超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス   作:友(ユウ)

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第4話 紫の(ブラザー)

 

 

 

 

 

 

 

一夏がIS学園に入学して2日目。

一夏は箒と共に食堂へ朝食を食べに来ていた。

しかし、朝のピーク時を迎えているのか食堂の中は生徒達でごった返している。

 

「うわ! こりゃ凄いな………明日からはもうちょっと早く来た方が良いかもしれないな」

 

「そ、そうだな………」

 

一夏は箒に話しかけながら空いている席が無いか探す。

すると、1つのテーブルだけ生徒達が避けるかのように空いている席があった。

一夏はそのテーブルの席に座っている生徒を見てその理由が分かったが、一夏は構わずに箒を連れてそのテーブルへと向かった。

そのテーブルには2人の生徒が座っていた。

1人は水色の髪をしたルビー色の瞳にメガネを掛けた内気そうな女の子。

もう1人は一夏と同じクラスの翡翠だった。

周りの生徒は、翡翠の近寄りがたい雰囲気に気圧されてその場に近付くことが出来ないでいた。

しかし、

 

「ちょっと失礼…………相席いいかな?」

 

一夏が2人に話しかける。

水色の髪の少女は少し驚いた表情をしたが、

 

「う………うん…………」

 

そう頷いてくれた。

 

「箒、いいってさ」

 

「あ………ああ…………」

 

一夏は箒に笑って呼びかけるが、箒は翡翠の雰囲気に少し引き気味になっていた。

しかし、一夏が気にせずに席に着いたので、箒も仕方なく一夏の隣の席に座る。

 

「君とは初めましてだな。俺は織斑 一夏。そっちの月影さんと同じく一組の所属だ」

 

「し、篠ノ之 箒だ。同じく一組に在籍している」

 

一夏が自己紹介をしたので、箒も続いて行う。

 

「あ………さ、更識 簪…………四組です…………」

 

水色の髪の少女――簪も自己紹介を返した。

 

「…………………………」

 

しかし、翡翠は何も言わずに黙々と食事を続けている。

その様子を見ると、箒はムッとして、

 

「お前ッ! 同じクラスとは言え名前ぐらい名乗ったらどうだ!? 無視するとは礼儀知らずにもほどがあるぞ!」

 

何も言わなかった翡翠に対して声を荒げた。

 

「あの………その………!」

 

隣にいた簪が慌てる。

 

「落ち着けよ箒、なっ?」

 

「むう…………」

 

一夏が箒を宥め、箒は渋々引き下がる。

すると、翡翠が一旦食事の手を止め、

 

「………………月影 翡翠」

 

それだけ言うと再び食事を始める。

 

「く………! こいつ…………!」

 

馬鹿にしているようにしか思えない翡翠の態度に箒が再びイラつき始めるが、

 

「まあまあ、箒」

 

再び一夏が箒を宥めた。

それから一夏は食事を続ける翡翠を見て、

 

「ここの食堂って結構手が込んでるよな? 俺は結構美味いと思うんだが……………」

 

「あ………ま、待って………」

 

話を振ろうとした一夏に簪が慌てた仕草を見せる。

すると、

 

「………………知らない」

 

対する翡翠の答えはそれだった。

その瞬間、遂に我慢できなくなった箒は机を叩きながら立ち上がり、

 

「お前ッ! いい加減にっ………………!」

 

「……………………………味………しないもの……………」

 

その言葉で一気に頭が冷え切った。

 

「「…………………」」

 

一夏と箒は思わず黙り込んでしまった。

翡翠は黙々と食事を続ける。

 

「……………あ~、その~…………悪かった!」

 

一夏は頭を下げつつ頭の上で手を合わせながら謝る。

 

「……………………別にいい」

 

翡翠はぼそりとそう言って最後の一口を食べ終える。

 

「…………………ごちそうさま」

 

翡翠はそう言うと席を立って行ってしまう。

 

「…………怒らせちゃったかな?」

 

翡翠を見送るように眺めていた一夏がそう漏らすと、

 

「あ、あの…………」

 

席に残っていた簪が口を開く。

 

「あっ、ええと………更識さん?」

 

一夏が簪に確認する様に聞くと、

 

「う、うん………」

 

「ごめん、同じクラスメイトとして少しでも打ち解けようと思ったんだけど、どうやら怒らせちゃったみたいだ」

 

一夏がそう言うと、簪は首を横に振る。

 

「ううん! 翡翠さんはあのぐらいじゃ怒ったりしないと思う…………」

 

「そうかな?」

 

「うん…………あの、お願いがあるの………!」

 

「お願い?」

 

簪の言葉に一夏が聞き返す。

 

「翡翠さんの事、これからも気に掛けてあげて欲しいの…………翡翠さん、本当はとても優しくて良い人だから…………だから…………!」

 

簪は必死に懇願する様に言葉を続ける。

すると、

 

「大丈夫だ」

 

「え?」

 

「あの子を助けることが出来る奴が、もうすぐ来るから」

 

「え……………?」

 

一夏の言葉に簪は困惑の声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

授業が進んでいくと、

 

「ところで織斑弟、お前のISだが準備まで時間がかかる」

 

「はい?」

 

春万が突然の千冬の言葉に声を漏らす。

因みに春万の頬にはシップが張られており、本人も何故朝起きたら頬が張れていたのか記憶にない。

 

「予備機が無い。 だから少し待て。 学園で専用機を用意するそうだ」

 

「それは、自分用の専用機という事でしょうか?」

 

春万が確認を取ると、千冬は頷く。

すると、教室中がざわつき出した。

 

「せ、専用機!? 1年の、しかもこの時期に!?」

 

「つまりそれって政府からの支援が出てるってことで……」

 

「ああ~。 いいなぁ……私も早く専用機欲しいなぁ」

 

ISのコアは全部で467機しかなく、開発者である篠ノ之 束博士しか作れない上に、既に製作を中止している為、ISのコアはその467機が全てだ。

その為、各国は現存のコアを割り振って使用している。

つまりは数に限りがるので、専用機を持つという事は、これ以上ない特別待遇という事だ。

 

 

 

 

「安心しましたわ。 まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

セシリアは春万にそう言う。

 

「まあ? 一応勝負は見えていますけど? 流石にフェアではありませんものね」

 

「ほう………………」

 

春万は一応相槌を打つ。

 

「あら、ご存じないのね。 いいですわ、庶民のあなたに教えて差し上げましょう。 このわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……つまり、現時点で専用機を持っていますの」

 

「そうか………」

 

「世界でISは467機。 つまり、その中でも専用機を持つ者は全人類60億超の中でも、エリート中のエリートなのですわ」

 

「……………………フフフ」

 

そこまで聞くと、春万は笑いを零した。

 

「何がおかしいんですの?」

 

「いや、これは笑わずにはいられないよ。多少優秀な凡人の癖に、エリート気取りをしているなんて、滑稽としか言いようがない」

 

「なんですって!?」

 

「試合では、真のエリートというものを教えてあげるよ。自称エリート(笑)さん」

 

春万の言葉にセシリアも目付きを鋭くして睨むと、

 

「その言葉! 後悔させてあげますわ!!」

 

バンと机を叩くと自分の席へと戻っていった。

その騒動を遠巻きに見ていた一夏と箒は、

 

「一夏、お前はあの2人に勝算はあるのか?」

 

箒が一夏にそう尋ねる。

 

「何だ? 心配してくれてるのか?」

 

一夏が笑ってそう返す。

 

「茶化すな! その………春万は気に食わない奴だが、その才能は本物だ。事実、お前は過去、春万には一度も……………」

 

「ああ、そうだったな…………」

 

箒の言葉に一夏は肯定の言葉を返す。

 

「けどな…………」

 

一夏は箒を見ると、

 

「今と昔は違う………!」

 

「ッ!?」

 

その言葉に得体の知れない凄みを感じた箒は息を呑んだ。

 

「ま、結果は見てのお楽しみ………ってな」

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時が経ち、クラス代表決定戦当日。

ピットには現在、教師である千冬、真耶、選手である春万、翡翠、一夏の他に、マドカ、箒と人型となったエミリ。

そして、一夏達は初めて見る2年生のリボンを付けた水色の髪の少女、刀奈が翡翠の傍にいた。

箒や春万が見慣れないエミリについて尋ねてきたが、『相棒』という一夏の一言で済ませている。

尚、刀奈については本人が『生徒会長、更識 楯無』と名乗り、翡翠の友達だと自己紹介をしていた。

一週間もあれば、クラス内でも仲の良くなったもの同士である程度のグループは出来るはずだが、翡翠は身に纏う雰囲気や素っ気ない態度でクラスメイト達も近寄りがたく、孤立していたのだ。

そんな翡翠を『友達』だと言った刀奈に、その理由を知る一夏やマドカ以外は驚いていた。

一方、セシリアは既にアリーナ内に滞空している。

対戦相手の春万はすぐに出撃しなければならないのだが、まだ春万の専用機が届いていないのだ。

いい加減待ちくたびれた時、

 

「お、織斑君織斑君織斑君!」

 

真耶が春万の名を連呼しながら駆け足でやってきた。

しかし、織斑だけでは一夏とごっちゃになることに真耶は気付かない。

 

「山田先生、落ち着いてください。 はい、深呼吸」

 

慌てる真耶に一夏はそう言う。

 

「は、はい。 す~~~は~~~~、す~~~は~~~~~」

 

「はい、どうぞ」

 

タイミングを見計らって一夏は話の続きを促す。

 

「そ、それでですねっ! 来ました! 織斑君の専用IS! あっ、春万君の方ですね!」

 

呼吸を落ち着けた真耶が続けてそう言う。

 

「織斑弟、すぐに準備をしろ。 アリーナを使用できる時間は限られているからな。 ぶっつけ本番でものにしろ」

 

普通なら無茶振りとも思える千冬の言葉だが、

 

「わかったよ、千冬姉さん」

 

春万は戸惑いもせずに頷いた。

すると、ゴゴンッという音と共に、ピットの搬入口が開く。

その向こうにある物が、徐々にその姿をさらしていく。

そこには、若干灰色がかった白いISが鎮座していた。

 

「これが……」

 

「はい! 織斑君の専用IS『白式』です!」

 

真耶が春万にそう言う。

 

「体を動かせ。 すぐに装着しろ。 時間が無いからフォーマットとフィッティングは実戦でやれ。 出来なければ負けるだけだ。 わかったな」

 

千冬の言葉に春万が白式に触れると、

 

「馴染む……理解できる………これが何なのか…………何のためにあるか…………わかる」

 

春万が何やら呟く。

 

「背中を預けるように、ああそうだ。 座る感じでいい。 後はシステムが最適化をする」

 

春万がISに身を任せ、春万の体にISが装着されていく。

 

「ISのハイパーセンサーは問題なく動いているな。 春万、気分は悪くないか?」

 

「大丈夫だよ、千冬姉さん。 いける」

 

「そうか」

 

春万は自信を持った笑みを浮かべる。

するとカタパルトに移動する際、一夏の前を通り過ぎる。

その時、

 

「見てろよ落ちこぼれ。俺とお前の絶対的な差を見せてやる………!」

 

一夏だけに聞こえる声でそう呟いた。

 

「………………やれやれ」

 

一夏は溜息と共にそう漏らす。

春万はカタパルトに立つと、

 

「織斑 春万! 白式、行きます!」

 

その言葉と共に飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

セシリアが鼻を鳴らしながらそう言う。

セシリアの纏うISは『ブルー・ティアーズ』。

鮮やかな青色の機体で、特徴的なフィン・アーマーを4枚背に従え、どこかの王国騎士のような気高さを感じさせる。

その手には2mを超える長大なレーザーライフル『スターライトmkⅢ』。

アリーナの直径は200m。

 

「最後のチャンスをあげますわ」

 

セシリアが人差し指を春万に突きだしながら言う。

 

「チャンスって?」

 

「わたくしが一方的な勝利を得るのは自明の理。 ですから、ボロボロの惨めな姿を晒したくなければ、今ここで謝るというのなら、許してあげない事もなくってよ」

 

そう言ってセシリアはISの武装のセーフティロックを解除する。

 

「そういうのは、チャンスとは言わないな」

 

春万はそう返す。

 

「そう? 残念ですわ。 それなら…………お別れですわね!」

 

セシリアがそう叫ぶと同時、試合開始のブザーと共にレーザーライフルから閃光が放たれた。

 

「くっ!?」

 

反応できなかった春万は、その攻撃をまともに喰らう。

白式のオートガードが働き、直撃は免れたものの、左肩の装甲が一撃で吹き飛んだ。

 

「さあ、踊りなさい! わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲で!」

 

セシリアは次々とライフルを発射する。

それは出鱈目に放たれているのではなく、全て的確に春万を狙っている。

それを春万は、

 

「よっ! はっ! こうかっ!」

 

端から見れば必死に逃げ回っているように見える。

だが、その全てをギリギリで躱しており、更に一度回避するごとに確実に動きが良くなっていく。

それをピットから見ていたマドカは、

 

「なるほど、言うだけの才能はあるな………」

 

その動きを見てそう漏らす。

 

「一度動かすごとに確実に動きが良くなっている…………常人では考えられんな…………」

 

まあ、常人ではないが。

と心の中で付け足しながらその様子を眺める。

セシリアは当たらない射撃に焦りを見せ始める。

 

「くっ…………! しかしこれからは逃げられませんわ! この『ブルー・ティアーズ』からは!」

 

セシリアはそう言うと4機の自立機動兵器を射出した。

それは機体と同じ『ブルー・ティアーズ』といい、フィン状のパーツにレーザーの銃口が付いた兵器で、所謂ビットだ。

その4つの銃口から一斉にレーザーが放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

「……27分。 持った方ですわね。 褒めて差し上げますわ」

 

「………………………」

 

戦闘開始から27分。

春万の白式は直撃こそ少なかったものの、幾度もレーザーを掠めるうちにシールドエネルギーが削られていき、既に4分の1を切った。

 

「このブルー・ティアーズを前にして、初見でこうまで耐えたのはあなたが初めてですわね」

 

そう言いながら、セシリアは自分の周りに浮いている4つのブルー・ティアーズを褒めるように撫でる。

そして、

 

「では、フィナーレと参りましょう」

 

セシリアが笑みと共に右腕を横にかざすと、ビットが多角的な機動で春万に接近する。

 

「……………………………」

 

だが、春万は空中で棒立ちになるように佇んでおり、首を僅かに俯かせてその表情は窺い知ることは出来ない。

 

「うふふ! どうやら諦めたようですわね! ならば潔くこれで決めて差し上げますわ!!」

 

その様子を見たセシリアは観念したと見たのかブルー・ティアーズを攻撃位置に着かせた。

そして、セシリアがビットへ攻撃の指示を出す。

その瞬間、

 

「……………………フッ」

 

春万の口元がニヤリと吊り上がるように笑みを浮かべた。

さらに次の瞬間には白式が一瞬にして後方のビットに肉薄し、その手に持った剣で一閃した。

切り裂かれ、爆発するビット。

 

「なっ!?」

 

驚愕するセシリア。

 

「い、今のは瞬時加速(イグニッション・ブースト)!? 何故あなたがそんな高等技術を!?」

 

思わず問いかけるセシリア。

 

「へぇ…………今の加速ってそういう名前なのか」

 

春万は初めて知ったと言わんばかりに飄々と答える。

 

「名前も知らずに使ったんですの!?」

 

「ああ。そりゃあ初めて使ったからな」

 

「は、初めてっ!? 初めてで瞬時加速(イグニッション・ブースト)を成功させたなんて……………!? で、ですがマグレは2度も続きませんわ!」

 

セシリアは再びビットを操作し、春万を攻撃しようとした。

だが、

 

「そこっ!」

 

春万は再び瞬時加速(イグニッション・ブースト)を成功させ、2機目のビットを真っ二つにする。

 

「そんなっ!?」

 

セシリアは目の前の出来事が信じられずに声を上げた。

 

「これで2回目。もうこの瞬時加速(イグニッション・ブースト)とやらの使い方は覚えた」

 

春万は余裕の態度でそう言ってのける。

 

「ッ…………!? で、ですが、何故ビットの動きが…………」

 

今の春万の動きはビットの動きを読まないと出来ない動きだ。

セシリアは思わず問いかける。

 

「この兵器は、毎回君が命令を送らないと動かない。しかも………」

 

そう言いながら、春馬ははビットの1つを切り裂く。

 

「その時、君はそれ以外の攻撃を出来ない。 制御に意識を集中させているからだ。違うかい?」

 

春万は確信を得ている声色でそう問いかけた。

 

「ッ……………!」

 

セシリアの目が吊り上がる。

図星であった。

その動揺した一瞬の隙を突き、春万が最後のビットを破壊する。

 

「あっ!」

 

セシリアが声を上げた瞬間、春万がセシリアの懐に飛び込んできた。

ライフルでは迎撃出来ないタイミング。

だが、セシリアはニヤリと笑い、

 

「……………かかりましたわ!」

 

セシリアの腰部から広がるスカート状のアーマー。

その突起が外れて、動いた。

 

「おあいにく様、ブルー・ティアーズは6機あってよ!」

 

その2つのビットは先程までの4機とは違い、ミサイルだ。

それは躱す余裕もなく春万に直撃………………するはずだった。

 

「読み通りだ!」

 

春万は慌てることも無くミサイルを2発とも切断。爆発に巻き込まれないように即座に離れる。

 

「そ、そんな…………!」

 

セシリアは信じられなかった。

初見殺しである近距離からのミサイルビット攻撃に簡単に対処したのだ。

 

「君の機体は遠距離特化。でも、近距離に対する対策が全くないとは考えられない。考え得る対策の中で可能性が高いモノをいくつかピックアップしておいて、後はそれに対処する方法を考えておくだけ。そしてそれが的中しただけさ。簡単だろう?」

 

春万は自慢げに語る。

 

「く…………ですが、まだ勝負は…………!」

 

セシリアは歯を食いしばってライフルを構えようとした。

 

「いいや。もう勝負は付いている」

 

「何ですって!?」

 

「俺の計算ではそろそろ…………」

 

春万がそう言いかけると、白式が光を放つ。

白式の装甲が新しく形成され、薄い光をぼんやりと放っている。

装甲の実体ダメージが全て消え、より洗練された形へと変化していた。

 

「ま、まさか……一次移行(ファースト・シフト)!? あ、あなた、今まで初期設定だけの機体で戦っていたって言うの!?」

 

セシリアが驚愕して叫ぶ。

その顔を見ると、春万はニヤリと笑う。

 

「その通りさ。さて、束の間の優越感は堪能できたかな?」

 

機体もそうだが、何より変わったのはその武装。

 

『近接特化ブレード・≪雪片弐型≫』

 

刀身が2つに分かれ、その中心からエネルギーブレードが発生する。

雪片。

それはかつて一夏と春万の姉、千冬が振るっていたISの武器。

 

「フフフ……………これは素晴らしい………俺に相応しい武器だ………!」

 

すると、白式が金の光に包まれた。

 

単一能力(ワンオフアビリティ)【零落白夜】』

 

その能力が表示されると、更に笑い声を上げた。

 

「分かってるじゃないかこの機体も! 俺こそ千冬姉さんの剣を受け継ぐ者だ!!」

 

そう言うとセシリアに向かって突撃する。

 

「ッ………! このっ!」

 

一瞬呆けていたセシリアはハッと我に返り、スナイパーライフルを構える。

レーザーが放たれるが、春万は突撃しながらまるで滑るように横に移動してレーザーを躱す。

 

「なっ!?」

 

「はあっ!!」

 

セシリアが驚愕した瞬間、春万がすれ違いざまにセシリアに斬りかかる。

 

「きゃあっ!?」

 

ノーダメージだったはずのセシリアのブルー・ティアーズが一撃でシールドエネルギーの3分の1以上を削られた。

白式の能力【零落白夜】。

それは相手のシールドバリアを無効化し、絶対防御を発動させ、シールドエネルギーに大きなダメージを与える能力。

その為、その一撃を受けたISは、それだけで大きなダメージを受けるのだ。

春万は切り返すように反転し、再びセシリアに斬りかかる。

 

「くっ………!」

 

セシリアは咄嗟に回避行動を取り、直撃は免れるがその刃を掠め、少なくない量のシールドエネルギーを減らされる。

勿論セシリアも反撃しようと試みるが、まるで春万は空中を舞い踊るように飛び回り、セシリアの狙いを絞らせない。

セシリアは春万の攻撃を必死に回避していくが、完全には回避できず、どんどんとシールドエネルギーを削られ追い詰められていく。

 

「何故…………?」

 

セシリアは減っていくシールドエネルギーを確認しながら呟く。

 

「何故なんですの………?」

 

再び春万が斬りかかってきて、回避しようとするものの剣先が掠める。

 

「何故イギリス代表候補生のこのわたくしが………!」

 

残っていたミサイルビットを放つが、予想していたと言わんばかりに切り裂かれ、爆発する。

 

「何百時間も努力してこの地位を得たこのわたくしが…………、碌にISに乗ったことも無い素人に………………!」

 

思わず吐き捨ててしまうセシリア。

 

「君は所詮その程度なんだよ。自称エリートさん?」

 

その言葉に答えるように春万が言い放つ。

 

「努力なんてものは、本当の才能の前には無駄なあがきでしかない!」

 

その言葉と共に振るった一閃が、セシリアのスナイパーライフルを切り裂く。

 

「真のエリートは、努力なんて無駄な事をしなくても勝てるのさ!」

 

セシリアは咄嗟にブルー・ティアーズ唯一の近距離兵装である、『インターセプタ―』と呼ばれるショートブレードを呼び出す。

だが、

 

「だから、君にはこの言葉を贈ろう…………」

 

春万の一閃によって容易くその短剣は弾き飛ばされた。

そして、

 

「無駄な努力、ご苦労様………!」

 

「きゃぁああああああああああっ!?」

 

袈裟懸けの一閃によってセシリアのシールドエネルギーはゼロになった。

 

『勝者、織斑 春万!』

 

春万の勝利に歓声に包まれるアリーナの観客席。

その時、セシリアのブルー・ティアーズが落下を始めた。

セシリアは気を失っているらしく、このままでは地面に激突する。

だが、

 

「おっと…………!」

 

激突する寸前に春万がセシリアを抱きかかえるように助けた。

すると、通信を繋ぎ、

 

「千冬ね………織斑先生」

 

『何だ?』

 

「オルコットさんが最後の攻撃のダメージで気を失ってしまったようです。人が沢山いるそちらのピットより反対側のピットで休ませたいのですが………」

 

『ふむ………補給は如何する?』

 

「機体ダメージは一次移行(ファースト・シフト)の時に回復したので、エネルギーの補給だけなら俺だけでも大丈夫です」

 

『………………いいだろう。許可する』

 

「ありがとうございます!」

 

春万はそう言うと反対側のピットへと飛んでいく。

春万はセシリアをベンチに寝かせると、白式を整備機材の場所へ待機させるとセシリアへ振り返った。

その時、丁度セシリアが目を覚ます。

 

「目が覚めたかい?」

 

「う…………ここは………?」

 

「ここはさっきとは反対側のピットさ。君を休ませるためにこっちに連れてきた」

 

「それは………お手数をお掛けしましたわ…………」

 

セシリアは一瞬、春万はそこまで悪い人ではないのかと思った。

しかし、

 

「さて………ここからが本題なんだが…………例の約束、覚えているだろうな?」

 

先程の優しそうな雰囲気から一転、狂気じみた笑みを浮かべる春万。

 

「え………? やく………そく…………? ッ!?」

 

セシリアは一瞬何の事かと思ったが、その事に思い至った。

 

「勝ったのは俺だ。つまりお前はこれからは俺の奴隷だという事だ」

 

「あっ、あれはその場の勢いで…………!」

 

「言葉の綾だったとでもいうつもりか? 悪いが俺はもし君に負けていたら本気で君の奴隷になるつもりだった。なら、俺が勝った今、君を奴隷にしないとフェアじゃない」

 

「そ、そんなの………屁理屈ですわ!」

 

「おやぁ? 高貴な方とは思えない言い草だなぁ? 約束も守れないなんて貴族が聞いて呆れるよ」

 

「くっ………あなた………!」

 

セシリアは悔しそうに歯を食いしばる。

 

「そうそう。奴隷って事はご主人様のいう事には絶対服従。それに当然その役目には…………性処理も含まれるからな!」

 

春万は歪んだ笑みを浮かべる。

 

「せ、性しょ…………!?」

 

セシリアが顔を青白くさせる。

そんなセシリアに向かって春万が一歩踏み出した。

セシリアは後ろに下がろうとしたが、まだダメージが残っているのか足が上手く動かずにその場で転んでしまう。

 

「うっ………!」

 

そんなセシリアに春万が近付いていく。

 

「い、いや…………来ないでください…………!」

 

それでも、春万は近付いてくる。

 

「いや…………! いやぁあああああああああああっ!!」

 

ピット内にセシリアの悲鳴が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

反対側のピットでは、翡翠が出撃準備を完了させていた。

 

「翡翠ちゃん。無理しないでね」

 

そんな翡翠に刀奈こと楯無が声を掛ける。

 

「……………………」

 

翡翠はそんな楯無には答えずにカタパルトに乗ると、そのまま発進していった。

 

「翡翠ちゃん…………」

 

そんな翡翠の背を、楯無は心配そうに見送った。

 

「………さて、月影の対戦相手だが…………」

 

姿を現さないミスターXに千冬は視線を一夏へ向ける。

すると一夏は、

 

「エミリ?」

 

エミリに声を掛ける。

すると、

 

「ん………今アリンから連絡が来たよ。たった今到着したって」

 

エミリが目を瞑って何かを感じるような仕草をした後に目を開いてそう言った。

それを聞いて一夏が、

 

「先生、アリーナのシールドを5秒だけ解除してください」

 

千冬を見ながらそう言った。

千冬は少しの間一夏を見ていたが、

 

「……………山田先生、一夏の言う通りに」

 

「は、はい………!」

 

真耶に指示をだし、真耶がコンソールを構い始めた。

 

 

 

 

 

 

アリーナの中央で滞空していた翡翠。

その機体はラファール・リヴァイヴをベースに漆黒に染め上げられ、各部にスラスターを増設し、両腕にパイルバンカー。

両肩にシールドを装着し、パススロットの中にはスナイパーライフルや近接ブレード、ガトリングガン、アサルトライフルなど多種多様な武器が収納されている。

翡翠が黙って待っていると、アリーナのシールドが突然解除された。

すると、そのタイミングで上空から急降下してくる機体があった。

その機体は翡翠と同じ高さで停止し、その姿を見せた。

その機体は黒を基調として各部に紫のラインが描かれ、特徴的なのはその背に広がる紫に輝く蝶の羽のような形のエネルギーウイング。

そしてその手にはやや大きめの刀剣が握られている。

しかし、その顔にはバイザーが掛けられ顔は確認できない。

 

「「……………………」」

 

無言で互いを見やる翡翠とその相手。

すると、

 

『お前が遅れてきた新入生だな。丁度いい、そこで自己紹介をしろ』

 

千冬が通信でそう呼びかける。

 

「………………この機体の名は紫心(ししん)……………俺の名は…………この試合が終わるまでは伏せさせてもらう」

 

『おい、貴様…………!』

 

千冬が諫めようとした所で、

 

「かまいません……………」

 

翡翠が呟く。

 

「相手が誰だろうと、興味ありませんから…………」

 

翡翠はそう言いながらその手にスナイパーライフルを呼び出す。

 

『ッ~~~~~~~~……………わかった………』

 

千冬は頭を悩ませながらも呆れた様に了承する。

すると、開始のカウントダウンが表示され、ゼロになった瞬間、翡翠が相手へ向けて発砲した。

開始直後の先制攻撃。

これは翡翠が先程の試合のセシリアを見て効果的だと思ってこの試合でも使ってみたのだ。

だが、

 

「ハッ!」

 

相手はその場を動かずにその刀剣で弾丸を斬り払った。

 

「ッ!?」

 

流石の翡翠も目を見開いて驚愕を露にする。

ピットでも大騒ぎだった。

 

「なっ!? スナイパーライフルの弾丸を斬り払った!?」

 

真耶が大袈裟に驚く。

 

「ア、ISを纏っているとはいえ、そんな事が可能なのか!?」

 

箒もその事実に驚きを隠せない。

 

「まあ、あいつならこの位やってのけるだろうな」

 

一夏は特に驚かずに逆に納得していた。

 

「開始直後の先制攻撃は素人相手には効果的だが熟練者には通用しない。覚えておくといい」

 

相手の言葉に翡翠は眉を顰めると、再びスナイパーライフルを構える。

その瞬間、相手も動き出した。

翡翠を中心に弧を描くように翡翠へと接近する。

翡翠もスナイパーライフルを撃つが、高速移動中の相手には掠りもしない。

 

「高速移動しながら近付いてくる相手には、スナイパーライフルのような単発攻撃はよほどの自信が無い限り使わない方が良い。それよりもガトリングガンや、アサルトライフル、マシンガンなんかで弾幕を張った方が効果的だ」

 

相手はそう言いながら翡翠に肉薄し、刀剣の一閃にてスナイパーライフルを両断する。

 

「ッ!?」

 

翡翠は即座にスナイパーライフルを手放し、爆発から逃れた。

翡翠は新たにグレネードランチャーを呼び出し、それを構える。

すると、

 

「…………月影 翡翠………………お前の望みは何だ?」

 

「……………………?」

 

翡翠は突然の問いに目を細めて訝しむ。

 

「この試合が終わった後に、お前の望みを叶えてやる」

 

「ッ…………! 無理」

 

「俺はお前の望みなら叶えてやれると思っている」

 

その言葉を聞いた瞬間、翡翠は目付きを鋭くして、

 

「なら、知りたいなら教えてやる!」

 

グレネードを乱射しながら突っ込んできた。

 

「私の望みは、お兄ちゃんを殺したあの女をこの手で殺すことだ!!」

 

相手はグレネードをひらりひらりと躱していく。

 

「その望みは誰にも譲らない!! 私がこの手て殺す!! だからお前には無理だ!!」

 

心の内を吐き出すように翡翠は叫ぶ。

その言葉と共に相手は爆煙に包まれた。

 

「翡翠ちゃん…………」

 

楯無は悲しそうな顔をする。

 

「…………………」

 

千冬は翡翠自身に危機感を感じていた。

 

「……………………本当にそれが望みか?」

 

その瞬間、爆煙を切り裂くように相手が飛び出してきてグレネードランチャーを切断する。

 

「くっ!?」

 

翡翠は咄嗟に手放すが至近距離の為シールドを展開して爆風から身を守る。

 

「何が言いたい!?」

 

翡翠はブレードを呼び出して相手に斬りかかった。

 

「本当にそれがお前の一番の望みなのかと聞いている」

 

「ッ! 当たり前だ!!」

 

翡翠は感情に任せるままにブレードを振り下ろす。

だが、相手はそのブレードに自身の刀剣を添える様に突き出すとあっさりとその一撃を受け流した。

 

「ッ!?」

 

翡翠は体勢を崩し、慌てて立て直して攻撃に備えるが、相手は一定の間合いを空けたまま攻撃を仕掛けてこない。

 

「どういうつもりだ!?」

 

舐められていると思った翡翠は思わず叫ぶが、

 

「………………月影 紫苑」

 

「ッ!?」

 

その名に翡翠は激しく動揺した表情を浮かべた。

 

「お前の兄だな?」

 

「何故お前がお兄ちゃんを知ってる!?」

 

「そんな事は如何でもいい。お前の望みは兄の復讐か?」

 

「それが如何した!? お前も復讐なんか無意味だからやめろというのか!?」

 

「………………………別に復讐を止めろというつもりは無い。その資格も権利も俺には無い…………」

 

「えっ?」

 

予想外の言葉に翡翠は思わず声を漏らす。

 

「…………だがな、仮にお前は復讐を成し遂げた後、前へ進めるのか?」

 

「な、何を…………」

 

「復讐とは言わば自己満足だ。復讐を成し遂げたとしても死んだ人間は蘇らないし何も戻ってはこない。それを分った上で復讐を遂げなければ前へ進めないというのなら俺は復讐を止めるつもりは無い。だがな……………」

 

相手は言葉を一旦切ると翡翠を見据える。

 

「復讐の為だけに生きる事を是とは思わない……………!」

 

その言葉と同時に相手が斬りかかってくる。

 

「ッ!」

 

翡翠は咄嗟にブレードで受け止める。

 

「お前の兄は、お前が復讐の為だけに生きる事を喜ぶような人間なのか?」

 

「ッ………! 黙れ!」

 

一瞬言葉に詰まった翡翠は力任せにブレードを振り回すが、その一撃は弾かれ、その隙に相手が懐に飛び込んでくる。

そして、

 

「クロスコンビネーション!」

 

流れるような乱撃を受け5撃目で上空に打ち上げられ、続けて回り込んで叩き込まれた6撃目で地面に叩き落とされた。

 

「あぐぅっ…………!」

 

翡翠はダメージで苦しそうな声を上げる。

 

「………う、このっ……!」

 

だが翡翠は立ち上がった。

すると、

 

「………………俺にも妹がいる」

 

「だから何だ!?」

 

相手の言葉に翡翠はそう返すが、

 

「だが妹は死んだ…………“殺された”」

 

「ッ!?」

 

続けて言われたその言葉に翡翠は絶句した。

 

「その時の絶望感は二度と味わいたくはない…………お前が復讐の道を歩むことも仕方のない事だと思う………………俺も妹を殺した相手が目の前に現れれば平静でいられる自信はない……………」

 

「だったら…………!」

 

「だが、俺は復讐の道を選ばなかった。俺を絶望から救い出してくれた奴がいた事も理由の一つだ。だが何よりも、妹は俺が復讐の為に生きる事は望まなかったと思う…………」

 

「う……………」

 

「お前も仮に兄ではなくお前が死んだとして、兄が復讐の道を歩むことを望むか?」

 

「そ、それは……………」

 

その言葉に思わず言葉に詰まる翡翠。

 

「それが答えだ」

 

「………………………」

 

その言葉に翡翠が俯く。

だが、

 

「…………………だったら………!」

 

翡翠が俯いたまま呟く。

 

「だったら如何すれば良かったの!?」

 

翡翠はそう叫びながらブレードを振り被って突っ込んできた。

 

「あなたには助けてくれた人が居たのかもしれない!! だけど私には居なかった!! 私にはお兄ちゃんしかいなかったの!!」

 

そう叫ぶ翡翠の瞳からは涙が溢れている。

その痛々しい叫びをピットで聞いていた楯無は、

 

「………………………ッ!」

 

まるで我慢が出来なくなったように駆け出した。

 

 

ブレードを振り回す翡翠。

 

「うぁあああああああああっ!!」

 

それはまるで泣き叫ぶ子供が駄々を捏ねる様なもので、相手にとっては受け流すのは容易い。

だがその時、

 

「はぁああああああああああっ!!」

 

別方向から楯無が専用IS『ミステリアス・レイディ』を纏い、ランスを構えて突っ込んできた。

 

「ッ………!」

 

そのランスの一突きを、刀剣の切っ先から刀身に添わせるようにランスの切っ先を逸らし、受け流した。

 

「クッ!」

 

受け流された楯無は、すぐに体勢を整え、翡翠を護るように立ちはだかる。

 

「誰だか知らないけど、これ以上私の友達を追い詰めるような真似をしないでくれるかしら?」

 

ランスを構えながら、真っ直ぐに相手を睨み付ける楯無。

 

『おい! 更識!』

 

千冬が思わず通信で割り込む。

 

「すみません織斑先生………だけどこれ以上は………!」

 

『しかし…………!』

 

「構わない。このまま続けるぞ」

 

楯無の乱入を了承したのは相手本人だった。

 

『ッ…………! いいんだな?』

 

「ああ」

 

『試合を続行する!』

 

千冬の言葉で再び向かい合う楯無と相手。

すると、

 

「……………更識 刀奈か」

 

その言葉を聞いた瞬間、楯無の眉が吊り上がる。

 

「…………その名前を知ってるなんて………一体あなたは何者なの………!?」

 

楯無は内心の動揺を悟られないよう表面上を取り繕いながらそう問いかける。

 

「さあな………」

 

答える気の無い相手に楯無はキッと睨み付けてランスを握りしめる。

 

「そう………なら……………答えたくなるようにしてあげるわ!」

 

楯無が瞬時加速(イグニッション・ブースト)で相手に突っ込みながらランスを突き出す。

だが、

 

「甘い………!」

 

ランスの側面を叩くように刀剣がランスの軌道を逸らし、楯無の攻撃は空を切る。

 

「なっ…………!?」

 

楯無が驚愕の声を漏らした瞬間、

 

「クリティカルエッジ!」

 

「きゃああっ!?」

 

袈裟懸けからの切り上げで楯無は空中に投げ出され、

 

「一閃!」

 

「くぅぅっ!」

 

落下のタイミングに合わせて横一閃の斬撃を受ける楯無。

相手はそのまま翡翠に向かって飛翔し、

 

「行かせない!」

 

楯無は左手に連節剣である『ラスティ―ネイル』を展開。

それを伸ばして相手の足に絡みつかせて動きを止める。

 

「翡翠ちゃん!!」

 

楯無は翡翠に呼びかける。

 

「ッ!」

 

その呼びかけの意味に気付いた翡翠はブレードを構えて相手に斬りかかった。

 

「はぁあああああああっ!!」

 

行動が制限されていた相手はその剣を受け止める。

その瞬間、

 

「ここっ!」

 

翡翠は左腕のパイルバンカーを押し付ける。

そのまま弾丸を炸裂させた。

吹き飛ぶ相手。

だが、相手は地面に激突せず、うまく足から地面に着地して体勢を立て直した。

 

「ッ!? どうして!?」

 

第二世代型とは言え、トップクラスの攻撃力を持つパイルバンカーをまともに受けたはずなのにダメージが少ない事に翡翠は驚愕する。

 

「恐らく、パイルバンカーが炸裂する瞬間、真後ろに瞬時加速(イグニッション・ブースト)を使ったんだわ。その所為で、威力が殺され、最低限のダメージしか与えられなかったんだわ」

 

楯無がそう推測する。

すると、

 

「………………お前は嘘つきだな………翡翠」

 

相手が突然そう言った。

 

「ッ!?」

 

「いきなり人を嘘つき呼ばわりとは失礼じゃない?」

 

楯無がそう言い返す。

 

「そうだろう? お前はさっき、自分には兄しかいないと言った。誰も助けてくれる者が居なかったと…………………ならば何故、刀奈はそこにいる?」

 

「「ッ!?」」

 

驚愕の表情を浮かべる2人。

 

「思い出せ翡翠! お前はこの3年間、本当に独りぼっちだったのか!?」

 

その言葉を切っ掛けに、翡翠の脳裏に記憶が蘇る。

2年間の眠りから目覚めた時、隣には楯無………いや、刀奈がいた。

2年間眠っている間、ずっと刀奈や彼女の家族が自分の面倒を見てくれていたと聞いた。

リハビリに励んでいるときも、隣には刀奈や、彼女の妹の簪。

更に彼女達の従者である布仏 虚や布仏 本音達の姿もあった。

退院してからも、刀奈達の家でお世話になり、彼女達の家族にもずっと世話になっていた。

 

「あ……………………」

 

そのことに気付いた翡翠の頬に一筋の涙が流れる。

 

「ごめん………! ごめん刀奈ちゃん…………! ずっと………ずっと刀奈ちゃん達が傍に居てくれたのに、私………私………!」

 

彼女達の想いをずっと無視し続けていた事に気付いた翡翠が刀奈に向かって泣きながら謝る。

 

「翡翠ちゃん…………」

 

刀奈も涙ぐみながら武器を手放し翡翠に歩み寄っていく。

 

「刀奈ちゃん…………!」

 

「翡翠ちゃん…………やっと………やっと戻って来てくれたね………!」

 

刀奈は涙を流しながら笑みを浮かべる。

 

「刀奈ちゃん!」

 

翡翠は刀奈の胸に縋り付くように抱き着いた。

 

「翡翠ちゃん………?」

 

「ごめん刀奈ちゃん…………少しだけ………胸を貸して…………」

 

翡翠は震える声で刀奈の胸に顔を埋める。

その理由に気付いた刀奈はゆっくりと優しく翡翠を抱きしめ、

 

「うん…………顔、隠しといてあげるから…………今は…………」

 

「うん………うん………! ごめんね…………ごめんね………!」

 

そう言葉を交わした後、

 

「…………………う、うぇ……………うぇええええええええええええええええええん!!!」

 

沢山の生徒が見ている前であるにも関わらず、翡翠は大声を上げて泣き出した。

 

「お兄ちゃん! お兄ちゃぁぁぁん!! うわぁああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 

それは、翡翠が目覚めてから一度として流さなかった、兄である紫苑を失った事に対する悲しみの涙。

 

「翡翠ちゃん……………!」

 

刀奈もそれに感化されたのか、翡翠程あからさまではないにしろ、口元を押さえてすすり泣いていた。

 

 

 

10分ほど泣き続けた後、漸く落ち着いてきたのか翡翠の泣き声が小さくなっていた。

すると、

 

「月影 翡翠…………」

 

ずっと黙っていた相手が口を開く。

 

「えっぐ………ぐす…………ふえ?」

 

まだ少しぐずりながらも、翡翠は刀奈の胸から振り向いて相手を見る。

 

「改めて問おう。お前が今一番望むことは何だ?」

 

試合の最初の方に問われた問いかけ。

その時、翡翠は復讐することで頭が一杯だった。

だが今は、

 

「…………叶わないことは分かってるけど………………お兄ちゃんに………お兄ちゃんに……会いたい…………」

 

心の奥底に眠っていた、本当の望みを口にした。

 

「………………そうか」

 

相手はそう呟くと、

 

「先程の話の続きだが、妹は死んだと言ったが、実際は生きている」

 

「えっ…………?」

 

「俺もその事を知ったのはつい最近だ。その時まで、俺は本気で妹が死んだと思っていた。同時に、妹も俺が死んでいると思っているそうだ」

 

「それなら! 早く会いに行ってあげないと………!」

 

翡翠は自分の境遇に近いその相手の妹に親近感を覚え、そう言った。

 

「ああ、そうだな…………だから会いに来た」

 

相手は翡翠を見ながら言う。

 

「え?」

 

「俺と妹は3年前、テロに巻き込まれた。気を失ってから目覚めた俺は、目の前にあった血の中に沈んだ妹の右腕を見て妹は死んだと思い込んでしまった……………」

 

「………………ッ!?」

 

刀奈は思わず翡翠の右腕を見る。

その腕は3年前のテロ事件で失われ、現在は義手となっている。

 

「詳しくは後で話すが、俺はその瞬間、この世界から消えた……」

 

「消えた?」

 

刀奈が思わず聞き返す。

 

「言った通りだ。俺は何の因果かこの世界そのものから弾き出され、別次元の世界に辿り着いた……………その為、妹が生きていたことなど知る由もなかった…………同時に、生き残っていた妹にも、俺を探す手段などあるはずもなく、死んだと思い込んでいても不思議はない」

 

相手はそう言いながら顔のバイザーに手を掛ける。

 

「だが、つい最近偶然にもこの世界に戻ってきた…………その時に妹が生きていることを知った…………だから、こうして会いに来た…………」

 

そして、そのバイザーを外した。

 

「「ッ!?」」

 

翡翠と刀奈が同時に息を呑んだ。

バイザーの下から現れた顔は、死んだと思っていた翡翠の兄、月影 紫苑だったのだから。

紫苑は笑みを浮かべ、

 

「久し振りだな…………翡翠、刀奈」

 

3年前と変わらない姿と声でそう言った。

 

「………………お、お兄ちゃん……………?」

 

「……………………紫苑さん?」

 

翡翠と刀奈は呆然とした声で確認する。

 

「ああ」

 

紫苑は迷いなく頷いた。

 

「…………ッ! ううっ…………! 本当に………本当に、お兄ちゃん?」

 

涙を我慢しながら再度確認を取る翡翠。

 

「もちろんだ」

 

再び迷いなく頷く紫苑。

 

「ッ! お兄ちゃん!!」

 

遂に我慢できなくなった翡翠が飛び出し、紫苑に抱き着いた。

 

「お兄ちゃん! お兄ちゃん!!」

 

翡翠は泣きながらお兄ちゃんと繰り返し叫ぶ。

そんな翡翠を紫苑は優しく抱きしめる。

 

「心配かけたな…………翡翠………」

 

そう言うと、翡翠は紫苑の胸の中で首を振る。

 

「ううん…………また会えて嬉しい…………本当に願いを叶えてくれたんだね」

 

「フッ…………」

 

静かに微笑む紫苑。

 

「紫苑さん……………!」

 

そんな2人を涙を流しながらも笑みを浮かべた刀奈が嬉しそうに見つめていた。

 

 

 

 

 

 





はい、EXルート第4話です。
今回は紫苑と翡翠の再会…………と、セシリアと春万の対決をお送りいたしました。
それにしても、セシリアがヤバい。
このまま春万の毒牙にかかってしまうのか!?(するわけないけど)
あと、分かっていると思いますが、紫苑の専用機は名前の如くパープルハートがモチーフになってます。
って事は一夏の専用機は……………
次回をお楽しみに。


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