目が覚めると俺たちは草原の上に寝そべっていた。
久しく外に出ていなかったため、背中をチクチクと刺すモノや顔や腕をジリジリと灼くモノが何なのかを理解するのに時間がかかった。
どうやら俺達は小高い山の上にいるようだ。
そして周りを見渡すと。
どこまでも遠い青い空。
どこまでも広い青い陸。
どこまでも深い青い海。
その光景を見たとき、あの世界ではないと否定した。
古い言い伝えでしか聞いたことがなかった、青い光景がそこにあった。
「おかえり、僕の世界へッ!」
そんならしくない感慨に更けていた自分を遮るかのように、満面の笑みで少年のような体をしたやつが言った。
「ここは君達が夢見た理想郷【盤上の世界・ディスボード】!この世のすべてが単純なゲームで決まる世界!そう――人の命も、国境線さえもッ!!」
しかしそんな大言もシュヴィの困惑しきった言葉で、無情にも散らされた。
「……あなた……誰?ここ、どこ?」
その言葉を聞き、シュヴィはこの世界の本来の姿を聞いたことがなかったのかと知った。
そして、第一声を散らされても相変わらずこいつは楽しそうに笑って答える。
「ふふ♪僕?僕はね~、テトって言うんだ。誰かさんのおかげで、この世界の唯一神をやらせてもらってるよ♪」
「そうか。お前テトっていうのか、初めて知ったよ」
ついぞ、最期まで姿を見せなかった神様の名前を18年たって俺はやっと知った。
「うん。よろしくね、リク。いや空って言ったほうがいいのかな?」
嬉しそうに笑って答えたテトは、今度は俺の名前を聞いてくる。
「リクでいいよ。空って俺を呼ぶ奴はみんなどっか行ったからな。リクのほうが慣れてる」
小さい頃からおそらく遊んでいたやつに、俺はやっと名前を教えることができた。
「くふふ♪そうだね、わかったよ。じゃあこれからもリクって呼ぶことにするね♪」
「……リク、の……知り合い?」
旧友を深めるように懐かしさをにじませた会話をしていると、シュヴィがまだ見当違いなことを聞いてくる。
あまりの状況の変化にどうやらシュヴィは普段の冷静さをかけてるようだ。
俺を空ではなくリクと知ってるやつなんて限られているだろう。
そしてそこがどこなのかも。
今だ混乱の境地なのがよくわかる。
「ふむ。どうやら彼女、まだこの状況をつかめてないみたいだね」
「そりゃテトがいきなり、呼ぶからだろ。どうせならもっと早く呼んでほしかったね」
「いや~ごめんね。唯一神でも異世界から召喚は難しくてね、六〇〇〇年以上かかっちゃたよ」
てへぺろといたずらっ子のように言った言葉は冷静さを取り戻していた俺でも驚愕のものだった。
「ろ、六〇〇〇年!?まてまて、ジョーダンだろ!どんだけ時間がたってるんだよ」
「端数に二〇〇余りもつくけどね。だから褒めてほしいぐらいだよ。これでも一生懸命やったんだよ?」
「……まって、つまり……この世界は……あの、世界?」
考えられない時間の単位を突如聞き、俺は狼狽えるが、シュヴィはようやく理解できたようだ。
「その通り!最初に言ったよね?ここは君たちが夢見た世界だって。君たちが創り変えた、あの世界さ」
「……ほんとうに、やったんだ。……リク」
感嘆につぶやいたシュヴィの言葉に、驚愕に混乱を重ねられた俺はつい叫んでしまった。
「なっ!シュ、シュヴィ、お前まさか信じてなかったのか?やったって言ったろ!」
「……うん、信じてた、よ。……きれい、だね」
そう珍しく涙を流して言うシュヴィを俺は落ち着きを取り戻してテトと笑って見合わせた。
「そうか、姉さんも立派に後へ継ないだのか」
少し場を収め、俺達の昔話というか10年弱の話をしたあと、今度はテトがこの世界について話し始めた。
「そうだね、彼女も偉大な【
「そのさっきからちょくちょく聞くイマニティってのは何だ?俺らはいつ免疫機能になったんだ?」
「ああそれね。僕が名付けたんだ。【
「……十六」
「そう!君達がよく知る、そして守った十六種族さ!これも重要なんだけど、そのあとに僕はこの世界に『十の盟約』を定めたからそのことも紹介するね」
これまた上機嫌に、そう言って定められたこの世界の『
そうして、話がひと段落がつき、もってからの疑問を口にする。
「それで、いい加減教えてほしいんだが、俺たちは何のために呼ばれたんだ?王道物語よろしくさらわれた姫を救えや、神様転生らしく世界を救うためとかか?」
「…………」
そうおどけながらも遂に最も大事なこと訊ねる俺と無言ながらも同意見らしいシュヴィがテトを注視する。
「う~ん。そこを尋ねられちゃったら、中立でなきゃいけない僕はもう帰らないといけないかな」
そう言って、今まで三人囲んで地べたに座って話し合っていた中、テトは立ち上がってこう続けた。
「僕はあくまで中立で、どこの勢力にも加担しない。唯一神の力を抑えるためにもこれは不文律さ。故に、君達をこれからどうするかなんて、それは君たち自身が考えなければいけない」
そうして、足を地面にとんと突き、空中に浮いた状態で更に続ける。
「でもとりあえず、僕からゲームに勝ったし、そして何より唯一神の座ももらった身だからね。君達の願いをなんでも一つ叶えるよ」
……。
――そういやおれ、テトに勝ったんだよな。やべぇ、すっかり忘れてたけど遂に俺、いや俺たち勝ったのか!
――くっそー、どうも感動を逃した気がする。もしかしてあの突如の転移はテトの仕返しかなんかか?
そう一人年甲斐もなく、ゲームに勝ったことをはしゃいでいると、シュヴィはすぐに答えた。
「……
「なっ!?」
その言葉に俺は驚きの言葉を上げてしまったが、すぐに口を閉ざした。
考えてみれば人間に生まれたら、人間に生まれ直したいのは当然のことだ。
色んな意味で考えたくも無いが、
人類基準で例えるなら人類とナメクジ、いやミジンコでも甘いくらいだろう。
それならばたとえ、人類の心を解析したくて、人類を真似をしていたシュヴィが、イコール人類になりたいというわけではない。
そして人間に生まれ、俺と出会うまで一人だったシュヴィが何を感じたかなんてわかったものではない。
そんなきっと俺には想像もできないような、そして俺に明かせなかった葛藤がシュヴィにはあったのだろう。
しかしテトは、そんな重い願いにもあっさり応える。
「うん、いいよ。じゃあ、現環境に対応したバージョンでプレゼントしてあげよう」
そうテトが言うと、即座にシュヴィは魔法少女みたく光に包まれ変容していった。
あまりの展開の速さに、これが神の力かと感心したが。
――いや、おい!テト!服を脱がす演出の必要はあったのか!
そんなすこし見当違いなことで思考を戻した。
「どうかな?初めての試みだったけどうまくできたかな?」
「初めてだったのかよ!失敗したらどうするつもりだ!」
少し調子を上げるためにテンションを高めてツッコミを入れる。
しかし次のシュヴィの言動は全くの想定外だった。
「……リク、どう?……これで、リクのお嫁さん……なれる?」
「はぁ?」
シュヴィの突然の言葉に今度は驚嘆の声が漏れ出た。
「いやいや、シュヴィさん?あなた今回は俺の妹だし、それにまだ11才だろ。冷静になるんだ」
自分にも言い聞かせながら、何が起こっているのか再検討していると。
「……それ、『白』。前の自分……今は
「あの、シュヴィさん?もしかしてそのために、その体に?」
「……そう。だめ?」
――あぁあああああああああ!!!
さっきの俺を殴ってやりたい。
何わけのわからんシリアスモード出してんだよ!
「あはははは!うんうん。やっぱ君たち面白いね。やっぱこうでないと♪」
そう笑って俺に肘をつついてきた威厳の欠片もない神様が言う。
「……む。テト……リクとるの、ゆるさない」
「ふふ。僕が君からリクを?さっきも言ったけど、僕は言ったら君たちの子みたいなものなんだけどね。むしろ応援するよ!」
「……テトの、リクの想い……すこし、シュヴィと、違う?」
「うーん、どうだろうね。たしかに僕もリクのことは好きだけど、それは憧憬も交じってるんだろうね。決して触れちゃいけないっていう」
「やめろおお。これは何のプレイだっ!羞恥だろ!」
「あははは♪ばれちゃった?それで君は何を望むんだい?」
叫んで止めた羞恥プレイを笑って流し、話を戻したテトに俺は答えた。
「そんなモノ決まってる!あの指輪だ!」
そう羞恥心などかなぐり捨てて、さらに強く叫んだ。
「うん、わかったよ。ちょっとまっててね。今とってくるから」
そうつぶやくように言うと、テトはその場から消えた。
「…………」
「…………」
……ふむなるほど。
はたして指輪をとって来るとテトは言ったが、それはいつ完了するのだろうか。
そもそもまだ朽ちず残っているのかも疑問だが、この空気どうしたものか。
指輪を望んだということはそのあと何をするかなぞ、自明の理であって、これから俺が何をするかなんてシュヴィにはわかっているだろう。
そこで生まれる指輪が届くまでの長い時間。
……た、助けてください。
いやどおすりゃいんだよ。
前の世界で嫁がいたが結局二十まで童貞で、そのまま死んで、今度は生まれ変わって、よーしっ、頑張るぞーってとこで元嫁が妹として現れ、そのまま現在十八まで童貞の、計三十八歳無職童貞がこの場をどう乗りきりゃいいんだよっ!
あ、涙が。
「……リ――――
「ただいま!あれ、ちょっとタイミング悪かったかな?」
そう何かを話そうとしたシュヴィを遮り、テトが戻ってきた」
「……今回は、許す……でも次、ない」
やはりどこかテトに敵愾心を覚えてるようなシュヴィに。
「あ、あははは。次は気を付けるよ」
さすがに焦ってテトが答える。
「さあ、気を取り直して、はい。えーとなんて言ってたっけ、たしか『
そう言って手渡された、おそらく世界から見たら全く価値のない指輪を大事に受け取った。
「…………」
何も言わず、ただこちらを見ているシュヴィに向かって、俺はもう一度あの言葉を告げた。
「シュヴィ、結婚してくれ」
今度こそ、最後まで。なんて言うフラグは決して口に出さず、膝をつき小さな指輪を差し出した。
「……もう、二度と……手を離さない、よ」
そうシュヴィは泣きながら答え、左手を差し出した。
「うん!今度は僕が君たちの仲介人だね」
指輪をシュヴィにはめると、テトはそう呟き、三人だけの二度目の結婚式を開いた。
「「『
「いいところでごめんね。今は、僕に基づいて定めた『
そんな、少し役が違うセリフもあったが。