さすがにまだこのレベルで4人同時相手は厳しいか…
そう思われた。だが、何者かが近づいてくる気配がした。相手はまだこちらに向かって攻撃をしかけようとしているということは気付いていないのだろう。
「キリトくぅーーーーーーんっ!!!!!」
サチ!?
なぜここに!?
その声を聞いてやっと相手も気付いたのか、視線をこちらから俺の遥か後ろのほうへとずらす。
馬鹿め、その一瞬でッ!
「このゲームでは死ねるんだよァ!」
俺の後方に位置し、後ろを振り返っていたため俺の攻撃が見えなかったのだろう、片手直剣とダガーのプレイヤーの武器を持っているほうの腕を切り落とした。
「なッ!?」
「卑怯だぞっ!」
何が卑怯、だ。よそ見したお前らが悪い。
それに。
「別に死んだわけじゃないんだからいいだろ。」
とりあえず、こいつらとサチたちを会わせても何もいいことはないだろう、早々に処理に移る。
「まずは、お前からだ。」
俺のことを卑怯だとか言った、大剣使いから狙いにいく。
大剣は一撃特化でスピードに欠ける。
だから俺は使わないんだけど。
つまり、相当なプレイヤースキルがないことには、素早い動きの相手には太刀打ちできない。
こいつらのパーティレベルから考えて、まずそれはないだろう。
相手を翻弄するため、相手の周囲を高速で移動しながら時折攻撃を挟む。
相手は俺に視界に捉え、ガードするのが精一杯と見受けられる。
ならば、この辺でッ!
「きゃっ!」
!?
サチ?
あれ、レイピア使いはどこにいった。
さっき、あいつは月夜の黒猫団が大嫌いだと言ったのを思い出し、目の前の大剣使いを無視して声のしたほうへ走る。
「おい、お前。何をしてる。」
サチの目の前に立ちはだかるクソ男に向かって言い放つ。
サチに指一本でも触れれば、どうなるかわかってるだろうな。
「あ?あんだよ、文句でもあんのか!」
ああ。全くもって文句しかねえよ。
「全てはこいつが悪いんだァ!こいつが死ねb―う"ぉえ」
サチに向かって死ねという言葉を口にした男の背中に剣を刺す。
「話なら街で会ったときにでも聞いてやる。まずは前言を撤回しろ。」
相手は、「わ、わかったからっ!許してくれ!」と情けないことを言っている。
潰される覚悟もない人間が誰かに敵対なんてしてはいけない。
誰かを殺そうとするということは、同じように自分が殺されることを覚悟しなければならない。
そんなこともわからないやつに、この世界で生きる価値なんてない。
あれは、例え俺の夢のなかのことだとしても、しっかりと俺の記憶に刻まれている。
「サチ。怪我はないか?」
「うん、ありがとう、キリト、くん…」
サチは若干怯えながらそう言った。
「ごめんな、サチ。嫌なとこ見せちまった。」
「う、ううん。そうじゃないの。久しぶりに死にそうになったから…今までキリトくんが隣にいてくれて、死にそうになるなんてことなかったから、ちょっと感覚が麻痺しちゃってたのかも…」
「死に対する恐怖か?」
「うん…」
「そっか。なら、その恐怖に一人じゃ耐え切れなくなりそうだったら、俺のことも頼ってくれよ?」
「うん!そうする!でも、なるべく一人でも立ち向かえるように頑張るね!」
「おう、応援するよ。手伝ってほしいことがあったら何でも言ってくれ。」
ありがとう!と満面の笑みで言う。
すると、後ろから
「お二人さん熱いねぇ!」
「サチ、ずっとキリトが起きなかったとき隣にいたもんね…」
他のメンバーも集まっていたようだ。
どうやら、サチのことになると気配を感じ取れなくなるようだ…
これはちょっと問題だな。
そんな問題は胸の奥にしまっておいて、改めて状況を確認する。
「みんなは、なんでここに来たんだ?」
「なんでって、サチが突然、キリトがっ!っていって走って行ったから、追いかけてきただけだよ。」
え…?
「なんで俺がここにいるってわかったんだ?」
俺がどこにいるか等のメッセージはまだ送っていないはずだ。
確か、ここのダンジョンにはいなさそうだって送る最中にあいつらに襲われた。
そう、丁度ここのダンジョンの名前を打っている最中だったはずだ。
もしかして、咄嗟に送信ボタンを押してしまったのか…?
「キリトくんがここのダンジョンの名前だけ送ってきたから何かあったのかなって…」
やっぱりそうだったか…
どうしようか。せっかくメンバーがこのダンジョンで襲われていないことが確認できたというのに、俺自身の失態のせいでリーダー以外の全員をここに集めてしまった。
「と、とりあえず、街に戻らないか?」
無難に帰還を提案する。この案に乗ってくれればいいのだが…
「でもさ、せっかくここまで来たんだし、このダンジョンを攻略してから帰ろうよ。」
やっぱりそうなりますよねぇ…
なんて言い訳するかな…
「それもそうかもしれないけど、まずはリーダーに色々どんな感じか聞いてみたほうが良さそうじゃないか?もしかしたら一緒に行きたいっていうかもしれないし。」
ナイス!
これで少しは帰るのに気が向いただろうか。
でもメンバーたちの表情は未だ諦めを表現するまでには至っていない。
ここはあと一押し。
「実は、俺、ここのダンジョンを攻略したことがあるんだ。あまりいいものは手に入らなかったけど、足しになるなら俺のほうからも何か出しておくからさ、ひとまず帰らないか?」
このダンジョンを攻略したという真っ赤なウソを吐いてしまった。
だが、メンバーの命が守られたのであれば、このくらいは目を瞑ってほしい。
無事に悲劇を回避したところで、リーダーと合流するために街に戻る。
するとリーダーからメールが。
「来てくれって書いてあるけど、どうしたんだろう?何かいい場所でも見つけたのかな?」
「どうだろうな、まずは行ってみるか。」
「おーい、こっちだー!」
街に着くとこちらにむかって手を振る青年がいた。同じギルドとはいえ、あまりメンバーと関わっていない俺は、実はまだリーダーの顔なんて覚えていなかった。他のメンバーもそうだけど。
「どうだ?なかなかいい店だろ。てことで、時間もいい頃だし、全員集まったしで、少し今後の目標とかについて改めて話し合いたいなって。」
リーダーの意見に賛同した一同は、ちょっと洒落た店で、ギルドハウスの候補とそれらの値段、それに向けての目標、みんなの個人的な意見など、色々話し合うことになった。
「ということで、ギルドハウスの購入にあたって、コルはみんなで出し合うとして、あとどれくらい必要なのか計算したいから、みんなの所持金額を教えてくれないか?大体でいいからさ。」
その声に応じて全員がメニューを操作する。もちろん俺もだ。
メニューを開いて、ステータスっと…
「へ…?」
なんだこれは?
驚きすぎて素っ頓狂な声を出してしまった。
「ん?どうした?キリト。」
みんなが俺のほうを見る。
(どうしようか…俺の所持金以前にステータスがおかしなことになってる…)
現時点での俺のレベルはあのとき確か40程度だったはずだ。
それなのに俺のレベルは今72と表示されている。
72というと、ちょうど俺がサンタクロースを倒してレベルがあがったときになったレベルだ。
つまり、夢で見ていた俺が今ここにいることになる。
レベルだけじゃなく、他のステータスも。
ましてや武器も、あのとき使っていたものがストレージに入っていた。
だからなのか?あんなに簡単に4人ものプレイヤーを同時に相手できたのは…
「大丈夫か?キリト。」
「んあ、ああ。大丈夫だ。」
声をかけられて初めて時間が進んでいることに気付いたほど、俺は思考停止してしまっていた。
もしこれが本当にバグなんかではなく、現実なのだとしたら。
それとも、今この瞬間が。サチといることができているこの瞬間が、夢なのだろうか。
もしかして、俺は実はサンタクロースに負けて、死んだあとの、「想像」のなかの世界にいるのだろうか?このゲームで死んでも、このゲームがクリアされるまで「想像」の世界に取り残されるだけで、現実で本当に死ぬわけではないのかもしれない。でもそれは、ただの俺の適当な想像に過ぎない。根拠もなければ、確証もない。本当に、ただの想像だ。この世界で死んだプレイヤーが、本当に現実で死んだかどうかなんて、俺たちには確認する術はない。
なら、本当に死んだとも言い切れない、そんな甘い現実逃避からこの考えが生まれてしまったのかもしれない。
自重しよう。今は目の前に直面している問題だけを解決しよう。この話はあとでだ。
「んで、なんだっけ…?」
おいお~いキリト~!
というようにメンバーが笑いながら声をあげる。
「今、いくら持ってるんだ?」
これは本当のことを言ったほうが良さそうだ。ここで俺の所持金が200万あるといってしまえば、メンバーは資金を求めてダンジョンに行くことはないだろう。
「200万…くらいかな…」
「「200万!?!?」」
やっぱりそれくらい驚くよなぁ…
「ほ、本当なのか!?」
「き、キリト、何してきたんだ?」
「きききキリトくん、嘘はよくないよ!?」
「き、聞き間違いじゃないんだよな…?」
「そんな大金を今まで隠してたのか…」
「隠してたつもりはないよ。さっきまでこんなにあるとは思ってなかったよ。気付いたら溜まってたみたい。」
メンバーは「そんな大金に気付かないなんてさすがキリトだよなぁ…」などと失礼なことを言っている。
「みんながギルド資金を集めるって言ってたから、クエストとかで集めてきたんだけど、さすがに自分でもこの額は驚いたよ」
そりゃそうだろ!などといってみんなが笑う。
俺があの蘇生結晶で手に入れたかったものはこれなのかな…
もしそうならば、例えこれが夢であろうとも構わない。
一時的でも、手に入れたかったものが手に入ったのならば。