チェスで相手に勝つ方法は、いったいいくつあるだろうか?
一つ、チェックメイト。
二つ、勝利と定義したステイルメイト。
三つ、相手の不正発覚。
そして四つ、時間制限。
さらに五つ、――
馬車が行きついた先は、エルキア郊外の断崖絶壁に建つ、教会の様な建物だった。
先にクラミー・ツェルが馬車から降り、教会の扉を開け、俺達を案内した。
「ここが、私達がゲームをする場所よ。あなた達はあっちの廊下をまっすぐ進んで、突き当りにあるドアを開ければゲーム会場に着くわ」
と言って、彼女は俺達に勧めた廊下とは反対の位置にある廊下に向かって行った。
勧められた廊下を進み、クラミー・ツェルが見えなくなったところで、ステフは俺に呟くように聞いてきた。
「リクは彼女の考えを、実際はどう思ったんですの?
それを聞いた俺は、嘆息をしてぞんざいに言い放った。
「あいつがホントにそう考えているのかは、置いておくとしても、お前さ。そんなに世界が怖いなら、洞窟にでも籠っていろって話だ。世界から逃げて、人類の繁栄はねえんだよ」
「え、えぇ。……その通りかも、知れませんわね…」
消沈した彼女は俯き、そうもらした。
おそらくステフは、どうしたらいいのかを優しく諭してほしかったのだろう。
しかしこの問題は、今後
――それが、民をまとめる長の役割故に。甘ったれた考えは許されない。
歩き続けて数分。
遂に廊下の突き当りへとたどり着いた俺は、大きなドアに手をかけた。
――ホントにやるのか、彼女に。俺が命を奪い、後を任されたイワンの子孫に。俺は、こんなひどい仕打ちをこれから彼女にするのか。
一瞬、そのような考えがよぎったが、俺はシュヴィに宣言したことを思い出し、前を向いた。
――さぁ、この世界、最初の章も大締めだ。
そう心に決め、俺はしっかりと胸を張って会場に入った。
そしてドアをくぐり、バルコニーのような場所に出た俺たちの眼下に広がった光景は、フロア丸々を使った、駒が等身大のとても大きなチェスセットだった。
「チェス……」
度肝を抜かれ、そうつぶやくと。
「そうよ。でもこれはただのチェスじゃない。駒が意思を持っているチェスよ」
と、チェスボードを挟んだ向かいに立っているクラミー・ツェルが得意げに説明した。
――おかしい。相手にイカサマが知られているゲームの説明を、ここまで強気でできるだろうか。
湧いた疑問は、すぐに回答へと至った。
――ブレインがブラフに気付き、それを彼女に教えたのか。
と。
馬車の時の交渉、あれはかなり強引なものだ。
そもそもイカサマがわかっているならば、それをゲームが始まった段階で告げて不戦勝にしてしまえばいい。
だが俺はそうはせず、交渉の材料に使った。
そのことに気付いたブレインは、『
だから。
「命じれば駒は動く。ただ、命じれば、命じたままに」
彼女は堂々とこちらを侮るように言っているのだろう。
だが一つだけ、言ってはならないのだろうが、言いたいことがある。
――このゲーム、
と。
それはそれとして。
「っと、チェスの前にもう一つ大事なゲームをしてもらう」
切り替えるようにそう言うと。
「はぁ?またなの?」
そう、クラミー・ツェルは嫌そうな顔をし苦言を言うが、俺の『まだブラフが通じていると思っているような』ニヤニヤとした顔を見て、少し鼻で笑って答える。
「いいわ。いったいどんなゲームか聞いて上げようじゃない」
「ああ、助かるよ。だがこれはお互いにとって有益なゲームだからな。決して
「へぇ、言うじゃないの。いったいどんなものか楽しみだわ」
自分が読み勝ったと信じ切っている顔をした彼女に、俺はこのゲームに勝つための最後の布石を打つ。
「ゲームはコイントス。賭けるものはお互い一緒で、『魔法、盟約、その他一切の方法での記憶改竄をもとに戻す』って言うものだよ」
俺がそう宣言すると、彼女は一瞬きょとんとして、しかしすぐに言っている意味が分かったのか、また笑みを深めて。
「なんだそんなことね。いいわ、受けましょう。あなた意外と慎重派なのね」
彼女は意外にもあっさりと受け入れた。
――俺の考えすぎだったのか?
そう思っていると。
「じゃあお先に、『
全く考える余地もなく、彼女は俺に読み勝ったと思ったのか、また得意気に宣言した。
「お、おう。『
相手をおだてるのも悪くないかと思い、俺は戸惑った振りをしながら宣言し、コイントスをした。
コインが地に着き、結果は表だった。
――ぐっ。
ゲームが終わったとたん、俺の頭の中でナニかが広がっているのを感じる。
―――「……大丈夫か?」
―――「……ん。リクに、わからな、くて……シュヴィに、わかる、心……あるんだ、ね」
―――「そんなことより、シュヴィ、少し頼みがあるんだが、俺と盟約に誓って勝負をしてくれないか?」
―――「……む。シュヴィ……盟約に、誓わなく、ても……リクの言うこと、聞く」
―――「いや、その信頼はありがたいんだが、そうじゃなくだな。対象はシュヴィじゃなく、俺の方なんだ」
―――「……どういう……こと?」
―――「俺は賭けるものとして、今この時の記憶を賭ける。少し恐ろしいから、正確に言うと『今、この瞬間から、ゲームが終わったときまで』ってことだ」
―――「……ん。それが……必要なら、わかった」
―――「じゃ、ゲームはチェス、賭けるものはどちらが勝っても、同じく先程宣言したもの。『
―――「……『
どうやら俺は、彼女が言うとおり、相当な慎重派のようだ。
こうして、本当に記憶が戻るかと、前もって準備していたのだ。
急に苦悶の表情になった俺を見て、クラミー・ツェルは怪の目を向けてきた。
――どうやら向こうはホントに記憶をいじってないようだ。
しかし俺の慎重さは、こんなものではなかった。
『……リク?』
――そして俺はチェス中に、この
俺は左手を上げて、おもむろに宣言した。
――その後、俺は利き手でない、反対の左手を上げなかった場合、記憶が戻っていないことを伝えてくれと、シュヴィにあの時から言っておいたのだった。
『……ん』
「じゃあこれから、
そう言うと、クラミー・ツェルも俺の流れに則り、右手を上げて、重ねて宣言した。
「「『
と。
「先手は譲ってあげるわ」
そう、ブラフを解いたぐらいでいい気になっている彼女に、俺は心の中で溜息を吐き。
「わざわざ先手をどうも。e2ポーン、e4へ」
そして俺は、先手有利だと言われているチェスの、一般的な初手である、キングの前のポーンを中央に進める『キングポーン・オープニング』で、ゲームを始めた。
『……d4の、方が……堅実』
どこかのチェスマスターは苦言を言ってきたが。
長い歴史を持つチェスでは、初手からの展開は研究され尽くされている。
俺みたいに、キングの前のポーンを中央に進める『キングポーン・オープニング』。
シュヴィのように、クイーンの前のポーンを中央に進める『クイーンポーン・オープニング』。
この二つは、将棋で言う『角道を開ける』と同じものだ。
クイーンとビショップの斜めの道を明け、場をより支配するための一般的な、そしてもっとも効率的な手と言われている。
前者は、クイーンとキング側のビジョップが両方とも効く、攻撃的な手。
後者は、クイーン側のビジョップのみが効き、さらに突き出たポーンもクイーンによって守られている、守備的な手だ。
どちらが優れているかの決着はついていないが、俺とシュヴィの戦績からの確率論では、圧倒的以前に
だが、次の番手のクラミー・ツェルの手は、そんなチェスの決まりきったオープニングの定石を、一切無視したものだった。
「g7ポーン、”前へ”」
そう彼女は宣言すると、キング側のナイトの前のポーンが、1つでも、2つでもなく、3つ、進んだ。
「反則ですわ!ポーンが三マスも進むなんてあり得ませんわ!」
と、こちらのブラフをぶち壊す発言をしたステフ。
「ふふ。知ってると思うけど、このゲーム、駒はプレイヤーの『カリスマ』、『指揮力』、『指導力』――つまり『王としての資質』を反映されて動くわ。ふふ、そんな悠長に構えてていいのかしら?」
そして彼女は『何も知らない』俺達を煽ってきた。
『……』
何も聞こえはしないが、シュヴィがため息をした気がした。
もちろん、ステフにではない。
このゲーム、もはやチェスではない。
チェスの前提である、『二人零和有限確定完全情報ゲーム』の完全情報がないのだ。
キングがクイーンのように動く可能性もあるゲームに、どうやってチェックメイトをするんだ。
他に類を見ないクソバクゲーで、一気にやる気がなくなった俺は、少なからずあった、ゲームに挑む気すらなくなった。
「あぁ、はいはい。d2ポーン、d4へ」
その態度を諦めたと見た彼女は、さらに嗤って次手を指した。
「b8ナイト、c6へ」
――あ、ちゃんとした動きも知ってるのね。
と、もはやそんなことですら感心できるほどに、このゲームにバカバカしさを感じる。
「とりあえず、b1ナイト、c3へ」
あれ以降、シュヴィの声が聞こえてこないことから、シュヴィもこのゲームに興味を失ったとみえる。
「b7ポーン、前へ」
そう言って、またもポーンを三マス進ませ、彼女はナイトの斜め前に着けた。
「そのナイトには、いったいどんな記憶が賭けられてるんでしょうね」
そう嗤って言う彼女。
しかし俺は、この手で新たに得た情報の整理をしていた。
――どうやらポーンは斜め前しかとれないらしい。なんでもあり、という訳ではなさそうだ。
少し法則性でも見つけてみるかと、このとき、一瞬でも思ってしまった。
「じゃあ俺も、お前の十番目の記憶をそろそろ見させてもらおう。d1クイーン、十番目の記憶を討ち取れ。xg4へ」
そして俺はナイトを捨てて、ポーンを取る大悪手を打つ。
クイーンが最初に突っ込んできた、タダ駒のポーンを討ち取った瞬間。
――『そこのぼろ切れを着たお猿さん。
――『まぁ、なんて汚ないものを持ってるの。早く捨ててもらえる?』
――『……お目を汚してしまい、もう、し訳ありません。ただちに、捨てます…』――
と、今起きたことのように、自身の尊厳を踏みにじられている、そんな『体験』をした。
なるほどね。
これが記憶を自身のものにする感覚か。
想像していた通り、クラミー・ツェルは
「どう、私の記憶は?信じてくれたかしら?」
これでいったい何を信じればいいのかわからないが、彼女は笑顔でそう告げてきた。
「よくわかったよ。お前が悲惨な人生を歩んでることがな」
心のなかで悔やみながら、それでも俺は煽って言ってやった。
「なるほど。信じてもらうにはもっと価値の高い駒じゃないと、いけないみたいね。それじゃあ私も、あなたの大事な記憶を見させてもらうわ。c6ナイト、前方のナイトを討ち取りなさい。ナイトxc3へ」
そして彼女は、c6にあった黒のナイトを前に三マス進ませ、白のナイトを討ち取れという命令をした。
――『エクスプロージョン』してもいいんじゃないか?
量子将棋までとは行かないまでも、少しは決まったルールがあるのかと思ったが、どうやらそんなこともないようだ。
もうビショップが前進しても驚かない自信がある。
そして、白のナイトが黒のナイトに撃ち取られた瞬間。
「――あぁああ、あぁあああああああ!!」
クラミー・ツェルは、突如膝から崩れ落ち、首をかきむしって絶叫する。
――どうやら、外れを引いたらしい。どうかもう、諦め――
俺はそこで、思考を打ち切り。
――こいつのことなんて、知ったことではない。
と、そう言い聞かせる。
「どうしたんですのっ!?いきなり倒れて、叫びだしましたわっ!?」
疑問をそのまま言うステフを横に、俺はこのゲームで初めてクラミー・ツェルに嗤って言った。
「いかがかな?果たしてどんな記憶を見たか知らないが、大変素晴らしい『体験』をしただろう」
ペタンと地面におしりをつけ、両腕で体を強く抱き、震えるような目で、彼女はこちらを見てきた。
「あ、あなた、いったい何をしたのっ!?何でまだ生きてるのよっ!?
錯乱状態で、彼女は叫んだ。
どうやら俺の六番目に大事な記憶は、あの時の
まぁ、確かに命を賭けたゲームだったからな。
そこらの記憶よりも、『早く忘れてしまいたい』大事な記憶だろう。
そして、彼女は歯を食い縛りながら、気がついたらしい。
俺がこのゲームをどのようにして勝つのかを。
「えぇっと?
俺は彼女が聞いてきたものに、真面目に返答してやる。
「――そもそも前提が違うんだよ。人類が他種族に挑むんだぞ?体ぐらいかけなきゃ勝負にすらならんだろ」
そして俺は、この世界に来てもっとも言いたかった言葉を、クラミー・ツェルとステファニー・ドーラの前で言う。
「お前らさ。――人類をナメすぎ」
その発言に、二人は畏れ黙った。
「b2ポーン、xc3へ。ナイトを討ち取れ」
そして俺は、チェスの勝ち筋ではない、一直線に駒をとる、普段なら絶対にやらない手を再び打つ。
ポーンが
――『クラミー、一つの駒を連続して動かすのはよくないのですよぉ』
――『でもタダで取れるのよ?』
――『序盤は相手の駒を取るよりぃ、自分の駒を展開させることが大事なのですよぉ』
――『ぐぬぬ。取れるってのに取っちゃダメなんて、まどろっこしいわね』――
と、
――そうか。お前にも仲間がいたんだな。
俺は遂に、求めていた記憶にたどり着く。
そして改めて、気を引き締め直し。
「さあどうした。次はお前の手番だぞ。もう怖くて取れないか?」
そう煽ってやった。
すると彼女は、手摺に手を伸ばし、力をいれ立ち上がり、力強く宣言をした。
「c8ビショップ!前のポーンを飛び越え、白のクイーンの首を跳ねなさい!xg4!」
「――私をなめるんじゃない!」
ルールの一切を無視した、彼女のその命令も『カリスマ』によって成立し。
今、白のもっとも強い駒が、俺の二番目に大事な記憶が、ビショップによって取られた。
そして。
「いやぁあああああ!――あぁああああぁぁぁ…」
ナイトをとったときと同様に、いやそれ以上の叫び声を上げ、彼女は俺の二番目に大事な記憶を見て、ついに気を失った。
悲惨な経験をした戦争帰りの軍人が、平和な世界の生活に戻ると精神を病み、その後、一生入院した、という話がある。
それを
強いストレスを四六時中加えられ、突然その生活から解放されると、今まで耐えられていた精神が崩壊し、生きることもままならないほどの障害を与える病気だ。
自慢にもならんが、これでも俺は人よりも大変悲惨な人生を送ってきたと、自覚している。
そんな俺でも、あの世界で三つ大事な記憶を持っている。
一つ、シュヴィと駆け抜けた記憶。
二つ、姉さんに救われた記憶。
三つ、テトと遊んだ記憶。
その三つだけがあの世界に誇りをもてる、俺の心の支えだ。
クラミーはその記憶のどれかを見たはずだ。
そして策が成ったことを見るに、クイーンの記憶はテトとの記憶だったのだろう。
あの、勝てない勝負はないと、努力は報われると、そう無垢な子供が信じた、たまらなく楽しかったあの日々の記憶だ。
故に彼女は、体を蝕む霊骸を飲んだ最悪の記憶を『体験』したあと、俺の他のどんな記憶よりも、世界には希望に満ちていると思っていた記憶を『体験』したのだ。
それは普通の精神で耐えられる触れ幅ではないだろう。
倒れた彼女は回復の兆候を見せず、うずくまり、ただ唸っている。
そして俺は、このゲームをクラミー・ツェルの意識喪失による、制限時間超過によって勝利する。
――予定だったのだ、が。
「……はぁ、はぁ…ぐうっ……」
意識を取り戻した彼女は、倒れた体を起こすために、床に手をついた。
――耐えてしまうのか。もうやめ――
すんでのところで俺は思考を打ち切る。
――終わるまで、このゲームが終わるまでは、俺はこいつのことをなんて考えない。考慮も配慮もしない。
そう昔のように、目を閉じて、手を胸に当てて、もうすることはないのだろうと思っていた心の鍵を、『ガチリ』と掛けた。
「……んぐっ、ぅ…」
嘔吐きながら、込み上げる吐き気をなんとか押さえるように彼女はついに立ち上がる。
「辛そうだな。c3ポーン、黒のポーンを討ち取れ。xb4へ」
――『――
そして俺は、冷酷に淡々と次の手を打ち、『体験』した記憶を無感情で切り捨てる。
「さあ、お前の番だ。次はどれをとるんだ?」
「……d8…クイーン。……ポーンを、飛び…こえ――」
虚ろな目で、震えながらも駒に命令を出す彼女の足元に突如、魔方陣が浮かび上がった。
それに気がついた時には、先ほどの『体験』の中で、チェスの初歩を優しく教えてもらった
「どっ、どう言うことですの!?何で
ここまでの驚愕の展開に茫然自失していたステフが気を持ち直し、天丼芸のように叫ぶ。
「……何しに……きた、の?」
にらみ合いを続ける二人、しかし先に動いたのはシュヴィだった。
『十の盟約』があるため、ここで魔法を使って俺達を殺してくることはありえない。
クラミーからだけの記憶を見る限り、クラミーとこいつは親友を越えた関係だ。
しかし相手は、あの
はたしてこいつは――
「お願いですっ!もう私達の敗けを認めるのですっ!だからこれ以上、クラミーをいじめないでほしいのですっ!!」
そして見たのは、
――この世界にも、俺達のような関係を持てたやつがいたんだな。
「…そうか。受け入れよう」
俺はその言葉を素直に受け入れた。
「……ぁあ、フィー……。ごめん、なさい…」
「大丈夫なのですよぉ。もう、大丈夫なのです」
床に倒れ、壊れたクラミーを、
「えーと、そこの
少し割り込みずらい雰囲気を出す二人に、先ほどまでの緊張を解き、最後の仕上げを提案する。
「クラミーが助かるのですかっ?――クラミーを助けるためなら、なんでも協力するのですっ!!」
そしてクラミーを抱きしめ、安心させるように背中を撫でている彼女はすぐに乗ってきた。
「じゃあこれが最後の勝負だ。賭けるものはお互い、『相手から奪った記憶を意味記憶に変換させる』。それだけだ。それで彼女は意識を取り戻す」
「『
彼女はなり降り構わない様子で、ろくに意味も確認もせず、すぐにゲームを受け入れた。
「『
そして俺は、始まりと同様にコイントスをした。
「表なのですよっ!」
クラミーを優しく抱き、はじいたコインを一瞥もせず、彼女は叫ぶ。
そして落ちたコインは――
「コインは裏、俺の勝ちだ」
こうして、この世界、最初のゲームが終わった。
――レバーを引く。
俺はそう回答をするが、それは親友の子孫を殺すということではない。
そもそもこの問題、俺はたったひとつの冴えたやり方を知っているのだ。
それは、トロッコの前輪が交差点、正しくは分岐器と言うが、それを通りすぎ、そして後輪が差し掛かったところで、レバーを倒す。
すると前輪はそのまままっすぐ進み、後輪は反対側へ進んでしまい、横転、脱線し、両方助かるってことだ。
以上が、俺が考えたこの問題の最適解だ。
さて、
『今回の件からお前達が得るべき教訓は――
選択問題だからといって、答えが二択だけとは限らない、ということだ。』
よっし。
一度は『言ってみたいセリフ・第七位』。
リアルで言えるときが来るとはな。