夜中にふと目が覚めた。妙に寝苦しかったし、なにより肌寒かった。まるで床下暖房ならぬ床下冷房でもついているように下からの冷えが半端じゃなかった。
んだよ寒ぃなぁ・・・・・・
なにやら寒いことへイライラして、心の中でぼやきながら身震いをするとなにやら硬いものにしたたかに鼻先をぶつけた。
いってぇ!なんなんだよ!
流石に我慢の限界が来たので布団をはねのけ体を起こそうとするがまたしても鼻先を何かに強打した。
んがぁあああ!さっきからなんだってんだ!俺がなにか悪いことでもしたってのか!
・・・・・・結構悪いことしてるな
例えば小銭を拾っても交番に届けなかったり車が来ていない時に歩行者信号が赤でもを渡ったりしてる。うん、俺のチキンさがよく分かるね。俺は世紀末のザコキャラかよ。小者感半端ねぇ。
自分の悪行を振り返り冷静になったところで俺の置かれている状況の異質さにギョッとした。
そこは俺が一人暮らししていたはずの一室とは全く異なっていた。俺が寝ていた薄っぺらい布団はどこへやら。何か円錐状のケースにでも入れられているかのように全く身動きが取れない。そして真っ暗といっても過言ではないほどの暗黒。視界なんて無いも同然。自分の手も見えない。
ん?手?
何か自分の手に違和感を覚えた俺は拳をにぎにぎしてみた。できない・・・・・・・。え嘘でしょなんで!?生まれたての赤ん坊ですら拳握ってるんだよ?なんでできないの?
自分の目で確認したいがこの暗さ。どうにもできない。手の感覚としては指を内側に曲げることはできるけど可動域が狭すぎて完全には拳を握れないって感じだ。
そしてもう一つ。
腕が明らかに短い。さっき目をこすろうとしたらのど元(?)くらいの所までしか届かなかったんだよねぇ。これまたのど元に触れた感覚もおかしいし、なんか皮膚じゃなくて鱗に触った感じっつーかなんつーか・・・・・・、もう人間じゃなくない?
いやいやそんなことはない、自分は人間だ。まごうことなきニンゲン。サピエンスサピエンス。決してゴリラ・ゴリラ・ゴリラではない。ついで言うとバナナも嫌い。うん大丈夫。自分が人間だと自信がついた。アイアム ニンゲン。
ヒューマンって単語も知らんのか俺は。
そ・ん・な・こ・と・よ・り!
このケース(?)をどうにかしないことにはなぁ・・・・・・
そうなのである。俺を閉じ込めているこのよく分からんものをどうにかしない限り俺は自由になれない。ていうかなんで俺閉じ込められてんの?なに?ここ刑務所?俺の悪行がバレて捕まったとか?それともここは何かの研究所で俺を捕まえて色々と実験するの?やだ何それ!俺なんかの特殊能力者みたいじゃん!
とまぁくだらない妄想を脳内で広げたところでこの状況がどうにかなるわけでもあるまいし。
どうぶち破ったもんか・・・・・・
幸いにもそんなに分厚くも硬そうでもないのでなんとかなりそうだ。体は鍛えていた方だしまぁ全力でぶん殴ればなんとなるでしょ。あ、拳握れないんだった・・・・・・。
ま、まぁ、ほかにも掌底とか手刀とか発勁とかでなんとかなる。なんなら、か●は●波とかフタエノキワミとか触れずして秘孔を突いたりできるし。うん、何の問題もない。嘘です。後半のやつほとんどできない。まぁ俺は毎日エイプリルフールだと思ってるしノー問題。
閑話休題!
くだらない一人ボケツッコミを強制終了し、行動に移る。
腕がほとんど使えない以上頭を使うしかない。頭突きだ。多少こちらにもダメージはあるだろうがしょうがない。
俺は目の前の壁を睨み、全力で額を打ち付けた。
パキッ
お、なんだ結構脆いじゃん。何かガラスみたいな感じだな。これならなんとかなりそうだ。どんどん行くぜ!
俺は不思議にも頭突きによる額の痛みがないことを忘れて連続で頭突きをかましていく。
ピシッ!パキッ!メシャッ!
不意に頭が何かを突き抜け、外気に触れた。と思った瞬間、あまりの眩しさに目を閉じた。今の今まで暗闇の中にいたせいであまりに光が強すぎたのだろう。ちょっと誰かグラサン貸して。
外の明るさに慣れてきた頃、俺は呻きながら頭だけを外に出してうっすらと目を開けた。そこ広がっていたのは・・・・・・。
一面の銀世界。遠くに見える海には流氷が浮かび、吹きすさぶ風は雪混じりでとても冷たい。よく見れば下も氷。なるほど俺が感じたあの寒さはこのせいか・・・・・・。
じゃねーよ!ここどこ!南極!?
トンネルを抜けるとそこは雪国でしたってか?冗談じゃない!え?ていうか冗談でしょ?あ、そうかこれは夢だ。ハハハ、そうだよなこんなの夢に決まってるよ。やだなーもうこんな冬のソ●タみたいなロマンチックな夢見ちゃうなんてな〜。ほんと俺ロマンチスト☆
そういや俺の拳が握れないのはなんだったんだ?まさか殺さずの誓いならぬ殴らずの誓いでもあるまいしなぁ。
俺は頭だけでなく全身を引っ張り出し、しげしげと眺めた。
全身を覆う青い鱗、手に生えた鋭い爪。そして腹には肌触りの良さそうなすべすべした皮。そして何より頭部から生える鋸のような角。あ、尻尾までありやがる・・・・・・。
アイアムヒューマン?
どう見てもどう考えても人間じゃないね。うん。これはね、スクアギルだね。そう、あのモンハンの、小さくて、氷海にいる、そうそう、成体なるとザボアザギルになるやつね。うん、スクアギルね・・・・・・。
何故に?
ていうかここよく見たら氷海じゃん!あのザボアが寝るところだよ!うわっ、よく見たら俺が閉じ込められてたの卵じゃん!うわ、ドリルみてぇな形。たしかサメの仲間にこんな卵の形してる奴らいたよなぁ。なんでも海底に刺さりやすくするだとかなんとか。でもこんな形の卵を産むのも大変だろうに。
再び閑話休題。
モンスターハンター。プレイヤーはハンターとしてモンスターを狩るアクションゲームである。結構な人気を誇るゲームだ。かくいう俺もやっている。
どうやら俺がいるのはそのゲーム(の中?世界?)らしい。うん、だってここ氷海だし。なんなら俺がスクアギルだし。うへぇ、よく見たら俺超小せぇ・・・・・。
俺は心の中でため息をついて何をするわけでもなくてくてく歩き始めた。理由はどうあれこうなってしまったことは仕方がない。認めたくはないが俺はすでに人間ではなく食物連鎖の最下層。あらゆる肉食動物のエサというわけだ。
・・・・・・死にてぇ。なんだってスクアギルなんだよ、もっと強いやつにしてくれよ・・・・・・
そう、ちょうど今空から降ってきたティガレックスのような絶対強者にさぁ。
・・・・・・え?
口から涎を垂らし、腹ペコの絶対強者はこのエリアに唯一いる俺を目ざとく見つけ、さぁ喰らってやるぞとばかりに大口を開けて突進してきた。
・・・・・・アーメン神様
これぞまさに困った時の神頼みってやつだな。それはともかく
・・・・・・逃げろぉおおおおお!
こんなところで食われるのはいささか後味が悪すぎるってもんだ。俺は無我夢中で手足を動かし、真横に逃げる。そのすぐ後ろを轟音を立ててティガレックスが通過する。
案外爪を立てれば氷の上でも難なく移動できるし、何よりお腹の皮が氷の上をよく滑るのでうまくいけばこのまま逃げられそうだな。それにアイツはいま疲れてる。ドリフト突進で転ぶ!隙はあるぞ!頑張れ自分!
なにより実戦ではないがゲーム内でティガレックスの動きは知っている。それをフルに活かすのだ!
俺が自分を鼓舞し、いざ逃げ出さんとティガレックスの隙を伺っていると、何やらティガレックスは何もしていないのにその場でバックジャンプ。
あ、これもしかして。
グォオオオオオオ!!
予想通り。耳をつんざくほどの大咆哮、流石に轟竜と言われるだけあるな。凄まじい咆哮だ。そして肝心の俺はというと。
あまりの爆音にひっくり返ってました。はい。
そんな無防備な俺に雪煙を上げて突進するティガレックス。俺はそれを揺れる視界で捉えながら下らない考えを巡らせる。
もう俺に成す術などない。あとは轟竜の気分次第。煮るのか焼くのかはたまた炒められるのか、いやフライにするという選択肢も無きにしも非ずだな。
なんて、最期までこんなことを考えているのは俺くらいなものだな
自嘲気味に笑う。本当に下らないな、我ながら。
・・・・・・いや待て、フカヒレになるというのもあるな
そして爆音の咆哮のせいでガンガン揺れている俺の視界に閃光が走った。