ノーゲーム・ノーリライフ   作:ライム酒

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この物語はリクとシュヴィ『の』勘違いモノです。
登場人物は基本優しい子ばかりですが、対戦に引きずられる彼らは最悪なほうばかりに考えが行きます。
展開を知っている身の私たちは何やってんだよと思えますが、その辺の、平和な世界に困惑する二人を書けたらいいなと思います。





有謀〜0→∞=〜

嫌なものを見た、それ以上のことを考えず、その場を俺は走り去って逃げるように、借りた三階の部屋まで駆け上がった。

 

シュヴィも遅れて部屋に入ってきたが、その時俺は布団にくるまって、ただただ寝たかった。

「……リク。大丈夫……リクなら、できる、よ?」

シュヴィが耳元で優しく説きかけてくる。

だが今は、そんなシュヴィの言葉さえ聞きたくなかった。

 

――何が世界を変えただよ。何も変わってねえじゃねえか。これまでどうり、世界は残酷で、人類は多種族の餌に成り果てている。

道中の俺はいったい何を期待していたのだろうか。

戦いを封じられた強者は、その有り余るスペックで容易に人類の唯一の武器であった狡猾を使い始めたのだろう。

今まで一発で何もかもが終わったものが、禁止され、ゆえに育てたのが七めんどくさい裏の手だ。

かつて俺ら、『幽霊』がやった暗躍なんぞ、とうにいともたやすくやつらは超えていたんだろうさ。

――なぁ、テト。これが俺たちが望んだ世界なのかよ。そりゃ、ねぇよ……

 

「リクッ!」

それは今まで聞いたことがないであろう、シュヴィのとても大きな叫び声だった。

「……リク、聞いて……おねがい」

そして続いたのは、今にも泣きだしそうな、か細い声だった。

――こいつはこんなにも変わったんだな。

ふと、そんなことを思い、何とか冷静さを取り戻す。

 

あぁ、どうやら俺は期待からのリバウンドで大きく揺れた感情に負け、ふさぎこんでしまったみたいだ。

自分はここまで弱くなってしまったのかと、唯一のとりえであった、自身の感情コントロールもままならない状況に笑いがこみあげてくる。

はぁ、俺はいったい何を思いあがっていたのだろうか。

人類がほかの種族に勝てないなどむっかしから、それも六〇〇〇年以上前からわかり切っていたことじゃないか。

 

「シュヴィ、もう大丈夫だ。こんな弱い俺で、心配かけてごめんな」

「……ん。リク……弱くない。誰よりも……誰にも負けない、って目……してる」

その言葉に少し気恥ずかしさがでて、目をそらしてしまう。

「……だめ……その目、もっと見たい――」

 

しかし、視線をそらしても都度追ってきて、決して目を離してくれない。

そして続いた言葉で。

 

「――……リクは……何をしたい、の?」

俺は覚悟を決めた。

もう大丈夫だ。

次こそはやれる。

今度は感情を偽るのではなく、すべてに全力で挑んで、そして――

「――俺達は全てに勝ってやる(を救ってやる)!」

 

どうやら泣いてしまったらしい、赤くはれた目を、そして顔を洗うために部屋の隅に取り付けられた小さな洗面台で、水をかけていると。

――――コン、コンコン

と小さく戸が叩かれる音がした。

 

誰だと訝しみ、シュヴィに目線で尋ねると、心当たりがあるらしくこくんと頷いた。

 

「あの、いないんですの?」

慎重になりすぎ、少し時間がたってしまったためだろうか、戸の向こうにいる、どうやらお嬢ちゃんは、懐疑の声を上げる。

「いやいるよ。何か用かな?」

少し大きな声で、戸の向こうにもしっかり聞こえる大きさでそう尋ねた。

「はぁ!?用ならそっちがあるんじゃないんですの!?」

ふむ、育ちがいい子と思ったが訂正しよう。

 

「あー、とりあえず名前を教えてくれないか?俺としては何が何やらさっぱりなんだが」

「あ、あれ!?もしかして違いますの?こちらの部屋にはフードを深くかぶった背の小さな女の子はいらっしゃらないんです、の?」

聞くにどうやら俺でなくシュヴィに対して用があるらしい。

シュヴィが先ほど頷いたのもそういうことだったのか。

なんとも珍しいことがあるものだ。

 

「おけー、おけー。わかったよ。今鍵開けるから、待っててくれ」

「あ、ありがとうございますわ。(わたくし)ステファニー・ドーラというものですの」

鍵を解き、ドアを開けているときにそんな予想外の言葉を聞いた。

「……いらっしゃい」

後ろでしてやったりというような、顔をしているシュヴィが目に浮かんだ。

 

彼女を奥に招き、部屋に一つだけある席に座らせる。

そのとき、彼女の胸元にある大きなブローチを見つけ、自然とシュヴィの指輪に目が移った。

シュヴィも見つけたらしく、右手で指輪を優しくなでた。

そして俺たちもベットに腰を掛ける。

 

 

「えぇ、と。ドーラさん?シュヴィに用があるみたいだが?」

シュヴィはもちろん自分からしゃべるはずもなく、そして知らない部屋に連れ込まれた彼女は縮こまってしまい、誰も話さない居心地の悪い空気を換えるため、何も知らん俺が口火を開くことになった。

 

「ええ、そうですの。それと(わたくし)のことはステファニーで構いませんわ。お名前を伺ってもよろしくて?」

なんともコミュ力が高い返答に、やはり育ちの良さは本物だと再訂正しとこうか。

 

「俺はリク、こいつはシュヴィだ。そのまま呼んでくれ」

「リクさんとシュヴィさんですわね。では改めてシュヴィさん、どういうことか教えてもらってもよろしいですの?」

そう言って、本題に入った途端、ステファニーは態度を変え、シュヴィに挑むような態度で詰問する。

 

「おい、シュヴィさん?お前いったい何を言ったんだよ。この豹変相当だぞ」

隣りに座っているシュヴィに少し小さな声で訊ねる。

「……負けたら、この部屋に……来て、って言った……よ?」

オウ、直球……。

無神経なのは全然治らないのね。

「――ええ……ええ負けましたわよ!これで何もかも終わりですわよっ!」

そんなシュヴィの態度にカチンときたのか、ステファニーは急に立ち上がり叫びだす。

 

――そうか、終わりね。

「ほー。いったい何が終わりなのか、聞きたいものだね」

「えっ!?」

今まで軟化に、円滑に話を進めてきた俺が、急に挑発的な口調になったことで、ステファニーは困惑の声を上げた。

 

「それは、まさか自分の王としての悠々自適な暮らしとかか?」

「……」

シュヴィは俺が挑発を始めると、彼女のすべてを見極めるかのごとく、普段は抑えている機剴種(エクスマキナ)の力を使って観察している。

「違いますわっ!(わたくし)はそんなことのために戦ったんじゃはありませんわ!」

なお感情的に、激しく否定するステファニーに、シュヴィは嘘はないという判断を下し、俺にアイコンタクトで伝えてきた。

 

「まあ、口では何とでもいえるからな。先の愚王みたく勝ち目のない国取りギャンブルでもしたかったんだろうな」

しかし、俺はなおも挑発を続け、ステファニーにさらに切り込んでいく。

「っ…………撤回……しなさい」

――来た、ここだ。

 

それはまるで釣りでウキが沈んだかのようにわかりやすい変わりようだった。

そして俺は、慎重にどの言葉にあたったのかを吟味するように、続けた。

「撤回?何をだ?愚王か?勝ち目のない国取りギャンブルのことか?」

(わたくし)はともかく――御爺様まで愚弄するのはゆるしませんわっ!」

どうやら無事獲物は釣れたらしい。

 

「おいおいおいおい。まさか、あの正気とは思えない、他種族相手に人類が国を賭けったっていう、あの愚王の、いったいどこに弁解の余地があるっていうんだよ」

これからはその獲物の群れから一番を探り当てる。

 

「違いますわっ!確かに御爺様は勝てないと分かっていたかもしれない国取りギャンブルの勝負をし、負けましたわ。それでも、それ以前から人類種(イマニティ)はとっくに負け込んで、ジリ貧だったんですの!だから!御爺様は愚王と罵られても、それでも国を救おうとした、偉大なお方ですわ!」

感情的になり、支離滅裂な部分があるものの、それでもこの言葉がステファニーの本心であると、俺はシュヴィに聞くまでもなく分かった。

どうやら釣りの結果は群れ全てということらしい。

こりゃあ、さばくのが大変かもな。

 

そうおどけていたが、気を引き締めた俺はシュヴィに目を向け、アイコンタクトで覚悟を告げた。

――今まで通り、俺の好きなようにやっていいか?

と。

それを、理解したシュヴィは俺の想像通りに小さく、しかし力強くうなづいた。

 

 

「よーし、わかった。じゃ、ゲームをしよう」

「……え、あ、はぁ?」

いきなりの宣言に戸惑い理解が追い付いてないであろう彼女をおき、さらに続ける。

「なに、難しく考えることはない。一般的なジャンケンだ」

「ジャンケン――?それでいいんですの?」

「ああ、ただし普通のジャンケンじゃあない――いいか?お前は後出しをしてもいい」

 

「――は?」

「普通にジャンケンポンと言って手を出すんだ、だが俺が出した時に、お前は別には手を出さなくていいってことだ。その後、俺の手を見て出すことができる。なっ、簡単だろ?」

「そんなの、私が勝つに決まってるじゃないですの!」

「ああ、別にそれでいいんだ。このゲームはお前が勝ちを選ぶかっていうゲームなんだからさ」

 

そうして、少し変わったルール説明を終え、彼女は本題を聞いてくる。

「じゃあ、賭けるものは、なんですの?」

 

「お前が勝ったら、その願いをかなえてやる。お前の爺さんがやった、すべての政策に意味があったのだと証明してやる」

「はぁ?そんなのどうやってやるんですの!?盟約は確かに絶対ですけど、原理的に不可能なことはできませんわ!」

「ほお。それを証明しようとしていたお前が、そのお前自身がそんなことは原理的に不可能と決めつけるのか?」

「っく!じゃあ、いったいどうやって証明するっていうんですの!?」

「俺達なら証明できる。それだけだ」

その言葉に彼女は絶句した。

「あ、あきれてものも言えませんわ。そんなの、信じられませんわ!」

「まあ、そこまで先の王がやったことに意味を証明することができないと思ってるんなら、別に何でもいいよ。じゃあ、お前の要求をなんでも聞いてやろう」

「ば、馬鹿にしてるんですの!?いいですわ。ええ、私が勝ったら、証明してみしてもらいますわ」

「じゃあ次、俺らの要求だが、まあそうだな、ひとつ言うことを聞いてもらう。それでいいか?」

「ええ、何でもいいですわ。この勝負私の勝ちですもの!」

そう言って、未だこの勝負の本当の意味を分かっていない、彼女に俺は宣言する。

「『盟約に誓って(アッシェンテ)』っと」

「ええ、『盟約に誓って(アッシェンテ)』」

「んじゃ、はい、ポン」

彼女が宣言したのを聞いて俺はすぐに指を全て握っている状態、所謂グーをだした。

 

「――なっ!?本当にやったんですのね!」

そう言うと、彼女はすぐさまパーを出そうとしたが、しかし、振り上げたその手が止まった。

そして、何かに気が付いた反応をしてから、こちらを睨みつけてくる。

 

――そう、このゲームは聡い子には、すぐに手は出せないのだ。

 

テトから聞いた『十の盟約』の強制力には、たしかに原理的に不可能なことはできないとされている。

それは例えば、俺が女になるだとか、空を飛ぶだとか。

しかしそれでも、それを賭けて、盟約によって履行されると強制力が働く。

考えたくもないが、もしそうすると、俺はきっとち○こを切り落としたり、崖から飛び降りたりするのだろう。

 

ではここで、今回の賭けである、『前王が為した政策に意味があったことを証明する』という、賭けたものとしては不確かなものには、いったいどんな強制力が加わるのか。

 

それを聡い彼女は『思いつく限りの理由を挙げる』という一つの答えに、きっと辿り着いたことだろう。

そんな強制力が働き、納得できるような理由がもし挙がれば、無事このゲームの盟約は履行される。

 

しかし彼女は、さらに聡いのであろうステファニーは、さらにあることにも至ったのだろう。

 

――そんな強制力が働いたとしても、もし何も言わなかったら、何も語らなかったら、それはつまり。本当にただの無意味な政策だったと、認めてしまうことになってしまう。

――盟約による強制力をしてなお、弁護をひねり出すことができない政策と。

 

そのことに気が付いたから、こうして手を出すことができず、こちらを涙目でキッと睨みつけ、そしてそんなことしか自分はできず、手を出すという、すべての指を開いてただ出す、そんなことすらできない自分に泣いているのだろう。

 

――さあ、ステファニー。お前はいったいどんな答えを出すんだ。

なんて、計三八の童貞が、姪に向かって意地悪な問いをかける、そんなことをしているように感じ、決して顔に出さないが心の中で小さく笑った。

 

 

そして、彼女はクッと目を大きくつむり、覚悟を決めたように大きく瞳を開いて宣言した。

「あまり(わたくし)を舐めないことですわ!さぁ、覚悟なさい!ジャン!ケン!――

――ポン!

そう強くいって、彼女はパーを出した。

――そうか、パーを出せたか。

 

「ひ、卑怯ですわよ!反則ですわ!――」

そして、場を見てすぐに、涙をためた目でそう言ってきた。

「――後出しして、パーに変えましたわね!」

 

「おいおい、何を言う。俺はちゃんっとルールを守っただろうが」

「はぁ?リクは最初、グーを出しましたわ!それを今!パーに変えたんですの!」

「何言ってんだよ。あれはただ手を握って突き出しただけだぞ?」

「なっ!そんな言い訳が通じるわけありませんわ!断固抗議ですわ!」

「ふむ。では、シュヴィよ。このゲームのルールをもう一度説明してやってくれ」

そう言って、長らく放置していたシュヴィに話を振ると、待ってましたと言わんばかりに、即座に説明した。

「……ジャンケンポンと、宣言して……手を出す、普通のもの。……それに、付随して……ステファニーには、後出ししていい、という……選択権が、ある」

「そう言うことだ」

「だから!どういうことですの!納得いきませんわ!」

「頭の固い奴だなぁ。シュヴィ、俺がやったことを再現してくれ」

そう言ってまたシュヴィに頼む。

 

「……ん。……『んじゃ、はい、ポン』」

とまるで俺の声と聞き間違えるほどにそっくりな声質で、同じようにグーの手を出した。

「――な!ま、まさか、ジャンケンポンなんて言っていないなんて言うつもりですの!」

流石に今度は気がついたらしく、ステファニーはこのゲームの種を言い当てた。

 

「ああ、その通りだ。俺はただ手を握って突き出しただけだからな」

「ひ、卑怯ですわ。そんなの…」

そう言って、かつてない覚悟してパーを出したからか、あまりの結果に拍子抜けして、すべての力が抜けたかのように膝から崩れ落ちた。

 

「んー引き分けだし、両方の願いが成立でいいか?」

そう何気ない、たわい話のように言うと、気の抜けた彼女は

「ええ、もう何でもいいですわ。」

と、先ほどの俺の要求のときの返答と同じ言葉で、しかし熱のこもり方がまるで違う様子で答えた。

 

――いよっし!これで、第一のステージはクリアっと。

そう思いながら裏の手でスマホをいじり、タスクスケジューラを開き、チェックを打つ。

 

姪っ子を救う、という。

 

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