ことは私がエリア2の中ほどに差し掛かったときに起こった。
お目当ての氷を採取することができた私は氷をしっかり抱えて、うきうき鼻歌交じり(無表情)でキャンプへの帰り道を歩いているところだったのだが、そいつは突然やってきた。
突如として左手の海面が盛り上がり、爆音と盛大な水しぶきを上げながらそいつはエリアの中央、つまりは私の目の前に着地した。
突然のことに驚いたものの、私もハンターの端くれ。後ろに転がって距離をとると同時に背中のヘビィボウガンを展開して弾倉に残っていた徹甲榴弾レベル2をリロード。飛び出してきたそいつに狙いを定める。
私はそいつを見て少し驚いた。というのも、私の知っているその姿とは一致しなかったからだ。
化け鮫ザボアザギル、・・・・・・のはずだ。骨格からしてそのはずだ。だが明確な違いがいくつもある。
全身を覆う金属質な光沢を帯びる鱗、腕や尻尾には見るからに狂暴そうな金属の刃物のような甲殻?が生えている。そして本来なら青いはずの皮膚は黒ずんだ赤みを帯び、不気味さを感じさせる。
そいつは私に気が付いていたらしく、ちょうどそいつの身体ほどの距離を詰めることも開くこともせず、ジッとこっちを見つめてくる。その目はこちらを品定めしているというよりも、どちらかといえば困惑しているような様子で視線がせわしなく動いている。
私はそいつのどんな小さな動きも見逃すまいと神経を集中させる。だがこちらを攻撃しようとするような動作を見受けられない。動いているのは視線だけ、それ以外の部位はピクリともしない。
銃口を向けられているのにやけに落ち着いている・・・、こちらを誘ってるのか?
引き金にかけた指に力がこもる。急に体温が下がるような感覚に襲われ、自分の呼吸がやけにはっきりと聞こえる。だが決して緊張しているわけでも恐怖しているわけではない。そんなことは今までのハンター生活ではっきりしている。大丈夫、自分はいつも通りだ。
状況を整理すると、こいつを狩猟することになった場合。問題がいくつかある。
まず一第一に今回は狩猟目的で氷海に来たわけではない。装備は耐寒性しか考慮していないウルク装備でお世辞にも防御力が高いとは言えない。氷耐性ならば問題はなさそうだが・・・・・・。装備の問題だけではなく、弾数も重要な問題だ。今回持ち込んだのは徹甲榴弾のレベル2、3と通常弾レベル1、2、そして貫通弾レベル1、2と焚きつけ用の火炎弾が5発だけ。先ほど氷を撃つ際に通常弾1と2、そして徹甲榴弾レベル2を1発ずつ使った。無駄遣いしなかったのは良かったがそれにしたって持ち込みの弾が少なすぎる。
この残弾数でいけるか?撤退するべきか・・・・・・
モドリ玉は幸いにもポーチに入っている。問題があるとするなら。使う隙をこいつが与えてくれるかどうかだが。
私が現状分析をしていると、動き続けていたそいつの視線がある一点で静止した。そいつが飛び出してくる前に私が立っていた場所だ。
あ・・・・・・
私もつられてそこに視線を向けると自然と声が漏れた。そう、私はそいつが飛び出してきた瞬間に後ろに転がって回避、武器を展開し、今に至る。私のハンターとしての動きに一切の無駄は無かった。そう、無駄なものが一切排除された動作。つまり、つまりだ。
そこには砕けてしまった氷が無残にも欠片となって散らばっていた。
ゆっくりと視線を戻す僅か数瞬、様々な感情が私の中を駆け巡り、ある一つの感情に収束し、そして。爆発した。
そう。怒りである
今回の私の最重要任務であるこの氷を粉砕するとは許しておけぬッ!貴様は生きて帰れると思うなよ!
分かっているのだ。この目の前のザボアもどき野郎が直接手を下したわけではない。氷が割れたのは私の落ち度だ。だがッ!ではッ!私は誰のせいにすればこの感情を抑えられるんだ!?眼前のこのもどき野郎にぶつけるほかない!
私は怒りに燃え(無表情で)、再度狙いを定めると、先ほどまで考えていた残弾数や装備のことなど忘れて微塵の躊躇もなく引き金を引いた
つまるところ、そう。
八つ当たりである。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
寒ぃ・・・・・・・
俺は氷海の海中でそう呟いた。
俺はここ氷海にギルドの船が来るのを目撃してしまった。だが肝心のハンターの姿は確認できずじまい。ハンターを視認できていないが故に海から上がったものか、それともまだ様子を見るべきなのかを迷いに迷った挙句、どうすることもできずにこうしてまだに海中にいるわけなのだが。
そう、寒さがそろそろ限界だ。本来寒冷地方である氷海に生息するモンスターであるザボアザギルの俺は当然寒さに対する耐性は高い。だが限度というものがある。いくら寒さ耐性があるからといってそれは永続でもないし無限でもない。シロクマがずっと海に浸かっているか?丸一日半裸で乾布摩擦をする馬鹿がいるか?そりゃあ世界は広いからそんな変人の1人や2人くらいはいるかもしれないが、たいていのシロクマも人間もそんなことすりゃ身体を壊すだろう。
さらに見つからないように基本的に海中に身を隠しているため、全身を冷たい海水に晒している状態だ。時折一瞬呼吸をしに浮上することはあってもそれ以外はずっとそんな感じだ。迂闊に海面に姿を見せようものならこちらが発見されるかもしれない。まぁそのせいで俺もハンターがどの辺にいるかとか分からないんだけどね。
せっかくだし魚でも探して食うかと思っても、既に俺が長時間滞在しているこの近辺にはもう魚影は見えない。当然といえば当然だが狩場に留まる馬鹿な獲物はいないということだ。
そしてその我慢が限界に達した。
俺はもうハンターが居てもどうとでもなれという心境で水中で助走?助泳?をとって海面目掛けて飛び出した。
え?わざわざそんな派手に飛び出さなくても他にいくらでも静かに陸に上がる方法があるだろうって?まぁ俺だってそういう方法があるなら是非そうしたい。だが世の中そううまくはいかない。
ここは氷海であり、読んで字のごとく凍った海だ。一部のエリアは凍った海で構成されていて当然海沿いには流氷がゴロゴロしている。早い話が、砂浜のような地形が存在しない。海から上がるにはその流氷だらけの海岸線からしかない。そして俺は今人間ではない。体重は余裕で100キロは超え、それに比例して身体も大きい。そんな俺が器用にも前脚を使って自分の身体を陸の上に引っ張り上げるなんて人間のような芸当ができるとでも?そんなことしようものなら流氷は砕けて俺は虚しく海へカムバックすることになる。そもそも俺の前脚ではたとえ流氷が砕けなかったとしても自分の身体を持ち上げるほどの力は出せない。
つまり飛び出すことがもっとも確実かつ一般的(モンスターとしては)なのだ。現実世界のペンギンとかアシカとかもこうやって海から上がったりすることもあるらしいから別に不思議なことではない、と思う。なおこの方法は隠密性には考慮しないものとする。
海面から飛び出して空中にいる僅か数秒、俺は激しく後悔した。
だって見えちゃったんだもん。俺の着地地点の近くにいる人が・・・・・・
そして着地。自然にそちらを見て警戒態勢をとりながら対象を観察する。
装備はウルク装備、形状からするに女性かな?武器はなんじゃ?形状からしてヘビィボウガンなのは間違いないようだが、詳しくは分からない。ゲームでも高いPSが要求されるガンナーにはあまり触れてこなかったツケがここで回ってきた。まぁ流石にディスティくらいは知ってるからそれじゃなくて良かったというべきだろうか。
ここまでくれば眼前の人間がハンターであることはもはや疑いようがない。
こちらに銃口を向け微動だにしない。その頭装備から覗く顔には表情というものが一切窺えない。突如登場した俺にも呼吸を乱すことなく素早く臨戦態勢に移ったこの様子を見るに恐らく相当の手練れだろう。こちらも油断はできない。
出来ることならこんな手練れと戦いたくはない。こちらに戦闘の意思がないことが伝わったら速やかに退いてくれるだろうか。いや、そもそも俺がメインターゲットのなのか?そうなれば戦闘は免れそうにないが。
と、戦況分析と逃げの算段をしていた俺は視界の端に妙なものをとらえた。
俺とそのハンターの中間に散らばっている何かの欠片のようなもの。氷柱のように見えるが天井の無いこのエリア2に生成されるものではないし、風などの自然現象で運ばれてくるようなものでもない。モンスターの仕業にしてもわざわざ氷柱を運ぶモンスターなんて存在しないだろう。ということはつまり。
このハンターが持ってきたのか?なんのために?ひょっとしてちょっと楽しくなって持ってきちゃったのか?分かる分かる。手頃な木の棒とかは振り回したくなるよな。氷柱とかも見つけたら折って持ち歩きたくなるし、雪なんて降った日にはお祭り騒ぎだよな。
と、ハンターが俺の視線に気が付いたのかその氷片を見つめる。
ん?やっぱりこの人が持ってきたのかな?なんか割れちゃったみたいだけど俺のせいじゃないよね?
しばらくお互い氷片を見つめていると、ハンターがゆっくりその顔を上げる。
目が合う。
その瞬間、俺は反射的に左腕で顔面を庇った。
直後俺の腕を刺すような痛みが襲った。銃弾を撃ち込まれたのは明らかだ。さらに一瞬遅れて着弾部位が爆ぜた。腕には鉄の装甲こそあるものの激しく痺れる。
どうやら拡散弾か徹甲榴弾を撃ち込まれたらしい。鉄の装甲があってなおダメージを免れないという威力に一瞬にして冷や汗が噴き出る。
防御態勢をとったがただ頭で考えるよりも早く体が反応しただけだ。たまたま防いだところに攻撃が来ただけ。暑いヤカンに触れた瞬間に手を引っ込めるようなただの反射でしかない。
あのハンターと目が合った瞬間、纏う雰囲気が一瞬だけ変化したことにびっくりしてたまたまとった防御が運よく成功しただけのマグレだが、その一回のマグレで防御に成功したのなら儲けものといえるだろう。まぁ本当に重要なのはここからなんだがな・・・・・・。
ボウガンの銃口から延びる白煙が氷海の風に流されていく。白煙が晴れた後にちらりと見えた女の顔を見て俺の本能がさらに警報を鳴らした。
女は無表情だった。呼吸を荒げるでもなく、銃弾を命中させたことを喜ぶ様子もなく、最初と同じようにただの無表情だった。その表情からは恐怖も、焦りも、ましてや喜びなど見られるはずもなく、その目からはある種の狂気さえ感じられた。
ハンターってやつはみんなこうなのか?狩りの間中ずっとこんなに無表情なのか?ふつうは何かしらの表情が読み取れるだろ。それとも何か、こいつだけが特別おかしいってだけか?表情筋ついてんのかこの女、ピクリとも表情変わんねぇぞ
まだ恍惚とした笑みを浮かべてくれたほうがよかった。表情がないというのは何よりも不気味だ。そこから何も読み取れない、分からない。無知であるということは同時に脅威でもある。そしてこの場合は恐怖でしかない。
ここまでくれば俺にも逃げるという選択肢がないことくらい分かる。逃げだしたいがこの不気味なハンターに背を向けることを本能が許してくれない。適当に相手をしてあしらえるとも思えない。本気で相手をして俺が生き残れるかどうかというレベルだろうか。仮に万が一逃げられたとしても後を追われてはこちらのジリ貧だ。
ここで撤退させるだけの打撃を与える必要があるってことか・・・・・・
俺はじっと相手を見据える。覚悟も決まった。やるべきことはただ一つ。このハンターに撤退を余儀なくさせ、かつ俺の追跡も断念せざるを得ない状況までもっていくこと。そして最重要なのが、俺が死なないことだ。
ま、いつも通りの命を懸けた戦いってことだ。何一つ変わらない。
俺が少し後退したためかボウガンのリロードを行うハンター。俺はそれを確認しながら天に向かって咆哮する。身体が興奮状態になり徐々に身体に氷の鎧が生成され、ものの数秒で完全な鎧が完成した。
こうしてもう何度目か分からない、俺の勝算の薄い戦いが幕を開けた。
投稿が大分遅れて申し訳ございませんでした。そして明けましておめでとうございます。本年も頑張ってまいりますので、何卒よろしくお願いします。誤字脱字、アドバイス等あればよろしくお願いします。