超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス   作:友(ユウ)

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第3話 始まりの学校生活(スクールライフ)

 

 

 

紫苑と一夏がこの世界に戻って来てしまった出来事から2週間後。

IS学園で教員をしている織斑 千冬はやや疲れた表情で学園の校門前に出てきていた。

その理由は、数日前にかかってきた友人からの電話だった。

 

『もしもーし! やっほーちーちゃん久しぶりーー! 皆のアイドル束さんだよーー!』

 

初っ端からそんなハイテンションで挨拶をされた千冬は衝動的に通話を切りそうになったが、

 

『ああー! 待って待って! 切らないで―! 今日はちーちゃんにお願いがあって電話したの!』

 

「お願い?」

 

束がお願いとは珍しいと千冬は思った。

 

『あのねあのね! IS学園に3人ほど入学させたいから手続きよろしく!』

 

「は?」

 

『1人は女の子で、2人は男の子だからその辺りよろしく!』

 

「おい!?」

 

『あ、女の子と男の子1人は入学式の日に行くけど、もう1人の男の子は専用機の開発が少し遅れそうだから何日か遅れてから行くからね』

 

「ちょっと待て!」

 

『じゃあ、そういう事でバイビー!』

 

「だから待てと………!」

 

千冬は叫ぼうとしたが、一方的に電話を切られてしまった。

その後、千冬は一夏の捜索を束に頼んでいる借りもあるため、かなり強引だが入学できるように手配を掛けた。

結果、学園側にも束からのなんらかの根回しがあったのか名前も分からない生徒の入学を認めることに成功した。

とは言え、数日でかなりの量の書類を熟したので最近は寝不足である。

千冬がそのまま校門前で待っていると、1台の車が走ってくる。

その車が校門の前で止まり、後部座席のドアが開いた。

降りてきたのは黒髪の1人の少女。

 

「ッ!?」

 

だがその少女を見た瞬間、千冬は息を呑んだ。

その少女の顔は自分と瓜二つ。

更に、その少女は千冬に目をやると不敵に微笑み、

 

「初めましてだな…………姉さん」

 

その一言を口にした。

 

「お、お前は……………!」

 

自分を『姉』と呼ぶ自分とよく似た少女。

それを意味する所に気付いた千冬は僅かに動揺する。

 

「私の名は織斑 マドカ。本日よりこの学園に入学するために来た。よろしく頼む」

 

わざとらしく礼儀正しくお辞儀するマドカに訝しげな眼を向ける千冬。

どのような判断を下していいか分からない様だ。

だがその時、同じ車の後部座席からもう1人降りる者が居た。

車から降りて立ち上がったその人物はマドカの隣に並ぶ。

 

「ッ!?」

 

その顔を見た瞬間、千冬は先程とは全く違う理由で再び絶句した。

何故ならば、

 

「……………久しぶり! 千冬姉!」

 

そこにいたのは、2年前に行方不明になって以来、ずっとその行方を捜し続けていた自分の弟の一夏だったからだ。

 

「……………い、一夏…………?」

 

千冬は信じられないと言わんばかりの表情で問いかける。

 

「そうだよ千冬姉。今まで心配かけてごめん」

 

一夏は若干申し訳なさそうな笑みを浮かべながらそう言う。

その瞬間、

 

「一夏っ…………!」

 

一夏は千冬に思い切り抱きしめられていた。

痛いほどに力強く抱きしめられるが、一夏は黙ってその抱擁を受け入れ、まるで宥める様に右手で千冬の背中をポンポンと軽く叩いてやる。

 

「一夏っ! すまない、私は……………ッ!」

 

その言葉で千冬が誘拐事件の事を謝ろうとしていることに気付く一夏。

 

「いいんだよ千冬姉…………分かってる。千冬姉には俺が誘拐されたことが知らされてなかったんだろ?」

 

そう言って気にしないように言う一夏。

 

「一夏っ………!」

 

更に強く抱きしめられる。

暫くして、

 

「千冬姉、気持ちは分かるけど、そろそろ時間じゃない?」

 

一夏の言葉に千冬はハッとなる。

 

「す、すまん………」

 

千冬は顔を赤くして離れると、

 

「詳しい話は放課後に」

 

「わ、わかった…………」

 

一夏の言葉に千冬はやや慌てて佇まいを直す。

すると、その時初めて一夏の隣にもう1人の少女が居ることに気が付いた。

その少女は長い黒髪に紫の瞳をした容姿をしている。

 

「むっ? お前はもしやもう1人の新入生か? いや、しかし、数日遅れてくるという話では…………いや、それ以前に束は男だと…………」

 

千冬がボソボソと呟きながらその少女を訝し気に見つめる。

 

「千冬姉、エミリは俺の相棒だけど新入生って訳じゃないよ」

 

一夏がそう説明する。

 

「初めまして。エミリといいます」

 

エミリと呼ばれた黒髪の少女はそう言ってペコリとお辞儀をする。

 

「う、うむ…………しかし、新入生で無いのなら何故…………?」

 

「それは勿論、一夏の力になる為です」

 

そういうエミリ。

 

「は? それは一体どういう…………?」

 

千冬が意味が分からないと声を漏らした時、エミリが光ったかと思うと小さな光となって一夏の胸元に収まる。

その光が消えると、一夏の首にペンダントとして掛けられていた。

 

「なっ!?」

 

千冬が驚愕の表情に変わる。

 

「こういう事だよ千冬姉。エミリは俺の専用機のコア人格なんだ。何か知らないけどペンダントの待機状態と自由に行動する人型になれるんだ」

 

「そ、そのような事が…………」

 

「何でなれるのかは俺も良く分かってないから深く聞かないで」

 

「あ、ああ…………」

 

千冬は驚きが抜けきらないのか若干呆けた表情で頷いた。

すると、一夏は車に向き直り、

 

「スコールさん、送ってくれてありがとうございました」

 

運転席にいたスコールにお礼を言った。

 

「どういたしまして。何かあったら連絡しなさい」

 

「はい」

 

スコールはそう言うと車を発進させて走り去る。

一夏は千冬に向き直ると、

 

「それじゃあ、案内をお願いします。織斑先生!」

 

「ま、待て一夏………! その前に一つ聞かせてくれ。お前は自分の生まれを…………」

 

「…………知ってる。マドカに聞いたよ」

 

その言葉を聞いて、千冬は悲しそうな顔をする。

 

「そんな顔をしないでよ千冬姉。俺は気にしてないから。どんな生まれでも俺は俺。千冬姉の弟である事には変わりはないから…………」

 

一夏はそう言って笑みを向ける。

その言葉に千冬はハッとなる。

 

「一夏………お前…………」

 

「そんなことより、これからはマドカの事もちゃんと『妹』として見てやって欲しい。マドカも俺の妹だからな」

 

「兄さん………」

 

その言葉にマドカは嬉しそうな表情をする。

 

「とりあえず束さんの決めた設定では、マドカは俺達の親戚って事になってるから。事故で天涯孤独になって、親類である千冬姉を頼ってきたって設定だから」

 

「う、うむ…………それで、マドカ………だったな?」

 

千冬がマドカに向き直る。

 

「ああ…………」

 

「お前は私を恨んでいないのか? 知らなかったとは言え、お前を見捨てたも同然の私を…………」

 

「…………………恨んでいなかったと言えば嘘になる」

 

千冬の言葉にマドカはそう返す。

 

「だが、兄さんにお前は『人間』で『妹』だと言われた時に気付いた。私はただ『私』である事を認めて欲しかっただけだったことに…………」

 

「………………」

 

「だからもうあなたを恨んではいない。そして、出来ることならばあなたにも私を『妹』として接してほしいと思っている」

 

「…………マドカ」

 

「すぐには難しいと思う。だが、私はあなたと良好な関係を作りたいと思っている…………よろしく頼む………『姉さん』」

 

そう言って手を差し出すマドカ。

 

「…………わかった。こちらこそな、『マドカ』」

 

2人はそう言いながら握手を交わした。

すると、千冬は一度一夏へ向き直ると、

 

「一夏、先ほどの話は春万には…………」

 

「言わないよ。春万はああ見えて撃たれ弱い所があるだろうから、今は言わないよ」

 

「頼む」

 

千冬はそう言うと、佇まいを直す。

 

「それではこれより教室に案内する。ついてこい」

 

千冬は凛とした教師の姿となり、先導を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃、1年1組の教室では、

 

(……………この状況は……………)

 

1人だけの男子生徒がクラス中から注目の視線を浴びていた。

 

(この状況は………………)

 

彼の名は織斑 春万。

一夏の双子の弟である。

ひょんなことから女性にしか動かせないISを動かしてしまった彼は、このIS学園に強制入学させられたのだ。

本来女子しかいない筈のこの学園にただ1人男として入学した彼は、クラス中からの………

いや、全校生徒の注目の的であった。

 

(この状況は……………!)

 

そんな視線を一身に受けていた彼は、この状況を、

 

(……………最高だな!!)

 

非常に楽しんでいた。

彼はチラチラと視線だけで周りを伺う。

 

(ククク…………流石はIS学園。容姿も合格基準に入ってるのかってぐらい可愛い子ばかりじゃないか!)

 

すると、ふと視線が窓際にいた黒髪のポニーテールの女子と一瞬合う。

その女子は目が合った事に気付くとすぐに視線を逸らした。

 

(おや? あれはもしかして箒か? あんな美人に成長しているとは驚きだな。しかもスタイルも文句ない…………フフフ………楽しみが増えたな)

 

最低な考えをしながらそのまま視線を泳がせるようにクラスメイトを吟味していく春万。

すると、金髪碧眼の女子が目に入った。

 

(あの子も中々レベルが高いな……………よし、ターゲットに認定だ!)

 

その女子も標的に加え、春万は更に視線を移動させていくと、

 

(他に目ぼしい子は………………おっ!)

 

春万の視線が1人の黒髪の女子生徒を捉えた。

その女子生徒は周りにいる生徒達とは明らかに雰囲気が違う。

周りの女子達は春万に対して興味の視線を向けていたり、どこかワクワクした表情で授業を待つ者ばかり。

だがその少女は春万に対して微塵も興味を示しておらず、ずっとIS関連と思われる参考書を一心に読み耽っている。

その少女が身に纏う雰囲気も、年頃の女子高生が纏う雰囲気とは違う、何処か冷たい雰囲気だった。

 

(…………あの子もレベル高いな…………氷みたいな冷たい眼をしてるけど、そういう子を堕とすのが面白いんだよな…………ん?)

 

春万はふとその女子生徒の腕に注視する。

 

(………あの腕………もしかして義手か?)

 

その女子生徒の本を持つ右手は機械の手であり、生身では無かった。

 

(事故か何かか…………? まああの容姿にあのモデル以上のスタイルならチャームポイントになってもマイナスになることは無いだろ)

 

などと碌でもないことを考えていた。

すると、前の教壇に緑の髪にメガネを掛けた童顔でやや背が低めの女性が立った。

どうやら教師の様だがパッと見生徒達と同年代にしか見えない。

だが、

 

(で、でかい………!)

 

春万が心の中で驚愕する。

その教師の胸は背丈に不釣り合いなほどに大きかった。

 

「皆さん、入学おめでとうございます。私は副担任の山田 真耶です。よろしくお願いします」

 

真耶と名乗った女性は教師としてあいさつするが、

 

「「「「「「「「「「……………………………」」」」」」」」」」

 

生徒たちは春万に視線を集中させており、誰も挨拶を返さない。

春万は元々返す気も無い。

 

「あ、あれ…………?」

 

結果、誰も挨拶を返さなかったので真耶は焦る。

 

「…………き、今日から皆さんはこのIS学園の生徒です。この学園は全寮制。学校でも、放課後でも一緒です。仲良く助け合って、楽しい3年間にしましょうね」

 

「「「「「「「「「「…………………………………」」」」」」」」」」

 

真耶は思った通りの反応が返ってこないことに焦りを見せながらもなんとか話を続けるが、やはり誰も返事を返さない。

 

「……………で、では自己紹介をお願いします」

 

やや強引に次の自己紹介に移行する真耶。

女子生徒達が順番に自己紹介をしていく中、

 

「織斑 春万君!」

 

「はい!」

 

春万の番になり教壇に上がる。

 

「織斑 春万です。世界で初めて男性としてISを動かしてしまい、この学園に来ました。正直、右も左も分からない状況ですが、皆に協力してもらえると助かります。趣味は(女)友達と遊ぶこと。特技は何でも出来ることです。皆さん、3年間よろしくお願いします!」

 

春万は本質を見抜かれないように猫を被って優等生のように挨拶をする。

すると教室の扉が開き、千冬が入ってきた。

千冬を見た瞬間、春万は驚愕の表情に包まれた。

 

「なっ!? ち、千冬姉さん!?」

 

思わずそう叫んでしまった瞬間、パァンと春万の頭に出席簿が炸裂した。

 

「織斑先生と呼べ!」

 

頭を押さえて蹲る春万にそう言い放つ千冬。

すると、千冬は真耶に向き直り、

 

「ああ、山田君。 クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」

 

「い、いえっ。 副担任ですから、これぐらいはしないと……」

 

そうやり取りした後、千冬が生徒たちの方へ向き直った。

 

「諸君、私が織斑 千冬だ。 君達新人を、一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。 私の言うことはよく聞き、よく理解しろ。 出来ない者には出来るまで指導してやる。 私の仕事は、弱冠15歳を16歳までに鍛え抜くことだ。 逆らってもいいが、私の言うことは聞け。 いいな?」

 

すると、突然周りの女子生徒たちが一斉に息を吸い込んだ。

 

「キャーーーーーーッ! 千冬様! 本物の千冬様よ!」

 

「ずっとファンでした!」

 

「私、お姉さまに憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!」

 

「あの千冬様にご指導いただけるなんて嬉しいです!」

 

「私、お姉様のためなら死ねます!」

 

女子の多くから、黄色い歓声が響いた。

 

(うおっ!? びっくりした!?)

 

春万は突然の大声に驚愕する。

その様子を千冬はうっとうしそうな顔で見ると、

 

「………毎年、よくもこれだけの馬鹿者が集まるものだ。 感心させられる。 それとも何か? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させているのか?」

 

「きゃあああああ! お姉様! もっと叱って! 罵って!」

 

「でも時には優しくして!」

 

「そしてつけあがらないように躾をして!」

 

そんな千冬の言葉にもテンションが上がっていく大半の女子生徒達。

 

「…………………もしかして、千冬姉さんが先生!?」

 

春万は思わず千冬を指差しながら叫んだ。

その瞬間、パァンと再び叩かれる春万。

 

「織斑先生と呼べといっただろう?」

 

「……はい、織斑先生」

 

ここは素直に謝る春万。

だが、

 

(くっ………千冬姉さんがIS学園の教師だって!? くそっ! これじゃあそう易々と女の子に手を出せないじゃないか!)

 

内心ではどのように千冬の目を掻い潜って女の子に手を出すか算段を巡らせ始めていた。

すると、

 

「え………? 織斑君って、あの千冬様の弟?」

 

「それじゃあ、世界で1人だけしかいないIS操縦者っていうのも、それが関係して………」

 

「ああっ、いいなぁ。 代わってほしいなぁ」

 

そんな春万の内心など露知らず、女子はそんな事を言う。

すると、千冬が口を開いた

 

「突然だがこのクラスに来た新しい新入生を紹介する。向こうの都合で入学式には出られなかったが、つい先ほどこの学園に到着した。2人とも、入ってこい」

 

千冬がそう呼びかけると教室の扉が開き、2人が入ってくる。

 

「なっ!?」

 

春万が再び驚愕の声を漏らし、

 

「ッ!?」

 

窓際の席にいた束の妹である篠ノ之 箒も息を呑んだ。

その2人が立ち止まり、生徒達の方へ向き直ると、

 

「織斑 一夏です。皆さん、よろしくお願いします!」

 

「織斑 マドカだ。よろしく頼む」

 

その言葉を聞いた瞬間、教室が静寂に包まれる。

そして、その一瞬後、

 

「「「「「「「「「「きゃぁああああああああああああああああっ!!!」」」」」」」」」」

 

再び教室中が黄色い歓声に包まれた。

 

「男の子! 2人目の男の子よ!」

 

「春万君にそっくりだけど春万君よりちっちゃい! でも若干ワイルドっぽい所がカワイイ!」

 

「優等生の春万君とワイルドな一夏君! 筆が進むわぁ~!」

 

等々、女子達の声が重なる。

 

「静かに! 話が進まん!」

 

千冬の一括でピタリと完成が止む。

 

「2人は空いている席に座れ」

 

千冬の言葉に頷き、一夏はとマドカは空いている席に歩いていく。

驚愕の表情でその姿を追う春万だったが、

 

「お前も早く席に戻れ!」

 

三度出席簿で頭を叩かれ、蹲りながらも席へ戻っていく春万。

 

「それでは自己紹介を続けろ!」

 

千冬のその言葉で自己紹介が再開する。

暫くすると、

 

「月影さん、自己紹介をお願いします!」

 

真耶が呼びかけるが、次の生徒が上がってこない。

 

「あ、あの、月影さん?」

 

真耶は困った顔で再び呼びかけるが、誰も出てこない。

見れば、次の生徒はISの参考書に意識を集中させていた。

真耶は仕方なくその生徒の前に行き、

 

「あの、月影さん? 次、月影さんの自己紹介の番なんだよね。自己紹介してくれないかな?」

 

真耶がそこまで言うと、その生徒は初めて真耶に気付いたように視線を向けると立ち上がり、無言で教壇まで歩いていくと、

 

「…………………月影 翡翠」

 

小声でぼそりと呟くように名乗った。

一夏はその生徒を見つめると、

 

(あの子が紫苑の妹か…………)

 

心の中でそう呟く。

 

(それにしても…………なんて冷たい眼をしてるんだ………)

 

紫苑から聞いた話では、翡翠は人懐っこく、誰とでも仲良くなれる明るい性格という話だったが、今の彼女からは誰も寄せ付けない、氷の様な冷たい雰囲気を感じさせていた。

 

「あ、あの…………それだけですか?」

 

真耶が尋ねると、

 

「以上です」

 

翡翠は即答して自分の席へと戻っていく。

そのまま席に座ると再びISの参考書に目を通していた。

 

「そ、それでは次の方………!」

 

真耶は冷や汗を流しながら次の自己紹介を促した。

そのまま自己紹介が進み、特に問題なくSHRは終わる。

すると廊下には、世界で2人だけの男性IS操縦者を見ようと他のクラスの生徒が集まってきていた。

一夏は特に気にせず授業の準備をしていると、

 

「おい………!」

 

見下すような口調で春万が近付きながら声を掛けてきた。

 

「春万か…………久しぶりだな」

 

一夏がそう返すと、

 

「生きてたのか落ちこぼれ」

 

第一声がそれだった。

しかし、一夏は意に介さず、

 

「おかげさまでな」

 

そう言った。

 

「ふん! 無様に生き恥を晒すよりも、潔く死んでた方が世の為になったんじゃないか? 千冬姉さんの弟の癖に俺とは違って何のとりえもない落ちこぼれの癖に」

 

「さあな」

 

特に言い返しもせずに平然としていると、

 

「……………チッ!」

 

春万は舌打をしてその場から立ち去っていった。

 

「やれやれ………」

 

2年ぶりに会った双子の弟だったが、何も変わっていない事に安心したようなガッカリしたような複雑な感情を抱いた。

すると、

 

「い、一夏……………?」

 

恐る恐るといった雰囲気を感じさせながら箒が声を掛けてきた。

 

「……………箒…………だよな?」

 

一夏は確認を込めてそう聞き返す。

 

「あ、ああ…………す、少しいいか?」

 

「ああ、構わないぜ」

 

そう言って連れ出された一夏達は屋上にいた。

 

 

 

 

「何の用だよ?」

 

そう尋ねる一夏に箒は少し戸惑った後、

 

「…………その………お前は本当に一夏…………なんだな?」

 

「ああ、紛れもなく織斑 一夏だ」

 

一夏はハッキリとそう言う。

 

「生きて………いたんだな?」

 

「この通り、五体満足で生きてるよ」

 

一夏は見せつける様に両手を広げてそう答える。

すると、箒は感極まった様に、

 

「…………良かった………お前が生きていて………本当に良かった…………!」

 

涙を溢れさせながらそう呟いた。

 

「お、おい! 泣くなよ箒………!」

 

目の前で泣き出された一夏は狼狽える。

一夏は何とか宥めようとするが、箒の涙は止まらない。

一夏が困っていると、

 

『一夏、もうすぐ予鈴が鳴るよ』

 

エミリの声が頭の中に響く。

一夏はこれ幸いと、

 

「ほ、箒! もうすぐ時間だから教室に戻ろう? なっ?」

 

箒に声を掛け、何とか教室に戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとよろしくて?」

 

最初の授業を難無く乗り越え、次の授業の準備をしていた一夏に、金髪碧眼の女子生徒が話しかけてきた。

 

「ん?」

 

一夏は声を漏らしながらそちらを向く。

 

「まあ! 何ですの、そのお返事。 わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 

「…………………」

 

一夏はその物言いに呆れて無言になる。

すると、間を置いて一夏が口を開いた。

 

「確かイギリス代表候補生のセシリア・オルコットさんだったな?」

 

そう言うと、

 

「ふふっ! こんな東の果ての島国にもわたくしの名が知られているとは………まあ当然ですわね! イギリスの代表候補生にして入試主席なのですから!」

 

一夏の言葉を聞いて増長するセシリアという女子生徒。

 

「いや、自己紹介で堂々と名乗ってたからな…………」

 

一夏がボソッと呟く。

それでも一夏は気を取り直し、

 

「それで、そのオルコットさんが何の用かな?」

 

一夏が作り笑いをしながらそう返す。

 

「いえ、別に。わたくしは優秀ですから、あなたのような人間にも優しくしてあげますわよ。 ISの事で分からないことがあれば、まあ、泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。 何せわたくし、入試で2人だけ教官を倒した内の1人、エリート中のエリートですから」

 

セシリアは得意げにそう言う。

すると、

 

「そうか…………その時が来たらお願いするよ」

 

作り笑いを続けながら一夏はそう返した。

セシリアは得意げな仕草をしながらそのまま立ち去っていった。

 

「やれやれ…………」

 

一夏はやや疲れた顔で息を吐く。

 

「お疲れ様だな、兄さん」

 

マドカが話しかけてくる。

 

「マドカ…………」

 

「何処にでもいるようだな、あのような輩は………」

 

「そういう事言うなよマドカ。あの子はちょっと頑張り過ぎてて余裕がないだけさ」

 

「どういう意味だ?」

 

一夏の言葉に気になることがあったマドカは聞き返す。

 

「まあ、俺の勘だけど、あの子、結構無理してる雰囲気があるんだよ。自分を強く見せて付け込まれる隙を与えないように………そんな感じがする」

 

「ふむ………私には最近増えてきた女尊男卑思考の女にしか見えんが………」

 

「まあ、俺の勘だ。もしかしたら外れてるかもしれないしな」

 

一夏とマドカがそんな事を話していると予鈴が鳴り、マドカは自分の席へ戻っていった。

 

 

 

 

やがて次の授業が始まり、千冬が教壇に立った。

 

「それではこの時間は、実戦で使用する各種装備の特性について説明する」

 

千冬はそう言ったが、途中で何かを思い出したようにハッとして、

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

そんな事を言い出した。

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席………まあ、クラス長だな。 因みにクラス対抗戦は入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。 今の時点で大した差はないが、競争は向上心を生む。 一度決まると一年間変更はないからそのつもりで。自薦他薦は問わない」

 

一夏はそれを聞いてこの後の大体の展開が予想できた。

 

「はいっ! 織斑 春万君を推薦します!」

 

「私もそれが良いと思います」

 

まずは春万が推薦され、

 

「じゃあ、私は一夏君を!」

 

「私も!」

 

続いて一夏が推薦された。

その事を予想していた一夏は軽くため息を吐く。

 

「待ってください! 納得がいきませんわ!」

 

セシリアがそう叫びながら立ち上がった。

 

「そのような選出は認められません! 大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ! わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

セシリアは興奮してきているのか言葉が荒くなっていく。

 

「実力から行けば、わたくしがクラス代表になるのは必然。 それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります! わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」

 

遂には日本人を侮辱するような言葉まで出てくる始末。

 

(オイオイ、下手すれば国際問題だぞ………)

 

そんな感想を抱く一夏。

 

「いいですか!? クラス代表は実力のトップがなるべき、そしてそれはわたくしですわ! 大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で…………!」

 

「イギリスだって大してお国自慢ないだろ。世界一まずい料理で何年覇者だよ!」

 

そう口に出したのは春万だ。

 

「………なっ!?」

 

(お前もか、春万………)

 

内心呆れる一夏。

 

「あっ、あっ、あなたねえ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」

 

「先に日本を侮辱したのはそっちだろうが!」

 

セシリアの言葉に、春万はそう言い返した。

すると、セシリアは春万を指差し、

 

「決闘ですわ!」

 

「おう。 良いぜ。 四の五の言うより分かりやすい」

 

「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い……いえ、奴隷にしますわよ」

 

「ハッ! そんなんじゃ面白くない! 負けた方が勝った方の奴隷になるって言うのは如何だ?」

 

「なっ!?」

 

その言葉にセシリアは驚愕するが、

 

「おやぁ? イギリス代表候補生ともあろうお方が素人の男相手に臆するのかな?」

 

流石にプライドに障ったのか、

 

「くっ! ええ、構いませんとも! 敗者は勝者の奴隷になることをこの場で誓いましょう!」

 

その言葉を聞いた瞬間、春万の口元が一瞬だけニィィッと吊り上がるのを一夏は見逃さなかった。

 

(春万の奴………碌でもないことを考えてるな………)

 

一夏がそう思った時、

 

「何にせよ丁度良いですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね………! それから……………あなたもですわよ!」

 

そう言ってセシリアが指差したのは一夏だ。

 

「は?」

 

なぜ今の流れで自分にも飛び火するのか理解できなかった一夏が声を漏らす。

 

「織斑さんはともかくとして、あなたはここまで祖国を侮辱されてよく黙っていられますわね! 少し位悔しいと思わないのですか!?」

 

(ああ…………侮辱してるって自覚はあったのね………)

 

「………………はぁ」

 

セシリアの言葉に、一夏は明らかに分かる態度で溜息を吐いた。

 

「何ですのその態度は!?」

 

怒りを露にして机を叩きながら叫ぶセシリア。

すると、一夏は立ち上がってセシリアの方を向いた。

 

「オルコットさん。君は先程自分を代表候補生だと言ったが、その立場の重要性をもう少し考えて欲しい」

 

「えっ………?」

 

「代表候補生はその名の通り、いずれ国家代表として世界に立つ可能性がある立場だ」

 

「ふん、そのような事言われずとも分かっておりますわ」

 

「そうか………だが、君が………イギリスを代表して世界に立つ者が、日本を乏しめる発言をしたとなれば、それは非難の格好の的だぞ。下手をすれば、国家間の友好にも罅を入れるかもしれない」

 

「ッ………!?」

 

「大袈裟に言えば君の不用意な一言が戦争の引き金になる可能性だってゼロとは言えない。そうなれば、何千何万の犠牲者が出る」

 

「そ、そのようなこと…………」

 

セシリアは否定しようとするがその顔は真っ青だ。

僅かながらその可能性になる確率がある事に気が付いたのだろう。

 

「まあ、戦争は言い過ぎだが、国家代表という立場はそれだけ世界中の人間に言葉が届けられる存在だ。それに、君は日本を極東の地と言ったが、日本から見ればイギリスだって西の果ての地だし、アメリカだって東の果ての地だ。それに今の時代、地球の裏だって気軽に行けるんだ。自分の国を誇りたい気持ちも分かるが、その国の場所で国の良し悪しを決めるのはナンセンスだと俺は思う」

 

「う…………」

 

セシリアは徐々に項垂れていく。

 

「はっ! 無様だな!」

 

そんなセシリアを見て、春万は鼻で笑った。

だが、

 

「お前も人の事は言えないぞ、春万」

 

「何っ!?」

 

「確かに最初に日本を馬鹿にしたのはオルコットさんだ。そこはオルコットさんが悪い。だが、お前も言い返した時、オルコットさん自身ではなくイギリスを乏しめた。その時点でお前も同罪だ」

 

「何だと!?」

 

「ッ」

 

「……………………」

 

一夏はそれだけ言って席に着いた。

少しの間沈黙が流れたが、セシリアはスッと顔を上げ、

 

「皆さん! 先ほどわたくしが日本を乏しめてしまった事を取り消させていただくと共に謝罪いたします。本当に申し訳ありませんでした」

 

セシリアはそう言いながら頭を下げる。

 

「しかし、これだけは取り消す訳にはまいりません。クラス代表に相応しいのはこのわたくしだと!」

 

セシリアは胸に手を当て凛とした態度でそう言い放った。

 

「ふん! 望むところだ! 受けてやる!」

 

春万がそう言い返した。

 

「ふむ。他にいないか? このままだと織斑兄、織斑弟、オルコットの3名で試合をしてクラス代表を決める事になるが………?」

 

千冬が最終の確認を取ろうとした所で、スッと1つの手が挙げられた。

 

「先生………立候補します…………」

 

そう静かに言ったのは翡翠だった。

 

「ほう? 理由はなんだ?」

 

「一度でも多く戦える環境が欲しいからです…………」

 

感情の起伏の無い、淡々とした声色で翡翠はそう言う。

 

「…………………ま、いいだろう」

 

千冬は翡翠に若干危険な雰囲気を感じたが、ひとまず了承する。

 

「よし! 他には居ないな? それではこれで………」

 

千冬が閉め切ろうとした時、

 

「すいません織斑先生」

 

一夏が手を挙げた。

 

「何だ織斑兄。悪いが辞退は受け付けんぞ」

 

「いえ、そうでは無くもう1人推薦したい奴がいます」

 

「ほう? 誰だ?」

 

「来週に遅れて入学してくる奴を推薦したいんです」

 

「ふむ…………何故だ?」

 

「必要だからです」

 

訝しげな眼で一夏を見つめる千冬の視線を真っすぐに見返す一夏。

 

「……………いいだろう。しかし、試合に間に合わなければその場で不戦敗とする」

 

「ありがとうございます!」

 

「それで? そいつの名は?」

 

千冬はそう聞いたが、

 

「俺がこの場で言うのもつまらないでしょう? だから、ミスターXってことで」

 

「………はぁ」

 

応える気の無い一夏に千冬は溜息を吐いた。

その後千冬は簡単なクジを作り、それで組み合わせを決める。

 

「抽選の結果、第1試合 セシリア・オルコット対織斑 春万。第2試合 月影 翡翠対ミスターX。第3試合 第1試合の勝者対織斑 一夏。決勝が第2試合の勝者対第3試合の勝者とする」

 

こうしてクラス代表選抜戦が決まった。

 

 

 

 

放課後。

一夏は自分に宛がわれた部屋で通信を行っていた。

相手は紫苑だ。

 

『それで来週に試合をすることになったと………』

 

「ああ。クジが上手い事当たってくれてよかったぜ」

 

一夏は翡翠の様子を見てただ事ではないと思い、翡翠と紫苑を向かい合わせるために紫苑をクラス代表に推薦したのだ。

 

『お前、やっぱりネプテューヌに次ぐ主人公補正持ってるだろ?』

 

紫苑は都合の良すぎる展開に一夏にそう問いかける。

 

「ははは! まさか、ただの偶然だよ!」

 

一夏は笑って流すが、紫苑は心の中で絶対持ってると確信していた。

 

『…………それにしても、翡翠がね………』

 

「ああ。聞いた話とは違って、とても冷たい眼をしてた。多分、復讐に心を囚われてるんだと思う」

 

『……………そうか』

 

「多分、あの子の心を救えるのはお前だけだ」

 

『……………ああ』

 

紫苑は必ず翡翠を救うと心に誓う。

 

「それじゃあ、俺はそろそろ千冬姉の所に行くから」

 

『ああ』

 

「アリンにもよろしく」

 

『おう』

 

そう言って一夏は通信を切る。

 

「さて、行くか」

 

一夏は廊下に出ると、教えられた千冬の部屋に向かって歩き出した。

 

 

 

 

廊下を歩いていると、薄着で出歩いている女子生徒が大多数だった。

 

(おいおい、男がいるって分かってるのに隠れもしないのかよ………)

 

内心女子生徒達の危機感の低さに心配する一夏。

因みに今の一夏は初心では無いので特に取り乱したりはしない。

なるべく視界に入れないように気を付けてはいるが。

そのまま暫く歩いていると、とある扉の前を通りかかった時、

 

「…………な……する………! や………ろっ………!」

 

扉の奥から声が聞こえた。

普通の話し声だったのならそのまま素通りする所なのだが、

 

「…………箒?」

 

聞こえてきた声は幼馴染の声で、切羽詰まったような声色の気がしたからだ。

一夏は立ち止まって声に耳を傾ける。

 

「……めろっ………は…まっ!」

 

(…………春万?)

 

聞こえてきた声に春万の名がある事に気付く一夏。

次の瞬間、

 

「いやっ………! いやぁぁぁぁぁぁっ…………!」

 

絶対にただ事ではないと思わせる箒の悲鳴が一夏の耳に届いた。

 

「ッ箒!?」

 

一夏は咄嗟にその部屋のドアを蹴破った。

蝶番が吹き飛び、そのまま真っすぐ倒れる扉。

その先に見えてきたものは、

 

「ッ!?」

 

一糸まとわぬ姿でベッドに押し倒されている涙を流している箒。

そして、その上に圧し掛かっている春万の姿だった。

その瞬間、一夏は頭に血が上った。

 

「何やってんだテメェッ!!」

 

一夏は駆け出し、箒に圧し掛かっている春万の顎に思い切り拳を繰り出した。

 

「おごっ!?」

 

一夏の拳は春万の顎に綺麗に決まり、春万はそのまま吹き飛んで壁に激突。

床に倒れて動かなくなる。

 

「い、いちか………!?」

 

箒が泣きながら一夏に気付く。

 

「箒、早く服を着ろ!」

 

一夏は春万から箒を背に庇うように位置取りし、箒の姿を見ないように呼びかける。

 

「あ、ああ………!」

 

箒は顔を赤くしながらもなんとか下着と道着を着た。

一夏は最後まで箒を春万から庇う様な位置取りを続け、そのまま箒を連れて部屋の外に出ると、箒の手を掴んだまま千冬の部屋に向かって駆け出した。

 

 

 

「千冬姉!」

 

一夏は千冬の部屋である寮長室のドアを開け放つと同時に叫んだ。

 

「な、何だ一夏? そんなに血相を変えて………それに篠ノ之も………」

 

驚いた千冬は若干呆気にとられながらもそう返す。

 

「何だじゃないよ千冬姉! 箒と春万を同じ部屋にするなんて何考えてるんだよ!?」

 

一夏は勢いのままそう捲し立てた。

 

「い、いや、上からの意向で一先ず寮に入れることを最優先にした結果、どうしても一旦女子と同じ部屋にする必要があったのだ。それに篠ノ之なら春万とも幼馴染だ。全く知らない相手よりは春万も気が楽だろうと思って………」

 

千冬はそう言うが、

 

「春万はともかく箒の気持ちも考えてくれよ! 箒は春万に襲われかけたんだぞ!」

 

一夏の言葉に千冬は驚いた顔をする。

 

「どういう事だ………!?」

 

すると、箒が説明を始めた。

箒がシャワーを浴びていると、部屋に相方がやってきて、同じ女子だと思ってバスタオルを1枚巻いたままシャワー室から出てしまった。

すると、相手は春万であり、箒は衝動的に剣道で使っている木刀を手に取り、思わず殴りかかろうとしてしまった事。

しかし、春万は竹刀を手に取るとあっさりと箒の木刀を往なし、その手から弾き飛ばした。

その際にバスタオルが外れ、一糸纏わぬ姿を春万に見られた瞬間、春万にベッドに押し倒され、強姦される寸前だった事。

寸での所で一夏が部屋に乱入して春万を殴り飛ばして気絶させたお陰で事なきを得た事を話し終えた。

 

「あの春万がそんな事を…………? 信じられん………?」

 

千冬や大人たちの前では猫を被っているので優等生であると思い込んでいる千冬は春万がそんな事をするとは信じられなかった。

 

「千冬姉は箒の涙を見ても信じられないって言うのか!?」

 

箒の目には、涙が零れた跡がある。

 

「むぅ…………しかし、春万も男だ。一時の気の迷いという事も…………」

 

「春万をどうするかは千冬姉に任せる。綺麗に顎に入れたから多分記憶も飛んでると思うしな。だけど、箒はあれ以上春万と一緒には居させないで欲しい!」

 

一夏は千冬にそう言う。

 

「……………わかった。部屋割りの変更はなるべく急がせる。その間、篠ノ之はこの部屋で寝泊りしろ………それでいいか?」

 

「ああ、俺はそれで構わない」

 

「は、はい………」

 

2人は頷いた。

 

 

 

それからしばらくして3人は佇まいを直すと、

 

「話は変わるが、一夏。改めておかえり」

 

千冬は一夏にそう言う。

 

「ああ。久しぶりだね、千冬姉」

 

一夏がそう言うと、千冬は少し悲しそうな顔をして、

 

「…………朝も思ったが、『ただいま』とは言ってくれないんだな?」

 

千冬はそう尋ねる。

一夏は少しバツの悪そうな顔をすると、

 

「…………ゴメン。俺の帰る場所は、他に出来たんだ…………」

 

「そうか……………」

 

「あっ! でも勘違いしないで欲しい! 決して千冬姉を嫌いになった訳じゃないから!」

 

一夏がそう言うと、

 

「ならば聞かせてくれ。この2年で何があったのかを…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

暫くして、一夏は話し終えた。

 

「別次元の世界、『ゲイムギョウ界』………」

 

「そこを統べる4人の『守護女神』…………」

 

千冬と箒が呟く。

因みに一夏は問題があると思い、守護者や戦姫などについては何も話していない。

 

「一夏がそんな所に………」

 

「ああ、最初はともかく、ある程度慣れてからは居心地が良くてさ。千冬姉には悪いと思ってるけど、俺の居場所はゲイムギョウ界のルウィーなんだ」

 

そう言って笑う一夏の笑顔は自然なものだ。

 

「一夏…………」

 

そんな風に笑う一夏を見た事が無かった箒は僅かな嫉妬を覚える。

一緒に剣道場に通っていた頃は必死な一夏の姿しか見たことは無く、毎日どこか追い詰められていた表情だった。

ただ、毎日頑張っている一夏の姿を見て惹かれて言った事は確かだ。

 

「………確かにそれは少し残念だが、それよりも、私はお前が無事でいてくれたことが嬉しい」

 

「千冬姉」

 

「忘れるな。お前が何処に行こうとお前は私の『弟』だと」

 

「千冬姉………うん!」

 

千冬の言葉に一夏は頷いた。

 

 

 

 

 

 




さて、EXルート第3話です。
一夏とマドカがIS学園に入学しました。
紫苑は少し遅れて…………
次回はISバトルが入る予定…………さて、どうなる事やら。
因みにエミリはフェアリーフェンサーエフADFに出てくるアポロ―ネスの妹です。
容姿が想像できない方は調べれば出てくるので興味があればどうぞ。
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