超次元インフィニット ネプテューヌ・ストラトス   作:友(ユウ)

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第15話 真実の少年(シャルロット)

 

 

 

IS学園に4人目の男性操縦者として転校してきたシャルル。

シャルルの寮の同室者は春万であった。

 

「えっと………君が一夏の双子の弟の春万君だよね? 今日からよろしく」

 

シャルルは同室になった春万に右手を差し出しながらそう言う。

 

「フン! 俺をあんな落ちこぼれの弟なんて呼ぶな!」

 

握手に応えようとはせず、いきなりそんな事を言った春万にシャルルは眉を僅かに顰める。

 

「えっ? で、でも、家族なんでしょ?」

 

「俺はあんな奴を兄だとは思っていない! あいつは俺とは違って何をやってもダメな出来損ないだ! 姉さんの弟を名乗る価値もない!」

 

「だ、だけど聞いた話じゃ、クラス代表を決める時に一夏は春万君に勝ったって…………」

 

シャルルがそう言うと春万がギロリと睨む。

シャルルは、うっと気圧された。

 

「俺が負けたのは機体の性能差だ!! そうでなければこの天才の俺が落ちこぼれに負けるはずが無い!!」

 

そう言って未だに負けを認めようとはしなかった。

 

「そ、そういえばさ、春万君は放課後にISの特訓とかはしてないの?」

 

シャルルは話を変えるようにそう聞いた。

 

「フン! 特訓や努力なんて無駄な事は凡人がすることだ! 真の天才であるこの俺に努力なんて必要ない!」

 

圧倒的に他人を見下す春万にシャルルは嫌悪感に近い感情を覚える。

とてもあの一夏と同じ血が流れているとは思えなかった。

 

(…………何なのこの人…………とてもじゃないけど真面とは思えない…………)

 

どう贔屓目に見ても仲良くなりたいとは思えない人種だとシャルルは判断する。

 

(これは一夏や紫苑の方がずっといいよ…………騙してるって言うのは気が引けるけど…………)

 

シャルルはそう思いながらその夜を過ごした。

 

 

 

 

 

翌日の放課後。

紫苑や一夏達のグループが放課後にISの特訓をしていると聞いて、シャルルはその特訓に参加させてもらうことにした。

 

「と、いうわけで今日からシャルルも特訓に参加することになった!」

 

一夏がそう言う。

 

「一人ぐらい増えても問題ないしな」

 

紫苑もそう言った。

 

「よろしくね!」

 

シャルルが笑みを浮かべて挨拶をすると、

 

「なら、最初はシャルルの実力を計る為の模擬戦からだな。相手は…………」

 

「俺がやろう」

 

一夏の言葉に紫苑が答える。

紫心を纏った紫苑はアリーナの中央に進み出る

 

「わかったよ」

 

シャルルも進み出てアリーナの中央で紫苑と向かい合う。

 

「それじゃあ…………始め!」

 

一夏の合図で2人は動き出す。

 

「フッ!」

 

幾分か抑えたスピードで紫苑がシャルルに斬りかかる。

一方、シャルルも紫苑へ向かって行き、左腕のシールドで紫苑の一撃を防御すると右手の拳を繰り出す。

紫苑は空中で側転する様に回転してそれを躱すと側面から刀剣を薙ぎ払う。

シャルルは飛び上がってそれを躱すと、空中へ上昇していく。

紫苑もシャルルの後を追った。

 

(ほう………機体の操縦は中々の物だ。あいつの機体は第二世代型という話だが、最初の頃のセシリアや鈴よりも動きは良いな)

 

シャルルの後を追いながら紫苑はシャルルを評価していく。

すると、シャルルは振り返りながらその右手にアサルトライフルを呼び出し、紫苑に向けて構える。

 

「ッ」

 

引き金が引かれ無数の弾丸が発射されるが、紫苑はバレルロールを行うように螺旋を描きながら弾丸の周りを舞い踊り、紙一重で避けていく。

 

「ッ!?」

 

シャルルはその事に驚愕の表情を見せるが、そのまま接近してきて斬りかかろうとする紫苑に気付き、急上昇でその一撃を躱す。

そのまま大きく前方宙返りをするように紫苑の後ろへ回り込むと、逆さまの状態でスナイパーライフルを呼び出し、紫苑へ狙いを定める。

紫苑に照準が定まると、

 

「ここっ!」

 

シャルルは引き金を引いた。

高速で弾丸が放たれ、紫苑へ一直線に向かう。

そして、

 

「はっ!」

 

振り向き様に振り割れた刀剣で斬り払われた。

 

「嘘ッ!?」

 

シャルルは先ほど以上に驚愕する。

しかし、即座に向かってくる紫苑に気付いて気を取り直すと再び紫苑へ狙いを定め、スナイパーライフルを撃つ。

 

「フッ! ハッ!」

 

2発続けて放たれるが、紫苑は難無く斬り払って見せる。

 

「ッ!?」

 

驚きながらも後退しつつスナイパーライフルを撃っていくシャルル。

紫苑は弾丸を斬り払いながら近付きつつ、シャルルの実力を大方把握していた。

 

(なるほど。シャルルは遠・中・近距離何処でも対応できる万能タイプ。翡翠と似たようなタイプだな。銃器の扱い方も上手いし、何よりも武器の変更が早い。戦い方も中々だ)

 

そう考えながらも、シャルルからは目を離さない。

そんなシャルルの顔には、焦りが生まれていた。

 

「……………そろそろか」

 

焦りだしたシャルルの様子を見て、紫苑がそう呟く。

次の瞬間、シャルルの視界から紫苑の姿が消え去る。

 

「えっ?」

 

思わず呆けた声を漏らすシャルル。

次の瞬間には紫苑はシャルルの後ろに回り込んでいた。

 

「ッ!?」

 

シャルルがそれに気付いて振り返ろうとした瞬間、

 

「クリティカルエッジ!!」

 

刀剣による3連撃を受けるシャルル。

 

「くぅぅっ!」

 

だが、ダメージを受けながらも紫苑へ銃口を向けようとする。

 

(へぇ、見た目とは裏腹に根性があるんだな)

 

シャルルの姿に感心する紫苑。

シャルルは引き金を引くが紫苑の姿が再び掻き消えて弾丸は空を切る。

 

「また!?」

 

シャルルが驚いた瞬間、背後から斬撃を受ける。

 

「クッ!」

 

シャルルは振り向くがその瞬間に今度は側面から斬撃を受けた。

 

「あぐっ!?」

 

そのまま次々に四方八方から斬撃を受け続けるシャルル。

 

「ううぅぅっ………………!」

 

連続で、しかもどこから来るかも分からない斬撃にシャルルは身を固めて耐えることしか出来ない。

しかし、それだけではシールドエネルギーは削られるばかりだ。

どんどんとシャルルのシールドエネルギーが削られていき、やがて後一撃となった時、

 

「止めっ!」

 

紫苑がシャルルの真上から急降下してくる。

その瞬間、シャルルが目を見開いた。

そして、激突。

 

「うわぁああああああああああっ!?」

 

シャルルは勢い良く吹き飛び、地面に落下する。

当然だがシールドエネルギーはゼロ。

シャルルのISが強制解除される。

 

「そこまで!」

 

一夏が試合終了の合図を出す。

 

「あいたたたた……………」

 

シャルルが首辺りを押さえながら起き上がる。

すると、空中から紫苑がゆっくりと降りてきた。

 

「流石だね。全然敵わなかったよ!」

 

シャルルは紫苑に称賛の言葉を贈る。

 

「まあ、当然の結果よね!」

 

「うむ、我々が束になっても敵わないぐらいだからな」

 

「ええ。一撃も与えられずに負けたとしても、決して恥じることはありませんわ」

 

鈴音、箒、セシリアがそう言う。

だが、

 

「そうでもないぞ」

 

紫苑がそう言った。

 

「「「えっ?」」」

 

3人が首を傾げると、

 

「ほれ、ここ」

 

紫苑は右腕の装甲の一部を指差す。

そこには、強力な一撃を受けた様に陥没し、その周りに罅が入った装甲があった。

 

「えっ、嘘!? いつの間に!?」

 

翡翠が驚愕する。

 

「最後の一撃の時だ。シャルルはあの瞬間、身を守る事じゃなく、左腕のシールドに装備されていたパイルバンカーで俺を攻撃してきたんだ。まあ、リーチの関係で腕に当てるのが精一杯だったみたいだが…………」

 

紫苑がそう説明する。

 

「あはは。せめて一矢ぐらいは報いたいと思ったからね」

 

シャルルがそう言いながら立ち上がる。

すると、

 

「その諦めない姿勢は大切な事だ。気に入ったぜ」

 

紫苑は小さく笑みを浮かべてシャルルを見下ろす。

 

「えっ? あ、うん…………」

 

そう言われたシャルルは、照れたのか頬を僅かに赤らめて俯く。

その時、周りの生徒が騒めいた。

 

「ねえ、ちょっとあれ」

 

「嘘っ。 ドイツの第3世代じゃない」

 

「まだ本国でトライアル段階だって聞いてたけど………」

 

一夏達がふと見上げると、そこには黒いISを纏ったラウラの姿。

ラウラは、ピットの入り口から一夏を見下ろし、

 

「織斑 一夏」

  

「何だ?」

 

呼びかけられた一夏はそう聞き返す。

 

「貴様も専用機持ちだそうだな。 なら話が早い、私と戦え!」

 

そう言うラウラ。

それに対し、

 

「理由は何だ?」

 

再び聞き返す一夏。

 

「簡単な事だ。貴様が織斑教官の汚点だからだ!」

 

一夏を指差しながらそう言い放つラウラ。

 

「ちょっと! いきなり何言ってるのよアンタ!?」

 

「そうですわ! 一夏さんの何処が汚点だというのです!?」

 

ラウラの言葉に反応したのは鈴音とセシリアだった。

 

「何処がだと? こいつが情けなく誘拐され、行方不明になった事で、あの織斑教官が唯一貴様の事にだけ弱味を見せる様になってしまったのだ。本来なら完璧で、弱点などあるはずが無いあの織斑教官がだ! 貴様が誘拐犯に対処さえできていればあのような織斑教官を見る事など無かった筈だ!」

 

「そ、そんな事は一夏の責任ではあるまい!」

 

ラウラの言葉に箒が言い返す。

 

「フン! 織斑教官の弟ならその程度対処できなくてどうする? 事実、もう1人の弟なら楽に対処しただろう?」

 

「……………そうだろうな。確かにあの時、春万が狙われていれば、誘拐されるなんて事は無かっただろう」

 

ラウラの言葉を肯定したのは一夏自身だった。

 

「「「一夏(さん)!?」」」

 

3人は思わず声を上げる。

 

「認めるのだな? 貴様が織斑教官の弟である資格など無いことを」

 

ラウラは嘲笑う様な態度で一夏を見下ろす。

 

「……………なあ、千冬姉の弟である事に、資格が要るのか?」

 

すると、一夏がそう聞き返した。

 

「何だと?」

 

「誰かの弟である事に誰かの資格を得なきゃいけないのかと聞いたんだ」

 

「ッ!?」

 

「そんな理由で戦いを挑んで来るのなら、俺は戦う気は無い。そうでなくてももうすぐ学年別トーナメントがあるんだ。その時にお互い勝ち残れば嫌でも戦う事になるだろう」

 

一夏はそう言ってラウラに背を向ける。

 

「チッ! ならばっ………!」

 

ラウラは右肩のレール砲を展開し、一夏に狙いを定め、躊躇無く発射した。

 

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

その事に驚愕するシャルル、箒、セシリア、鈴音、翡翠、マドカ。

弾丸はそのまま背を向けている一夏に向かって突き進み、

 

「ハッ!」

 

一夏の前に割り込んだ紫苑によって弾丸が真っ二つにされ、それぞれが一夏の両脇に外れた。

 

「何ッ!?」

 

弾丸を切り裂かれたラウラが驚愕で声を漏らす。

 

「なあ、ちょっと聞きたいんだが………?」

 

「ッ…………」

 

紫苑はラウラを真っすぐ見返してそう言う。

ラウラは紫苑を警戒する様に睨んだ。

だが、

 

「織斑先生は戦意の無い背を向けた相手に向かって銃を撃てと、教えたのか?」

 

「ぐっ!」

 

その言葉にラウラは動揺した。

 

「お前が織斑先生を慕って………いや、崇拝していることは理解したが、お前が織斑先生の教え子であるというのなら、お前の行動が織斑先生の品位を落すことになりかねないという事を理解した方がいいな。こんなことをしていると…………」

 

紫苑がそう言いかけたとき、

 

『そこの生徒! 何をやっている!?』

 

担当の教師が放送で呼び掛けてきた。

 

「この通り教師から注意を受ける羽目になるぞ」

 

ラウラは悔しそうに紫苑を睨むと、

 

「チッ! 今日の所は退いていやる!」

 

舌打ちをしながらISを解除し、一夏をもう一度見ると、その場を立ち去って行った。

 

「…………悪いな、紫苑」

 

一夏が紫苑に向かってそう言う。

 

「いいさ。少なくとも、あいつは色々と勘違いを起こしてるみたいだからな」

 

「勘違い?」

 

翡翠がそう聞くと、

 

「ああ、さっき言っていただろう。『一夏が誘拐犯に対処できていれば』って。だが、以前に束さんに聞いたが、織斑先生がドイツ軍の教官を引き受けたのは一夏の捜索に協力してもらったからだ。だから、一夏が誘拐されていなければ、そもそも織斑先生はドイツ軍へ行くことも無かった」

 

「あっ! むしろ一夏君が誘拐されたから、織斑先生とラウラちゃんは出会うことが出来た!」

 

「そういう事だ」

 

紫苑の説明に翡翠は納得する。

 

「何だそれは? それでは奴が兄さんを恨むなど逆恨み以外の何物でもないだろう。むしろ兄さんに感謝するべきでは無いか!」

 

その言葉を聞いたマドカが言葉を荒げる。

 

「まあ、理屈ではそうなんだが、あいつは織斑先生を崇拝し過ぎてその事に気付いて無いみたいだがな」

 

「はぁ、ドイツの『遺伝子強化素体(アドヴァンスド)』は頭が固い」

 

マドカはそう呟く。

 

「あどばんすど?」

 

僅かに聞こえた単語に翡翠が聞き返すと、

 

「いや、何でもない」

 

マドカは慌てて話を切った。

 

 

 

 

 

 

 

その夜、シャルルが部屋に戻った時、

 

「…………春万君は………まだいないみたいだね。よし、今の内にシャワー浴びちゃお」

 

シャルルはそう言ってシャワー室に入る。

脱衣所で服を脱いでいくと、シャツの下に胸当てが入れられていた。

シャルルがそれを外すと、

 

「ふう、苦しかった…………」

 

そこには男子には無い二つの膨らみ。

続いて下の下着も脱ぐと、そこにあるべき男の象徴が無い。

 

「♪~~~~~」

 

シャルルは軽く鼻歌を歌いながらシャワー室に入っていった。

 

 

だが、その脱衣所の扉の向こうでは、

 

「フッ……………」

 

春万がニヤリと笑みを浮かべていた。

 

 

「あ~気持ちよかった!」

 

シャワーを終えたシャルルがそう言いながら出てくると、

 

「やあ」

 

扉の前で春万が待ち構えていた。

 

「わあっ!?」

 

突然の事にビクつくシャルル。

 

「な、何かな? 春万君?」

 

シャルルは何とか心を落ち着けてそう聞くと、

 

「フフフフ……………」

 

春万は不敵な笑みを浮かべる。

 

「ぼ、僕疲れてるからもう休むね」

 

そう言って春万の横を通り過ぎようとしたが、春万が壁に手を着いて通り道を塞ぐ。

 

「俺、ちょっと面白いものを見ちゃったんだけどさ……」

 

春万はそう言いながら一枚の写真を差し出す。

シャルルがそれを受け取ってそこに移されている光景を目にした瞬間、

 

「ッ!?」

 

思わず絶句した。

そこには、先ほど脱衣室で着替えている最中のシャルルの姿。

しかも、その胸の膨らみは明らかに女性であることを示している。

 

「こ、これって…………!」

 

シャルルは思わず問いかけた。

 

「昨日の君の様子からもしやと思って脱衣室にカメラを仕掛けさせてもらった。そしたら案の定という訳さ」

 

「……………まさか1日でバレるなんてね……………」

 

シャルルは諦めた様に息を吐いた。

そしてシャルルは話し出した。

自分はデュノア社の社長と愛人の間にできた娘だという事。

母の死後、父に引き取られたが碌に相手をして貰えず、本妻には会った瞬間に引っ叩かれた事。

デュノア社が経営危機に陥り、広告塔と男性IS操縦者に近付くために男装させられた事。

そして第三世代型のデータを盗んで来いと命令された事を話した。

最後に、自分が女だとバレた今、国に呼び戻されて牢屋行きだろうと付け加えて。

すると、

 

「何か勘違いしている様だけど、俺は別に君が女だと言いふらすつもりは無いよ」

 

春万は突然そう言った。

 

「えっ!?」

 

シャルルはその言葉に驚愕の声を漏らす。

 

「それどころか、条件によっては白式のデータを渡しても良い。勿論、秘密裏にだけどな」

 

「ほ、本当!?」

 

シャルルはまさかの提案に驚きながらもそのわずかな光明に縋ろうとする。

シャルルとて進んで牢屋に入れられたくはない。

 

「ああ、本当さ」

 

春万は優しそうな笑みを浮かべながらそう言う。

 

「それで白式のデータを渡す条件だが……………」

 

そこで一旦春万は言葉を切ると、シャルルの体を舐め回すように見る。

そして、

 

「君の体だ」

 

「……………………………え?」

 

思いがけない条件にシャルルは呆けた後に声を漏らした。

 

「ぼ、僕の体って…………冗談はやめてよ!」

 

その意味を徐々に理解してきたシャルルは顔を赤くしながらそう言った。

 

「冗談なんかじゃないさ。このIS学園(女の園)に入れたはいいけど、千冬姉さんの監視の目が強すぎて碌に女の子に手が出せないんだ。その点同室である君なら手を出してもバレる可能性は少ない。男として編入しているなら尚更ね。君は父親からの任務を問題なく遂行できる。俺は日頃の性欲を発散することが出来る。勿論君が望まない限りは避妊はするから安心してくれ。要は卒業するまでの3年間、俺のセフレになってくれればいいんだよ。別に悪い取引じゃないと思うけど?」

 

「そ、そんな…………」

 

シャルルは震えた声で後退る。

 

「逃げてもいいのかなぁ? 逃げたら俺の口が軽く滑っちゃいそうな気がするんだけど………?」

 

その言葉で後退っていた足が止まる。

 

「あ………あ……………」

 

シャルルの瞳には涙が溜まっている。

その瞬間、春万に腕を掴まれ、引っ張られてベッドに倒される。

 

「いい加減分からないかなぁ? 君に選択肢なんてないんだよ!」

 

「ひっ………!」

 

圧し掛かってきた春万にシャルルは恐怖で悲鳴を上げる。

 

「ちゃんと白式のデータは渡すから安心しろ。まあ、君が大人しく従ってくれればの話っ……だけどね!」

 

春万がそう言いながらシャルルの上着に手を掛け強引にはだけさせられる。

 

「ッ!?」

 

シャルルは目を瞑って悲鳴を上げないように我慢する。

 

「いい子だ………」

 

春万は大人しく従うシャルルにニマニマと笑みを浮かべて下着をたくし上げ、その下にある男装用の胸当てを外した。

形の良い胸が春万の目の前で揺れる。

 

「いい胸だ」

 

その胸に触れようと春万が手を伸ばす。

 

「ッ~~~~~~~!」

 

シャルルは必死に声を押し殺しながら先程よりも強く目を瞑った。

その目から一筋の涙が零れる。

 

(誰か…………助けて…………!)

 

シャルルは内心で助けを求める。

春万の手がシャルルの胸に触れようとした時、コンコンと扉がノックされた。

 

「シャルル、いるか? ちょっと話があるんだが」

 

聞こえた声は紫苑の声だ。

 

(紫苑!?)

 

シャルルは思わず声を上げそうになる。

だがその瞬間に春万の手によって口を塞がれた。

 

「いいか? 身体の調子が悪いから明日にしてくれと言うんだ………! いいな………!?」

 

小声だが脅すような口調で春万にそう言われ、シャルルはコクコクと頷くしかなかった。

シャルルの口から手が離される。

 

「し、紫苑? ごめん、体調が良くないんだ。わ、悪いんだけど、用事なら明日にしてくれないかな?」

 

(紫苑! 助けて! お願いだから助けてよ!!)

 

シャルルは口はそう言いながらも内心で紫苑に助けを求める。

それが例え届かないとしても。

 

「…………………そうか。それなら明日にするよ。悪かったな、今日はゆっくり済めよ」

 

「う、うん…………」

 

(行かないで! お願い紫苑! 行かないでぇ!!)

 

だが、そんなシャルルの願いとは裏腹に扉の前から紫苑の気配が消える。

それを確認すると、春万はシャルルに向き直った。

 

「フン、思いがけない邪魔が入ったが行ったようだな。さて、今度こそ………」

 

春万は再びシャルルの胸に手を伸ばす。

 

「……………………………」

 

(もう、駄目だ…………諦めるしか…………)

 

シャルルが目の前に現実に諦めの心が広がった瞬間、

バキィッ、という音と共に部屋の入り口が吹き飛んだ。

 

「…………なーーーんて言うとでも思ったか! 今のシャルルの声色は尋常じゃなかった。案の定だったな!」

 

扉を吹き飛ばして入ってきたのは気配が消えたはずの紫苑だ。

 

「紫苑!?」

 

シャルルは思わず叫ぶ。

 

「お、お前………!?」

 

春万が紫苑に対処しようとした瞬間、

 

「シェアリンク!」

 

紫苑が一瞬で春万の懐に入り込んだ。

 

「なっ!?」

 

春万が声を漏らそうとした瞬間、

 

「フッ!」

 

春万の顎に強烈なアッパーカットが入り、春万の体が部屋の天井近くまで飛ぶとそのまま落下し、反対側のベッドへと落ちた。

当然ながら春万は気絶している。

 

「ッ………紫苑!」

 

シャルルは起き上がり、思わず紫苑に抱き着いた。

 

「シャルル!」

 

紫苑は一瞬驚くが、すぐにシャルルの状況に気付くと、

 

「とりあえず服装を直せ。そしたらちょっとついてこい」

 

そう言ってシャルルから視線を外す。

シャルルは自分の今の状況を再確認すると、

 

「……………わぁっ!?」

 

慌てて服装を直す。

 

「………紫苑のエッチ」

 

「…………まあ、その言葉は甘んじて受けよう」

 

不可抗力とは言え女性のあられもない姿を見てしまった紫苑はそう言う。

シャルルは少し厚手の上着を着ると、胸の膨らみはあまり目立たなくなった。

 

「それなら大丈夫か………ついてこい」

 

そう言って紫苑はシャルルの手を引いていく。

シャルルを連れてきたのは自分の部屋だ。

その扉を開けると、

 

「あ、お帰り~!」

 

ベッドに寝っ転がるネプテューヌ。

 

「あ、紫苑さんお帰りなさい」

 

反対側のベッドに寝っ転がる刀奈。

 

「あ、お兄ちゃん帰ってきた!」

 

「お帰りお兄ちゃん」

 

翡翠と、翡翠の義手の調整をしているネプギアが居た。

 

「えっと…………紫苑?」

 

「安心しろ。ここにいるメンバーは全員が信頼できる相手だ」

 

紫苑がそう言うと、シャルルは少し躊躇しながらも厚手の上着を脱いだ。

その下にはジャージを着ていたが、その胸の膨らみは隠せていない。

 

「ふむ、なるほどね」

 

刀奈が納得したように頷くと、真面目な顔をして立ち上がる。

そして佇まいを直すと、

 

「初めまして、シャルル・デュノア君。私はこのIS学園の生徒会長、更識 楯無よ。それとも、シャルロットちゃんって呼んだ方がいいかしら?」

 

刀奈の言葉にシャルルは目を見開いて驚愕する。

 

「どうして………その名前を…………?」

 

「デュノア社の社長に『息子』は居ないわ。居るのは愛人との間にできた『娘』だけ。それがあなたね。シャルロットちゃん?」

 

「………………はい」

 

刀奈の言葉にシャルルは観念したように頷く。

 

「あなたの言う通り、僕の本当の名前はシャルロット・デュノアと言います。デュノア社の社長と、その愛人の間にできた『娘』です」

 

シャルル改めシャルロットはそのまま話を続ける。

 

「僕が男装していた理由はデュノア社の社長………つまり僕の父からの命令だったんだ」

 

その言葉を黙って聞く紫苑達。

 

「どうして、って思うよね? それは、さっきも言ったけど、僕が愛人の子だからだよ」

 

シャルロットがそう言う。

 

「それでね。2年ぐらい前にお母さんが病気で亡くなって…………その時に父の部下がやってきたの。それで色々と検査をする過程でISの適性が高いことが分かって、非公式だけどデュノア社のテストパイロットをやる事になってね…………父に会ったのは2回ぐらい………会話は数回ぐらいかな? 普段は別邸で生活をしてるんだけど、一度だけ本部に呼ばれてね。その時に初めて本妻の人に会ったんだけど、いきなり殴られたよ。『泥棒猫の娘が!』ってね。僕はその時何も聞いてなかったから戸惑ったよ」

 

「それは酷いかな」

 

翡翠が呟く。

 

「それから少し経って、デュノア社が経営危機に陥ったの」

 

「経営危機? 確か授業じゃデュノア社は量産機のシェアが世界第3位だって………ラファール・リヴァイヴもデュノア社製の筈だろ?」

 

紫苑が気になった事を口にすると、

 

「紫苑さん、確かにその通りなんだけど、あくまでラファール・リヴァイヴは最後発の『第二世代』なの。確か、第三世代型の開発が遅れてるからフランスは欧州連合の統合防衛計画『イグニッション・プラン』からも除名されていた筈よ。ISの開発って言うのは物凄くコストがかかるから、国からの支援無しじゃやっていけない。だから、第三世代の開発が遅れてる所は国からの予算が大幅にカットされるはめになるの」

 

刀奈がそう説明する。

 

「楯無さんの言う通りだよ。もっと言えば、次のトライアルで選ばれなければ予算を全額カット。その上でIS開発許可も剥奪って流れになったの」

 

「…………んで? それがどうして男装と繋がるんだ?」

 

紫苑がそう尋ねると、

 

「簡単だよ。注目を浴びるための広告塔。そして、同じ男子なら日本で登場した特異ケースと接触しやすい。可能であればその使用機体と本人のデータも取れるだろう………ってね」

 

「………………俺達とそのISの事か」

 

「そう、君達の紫心や白式のデータを盗んで来いって言われてたんだ」

 

「……………………………」

 

「結果的には君達を騙してたって事になるんだろうね。謝って済む問題じゃないけど………ゴメンね!」

 

シャルロットはそう締めくくる。

すると、

 

「……………………でもさ、それってどう考えても後付けの理由じゃないの?」

 

ネプテューヌがそう言った。

 

「後付けって…………どこが?」

 

気になったシャルロットが聞き返すと、

 

「そのデータを盗んで来い云々って所」

 

「データを盗んで来るのが………後付け?」

 

ネプテューヌの言葉にシャルロットが驚愕する。

 

「俺もその可能性が高いと思ってる。理由としては、まず、さっきの話を聞いていて腑に落ちない点は、白式のデータを盗むために、シャルル………シャルロットを使った点だ」

 

「それがどうしたの?」

 

シャルルが聞き返すと、

 

「データを盗むなんて大仕事………というか犯罪を、男装が素人のシャルロットにやらせること自体がおかしいだろ? バレた時のリスクが高い上に、どう考えても3年も誤魔化せるとは思えん。俺だったらその道のプロを雇うぞ」

 

「あっ………!」

 

シャルロットがその事に声を漏らした。

 

「例え人材が居なかったからシャルロットを使ったとしても、付け焼き刃の男装なんて手段じゃなく、普通に女性として転校させて、ハニートラップでも仕掛けさせた方がまだ成功確率は高いと思うぞ」

 

「ハ、ハニートラップ………!?」

 

その言葉を聞いて顔を赤くするシャルロット。

 

「ああ。お前は容姿もスタイルも性格も良いんだ。大概の男なら普通に墜ちる」

 

紫苑の言葉にシャルロットは今度は先程とは違う意味で顔を赤くした。

 

「そ、それって、紫苑から見ても僕は魅力的って事かな?」

 

「ん? まあ美人かどうかと言われれば美人だと答えるし、性格も問題ないといえるが?」

 

「そ、そうなんだ…………」

 

シャルロットははにかむ様に笑った。

 

「「…………………………」」

 

そんなシャルロットをネプテューヌと刀奈はジーッと見ていた。

 

「なんか脱線したから話を戻すが、そもそもデュノア社の社長は何故シャルロットを引き取ったのか? だ」

 

「そ、それは………僕のIS適性が高かったから…………」

 

「愛人の娘なんて、大会社からすればスキャンダルになりかねん火種を抱えるなんて、リスクとリターンが釣り合っているとは思えないがな? 第一、シャルロットがどうでもいい存在なら引き取らなければよかっただけの話だ。正妻との仲も険悪になるしな」

 

「…………………………そ、それって………」

 

シャルロットが信じられないといった表情で、震える唇で声を絞り出す。

 

「結論から言えば正妻はともかく、少なくともデュノア社の社長はシャルロットを嫌ってはいない、むしろ大切に思っている。だから、シャルロットの為に理由を付けてIS学園に送り込んだ。って言うのが俺達の見解」

 

「じゃ、じゃあどうしてあの人は僕と全然会ってくれないの!?」

 

シャルロットは信じられないのかそう聞いてくる。

 

「それは社長と正妻との間に子供が居ないことが理由になる。シャルロットは、愛人とは言えデュノア社の社長の娘。普通に考えればデュノア社の後継ぎとなる可能性が一番高い。そして、デュノア社長がシャルロットを大切に扱っていれば、それは誰もが予想できる。そうなれば、デュノア社の後釜を狙い、シャルロットに対して政略結婚の相手を送り込むなら未だしも、最悪はシャルロットの暗殺なんて事を企てる馬鹿も出てくる」

 

「ッ!?」

 

その言葉を聞いて、シャルロットの顔から血の気が引く。

 

「だからこそ命を狙われる危険を少しでも少なくするためにデュノア社長はシャルロットを突き放していた…………と俺は考える。俺も似たような事をやったことがあるからな、『例え嫌われたとしても大切な人を護りたい』。その気持ちは良く分かる」

 

その言葉を聞いた時、シャルロットは衝撃を受けた。

 

「あ…………あ……………お、お父さん…………………」

 

シャルロットの瞳から涙がボロボロと零れだす。

しかし、その涙は先程のような悲しみの涙ではなく、歓喜の涙。

 

「僕は…………お父さんに愛されていたんだ……………」

 

喜びの涙を流すシャルロットを皆は優しく見守る。

 

「今ならわかるよお父さん………………お父さんの、僕を本気で『護りたい』と思う気持ちが……………」

 

「シャルロット…………」

 

紫苑が優しく声を掛ける。

 

「ありがとう紫苑。紫苑が教えてくれなかったら、僕、ずっと勘違いしたままだったと思う」

 

「まあ、役に立てたなら何よりだ」

 

「うん。本当にありがとう……………」

 

そう言ってシャルロットは笑みを浮かべた。

今までの比ではない、最高の笑顔を。

 

「……………これは、落ちたわね」

 

「落ちたねー」

 

刀奈とネプテューヌが小声で話し合っている。

 

「2人目の戦姫候補だね」

 

「ネプちゃんは良いの?」

 

「しゃるるんも悪い子じゃないし。後はシオンの気持ち次第かな~?」

 

「なるほどね」

 

そんな話が交わされていたりした。

 

 

 

 





第15話です。
はい、このルートのシャルロットは紫苑に任せることにしました。
ぶっちゃけBルートでも任せていいかなと思ってたぐらいだし。何気に一夏を除けば紫苑相手に一番善戦したシャルロットでした。
まあ、後半はほぼコピペなので省略。
では、次も頑張ります。
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