テントの中、サーカスの子役が手を止めた。
大人たちは全ての準備が終わり、最後の確認を行っている。
その間にできた子供たちは自由時間でそれぞれ遊んでいた。
しかし、車椅子にのった女性が入ってきた瞬間に手を止め、顔をほころばせた。
その傍らには一人の少女を連れていた。赤ずきんの下からぴょこりと狼の耳が生えた少女。それをぴくりと動かして、周囲を興味深げに見渡してた。
少女が
「あの、ボクも遊びに入っていいですか?」
鈴を鳴らすような声だった。
赤い頭巾の下から金色のふわりと波立つ髪がこぼれている。
金色のぱちりとした大きな瞳。ふんわりと香る匂いにどぎまぎして少年が顔をそらし、それを相方の少女がむっとした顔で見ている。
赤い頭巾の少女はその様子に気付いてないようで、にこにこと無邪気に笑っていた。
「いいよ。今日はもう練習も何もないから」
ジャグリンのピンを少年が置く。彼の長い袖の仕方からは爬虫類のような鱗が見えた。
少年は思う、きっと彼女も自分たちと同じく外から迫害されて、ザ・カーニバルにやってきたのだろうと。
他の子供たちや大人たちもそうである。ここに来る前の記憶を失っている人も多いがきっとそれだけ酷い目に遭ったに違いない。
だから、ここの人員たちは仲間で、家族なんだ、と
差し出した手を赤い頭巾の少女が握る。温かな感触にどきりとしたのも束の間、握られた手を強く引かれ、前へつんのめる。可憐な外見から予想できない程の力強さ。
咄嗟に足を踏み出して、倒れることは避けたが、赤い頭巾の少女に体を預けた形になる。
鼻立ちの高い人形染みた整いを見せる顔、それが間近にあり、少年が思わずどぎまぎしたところで、赤い頭巾の少女は手を振り上げ。
少年の眼窩に指を差し込んだ。温かな眼窩深くに指を差し入れ、反転させ、掬うように眼球を抜き出した。
絶叫が響き、団員達が息を呑んだ。
少年が思わず、手を振りほどこうとするが万力のような力に締め付けられ、振りほどくことができない。口に手を抑えていた相方の少女が、落ちていたピンをもって赤い頭巾の少女もって殴りかかる。赤い頭巾の頬をそれでおもいきり強打し、やっと少年が解放される。片目を抑えてへたりこむ少年に少女が近づき、何か声をかけている。
指先に感じる温かな感触。ぬるりとした血。ぷにぷにと柔らかな眼球。悲痛な少女の叫び。へたりこんだ少年のうめき声。熱い感触と痛む頬。赤い頭巾の少女の腔内でころころと固いものが転がっている。どうやら歯が折れたようだ。
「ボク、これ大好きです。だから、もっと遊んでください」
赤い頭巾の少女が弾むように言うと、彼女の背後から2本の太い、毛むくじゃらな、腕が現れる。それは狼のような毛並みと鋭い爪を持った腕であった。
そして、それを蹲る少年を開放する少女へと伸ばして――
†
赤い頭巾の少女が箒で地面を掃いている。
太ももが露出した短いスカートに、ブーツ。腰元まで届く大きな赤い頭巾が印象的だ。その頭巾の下から金色のふんわりとした髪がもれ、箒の動きに合わせて、ゆらゆらと揺れている。
楽しげに微笑み、埃を一ヵ所にまとめると、塵取りでまとめてゴミ箱へと捨てた。
袖口で額を拭い、満足そうに赤い頭巾の少女が頷いた。
ふと、顔を上げ、時計を見る。
「あ、時間ですね」
そういって、とてとてと歩いていった先には、複数個の洗濯機。大所帯であるサーカスを支えるには1つの洗濯機ではとても足りないのだ。
少女は手際よく、洗濯機の蓋を開け、洗濯物を出していく。彼女の長い頭巾の下からは狼の腕が現れ、他の先滝の蓋を開けて、同じく洗濯物を取り出していた。
彼女は
1930年代を境に現れ出した、普通の人間とは違う、特殊な能力を持った超人たち。その中でも生まれついて能力持つ
この赤い頭巾の少女は、通常は人間と同じであるが、必要に応じて狼と人間が混じったような部分を出現させて操ることが出来る
「オオカミさん、オオカミさん、早く干してしまいましょう。皆さんの食事も作らないといけませんから」
少女の頭巾の中から、“Gau”と返事が返ってきた。彼女の能力は少し特殊で、自律稼働しているようだ。
少女の身の丈より大きく長い腕が、人がすっぽりと入ってしまいそうな籠を両手に1つずつ持つ。中には湿った服が無数に入っており、道化師の服やレオタードなどの姿見受けられる。
少女自身も抱えるように籠を持ち、特に苦にした様子もなく外へと歩いていく。
途中、サーカスの団員と思わしき人物と出くわす。少女は陽気に挨拶を返すが、挨拶された相手はおびえた様子で少女から距離を取り、目を合さないようにして道を開けた。
外へと向かう道、何人かに出会うが、反応は似たようなものだった。
みな一様に、赤い頭巾の少女に出会うと恐れ、怯え、避けようとするのだ。
赤ずきんが、口をへの字に曲げ、3人目にすれ違った人に後ろから手を伸ばす。背中を叩かれた彼は、片手で籠を抱く赤ずきんの姿を認め、あからさまに怯えた顔をすると、赤ずきんの腕を振り払い、その場から走って逃げる。
赤ずきんが頬を膨らませて不満げにしていると、声がかけられた。
「赤ずきんさん」
「なんですか、
現れたのは車椅子に座った、妙齢の淑女。
車椅子の肘落ちの先に球体がついており、それに白い手袋に包まれた手が置かれている。
モーターの音を響かせ、
「あ、もしかして! 今日は遊べるのですか! みんな、遊んでくれないからボク、とても退屈してたのです」
「はい、その通り。今日は“兎”のお手伝いをしてもらいます。良いですか?」
「もちろん構いません。ボクに任せてください」
「よろしい……、では、早めに洗濯物を干して、食事と行きましょう」
「はーい」
赤ずきんは洗濯物を干すために、とてとてと籠をもって外へと向かうのだった。
†
夜、閑静とは言い難い雑多な夜の街であるが、人の姿は少ない。
そんな中、一際目立つ、もとい、人の目を引く車が路上に泊まっていた。
兎である。ピンク色の車体に、ピンク色の耳のようなパーツでフロントガラスの上に取り付けられている。何の意味があるかわからない装飾品であるが、持ち主の並々ならない兎への執着を表しているようだ。
それは銀行の前に留められていた。その銀行から現在、盛大に警報が鳴っている。
正面のガラスが割られている。ガラスが割れる音。地面に散らばったガラスを踏みしめ、バニースーツの集団が現れる。それらはバニースーツを着込んだ、目を黒いマスクで多い、毛むくじゃらの脚がタイツから見えている。ふさふさの胸毛をたたえた分厚い胸元のバニースーツの集団。異様としか言えない兎の集団であった。
「さぁ、お金を奪うのよ!」
そのうちの一人、唯一兎の耳をつけた男が女言葉で集団に号令を下す。
部下と思わしき男達が、手際よくATMにドリルで穴を開け、ラップトップパソコンから伸びるコードを基盤へとつけていく。ハッキング。部下の男が持っているラップトップパソコンにアルファベットの羅列が走る。
腕を組んだ兎耳の男がいらいらとした様子で、腕を組んで、指で叩いて、それを見ている。
「ボクが持って逃げたほうが早くないです?」
「それじゃあ、ダメよ。それじゃあ、強盗と変わらないわ。その場で盗んで逃げていくからいいんだわ」
「これは強盗じゃないのです……?」
「怪盗よ」
その隣にいた赤ずきんが、頭にクエスチョンマークを浮かべたように首をかしげているが、どうやら、目の前の兎男なりの美学がそこにはあるようだ。
「さぁ、華麗に盗んで兎の様にはねて逃げるわよ。さっさとしなさい」
「ぴょーん、ぴょん♪」
赤ずきんが頭巾の上に、手を掲げ兎の耳を作り、兎の真似をする。
その時であった、入り口に1つの影が現れる。
それはマスクの男であった。アイマスクで顔を隠し、黒いマントを身に纏っている細身の男である。彼の隣にプロペラを内蔵したドローンが飛んでおり、この場をカメラで収めていた。
マスクの男は迷いのない歩調で、兎男の集団へと近づいていく。
「あらやだ、ゼロじゃないの。相変わらずコスプレしちゃってまぁ」
「………度し難い格好の君に言われたくないな」
「この格好の何処が度し難いのかしら、失礼しちゃうわ」
鼻を鳴らす兎男。みっちりと鍛えられた太い腕。厚いゴムのような太い脚にV字の海パンを履いている。人が見れば、マントの男と兎男のどっちの意見に賛成するかは伏せておく。
「こんなに可愛い格好をしてるのにその良さがわからないなんて、あなた目が腐ってるんじゃなくて?」
「正直、吐き気を堪えているのだが」
「なんですって……っ!!」
兎男から怒気が発せられる。彼は背中に手を回すと、兎のキャップがついた棒状のものを取り出す。
「こんなにかわいいのにわからないなんて、吹き飛んでしまいなさい」
両手の指で挟んでいたそれが投擲される、瞬間を狙い、マスクの男が大きく踏み込み、マントから
――マスクオブゼロ。
巨大マスメディアW.A.E.V.に所属するヒーローショー番組に所属するヒーローであり、幼いころにあこがれた怪傑ゾロの恰好でヒーロー活動を行っているヒーローだ。
その戦闘スタイルは小説と同じく、
慌てて引いた兎男を庇い、入れ替わるように部下の男達が前に出てくる。
一人目の男が拳銃を向けた瞬間、
その横から大鉈を持った巨漢が現れ、横薙ぎに切りつけるが、マスクの男、ゼロは左足を一歩引き、そのまま右足を斜め後ろへと送ることで、鉈の一撃を避けつつ、鉈を振り終えた男の側面を取った。
あとは踏み込み、腕と足に数発、素早い突きが放たれる。
巨漢が人形の糸を切ったように崩れ落ちる。正確に関節を貫いたため自重を支えられなくなったからだ。
ゼロがぴっと
敵の攻撃を避け、
このような華麗ともいえるスタイルが番組内で人気を博しているヒーローであり、瞬く間に、残りの人員も無効化してみせた。
「すごい、すごいっ!」
兎の男の隣で赤ずきんが目を輝かせて、拍手をしている。
黒煙が煙る。兎男の放った兎印手榴弾を躱したゼロが白煙を背後に現れる。
男達が暴れたため、室内は酷い有様であった。
椅子は切り裂かれ、硝子や電灯は割れ、ATMは見るも無残に拉げている。防犯用のシャッターは凹んでいるが破れていないのは救いであろうか。
ゼロはマントについた埃をはらい、レイピアを振った。
「さぁ、あとはお前たちだけだ。観念するなら受け入れよう」
「そんなわけないでしょう。さぁ、やってしまいなさい、赤ずきん」
「さぁ、ゼロさん。遊んでくださいな!」
そう言うやいなや、あかずきんの背から太くたくましい、巨柱のような狼男の腕が生えたと思うと、手近にあったATMを持ちあげ、ゼロへと投げつける。
ゼロがステップを踏んで避ける。
赤ずきんが身を沈め、踏み込み。いつの間にか狼の脚へと変化した足がぎちりと膨らみ、地面を強く踏み抜いた。ゼロの眼前へと一気に距離を詰める。
ゼロは落ち着いたまま、
やや骨を外れた
満面の笑みの赤ずきんが背中から生やした狼の腕で剣を掴み、もう反対の方の手がゼロへと伸びる。
その時、赤ずきんの顔に布が欠けられ、視界が遮られる。ゼロがマントを翻し、赤ずきんの顔を覆ったのだ。しかし、赤ずきんの行動は止まらない。白く細い、少女の腕がゼロの腕をつかむと、鈍い音をたて、それを握り潰した。
「―――ッッ!!」
声にならない悲鳴が響くなか、ゼロの身体が浮かび上がる。あかずきんが力任せに投げ飛ばしたのだ。
ぐぺっ、と間抜けな音がしてその場が鎮まる。
視界が戻った赤ずきんを周囲を見渡してみると、兎男とゼロがぶつかり、二人とも仲良く壁に衝突していた。壁には赤い血と、脳漿らしき白い物体、そして、そのままずり落ちるように肉塊が2つ落ちていた。
「あ、ごめん、間違えちゃいました」
赤ずきんが口を手で押さえ、謝る。そして、不満そうに顔をゆがませた。
「それにしてももっと頑張ってくださいよ。遊び足りないじゃないですか」
二つの肉塊の傍に近寄った赤ずきんは膝を抱えて座りこみ、先ほどまで動いていたゼロに向って話しかける。
「もっと、もっと遊びたいのです。みんな遊んでくれないから。だからほら、
赤い頭巾が僅かにずれ、側頭部から対に生えている狼耳がピクリと動く。
しばし、頬を膨らませるあかずきん。
肉塊をちょんちょんとつつきつつ、赤ずきんは不満を隠さない。
どうしてこんなに簡単に壊れてしまうのでしょう、ボクはまだまだ遊びたいのに、と。
この
みんなみんな簡単に壊れちゃう、どこかに壊れない、ボクだけが遊べる友達がいないでしょうか。と赤ずきん。寂しそうな表情で兎男の耳を千切っていた。
それをじっと宙に浮いているドローンに搭載している写す。静かな室内にプロペラの音が響く。
乾いた発砲音。ドローンが何者かに撃たれて落ちる、地面に落ちた機体は擦れながらしばしスライドし、止まった。落下の衝撃でカメラのレンズが割れたようだ。
「やれやれ……。また、お前か赤ずきん。何か最近よく会うが暇なのか?」
呆れたような声が響く。
現れたのは鴉であった。鳥のくちばしを思わせるように鼻が伸びた白いペストマスクに、広いつばのついた帽子。マスクの目の部分についたレンズが無機質に赤ずきんをとらえている。黒いロングコートに全身に身を包み、腰の左右にはホルスターが嵌められていた。
黒いブーツで地面を踏みしめながら、入り口から鴉のような男が入ってくる。
歩くたびに、2対に分かれた鴉の羽のようなマントが揺れる。
その格好を認めた赤ずきんの顔がほころび、輝かんばかりの笑顔となった。
「あ、ゼロのヤツ、死んでるじゃねぇか。やったのはお前か、赤ずきん?」
「うん! ボクが――」
言葉が終わるよりも早く、銃弾が赤ずきんを捕える。
ホルスターに収められていたはずのリボルバーを目にもとまらぬ早技で抜いた
「……チッ」
「あは」
仰け反った態勢の赤ずきんから笑いが零れる。
「あはははは、最高です! あなたは簡単に壊れないでくださいね?」
そして、頭を揺らして元の態勢に戻る。見ると、オオカミの腕が赤ずきんの顔を庇い、銃弾を防いでいた。
そのまま、立て続けに3発、発砲。近くのATMを投げつけようとした狼の腕に直撃させる。狙いは先端、指の部分。
千切れはしないモノの、その衝撃で掴んでいたATMを赤ずきんが落とした。
「毎回思うんだけど、頑丈すぎなんだよなぁ……。撃たれた死ねよ、生物としてよぉ」
銃弾を受けてもものともしない赤ずきんに呆れつつ、もう1つのホルスターから2つ目のリボルバーを
赤ずきんはうきうきとした様子で、背中にある肉塊を掴み、
「やれやれ――」
契約によって得た魔法の力でリボルバーに自動的に装弾が行われる。
そして、その場から転がり、机の背後から脱出する。
直後、机が吹き飛ばされ、壁に激突する。赤ずきんから伸びた狼の腕が殴り飛ばしたようだ。
転がり立ち上がった
「――狩りの時間だ」
†
とてとて、と赤ずきんの小さな手が懸命に籠をもって駆けている。
背中から2本の狼の腕がそれぞれ籠を1つずつ持っている。
赤ずきんは抱きかかえるように籠を持っており、オオカミの腕はわしづかみだ。
大きさとしては業務用のゴミ箱ほどもある大きさであり、小柄な赤ずきんにとっては抱えるほどのサイズであるが、巨大な狼の腕にとっては問題なくわしづかみしている。
中にはずっしりと濡れた洗濯物が入っているが、赤ずきんは苦にした様子はない。
白い珠のような肌には傷1つ残っておらず、短いスカートから露出している足にも傷痕は残っていなかった。
トレードマークの赤い頭巾がふんわりと揺れる。
ザ・カーニバルはサーカスを隠れ蓑に悪事を重ねるヴィラン組織だ。
故に停留している限り、サーカスを開催していることであり。
大所帯であるため、家事の量も必然的に膨大となる。
赤ずきんを含め、様々な理由でサーカスに不向きな人員は身の回りの世話をする役割に回っている。赤ずきんは主に掃除、洗濯や食事の作成、いわゆる家事が担当となっている。
通路の反対側から赤ずきんの姿を見つけた団員が慌てて、角を曲がって引き返す。普段なら寂しそうな顔をする赤ずきんであるが、今は気にしない。
いまは先日のことを思い出しているから気にならないのだ。
その後、銀行は半壊し――主に赤ずきんが原因――痛み分けとなったが、あそこまで何度も遊んでも壊れないヒーローは初めてである。
なにやら
次はどうすればいいかな、と赤ずきんは首をかしげる。
あのリボルバーが厄介だからあれで防げないほど硬くて大きいものを投げつければ近づけるかな。近づいて、掴めば骨が折れるかな。どんな音がして折れるんだろう。そのまま腕を引きちぎったらどんな声をあげるんだろう。吹き出る血はなにいろかな。中身はきっと男の人だけど、もしかしたら女の人かも。首をもいで確かめてみたいけど、それじゃあすぐに死んじゃう。じゃあ、どうすればいいかな、下をつぶしてみればいいかな。うーん、けど、すぐに死んだら遊べない。ああ、じゃあ、1つ1つ潰していこう。足の先からぽきりぽきりと折っていけばいいんだ。一通り潰したらもいでみて……ああでも、せっかく鴉みたいな格好してるんだから、鳥みたいに焼いてみるのも面白いかも。
「ねぇ、オオカミさん、どうすればいいと思います?」
「……uuuuuu」
赤ずきんが顔を上げて訪ねてみる。頭巾の中から帰ってきたには唸り声だけだった。
赤ずきんが生まれた時から、一緒にいる、このオオカミさんは赤ずきんにもよくわからない。狼の頭をした人間のようで、全身が狼の毛皮に包まれた毛むくじゃらの生命体で、赤ずきんの好きなように操作することが出来る、彼(?)にも意志のようなものがあるようで、自律して行動することがある。
また、赤ずきんの身体から
ああ、それにしても、と赤ずきんは思う。あの
それに胸がぽかぽかとして、とても楽しいのだ。
ぱんぱんと洗濯物を伸ばして、手際よく洗濯物の紐へとつけていく。
晴天。この調子なら雨が降る心配もなさそうで、洗濯物はよく乾きそうだ。
ふんふんと鼻歌を歌いながら、赤ずきんは作業を続けていく。
そして、作業が終わり、
「よしっ」
と赤ずきんはうなずいた。風になびき、洗濯物が揺れている。
心地よい春の陽気。
ふふん、と笑いが零れる。このような気持ちになったのは初めてだ。
胸が暖かくて、楽しくて。
会いたいな、と赤ずきんは思う。
さわっと、風がなびき、草や花が揺れる。ぽかりぽかりとした温かな日であった。
木陰に身を寄せ、目についたものを赤ずきんが手に取った。
「会わない」
しかし、そろそろ何かの企みが大詰めを迎えるようで、
「会う」
けれど、この気持ちを確かめてみたいと、赤ずきんは思う。
「会わない」
この気持ちってなんだろう。今まで、遊んだ相手には感じたことのない感情であった。
なぜなら赤ずきんが遊んだ相手はすぐに壊れてしまったから。
「会う」
ここザ・カーニバルには赤ずきんのような異形がたくさんいた。先天的になんらかの超人種であったもの、また後天的に何らかの要素で変化したもの、特に種類は問わず、どこにもいけずに零れ落ちてきてしまった者達の流刑地のような場所であった。
だから、赤ずきんのような狂人であっても完全に排斥することはなく在籍することはできている。
「会わない」
しかし、赤ずきんが遊ぶにはまだまだ脆すぎるのだ。手足を千切ればすぐに動かなくなってしまうし、頭を捥げば死んでしまう。ガソリンをかけて火だるまにしてみれば、すぐに焼死してしまうし、お腹に石をつめて池に落としてみれば、そのまま沈んでしまう。
一度、とあるヴィランに丸呑みされた時は臭くて狭くて最高であったが、それでも中から内臓を掻きまわしてみたら、すぐに動かなくなって、赤ずきんはがっかりした。
「会う」
やがて、みんなで遊ぶのも限界が来たので、ヒーローの方に目を向けてみた。
そして、すぐに落胆した。 なぜなら、ヒーローはザ・カーニバルにいる怪人たちより脆い人物が多いのだ。
「会わない」
だから、
そう願っていたいた時に出会ったのがあの
赤ずきんは歓喜した。何回であっても、何回戦っても決して壊れない相手が対に現れたのだ。
故に、どうしようかと悩んでいた。この気持ちを確かめに会いに行きたい。けれど、
だから、占いで決着をつけようと思う。
恐る恐る。最後の1つを引き抜く。
「会う。……会うですか!」
赤ずきんは満面の笑みを浮かべる。
うん、と一度頷くと、赤ずきんは決心を固め、赤ずきんがサーカスのテントを出ていく。
後には足の捥がれた蜘蛛が地面の上でうねうねと蠢いていた。