諸君らはガリヴァー旅行記という話をご存じだろうか。かのアイルランドの作家ジョナサン・スウィフト氏により書かれた風刺小説である。私もその物語の内容をすべて知っているわけではないが、恐らくかの物語の名前を聞いた際に多くの人がイメージする図があるだろう。
そう、ガリヴァ―が小人の国で寝ていたところ、寝ている間気づかぬうちに小人たちに拘束されているあの図である。
なぜ今こんな話をしているのかって?そりゃおめぇ
今の俺がガリヴァ―と同じ状態だからなぁ・・・・・・
現状を整理しよう。俺はこの原生林で見つけた住処でザザミを食して眠りについていた。そして目が覚めてみたらこのような状況になっているというわけだ。
しかし眠りについていたとはいえ、周囲に危険が迫れば即座に跳び起きているだろう。しかし残念ながら俺は縄のようなもので全身を拘束されている。また布か何かで目隠しがされているようで、外の様子もうかがえない。口にも轡のように縄のようなもので拘束されている。
あまりのことに俺はいまだ眠っている時の体勢のまま、じっとしている。下手に動いて襲撃者を刺激して現状を悪化させることは避けたい。
残された少ない五感で周囲の様子を探るが、どうにも何者かが大勢あたりを歩いているようだ。かすかに聞こえる足音からして小型の何者かだ。しかし話し声などは一切聞こえない。まだ俺が眠っていると思っているのだろうか、あくまで隠密行動ということらしい。
しかしここは原生林なのか?俺は眠っている間にハンターにでも捕獲されちまったのか?
地面の感触は明らかに人工物ではなく自然の土らしく、何かの台車に乗せられているような揺れも感じない。とはいえ既に移動は済んでいてハンターズギルドの何かしらの施設に収容されてしまっているという可能性もある。
麻酔玉なりなんなりで眠らされていたとしても移動中に流石に麻酔が切れて気が付くだろうという人がいるかもしれないが、そんなに生易しいものではない。
ハンターの使う捕獲用麻酔玉は、ゲーム内では捕獲可能ラインまでモンスターの体力を削った後に2発程度ぶつけて罠にかけることで捕獲可能となる。罠にかかっている間にぶつけてもよいし、2発命中させた後に罠にかけることで罠にかかった瞬間に捕獲が成功する。
余談だが、小型モンスターは捕獲することができない。というものシビレ罠や落とし穴はある程度の重さが無ければ作動しないように作られているものであり、その対象は大型モンスターに設定されているため、小型のモンスター程度の体重では罠を作動させるには至らないのだ。
もっとも大型モンスターを対象にしているとはいえ、高度な知能を持つモンスター相手には無効・破壊されてしまうこともある。古龍種がいい例だろう。他にも罠を無力化するモンスターとしてはイャンガルルガやラージャン、ジンオウガなども存在するが、彼らは限定的な条件下のみ、かつ一種類の罠を無効化するので、古龍種と比較してではあるが、ここでは例外とさせていただく。
古龍種は彼らのみに許されたともいえるその強靭な肉体と知性を持ち、人間の罠を罠として認識している。そのためシビレ罠を踏み抜いて作動させる間もなく完全に破壊する、落とし穴が作動してに穴に落ちる前にバックステップで回避するなど、他のモンスターとは根本的にハンターへの認識が異なっている。
古龍種の捕獲が不可能とされているのはこれが原因であり、彼らの生態の大部分が謎に包まれているのも捕獲による研究ができていないことが大きい。また超大型古龍種であるラオシャンロンやシャンガオレン、ジエン・モーランやダレン・モーランなどにはスケールがあまりにも違いすぎるため効果を発揮しないのは言うまでもないだろう。
そもそも彼らと遭遇すること自体が稀であり、そこから情報を得て生存できるのはさらに稀であり、討伐に成功するなどはもはや奇跡である。
話が逸れたが、ハンターの捕獲用麻酔玉の恐ろしい点は、使用する麻酔玉に対しての蓄積量の高さにある。人間が片手で持てる大きさ程度の玉たかが2つで、弱っているという限定的な状況とはいえ大型モンスターを昏倒させ、無力化させる代物なのだ。しかも呼吸による吸引や粘膜などに直接ぶつけずとも、身体のどの部位に当てても等しく効果を発揮する。つまり皮膚からでもその麻酔は作用するレベルの強力なものなのだ。
ここまでくるとハンターの武器に属性として付与される睡眠属性などよりもはるかに強力である。まぁもっともハンターの武器はモンスターの素材由来であり、いわば死体の睡眠属性を利用しているので、効果は素材元モンスターのものよりもはるかに低蓄積ではあるのだが。
そしてそれによって眠ってしまった場合は基本的に効果が切れるまで目が覚めることはない。その間に運ばれようが鱗を引っぺがされようが歯を抜かれようが気が付かない。まぁ流石に尻尾をぶった斬られれば気が付くかもしれないが。
あくまでゲーム中の設定とはいえ、そのレベルの麻酔をされていたのならここがハンターズギルド内の何かしらの施設ということも考えられる。これから改造手術を受けて○面ライダーよろしく悪と闘うことになってしまうかもしれない。
と、くだらない考えに馳せていても現状がどうなるわけでもない。視界は塞がれ外界の情報もさしてない。一応空気は屋外のようではあるが、特別鼻が利くわけでもないザボアザギルではそれ以外の情報は拾えない。
やるしかねぇか・・・・・・
何をするにもじっとしていては始まらない。俺は覚悟を決めて軽く身を動かす。仮にここがハンターズギルドの施設だったとしても現状を把握しなければ打開策の一つも考えることはできない。
拘束自体はがんじがらめというわけでないようだ。しかも金属製のワイヤーのような感触でもない。なんというか伸縮性があるというか、なにこれしめ縄?
俺が動いたことで一気に周囲の様子が慌ただしくなった。いままで静かだった足音が激しくなり、なにやら甲冑が擦れるような金属音も聞こえる。そしてニャゴニャゴいう音も。
ん?ニャゴニャゴ?
俺があれ?と考えていると俺の身体の上に飛び乗ってきたらしい存在が複数。さして重くはないし、なんか足裏が柔らかい。金属製の防具などを履いているわけではないようだ。
いきなり俺の目隠しが外され、既に高く昇っている太陽の光が、闇に慣れていた俺の目を貫く。目を閉じて光に目が慣れるのを待つ。
そして光に慣れてきた俺の目に映ったのは。
「ニャ!ニャニャゴ!ナーゴ!!」
武装したアイルーたちの姿であった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
今俺の目の前には一匹のアイルーがいる。綺麗な白毛にキリっとした碧眼のアイルーで、属製の鎧と兜を身に纏い、これまた金属製の剣を俺の鼻先に向けてなにやらニャーニャーと声をあげているのだが。
いやそんなニャーニャー言われても分からねぇよ、だれか猫リンガルもって来てくれや
あれ?アイルーってヒト語喋れなかったっけ?確かゲーム内でも普通に話してるよな、野生個体は喋られんのか。たしかにフィールド上にいたメラルーもアイルーもオトモアイルーと違って話すことはないけど。
そして軽く首を動かしてあたりを見れば周囲にはたくさんのアイルーがいた。皆それぞれに粗削りながら一目で武器と分かるそれを持ち、こちらを警戒するよう身構えている。もっともしっかりとした防具を身に着けているのは俺の目の前の金属性の防具を身につけたアイルーだけで、他のアイルーたちはドングリのような兜や、革や葉っぱのような粗末な防具をしている。
なるほどね、このアイルーがリーダー格か
背中に乗っているアイルーたちの様子は確認できないがおそらく、この金属製の防具を身に着けたアイルーがリーダーで間違いないだろう。
「ニャーッ!!」
俺がよそ見をしていることに怒ったのだろうか、目の前のリーダー格と思われるアイルーは剣の腹で俺の鼻先をぺちぺちと叩く。かわいい。
そしてまたニャーニャーと言い始める。動作などから読み取るにどうやら俺に話しかけているようだ。しかし。
分からねぇんだよなぁ、これが。つーか伝わんのか、ゲーム内でモンスターと会話してるアイルー見たことないぞ
俺が何を言っても何も反応を返さずボーっと見返すだけなので、アイルーの瞳には次第に涙が溜まり、「フ、フニャア」と声も鼻声交じりになっていく。俺の鼻先を叩く剣も駄々っ子のように振り回す。ますますかわいい。
しかし何の罪もないアイルーをいじめるような趣味は俺にはない。何か喋ってみるか。
ゴガァ
俺は口を開け、鳴き声とも唸り声ともつかない声を出す。込めた意味は「こんにちわ」だ。
俺が声を発したことでアイルーは動きを止め、少し驚いたか顔をしてこちらを見る。そして数瞬の後、頭をふるって気を取り直す。ついでに咳払いもひとつ。
「ンニャッ!ニャニャヴッ!!」
俺が反応を返したことで心なしか嬉しそうな顔をして、剣を向け俺にまた声をかけてくる。
しかしながら、相変わらず俺には何を伝えようとしているのか分からない。また似たような唸り声を返すと、目の前のアイルーは腕を組み、しばらく何かを考えているようだった。
「ニャッ!!フルルー、ニャッゴ?」
また言葉を発するがどうも先ほどとは異なる発音のようだ。相変わらず俺には何を言っているのか分からないが。
また同じような唸り声を返すのも申し訳ないので、俺は古今東西万人にもある程度伝わるジェスチャーに頼ることにした。
首をかしげるような動作をし、「分からないよ」アピールをした。とはいえザボアザギルが目の前で首を捻っているなんて常人からしたら恐怖でしかないのだろうが。
目の前のアイルーはまた腕を組み、しばし考え事をしていたようだが、諦めたかのようにため息をつき、後ろに控えていた一匹のアイルーにまた何やら声をかける。
声をかけられたアイルーは瞬く間に姿を消した。なにか用事を頼まれたのだろうか。
白毛のアイルーは俺の前にどっかりと腰を下ろし、何も言葉を発さずに黙っている。それはまるで何かを待っているかのようで、俺は少なからず不安を覚えた。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
目の前のアイルーと見つめあうことしばらく、ふいに茂みが揺れ、先ほど姿を消したアイルーに連れられ、もう一匹のアイルーが姿を現した。
二足歩行で杖をつきながら歩いてくる。毛は長く、あせたベージュのような色をしている。どうやら高齢のアイルーらしい。目や口はその長い毛で覆われてしまっていてこちらからはどこに目と口があるのか判断が難しいほどだ。
ふむ、この毛むくじゃらのアイルーは長老って感じだな
俺がじっとそっちを見据えていると、俺の目の前にいた剣を持ったアイルーがその毛むくじゃらアイルーの近くに行って、何事か伝えているようだった。
話が終わると毛むくじゃらのアイルーは俺のほうに歩を進めて俺の前で立ち止まる。そして。
「ニャーフゥ、ニャヴー」
毛むくじゃらの口が動き、声を発する。しかし相変わらず、俺には通じない。どうやら先の隊長格のアイルーもこの毛むくじゃらアイルーも俺との意思の疎通を試みているようだ。しかし俺は半ば諦めていた。正直もう疲れたよ、猫ラッシュ。
アイルーの発した声は相変わらず俺には通じないので、またしても首をひねって、「分からないよ」アピールをする。
すると毛むくじゃらのアイルーは、あごに手をやり考える仕草をとる。
そしてまた何かしらの声を発するも、俺には分からず、首をかしげる。ということが繰り返しなされた。
もう面倒くせぇなぁ、悪いけど拘束無理矢理逃れてもう住処を変えるか・・・・・・
などと俺は考えていたのだが、その瞬間は突然訪れた。
『氷海の鮫よ、私の言うことは分かりますかな』
何度目かも分からないほど繰り返したやり取りの中で、目の前のアイルーが発した声が、突如意味のある言葉となって聞こえた。半ばあきらめていた俺だが、一瞬にして脱走などという考えは吹き飛び、目の前の毛むくじゃらアイルーを凝視し、恐る恐る首を縦に振る。
目の前のアイルーの眉が上がり、一瞬だけその瞳が映る。老齢でありながらその目は獣の鋭さを失ってはいなかったように見えた。
その毛むくじゃらのアイルーは後ろのアイルーたちを振り返り、またしても俺に分からない言葉で何かを呼びかける。
呼びかけられた彼らは、唖然とした顔をしていたが、すぐにその毛むくじゃらのアイルーの近くに寄ってきて、一緒になって俺を見つめている。俺の背中に乗っていたであろうアイルーたちも降りてきて俺を見つめる。
その中心にいた毛むくじゃらのアイルーは俺に向かって言葉を発する。
『あなたは我々を攻撃するつもりはない、のですな』
やはり意味を持つ言葉として聞こえる。言語の違い、発音か?とにかく俺は首を縦に振る。
『そうですか、我々としても安心しました。私は原生林の獣人族の族長をしております。伝わりますかな』
今度も首を縦に振る。やはり族長の類だったか。
『残念ながらまだその拘束を解くことはできません、なにぶん緊急事態が起きておりまして』
あん?緊急事態?つーか拘束に関しては別にいいんだけど。なに緊急事態って。へそくりのマタタビでもなくなったのかな?つーか氷海に生息するザボアザギルが原生林にいることがすでに異常事態だったわ。俺のことだよね、ごめんねみんな。
俺のどうでもいい思考をよそに族長は言葉を続ける。
『無礼を承知で申し上げます、あなたはリオレ ―
一瞬だけ何者かの影が太陽の光を遮った。その直後、俺たちのいる場所をさらなる灼光が襲った。
できるだけ投稿間隔は開きすぎないようにと心がけてはいますが、ご期待に沿えず大変申し訳ありませんでした。
誤字脱字、アドバイス等ありましたらよろしくお願いします。