ノーゲーム・ノーリライフ   作:ライム酒

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用烽~y=~

――カポーン、っと

実際何の音かは知らんが、どことなく大浴場に入ってるという実感がわく魔法の言葉を言ってみた。

「……プラスチック製の、桶、が……床に、置かれたときの、音……って言われてる、よ?」

「そういう、あだ名が『なんとかぺディア』みたいになる発言は、負けヒロインの特徴だぞ。今後しないように」

「……ん。気を付ける」

 

現在、俺とシュヴィはステフ邸にある、さすが王家と誇りを持って言えるほどの大浴場に入っていた。

「しっかし湯につかるのは、何日ぶりだろうな」

ニートの空時代では毎日がゲーム漬けで、体をタオルでこする程度の日も何度もあった。

「……リク、全然入って……くれなかった」

シュヴィは毎日入ってたがその都度、一緒に入ろと誘ってきた。

ていうか、俺が入っているときにも構わず入ってくるから、俺が風呂に入らないんだった。

 

大戦時も、同じくらいの身長だったが、困窮しており、機械の体であったし、そして何より嫁であったので、諦めたら抵抗心は少なくなったが、今回は生身であるし、何より妹だ。

さすがにハプニング以外はすべて断っていた。

 

「お前、いったいいくつ先読みしてその体にしたんだよ。かなわねえなぁ」

だが、妹の体を創り変え、機凱種(エクスマキナ)の体となった今のシュヴィに、妹だからダメという倫理観はむしろシュヴィに対しての冒涜だろう。

「……これ……さっき、気が付いた」

どうやら、あのモーター音はこの思考のためだったらしい。

果たしてシュヴィのモーターを回す音が聞こえてくるほどのためには、いくらぐらいの情報が必要なのか想像もできんが、俺の考えられうるすべての思考を一瞬で解いたのだろう。

 

「そういや、チェスあるか?久しぶりにどうだ?」

シュヴィはもう体を洗い、湯船につかっており、俺はまだ頭を洗っているわけだが、少しでも今後の展開を俺のものにするためにも、先手を打っておく。

「……ごめん、なさい……もってない。いま……取りに、行く」

そして、ザバッっと、おそらく湯船からシュヴィが立ち上がった音が聞こえた。

 

「最初に会った時にやった、あれはできないのか?周りに気づかれない程度の大きさで」

さすがに申し訳ないので、思いついた代案を提示してみると。

「……できる。わかった……【典開(レーゼン)】――遊戯001『チェス』――……あ、れ?」

どういうことだろうか。一切空間が変化した様子がない。

するとシュヴィはすぐに原因究明をし始めた。

「……再検討、状況整理…………終了、解答候補、列挙…完了。採点…終了。結論……精霊種(エレメンタル)が、使えない、ため」

今度はエラーを出さずに結論が出せたようだ。

 

「なるほど。『十六種族(イクシード)』の中に【精霊種(エレメンタル)】の名前があったからか。ということは、今の世界じゃ無用の長物である他の兵器どもも使えないってことか。あれ?それとお前今、どうやって動いてんだ?確か精霊から動力とってたよな?」

「……精霊種(エレメンタル)と、精霊回廊の……精霊は、違う。……と、たぶん……テトの、おかげ……疑似精霊回廊接続神経の、効率が……強化されて、る」

「そういやバージョンがどうとか言ってたな。そういうことか」

「……再設定、構築………完了……【典開(レーゼン)】――FMC(フルモデルチェンジ)――遊戯001『チェス』――」

今度は、しっかりと典開出来たらしく、ご丁寧に俺の目の前にチェス盤が浮いている。

「周りにばれることはないんだな?」

「……だいじょう、ぶ……一番いいの、つかった」

フラグ回避をしたのか微妙な線のセリフを聞き、お湯を全身にかけて泡を流し、湯船につかって風呂から出るまで対局を続けた。

 

 

さて、何勝何敗だったかはさておき、戦略的勝利を得た俺は、シュヴィと風呂から出て脱衣所に戻ると早速問題が起きた。

それもおそらく人生最大級のピンチだろう。

――俺達の服が、洗濯に出されている。

 

落ち着け、どうする。

ここから服をとったやつは、きっと使用人だろう。

そして別に悪意があってしたわけでなく、そこに服があったからという仕事の流れで、だと思う。

おそらく、替えの服を持ってくるのだろうが、それではまずい。

シュヴィの体は擁護のしようがなく、人類には決して見えない機械仕掛けだ。

服を貰うときにシュヴィを隠せば問題ないが、フードがなけりゃ即ばれる。

どうやって、フード付きを頼むか…。

 

「リク~?シュヴィさ~ん?もうでましたの~?使用人さんが間違えて、あなた方の服を洗いに出してしまいましたわ。だから、代わりの服を持ってきましたの」

どうするか考えていると、脱衣所の出入り口のドアの向こうから、ステフの声が聞こえてきた。

――ラッキー、ついてるぞ。

「すまんな、ステフ。いま出たところだ。それとシュヴィはかなりの人見知りだから、深いフード付きのをくれないか?」

かなり大きな声で、ドアのほうを向いてそう叫ぶ。

 

「えっ!そうだったんですの?…それにしては、初対面の(わたくし)に向かってかなり乱暴な言い方だったような…、わかりましたわ!とりあえずリクの分はここに置いておきますわね!」

それから、パタパタパタという走り去る音が聞こえなくなるまで待ち、ドアを開け、小さな棚の上に畳まれた燕尾服を見つける。

仕方がないかと思い、子供のころ以来の礼服を着ることになった。

 

その後シュヴィは、フードつきの服がなかったらしく、ひらひらのドレスの上にフードがついた大きめの上質なローブを着込むことになった。

 

 

 

睡眠、飯、風呂を済ませた俺たちが次に目指している場所は。

「ここが、(わたくし)の書斎ですわ。一応人類種(イマニティ)の手に入るすべての歴史書を集めてるつもりですわ」

一刻も早い、情報収集だ。

 

「とりあえずステフは、前王の時代の本を集めて持ってきてくれるか?後、森精種(エルフ)系列のも」

「了解ですわ。でもリク達、異世界人ですのよね?文字、読めるんですの?」

ステフがそう聞いてきたが、曖昧に「大丈夫だから、早くしてくれ」と言って急かした。

 

「っと。こっちが御爺様のときの本ですわ。で、んっよいしょ。こっちがエルフ関係のですの」

そう言って、ステフはテーブルの上に持ってきた本を二つに分けて置き、また本を探しに戻って行った。

先の食事の席で、このままだとこの国は滅びると伝えているからか、ステフはかなり積極的に動いてくれている。

「よっし、始めますか。シュヴィは森棲種(エルフ)についてを頼む。俺は先王のことを調べるからさ」

「……りょうかい。がんばる」

 

そして、二つに積みあがった本の、先王の時代について書かれた方を取り、本を開き読み始めようとすると。

「文字が変わってやがる……」

考えたら当たり前のことだった。

六〇〇〇年も経って、一切文字が変わらない可能性があるものなど、おそらく数字しかない。

ましてや言語など、数百年で変わってしまうだろう。

 

「はいっ!これが次の本ですわ。あら?やっぱり文字が読めませんでしたの?」

煽っているわけでなく、ただ心配している声質で、新たな本を持ってきたステフがそう尋ねてきた。

「すまん。幼児向けのわかりやすい奴を持ってきてくれるか?」

恥もプライドも捨て、ここは何より速度優先で行かなければならない。

「いいですけど、言葉ぐらい教えますわよ?」

「いや、効率優先でステフは本を集めてくれ。それほど言語の法則性に違いはないはずだ」

そうしてステフは少し不満顔で本を集めに戻って行った。

 

おそらく文字の形が変わったのだろう。

文法事まるっきり過去と連続性がなくなるということは、占領統治され、言語政策されない限りありえない。

未だ同じ王朝が続いていることから、この国は一度も占領されてないと予想できる。

 

「……言語、解析完了」

ステフがいなくなってすぐに、シュヴィは解き終わったようだ。

もともとチートな頭脳だったに加え、公式チートな機凱種《エクスマキナ》の頭脳も加わったのだ。

普通ならあり得ないスピードで一つの言語を解析し終えた。

「んじゃ、とりあえず続きを頼むな」

「……ん」

そう簡素なやり取りで、全幅の信頼を置くシュヴィに、わかる限りの森精種(エルフ)のことを調べてもらう。

俺も時間を無駄にしないように、シュヴィに渡された、比較的簡単な本を読み解き始める。

 

「はぁ、これが一番簡単な本だと思いますわ」

少し疲れた様子で、ステフが戻ってきた。

そう言って手渡された本は、残念ながらもう読み終えることができるほどのものだった。

「ああ、ありがとな。とりあえず、前王と森精種(エルフ)関係に戻ってくれ」

さすがにそのことは告げず、元の仕事に戻るよう促した。

「え?もういいんですの?まだ段階を踏んで次の本を探しますわよ?」

「コツをつかめば大丈夫だ。なにせ言葉が一緒だからな」

「そう言えばそうでしたわね。言葉が一緒なのに、文字が違うって不思議なものですわね」

そう、なぜか元の世界と言葉が一緒なことを用いてごまかした。

 

俺は溜まっている本を速読して消化していってるが、シュヴィはどうやら読み終わったらしく、直接本棚から本を探していた。

「シュヴィさん、ものすごく賢いんですわね」

新たな本を持ってきたステフが、そう感嘆を漏らしているが。

「シュヴィが賢いってのは否定しないが、そもそも、森精種(エルフ)の本が少なすぎやしないか?」

そう、このシュヴィの行動は、別に今までと比べて特別にすごいというわけではない。

森精種(エルフ)関係の本が全くなかったのだ。

ここにないってことは、おそらくこの国にはもうほとんどないのだろう。

――一体人類種(イマニティ)どもは何をしていたんだ……

そう呆れてものも言えなくなっている、と。

「仕方ありませんわ。なにせ(わたくし)達、人類種(イマニティ)は魔法が見えないんですもの」

 

「――へぇ。なるほどな」

うすうす感じていたものを、はっきりと告げられ、俺は失望を隠せないでいた。

人間は魔法を使えないし、使われたことすら気づけない。

一方的に、見破れないイカサマを使われては、勝ち目はあるまい。

 

――とでも思ってるなら、そりゃ負けるだろうよ。

どこまで平和ボケをしているのか。

『十の盟約』によって守られてから、人類は自身を守るすべを自ら放棄したらしい。

そして、自分は弱いから、脆弱だからと言い訳して、何も努力せず、現状に不満を漏らす。

ただの畜生になってやがる。

 

「……リク」

この世界に来て、もう何度目かの思考の闇にとらわれ、そして毎回救い出されている。

「あぁ、大丈夫だ。心配かけたな」

「……大丈夫なら、何度も、大丈夫、なんて……言わな、い」

心配した目でこちらを見てくるシュヴィに、それでも俺は笑ってごまかす。

――やり遂げてやる。人類が弱くなったらまた強くしてやればいい。

そう、心をまた強くし、シュヴィに対して今度は力強くうなづいた。

 

「?」

その光景を見ていたステフは、何も理解できなかったように疑問符を頭に浮かべていた。

 

 

 

そして、決戦の夕刻。

エルキア王城前の大広場で行われる、クラミー・チェルの戴冠前、最後の時。

 

そこでステフを連れた俺は堂々と宣言した。

「異議あり!」

と。

 

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