ノーゲーム・ノーリライフ   作:ライム酒

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今回、一部原作ではなくアニメ設定を使わせてもらっています。
あと、似非科学とオリジナル武装が登場するので苦手な方はブラウザバックしましょう。

前回の終わりのすこし前から、スタートです。


解答者~アンサー~

あらかたの本を読みつくし、シュヴィと情報交換も終えた。

 

「どうするんですの?ほかの本も探してきますわよ?」

「いや、これ以上は状況の向上に望めんだろう。たしか最後の試合は王城前の大広間でやってるんだよな?」

「ええ、そうですわね。でもどうやって勝つんですの?相手はあの『十六種族』の位階序列第七位の【森精種(エルフ)】ですわよ。ただでさえ、【人類種(イマニティ)】は魔法が見えないのに、相手はどの種族よりも魔法の扱いに長けている最強の敵ですわ」

 

そんなものは知っている。

おそらく位階序列十位の【機凱種(エクスマキナ)】の体になった、今のシュヴィにも探知できない魔法が使えることだろう。

――相手が因縁つけられたニルヴァレン家でないことを祈るばかりだ。

……期せずして、いやなフラグを立ててしまった気がする。

 

だが。

「そうだな。確かに意味の分からん魔法なんて使われたら、俺達は為すすべなく敗北するだろうさ」

「でしたらっ!――」

「だったら、魔法なんて関係ないゲームに変えてやればいいのさ」

「へ?」

そう言って、呆けた顔のステフを置き、シュヴィと手をつなぎ一緒に大広間に向けて歩き出す。

 

「シュヴィ、【森精種(エルフ)】に気付かれることなく、姿を消すことはできるか?」

そう、シュヴィにしか聞こえない音量で話しかける。

「…………可能。ただし……準備が、いる。すこし……待って」

いつもよりは少し遅い返答で、信頼できる答えを返した。

「……太陽からの『重力波』……原理――解析……完了」

そして次の言葉にとんでもないことを混ぜてきた。

「お、お前、太陽から重力波なんて解析できるのかよ!?」

驚いてしまい、周りには聞こえない程度だが大きな声を出してしまった。

「……微小、でも……惑星に、振り回される……その時に、発生、する」

「ほんと何でもありだな」

「……シュヴィ、『解析体(プリューファ)』……だから」

どうやら、解析体以外はさすがにできないらしい。

 

「それで、重力波を使ってどうするんだ?光を屈折させるのか?」

「……そう。シュヴィの周り、だけ……干渉、共鳴させて……空間を、捻じ曲げる。」

「そうすりゃ、シュヴィに光が届かず、映らないってことか。でもお前はどうなるんだ?光が届かないってことは、お前自身も見えないんだろ?」

「……『一方通行(ウィン・ヴィーク)』、で……隔離された、シュヴィの空間に……穴をあけて、森精種(エルフ)の……探知不可能位置から、観察する」

 

……。

――せこくね?

と思ってしまった。

確かに俺が聞いたことだが、こいつほんと何でもありだと改めて思った。

 

「向こうの方も、酒場でお前がステフに接触したらしいから、機凱種(エクスマキナ)の存在にはもう気が付いていると、考えたてたほうがいい」

と状況整理していると。

「……ごめん、なさ、い」

自分のおそらく嬉々としてやった行動を指摘され、かなり落ち込んでしまった。

「いや別にいいよ。テトが言うには機凱種(エクスマキナ)は大戦後、ほとんど姿を見していないって言ってたからな。さすがの森精種(エルフ)もよくわからん相手に、安易に魔法は使ってこないだろ」

それに機凱種(エクスマキナ)は大戦中では、すべての種族から触れるのすら禁忌とされていたのだ。

全くと言っていいほど、情報など皆無だろう。

まさにブラフにするにはうってつけの存在だ。

 

 

「んじゃ、試しにやってみてくれ」

そう言って、ステフからもかなり離れ、近くには人っ子一人いない路地裏で提案する。

「……『典開(レーゼン)』――『空間歪曲(ラウム・ブリューチェ)』」

そう典開したとたん、シュヴィは消え、すさまじい風が周りで起こり、消えたシュヴィの位置で渦巻いた。

それも時間がたつと収まり、特に重力レンズが起こっていないことも確認すると、かなり指向性の強い、耳というか脳に直接届くような声が聞こえてきた。

『……どう?』

と。

おそらくぶち開けた空間の穴から、こちらに向かって声を届けているんだろう。

「俺はどうすりゃいいんだ?こっちの声は聞こえるのか?」

そう言うと、少し時間が遅れてから

『……大丈夫。声は……聞こえ、ないけど……口は、見える』

どうやら読唇術を使っているらしい。

届いた声の遅れから、どれくらい離れているか予想できるかな?と考えたが、またトンデモ道具を使っていたら意味がないと思いいたり、やめた。

『……歪曲した、空間に……接触すると、危ないから……飛んどく、ね?』

特に周りに変化はなかったが、そんな声が脳に響いた。

 

シュヴィの周りは空間の特異点、つまりブラックホールが出来上がっている。

はたしてどう危ないかは、恐ろしいので決して聞かないことにする。

シュヴィは害意を持って典開したわけではないので、『十の盟約』に守られるか微妙なラインの、殺傷兵器が誕生した気がした。

 

 

表通りに戻ると、ステフが周りをきょろきょろとして、俺らを探しているのが見えた。

「ステフ―。こっちだー」

と少し大きな声で言ってやると、聞こえたのかこちらをバッと向き、一瞬嬉しそうにして、しかしすぐに怒った顔で近づいてきた。

「もう。いったいどこに行っていたのですのっ!心配して探し回っていましたわっ!あら?シュヴィさんはご一緒じゃありませんの?」

「シュヴィは森精種(エルフ)対策で別行動をとってる。まあ、お前よりしっかりしてるから大丈夫だ」

「なっ!一人で勝手に言ってしまうような方に、言われたくありませんわ!」

いつも通りにちょろくステフをごまかして、俺たちは大広間に向かった。

 

 

 

太陽が頂点から傾き始めるころ、エルキア王城前の大広場に着いた俺達は、未だ続くクラミー・ツェルのポーカーゲームを眺めていた。

シュヴィには森精種(エルフ)を探しといてくれと頼んだが、すぐに見つかった。

なんで人類はフードを深くかぶってるだけで、他種族って気が付かないのかね。

そんな、シュヴィの普段と同じような恰好で、普通に会場に紛れ込んでいた。

 

相変わらず、札すり替えという、えげつない真似で勝利を収めているクラミー・ツェル。

酒場で見たときと同じ格好で、黒いベールに黒い服、どう見ても喪服のような格好でゲームに挑んでいる。

――人類種(イマニティ)の葬式って、森精種(エルフ)さまは言いたいのかね?

と、わざわざ人類種(イマニティ)のクラミー・ツェルに着せた、相手の挑発かとも受け取れる格好だ。

 

 

日も傾いてきて、そろそろこのギャンブル大会の終わりが近づいてきたからか、広場は人でひしめき始めてきた。

そしてどうやら次でラスト、決勝戦らしい。

 

これも消化試合のはずなのに、一切気を抜いていない様子の彼女を見るに、やはり機凱種(エクスマキナ)の存在が知られているのかもしれない。

もしくは元来のまじめな性格か、だが。

 

 

『――勝者、クラミー・ツェル』

そう大きく宣言され、集まった観客からは鼓膜を割らんばかりの大きな歓声が上がった。

クラミー・ツェルは、大きく息を吐き、少し疲れた表情を見せた。

 

「――さて、この者――クラミー・ツェルが選定の戦いを、最後まで勝ち抜いたわけであるが……彼女に挑む者は、もうおらぬか?」

と、勝者宣言をした高官が、最後の宣言をする。

 

しかし広場はざわつくだけで、挑もうとする者はいないようだった。

 

「――では、前国王の遺言に従いクラミー・チェル様を――エルキア新国王として戴冠させる。異議をあるものは申し立てよ、さもなくば沈黙をもって之を――」

 

「異議あり!」

 

そう強く、はっきりと宣言して、この場を俺のものへとする。

 

「異議あり。ありありで~す」

そして、次の言葉は少し腑抜けた声で言い、場を落ち着かせる。

 

「っち」

舞台の上で、小さく舌打ちをしたクラミー・ツェルが。

「ステファニー・ドーラの従者かしら?自分が負けたからって、使用人を送りこんで来たの?まったく、未練がましい上に見苦しいこと……」

と続け様に、軽蔑した顔で文句を言ってきた。

 

「おいおいおいおい、それ君が言っちゃうの?森精種(エルフ)さまの力を借りてまでその地位を欲した、君がさぁ?」

しかし俺は、そうヘラヘラと笑いながら、歩み寄って言う。

 

広場に集まったやつらは、森精種(エルフ)という言葉を聞き、ざわつき始める。

そして軽蔑から、屈辱の顔に変わったクラミー・ツェルに、さらに追い打ちをかける。

「そこのフードをかぶったやつ。ちょっとそのフード、取っ手やくれないか?」

遂に舞台に上がり、彼女の目の前まで来た俺は、急に反転し、ある一角に向け指をさし、そう言った。

 

ざわついた会場は、一斉に静まり、指の刺された方向に視線が集まった。

そして、クラミー・ツェルと、フードをかぶった女性が、同時に顔をわずかに引き攣らせた。

 

「――何のことかしら?」

尚もとぼける彼女に俺は。

「あ、そ。なら誰か、そこのやつのフード、取ってくれる?」

フードをかぶった女性は一歩下がったが、周りにいたやつに敢え無くフードを剥がされる。

そして現れた、尖ったまさにエルフ耳に、周りは一気に騒然と混乱が湧き出した。

 

振り返り、再びクラミー・ツェルに向き直ると、彼女は鬼のような形相で睨みつけていたのを一瞬で戻し、またいつものそっけない顔へと変わった。

――お前が言うな、とでも思っているのだろうな。

しかしこちらの協力者は魔法でなく物理的に姿を消している。

姿を発見されなければ、相手はこちらに他種族の間者などと指摘することはできない。

 

「なるほど。適当な森精種(エルフ)と結託して、私を追い詰める作戦ね」

「ふ~ん。悪くない言い訳を思いつくね」

想像した以上の返しに、思わず感心してしまう。

 

「とっとと、出て言ったら?森精種(エルフ)の協力者さん」

そう感心していると、先を越され先手を打たれてしまった。

俺は小さくシュヴィに後を追うよう指示し、気を引き締め直して彼女と向き合う。

シュヴィは俺から極力離れるのを嫌がっていたが、今回はあの森精種(エルフ)の背後も調べなければならないため、最初にシュヴィに頼んでいた。

 

「じゃあ、勝負内容は挑まれた私が――イカサマの介入する余地などない、実力を証明するのに最適なゲームで勝負しましょう」

 

そう言って、クラミー・ツェルはゲームを取りに行くと言って自宅へ帰り、決戦は明日、この場はお開きとなった。

 

 

 

ステフ邸に戻り、「どういうことですのー!」、「どういうことですのー!」とうるさいステフを交わしながら、俺はドアに鍵をかけ、窓を開けた部屋でじっと待っていた。

 

「……ただい、ま」

典開したときに起きた突風は全く起きず、静かにシュヴィは現れた。

 

「……ゲーム、わかった……チェス。でも……魔法、込めてた……ただのチェスじゃ、ない」

そう言いながら、俺の近くまで歩いてきてギュッと手を握った。

俺も手を握り返してやり、あえてそのことには触れず会話を続ける。

「さすがに自身へ干渉する魔法じゃない限り、どんな魔法が使われたかは、わからないか」

「……そう。機凱種(エクスマキナ)は……魔法、得意じゃ……ない。再現する……だけ」

――それでも十分すごいよ。

と思うが、あまり能力を皮肉交じりに褒めると、シュヴィは悲しむのでそう告げず、話題を切り替えた。

「まっ、大丈夫だろう。これはあくまで人類種(イマニティ)同士の戦いなんだ、そんなトンデモ装置はできんよ」

『十の盟約』はあくまで賭けたものが何でもありのものだ。

ゲーム内容までは含まれていない。

故にゲームは人類種(イマニティ)レベルのものしか選べれないのだ。

 

「……この世界。前の世界の……唯一の、不変の法則……成り立たな、い?」

そう、独り言のようにシュヴィは何かを呟いていた。

 

「ちょっとー、聞こえてますのー?リクー?夕ご飯の支度もできましたわよー?」

ドアをドンドンと叩き、ドア越しでも聞こえるように大きな声でこちらに問いかけているステフに、俺はドアを開け、答える。

「ステフ、あんまドアを叩くな。行儀が悪いぞ。それと、食後に大事な話をする。誰にも告げず、俺の部屋に来い」

そう言って、俺とシュヴィは手をつないだまま食堂に向かった。

「な!?それは、リクが返事を、えぇえええええ!?大事な話ですのっ!?」

なにやら後ろで叫んでいたが無視した。

 

夕食は昼食と違い、フルコースみたいに一品づつ出てきた。

コーヒーは前の世界のインスタントのほうが、まだうまいレベルにすこし酷かった。

食事中、ちっらちっらと、うざったらしくこちらを見てくるステフと、それに反応して不機嫌そうにこちらを見てくるシュヴィがいたからかもしれんが。

 

食事を終え、ひと段落もしてから、席を立つと。

「そ、それで。(わたくし)はいつ伺えばいいんですの?」

と、やけに緊張してステフは尋ねて来た。

「誰にも見られない時で、よろしく頼む」

とだけ答え、俺は部屋に戻った。

「だっ、誰にも見られないで!?」

と、テンパりまくり、周りが何も見えない感じのステフを置いて。

「……」

シュヴィは相変わらず何も言わないで、後をついてきた。

しかし視線だけは冷たかった気がした。

 

 

太陽も遠に静まり、夜の闇の中。

服も寝間着に着替え、いつでも寝る準備をしながら、俺は未だ寝ていない。

 

俺は椅子に座り、一向に来ないステフにいらだっていた。

――いや、たしかに。誰にも見られないでとは言ったが、いつまで待たせりゃ気が済むんだよ。

シュヴィは片手に書斎から持ち込んだ本と反対の手で一人チェスをして、時間をつぶしていた。

 

もういっそシュヴィと、いまだ勝ち星を一度も挙げられていないチェスでもしようか悩んでいた時――

――コン、コンコン

 

と、やっと鳴ったドアに対し、俺はうっぷん晴らしに無視をした。

 

「あの、いないんですの?」

すると、そう、昨日聞いたような懐疑の声を、ドアの向こうのやつは挙げた。

「いやいるよ。何か用かな?」

となればと、相手と同じ様に乗ってやることにした。

すると、向こうも昨日と同じように叫んできた。

「はぁ!?用ならそっちがあるんじゃないんですの!?」

と。

なかなかの演技力だなぁと、感心していると。

「……リク。違うと……思う」

本から目を話し、シュヴィはこちらを向いてそう告げてきた。

 

「なっ!?シュヴィさんもいるんですの?」

シュヴィの忠告に気づき、ドアを開け、ステフを中に入れてやると、かしこまった様子で入ってきたと思ったら、シュヴィを見て、そう突っ込んできた。

「は?当たり前だろ。何言ってんだ?」

食事中からバカみたいに冷静さを欠いているステフは、遂にシュヴィの存在すら否定してきた。

「……」

しかしシュヴィは、何も言わないで、そのまま本に向き合い、また一人チェスをし始めた。

「…い、妹同伴だなんて…なんて豪胆な人ですの……」

俺に対してかシュヴィに対してか、わからん言葉をステフは吐き、緊張していた。

「……ステフ。あわれ、な……子」

そう、シュヴィは独り言のように、俺しか聞こえない程度の大きさで、呟いた。

 

「誰にも言ってきてないんだな?」

いい加減話を始めたい俺は、そうまじめな口調で告げた。

「っ!ええ。もちろんですわ。その、ちゃんとお風呂にも、入ってきましたの」

やけに遅かったのは、どうやら風呂に入ってたかららしい。

「あぁ、そうかい。んじゃ、大事な話をするぞ。覚悟はいいか?」

「ちょ、ちょっと待ってほしいですわ」

いきなり出ばなをくじかれ、すはーすはーと、深呼吸しているステフに俺はいら立ちをさらに募らせる。

「だ、もう大丈夫ですわ。いつでもばっち来いですの」

「良いんだな?これを聞いたらもう裏切ることは許さないぞ?」

「え?ええ。決して裏切りませんわ!」

一瞬(ほう)けたが、すぐに戻り力強く返事をする。

――ほんとに、言って大丈夫か?

と、少し思ったが、今後の展開を予想しても、ここで言わなければ後手に回りそうなので決行した。

「よし。実はな、シュヴィは人類種(イマニティ)じゃないんだ」

「はいっ!……はいぃ?」

やっぱ失敗だったかと思うほどに、こいつはアホみたいな顔をした。

「シュヴィ、ちょっとこっち来てくれ」

そう言って、シュヴィを手招きをして、俺の隣に立たせた。

「……」

なにやら、とてもかわいそうな目でステフを見るシュヴィと、何一つ理解できていなさそうな顔のステフを前に。

「シュヴィ、そのフードをとって、ステフに説明してやってくれ」

と告げた。

そしてシュヴィはフードを取り、髪飾りのように付いた機甲部分を見せ。

「……ステフ、勘違い……してる。大事な話……シュヴィの、こと」

と自身のことでなく、訳の分からん説明を続けた。

「はぇ?」

(ほう)けていたが、どうやらようやく、現実に戻ってきたのか、ステフはシュヴィを見て、わなわなと震えだした。

「不安になるのもわかる。だが安心しろ。シュヴィは人類種(イマニティ)の味方だ」

と安心させるように、優しく言ってやる。

「つ、つまり、ですわ。大事な話とは、私のではなく、シュヴィのこと、と?」

始めてシュヴィを呼び捨てにしたステフに、シュヴィは大きくうなづいた。

「あ、あぁあああああああああ。もう嫌ですわ!死にたいですわ!穴に埋まりたいですわぁあああ!」

「おい!?声!声がでけえよ!」

急に叫んだステフに、俺は慌てて口をふさがせる。

「んん。んんんんんん――」

そう、声にならない声で叫び、遂には泣き始めた。

「お、おい。どうしたんだ?」

さすがに泣かれるとは思わなかったので、少し慌てて手を放し、落ち着かせようとする。

「――いえ、分かりましたわ。(わたくし)も、シュヴィさんは信用してますので、誰にも言いませんわ……」

すると一転、急に落ち着きを取り戻したかと思ったら、今度は無感情にそう言って、部屋から黙って出て行った。

 

「……大丈夫か?」

「……ん。リクに、わからな、くて……シュヴィに、わかる、心……あるんだ、ね」

と残された俺達はそう呟いた。

 

その後、俺はシュヴィとナニかをしたはずだが、どうにも忘れてしまった。

 

 

翌朝、ステフ邸の前には一つの馬車が止まってあった。

 

「準備ができたわ。これで会場に向かうから、乗ってもらえるかしら?」

と、門の前でクラミー・ツェルが、直々に迎えにやってきた。

シュヴィは馬車がやってきたことに気が付いた瞬間、消えてもらっているので、気づかれていないだろう。

 

 

「――単刀直入に聞くわ。【機凱種(エクスマキナ)】は、何が目的?」

馬車に乗って会場に向かっていると、思わず笑ってしまうほどのド直球の質問に、俺はあえて(とぼ)ける。

「【機凱種(エクスマキナ)】ぁ?何のことですか~?」

「ステファニー・ドーラ。あなたはこいつが機凱種(エクスマキナ)の間者って知っているの?」

「違いますわ。間者ではなく協力者でしてよ」

「そう。だまされてるのね。哀れなことだわ」

こちらを切り崩せないとわかると、すぐに諦めて。

「――この国は渡さないわ」

そう宣言してきた。

 

「あぁ、そうだろうな。なにせ【森精種(エルフ)】様に渡すんだもんな」

「……違う」

挑発をした俺だが、どうやら乗ってくれそうになく、ただ淡々とクラミー・ツェルは答える。

「誰にも渡さない。森精種(エルフ)にも、機凱種(エクスマキナ)にも。人類種(わたしたち)の国は、人類種(わたしたち)のものよ」

「――ふーん?」

意外な答えに、俺は少し戸惑いを覚えた。

森精種(エルフ)の力を借りるのは、人類の生存圏の確保のため。最低限必要な領土を確保したら――森精種(エルフ)とは手を切るわ。その後、私たちは全てのゲームを断り、外交を一切閉ざす。人類種(イマニティ)が今後生き残るには、これしかないわ」

――……。

うまい相手かと思っていたが、どうやらそこまで駆け引きが得意ではないらしい。

そのおかげで、こちらとしては有益な情報が入ったが。

「……ふぅむ、なるほど……悪くない計略だ」

「でしょう?なら勝負を降りて――」

俺が関心を見せると、クラミー・ツェルはすぐに乗っかり、そう言ってきたが、俺は被せて宣言する。

「だが断る」

「この岸〇露伴が最も好きなことのひとつは、自分が絶対的有利にあると思っているやつに『NO』と断ってやることだ…ッ」

何か天から(テト)の力によって、一部ピー音が入った気がしたが、一度は『言ってみたいセリフ・第四位』をリアルに言わせてもらった。

「岸辺?誰ですの?」

「いや別に関係ない。ただ言いたかっただけだ」

急な強気の宣言から、またいつもの真面目かふざけているのかわからない態度に戻ると、クラミー・ツェルは今のをただの挑発だったと受け取ったようで。

「――時間の無駄だったわね」

と言って、交渉を諦めたかのように、馬車に取り付けてある窓から外へ視線を変えた。

 

「いや違う。交渉の時間に、無駄なものなんてない」

「……どういう意味?」

まだ続けるのかと、そんなことが言いたげな顔で、クラミー・ツェルはあまりこちらに関心がなさそうに答える。

――ここからが本番って意味だよ。

 

「この世界、争いごとは全てゲームで解決する。『十の盟約』に書かれてあることだ」

「ええそうね。だから、これからゲームをするんじゃない」

少しは興味が出てきたようで、彼女は視線を外からこちらに改めて直した。

「ああ、そうだな。なにせ、これから次期国王を決めるチェスをするんだもんな」

そう言うと、彼女は唇をクッと噛み締め、こちらをにらみつけてきた。

「まぁそう怒るな。そこで、俺は新たなゲームを追加しようと思う」

「はっ!そんなこと誰が乗ると思ってるの?どうせそのゲームには機凱種(エクスマキナ)のイカサマがしこまれているんでしょ?」

「あぁ、なんてひどい言いがかりなんだ。チェスの駒に魔法を込めていた奴とは思えない」

そう、よろよろと倒れる演技をしながら、俺はこの交渉にチェックを入れる。

 

「なっ!あなた見て――っん、な、何のことかしら?」

ほとんどアウトなごまかしをして、彼女は視線を泳がせながら、これからどうするかと思考を巡らしているようだ。

――てんで素人だな。ブレインがないとこんなものか。

 

「大丈夫。俺の提案するゲームはそんなイカサマが何一つできない、そんなゲームだ。どうする?もちろん受けるよな?」

ほとんど脅しの、受けなければそのイカサマをバラして不戦敗にしてやるぞ、と。

――実際は、どんな魔法が仕組まれているか知らんから、なんも証明できんのだけど。

と、いつものブラフで乗り切る。

「ええ、分かったわ。……それでどんなゲームなのかしら?」

そして、もちろん彼女は受け入れた。

 

「ゲームはいたってシンプル。これからするチェスの駒に、俺たちの記憶を駒の一つ一つに賭けるんだ」

「…ん?どういうことかしら。もう少しわかりやすく教えてくれない?」

さすがにわかりにくかったのか、素直に疑問を投げかけてくる。

「あ―つまりだな、駒が取られたら、その駒に賭けていた記憶を相手は自分のものにすることが出来るってことだ。ただし、例え取られたからと言って、その記憶がなくなる訳じゃないがな。それと賭ける記憶は、深層心理における優先順位に反映し、自分から見て右側のポーンから左のポーンへ。そして右のルーク、左のルークと、ナイト、ビジョップ。最後にクイーン、キングと優先順位の低い順に割り振っていく。どの駒にどの記憶が賭けられているか、自分にもわからんってことにする」

 

「…。ゲームにゲームを上書きするってこと?そんなことできるの?」

また可愛らしく、素直に疑問を見してくる。

 

「ああ、出来るさ。なんせ唯一神のテトが教えてくれたことだからな」

「はぁ?唯一神にあんたなんかが会えるわけないじゃない!」

「そう思うならこのゲームをして俺の記憶を見ればいい。俺の過去がわかるぞ?」

そう言うと、彼女ははっと何かに気が付き、考え込んだ。

 

「……つまり、私の言ったことがほんとか確かめるため、過去の記憶を賭けるってことね」

「ああ、そうだ。イカサマの介入する余地はないだろう?」

「ええ、わかったわ。受けてやりましょう」

「んじゃ、――」

「「『盟約に誓って(アッシェンテ)』!」」

 

そうやけにあっさり宣言に応じた。

だがこれで、チェックメイトだ。




俺が再定義したトロッコ問題を覚えているだろうか。
線路の片方に家族の遠い子孫と全人類、そして反対には俺が命を奪い、そして後を任された親友の遠い子孫だったら、どちらを選ぶか、という問題だ。
では今の俺なら、いったいその問題にどんな答えを出すか。

それは――レバーを引く、だ。
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