あの恐ろしい光景を見てから何日が経ったのか、恐怖でいっぱいだった俺は、そんなことを記憶出来ているわけもなかった。一日の感覚がモンスターになったせいで鈍くなっているせいもあるだろうが、朝と夜さえ正確に区別できていなかったくらいだ。このことから俺がどれだけ恐怖していたのか伝わるだろう。いや、言葉で伝えるのは不可能だろう。とにかくそれくらい恐ろしかった。
結局、俺がエリア7から動いたのは空腹に耐えられなくなったからであり、決してあの恐怖を克服できたからではないということはしっかりと理解しておいてほしい。
そして運よくポポの群れを見つけることができた俺はそれでなんとか腹を満たし、寝床に戻って寝たのだった。
それからというもの、エリア7を離れるのは必要に迫られた時だけにして、それ以外はずっと神経を研ぎ澄まして来るとも限らない襲撃に備えていた。
ただただそれを繰り返しているだけの日々、小さな物音にさえ飛び上がって驚き、自分の影にさえビクつく始末。あの洞窟に行くなんてもってのほかだし、そもそもエリア6付近には行かないようにした。
そんなこんなで気づけば腕の骨折も完全に治癒し、全身のダメージも治ってしまった。
そして今に至る。
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今日も今日とてビクビクしながらエリア2までやってきた俺はいつも通り海に飛び込んで何か食えそうな魚はいないかと探す。あれ以来ずっとこんなことばかりしている。最初にポポの群れを見つけられたのは幸運であり、その一回以来ポポは見かけていない。その原因があの恐ろしい何かがいるからなのか、俺が最初に群れを丸ごと襲ってしまったからなのか未だに分からずにいる。
そもそもあの死んだフルフル以降、大型モンスターがこの氷海にやってきたのを見たことがない。草食系のモンスターも見かけないし、これはもしかすると古龍がやってきているからなのか、もしかするとあの洞窟でフルフルを殺したのは古龍だったのではないか?などという考えも浮かんだが、氷海にはクシャルダオラくらいしか来ない。フルフルが洞窟内への移動に使うような横穴にクシャルダオラのようなモンスターが収まりきるとも思えない。
このように未だにあの恐怖の源の正体を考えてはいるのだが、答えが出ずじまい。しまいにはこうして食料を探しているときにさえ頭に浮かんでしまう始末。本当に厄介なものである。
と、考え事をしているの俺の視界前方に大きめの影が映った。
俺はひとまず考え事を中断し、その魚影に狙いを定める。ぴったりと後ろにつき、一気に速度を上げて迫る。
その大きめの魚は背後から何かが急速に接近してくることに気が付いたのか、速度を上げて左右に逃げ惑い、振り切ろうとする。だが既に射程圏内に入っている!今度は逃がさない!キング(ry
その魚が最後に見たのは大きく口を開けた何かだったに違いない。
俺はその大きな魚を口の中でバラバラに噛み砕き、次の獲物を探し始めた。
深くから一気に突き上げて氷ごとぶち破るという狩りの方法は今のところ止めている。そんなことをすれば騒音で大型モンスターなどがやってきてしまうだろう。
というか俺があの洞窟にいた何かに気づかれたくないだけなんだけどね。
というかいまだに氷海にその何かはいるのか?すでにどこかに行ってしまったのでは?
そうなってくれれば嬉しいのだがそれを確かめるには自分の目で確認するしかない。それは嫌だった。死んでも嫌だ。というか死ぬ。
そうこうしているうちにもう一匹の大きめの影を見つけた。
俺はまたそっと後ろに回り込んだが、何か様子がおかしいことに気が付く。
あれ?どっちが頭だ?
後ろに回り込んで先ほどのように視界の外から奇襲で一気に仕留めるつもりだったのだが、どっちが頭なのか分からないような姿形をしている。
これもしかして頭側に回り込んじゃった?だとしたらドジっ子すぎるな俺。絶対ファミレスとかでバイトしたら「はわわわっ!」とか言って客に水ぶちまけちゃうやつだな。
というか姿形もそうだが、様子もおかしい。なんというか動きがない。というかゆっくりと沈んでさえいる。
なんだろうか、人でもなさそうだ。かといってポポの子供でもなさそうだが・・・・・・、何かのゴミか?とにかく確かめてみるしかない。
俺は警戒しつつゆっくりとそれに近づく。はっきりと視認できる距離まで近づいた、その瞬間。それがとてもよく見覚えのあるものであることに気が付いた。
俺はそれを決して傷つけないようにそっと口に咥えると、全速力で海面まで浮上した。氷海の氷の上に飛び乗り、出来る限り急いで自分の寝床。エリア7へ急ぐ。
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口に咥えていたそれをそっと地面に置き、俺はそれを抱え込むように丸くなる。
すでにすっかり冷たくなっているが心臓の鼓動はしている。呼吸も浅いがまだある。とにかく温めなくてはならない。
それは茶色のトラ柄の毛皮をびしょぬれにして、細かく震えている。特に装備などは身に着けてはいないようだが、左耳に真っ赤なピアスのようなものを付けている。誰かのオトモかもしれないがこの際そんなことはどうでもい。歳は分からん!
そう、アイルー。俺が見つけたものはアイルーだったのだ。なぜこんなクソ寒い氷海の海で溺れていたのかは知らないが、このままでは低体温症で死ぬのは目に見えている。
だがここは氷海、海中よりかはマシだろうが寒いことには変わりない。俺が温めたとしても果たしてどうなるか・・・・・・、そうだ!いいこと思いついた!!
とにかく俺はこのアイルーを助けるべく頭に思い浮かんだ名案を実行に移したのだった。
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しばらくした後、俺の口の中でもぞもぞと動くのを感じた俺は口を開いて外に出してやった。
え?なんで口の中に入れているのかって?そりゃあ口の中のほうが温度は高いだろう?まさに天才の発想のそれである。なお衛生面には考慮しないものとする。まぁ死ぬよりかはちょっと魚臭くなったほうがましだろう。
ゆっくりと俺の口の中から外に出たアイルーは今まで自分が何に包まれていたのかを理解したのだろう。青ざめて逃げ出そうとするが、流石にまだ全快はしていないようで尻もちをついてしまった。
ガクガク震えているのは寒さのせいではないのだろう。といってもまさに必死の形相でこっちを見ているこの哀れな獣人族の誤解を解こうと声を出そうとしても悲しいかな、今の俺が出せるのはモンスターの咆哮や唸り声のみ。
だが伝わるジェスチャーもあるだろう。
俺はジッとアイルーの目を見つめ、首を左右にゆっくりと振った。人間でいうところのNOサイン。これで俺が危害を加えないことが伝われば良いが・・・・・・。
アイルーはいまだに震えていたが、呼吸はだんだんと落ち着いてきたようだ。未だに俺のことを疑わしげに見ているが、とりあえず今のところは良しとしよう。
それは前脚でそっとアイルーを引き寄せると最初のように体を丸めてその毛玉を包み込んだ。こっちのほうが暖かいだろ?
アイルーは最初はニャアニャアともがいて逃げ出そうとしていたが、俺に攻撃の意思がないことを理解したのか、はたまた観念してあとは煮るなり焼くなりどうにでもなれと思ったのか大人しくなった。
しばらくすると穏やかな寝息が聞こえてきたので俺はフッと笑って、氷海の寒い風が当たらないようにさらに身体を丸めた。子を持った親の気持ちというのはこんな気持ちなのだろうか。だとしたら俺は相当な親不孝者だったに違いない。
寝息につられてか俺も眠くなってきたし、ひと眠りするか。
こうして俺は眠りについたのだった。このときばっかりはあの恐ろしい光景さえも忘れて、穏やかな心持ちになることができた。これはそのへんの違法薬物よりもリラクゼーション効果あるだろ。やっぱ猫最強だわ。
まぁ人間だったころは猫アレルギーだったんですけどねええ。・・・・・・モンスターだし大丈夫だよな?
とまぁ何はともあれ、今回はぐっすり寝れそうだ。
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んん~ッ!よく寝た
俺が目が覚めて大きく伸びをし、周囲を確認した時、俺の懐が冷たいのに気が付いた。
やはりというか何というか、そこにいたはずのアイルーは既にいなくなっていた。既にぬくもりもない。大分前に逃げてしまったのだろうか。
・・・・・・まぁ当然だよな
ポツリと呟く。今の俺は大型モンスター。しかも氷海の大食漢ザボアザギル。逃げるのは当たり前。意思の疎通もあのジェスチャーだけだったし仕方ない。
とはいえ残念なことには変わりない。だがこれも自然界の定め。受け入れなくてはいけない。
さてさて、今日はどうしたもんかねぇ
溢れる涙をぐっとこらえてまた食料を探しに行こうとした俺は足元に何かが置いてあるのに気が付く。
そこには血判の肉球のスタンプが腹に押された魚が数匹、きちんと並べられておいてあった。
誤字脱字、アドバイス等ありましたらよろしくお願いします。次回はちょっと遅れるかもしれません。