化け鮫転生放浪記   作:萌えないゴミ

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 長期にわたる休載、お詫び申し上げます。


氷海

 ここ数日、寝床から動いていない。思考がまとまらない。同じ問いが何度も繰り返され、終着点も見つからぬまま、また最初の問いへと帰る。目の前の風景は虚ろに流れ、何度昼と夜が繰り返されたのか認識する余裕はない。

 

 こんな生きる屍同然となってしまった理由は明白。あのハンターとの戦闘があったからだ。

 

 あの戦いで、俺は、あの瞬間。明らかにあのハンターを殺すつもりだった。

 

 今の俺はモンスターだ。人間とは敵対関係といっても過言ではない。それどころか大正解だろう。

 

 だが、俺の精神は人間のままだ。モンスターの体に人間の精神。その不一致は致命的な歪みをもたらす可能性がある。現に俺は精神的に致命的ともいえる痛手を受けている。本来なら有利に働くはずの人間としての理性。だが事ここに至っては全く逆の効果を発揮してしまっている。

 

 モンスターとしてこの世界を生き抜く第一の関門である血の味、そして人間のころはありえなかった生死をかけた生存競争。これはすでに慣れてしまった。まぁ産まれたてのころはそんなことを考える余裕はなく、本当に生きるのに必死だったから当然といえば当然なのだが。だが命を奪うことに全く抵抗がないわけではない。人間と違って皿に乗った料理が運ばれてくるのではなく、その食べ物、生き物を殺してバラバラにするところからやっているだけのこと。だがまぁ、これも正直に言えば生きるためという建前のもと、その殺しに目をつぶっているに過ぎない。

 

 だが今ぶち当たっている第二の関門。人間、ハンターとの戦闘となると話は別だ。

 

 敵に殺されないため、生き残るという生存本能的な意味では前で述べたことも違いはないのかもしれない。

 

 だが。

 

 

 こんなことは言いたくはないが、残念なことに命には〝差〟がある

 

 

 俺が人間(だった)というのもあるが、〝人間〟と〝それ以外〟の命の明確な差。極論だが人が一人死ぬのと、その辺の道端で蝉が一匹死ぬのを同列に考える人はいない。無論、命、生命という点では命には大も小もない。そして俺の理想論も同じ全ての命を平等と考えられることなのだが。まぁ・・・・・・、あくまで理想は理想。格好つけているだけでいざその現実を突きつけられた瞬間には何の役にも立たない。

 

 

 認めよう。人間の命を奪うことは精神が人間である俺にとって一線を超えることだと

 

 

 ハンターはゲームでは死ぬ=一乙、三乙でクエスト失敗となる。もちろん死ぬといってもアバターがバラバラの肉塊にされて食われるわけではなく、ただ拠点に戻されるだけなのだが。

 

 そして何度でも言おう、この世界はゲームとは違うのだと。ハンターとモンスターがいて、両者が出会ってしまったのなら命のやり取りが発生する。無論クエスト対象ではないモンスターだったのなら、そうはならない可能性もあるが。

 

 

 ヒトゴロシ

 

 

 その単語が頭から離れない。人間ならタブー中のタブー、殺人。

 

 しつこいほど繰り返すが、俺の体はザボアザギルのそれだが、肝心の心は人間のままだ。まぁ、それが一番の問題なんだが。

 

 おそらく俺と違ってハンターを殺して罪悪感に心を痛めるモンスターはいない。やつらに感情というものがあるかはおいておくにしても、自分を殺しにきた相手を返り討ちにすることを躊躇いはしないだろう。

 

 あのハンターがまさかの回避方法で俺の最後の噛みつきを回避してくれていなかったら、バラバラになって俺の口にくわえられていたのはボウガンだけではなかったはずだ。

 

 それを考えるとゾッとする。怒りで我を忘れていたとはいえあまりに恐ろしい。

 

 そもそもあのハンターと戦闘しなければよかったのではないか。いくらハンターとはいえ凍った海に飛び込んでまで追ってくることはない。あのハンターの目の前に飛び出してしまった後、すぐにでも海に飛び込んで逃げるべきだった。そうすればこんなに悩むことはなかったのに。

 

 あのハンターに不気味な冷静さを見たとしても戦いを選択するのではなく逃げるべきだった。あのハンターと戦闘してしまったのは俺の弱さゆえだった。

 

 目の前に突如として脅威が現れた瞬間、その脅威を冷静に分析して逃げる選択ができるのが真の強さだ。今その状況で勝ち目がないと判断した場合には逃げることも必要。J.ジョースターもそう言ってる。

 

 だがその逃走は自らの弱さ故だと認めなければ、何度もその過ちを繰り返す羽目になる。逃げておいて『あれは敗北ではないッ!!』とか言っちゃうとD.オロチ氏にも『カッコワルイんだよおめぇさんはよぉ』って言われちゃう。

 

 まぁ要するにだ。弱い犬ほどよく吠える。俺は自分より力の強い相手が目の前に現れたときにビビりまくりながら無謀にも威嚇と攻撃をしてしまった。正確に言えば最初に銃をぶっ放したのはあのハンターなのだが、あの時点で逃げる選択をできなかったのは俺の落ち度だ。

 

 

 だが今更こんなことを考えて何になるというのか

 

 

 何度そう思ったことだろう。事実この無限思考に意味はない。後悔先に立たず。過ぎ去った過去を変えることはできない。だが考えずにはいられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何時間、何日経っただろうか。

 

 ふいに爆音が響き、燃えカスみたいになっている俺でもビクッと反射的に体を起こしてあたりを見渡す。

 

 どうやら氷山の一角が崩れ、海に落下したらしい。

 

 偶然とはいえ、反射的に立ち上がってしまった俺は溜息一つついて、海へ歩いていく。

 

 この終わりのない無限思考の傍らで、俺は前々から計画していたことを実行する決断をしていた。

 

 偶然とはいえ立ち上がることができたのだ。もう一度座り込んでしまう前に、動くのは今しかない。

 

 不幸にもハンターに遭遇して戦闘を行ってしまった。それは討伐依頼が発生する可能性があるということ。こんな状態でハンターと戦闘なんてできない。

 

 だからこそ俺の選択は一つ。

 

 

 逃げるのだ

 

 

 この氷海から。無様に敗走して、ほかの地域へ行くしかない。あのアイルーを発見したことも俺のこの計画を後押しする材料になった。

 

 もともと氷海は食料に乏しく、モンスターが生存するには適しているとは言い難い。そのため特別な進化を遂げるモンスターが多く、戦闘能力も高く、見つけた食料は何が何でも手に入れようとするので狩猟には苦労する。

 

 言ってしまえばここは俺のような甘ちゃんが生きていくにはあまりに厳しすぎる。幼少期こそこの地で過ごさざるを得なかったが、だからこそこの地の厳しさは身に染みている。ましてや今はハンターに遭遇してしまって危険度が跳ね上がっている。この状況でもう一度ハンターと戦闘してしまっては、現状目をつむっている全てのことが吹き出し、今度こそ俺の精神は崩壊する。

 

 

 そしてもう一つ、絶対的な理由がある

 

 

 何度も言うが、あの恐怖、フルフルをバラバラにした何者かに植え付けられた恐怖を俺はまだ克服できていない。こんな恐怖と心労と後悔に囚われてまでここに居座る理由はない。

 

 海へと歩みを進めながら俺は今までのことを振り返る。

 

 この氷海には良くも悪くも思い出があった。あの卵から孵った瞬間目に飛び込んできた氷海の風景。ティガレックスとハンターとの遭遇。フルフルに殺されかけたこと。そこから発生した捻じ曲がった進化。ジンオウガとの死闘。忘れもしないフルフルを惨殺したあの正体不明の恐怖。事故とはいえアイルーと過ごしたあの時間。そしてハンターとの戦闘。その結果得た負の遺産。

 

 

 思えば濃い生活をしてきたものだ

 

 

 名残惜しくはないが、過ごした日々を思い返して少し後ろを振り返って氷海を眺める。

 

 

 ・・・・・・ろくな思い出無ぇな。いや割とマジで

 

 

 思い出も吹っ切れて海に飛び込んだ俺は心の中で氷海に別れを告げ、あてもなく広大な海原を泳ぎ始めた。

 

 とはいいつつ少しくらい行先は決めてあるんじゃないの?って思うだろ?

 

 

 無いんだなこれが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 氷海の洞窟で何者かが目を覚ます。凍った床に直接寝ていたせいかその体は凍り付き、呼吸していたためにかろうじて鼻腔だけ凍らずに済んでいる。

 

 その氷の彫像とも呼べる何者か。その凍り付いているはず瞼が開く。身を起こすだけで硬い氷がいとも容易く砕け散る。

 

 完全に起き上がったそれは身じろぎでもするように息を大きく吸い、体中に力を巡らせる。

 

 ただの一呼吸、それだけで未だ全身を薄く覆う氷があっという間に水滴と化して流れ落ち、あろうことか蒸気まで発生させる。

 

 いったいどんな代謝機能、循環系をもってすればこんなことが可能だろうか。しかも極低温のこの氷海において。

 

 蒸気に包まれるそれは目の前の洞窟の向かい側の壁を見据える。いつもと何も変わらない氷海の壁。いったい何を見るというのか。

 

 それは一瞬だけ目を細めると真上に跳び上がり、洞窟の抜け穴からどこかへ消えた。

 

 それがいなくなった瞬間、発生源を失った蒸気は瞬く間に凍り付く。

 

 あとには何も残らない。ある者の心に与えた恐怖を除けば、だが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 氷海はいつもと変わらない。洞窟内ではブナハブラが飛び回り、クンチュウが蠢く。ポポはごく僅かな草を食み、主が消えた寝床は次のモンスターが利用するのだろうか。

 

 そして、今は誰も知らぬ小さな洞窟。そこが何かの地殻変動で潰されない限り、誰かが日数を数えるために刻んでいた傷とティガレックスの頭骨は永遠にあり続けるのだろう。

 

 たとえそこで過ごした本人がその場所を忘れようとも。

 

 

 




 またしても無断長期休載、申し訳ありませんでした。猛省しております。

 誤字脱字、アドバイス等あればよろしくお願いします。
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