化け鮫転生放浪記   作:萌えないゴミ

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 フルフルの肉って食べられるんですかねぇ


生態系の最下層から

 目を開けてみるとそこには氷の天井。そういえば何をしてたんだっけか、そんなことより体中が痛む。よく見れば至る所が焦げて酷い火傷になっている。そこまでしてようやく俺がフルフルに襲われたことを思い出した。反射的に身を起こして身構えようとするも激痛が走り、再び地に倒れる。

 

 超絶痛ぇ・・・・・・、というかなんで俺は生きてんだ

 

 俺が最後に見たのは俺を食わんとしているフルフルの真っ赤な口だ。あの状態から俺を食わなかったってことか?なぜ?何のために?どう考えてもあの状況でフルフルが俺を捕食しない理由が無いにも関わらずだ。

 

 ふと辺りを見渡すとそこには見るも無惨なフルフルらしき死骸があった。何か鋭利な物で綺麗に骨ごと輪切りにされ、そこから流れた血がまるで絨毯か何かのように広がっている。よく見ると血はすでに凍り付いて固まっていて、かなりの時間が経過していることが分かる。

 

 うへぇ、グロいグロい。ちくわか何かかよ・・・・・・、にしても妙だな

 

 そう。ここで新たな疑問がわいてくる。なぜこのフルフルの死骸は氷海の掃除屋に片付けられること無くこうして輪切りにはなっているが原形を留めているのか。なぜこのエリアに転がっていた俺とこの死骸は食われることが無い?なぜ。

 

 そしてもっと単純な疑問。

 

 誰、いや。何者がこのフルフルを殺したのかということだ。それも柔らかい皮膚とはいえ中型飛竜種の体を骨ごと断ち切るこんな大きな傷を与えて。

 

 そこまで考えて初めて俺は自分の身体の異常に気がついた。火傷は酷いがそのことでは無い。尻尾を食いちぎられて出ていた血がすでに凍り付いていることでもない。

 

 それは手足の感覚が無く、紫色になっていることだ。経験したことは無いが凍傷に間違いないだろう。しかしなぜ氷海に生まれ、寒さに耐性があるスクアギルの体が凍傷になっているのか。理由は単純明快。体温の急激な低下、その原因は体力の消費。

 

 完全に尻尾からの出血のせいだろう。フルフルとの戦闘で血を失い、傷を負い、あまつさえ極低温の氷海で血が凍ってしまうほどの長時間意識を失っていた結果がこの凍傷。思えばもう俺には尻尾の傷の凍った血を溶かすほどの体温も無いということだ。まぁ血が止まらなければ出血多量で死ぬことは免れないのでこれはこれで幸運だったのかもしれないが。

 

 となればやることもまた単純明快。失った血と体力の補充だ。すなわち食う。

 

 俺は痛む体を感覚の無い手足で引きずりながらフルフルの死骸へ近づく。すでに生命の暖かさは感じられず、やはり死んでからかなりの時間が経っている。だがスクアギルが食い付いたりした痕跡は無い。

 

 フルフルの肉が食えるのかどうかなどは考えずに一心不乱でフルフルの肉を貪り食った。味などは感じなかった。寒さのせいで味覚までもが麻痺していたのか、それとも俺の体は心臓を動かすのに精一杯で味覚などはもう切り捨ててしまっていたのか、はたまた単純に味覚が鈍いかのどれかである。

 

 無我夢中でフルフルを食っていると急に喉の奥から吐き気がこみ上げてきて、食った物のほとんどを吐き出してしまった。内臓が捩られるような痛みがしてもう一度肉を食おうとしてもすぐにまた吐いてしまうし、何より体が受け付けない。

 

 なんてこった、内臓すらもすでに機能していないのか・・・・・・

 

 俺は腹の痛みと闘いながら荒く息をつく。これは本当にいよいよ打つ手無しって感じだ。体力を回復させようと肉を食えば体が受け付けない、しかし肉を食えるようになるには体調を元に戻す必要がある。こういうのをなんて言うんだっけ、悪循環?いたちごっこ?

 

 せめて血だけでも補給しないと・・・・・・

 

 フルフルの死骸を食うのは完全に諦めて他に食えそうな物がないかエリアを見渡す。すると氷から少し頭を出している鉱石を見つけた。その瞬間俺はあることを閃き、這いずりながらその鉱脈に近づく。

 

 ペロリとその鉱石を舐めてみると思った通り、人間だったころに味わったことのある味を微かに感じた。そう鉄の味である。

 

 なにやら鉄、鉄分は貧血に効くと効いたことがある。いかんせん学のない素人考えだが、少なくとも血の足しにはなるはずだ。多分。というかこれ直接食べていいのかな、さすがに鉄鉱石まんまを食うのは多少なりとも危険な気がするのだが。

 

 だが俺としても生死のかかる一大事。この鉄鉱石を食ったことにより数年から数十年先の発がんリスクが高るとも今、この瞬間、生き延びられればそれで構わない。

 

 俺は鉱石に頭から齧り付き、削り取るようにして鉱石を食っていく。食うと言っても体に入れるだけだし、噛もうにも咀嚼するのに適した歯の作りではないので本当に胃袋に鉄のかけらを入れているだけなのだが、どういうわけかフルフルの肉を食ったときのような吐き気は覚えなかった。

 

 しかし体温はいっこうに上がってこない。そりゃそうだ、鉄を食って体温が上がる生き物はいない。だから本当にそろそろまともな食事を摂る必要がある。のだが・・・・・・。

 

 フルフルの肉が食えない。原因は分からないが俺の内蔵が機能していないのか、はたまたフルフルの肉が超絶不味くて体が受け付けないのかどちらか。またはその両方か。

 

 もうすでに体力の限界が近い。鉄だけではさすがに無理があるとは薄々分かっていたが俺は短期的な効果を期待していたわけであってせっかく鉄を食ったのに血を補う前に死んでしまっては意味が無い。

 

 やべぇな、もう打つ手がねぇぞ。せめてポポでもいてくれたら・・・・・・

 

 そんな絶望する俺の視界に向こうから歩いてくる大きな二つの牙を持ったカエルが入った。どうやらフルフルの死骸に寄ってきたみたいだが。

 

 本来なら逃げるこの場面。だが極限状態の俺の頭の中ではこんな風に変換されていた。

 

 食わなければ死ぬ→テツカブラ来る=食料が来る→食う

 

 お分かりの通り、すでにまともな思考ではない。というかいつもまともじゃないしなんなら考えて行動することもほぼ無い。

 

 食うしかねぇだろぉ!オデ、カエル食ウ。カエルノチカラモラウ。生憎カエルを食おうがカエルの力を手に入れられる訳ではないが、少なくとも俺の血肉にはなる!

 

 俺はテツカブラに向かって満身創痍の身体をフル動員させて突貫していった。

 

 人間。いや、モンスターというのは不思議なもので生死のかかった極限状態ではたとえ格上の相手でも、勝利する見込みがなくても、そう。生存するためなら向かっていくものである。このように生存のためだ何だといえば聞こえはいいがただのやけっぱち、自爆特攻だ。このまま体力不足で死ぬのか、テツカブラに挑んで玉砕するのか。どちらに転んでも死しかないのならどちらにも転ばない。論理は全部吹っ飛ばす。無理が通れば道理が引っ込むというが、まさにその通り。俺の無理が通れば俺の勝ちだ。

 

 要するにこれは自信の命を担保にしたまさに一世一代の大博打。負ければ死。魂を賭けよう、なんて言う必要も無い単純明快デスゲーム。だからこそ、後腐れはねぇぜ!馬鹿野郎!お前俺は勝つぞお前!

 

 すぐにこちらに気がついたテツカブラは最初は気にもとめていなかったようだが、自分を避ける様子もなく真っ直ぐ向かってくる俺に攻撃の意思があることを感じ取ったのか、その巨大な牙をそなえた口を開けて地面を抉りながら俺を飲み込まんと突撃してきた。

 

 こうして本来なら生態ピラミッドの最下層に位置する俺は、俺より遙か高みの上位層に無謀極まりないことに戦いを挑んだのである。

 

 




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