ここ原生林はいくつかのエリアが水場になっている。水場といっても人の脛まで深さがあるかどうかも怪しい程度のものであり、どちらかといえば湿地といった表現のほうが合っている。とはいえ湿地のように淀んでいるわけではなく、流れが存在しているのでどこかに源流があるのだろう。
代表的なものでいえばエリア3の水場だ。ベースキャンプから即降りできるうえにモンスターの初期位置になっていることも多く、段差が3つほどあるが遺跡平原のような傾斜を含む段差ではなく平坦なエリアになっており、戦いにくさを感じる人もあまりいなかったのではないか。あとは水場なので火属性やられが一瞬で消える。
そして俺が今いるのもその原生林のエリア3だ。俺が寝床に決めた場所から最も近いので来てみたのだが。幸いにもこのエリアに大型モンスターはいなかった。リオレイアやオオナズチ、ザザミの原種と亜種など、ここに来る大型モンスターは多いのでビクビクしていたが杞憂だったようだ。あとは氷海で戦闘したジンオウガもここが初期位置だった気がする。
首をもたげて辺りを見回し、空気の匂いや音を感じる。ザボアザギルの嗅覚や聴覚がモンスターの中ではどの程度のものかは知らないが、大型モンスターと思しき咆哮や地面の振動、ハンターとの戦闘音なども聞こえてこなかった。あとは血の匂いも。
どうやら近隣のエリアでは俺の脅威になりうることは発生していないようだ。だが気配がしないからといって、そこに脅威が存在していないわけではない。本当に警戒すべきは感知できない脅威なのだから。警戒は続けるに越したことはない。
というかそもそも俺はわざわざここまでくる必要なんか無かったんだよね。寝床も見つけたし、食料も氷海ほど困るわけではないだろう。
でもまぁ、探検したくなるじゃん?
という小学生並みの好奇心に負けてこうして特に用もないのにウロチョロしているわけなのだ。生存本能を前世において来てしまったのかもしれない。ペンギンでももうちょっと生存本能あるのでは?
エリア4まで遠出してみたいがベースキャンプに近いこともあり、流石にそちらまで行く気はない。しかしこの原生林のもう少し奥地まで見ておきたいという好奇心が頭を出してくる。
ま、無理なんだけどね
俺はエリア3とエリア4をつなぐ樹で作られた天然のトンネルに背を向ける。
というものエリア5、8、10。これらがエリア3からいけるエリアだ。そしてそのどれもに俺はエリア3から行くことはできない。
まずエリア5とエリア8。これらのエリアはエリア3と比べてかなり高い位置にある。ゲーム内でハンターが移動しようとすれば垂れ下がった蔦を使って登っていく必要がある。高速で登っていくことも可能だが、ずっと高速で登っていくとスタミナ消費が激しく、登り切った瞬間にスタミナ切れを起こすなんて可能性もある。ここのエリア間移動を面倒に感じた人も多いのではないか。降りるのは簡単なんだけどね。
んで。当然ながら俺がそんな移動方法をできるわけでもない。
そもそもザボアザギルの骨格はあくまで地上歩行と水中にしか対応していない、垂直の壁を登ろうと思ったらあと数億年かけて遺伝子レベルからの進化をするしかないだろう。
鮫が木登りできるようになったらどこぞのB級映画に採用されそう、シャークウッドとか。で興行収入の8割くらいを原作使用料と出演料と印税とその他もろもろで巻き上げてやろう。というか種類的には蛙なんだよなぁ俺。テツカブラも同じ骨格だし。
全く関係のない余談が入ったものの、そういうわけでエリア8と10には俺は地中に潜りでもしない限り不可能。そして地面を潜って移動できないのは氷海で分かり切っているので候補にも付け加えていない。
あとはジンオウガやラージャンのような強靭な脚力や膂力でもあれば一気に跳び上がるのはわけもないことなのだろう。が、まぁ俺には無理な話。やっぱり台風に乗って飛んでいくしかねぇな。
・・・・・・またしても関係のない話が入ったな
そしてエリア10。このエリアはアイルーの住処になっている。非常に残念なことに、ハンターでさえしゃがまないと通り抜けられないような隙間に俺が頭を突っ込んで侵入を試みようものならアイルーたちは大騒ぎになるだろう。猫好きの俺からしたら、わけもなくアイルーを驚かせるのはポリシーに反する。でも交流とかしてみてぇ~。
そういうわけで俺が現状行けるエリアはこのエリア3と4からいけるエリアのみ。住処から一番近いのがここエリア3だし、住処とフィールドの間には林が生い茂っており、たとえ双眼鏡で観察したとしても原生林のエリアから俺が発見されることはないだろう。
逆にエリア4に直接入ろうとすると、林が途中で切れてしまい、そこからは開けた湿地を進んでいかなくてはならないため、ベースキャンプが近いこともあって発見される危険が危ない。
幸いというか何というか俺は特に行動範囲を広げるつもりはない。たまにエリア3とかに来てズワポロスとかが居れば捕食するかもしれないが、別に原生林を俺の縄張りにしようとかそういった気は微塵もない。
そもそも原生林にザボアザギルがいること自体が異常なのだろうし、下手に原生林にいるモンスターとハンターの両方から目をつけられてもごめんだ。
まぁいい。下見はこんなところにしてそろそろ帰ろう
大型モンスターも近辺には確認できなかったし、ひとまずの安全は保障されたと言えるのではないか。さてと当面の目標はこれで・・・・・・。目標?
俺の目標って、なんだ・・・・・・
根本的な疑問にぶち当たった。
氷海にいたころには本当に生きることに必死だった。ただひたすらに生存のために食らい、戦った。それが目標でありそれ以外は不要だった。
だが今となってはどうだ。成体レベルにまで成長し、気を抜いた瞬間頭からパックンチョといかれることも無くなった。自分より格下の相手になら勝利することもできるだろう。敵わない相手には逃げることもできる。
だが、このまま俺は何もせず日がな暮らして生きていくのだろうか。起きては食らい、戦い、寝るを繰り返して、それこそ死ぬまで。
そう、孤独に。誰とも声を交わすことも笑いあうこともなく。
そんなことを考えた瞬間俺は背骨が引っこ抜かれて代わりに氷柱をぶち込まれたような冷たさを感じた。
人の心って不便なもんなんだな・・・・・・
氷海を出てきた時の感情もぶり返して沈んだ気分のまま溜息一つついて俺は歩みを進めるが、その足裏からかすかな振動を感じた。
反射的に身構え、エリア4のほうを振り返る。何もいない。素早くあたりへと視線を巡らす。やはり何もいない。オオナズチという考えも頭をよぎるが、地面を流れる水の流れにモンスターが歩行するときのような不規則な波紋はない。
ただ明らかに振動は大きくなってきている。地面を伝う振動なので空中ではない。そもそも飛竜種の影もない。
ますます振動が大きくなるが何もいない。だが明らかに何かが近づいてきている。いや、このプレッシャーは明らかに俺を狙っている。しかしどこから来ているのかが分からない。
下ッ!?
何か本能的な危機を感じて俺はカエル跳びで前方に目いっぱい飛び退いた。
次の瞬間俺が先ほどまでいた場所から水しぶきが舞い上がり、巨槍が突き上がる。
俺は振り向き、その上方不注意ゲリラ兵の槍使いを見据える。俺はそいつを知っている。
天を貫かんばかりの巨大な一本角。独特に発達したトゲのついたエリマキのような巨大な頭部。その突進攻撃はまさに一撃必殺。誇り高き砂漠の一本角。
一角竜モノブロス。
の頭骨を被ったダイミョウザザミだ。たまにはフェイント入れてみたんだけど、どうかな?このフェイントに騙されなかった君はモンハン博士だ!まんまと騙されてしまった君にはこの言葉を贈ろう。『騙られたな!!』
どうやらダイミョウザザミは不穏な気配(俺)を察知して襲ってきたらしい。何もしていないとはいえ確かに原生林にいないはずのモンスターの気配は不気味なものなのだろう。というか今こいつ地面掘ってきたよね!?どうやってんのやり方教えて!マジで!
そんな俺をさておき、本物の顔をこちらに向け、鋏を大きく振り上げて威嚇体制をとるダイミョウザザミ。どうにもやる気らしい。サイズは俺と同等か?いや後ろのモノブロスの頭骨分がある分相手のほうが大柄に見える。圧倒的なサイズ差というわけではないのでやろうと思えばやれるが。
正直俺は面倒なので逃げたい。ここでこいつと戦うことに俺はメリットがない。今すぐに食料に困っているわけではないので、捕食目的以外での戦闘と殺しはしたくない。
俺としてはこいつが俺に害無し、と判断してさっさと退いてくれれば助かるのだが。
俺はザザミを無視してもと来た林のほうへ構わず歩いていく。こういうのは下手に刺激するとダメなんだ。『あっ、俺は関係ないです』くらいの気持ちでいたほうがいいのだ。
しかしザザミはあの独特のカニ歩きで俺の前に立ちはだかる。
結構素早いじゃん(億安並感)
俺はそんな的外れな感想を抱きながらザザミを避けて林への道を目指す。俺に敵意が無いことが伝わればいい。
しかし横を抜けようとした瞬間、俺は思いっきり横っ面にビンタを食らった。
某花山組の組長のような防御しない構えや、武神の廻し受けなどではなく完全脱力敵意ゼロの状態でもらったので無様に転がされ、泥にまみれる。
脳がガンガン揺れて前後不覚に陥り、なかなか立ち上がることができない。
そんな俺を大した脅威ではないと認識したのだろう。のそのそと直進してくるザザミ。そしてそのまま俺の前脚のヒレをその鋏でつまむ。
イダダダッ!
その圧倒的ピンチ力は生半可なものではなく、鉄の鱗ごと断ち切らんばかりに力が加わる。
しかしその痛みが気つけになり、俺の前後不覚は解消された。
俺は無理矢理に前脚をその鋏からねじり取る。いくつかの肉片と鱗が犠牲になったがこの程度なら問題ない。
ザザミは俺がご自慢の鋏から抜け出たことに苛立ちを感じたのか、口から泡を吹き、鋏を大きく掲げてそのまま俺を挟みこもうとしてくる。
しかしながら俺を大した脅威ではないと判断していたが故の攻撃だったのだろう。かなり大振りな攻撃だ。
一方俺は怒りに燃えていた。それもそのはず。こちらは攻撃の意志どころか敵意も示していないのにも関わらずいきなりぶん殴られたうえに握撃ばりの追い打ちまで受けているのだ。食うか食われるかの弱肉強食は自然界ではごく当然のことだが、それはあのザザミ野郎にも言える。
おうおう、勘弁してやるつもりだったが、そっちがその気なら容赦はしねぇぞ。安心しな。ちゃんとお前の命は無駄にせずカニ鍋にでもして食ってやるからな!
俺はザザミの大ぶりな攻撃を跳躍して躱すとそのまま体を回転させ、そのまま狙いを定めて鉄の斧ともいえる尾をがら空きのザザミの頭に叩き込んだ。
氷海でジンオウガの角をへし折ったあの攻撃である。使い勝手が良くて重宝している。空Nと名付けよう。
まさか自分より格下と思っていた相手が回避どころかカウンターをしてくるとは夢にも思わなかったのだろう。その4本の足のうち一本でも鋏だったなら防げていたのかもしれないが、どちらにせよ時すでに遅し。
パキョッ
小気味よい音がして俺の尾は深々とザザミの頭部に突き刺さり、おびただしい量の深紫色の体液をまき散らせた。
素早く飛び退き、相手の状況を確認する。先ほどまで俺を攻撃しようとしていた鋏は力なく開き、地面に落ちている。
口からは先ほどの白い泡ではなく血泡を吹き出し、口からダラダラと水面に落ちて水を汚す。
触覚はいまだにピクピクと動いている、というか痙攣している。だがあくまで死後の反射であって、すぐに動かなくなるだろう。
やがて噴水のごとき出血が止まった。水流はいまだその薄気味悪い深紫色で染まり、油も浮いているためかなり汚く見える。
しかしいずれそのダイミョウザザミの生の証と死の証は水流に消えていく。すべてを押し流す時間の流れとともに。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
完全に骸となったザザミを咥えたまま俺は林を抜け、住処まで歩いていた。
いやしっかし一撃で仕留められるとは。俺も成長したってことなんかねぇ
以前氷海でジンオウガと対決した際には不意打ちで攻撃したにもかかわらず、僅かな出血と角を折ることができただけだったものだが、今回は硬い甲殻種のダイミョウザザミ相手に一撃で致命傷を与えることができた。ましてや相手は《盾蟹》。自分の成長に思わず頬が緩む。
ちゃんとモノブロスの頭骨付きのまま運んでいる。格好いいし住処に飾ろうっと。
そんなこんなで住処まで戻ってきた俺はとりあえず蟹の解体作業に入った。
サイズと細かい違いを除けば体の構造は大体同じで、関節を逆に折ると難なく解体できた。もっともこんな身体でも哺乳類や爬虫類に負けない馬力を出すのだから不思議なものだ。
とりあえず一通り解体が済んでいざ実食。といっても確かギザミ種やザザミ種は食用には向いていないと、どこぞで小耳に挟んだことがあったので、あまり期待していない。
うん、まぁ味の無い鶏肉って感じだな・・・・・・
茹でているわけでもなくポン酢につけているわけでもないので当然と言えば当然なのだが。なんかこうね。やったーこんなに大きい蟹食べ放題だぜいやっふぅー!的な満足感があるものかと思ってたけど案外大したことなかったという落差がね。ほら・・・ね。もともとあんまり期待していなかったけどさ。
いくつか腹に入れ、残りは明日以降にでも食うかと思って俺は眠りにつこうと身体を丸める。ザザミに挟まれた腕が痛むが明日には痛みは引いているだろう。傷を回復させるためにもよく食ってよく寝るのは大切だ。ま、今昼間なんだけど。
え?夜じゃないのに真昼間から寝るのかって?モンスターは自由なんだぜ。朝寝て夜行動しようが誰にも文句は言われないし、なんだったら夜行性の動物のほうが多いし、というか哺乳類も本来は夜行性って聞いたことあるし、問題ないし鋼の意志。
そういやアイルー見かけなかったよなぁ
今日行ったエリア3はアイルーの住処にもつながっていたのだが。まぁ運が悪かったのかもしれない。けど怖がらせたくはないけど会ってみたいなぁ、氷海で会ったけどあれは遭難してたのを一時的に保護しただけだし。
ま、そんなことよりもだ。
明日っから暇だなぁぁぁぁぁぁあ
とそんなことを考えながら眠りへと誘われていった。
しかし幸か不幸か、暇ではなくなるし嫌というほど見ることになるのだから、人生、いや鮫生?は分からないものである。
投稿間隔が安定せず、長期間空いてしまうことが頻繁になってしまい、大変申し訳ございません。
誤字脱字、アドバイス等あればよろしくお願いします。