激怒モードになった俺は大きく口を開け、ジンオウガに突っ込んだがいいが単純な突進だったせいか容易く横に飛び退いて避けられてしまう。渓流地帯の崖を上るために発達した強靭な爪と四肢は氷海の滑りやすい雪の大地でも有効にはたらくようだ。
ジンオウガは右に避けつつ前脚を振り上げ、俺の顔面目掛けて落雷とともに叩きつけてきた。防ぎきれないとは分かっていたが反射的に右腕をかざして防御の姿勢をとってしまう。
そしそこに振り下ろされる無慈悲な一撃。
閃光が視界を覆い衝撃が襲うが、想像していたほどの痛みはなかった。どうやら腕の氷の鎧は想像以上に頑丈らしいな!思えばゲーム内では結構弾かれるもんねあれ。
なんとか腕で受け止めたが既に腕の氷の鎧は大分砕かれてしまった。強烈な一撃を押し返しながら頭の衝角で薙ぎ払うように振り払った。
ガードしつつのカウンターだったのだがジンオウガはヌルっと飛びのいて躱してしまった。こっちの攻撃でまともに当たったものは一発もない。分かっちゃいたがこのジンオウガやはり俺よりもかなり強いな。というか俺より弱い大型モンスターとか存在するのか?特大のアプトノスにも負ける気がする。
体を捻るように大きく後ろに後退したジンオウガは雷光虫弾を一斉に発射してきた。これがゲームなら余裕で避けられるのだが知っての通りあいつの出す雷光虫弾は数と軌道が若干だがゲームのそれではない。加えて俺の身体を覆ってしまった鉄製の鱗のせいで雷属性の効果はまさに抜群といったところ。
だが既に怒りの臨界点が吹っ切れてしまった俺の頭にそれを避けようなんて考えは微塵も浮かばなかった。それに今は体に氷の鎧が生成されているし俺の鉄の鱗にあれが直撃することもない。
どうせ食らっても致命傷じゃあないなら、正面から受け切ってやるぜ!
俺は頭の衝角をまっすぐジンオウガに向けて突っ込んでいき、迫りくる雷光虫弾を左腕で受けた。衝撃こそあったものの、あの痺れるような雷属性独特の痛みはなかった。
ジンオウガは先ほど直撃した雷光虫弾を正面から受け切って突っ込んでくる俺に一瞬驚いた表情を浮かべたが、その表情も一瞬で消え去り、あろうことかその場から動かずに正面から俺を受け止めるような姿勢になった。
これに激怒したのは当然俺だ。こちとら全力であの鋭い衝角を脳天に照準合わせてそのすかした脳天ぶち抜いてやろうとしているのに避けもせず正面から受け止めるだとぉ?舐め腐りやがってこの畜生ぉ!
俺はそのまま勢いを殺さずに真っすぐ突っ込んだ。流石に俺のほうが勢いに乗っているし体格の差こそあるが押し切ってこのまま崖下にライヘンバッハってやるぜ!傷つくのはてめぇの脳天だ!覚悟はいいか?俺はできてる。
だがジンオウガは後ろ足で立ち上がり、突っ込んできた俺の衝角を、頭を捻って紙一重で躱して前脚で俺の衝角ごと頭を抑えつけた。多少後ろに押すことはできたが、崖下まで押し切ることまではできずに雪上に跡を残しながら俺の突進は止められた。
そこからいくら力を込めてもうんともすんとも言わない。それどころかこちらを潰さんばかりの力で押してくる。拮抗状態になれば不利なのは体格の小さな俺だ。何とかして抜け出せないかと押したり引いたり捻ってみたものの、ジンオウガは俺の頭をしっかりとらえて離さない。
ここで俺を抑えつけているジンオウガの身体が急に激しく発光し始めた。
あ、やべ・・・・・・ッ!
そう思っても打つ手なし。次の瞬間俺は特大の電撃を食らって派手に吹っ飛ばされた。
ま、まさかあんなゼロ距離特大放電なんて技があるとは・・・・・・。くそ、突っ込んで自滅した間抜けは俺のほうだったというわけか。
俺は起き上がりながらまたジンオウガを見据える。今の特大の一発で身体を覆う氷の鎧は半分以上砕けてしまった。それだけあの一撃が強力だったのか、もしくは俺の氷の鎧の強度が未熟だったのか。
だが鎧は砕けはしたがその鎧のせいで俺本体へのダメージはそうでもない。だがジンオウガには賛辞の言葉をくれてやろう。ブラボー!おお・・・ブラボー!!
とにかく俺はまだ戦える!全身を覆っていた鎧も砕けたが一番の武器の頭の衝角の氷の鎧が残っている。たとえ死ぬにしても一発お見舞いしてから死んでやるぜぇ!まぁダメージはこっちのほうが大きいんだけどね。
今度こそ勝ったといわんばかりにジンオウガはゆっくり、だが決して油断せずにこちらに歩み寄ってくる。対してこちらは満身創痍。激怒したことによりアドレナリンがドバドバ出ているせいかあまりダメージは感じない。まだ反撃のチャンスはある。
俺は油断なく構えながら相手の一挙一動に注目する。チャンスは一瞬、そして一回!その最初で最後のチャンスに俺の最大の一撃の攻撃を叩き込むための策とは・・・・・・。
逃げるんだよォォォーーー!!
俺はジンオウガに背中を見せて傾斜の上、洞窟の入り口のほうに向かって足を引きずりながら逃げ出した。むろん背後のジンオウガの動向に気をつけながらだが。
ちらりと背後を確認するとジンオウガはやや怪訝そうな態度でこちらを見ている。そりゃそうださっきまでガンガン攻撃してきた相手が急に尻尾巻いて逃げ出したんだから。
こちらが何か策を案じているのではないかと疑うように警戒しているジンオウガ。俺はゆっくりゆっくりと、しかし確実に傾斜の上へ逃げていく。
とジンオウガはこちらを試すように雷光虫弾を二発だけ発射してきた。ちゃんと後ろを警戒していた俺はそれらが飛んでくるのは分かっていた、があえて避けない。だが少しでもダメージを減らすためにわずかに着弾位置をずらして被弾する。
俺は被弾すると身体をすくませ、悲鳴を上げてひるんだ素振りを見せる。そして尚更ゆっくりと足を引きずり逃げ続ける。この作戦の一番の肝は俺の逃げる意思!逃げ続ける、それが俺の覚悟!
ジンオウガはどうやら俺が本当に瀕死で逃げていると確信したようでググっと力を溜めて俺の背後から飛び掛かってきた。
かかったなアホが!!来た!待っていたぜ!この瞬間をな!俺の演技を見抜けないなんてゲリョスの死に真似ですら手痛いしっぺ返しを食らうぜ!
俺は飛び掛かってきたジンオウガをしっかり引き付けその場で跳躍、そのまま宙返りする要領で尻尾を。そう尻尾を!そう!、氷の鎧でもはや斧と呼べるほど強化されている尻尾をジンオウガの頭部目掛けて、振り下ろす!!わざわざこのために傾斜の上に逃げるふりをしてたんだぜぇ俺はよぉ!
それにさっきの雷光虫弾の被弾位置を調整して尻尾から外しておいたおかげで尻尾の氷の鎧の刃は無傷だからな!さぁ食らいな!この俺の最後の秘策!俺は戦略として逃げることはあっても戦いそのものを放棄したことは決してない!
ジンオウガの顔がさっきまでの余裕の表情とは変わってその目が驚愕の表情に見開かれる。だがもう遅い!飛び掛かってきたことにより空中での回避はできないぜぇ!とった!
鋭い氷の刃を纏った尻尾がジンオウガの頭に振り下ろされ、確かな衝撃とともに雪上に血が飛び散る。
俺は即座にジンオウガに向き直り相手の様子を伺う。残り体力と受けたダメージ、相手の攻撃力を考慮するとこの一撃が俺の正真正銘ラストウェポン。確かな手ごたえはあった。だが、この一撃で仕留めるにしろ仕留められずに逃げるにしろ相手の動きを知っておかなくてはならない。というかあの一撃で仕留められないと、俺が仕留められる側になる。
ジンオウガはボタボタと頭から血を流し、下を向いて肩で息をしているように見える。頭部の角の片方は根元からへし折れ、血とともに地面に転がっている。だが俺の尻尾の氷の刃も砕けてしまった。一応尻尾には鉄分沈着で鉄の刃があるが、すでにバレてしまったこの作戦でもう一撃は狙えない。まさに最初で最後の一撃だったのだが。
決定打になってくれたか?これで逃げるなりして俺を諦めてくれるといいんだが・・・・・・
と、ゆっくりとジンオウガが顔を上げる。とその敵の瞳を見た瞬間俺の考えが甘かったことに気が付いた。
ジンオウガは顔を上げるなり天を仰いで咆哮し、さらにその体躯を碧く輝かせ、激しく雷光を迸らせる。怒り状態である。自分のプライドと角をへし折られた無双の狩人の眼光は怒りに燃え、決して目の前の敵を逃がさないと物語っている。
やべ、下手に刺激しないほうがよかったなぁこりゃあ・・・・・・
やや自嘲気味に心の中で笑う。自分で言うのもなんだがもうここまでくると諦めの境地である。
ジンオウガは今までとは比べ物にはならないほどのスピードで俺に向かってきた。前脚を振り上げたと思った瞬間にはすでに俺の鼻先に強烈な一撃がお見舞いされていた。俺の残っていた最後の武器である頭の衝角は粉微塵に弾け飛び、それに続く雷撃で全身を覆る残り僅かになっていた氷の鎧も一瞬で蒸発した。顔面を激しく地面に叩きつけられた俺は顔を上げて続く一撃を避ける暇さえも無かった。
なんとか腕で防御しようと試みるものの、既に氷の鎧の剥がれた腕では何の効果もなく、叩きつけられた尻尾の強烈な一撃に耐えられずに嫌な音とともに変な方向に折れ曲がった。
痛みに悲鳴を上げるがそれすらも許さないというようにジンオウガの猛攻は続く。まるでさっきまでのは遊びだとでもいうように間髪入れずに繰り返される鬼気迫る表情で打ち込まれる衝撃と雷撃。
俺の意識は最初の一撃でとっくに飛びかけていたのだが、気絶すらもさせまいというようなジンオウガの連撃は止まない。前脚の強烈な叩きつけを連続で食らい、出来ることといえばせいぜい身を丸めることくらい。それも全身の氷の鎧が無くなってしまった今、鉄の鱗がむき出しになっているせいか雷撃の一発ごとに内臓まで電気ショックのような衝撃を感じる。
右、左、尻尾、タックルと何発食らったのか、いやそもそも感覚がマヒしてしまって自分がどうなっているのかさえ把握できない。俺の身体にはすでにハンターの雷属性やられのような青い稲妻が這い回っている。そのせいで全身の感覚どころか意識さえも曖昧になってきた。
そんな全身の感覚と意識が失われていく俺の身体に、唯一動かせる部分があった。それは体の中心近く、だが心臓でも肺でもない。かといって胃などの消化器系でもないそれは確実になんらかのエネルギーを蓄えていた。だがそれが何なのか、またどうやったらそれを動かし、使うことができるのか。そんなものは薄れゆく思考回路では考えることはできなかった。
俺のぼんやりと霞み、消えゆく視界にはこれでトドメだ、と言わんばかりに最大まで力を溜め、右前脚を振り上げたジンオウガの姿が映った瞬間。俺は全身の力を抜いた。
これで終わりか、案外あっけないもんだよなぁ。まぁ相手が強・・・かった・・・・・・の、か
ジンオウガを見据える。目は閉じはしない、覚悟は決めた。悪かったな、不意打ちなんかしてよ。
俺が最後に感じたのは全身の力を抜いたことにより、その体の中心にあったエネルギーを蓄えた何かが作動したことだけだった。あとは身体の為すがままになった。
目を閉じていなくてよかった。でなければ結果を見ることはなかっただろうから。
後に残ったのは大気を震わす轟音と閃光一閃。
誤字脱字、アドバイス等ありましたらよろしくお願いします。そして二度目の長期休載、重ね重ねお詫び申し上げます。