「フィー、少し質問してもいいかしら?」
気を取り戻したクラミーは、なおも抱き着いて、涙を流している
「あなたのご先祖様に、シンク・ニルヴァレンって方はいるの?」
――やっぱりか。
顔を見て、少し頭によぎっていたが、やはりフィールはニルヴァレン家の末裔だったらしい。
「ぐす…。急にどうしたのですかぁ。確かにシンク・ニルヴァレンはわたしの祖先なのですよぉ。それもわたしよりも二つ上の『
もはや抱きしめているというより、クラミーの平らな胸に頬ずりをしているフェールが言う。
「その人がいったい何をしたかって、聞いてもいいのかしら?」
さらに踏み込むクラミーだが、帰ってきた答えは。
「んぅ~ん、詳しいことは~よくわかってないのですよぉ。当時の記録は悪魔みたいなやつにぃ、ぜ~んぶ、燃やされちゃったのですよぉ」
「……」
フィールが特に気にしてない風に話している中、シュヴィは黙って俺の手を握ってきた。
あのときはいろんな意味で世話になった。
「そう。ありがとね、フィー。それと……あなたにも質問を一つ、してもいいのかしら」
そして、対岸にいる俺へと向きを変え、許可を求めてきた。
「別に構わないよ。答えられることだったらな」
と、笑って返事をした。
「どうしてあなたがあんなことをしたのかなんて聞くまでもない、どうしてあなたが今生きてるのかなんて聞いてもわからない。それでも一つだけ、あなたはこの世界、どう思っているの?」
少し俺に毒されたのか、そう気障ったらしく質問してきた。
「そうだな。ただ普通の、子供が感じた通りの、単純な世界だと思うよ」
俺はそれだけを答えて、会場を後にした。
気障ったらしくあの場を後にしたが、馬車は一つしかないので、結局あいつらを待つことになってしまった。
「ついに終わったんですのね」
馬車に乗り、三人だけの空間で、ステフは呟き。
「リクがいったいどんな国にしてくれるのか、楽しみにしてますわ」
と言うステフの言葉に、ニッコリと笑顔で応じた。
「あの
話を変え、先のゲームの感想を言うと。
「……ん。でも……おかげで、早く……おわった、ね」
と人形のような元の服を着て、フードを深くかぶったシュヴィが、こそばゆい返しをしてくる。
「それも驚きましたけど、
ステフもあの時のことを思い出しているのか、うんうんと頷きながら、言う。
「一触即発って空気が、ひしひしと感じられましたわ……」
生きた心地がしませんでしたわ、とさらに小さな声でつぶやいた。
しばらく雑談していると。
「あら、ごめんなさい。どうやら待たしてしまったようね」
目を腫らしているクラミーとフードをかぶったフィールは最初に謝って、入ってきた。
騎手さんにエルキア王城に向かってくれと頼み、行きに三人で乗った馬車に五人も乗って、若干窮屈になった車内で、俺は口を開く。
「とりあえず、自己紹介でもしとくか」
シュヴィとステフは、フィールのことを全く知らないし、向こうも俺達のことをほとんど知らないだろうからそう提案する。
「えぇ、そうね。私もあなたのことをもっと知っておきたいから、その意見には賛成よ」
「クラミ~……」
「…………」
クラミーのその発言を聞き、異種族の二人が彼女を見つめる。
「え?…っちょ、ち、違うわよ!?あれよ、実際私達ってほとんど知らないじゃない?これからのことのためにも必要だと思っただけよ!……それに、私にはフィーが…」
先の発言の危うさに気が付いたのか、必死に弁明するクラミー。
――素はポンコツだな。
思わずそう思ってしまったが、その輪にステフも加わる。
「クラミーさん。残念ながらこの方、重度のシスコンですの。入り込む余地なんてありませんわ……」
「……だから、妹じゃ……ない……ステフ、頑固」
若干空気が怪しくなってきたので、軌道修正に乗り出す。
「はぁ、とりあえず俺からでいいか?俺はリク。んで、こいつはシュヴィだ。テトの気まぐれで、異世界から召喚されたもんだ。ちなみにシュヴィの体はテトからのプレゼンとだ」
「……あと、夫婦……妹、ちがう」
簡単に俺とシュヴィについて説明すると、シュヴィはやたら強調して言う。
「他種族との結婚なんて聞いたことがありませんわっ!絶対兄妹ですの!」
「……指輪も、ある。ステフの……負け」
――そもそも兄妹も聞いたことねぇよ。
と、こちらもなかなか認めようとしない。
「唯一神の話はクラミーから聞いたのですよぉ。でも他種族間で夫婦ですかぁ~。ぜひ参考にしたいのですよぉ」
「ちょっと、フィー!?人前で何聞いてるのよっ!」
そして、目をキラキラして聞いてくる奴もいて、全く話が進まない。
――この馬車、女が多すぎやしないか?
「いいから、ステフ。次はお前の番だ」
いささか疎外感を感じて、話をぶった切る。
「
珍しく毒を吐くステフに。
「あら?ゲームに負けるのがいけないのよ。なんならイカサマなしでもう一度やってあげましょうか?」
さらに煽るクラミー。
お互いいったい何が気に食わないのか、根が深いことがうかがえる。
「クラミー、話が進まないのですよぉ。わたしはフィール・ニルヴァレンって言うのですよぉ~。気軽にフィール様って呼んでも、いいのですよぉ」
そして俺は、さじを投げた。
全ては時間が解決してくれるだろう。
馬車が付いた先は王城前の大広間だった。
フィールは魔法で着く前に姿を消している。
皆に勧められ、俺が一番に降りると、広場に集まっていた観衆どもが一斉に騒めきだす。
そして、王冠を手に持つ高官の老人が。
「勝者はリク様――ですかな?」
と聞いてきた。
それを答えたのは、シュヴィとステフの後に出てきたクラミーだった。
「ええ、そうよ。完敗だったわ」
その発言を聞いた観衆は喝采をおこす。
「では、あなた様をエルキア新国王としてよろしいですかな」
高官はクラミーの発言に頷き、改めて俺へ向き直り問うてくる。
「まぁそうなるな。戴冠はいつになる?」
「貴族、大臣様方にご連絡をいたさなければなりませんので、早くとも明日の昼頃かと」
「あーわかった。今すぐじゃないならいいよ。準備が出来次第教えてくれ」
「承りました。それと、あなた様は暫定エルキア王であらせられるので、王城に住むことが出来ますがいかがいたしますか?」
ちっさい宿屋からステフ邸、遂には王城まで昇ったかと思ったが、とりあえずステフに聞いておかなければならないことがある。
「ステフ。王城にはまだ読んでない本はあるのか?」
急に振られ、一瞬驚いた顔をしたが、すぐに落ち着き淡々という。
「本はありますけど、歴史書はあまりなかったと思いますわ」
「そうか、じゃあお前の家の本を読み切った方が有意義だな」
――なによりも情報は大事だ。
「王城は戴冠した後に住めるよう、準備だけしといてくれ」
「かしこまりました。――では皆々様方、明日昼、ここエルキア王城前大広間において、戴冠式を行うことをココに宣言いたします」
そう広場にいる観衆全てに聞こえるよう大きな声で高官は宣言し、大歓声でこの場は幕を閉じた。
クラミーたちと別れ、ステフ邸に帰った俺達だが、ステフが何やらあわただしく使用人たちと動いている。
「リク、背丈と肩幅、袖丈と股下を測らせていただきますわよ」
どうやら戴冠式で着る服を探していたらしい。
男物の礼服があまりないのか、お抱え仕立屋まで呼んでいる。
「服装が大事なのはわかるが、あんま高いやつじゃなくていいぞ。どうせすぐ着なくなるしな」
「そんなことありませんわ。王の仕事は何も王宮で政治ごとをするだけではありませんの。他の貴族方とパーティに出たり、外交とかいろいろやらなければならないことが、たっくさんありますのよ?」
仕立屋に採寸されながら、ステフとそんな議論をする。
シュヴィはいつも通り、部屋の端で本を片手に一人クレージーハウスをやっていた。
「スーツは明日の朝までに出来上がる」(意訳)と言って仕立屋は帰り、やっと人心地つける時間が来た。
昨日よりは少しおいしい気がするコーヒーを飲みながら椅子に座り、本を読んでいると。
「今更ですけど、リク達はなんで王になろうと思ったんですの?」
と本当に今更なことをステフは聞いてきた。
暇潰しにでもなるかと思い、話してやることにする。
「まず状況を整理することから始めてやる」
「い、いきなりなんて上から目線なんですの……」
そりゃもう王様だからなと思ったが、無視して続ける。
「そもそも、俺達は異世界からテトに召喚されたって言ったよな」
「ええ、そう聞いておりますわ。
「まあ別にいいけど、そこでシュヴィは
「意味が分かりませんわね」
途中途中、考えることを放棄するステフを無視し、さらに続ける。
「んで、降り立った場所が丘の上で、周りに何もなく、野垂れ死ぬのは嫌だから人が集まってそうなここに向かったってわけだ」
「召喚されて早々遭難ってなかなかひどい扱いですわね」
「テトは傍観主義らしいからな」
続きをどうぞと催促するステフ。
「そして、丘を越え森に入ると、山賊に襲われたわけだ。そこで十の盟約を初めて実感したな。前の世界じゃあ、普通に金を置いていけ、さもねぇと命はねーぞ、だったからな。かなり新鮮だったよ」
思い出しながら笑って言い。
「まぁ、あいつらゲームは弱かったからな。普通に巻き上げて終わったよ」
「命を奪われるなんて、恐いですわね。いったいどんな世界だったんですの?」
「そうだなー……、理不尽な世界だったよ。生まれですべてが決まる、いいところに産まれたら、いいとこに……。いや、これはどこでも一緒か」
言ってて気づく。
「そうかもしれませんわね。この世界も不平等が当たり前の世界ですもの」
図らずも空気を悪くしてしまったので、明るく切り替える。
「そんな紆余曲折があって、やっとこさエルキアにたどり着いたわけよ」
「……ん」
いつの間にか黒の負けで終わったらしく、シュヴィが俺の隣に来る。
「そ、それで、この国は最初どう思いましたのっ!?」
少し緊張した様子で、しかし乗り出しながらステフは聞いてくる。
「んー、立派な国だと思ったよ。堅牢な石造りの街並みだったからな」
「……道も、石……よくできてた」
俺達は素直な第一印象を述べる。
「そ、そうですわね。ふふ、もちろんですわ!偉大な先祖の方たちが築き上げた国ですものっ!」
まるで自分のことのように喜ぶステフだが、俺はくぎを刺す。
「お前は何もしてないだろ。自分の過去ですらないものを誇ってるんじゃねぇよ」
「うっ、そうですわね。精進いたしますわ……」
「……ん。ステフ……ファイト」
「話を戻すが。エルキアに来た時、たしかに街は立派だと思ったが、人が全くいなかった」
「……遠くで、声……聞こえてきた、の」
「とりあえず声が聞こえたほうに行ってみるか、ってことで向かった先がお前とクラミーがゲームをしてる、あの酒屋だったってことだ」
「へー。かなりの偶然ですわね。その場面を見ていなかったら、今はなかったってことですの?」
シュヴィと二人で話を進めると、ステフが思ったことをそのまま言ってくる。
「人生なんてそう言うもんだよ。偶然の重ね合わせだ」
――神様の仕業かもしれんがな。
「んで、俺はそのまま部屋に上がり、シュヴィはおせっかいにもお前に話しかけたってことだ」
「……」
「シュヴィさん……。あなたは命の恩人ですわっ!」
特に何も言わないシュヴィに感情豊かなステフが縋る。
「その命の恩人お言葉を聞いて、激怒したお前が俺達の部屋に乗り込んできたんだったな」
「そ、それはもう過ぎたことですわ」
――自分の過去は振り返れよ……。
「このときやったゲームは特に説明しなくてもいいよな」
「そうですわね。
どこからか、捻デレと聞こえてきそうな台詞だが、一切を無視して話を続ける。
「その後、お前の家に向かい。昼間で寝て、昼食中に今みたいな話をしたんだったな」
「あの時はびっくりしましたわ。まさかクラミーが
「まぁ、そういう事態が起こることを想定していない、
「……短慮」
シュヴィは相変わらず無神経に言い放つ。
「ぐぬぬ。…ですがっ!御爺様の賭けは成功しましたわ。こうして最強のギャンブラーが来たんですもの」
「それなんだが、俺らはギャンブラーなんて遊びじゃねえよ。やるならば勝つ。ゲーマーだ」
「どうちがうんですの?」
「……ギャンブラー、は……狂気。ゲーマーは……本気」
少し違うんじゃないか?と思うシュヴィの解釈だが、概してその通りだから良しとする。
「それで、風呂に入ったあと。その後書斎に行って、歴史書を読み漁ってたな」
「……さわり程度の、量……だけ」
「ホントな。なんであんなに少ないんだ?」
「……製紙、活版……技術、進んでない……から?」
「えぇっと、それだけではないんですの……」
俺とシュヴィがそう考察していると、ステフがおずおずと話し始める。
「もともと
突然の言葉にシュヴィは俺の手を強く握ってくる。
「
「えっと……五年前、
「おい、そんなこと何も書かれてなかったぞ」
「御爺様はあまり自分のことを本に書かせなかったから……」
――やっぱほんとに愚王だったんじゃないかと思えてくる。証拠を隠滅してたのか?
「……何を、賭けた、の……?」
「向うは『国立エルキア図書館』の全てですわ。そこにある蔵書も……」
「はぁ。で、こっちは?」
「その
「……悪く、ない……でも、不相応」
「だな、負けたら意味がない」
「お、御爺様には、何か、深い考えが……」
いっそ盲信に近いものを感じるステフ。
「とりあえずそれは置いとくとして、かなりの脱線を繰り返してるが、遂にあのゲームだ」
「そうですわっ!
何も言ってこないから、わかっているのかと思ったが、そうではなかったらしい。
「俺が広場に行く前に言った言葉を覚えているか?」
「魔法なんて関係ないゲームにするってやつですの?」
「そう、それだ。それが俺達
「確かに魔法なんて関係ないゲームにしたら対等にゲームができますけど……。どうやって干渉するんですの?」
「そこは、ハッタリとブラフだな。こっちの勝ち筋をゲームが始まる前から、あらかじめ作っとくのが大事だ」
途中からステフは俺の言葉をメモにとりながら、真剣に聞いてくる。
「なるほど!つまりゲームに魔法がかかっていることを知っていたから、それを使ってクラミー達を脅したんですのね」
「……ステフが、一発で、わかっ……た、だと……」
「
珍しくシュヴィがふざける。
「まぁ、そうだな。今回はシュヴィがあの
「あのときから姿を消してたんですのね。通りで見えなかったわけですわ」
何やら覚醒して、ものわかりがよくなったようだ。
「だが、位階序列十位の
「……
「そうなんですのね。そういえば、元々はリクと同じ
なかなか鋭い質問に、苦笑いで受け流す。
「どんな魔法が使われているかわからなければ、不正を証明することはできない。だからハッタリとして使ったって訳だ」
うんうんとうなずき、メモを取るステフに、さらに続ける。
「そして俺が用意した勝ち筋は、相手の意識不明による、時間制限超過だったって訳だ」
「急に叫んだときはビックリしましたわ。あれはいったい何をしたんですの?」
「駒に記憶を賭けるって言っただろ?あれはただ記憶を見ることができるんじゃなく、自分のものにする、つまり体験できるってことなんだ」
少し難しかったかと思い一旦止め、ステフの様子を見る。
「んーと。体験して、どうするんですの?」
ついてこれていることが確認できたので続ける。
「あまり言いたくはないが、俺の過去はかなり悲惨だからな。その記憶を体験させて、精神を崩壊させるんだ」
「精神が崩壊するほどの過去ですのっ!?」
「あんま過去のことは聞くな。人それぞれいろんなものを持ってるからな」
「えぇ……、そうですわね。でも、…もし辛くなったら、頼っていただいても構いませんわよ?なにができるかわからないけれど、力になりますわ」
「……」
俺もシュヴィも黙ってステフを見る。
「そ、そんな見られても困りますわ…」
そう恥ずかしがったステフの発言を聞き、自分がぼーっとしていたことに気がついた。
「ん、んん。えーと。まぁ、そんなとこかな」
わかったかと聞き、メモを取り終わったステフはありがとうございましたわと言って、そそくさと席を立った。
静かになった食堂で。
「俺達も部屋に戻るか?」
と、シュヴィに尋ねると。
「……お風呂」
と答えられた。
――ステフもお節介なやつだなぁ。
次回
ホ
モ、襲来