超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス   作:友(ユウ)

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第5話 白の(ブラザー)

 

 

 

 

再会を終えた紫苑と翡翠、そして楯無がピットへと戻ってくる。

翡翠はその間、ずっと紫苑の腕にしがみ付いて離れようとはしなかった。

すると、

 

「ねえ、紫苑さん」

 

楯無が紫苑に話しかけた。

 

「ん?」

 

「どうして紫苑さんはすぐに自分だと名乗り出なかったんですか?」

 

楯無が気になっていたことを尋ねる。

それを聞くと紫苑は、

 

「…………まあ、見ての通り、翡翠は若干ブラコンの気があるからな。普通に名乗り出ると今まで以上に翡翠は俺に依存してしまう…………そうなったらもし俺に何かあった時に翡翠は今度こそ破滅してしまうと思ったからな………だから最初の一歩は自分で踏み出して欲しかった……………そんなところだ」

 

「お兄ちゃん……………」

 

「…………………………」

 

紫苑の言葉に翡翠は声を漏らし、楯無は僅かに微笑む。

すると、

 

「ねえ、紫苑さん」

 

「何だ?」

 

楯無は一呼吸置くと、

 

「紫苑さん、翡翠ちゃんの事ブラコンって言ってましたけど、紫苑さんも大概シスコンですよ♪」

 

ニッコリと笑みを浮かべてそう言った。

 

「………………………まあ、否定はしない」

 

紫苑は少しの沈黙の後そう答えた。

皆の前に辿り着くと、それぞれがISを解除する。

翡翠、楯無と続き、紫苑がISを解除する。

すると、紫苑が解除したISの粒子化した光が集まり、人型を形作る。

その光が収まると、薄紅色の髪をツインテールにした、腰に4枚の妖精のような羽のある少女が姿を見せた。

 

「ふう………」

 

その少女は一息つくと、呆然としている皆の方を向き、ニッコリと笑うと、

 

「初めまして! 私はアリン! 紫苑のISのコア人格よ! よろしくね!」

 

「「「「えーーーーーーーーーっ!?」」」」

 

翡翠、楯無、箒、真耶が驚愕の声を上げ、千冬も目を見開いて驚愕している。

すると、エミリがアリンに駆け寄り、

 

「アリン、お疲れ様」

 

そう声を掛けた。

 

「エミリ! 一週間ぶりね!」

 

アリンも笑顔で応える。

すると、

 

「…………あー、とりあえずお前、自己紹介をしろ」

 

いち早く我に返った千冬が紫苑に向かってそう言う。

 

「月影 紫苑です。こんな(なり)ですが翡翠の兄で17歳です」

 

「「17歳!?」」

 

身長約150cmの紫苑を見て、真耶と箒が思わず叫んだ。

 

「……………そう言いたくなる気持ちは良く分かるが、これでも気にしてるんであんまり突っ込んでくれない方がありがたいです」

 

紫苑はやや哀愁を漂わせながらそう言った。

 

「ご、ごめんなさい………」

 

「し、失礼しました………」

 

「……………はぁ」

 

謝られると余計惨めになると言いたくなる気持ちを抑えて、紫苑はそっぽを向いて溜息を吐く。

 

「で、さっきも言ったけど、こっちが俺の専用IS『柴心』のコア人格であるアリンだ」

 

「改めてよろしく!」

 

紫苑に改めて紹介され、笑顔で答えるアリン。

 

「ISのコアには意識のようなものがあるとは知ってたけど、こんなにハッキリ人格が現れて、しかも人化するなんて…………」

 

楯無がそう漏らす。

 

「まあ、私も何でこんなことが出来るようになったのかは分からないんだけどね」

 

アリンがそう答える。

紫苑は内心女神の力の影響かなと思っていたりする。

すると、

 

「なあ紫苑」

 

「なんだ?」

 

一夏が話しかけてきたのでそちらを向くと、

 

「お前、妹さんと並んでると、逆にしか見えないぞ」

 

「やかましい!」

 

先程から自分でも気にしていた事を指摘され、紫苑は思わず叫んだ。

隣の翡翠に振り向く。

翡翠の身長は160cmと女子としてはそれなりに高い方だ。

3年前は同じぐらいだったのだが、今では紫苑が見上げる形となっている。

2年ほど昏睡状態になっていたのに身長も含め、色々と発育の良い翡翠に紫苑は少し解せない感情を抱いた。

すると、千冬がパンパンと手を叩き、

 

「積もる話もあるだろうが時間は有限だ。織斑兄、お前の出番だ。準備をしろ!」

 

「わかった」

 

千冬の言葉に一夏は頷き、カタパルトの方に歩いていく。

すると、エミリもその後に続き、

 

「なら行くか! エミリ!」

 

「うん!」

 

声を掛ける一夏と、それに頷くエミリ。

 

「「「「?」」」」

 

その行動に首を傾げる楯無、翡翠、箒、真耶。

するとエミリが光を放つと粒子に分解され、一夏を取り巻くようになる。

そして、一夏が光に包まれ一瞬強く光ったかと思うと、一夏はISの装甲を纏ってそこに佇んでいた。

一夏のISは白を基調に所々水色のラインが描かれ、背中には四角い形の水色をしたエネルギーウイングが浮かんでいる。

 

「準備完了!」

 

一夏がそう言うと、

 

「「「「ええええーーーーーーっ!?」」」」

 

またエミリの正体を知らなかった4人が驚愕の声を上げた。

 

「エ、エミリちゃんもISだったんですか………見た事ない子だとは思っていましたが………」

 

真耶が呆然と呟く。

千冬はやれやれと溜息を吐き、

 

「時間も押している。一夏、すぐに発進しろ……………! 頑張ってこい」

 

千冬は一夏に発進を促すが、最後に小さく声援を送る。

それが聞こえた一夏は笑みを浮かべた。

 

「頑張れ! 兄さん!」

 

マドカも一夏に声援を送り、

 

「い、一夏…………!」

 

箒は一夏を応援しようとしていたが、中々言葉が出てこない。

すると、

 

「箒………!」

 

「な!? 何だ………!?」

 

突然一夏から声を掛けられ、ビックリする箒。

 

「……………行ってくる!」

 

「ッ……………あ、ああ! 勝ってこい!」

 

一夏の言葉にそう返す箒。

一夏はカタパルトに立ち、

 

「織斑 一夏。『白心(はくしん)』、行くぜ!」

 

一夏はそう宣言すると、アリーナに向けて飛び立った。

 

 

 

 

一夏がアリーナに出て少しすると、反対側のピットから春万が白式を纏って飛び出してくる。

春万は素人とは思えない飛び方で一夏の前に到達すると、一夏より少し高い位置から一夏を見下ろす。

 

「良く逃げなかったな、落ちこぼれ!」

 

「………………………」

 

その言葉に一夏は無言を貫く。

 

「落ちこぼれのお前を相手するのは時間の無駄なんだ。だから潔く棄権したらどうなんだ?」

 

「………………………」

 

一夏は何も答えない。

 

「はっ! どうした!? 言い返すことも出来ないのか!?」

 

一夏を見下した態度でそう言う春万。

すると、

 

「………………春万」

 

一夏が口を開いた。

 

「何だ? 落ちこぼれ」

 

「俺達も賭けをしようじゃないか」

 

「賭け?」

 

春万は突然の一夏の発言に怪訝な表情をする。

 

「ああ。俺が負けたらお前の奴隷にでも何でもなってやる。命を断てというのなら潔く断ってやろう」

 

「は!?」

 

一夏の言葉に春万は思わず声を漏らす。

 

「だが、俺が勝ったら………………オルコットさんに言った奴隷発言を撤回してもらう」

 

「ッ……………!? な、何を言ってるんだお前は? もしかしてあの事を本気にしているのか? あれはただのその場の勢いで言った冗談だぜ」

 

一夏の言葉に春万は一瞬動揺するが、表情を取り繕ってそう返す。

 

「冗談なら冗談でいいさ。それならこの言葉も冗談にすればいい。だが、もし本気だとすれば俺はそれを放ってはおけない。命を賭けてでもその言葉を取り下げさせてやる!」

 

「ッ…………!? 頭イカれてんじゃねえのかお前!? 何だってそんな…………!」

 

春万がそう言いかけると、

 

「どうした春万? 落ちこぼれ相手に真のエリート様が臆するのか?」

 

まるで春万を嘲笑う様な言い方をする一夏。

 

「ッ! 言うじゃないか! そこまで言うなら受けてやる! それでその言葉を後悔させてやる!!」

 

「決まりだな」

 

怒りで顔を赤くする春万に対し、一夏は静かにそう言った。

 

『準備は良いか?』

 

千冬の通信が来る。

 

「いつでも!」

 

春万が雪片を呼び出し、それを構えながら叫ぶ。

すると一夏は目を瞑る。

 

『エミリ…………』

 

一夏は心の内でエミリに呼びかける。

 

『一夏、武器は如何する? 戦斧?』

 

エミリがそう尋ねるが、

 

『いや、今回は『剣』でいく』

 

『うん、わかった。 展開するね』

 

エミリの答えを聞くと一夏は目を開き、右手を前に突き出す。

するとそこに光が集まっていき、

 

「なっ!?」

 

春万の驚愕の声と共に、ISの全高を超える大きさの大剣が展開された。

一夏はそれを掴んで片手で一振りすると、肩に担いだ。

 

「俺も良いぜ、織斑先生」

 

そう答える一夏。

すると、試合開始のカウントダウンが表示され、ゼロと共に一夏が飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

数分前。

 

「…………ッ…………ううっ……」

 

セシリアは床に座り込み、声を押し殺しながら泣いていた。

紫苑と翡翠の試合の最中、セシリアはずっと春万から辱めを受けていた。

唇と純潔こそ奪われていないものの、胸を、臀部を、体の至る所を撫でまわされ、嫌がる反応を春万は楽しそうに眺めていた。

運よく次の行為が始まる前に試合が終了し、千冬から試合の準備をするようにと春万に連絡が行ったため、行為は中断した。

セシリアがホッとしたのもつかの間、

 

「続きは戻ってきてからだ。君の処女はその時に頂く。そこで俺が戻ってくるのを待ち続けるといい」

 

耳元でそう囁かれ、セシリアは絶望し思わず座り込んでしまった。

 

「………………………………」

 

いつの間にか涙も止まり、セシリアの目は光を失っていた。

 

(このまま…………あんな男の奴隷として一生を弄ばれるぐらいなら……………)

 

セシリアは名門貴族の出であり、恋愛結婚には憧れは持つが、政略結婚として好きでもない男に抱かれる覚悟はあった。

だが、春万は問題外だ。

彼に抱かれてもオルコット家に何のメリットも無ければ、性格も猫を被っているだけで最悪だ。

恋愛感情の欠片すら持てない。

春万に抱かれるなど屈辱以外の何ものでもない。

セシリアは心の中が絶望に染まったまま、先ほど春万が補給の為に使っていた工具箱の中にあったカッターナイフを手にする。

 

(………………いっそここで………………!)

 

カッターナイフの刃を伸ばすと、自分の首筋に向かって突きつける。

そして、そのまま自分の首を刺そうとした瞬間、

 

『だが、俺が勝ったら………………オルコットさんに言った奴隷発言を撤回してもらう』

 

モニターに映っていた一夏の言葉がセシリアの耳に届いた。

 

「ッ!?」

 

瞬間、セシリアの目に光が戻り、思わずモニターの方を向いた。

 

『ッ……………!? な、何を言ってるんだお前は? もしかしてあの事を本気にしているのか? あれはただのその場の勢いで言った冗談だぜ』

 

『冗談なら冗談でいいさ。それならこの言葉も冗談にすればいい。だが、もし本気だとすれば俺はそれを放ってはおけない。命を賭けてでもその言葉を取り下げさせてやる!』

 

「ッ………! あの方は…………!」

 

その言葉にセシリアの胸に熱い何かが灯った。

だが、それでも心の何処かで諦めが支配している。

それも当然だ。

かの有名な織斑 千冬の2人の弟。

双子の弟の春万は天才として有名だが、兄の一夏は落ちこぼれとして有名だった。

そこまで詳しくは無いが、セシリアもその程度の噂は聞いていた。

故に、この勝負に勝つのも間違いなく春万だと確信していた。

だが、それでも………………

 

「それでも………今だけはあなたという希望に縋らせてください………“一夏さん”」

 

セシリアは首筋に突きつけていたカッターナイフを降ろす。

一夏は自分の為に命を賭けると言ってくれた。

例えそれが冗談やその場の勢いで言った言葉だとしても、セシリアは一夏に感謝していた。

ならば、命を断つのは一夏の勇姿を見届けてから。

そう思ってセシリアはモニターを見つめた。

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ紫苑さん」

 

反対側のピットで楯無が紫苑に声を掛けた。

 

「ん?」

 

「一夏君の実力はどの位なんですか?」

 

そう質問する楯無。

 

「一夏か………? 一夏は簡単に言えば猪突猛進。フェイントや搦め手を嫌い、正々堂々真正面から挑みかかる事を信条としている」

 

「……………それって、春万君相手にはすっごく相性悪いんじゃ…………?」

 

楯無は先程のセシリアと春万の試合を見て、春万の技量を推測してそう言う。

 

「…………………さて、それは如何かな?」

 

「え?」

 

「確かに一夏の剣は単純だ。真っ直ぐ、速く、力強く。ただそれだけだ。だがな……………一夏の剣は生半可な『技』ごと叩き切る!」

 

 

 

 

 

 

 

 

試合開始のブザーが鳴った瞬間、一夏は一瞬で春万の目の前に移動し、大剣を振りかぶっていた。

 

「なっ!?」

 

(は、速い!? いつの間に!?)

 

春万は驚愕するが、その才能は伊達ではない。

ギリギリで反応していた。

 

(躱すのは無理か! それなら受け流してカウンターを叩き込んでやる!)

 

一瞬の内に春万は思考すると、迫りくる大剣を受け流すために剣を添える。

 

(ここだ! ここで受け流して…………!)

 

大剣が雪片に触れる。

雪片が押し込まれる。

 

(受け流して…………!)

 

春万は雪片に力を籠める。

雪片が押し込まれる。

 

(受け流して………………!?)

 

春万は更に力を加える。

だが雪片は押し込まれる。

 

(受け流………………せないっ!?)

 

「はぁああああああああああああああああああああっ!!!」

 

一夏の気合の入った声と共に振り抜かれた大剣は、受け流そうとした春万の雪片ごと押し込み、春万に直撃。

 

「うわぁああああああああああああっ!?」

 

春万はかなりの勢いで吹き飛び、地面に叩きつけられた。

 

「ぐはっ!?」

 

クレーターが出来る程の勢いで叩きつけられた春万。

 

「ぐぐぐ…………そんな馬鹿な…………」

 

何とか起き上がるが、シールドエネルギーをチラリと確認すると、今の一撃で全体のシールドエネルギーの4分の1程が削られていた。

 

「どうした春万? いつまで寝ているんだ?」

 

空中で一夏が春万を見下ろす。

 

「くっ………! 偶然いい一撃が入ったからって調子に乗るな!」

 

春万は『零落白夜』を発動。

雪片のエネルギーブレードで斬りかかってくる。

 

「うぉおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

無駄のない、流れるような動きで剣を振る春万。

だが、

 

「はあっ!」

 

それとは逆で、荒々しく、力強い振りで迫りくる剣戟を叩き落す一夏。

 

「くっ!」

 

一撃を叩き落され、春万は即座に体勢を立て直そうとした。

一夏の大剣の威力は脅威だが、小回りは自分の雪片の方が利く為、連撃では自分に分があると判断したのだ。

だが、体勢を立て直した春万の視界に切り返して迫ってくる一夏の2撃目が映った。

 

「なっ!?」

 

対処する間もなくその一撃を受け、吹き飛ばされてアリーナのシールドに叩きつけられる春万。

 

「がああっ!?」

 

苦しそうな声を上げる。

春万は何とか空中に留まり、一夏を睨み付ける。

 

「はあ……はあ………馬鹿な………何でこの俺が一方的に…………!? 俺の剣は千冬姉さんの剣だぞ! 世界一の剣だ! 何でそれがあんな落ちこぼれなんかに!?」

 

「………………春万。確かにお前は千冬姉の剣を完璧に真似ている。並の相手ならお前の相手にもならないだろう」

 

「そんな事は分かっている! 俺は天才なんだ! 落ちこぼれのお前とは違う!!」

 

「確かにお前は天才だ。『技』だけで見ればお前に敵う奴なんてほんの一握りだろう。だけどな、お前の使っている剣はあくまで千冬姉のモノだ。千冬姉が何年も修業し、積み重ね、研鑽を繰り返して得た千冬姉だけの剣だ。お前はそれをただ真似ているに過ぎない」

 

「それの何が悪い!? 千冬姉さんの剣は最強だ! そして、その剣を完璧に使える俺も最強なんだ!」

 

「……………それは違う。いくら千冬姉の剣を真似ても、お前は千冬姉には届かない」

 

「何だと!?」

 

「千冬姉の剣は千冬姉が使うから最強なんだ。骨格、筋肉の付き具合、癖、性格………あらゆるモノを含めて千冬姉が自分に合うように最適化された剣だ。いくらそれを完璧に真似ようと、千冬姉ではないお前には絶対に100%扱い切ることは出来ない!」

 

「落ちこぼれが偉そうに!」

 

春万は瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一夏に向かって突っ込んでくる。

だが、一夏はそれを難無く受け止めると、

 

「春万………お前の『剣』は軽いな」

 

一夏はそう言った。

 

「なにぃ………!」

 

春万は強引に押し切ろうとするがビクともしない。

 

「『技』こそずば抜けているけど、『力』も『心』も籠っていない。才能だけに頼った軽い剣だ」

 

一夏はそう言うと、鍔迫り合いの状態から軽い動作で春万を押すと、

 

「うわっ!?」

 

春万は想像以上の押しの強さにその場で堪えることが出来ず、後ろに飛ばされ間合いが開く。

 

「くそっ! 調子に乗るなよ、この落ちこぼれが!」

 

「………………春万。さっきも言ったが確かにお前は天才だよ」

 

「それが如何した! 当たり前の事を何度も言うな!」

 

一夏の言葉に春万はそう返す。

 

「……………お前の才能をダイヤモンドの原石だとするのなら、俺の才能は精々鉄鉱石レベルだろう…………」

 

「フン、身の程を分かっているじゃないか………」

 

「確かに原石のままならその輝きも価値も、圧倒的にダイヤモンドの方が上だろう…………けどな………」

 

その言葉と共に、一夏は一瞬で春万の懐へ飛び込んだ。

 

「なっ!?」

 

春万が驚愕の声を漏らした瞬間、

 

「俺がいつまでも原石のままだと思ったら大間違いだ!」

 

その言葉と共に、強烈な薙ぎ払いが春万の胴へと叩き込まれる。

 

「ごはぁっ!?」

 

春万は吹き飛ばされ、地面に叩きつけられる。

 

「例え鉄鉱石だとしても、精製し、鍛え、研磨し、磨きさえすれば、原石のままのダイヤよりいくらでもその価値や輝きを増すことが出来る!」

 

「なにぃ………!」

 

「お前はダイヤの原石のままの自分で満足してしまったんだ。磨けばいくらでも輝くことが出来たのに…………」

 

「うるさい! 真の天才の俺に努力なんて必要ないんだぁ!」

 

そう叫びながら再び斬りかかってくる。

一夏はその斬撃を軽々と受け止めると、

 

「………………ダイヤは鉱物の中で最も硬くて研磨は難しいと聞くが、お前にとってのダイヤの硬さはその性格だな…………」

 

一夏はやや呆れた表情で溜息を吐きながらそう言う。

春万はその性格故、努力をせず、全てを才能のみで乗り越えてきた。

それだけの才能があったために挫折を知らず、努力をしなくとも成功を収めてきた春万にとって、努力をするという事はもっとも忌み嫌うものであった。

 

「黙れ! 落ちこぼれのお前はさっさと天才()の前に跪けばいいんだよぉぉぉぉっ!!」

 

春万は一旦退いて即座に瞬時加速(イグニッション・ブースト)で一夏の後ろに回り込んで一撃を与えようとした。

だが、

 

「知ってるか…………?」

 

一夏は振り向き様に大剣を薙ぎ払う。

春万の雪片の刃と一夏の大剣がぶつかり合った。

 

「鉄とダイヤを擦り合えば削れるのは鉄の方だけど、ぶつかり合えば砕けるのはダイヤの方なんだぜ?」

 

一夏の大剣が春万の雪片を弾き飛ばし、そのまま振り抜いた一撃が春万を捉える。

 

「ぐはぁぁぁぁぁっ!?」

 

春万は再び吹き飛ばされ、アリーナの壁に激突する。

白式の残りのシールドエネルギーが3分の1を切った。

 

「まだ分からないか春万? お前は所詮井の中の蛙で狭い世界の中でいい気になっていただけなんだよ」

 

「…………………黙れ…………黙れ! 黙れぇぇぇぇぇっ!! 千冬姉さんの剣を捨てたお前が偉そうに俺に説教をするな!!」

 

一夏の言葉に春万はそう言い返した。

すると、

 

「……………………確かに、俺の剣の『型』の中にはもう残っていないのかもしれない…………俺には『刀剣』の才能が無かったからな……………」

 

一夏は少し俯き加減になりながらそう呟く。

しかし、

 

「だけど…………………決して捨てたわけじゃない!! 千冬姉から教わったことは、今でも俺の剣の中に生きている!!」

 

一夏はそう叫ぶと、大剣を正面に掲げる様に切っ先を天に向ける。

そして精神を集中する様に目を閉じると、脳裏に記憶が蘇る。

 

『重いだろう? それが、人の命を断つ武器の重さだ』

 

千冬から初めて真剣を持たされたときに教えられた事。

 

「千冬姉から教わった剣の『心』………」

 

大剣の切っ先で弧を描くように右へ回し始める。

続けて、幼い頃箒と一緒に道場で竹刀を振っていた記憶が蘇る。

春万には敵わなくとも、一生懸命努力していた記憶。

 

「箒達と一緒に『技』を磨いたあの日々………」

 

 

 

「一夏…………」

 

ピットで箒が一夏の言葉を聞いて感慨深い声を漏らす。

 

 

 

 

大剣の切っ先が右から下へと弧を描く。

続けて紫苑に挑み続けたゲイムギョウ界での日常。

 

「紫苑と『力』を競い合った日常…………」

 

大剣の切っ先が下から左へ。

更にルウィーの人々。

家族であるロムとラム。

そして、一夏が護ると決めたフィナンシェ、ミナ、そしてブランが一夏の脳裏に蘇る。

 

「そして…………俺が護るべきモノ!」

 

大剣の切っ先が左から天へと再び掲げられる。

 

「その全てを込めたこれがっ……………!」

 

一夏は上空へ急上昇。

アリーナのシールドギリギリまで上昇する。

すると、即座に反転。

大剣を大きく振りかぶりながら急降下を始めた。

その先には、もちろん春万の姿が。

 

「う、うわぁあああああああああああっ!!??」

 

一夏の気迫に呑まれた春万が意図せずに情けない悲鳴を上げる。

その瞬間、

 

「これがっ! 『俺の剣』だっ!!!」

 

急降下の勢いと共に、大剣を振り下ろした。

その一撃は春万を地面に叩きつけ、地面を陥没させ、そして砕いた。

そして当然そんな一撃を受けたとなれば、シールドエネルギーが耐えきれるはずもなく絶対防御が発動し、

 

『勝者、織斑 一夏』

 

白式のシールドエネルギーが0となり一夏の勝利が確定した。

 

 

 

 

 

『勝者、織斑 一夏』

 

そのアナウンスをピットで聞いていたセシリアが顔を上気させていた。

 

「あ、あの方は………あの方は…………!」

 

セシリアはモニターに映る一夏から目を離せなかった。

落ちこぼれと言われていた一夏。

セシリアは無駄と心の何処かで思いつつ縋り付いた『希望』。

その『希望』は小さく、すぐに闇に呑まれてしまうモノだと思っていた。

だが、

 

『例え鉄鉱石だとしても、精製し、鍛え、研磨し、磨きさえすれば、原石のままのダイヤよりいくらでもその価値や輝きを増すことが出来る!』

 

言葉通り、その『希望』は強く輝き、セシリアを包んでいた絶望という名の闇を払ってくれた。

 

「織斑………一夏…………!」

 

セシリアがその名を呟くと、トクンと心臓が一度高鳴る。

 

「……………一夏…………一夏さん…………一夏さん………!」

 

セシリアは何度も一夏の名を呟く。

一夏の名をハッキリと呼ぶたびに心臓が強く高鳴り、胸の奥に熱い何かが灯っていく。

その顔は、既に恋する乙女のそれだ。

そして、モニターに映っている一夏がピットへ戻っていく姿を見て、セシリアは思わず駆け出した。

 

「一夏さん…………! 一夏さん! 一夏さん!!」

 

何度も一夏の名を口にする。

その度に胸が高鳴り、心が躍る。

既に先程まであった春万の事など欠片も考えてはいなかった。

 

(早く、早く会いたい! 会ってまずは感謝を! そしてこの気持ちを………!!)

 

反対側のピットへと走るセシリアの足は軽快で、今にもスキップしそうなほどだった。

 

「一夏さん…………! わたくしの……………わたくしの王子様!」

 

そんな言葉がセシリアの口から洩れた。

 

 

 

 

 







EXルート第5話です。
本当なら一夏VS紫苑まで書きたかったのだが、この土日中途半端に会社に行くことになったので約半分で断念しました。
さて、一夏対春万の戦いでした。
いや、一方的過ぎたな。
一夏の成長度が馬鹿にならん。
セシリアはチョロインの名に恥じぬ即落ちでした。
さて、紫苑のISのコア人格はフェアリーフェンサーエフの主人公ファングのパートナー妖聖のアリンです。
知らない人は検索で調べてみてください。
一夏のISのモチーフは当然ながらホワイトハート。
ですが今回は大剣を使わせました。
戦斧は次回。
因みに春万に止めを刺した上空への急上昇からの急降下の叩っ切りはスパロボOGダイゼンガーの雲耀の太刀が元ネタ。
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