ界編終了後からの分岐となります。
面倒くさ……………ちょっと長くなりそうな所は序章のダイジェストですっとばしました。
とりあえず一夏がいきなりブランの守護者になっている所が一番のツッコミどころですかね。
おまけにフィナンシェとミナとも関係持ってます。
更には『戦姫』などと言う追加オリジナル設定まで。
まあ、これは即興の思い付きと言っても過言ではないです。
その理由は、まあハーレムハッピーエンドを迎えるための布石とでも言っておきましょう。
あ、一夏のシャドウナイトのプロテクターは、フェアリーフェンサーエフのアポロ―ネスのフェアライズ状態です。
さて、前書きにも書いた通り、オリ弟アンチ、白い束さん、亡国の3人が味方と言うABルートには無かったテンプレをぶっこんでみました。
更には初っ端から12巻最後のネタバレまで。
マドカとも和解。(早すぎる!)
因みに翡翠にも変更点があり、次回に分かります。
後はラウラとシャルロットをどっちに宛がおうかな…………
では、今まで以上に好き勝手に頑張ります。