赤ずきん! リメイク   作:イーストプリースト

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『2話  狩人は狼と出会う』

 さっきまで仲間だったものがつるされている。

 男の目の前で、自らの腸を引きずり出され、それを首にかけて吊るされたのだ。

 柔らかい腸は首に食い込むことはなく、しばらくばばたついていた手足が力を失いだらり垂れ下がる。

 ズボンが濡れ、尿が脚を伝い、黄色い水と据えた匂いが周囲に広がる。

「言われた、……言われたとおりにしたから、これで許してくれ!」

  先ほどまで仲間だったものが、辺り一面に散らばっている。

 片付けるに折りたたまれたもの。割れたガラスを1枚1枚食べさせられたもの、胴体に首がうめられたもの、その死に様は多種多様であった。

 男は焦燥した顔でそれをみせつけられた、最後の1人である。男には先ほどまで響いていた仲間たちの叫び声が脳裏に染みついている。

 無傷で助かるのなら、たとえ尻を舐めろと言われれば喜んで舐めるであろう。

 言われたとおりに、情報屋にこの場所と所業を伝えると、電話を落とし、男が少女に泣きついた。

 少女はんーと、しばし考え、男の手を取ると。

「来るまで暇そうなので、遊んでくださいね」

 少女が男の親指と人差し指を掴む。

「え、あ。待ってくれ! 人間は縦には――――」

 そして、二の腕まで縦に引き裂いていくのだった。

 

 

―――覚えているのは何かの衝撃で体が浮いたと思ったら、目の前にいきなり壁が迫ってくる瞬間までだった。

 次に目が覚めた時は瓦礫の下であった。

 幸運なのか不幸なのか、いくつかの瓦礫が重なった下に埋もれているようで、下半身が動かない。上半身はなんとか動くのだが、うつぶせの状態からひっくり返ることは出来なかった。

 頭から頬にかけて液体が流れる感覚、疼くような痛み、手で触って確かめてみると、ぬるりとした血と、裂けたような傷痕……どうやら額が割れているようだ。

 幾度か、瓦礫の外で走るような足音が聞こえ、叫んでみるが聞こえなかったのか、あるいは聞こえても無視したのか、助けは来なかった。

 目が覚めてから、幾度も地響きが続いている。ぱちりぱちりという音と共が響き、灰色と黒色が混じった煙と共に火の手が廻ってきた。煙にむせて、がれきの下の彼は咳込む。

 涙を流しながら、視界が暗くなってくる、頭がくらくらとし、思考がぼんやりとしてきた。

 どうしてこうなったのだろうか、と彼、小鳥遊 優は思った。

 今日は父と母に連れられて、買い物に来ただけのはずだった。

 それがいきなり地響きがして、地震かなと思った瞬間、唐突に吹き飛ばされ、がれきの下に埋もれてしまった。

 まだまだ、幼い手が必死に地面を掻くが悲しいほど無力である。

 このまま死ぬ、その事実を認識したとき、涙が自然と零れ、咳ごみながらも必死に地面をひっかきもがく。

 爪先に砂が入り、痛みが走る。じゃり、と音をたてるが、コンクリートはびくともしない。

 その時だ。

「――生きたいか、契約者の子よ」

 唐突に声が響く。地の底より響くような重く低い威厳に満ちた声。

 この世ならぬ不吉を孕んだ声に小鳥遊は本能的に恐怖を覚える。

 見ると視界の先に1羽の烏が留まっている。

 それは煙を苦にもしておらず、嘴を動かし人語を話している。

「ならば、我と悪心を集める契約をせよ。父との盟約、その続きを果たせ。そう誓うのならば、その命を救ってやろう」

 そして、どうする?と問う烏。鳥に表情はないのだが、嘴の端がつり上がり、笑っているように小鳥遊には見えた。

 悪魔との契約、絵本で読んだ言葉が小鳥遊の脳裏によぎる。

 しかし、選択肢はない。その烏の言葉に

「お願い、契約するから助けて――」

 と答えたのだった。

 

 

 けたたましい音がする。

 それは丸い形をした目覚まし時計だ。頭上の左右にベルがついており、真ん中のハンマーのような部分が左右を打ち鳴らして音を鳴らしている。その時計に向い手が伸び、目覚ましい時計の裏にあるアラームのスイッチを切った。

 のそりとベッドから男、小鳥遊(たかなし)(ゆう)が起き上がり、頭を掻いた。ちらりと外を見ると既に日が沈みかけた黄昏時。茜色の空から黄赤の陽射しがさしこんでいる。

「……あの時のことを夢見たのは久しぶりだな」

 額をも見ながら小鳥遊が独り言をつぶやく。

 そして、両手を天井へ向け、大きく背伸びをした。

「なんというか……、俺もまともだったってところだな、うん」

 頷きつつ、顔を洗おう、と言い、起き上がると、洗面所へと歩いていった。

 

 

 地下。

 家の下にある秘密の訓練場。

 小鳥遊がホルスターにリボルバーを収め、コインを弾く。

 弾かれたコインがくるりくるりと宙を舞いながら、地面に落ちる。コインが落ちた瞬間にリボルバーを抜き、的を撃った。

 そして、ストップウォッチを止める。

 0.1秒……、数字を見て小鳥遊が顔をしかめる。

 自身の最速よりもはるかに遅い。どうも、連日の狩りで疲労がたまっているのだろうか……いや、俺の腕前がまだまだ安定してないだけだな、と小鳥遊は自嘲した。

 穿たれた2つ(・・)の的の下に、弾は落ちていない。

 これはこのリボルバーも銃弾も実物ではなく、不可思議な魔法の力で作り出されたものだからである。

 幼少の頃、かつてのヒーローのほとんどが致命的な傷を負いながらも鎮めた怪獣災害――セカンドカラミティ。それに巻き込まれ、両親を失い、自らも瀕死の重傷を負った小鳥遊は父親が契約していた狩りの魔王ザミエルと「悪心を集める」契約を交わす代わりに一命をとりとめた。

 いま、小鳥遊が訓練に使っているこの地下室もその遺産の1つだ。

 幼い小鳥遊は知らなかったが、どうでも小鳥遊の父親は依頼と引き換えに悪人(ヴィラン)を討つ、殺し屋に近いヒーローをやっていたようだ。元々クレー射撃の選手でもあったが、それに加えて拳銃も扱う訓練を行うために、この地下室を密かに作成したようである。

 その恩恵にあずかれているのだから小鳥遊に文句はない。

 リボルバーを回し、薬莢を取り出し、中を点検する。

 1度、消して元に戻したのだから、新品同様に問題はないのだが、しないとどうも落ちつかない。

 この出し入れ自由な――しかも出すたびに整備も終わってる――リボルバーも含み、狩りの魔王との契約により、小鳥遊はいくつかの恩恵を得ている。

 それは正体を隠蔽する変身であり。

 それは弾切れがなくなる加護であり。

 それは悪心を感知する能力であり。

 そして、6発と1発の魔弾だ。

 この生涯に7発まで撃てる魔弾は、6発までは狙った位置に当たるが、7発目は大切なものの命を確実に奪う弾丸となる。そのような呪われた弾丸である。

 もっとも、小鳥遊にとって、大切といえるほどの人物は現在思い浮かばず――せいぜい仲の良い友人ぐらい――この7発目を撃てば、自分がうたれるのだろう、と小鳥遊は考えている。

「さてと……、このぐらいかね」

 しかして、魔王との契約を果たすために、今日も狩りに出る予定の小鳥遊であるが、その前の準備運動(ウォーミングアップ)として行っていた射撃を切り上げる。

 大よそ千発ほど撃ち、守備は上々。軽く手を振りながら、耳栓とゴーグルを外す。

 簡易的に人の形が書かれた木のターゲットは穴だらけとなっていた。

 ホルスターとリボルバーを虚空へ消し去る。もし、これが実銃であったなら弾代に頭を悩まさなければならないが、魔法の力で銃弾が充填され、撃った弾も消えるため、銃弾の代金に悩まされる事はない。魔王との契約で得た利点の1つだった。

 軽く体を伸ばして、準備体操をすると、そのまま小鳥遊は地下射撃場を後にした。

 

 

 小鳥遊がいくつか持っている捨てて良い携帯電話のボタンを押し、馴染みの情報屋に電話をかける。

「さてと、今日はどんなネタがあるやら」

 現在、世間では超人といわるような超能力に目覚めた人間やあり得ない奇跡ともいえる魔法、どうやって得たのかわからないような技術を使い悪事をなす悪人(ヴィラン)が両慮跋扈している。

 それゆえに、悪人(ヴィラン)に恨みを成す人間は多くいる。

 小鳥遊が電話をかけている情報屋はそれらの人間から依頼を受けては、小鳥遊のようなヒーロー崩れに依頼を流す商売を行っている。情報屋自身も何か恨みがあるようで、1度会った時、車椅子にのっていたが、悪人(ヴィラン)が原因でそうなったようだ。

「……お前か」

「ハロー、なにかいいネタない? しばらく余裕はあるんだけど、やっぱり貯蓄できるうちにしておきたくてな」

「…………」

「ん、どしたん?」

 いつもなら、ここで簡単な紹介と値段の交渉が始まるのだが、情報屋にしては珍しく困惑してるような雰囲気で口ごもっている。

 電話越しに感じる相手から迷いを感じる、試しに読んで(・・・)でもいいのだが、それなりに信頼してる相手への礼儀として小鳥遊はなにもしないでおいた。

「かなり怪しいのだが、ザ・カーニバルの傘下の組織で、誘拐を担当するチームの情報が入っている」

「やけに具体的だな。それで何を迷ってるんだ?」

「いや……それが唐突に情報網に乗せられたうえに、どうも彼ら自身が自分でばらしたようでな。正直、怪しいところしかないのだが……」

「確かに怪しさしかないな」

「どうする? これでいいのなら、格安でいいが……」

「まぁ、試しに行ってみるか」

「報酬はいつものところで頼む」

「あいあい」

 電話が切れる。

 仮面の下で小鳥遊は鼻を鳴らし、にやりと笑う。

 

 

 ひらり、と二又に分かれたマントを揺らしながら、大鴉(レイヴン)、こと小鳥遊(たかなし)(ゆう)は情報屋から得た場所へと歩いてくる。

 鼻が丸味を描き地面に垂れるように伸びたペストマスクをつけているため表情はうかがい知れないが、首を軽く振り、周囲を警戒している。

 郊外にある寂れたビル。そこをまるまる1つ借りてるようで、用途は誘拐、及び、誘拐相手の一時保管所、らしい。

 あまり手入れが入ってない地域らしく、街灯の電気が数度点滅している。

 ビルの壁には落書きが目立つ。小鳥遊がコンクリートの上に生えた名も知れない短い草を踏む。

 ビルを見上げると、電灯がついていない。まだ夜は更けておらず、起きてる人員がいてもおかしくない。監禁場所であることを考えると、むしろ常に誰かしら起きていそうなものである。

 ザ・カーニバルの傘下であるため、理解できない理由で見張りがついていないかもしれないが、それでも無防備にもほどがある。

 そして、なにより、小鳥遊が得ている加護の1つ、悪心を感知する能力が大きな悪心を感じ取れないのだ。

 小鳥遊としては言葉にするのは難しいのだが、他人が抱いてる悪なる心、それを匂いの様に感じ取れる能力である。それは害意や悪意といった危害を加え、陥れるといった心を指すようだが、その度合いが大きいほどより、刺激的で鼻につく匂いのように感じるのだが……。

 しかし、相手がザ・カーニバルということもあり、あまりこの能力を過信してはいない。あの怪人集団はまったく悪心を抱かず、己が嗜好(フェチ)を満たすために他者を踏みにじるものも少なくない。

 小鳥遊がぱっとおもいつくだけでも赤ずきんがいる。子供の様に無邪気に、虫の足を千切る様に手足をもいでも悪心の匂いを感じなかった。きっとあれは、ただ楽しいから壊してる、だけなのだろう、度し難いにもほどがあると小鳥遊は思うが。

 そんなことを考えながら、小鳥遊がドアノブに手をかけ、捻る。それは特に抵抗もなく、あっさりと回る。軽く扉を引いてみると、抵抗はない、このまま力を入れれば開きそうだ。

「………」

 仮面の裏で小鳥遊が目を細める。

 小鳥遊は一気に扉を開くと、転がりながら通過、すぐさま近くにあった壁に身を寄せて拳銃を構えた。警戒して入ったものの罠や待ち伏せの類はない。

 周囲に敵影はなく、不気味なほど静かであった。

 ビルの中は灯りがついておらず、暗い。道に困るほどではないが、薄暗いため不気味である。

 何かが潜んでいたらうっかり見逃してしまいそうで、大鴉(レイヴン)は警戒度を1つ上げる。

 まだビルに入ったばかりであるが、饐えた、そして鉄臭いにおいが漂ってくる。嗅ぎなれた匂い、即ち、血の匂いだ。たぶんであるが、まだ流れてそんなに時間がたっていないと思われる、強い鉄臭いにおい。下手人はこの場にいるか、逃げても遠くは逃げてないと思われる。

 それに反して、悪心を感じられない点が小鳥遊にとっては不気味であった。

 つまり、何らかの危害を加えた犯人がここにいるのなら、それは殺意や害意を抱くことなく他人を傷つけられる人物に他ならない。

 そんなことをつらつらと考えながら、血の匂いが強い方へ向かって歩いていく。何処に何があるか検討はつかないが、まずは事件現場へいけば何かつかめるだろう、と行き当ったりばったりに考えていた。

 廊下に目を落とすと、べったりとついた血の痕が見える。恐らく大けがをさせた相手をひきずったのではないだろうか。それを辿る様に小鳥遊が歩いていく。

 小鳥遊の悪心感知(・・・・)が1つの心をとらえた。

 覚えのある感じ。様々な悪人を見てきた小鳥遊でさえ、あまりみかけたことのない純粋な殺意の匂い。

 覚えのある、柘榴のようなにおいに小鳥遊は目を細め、歩を進める。

 やがて1つの部屋へと辿りつく。ビルの他の部屋と変わらない一室。中からなにか少女の――聞き覚えのある――鼻歌が聞こえてくる。

 小鳥遊は仮面の下で面倒そうな顔をしたが、ため息を1つつくとドアノブを握った。

 部屋の中は地獄のような光景であった。

 腸で首をつられてぶらりぶらりと垂れ下がっている物。

 手足が折りたたまれ、折れた骨が突き出た肉塊。それは頭も胴体に埋め込まれており、その上で荷物を折りたたむように4つ折りにおられ重ねられていた。

 指が全て欠損した死体がある。それらの回りに指が転がっておらず、周囲を見渡しても指らしきものが落ちてない事から食べさせられたのではないだろうか。加えて、件の彼は口から血を流しており、その口に血の滴る状態でガラスを突っ込まれたまま事切れていた。

 そして、この景色を作り出した下手人であろう少女は、素手で人間を引き裂いていた。小鳥遊が見ると、手足の指の間ごとに、肩や股の間までに縦に引き裂いていっている。薄く暗褐色の肉が見え、白い血管がぽろりと零れ、同じく白い骨に絡みついていた。

「あ」

 気絶したことが不満なのか、頬を膨らませて引き裂いた腕をぶらぶらとしていた少女が大鴉(レイヴン)に気付くと、振り返り、笑顔を作る。

 間髪入れず、大鴉(レイヴン)はその笑顔に銃弾を叩き込んだ。

「やった大鴉(レイヴン)だ! 一番最初に当たりを引きました!」

 銃声は1つのようであったが、マズルフラッシュは3度。3発の弾丸は少女――赤ずきんの背後から生えた狼男の腕が彼女を抱くように防御し、弾かれる。

 目の前の少女は最近、何度も遭遇してるザ・カーニバルの一員である。狼の身体の一部を自在に体から生やし、見た目にそぐわぬ怪力や頑丈さを持つ怪物だ。

 なにやら小鳥遊を見掛けると「遊んで!」と戦闘を仕掛けてくるのだが、小鳥遊のほうは得るものが少ないのでできれば、あまり関わり合いになりたくなかった。

 信じられないことに悪心をほとんど感じないので殺しても悪心を得ることができないうえに、単純に頑丈で力が強いので厄介極まるのだ。

 また、知り合いのヒーローも何人か殺されており、残虐なことをして喜んでいる姿を見る限り、小鳥遊としては近づきたくない手合いであった。

「おい、人として銃弾があたったなら死んでおけよ」

「そんなことより遊んでください。今日は何をしますか? 刺し合い? 殴り合い?」

「よーし、射的ゲームだ。手足は3点、胴体5点、頭は10点。(まと)はお前な」

「やった! それなら簡単に壊れないでくださいね?」

 赤ずきんが可愛らしく小首をかしげ、膝を曲げて身を沈める。

 二人の距離は大よそ5mほど。

 轟音、赤ずきんが強く地面を踏み抜く音。踏み抜いたコンクリート床が凹んでいた。

 赤ずきんが手に持っていた男で小鳥遊に殴りかかってくる。が、縦に引きちぎられていた腕は脆くなっていたようで、腕が千切れ、途中で放物線を描いてあらぬ方向へ吹き飛んでいく。そのまま天井にぶつかった男がまのぬけた音をたて、つぶれた。

 突っ込んでくる赤ずきんを避けるために、斜め前に転がる小鳥遊。突撃してきた赤ずきんの拳が空を切って、小鳥遊が入ってきた扉を吹き飛ばす。ちょうど入れ違う形で、赤ずきんの背後へと回った、小鳥遊は立ち上がりつつ、左右の拳銃(リボルバー)を乱射。

 赤ずきんの背から銃弾を浴びせつつ、テーブルを蹴り上げ、その後ろに身を隠す。赤ずきんの怪力の前には目隠し程度にしかならないが、それでも次の行動に移るための余地ができる。

 打ち込んだ銃弾は狼男の腕が全て受け止めていた。

 仮面の下で小鳥遊が口笛を吹いた。ちょうど入ってきた入り口に赤ずきんが陣取っているため、撤退できそうにない。

 となると、次の手は、と小鳥遊は月明かりが指す窓に向って発砲、端から順に窓ガラスを割っていく。

「おい、あかずきん! この惨状はどういうことだ!?」

 算段を立てつつ、急いでその場から移動する小鳥遊。予想通りテーブルが吹き飛ばされる。障害物の少ない室内で、赤ずきんの相手をするのは小鳥遊であっても骨が折れる。

 嫌いではないのだが、小遣い稼ぎ気分で着てる今日、相手をしたくはなかった。

「えーとですね、あなたに会いたくて来ちゃったんですけど」

 赤ずきんの背中から生えた狼男の腕が肥大化する。

 赤ずきんの体躯と変わらない大きさから、天井に届くほどまで。

 それは両端から蠅をつぶすかのように押しつぶそうと迫ってくる。

「会えるかわからなかったですから、ちょっと仲間の1つをつぶして情報を流してもらいました」

 小鳥遊が前方に向って飛び込み、伏せる。

 壁が迫ってくるようなものであったが、それでも“腕”であることは変わりなく、丸い両腕の間にできた僅かな隙間に入ることでなんとか回避した。

 伏せたままの姿勢で発砲、マズルフラッシュが光る。弾丸は赤ずきんの足元――足首に吸い込まれるように直進し、そして、着弾。そのままあらぬ方向へ吹き飛んでいく。

 あかずきんのニーソックスの下からは剛毛が覗いており、どうやら足元を狼男の体に置換しているようで、毛皮に弾かれたようだ。

 どういう原理かは知らないが、赤ずきんから生えてくる狼男の部分は尋常でない頑丈さをしている。銃弾をくらってもこゆるぎもしないし、一度、地獄兵団の改造バイクの群れに轢かれ、踏みつけられ続けても怪我をした様子はなかった。

 一方、生身ともいえる少女の部分は狼男に比べると頑丈さ、強靭さに劣るようで、人間の力で容易に傷をつけることができる。現に先日死亡したマスク・オブ・ゼロの細剣(レイピア)の一撃で刺し貫くことができた。

 赤ずきんが狼の腕を振り上げる。瞬間、跳ね起きた小鳥遊が数発、真正面から数発銃弾を撃ち込む。あかずきん、それを右の狼腕で防禦。

 狼腕が目隠しになったところで、小鳥遊が右側へと回り込む。

 先ほどまで小鳥遊がいた場所に左の狼腕が振り下ろされ、轟音をたて、床が凹み、巻き込まれた死体から血がはじけ飛んだ。

 仮面の下、乾いた唇を舌でなめて、にやりと小鳥遊が笑い銃を構える。右手はまっすぐ、左手は僅かに斜角をずらして。発砲。マズルフラッシュが数度煌めいた。

 弾丸は吸い込まれるように赤ずきんに打ち込まれ、これまでと同じように赤ずきんが狼腕に防御され、そして、背後から頭に衝撃を受けて前へと仰け反った。

 弾丸を角度をつけて壁に打ち込み、反射させ、後方から撃ち込んだのだ。

 しかし、どうやら、頭巾の下も狼の身体に変換してるようで、仰け反っただけでダメージは少なさそうだ。

 後頭部を撫でている赤ずきんを尻目に、両手の拳銃(リボルバー)を乱射しながら、窓へと近づく大鴉(レイヴン)

 窓から脱出する気かな、と赤ずきんは思い、スカートの下から出てきたオオカミの足が力いっぱい地面を踏み抜く。

 小鳥遊よりも早く窓側に近づき、とおせんぼうをするように小鳥遊の前に立ちはだかる。赤ずきんに右側へ回り込むように小鳥遊が移動しつつ、乱射。

 近距離からの発砲であろうと、赤ずきんは苦も無く受け止め、前進。小鳥遊が銃口を上下に向け、発砲。

 上下方向に斜めに発射された弾丸が挟み撃ちをする様に赤ずきんへ迫るが、それを後退して、赤ずきんは避ける。

 小鳥遊はその場に釘付けにする様に両手の銃を乱射しながら後退する。

「あはは、どうしますか、狩人さん?」

「そりゃ、決まってんじゃねぇか」

 狩人(レイヴン)は後退しながら――

「逃げる」

 そして、破壊された扉から一目散に逃げ出した。

「あ」

 先ほど窓を割ったのは、窓から逃げると思わせるための囮である。

 今までの攻防は扉の前に陣取った赤ずきんを移動させ、悟らせないためであった。

 「ずるい!!」

 赤ずきんは頬を膨らませて、狩人(レイヴン)の後を追いかけ始めた。

 

 

 息を切らしながら小鳥遊がビルの入り口から脱出する。

 赤ずきんを壁を蹴り上げ、狭いビル内を立体的に移動していたが、牽制に銃弾を撃ち込みつつ、最初に稼いでいた距離を活かして逃げ切ることができた。

「遊んでくださいよ!」

「お前と遊ぶのは楽しいが、実入りが少ないから断る!」

 走りながら、もぎ取った扉が投げつけられる。

 当たる寸前の所で小鳥遊が身を伏せて回避する。扉がかすめてずれた丸い鍔の帽子をなおしつつ、跳ねるように起き上がる。

 もう少し遅かったら頭が柘榴の様に破裂していただろう。仮面をつけて走ってるせいか、少し苦しい頭に、ぞくりと興奮を伴う恐怖が走った。

「――ああ、くっそ。我がながら度し難い」

 小鳥遊が、仮面の下でにやりと笑う。

 先ほどから何度か死にかけているが、それゆえに感じる、この背中がぞくりとする恐怖を、興奮を、小鳥遊は病みつきになるほど愛していた。

 壁に横に突き刺さった扉をチラ見しつつ、街角を曲がる。

 小鳥遊が目を見開いた、背後の赤ずきんに気を取られ過ぎていたが、どろりと腐敗したようなにおいを感じ、あわてて周囲を見渡した。

 この腐臭はは現実にはない匂いであり、彼の悪心感知で感じたにおいにすぎないが……何かいるということは確実だった。

 何かが羽ばたく音。月明かりが何かに遮られる。

 上と感づいたときにはすでに手遅れ、人型の何かがこちらに急降下してきている。

 咄嗟に、両手を交差し鋭い鍵爪の一撃を防御する。

 自らを覆っている黒い布が裂け、血が零れる。

 それは両手が蝙蝠の羽となっている超人(サイオン)であった。

 彼は再び羽ばたき空へと舞い上がる。

 小鳥遊は軽く腕を振るい、動作を確認。痛くはあるが、我慢は出来る範囲。銃を撃つのに支障はなさそうだ。ならば問題はないと、判断した。

「ちっ、はずれをひいちまったか。これもお前の差し金か、赤ずきん?」

 やれやれと首を振りつつ、赤ずきんに視線を送るが、彼女も不思議そうに首をかしげていた。

「あれ、なんでここにいるのですか蝙蝠さん?」

蝙蝠男(バットマン)? いや、男蝙蝠(マンバット)だな、ありゃ」

 ふわりと、蝙蝠の超人(サイオン)が街頭の上に降り立つ。

「キキキキ、それは――」

 甲高い笑い声、耳に不快に響く音に、大鴉(レイヴン)が片耳を抑える。

 見た目が蝙蝠だけあって、超音波の能力ももっているのかもしれない。

 巨大な耳、蝙蝠がそのまま人型になったような彼はにたりと笑う。

 そして、彼の乗っている街灯の下から一つの人影が出てきた。

「あなたを連れ戻しに来たのですよ、あかずきん」

「…………あ、大祖母(グランマ)

 それは車いすに乗った品の良い感じのする女性であった。

 丸い球体のついた車いすは介助者もなく、彼女自身が押してるわけでもないのに自動的に移動している。

 黒く薄い布が垂れた帽子をかぶっており、半透明なその布が目を隠していた。

 白い手袋に、黒い喪服のようなドレスを着用しており、若々しい見た目に反して落ち着いた、幾年月を経たような雰囲気を醸し出している。

「この大事な時期においたが過ぎましたね、さすがに見過ごすことはできません。さぁ、帰りますよ。帰ってきついお仕置きです」

「嫌です! ボク、やっと会えたのに、まだ遊んでもらってないのに帰りたくありません」

「聞き分けのない子ですね」

 大祖母(グランマ)がため息をつく。

「そろそろお祭りを始めるのはあなたも知ってるでしょ。それに、私達がつかってる家族の1つをつぶしましたね、あかずきん」

「うん」

「さすがにそれは見逃せませんよ。なんでそんなことをしたのですか」

大鴉(レイヴン)に会いたくてやりました」

「そうですか……そうですか」

 赤ずきんの言葉を聞いて、事態を静観してた狩人(レイヴン)へと視線が向く。

 薪が燃える匂い、どうやら怒りを抱いているようだ。それは小鳥遊に向いている思われる。

 その動作に呼応して、街角や塀の裏から、ザ・カーニバルの怪人たちがぞろぞろと現れる。小鳥遊は、「やっぱり囲まれていたか」と思い、壁にもたれかかっていたまま、ため息をつく。

「あなたですか?」

「何がだ」

「あなたが赤ずきんを誑かせたのですね?」

「は?」

 大祖母(グランマ)狩人(レイヴン)を睨みつける。

 冗談を言っているようではなく、その眼は本気だった。

「彼女は乱暴なところもありますがいい子なのですよ。何か理由がなければこのようなことをするはずがありません。ならば、あなたが誑かした以上の理由が思い浮かびません。だから、白状しなさい。赤ずきんに何をしたのです?」

「老眼鏡買えよ、ババア」

 ザ・カーニバル。

 奇怪な行動原理を持つ犯罪組織(ヴィランズ)と聞く。

 彼らはあらゆる美を汚す――すなわち、各々の美意識(フェチズム)に応じた犯罪を行い世に仇なし、現在が楽しければいいという刹那的な狂人集団と小鳥遊は聞いていたが、どうやらその風評に間違いはないようだ。

 ある町ではサーカスの講演を行い、その講演の最後に客人たちを爆殺し、そのまま爆破テロを行ったとも聞くが、どうやら彼らを見ているとそのような後先を考えないことをしてもおかしくない雰囲気をがある。

 そして、どうやら目の前の大祖母(グランマ)はおそらく“家族”――多分、ザ・カーニバルの団員達を指す――に対して多大な思い入れがあり、彼らが不都合なことをするのは、ザ・カーニバル以外の人間に介入があったからだと、思い込んでいるようだ。

 これも1つの思い込み(フェチズム)か。

「つーか、赤ずきんを引き取って帰るならさっさと引き取って帰ってくれ、俺は今日、損続きだからさっさと帰りたいんだよ」

「えぇ、ボクとの関係は遊びだったんですか?」

「……!!」

 口元を抑える大祖母(グランマ)

「おい、火事の現場にガソリンを撒くな、赤ずきん」

「先ほどだって大鴉(レイヴン)、乱暴に扱ったじゃないですか」

「やっぱり、あなた赤ずきんにひどいことを……!」

「微妙にあってるから否定しづれぇ……」

 大鴉(レイヴン)は頭を抱えて溜息をついた。このままだと会話が進みそうにない。

「んで、さっさと引き取るなら引き取って帰ってくれ、そろそろ警察も来るだろうし」

「もちろんです」

 大祖母(グランマ)が、すっと片腕を上げる。

 彼女の背後に控えていた異形の集団が、すくりと動き出す。

「あなたを始末した後に、ですね」

 複数人のピエロ、街灯の上に立っている蝙蝠男、ガロンハットをかぶり農業用の巨大なフォークを背負った全身タイツの男、ナイフでジャグリングしている腕が4つの女、他にも多数の異形の集団。

 夜闇の中で彼らがゆらりと動き出した。

 ざらりとした舌触りを感じ、小鳥遊が顔をしかめる。

 仮面がなければ、唾でもはくのだが、軽くため息を吐く。

「結局こうなるか……くそったれ(Fuck)!!」

 小鳥遊(レイヴン)(リボルバー)を構える。

 矢継ぎ早に8本のナイフが投擲される。それを撃ち落としなら小鳥遊がこの場から離脱しようと走り出す。

 耳障りな音、宙を舞う男蝙蝠が胸を膨らませて息を吸ったかと思うと、甲高い衝撃波を伴う超音波を小鳥遊に放つ。

 小鳥遊は銃を消し、耳を抑えて、それを防御する。耳の奥に響く音、鼓膜が縮み、高所に飛んだ時のような締め付けられる痛みが苦しめられる。思わず、その場に立ち止まってしまう。

 街灯が音により割れ、硝子が飛び散る。

 その小鳥遊の頭上に、ラジコンの飛行機が飛来、玩具と思わしき小指ほどの爆弾を落とす。小鳥遊が歯を食いしばって、その場から転がり、避けると、彼が先ほどまでいた場がボンッと音をたて、小規模の爆発と共に白い煙が上がる。

 男蝙蝠の超音波攻撃が止み、頭がくらくらするものの行動する余裕はできた。

 ならば、と周囲を狩る見渡したところで、足元に1つの影。

 先ほどナイフを投げつけてきた4つ腕の女が懐に潜り込んできた。女は地を這うように片手を地面につけ、3つの支えで地面を進んでくる。

 新たに出現させた拳銃(リボルバー)を女に打ち込めたのは長年の鍛錬の成果だ、半ば反射的に打ち込んだそれを女は右方向に避ける。しかし、それは罠。自らの左腕をあげると、そこには小鳥遊が右手でもう1つの拳銃(リボルバー)を出現させていた。

 発砲。マズルフラッシュ。

 しかし、その弾丸は外れる。女は腕だけで跳躍――さすがはサーカスを隠れ蓑にしてるだけあって身軽なようだ――小鳥遊を飛び越えながら、袖口から滑り取り出した4本のナイフを小鳥遊へと投げつける。

 小鳥遊は右腕を首に回し致命傷を避け、左手の拳銃(リボルバー)握り手(グリップ)で顔に向ってきたナイフを弾く。

 残りのうち一本は肩に刺さるが、浅い。行動に支障はないと判断した小鳥遊は、振り向きざまに数発、女に打ち込むが、彼女は連続してバク転し、それを回避する。

 口笛を吹いて、それを賞賛しつつ、小鳥遊は次の行動について思案する。

 このまま包囲網の中にいれば、いずれ小鳥遊は狩られてしまうだろう。小鳥遊は決して耐久力に優れる方ではない――むしろ、耐久力自体は人間と変わらない。

 魔弾自体は大火力というわけではなく、この状況で全員を投げるほどの火力は出ない。

 赤ずきんは何やら大祖母(グランマ)と話している。

  逆転できるだけの火力がなく、増援は期待できず、サイレンの音も聞こえない。警察や他のヒーローたちは動いていない用だ。

「きひひひっ……」

 あまりの危機に小鳥遊は笑いが出た。

 最高である。

 この状況を切り抜けられたらきっと楽しいだろう、と小鳥遊は左右のホルスターに拳銃(リボルバー)を出現させる。

「さぁ、来い。お前ら。俺はここにいるぞ、見事、取って見せろよ」

 ずれた丸い鍔突き帽子を拳銃の先で突き上げてなおす。

 背後はコンクリート壁。宙を舞う男蝙蝠、ラジコンの飛行機。

 目前には4つ腕の女や巨大なフォークを持ったガロンハットの男、上半身で二人の男女がくっついてる異形、蛙の様に座り込む少年などなど怪人がずらりと並ぶ。

 宙を舞う男蝙蝠が大きく息を吸う。先ほどの超音波攻撃。

 それが放たれる前に、蛇のように右手が腰の拳銃(リボルバー)に伸び、銃を引き抜くと男蝙蝠へと射撃。

 男蝙蝠は、大きく羽ばたき空へと飛翔。弾丸が彼の目下、見当はずれの方向へと飛んでいく。

 飛んでいく――はずだった。

 男蝙蝠には何が起こったかわからなかっただろう。

 射出された弾丸は不可思議な力で宙を曲がり、男蝙蝠を追跡すると、そのまた下から脳天までを一気に貫いた。

 小鳥遊がうち放ったのは生涯に6発しか撃てない、悪魔の弾丸――魔弾であった。

 これは小鳥遊が思い描いたとおりに狙った場所に対して、因果を捻じ曲げ必中する弾丸である。

 大祖母(グランマ)が悲鳴を上げる。

「マンバット!?」

「まんまかよ、おい」

 その悲痛な叫び声は“家族”が殺されたためか。

 どうでもいい疑問を流しつつ、蛙のような少年が下を伸ばしてくる。その舌を躱し、躱しざまに反撃に二発、マズルフラッシュがたかれる。

 蛙の青年は腹部に弾丸を打ち込まれ悶絶し、胴体部で二人の男女が分かれている異形の男性の頭に穴が開く。片割れらしき女がぎょっと目を見開くが、続けて飛んできた弾丸に沈黙させられた。

 その異形が倒れた後ろから一人のずんぐりむっくりな男がそのコートを大きく開く。

 コートの下から現れた脂肪たっぷりの太った腹。その腹部はどこかに繋がってるようで、テントらしき背景に道化師(ピエロ)が大砲に火をつけている。

 小鳥遊は連射。途端、男が巨大化し、銃弾は全て腹部へと吸い込まれ、どこかへつながっている景色へと流れていった。

 銃弾によりピエロが倒れるが、しかし、時すでに遅し。轟音を立てて、大砲が発射される。

 迫りくる大砲。回避を優先していれば射線から逃れることができたかもしれないが、今は無理であった。

 周囲の時間が遅くなる、周りの光景がゆっくりと見え、不自然に思考が加速したように感じ、小鳥遊はその光景を眺めるように見ていた。

 ああ、これで終わりか、と楽しそうに笑う。

 そして、最後に反撃せんと、腕に力を込めて。

 横から突撃してきた何かに吹き飛ばされ、壁に激突する。

大鴉(レイヴン)はボクの遊び相手です!」

 大砲を狼の腕がわしづかみにして受け止める。体重が軽いためか、赤ずきんの身体が後ずさり、地面に狼の爪によるひっかき傷が刻みつけられる。

 ふわりと金色の髪が揺れ、赤く長い頭巾が腰元まで垂れ下がる。

「……手加減しろよ」

 壁にたたきつけられ、咳ごみながら小鳥遊が立ち上がる。

 背中と脇腹がずきずきと痛み、杭を打ちつけられたかのように胸が苦しく息苦しいが、とりあえず、立ち上がることはできた。

「まったく、どういうことだ?」

「遊んでください、狩人(レイヴン)さん。ボクはあなたと遊びに来たのです、ですからボクが壊す前に壊されると困るのです」 

「いま死ぬか、あとで死ぬかの違いじぇねーかな、それ。まぁ、なら共闘いっとく?」

「わーい、なら、このあとで遊びましょう!」

「いいぞ」

「え?」

「一緒に共闘する代わりに、お前と遊んでやる。それでいいぞ?」

「本当ですか?」

「ああ」

「本当に? 本当ですね? 嘘ついたら許しませんからね?」

「嘘はつかねぇさ。ただし、一般人への被害はなしだからなー」

「えー」

「そこは頷けよ」

 よろりと立ち上がった小鳥遊が赤ずきんへと近づき、拳を突き出す。

 赤ずきんはよくわからないようで小首をかしげるので、「こういときは軽く拳をつきあわせるんだぜ」と小鳥遊が言うと、ぱぁと顔を輝かせて、拳を突き出した。

 ただし、加減はしてないようで鈍い音と共に、ごちんと拳がつきあたり、小鳥遊は痛そうに腕を振るう。

「赤ずきんちゃん。どうして……」

「ごめんなさい大祖母(グランマ)

「ダメ、ダメですよ、赤ずきん。その人は悪い人です、一緒にいてはあなたにも危害が及びます。ただでさえ、仕込みが終わろうとしてるのです、あなたも巻き込まれてしまいます」

「仕込み……?」

 小鳥遊が疑問を呈する。

 大祖母(グランマ)から悪意の匂いがしないのが逆に怖かった。

 彼は赤ずきんを盾にしつつ、牽制の弾丸を撃ち放つ。

 縮小したずんぐりむっくりの男が急いでその場から逃げ出した。壁の裏に逃げ込んだ男に、小鳥遊が電柱に銃弾を撃ち込み、軌道を変えて、足に打ち込むと、勢いをつけたままころがり、地面に思いきり転んだ。

「何を企んでやがるんだか」

「教えるはずありません。それよりも赤ずきんちゃん。お願い、戻ってきて」

 赤ずきんが首を横に振る。

「やっと見つけた、初めての遊び相手ですから嫌ですよ。それにボクもよくわかってないけど、しばらく一緒に遊んでみたいのです。だから」

 赤ずきんが言葉を切る、大祖母(グランマ)を見つめて、申し訳なさそうに目を逸らす。

「だから、これは初めての家出です。ごめんなさい、大祖母(グランマ)。ボク、悪い子になります」

 大祖母(グランマ)が何か言おうとしたところで、小鳥遊が発砲。銃弾がかすめて言葉が途切れる。

 遠くでサイレンの音が聞こえてきた。

 先ほどから騒ぎや発砲音から警察に連絡がいったのだろう。

 大祖母(グランマ)が何かを噛むように沈黙し、小鳥遊(レイヴン)を睨みつけた。

「……あなたは絶対に許しません。あかずきんに何かひどいことをしたら地の果てまで追いつめますからそのつもりでいなさい」

「おー、怖い怖い」

 小鳥遊が肩をすくめて大祖母(グランマ)の怒気を受け流す。

 そして、怪人の集団が少しずつ、夜闇に溶けるように退いていく。

 男蝙蝠や二つ叉の男女の死体も回収されたようで、すでにのこっていない。

「さて、俺達も逃げるべきだが……」

「え、今から遊ばないのです?」

「捕まるわ!」

 赤ずきんが不満そうに頬を膨らませる。

「とりあえず、場所を変えよう。少し遠回りして、家に行くぞ」

「え、大祖母(グランマ)が知らない人についていってはいけないって……」

「おい、悪い子。さっき言ったことを思い出せ」

 と、赤ずきんの腕を引いて、小鳥遊(レイヴン)もその場を後にするのだった。

 

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