化け鮫転生放浪記   作:萌えないゴミ

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 恐怖といえば初めてイビルジョーに遭遇した時はマジで怖かったスねぇ


姿無き恐怖

 

 

 

流石はモンスターの回復力といったところだろうか。俺が負っていた火傷はほぼ直り、新しい皮膚が張り始めている。喉の痛みもだいぶ引いてきたようだ。これなら何か食料を探して食えるだろう。

 

 ということで歩き出すも片腕が折れていたことを完全に忘れていたため、いつも通りに歩き出そうとして激痛に悶え苦しんだのは内緒。

 

 無鉄砲で向こう見ずな性格のため子供のころから損ばかりしている。なぜ何の当てもないのに俺は食料があると勘違いしていたのだろうか。いつから食料が手に入ると錯覚していた?

 

 折れた腕を庇いながらノロノロ氷海を歩き回るもポポの姿は無く、何か食えそうなものもない。このままでは餓死する。どっちにせよ選択肢が増えただけだ。飢えで死ぬのか負傷した身体で生存競争に敗れて死ぬのかの二択になっただけ。あれ?おかしいな、なんで死ぬことが前提になってるんだ?俺馬鹿なのか?いや俺は馬でも鹿でもなく蛙だから大丈夫だな(馬鹿です)。

 

 ともあれもう大型モンスターでもいいから何か食えるもの出てきてくれ。でないと本当に餓死する。まぁそんなこと言ってイビルジョーとか出てきたらそれはそれで困るんだけど、まぁそんな都合よく出てくるわけないもんね。・・・・・・フラグじゃないよね?

 

 一応いるっちゃいるんだけどね、小型モンスター。クンチュウだけど・・・・・・。

 

 俺あいつ嫌いなんですよ、虫ってだけで嫌悪感しかないのにそれを食うとか論外オブ論外。そもそもゲームでも厄介極まりない奴だったし。なんで超高所から受け身も取れないような姿勢で吹っ飛ばされておいて怪我一つ負わないような足腰最強なハンターが虫にぶつかられただけで転ぶんだよマジで解せぬ。大型モンスターには勝手に張り付いて確定弾かれになるし邪魔という印象しかない。あ、でもフルフルとかに張っ付いて電撃で吹っ飛ばされてるのを見るとスカッとするよね!

 

 エリア3の傾斜の上で俺がこんな毛ほどの役にも立たないことをのほほんと考えて現実逃避をしていると、何かが俺の頭上を横切った。反射的に戦闘態勢をとり、上を見上げる。今日は晴れているので太陽が眩しかったが、俺はその飛行しているモンスターの姿を確認することができた。

 

 フルフル・・・・・・

 

 そのフルフルは俺の頭上を通り過ぎ、恐らく洞窟の中に通ずる穴に向かって行った。

 

 どうするべきか、俺は少ない時間で決断しなければならなかった。選択肢は二つ、フルフルを倒して食うか今のままでは逆にやられてしまうのでとりあえず寝床に戻るか。

 

 フルフルには嫌な思い出がある。それに回復したとはいえ、いまだダメージの残るこの身体で戦うのは得策ではないのは俺にだって分かる。だが、当然ながらフルフルでさえこの氷海においては貴重なタンパク源になる。今のダメージを回復させるためには何かを食わねばならないこともまた自明の理。

 

 例えるならもう一撃もらったらクエスト失敗かつタイムリミットまであと少しというような状況で、とりあえず安全なところまで退却して回復するか、とにかく次の一撃をもらっても耐えられるように被弾覚悟で秘薬を飲むのかというようなもんだ。

 

 どのみちあいつが居たんじゃ満足に出歩けないし、先にポポとか食われたら嫌だから。とりあえず勝算は五分だけど行くかぁ。それに俺はゴリ押しで秘薬飲むタイプですしお寿司。

 

 というわけで、フルフルを倒して食う方針に決め、俺は折れた腕を庇いながら洞窟の中へと向かった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 どうやら俺のほうが洞窟に着くのは早かったようで、今はフルフルが洞窟内に入ってくるのを出待ちしている状況だ。

 

 幸いにもゲーム内での知識でどこから入ってくるのかは理解はしている。あとはそこを出待ちして油断して降りてきたところをガブリと首を噛み切る予定だ。腕の骨折がある以上真正面から戦うよりも奇襲戦法のほうが確実だ。

 

 壁際に身を寄せ、ジッとしているとあの羽ばたく音が聞こえてきた。どうやらフルフルのお出ましのようだ。静まり返った洞窟内に確かな衝撃が走る。着地したようだ。

 

 俺はフルフルが洞窟上部の横穴からその姿を見せるのを今か今かと待っていたが、フルフルは一向にその姿を見せない。何かおかしい。

 

 まさか、気づかれたか・・・・・・?

 

 フルフルには視覚器官、つまりは目がない。それゆえ視覚以外の感覚器官で外界の様子を察知しているのだろうが俺にはそれが何なのか知らない。恐らく前回襲われた際のことを考えるに嗅覚は間違いなく利用しているのだろうが、それだけではないはずだ。もしかするとそれ以外のなにか特別な器官で俺の正確な位置を既に察知しているとしてもおかしくはない。

 

 ここはいったん退くべきか・・・・・・、フルフルの確かな知識が無い以上、手痛いしっぺ返しを食らうの避けたい。

 

 俺が今回は諦めて引き返そうとしたところでフルフルが出てくるであろう横穴から今となってはもう見慣れたあの青い光が迸った。

 

 何だ!?何やってんだフルフルの野郎は!?

 

 なぜそこで戦闘態勢になってんだ!?なぜそこで電撃を撃った!?俺を補足してるんじゃないのか!?ああくそもう分からん!

 

 俺は横穴の正面に移動し、出来るだけ背伸びをして中を覗こうとするも奥までは見えずもどかしさに歯噛みする。何をやっているのか分からないのにこの場を離れるわけにはいかない。せめて今の状況は把握してからじゃないと退くに退けない!というか俺が単純に気になるぅ!好奇心が身を亡ぼすとは知っているがこの好奇心を抑えられない!いいや限界だ!見るねっ!(見えない)

 

 未だ横穴からは電撃が迸っているのが見える、一体何をしている?何と戦っている?

 

 何と戦っているにしても相手は誰だ?反撃する様子がないのは何故だ?

 

 頭の中には疑問符の大嵐が吹き荒れるが結論は出ない、というか何か恐ろしいことが起こりそうな予感がする。俺の生存本能が今になって警報を鳴らし始めた。きっと今すぐここから離れないと大変なことが起こるのを本能では理解しているが、離れられない。好奇心なのか、それとも今起きている何か理解しないと危険だという理性なのかさえもう分からない。

 

 と、あの聞きなれた金切り声のような不気味な咆哮が横穴の中から洞窟全体に響き渡る。反射的に身を竦ませる。背筋を凍らせるようなあの咆哮、耳を塞ぎたくても塞ぐことができない。あの咆哮を聞くのは今回が初めてではないが、それでも慣れない。

 

 だが次に響いた咆哮がそんな不気味なフルフルの咆哮を完全にかき消してしまった。フルフルの咆哮とは比べ物にならないほどの音圧。咆哮そのものが意思を持っているかのような恐ろしい感覚。咆哮という生半可なものですらなく、離れた俺にさえ肌を打つ衝撃を感じさせるほどだった。

 

 背筋が凍るなんてものではない。一瞬にして呼吸が止まり、指一本さえ動かすことができない。その咆哮が伝える凶暴性、巨大さ、そして絶対に自分が敵わない相手であることを痛烈に感じさせる。

 

 そしてその咆哮が終わった瞬間、横穴から轟音が轟き、バラバラになった白い肉塊が吹っ飛んできて洞窟の壁にぶち当たり、辺りに血をぶちまける。さらにオマケと言わんばかりに後から飛んできた氷柱が器用にもいくつかの肉片が壁からずり落ちる前に縫い留めた。

 

 そこら一帯が血に染まっても俺はそこを動くことができずにいた。恐怖、ともう一つ。驚愕だ。

 

 俺はそのバラバラにされた肉片に見覚えがあった。もちろんそれはフルフル、だったもので間違いない。バラバラにされていながらそれと分かる部位がいくつかあった。だがそこではない。いやそれも含めて無覚えがある。フルフル、そしてそれがバラバラになっている凄惨な光景。

 

 そう、俺が最初にフルフルに襲われ、死んだかと思いきや目が覚めると何故か生きていた。そしてその際に最初に目に入った物。

 

 まさにこれだ・・・・・・

 

 何者かが・・・・・・、俺が最初にフルフルに襲われた後に、フルフルを輪切りにした張本人が今ここに、あの横穴の中にいる。このフルフルの殺され方、あの綺麗な切り口からみてまず間違いない。

 

 恐怖でドッと心拍が早くなり、鳥肌が立つような感覚に襲われる。今まさにこの残虐極まりない光景を作り出したモンスターがあの横穴から姿を見せ、こちらに気が付くかもしれないのだ。

 

 だというのに足が、身体が動こうとしない。本当に足が凍り付いてしまったかのようだ。

 

 だが一向にその恐怖の源は姿を見せない。俺は真綿で首を締められている気分だった。もうじき俺のあのフルフルと同じ末路を辿るのだと思うと恐怖しかない。いつものふざけた考えもこの時ばっかりは微塵も頭に浮かばず、それどころか思考力そのものまで奪われてしまったかのようだ。蛇に睨まれた蛙とでもいえばよいのか、まさにその気分だった。

 

 一体どれくらいそうしていただろうか。ふいに壁に刺さっていた氷柱が抜け落ち、フルフルの肉塊とともに地面に落ち、音を立てて砕け散った。

 

 俺はその音で初めて正気に返ることができた。

 

 腕が折れているのも忘れて一心不乱に寝床に逃げ帰る。後ろなんて振り返る余裕はなかった。というか怖くて後ろを振り返ることができないというのが正しい。

 

 エリア7の寝床に帰ってきて初めて辺りを見渡したところで初めて一息つくことができた。今までの恐怖がドッと押し寄せてきて、一気に息が荒くなり、嫌な汗と震えが止まらなくなる。

 

 一体どんな奴があそこにいたのか、何者がフルフルを惨殺したのか。知っておかなくてはならない。そうしなければ俺の行動範囲に大幅な制限がかかってしまう。だがそれは俺自身がその何かに遭遇する危険性を高める行為でもある。もし出会ってしまったなら・・・・・・。その先は想像するに容易い。

 

 俺はそんなことを考えながら壁際にできるだけ身を寄せ、身体を小さく丸め、一度も見ていないその恐怖の源の姿を想像しては、夜に怯えて震える幼子のように朝を待った。

 

 恐ろしいのはそんなモンスターがいるというのに、その存在を確信させる痕跡が何もないことだった。逃げ帰ってきてからというもの、咆哮や振動、羽ばたく音すらも聞こえない。これではどこにいるのか、いや、本当に存在するのか?さっきのフルフルは俺が空腹のあまりみた幻覚だったのではないのか?そんなことを考えてしまうくらい俺は混乱してた。もちろんさっきの光景が厳格でないことくらいは俺が一番よく分かっている。あの充満していた血の匂い。なによりあんな恐怖を与えてきた咆哮が幻覚なはずない。

 

 だが幻覚であってほしいッ!頼むから俺の見間違いであってくれ!

 

 そう懇願するくらい俺は恐怖していた。

 

 当然ながらその夜は一睡もできなかった。

 

 

 




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