化け鮫転生放浪記   作:萌えないゴミ

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 今回はちょっと長めになっちゃいましたねぇ


痛恨

Lv2通常弾をリロードした私は今までの狙い通り、右腕に狙いを定めて弾を撃ち込む。

 

 だがザボアもどきは左に軽く動いて弾を躱した。右腕を狙っていたためほんの少し位置を変えるだけで簡単に躱されてしまい、弾は虚しくザボアもどきの後方へ飛んでいく。

 

 

 すでに私の狙いに気が付いているのか?

 

 

 確かに私は右腕に狙いを定め、そのように攻撃をしてきた。だがこの短時間でこちらの狙いを見抜き、あまつさえ学習して対策をとってくるとは。相当に知能が高いのか?いや、違う。

 

 

 戦い慣れしている、のか。モンスターとはではなくハンターと・・・・・・

 

 

 私の背筋に冷たいものが走る。もし、こいつが本当にハンターと戦い慣れているのなら、発見時の現れ方にも合点がいく。見つけていくれといわんばかりの登場。そしてこの戦い慣れした動き。そして最初のこちらを品定めするかのような様子。

 

 いや、戦い慣れしているだけではない。

 

 

 こいつは、単純に戦いを〝楽しんで〟いる。

 

 

 そう考えるとすべてのことに納得がいく。派手な登場は単純に自分の姿を見せ、戦闘を行わせるため。最初の品定めするような様子は私が相手にふさわしいかどうかを確認するため。そしてそんなことをした理由がこれだ。

 

 ということは自分の力に自信があるということ。それは現に戦闘をしている私自身認識している。こいつの戦闘能力や学習能力、生態のどれをとっても未知数かつ脅威というよりほかない。

 

 だが、だからといって私とて退いてやる道理はない。悪いけど持ちうる全力をもって知らしめてやろうか。

 

 ハンターの意地を。

 

 ザボアもどきは緩やかに左へとズレながらこちらに向かって突っ込んでくる。この動きで確信した。こいつは銃の仕組みと私の狙いを理解している。この射線をズレさせる動き、間違いない。

 

 向かってくる相手に銃弾を命中させるのと横切るように動く相手に銃弾を命中させるのでは難易度が違う。こちらの銃弾は当然ながら、ボウガンのブレが無い限り直進しかしない。つまり動いている相手に命中させるには完全、とまではいかないが相手の行動と移動速度、そして自分の撃つ弾の速度に応じた計算が必要になる。要するに曲撃ちだ。

 

 だがモンスターの動きを完全に予測することなどは不可能。もしかしたら急に反転して逃げ出すかもしれない、急に速度を上げて突っ込んでくるかもしれないのだ。

 

 私はザボアもどきと位置を入れ替えながら円を描くようにして移動。ゆっくりと大回りをするようにボウガンの弾が最大威力になる距離まで後退していく。

 

 ザボアもどきは私がゆっくりと後退しつつあることに気が付いたのだろう。距離を詰めようと左腕から前に踏み出した。

 

 その瞬間、私は右腕目掛けて通常弾を弾倉に残っているだけ撃ち込んだ。

 

 想像してほしい。自分がまさに歩き出そうと足を地面から持ち上げ、前に踏み出した瞬間。その足が地面をとらえる前に、反対側の支えとしている足をいきなり払われたらいったいどうなるだろうか。

 

 答えは単純明快、転倒だ。

 

 生物の身体的構造の穴。ある種の欠陥とも言えるかもしれない。空を飛んでいるのであればまた話は変わってくるのだろうが、相手はザボアザギル(もどき)。海を泳ぐことはあれど飛行能力はない。

 

 人間のように二足歩行を行い、なおかつ前脚がフリーになっている生物であれば、こうなった時でもとっさに手、または前脚が出るので無様にすっ転ぶことはないだろう。

 

 だが今回の相手はザボアザギル。四足歩行ではあるが後ろ足だけで自重を支えることはできない。

 

 支点である前脚のうち一つを持ち上げた状態で、残るもう片方の足に銃弾をありったけ撃ち込まれたザボアもどきはバランスを崩し、顎から地面に落ちた。

 

 十秒、いや五秒もないであろう隙。だがこれだけあれば充分だ。

 

 私は素早くリロード。ザボアもどきが起き上がるまでに出来る限り通常弾をばらまく。

 

 

 この隙を有効活用して腕の氷を剥がす!

 

 

 決して焦ることなく、冷静にだ。、狙いは一点集中右腕。この機を逃しては勝利をつかめない。

 

 ザボアもどきが起き上がる。

 

 私は軽く舌打ちして、Lv2通常弾をリロード。次の行動に備える。

 

 ザボアもどきは明らかに興奮していた。呼吸は荒く、口から漏れ出る息はいっそう白くなっている。それが私に対する怒りなのか、相手が歯ごたえのある敵だと分かって嬉しくて興奮しているのか。まぁ恐らくは後者であろうが。

 

 ザボアもどきが頭をスッと下げ、その氷で生成された角をこちらに向ける。

 

 

 突進

 

 

 そう頭に思い浮かんだ私は、反射的に1発撃っても回避が間に合うと頭の中で判断し、引き金を引こうと指に力を込めた。

 

 だが、私はここでもミスをした。

 

 1発撃っても間に合うと判断したのは私の今まで積み重ねてきた経験からだ。だがその判断材料にこいつの戦闘能力を付け加えるのを忘れていたのだ。

 

 一瞬で距離が詰まる。明らかに計算違いの速度。

 

 最初から回避すると判断していたのなら間に合ったかもしれないが、既にこちらは引き金に指を引こうとしている。このままでは到底間に合わない。

 

 氷の角が迫る。たとえ今から回避が間に合ったとしても致命傷は免れないだろう。そして当然続く攻撃を避けられるはずもなく、私は死ぬことになる。

 

 既に引きかかった引き金を戻すことはできず、私はせめてもと今まで狙い続けた右腕に銃口を向け、弾を撃ち込んだ。

 

 通常弾がザボアもどきの腕に命中した瞬間、軽い破裂音がして、ザボアもどきは私の左後方へとすっ転んでいった。

 

 

 な!?何だ!何が起こった!?

 

 

 それはすぐに分かった。

 

 ザボアもどきを見ると右腕の氷が無くなっていた。

 

 恐らくはあの最後に撃った弾が偶然にも氷を粉砕する最後の一押しになったということだろう。

 

 最後に焦って右腕の狙いを外していたら今頃は死んでいたかもしれない。なんにせよ私の命が助かったことは確かだ。

 

 

 偶然とはいえチャンスは訪れた!ここで全身の氷にダメージを与える!

 

 

 私は弾を変更、徹甲榴弾Lv3を弾倉にぶち込み、こちらに背中を向けてもがくザボアもどきの背中から全身を覆う氷の鎧に銃口を向ける。

 

 徹甲榴弾は敵に命中させた後に爆発して衝撃を与えるという性質上、頭部に命中させることができればモンスターに眩暈を起こすことができる。

 

 だが今回は頭を狙わない。眩暈を起こさせるよりも今は氷の鎧を引っぺがすことが先決。

 

 徹甲榴弾は単発のダメージも優秀。爆発するため部位破壊にも有効に働く。この氷を破壊するにはかなり有効なはずだ。

 

 だが欠点として反動が大きい。だからこそこういった大きな隙以外には使用できなかった。

 

 

 だが今なら最大威力のままぶちこめる!

 

 

 できるだけ氷の鎧全体に負荷をかけるように弾を撃ち込む。反動を全身で押さえつけ、最速での装填を意識する。

 

 目の前のザボアもどきが起き上がりつつある。背中の氷はヒビこそ入っているものの粉砕されていない。逸る気持ちを抑えて徹甲榴弾を撃ち込む。

 

 ここでできるだけダメージを与えなければあいつはさらに警戒してしまう。弾の種類も、残弾数も多くない私にとって長期戦はできない。

 

 焦りながらも徹甲榴弾Lv3の残弾数を計算する。最大所持数はたったの9発。だが大きな隙でも9発全弾打ち込むには時間が足りない。

 

 いまやザボアもどきは完全に起き上がり、こちらを見据えている。その目の色は最初とは明らかに変わり、充血して赤く染まり、苛立たしげに前脚を踏み鳴らす。

 

 全身の氷はいまだ壊れていない。徹甲榴弾Lv3の残弾数は残り4発。長い隙だったが撃ち込めたのはたったの5発。徹甲榴弾とはいえやはりダメージ量が足りなかったようだ。

 

 残りは貫通弾と使いかけの通常弾。そして僅かな徹甲榴弾。火炎弾は弾数が少なすぎて戦力にはならない。もともと焚き付け用に持ち込んだものだし。

 

 

 残弾数にはいくらか余裕はあるが・・・・・・、果たしてこのまま戦ったとして勝利できるか?

 

 

 私自身理解しているが、明らかにダメージ量が足りていない。撃ち込んだ弾はごく僅か、しかもあいつの生身には届いてすらいない。破壊したのは右腕の氷の鎧のみ。全身の氷にはダメージこそあれ破壊はできていない。徹甲榴弾を使い果たしても氷の鎧が剥がせなかった場合はまた通常弾に頼るしかない。定点攻撃力は高いが1発のダメージは徹甲榴弾には遠く及ばない弾でこれからさらに苛烈になるであろうあいつの攻撃を潜り抜けて氷の鎧を剥がせるかと言われれば、可能性は低い。

 

 貫通弾はできれば氷の鎧を剥がしてから使いたかった。あいつが氷の鎧を纏う前に確認できたのだが、全身に鉄のような鱗が生えていた。氷の鎧に加えてそんな鉄の鱗が生えているのなら貫通弾でもあいつの体内に届く前に止められてしまう可能性が高い。

 

 だがその鎧を剥がせなければそんな意味がない。

 

 

 撤退するしかない・・・・・・

 

 

 このまま戦ってもこちらのジリ貧だ。ここは撤退するしかない。とにかくなんとかして怯ませたうちにモドリ玉を使おう。

 

 私はこちらに向き直っているザボアもどきの鼻先目掛けて徹甲榴弾Lv3を撃ち込む。顔面に打ち込めば爆発の威力もあるし怯んでくれるかもしれない。

 

 だがまたしても忘れていた。こいつが、他とは違うということに。

 

 ザボアもどきはその場でスピンし、その斧のような尻尾であろうことか徹甲榴弾を弾き飛ばした。

 

 

 何ィッ!?弾が刺さりもしないのか!?

 

 

 そしてそのまま一回転し、こちらに向けて口を開けて突っ込んできた。

 

 その速度たるや今までの比ではない。あっという間に眼前に巨大な口が迫る。しかも頭を横に傾け、口を開けて突っ込んできたので横に回避しても避けきれない。当然ながらジャンプして回避できるような高さでもない。

 

 おまけに徹甲榴弾の反動で硬直してしまっていた私に素早い回避などはできない。後ろに回避してもあまり意味はない。地面を掘って難を逃れることも不可能。前後上下左右全ての逃げ道を潰された、まさに絶体絶命。

 

 ザボアもどきの口の端が私の身体にかかり、あとは口を閉じるだけで私は死ぬ。というところまできた瞬間。私の身体は勝手に動いた。

 

 ボウガンの銃口を地面にぶっ刺し、弾倉に残っていた徹甲榴弾を地面に向けて3連射。本来なら徹甲榴弾は連射できるような弾ではない。だが無理矢理に銃身を押さえつけて引けないはずの引き金を引きまくる。

 

 銃口を塞がれたボウガンの中で膨大な負荷と圧力がかかっているのが手から伝わってくる。

 

 視界に映るすべてがスローになっていく。ゆっくりと両側から死が迫る。幾重にも並ぶ歯は金属質な輝きを放ち、口内からは耐え難い悪臭がする。

 

 そして私がその死に呑まれる瞬間。銃口を塞がれ、徹甲榴弾の速射という、通常ならありえないほどの負荷をかけられた私のボウガンは銃身から大爆発を起こした。

 

 その瞬間、私はボウガンを支えにして操虫棍のように宙に身を躍らせた。

 

 当然これだけでは高さが足りるはずもなく、私が死ぬことには変わりない。だが、銃身から起きた大爆発が私をさらに上に押し上げた。

 

 ギリギリで口の端を躱し、腰の剥ぎ取りナイフを最後の抵抗とばかりにザボアもどきの背中に突き刺す。そしてそのまま背中を飛び越え、背後の地面に叩きつけられた。

 

 受け身をとれるような準備があっての回避ではないので当然ながら全身を激しく打ち、無様に氷の上を転がる。背中を強く打ち、肺から息が押し出される。

 

 だがなんとか体勢を立て直して膝立ちになる。呼吸は荒く、全身にダメージがあるが、瀕死というわけではない。

 

 ザボアもどきはこちらを見ていた。その口には先ほどまで私が手にしていたボウガンが大破して咥えられている。もしほんの一瞬この方法を思いつくのが遅ければああなっていたのは自分だ。

 

 そう考えると背筋が凍り、鳥肌が立ってくる。

 

 見るとザボアもどきの背中から全身を覆っていた氷の鎧は砕け散っていた。どうやら背中に刺した剥ぎ取りナイフで壊すことができたらしい。腕の氷の鎧といい、偶然に助けられてばかりいる。

 

 このまま戦闘続行しようにも武器が無くては戦えない。私は追撃が来ないうちに急いでポーチからモドリ玉を取り出し、地面に叩きつける。

 

 視界が緑色の煙に覆われていく中、そのザボアもどきの目がチラリと見えた。

 

 その目は〝不服〟とでもいうように曇りきっていた。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 俺は恐怖していた。目の前の緑色の煙に包まれつつあるハンターがいまだに無表情なことではない。俺の氷の鎧が左腕を除いて剥がされたことでもない。

 

 

 俺は、今、何を、しようと、した?

 

 

 明らかに、俺は。

 

 モンスターではない。

 

 あのハンターを。

 

 人間を。

 

 ヒトを。

 

 

 

 〝殺そうとした〟

 

 

 

 自分自身にだ。

 

 

 




 一月以上間が開いてしまい申し訳ありませんでした。皆さまも新型コロナウイルスを始めとした感染症に罹患しないよう。どうかお気を付けくださいませ。

 誤字脱字、アドバイス等あればよろしくお願いします。

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