登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
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誤字報告ありがとうございます。
ですが、『読み分けた』も『スート』も誤字ではありませんので、そのままにさせていただきます。
申し訳ありません。
今までエルフのことを森精種と表わさず、森棲種と間違って表記していました。
一応すべて点検したのでもうないと思いますが、気が付かれましたら誤字報告で教えてください。
指摘してくれた方、ありがとうございます。
食後に風呂へ入るのは、消化吸収によくないと言われているが、元々はもっとひどい生活をしていたので、あまり気にしてもしょうがないだろう。
むしろこの世界に戻ってきて三日目になるが、そのうち二日も風呂にはいっているのだから、かなり文化的な生活をしていると実感する。
――……三日でことが起こりすぎじゃないか?
まぁ、最初の懸案事項だったクラミーのことも、解決とは行かないまでも心配するほどのことではないとわかり、一段落が着いた。
次に何をしようか悩むとこだがこの世界、決して暇な時間など与えてくれないだろう。
何せ公式チートの種族があちらこちらと蔓延っており、それに付随して懸案事項も山積みのことだ。
この世界に来て、しみじみと感じる人の生の短さ。
やはり生き急ぐ程度の忙しさで丁度いいのだろう。
だがそんな鬼が笑うような未来の話でなく、現在起きている懸念事項を解決するべきだろう。
それは。
「……チェス……しよ?」
髪を洗ってる俺の後ろで、濡れた裸体でちょこんと正座してそう何度も言ってくるこいつのことだ。
「お前、こっちに来てからチェス狂に拍車がかかってないか?」
この世界で三日を過ごして、俺はチェスを既に八局も指している。
ちなみに先ほどのゲームはチェスではないからカウントしない。
「……テトに、負けた、から……リクの手、読んで……次は、勝つ」
「うん?二人で勝っただろ?一人では負けたってことか?」
シュヴィの話に整合性が見当たらず、少し混乱する。
「……さっき……急に、白の駒……動いた」
「さっきって、将棋ルールのチェスをしていたときか?」
「……そう。勝てなかっ、た……リク、勝ったのに」
「あのときは力合わせてやったからだろ。俺だけだったら勝てねえよ」
どうやらゲームの神様はボッチの神様でもあるらしい。
一人でゲームをしている者の前にふらりと現れ、相手をしてくれる。
――いや、悔しくて仕返しに来たのかもな。
「てか、シュヴィの初黒星をあいつに取られたのか」
テトにも勝てず、シュヴィにも勝てず。
その事実に気づき少し落胆する。
「……チェスで、は……まだ負けて、ない」
変則チェスはカウント外だそうで、むっと唇を尖らせ抗議を入れられる。
「はは、わかったよ。だが対局前にどんな棋譜だったのか教えてくれ。まずは反省会からだ」
「……ん」
この前のようにチェスセットを典開し、シュヴィに先のゲームを打ち直してもらう。
――ここからシュヴィへの勝ち筋も学ばないとな。
とそんな考えもありながら棋譜の評価をつけていった。
「リクー、シュヴィー。まだ入ってますのー?クッキーを焼いてみましたわー。いかがですのー?」
大浴場に響く家主の声で熱中から覚め、入ってからかなり時間がたっていることに気付く。
「シュヴィ。すまんが一旦やめだ。でるぞ」
途中ではあったが手を止め、脱衣所へと向かう。
「…………」
シュヴィは少し不機嫌顔だが納得し、チェス盤を消す。
今回一局目を勝てはしなかったがパーペチュアル・チェックにまで持ち込み、引き分けをもぎ取った。
初の敗北回避だ。
シュヴィ相手にこの結果は読み分けたと言ってもいいだろう。
しかし次の二局目は攻める暇を与えさせない速攻をされ、ボコボコにされたが。
そして三局目はシュヴィ優勢の状態でお開きとなった。
風呂から出て使用人も周りにいないので、シュヴィはいつもの深いフードを止め、素の状態でステフが焼いたクッキーを食べている。
トランプのスートを模ったクッキーで、ダイヤのクッキーをいじりながらふと思いついたことを尋ねる。
「そういや、食糧事情はどうなってるんだ?満足な量は生産できてるのか?」
大体のことは本で知っているが、実体験も聞いておくべきだろう。
知識だけでは足りないこともある。
「えーと。あまりよくはないですわね。御爺様は農業地帯をほとんど賭けておらず、【
どうやら本のまんまらしく、芳しくない答えが返ってくる。
「やっぱ農業改革が最優先かな。その後土地を手に入れたほうが効率もいいだろう」
人は危機感を持てば、嫌でも物事に集中する。
土地が少ない状態で生産効率を上げる新たな技術を教えたほうが、土地が手に入った後よりも学ぶ姿勢がいいだろう。
異世界転生のテンプレである『千歯扱ぎ』等はもうあるだろうと期待して、二毛作や二期作などの栽培方法や硫安や尿素などの化学肥料がどこまで進んでいるのかも、あとで現地調査しようかと思案する。
しかしそんな中。
「……」
俺が真剣な話をしているよそで、視線だけをこちらに向けて、もぐもぐとクッキーを咀嚼するシュヴィ。
「はぁ。大気状態はいまだ不明のままか」
と呆れてシュヴィに視線を移すと。
「……おいしい、よ?」
とクッキーを取り、俺に差し出してくる。
その光景にステフも俺もプッと吹き出し、少し笑って受け取る。
「あぁ。確かにおいしいな」
とダイヤとハートのクッキーを食べ、そんな感想を漏らした。
その後は書斎にある本をほぼすべてを読み漁り、夕食を食べ、ようやく一日を終えた。
たいへん健康的に太陽が昇ってすぐに目が覚め、軽い朝食を使用人に頼んでから、一人チェスをしていたシュヴィを誘い、軽い気分転換に近くを散歩する。
ステフ邸を半周したころで座標式を宣言する脳内チェスでシュヴィが昨日の続きを指し始め、俺もそれに乗り、普通に負けた。
ホントこっちに来てからチェスばかりしているなと思い、帰ったらポーカーでもしようと誘う。
――決して得意なゲームに逃げたわけではない。
戻るとステフも目が覚めていたようで、おろおろと戸惑っている使用人と一緒に朝食を運んでいた。
俺たちに気が付いたステフが。
「シュヴィが早起きなのは知っていましたが、リクも早く起きれたんですのね」
と笑顔で、しかし少し皮肉交じりに言ってくる。
「人間、何でもやればできるからな。早起きなんぞ朝飯前だ」
と俺は笑って流す。
「……」
シュヴィもそんな俺を見て、少しほほ笑んだ気がした。
朝食はムニエルみたいなやつで、牛乳と合わせてかなりおいしかった。
しかしこの世界、モーニングコーヒーの文化は根付かなかったらしく、食後に紅茶が出てきたことは不満だが。
紅茶も飲み終わり、ステフも誘ってポーカーでもするかと思いたったとき、チャイムが鳴る。
「はーい。――どちら様ですの?」
まだ紅茶を飲み終わっていないステフが駆けて応対をしに行く。
「リク様のテイルコートをお持ちしました。丈つめをしますので、よろしくお願いします」
どうやら訪ねてきたのは仕立屋らしく、テイルコート、つまりは燕尾服のことだがそれを持ってきたようだ。
「裾上げで良くないか?まだ俺も十八だから伸びると思うぞ?」
席を立ち、少しの願望も混じってそう返す。
「一世一代の晴れ舞台ですのよ?身なりはきちんとするべきですわ」
「……ん」
力説をするステフとそれにこくんと頷くシュヴィにより、俺の提案はすぐに流された。
ぴっちりとした燕尾服を着て、まさに馬子にも衣装の格好でお披露目される。
「ばっちりですわ。これなら誰もが威厳ある新国王として認めるにきまってますわ!」
「……」
ステフはうんうんと大きく頷き、シュヴィは俺の周りをぐるぐると回ってしげしげと観察してくる。
「かたい服は動きにくいから嫌なんだよ。TPOはわかるが非効率だよなぁ」
「……効率厨、おつ」
不満を漏らすとすぐに揶揄されてしまった。
「いかがですかな。他に何かご不満はありますでしょうか」
どうだと言わんばかりの自慢気な顔で仕立屋が確認してくる。
「さすがだよ。王家専属ってのは伊達じゃないんだな」
「ええ、代々の誇りですので。ですが我が一族は王家ではなく、ドーラ家の専属でございます。それは間違いなきように」
深々と礼をして、自分の道具を片付けながらそう誇らしく宣言し、仕立屋は立ち去った。
置き台詞を聞いて照れたように顔をそむけるステフにポーカーでもやるかと誘ってやった。
太陽が天辺に昇るころ、ようやく高官を乗せた馬車がステフ邸の前に訪れる。
「お待たせしました。準備が整いましたので、御迎えに参りました」
馬車から降りてきたのはあの王冠を持った高官一人だけではなく、同じくかしこまった服装を着た四人だった。
俺達用に後をついてきたキャリッジ風馬車の乗り口を挟み、並んで出迎えている姿はかなりの品行を窺わせる。
「ご苦労さん。じゃあ案内をよろしく頼む」
あまり固い会話も嫌なので、なるはやで済ませる。
三人とも馬車に乗り、それを確認すると高官達も馬車に戻り出発させる。
こいつらもあいつもステフについてあまりとやかく言ってこないところを見るに、それほど国民からの信頼は失っていないようだ。
もしかしたら無関心なのかもしれないが、六千年も統治した王族に対して尊敬の念は案外根深いのかもしれない。
馬車が出て、ステフ邸が見えなくなった時に。
「今更ですけど、戴冠式の言葉はもう考えてきてますの?」
少し心配そうな顔でこちらを見てくるステフ。
「異世界のカンペがあるから気にすんな。人類史に残る大悪人のだがな」
「そ、それはほんとに安心してもいいんですのっ!?」
「大丈夫、大丈夫。利用するのはコツだけだ」
落ち着かせるために突拍子もないことを言ってやる。
功を奏したようでステフは大きくため息をつき、シュヴィと雑談を始めた。
シュヴィにしては珍しく、ステフと長々と雑談をしていると馬車がゆっくりと止まる。
どうやら王城前の大広間に着いたらしい。
すると俺たちの馬車のドアがノックされ。
「到着しました。リク様はこちらへ。お連れの方はあちらの席にお願いします」
ドアが開き、高官にそう言われ、シュヴィたちと離されてしまう。
シュヴィは相変わらず嫌な顔をしたがステフに手を握られ、「一緒に行きましょ」と優しく言われると肩を落とし、ステフと歩いて行った。
俺は高官連れられ、王城内に案内された。
「ではただいまより、戴冠の議を執り行わせていただきます」
とおそらく政府高官だけが集まった、かたっ苦しい伝統行事が数時間にも及んで行われた。
そこでは大量の貴族や大臣どもが自己紹介をして、新国王のお目通りをよくする場らしい。
めんどくさいのでテキトーに「はい、はい」とやり過ごした。
そしてついに、一般大衆の前で演説をする時が来た。
ずっと高官が持っていた王冠も先ほどの行事で渡され、今は俺の頭の上に乗っかっている。
俺も人間なので緊張をしないと言ったら嘘になるが、それでもこれが異世界転生最初の章の最後の舞台とたかをくくり、いざ一歩を踏み出す。
「――親愛なる
俺が表舞台に出て歓声を上げた大衆が再び静まり返り、俺の方を自然と注視するまでじっと待ち、そう静かに切り出した。
「我々
淡々と事実を穏やかに述べる。
「しかし今ッ!この国の現状はどうだ?『十の盟約』のもと、戦争のないこの世界において負け続け、最後の国家・最後の都市を残すのみになっている。それは何故だッ!」
「我らが戦争で他種族に圧倒していたからか?我らが戦争しかできない種族で、戦争を禁止された世界では生きることが出来なかったからか?」
「断じて違うだろう。……我々
突如の罵倒に近い、いや罵倒そのものの宣言を畳みかけ、未来への希望をもって集まった民衆どもは首を垂れる。
「しかしだ。ここで皆に考えてみてほしい。――そんな誰からも明らかな劣等種が、なぜ天をも焦がすと呼ばれたあの大戦時に、大陸の全土を収めることが出来たのか」
「想像につくだろうか?六千年前、この国を建国した偉大な女王『コローネ・ドーラ』が何をしたのか。もしかして彼女は魔法を使えたのか?もしかして彼女は超常の力を使えたのか?」
「違うだろう。彼女は紛れもなく我々と同じ
「では何故だ。なぜ彼女はあの理不尽な世界ですら、六千年も続く偉大なこの国を建国できたのだ」
唐突の問いに回答を見つけ出せることが出来ないのだろう民衆は、縋るように俺を見てくる。
「それは……我ら
しかし民衆が求めていた俺の回答はさらに理解ができないものだったようだ。
少しづつ騒めきだす広場を俺は片手で制し、さらに続ける。
「疑問に思うだろう、憤慨するだろう。だが事実だ。彼女は、いやその時生きていた
「ではそんな彼女達は、『弱者』だと世界から突き付けられていた彼女たちは何をしたか。それは――徹底的に他種族を欺いたことだ」
「この星を地獄に変えていた知性ありしと自称する
「それをなんだ。六千年たったこの現状はッ!国家の領土なんぞ見る影もないこの惨状ッ!いったい俺達と彼女たちでは何が違うというんだッ!」
再びまくしたて、民衆どもを俺の方へとくぎ付けにする。
「――なにも違わないではないか。……我らは皆、彼女たちと変わらず『弱者』だ」
「魔法も使えない、探知もすることが出来ない。しかしあの大戦を生き抜いた『弱者』だッ!」
「いつまで自分を過信しているつもりだ。いつまで自分に信じ込ませているつもりだ。――いいかげん認めよう、我らはまごうことなき『弱者』。大戦を生き抜き、そして勝利した『弱者』だッ!」
湧き上がる歓声の中で、俺は構わず宣言する。
「我、ここに二〇五代エルキア国王として、
そしてこの世界で初めてフルネームを宣言する。
頭にのせていた王冠を手に取り、大きく上げて。
「――
「知性ありしと自称する
「今この瞬間!我がエルキアは――全世界のすべての国に対して
俺はそう言い切った。
次話は原作9巻のネタバレです。
アニメ未放送なので注意してください。
ホモはせっかち。