赤ずきん! リメイク   作:イーストプリースト

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『3話 おばあさんの家はどこ?』

 鼻を刺激する刺激的な匂い。小鳥遊の経験からすると、これは殺意の匂いである。

 それを知覚した瞬間、小鳥遊がふとんを跳ね除け、ベッドから転がり落ちるように離れた。

 軽い金属音。「あ、痛っ!?」という戸惑った声が聞こえた。

 見ると入り口のところで赤ずきんが頭を摩って痛みを散らしていた。彼女の足元には小鳥遊が昨夜しかけておいた、たらいが落ちている。

 赤ずきんの手にはナイフ。昨夜に仕掛けておいた罠にひっかかったのだろう。

「……なにしてるんだ、赤ずきん?」

「ご飯を作ったのになかなか起きてこないのでナイフ(これ)で起こしに来ました」

「そのまま永眠しちまうわっ!」

 赤ずきんが小首をかしげる。

「それよりも朝御飯つくりましたから、起きてください」

 自らの頭を摩る。頭巾の下から露出してる狼の耳がぴくぴくと動いた。

「え……、はっ? お前、料理できたの?」

「あ、酷いですね。ボク、これでもザ・カーニバルにいた時は家事担当だったんですよ?」

 呆気にとられ目をぱちくりとする小鳥遊に対して、あかずきんが頬を膨らませる。

「もう……、とりあえず冷めたらまずくなりますから早く降りてきてくださいね?」

 そういって、赤ずきんが踵を返し部屋から出ていった。

 

 

 昨夜、ザ・カーニバルから逃れた後、赤ずきんに二股に分かれたマントを着せ、念のために遠回りする形で、同じ道を何度も繰り返し通ったり、唐突に道を変えたりして尾行に気を付けて家へと戻る。

 そのころには夜も更けており、二人とも疲れていたのか、赤ずきんに空いている客間の布団だけを指示して、小鳥遊は速攻で布団に入った。あの後、朝まで何もなかったことを考えると、赤ずきんも早く寝たのだろう。

「……それにしても料理できるのはマジで意外だわ」

「さすがに酷いですよ?」

「いやー……だってなぁ……」

 小鳥遊視点から見た赤ずきんは、出会うたびに喜々として殺しに来る相手でしかなかった。そのため、おいしい料理を作れることは意外でしかない。

 そして、ぱくりと小鳥遊は目玉焼きを口へ運んだ。

 赤ずきんはソースを、小鳥遊は醤油をかけて目玉焼きを食べている。

「それにしても……どうしたもんかなぁ……」

 小鳥遊が頭を抱える。

 ザ・カーニバルに本格的に狙われてる以上、しばらくは学校を休んでそちらの対処に集中したいところである。仮病に装っての休暇届けや闇医者に支払う偽装書類の出費も頭が痛いところである。

ザ・カーニバル(あいつら)が何をしようとしてるかは知らないのか、赤ずきん?」

「ボクはほとんど知りませんよ。よくわからないボンベ?を運んだりした程度ですし。それもトラックにもっていくまでで、どこにもっていったかは知らされてないです」

「別に止める義理はないが、放っておいてもいいことなさそうだしなぁ……」

 小鳥遊が溜息を1つ。

「とりあえず、偵察と強襲を兼ねて、赤ずきんが知ってるザ・カーニバル(あいつら)の居場所、教えてくれないか?」

「あ、いいですよ。ボクも皆で遊んでみたいですし」

「………、聞いた俺が言うのもなんだが、いいのか? 元々は仲間だろう?」

「??? みんなで遊ぶのは楽しいですよ?」

「裏切りじゃねーのか、つー話なんだが」

「いつもは構ってくれないから、いまなら遊ぶのにいい機会と思います!」

「あーうん、何も考えてないのな、よくわかった」

 能天気に笑う赤ずきんに小鳥遊がこめかみを抑える。

 何を話しても暖簾に腕押しな気がするが、今、彼にとっての味方は赤ずきんぐらいである。

 他のヒーローとは折り合いは良くなく、警察に至っては殺人者としてマークされている――別にヒーローに殺人許可は出てないのだから当然だ――小鳥遊にとって、彼の身元がばれていないのは多大な利点であり、それを放棄してまで共闘できる相手となる、目の前の赤ずきんぐらいなのである。

 どのくらいの付き合いになるかわからないが、その相手が話が通じてるか通じてないかよくわからない相手というのは頭の痛い話であった。

 それはそれとして、“悪心感知”を持つ小鳥遊としては、日常的に感じる人の悪心――すなわち、腐臭を赤ずきんからあまり感じず、過ごしやすい相手ではある。

 しかし、それは、赤ずきんが悪意も無く相手を殺傷できる相手であるという証明でもあるため、油断はできない。

「それはそれとして昨日の約束、果たしてもらってないですよ」

「それなんだが、1日の終わりに1回、1時間ぐらい戦うじゃダメか?」

「えー……嫌です、もっともっと遊びたいです!」

「俺はそんなに頑丈じゃねぇよ……」

「なら、今から遊びます?」

「それも困るんだが……なら、こうしようぜ」

 小鳥遊が拳銃(リボルバー)を具現化し、留め金を外す。

 1つの弾丸だけ指で押さえ、残りの弾丸を弾倉(シリンダー)から滑り落した。

 そして、弾倉(シリンダー)を回転させる。

賭け(ロシアンルーレット)をしようぜ」

 そして、拳銃(リボルバー)を机の上に置く。

「最後まで引き金を引いた奴の勝ちだ。お前が勝ったら好きなだけ遊んでやる。だが、俺が勝ったら、遊ぶ(たたかう)のは1日1時間だけ。それまでに悪いことしたら遊ぶのはなし。あとついでに、ザ・カーニバル相手に戦うのを手伝うつーことで」

「何か条件が不平等ではないですか?」

「お前は狼化を使っても構わないし、先に撃っていい。ああ、念のために弾倉(シリンダー)をいくら回してもいいぜ」

「本当に約束を守ってくれますか?」

「もちろんだ」

「本当に? 本当に守ってくださいよ……?」

 不安げな調子の赤ずきんに小鳥遊は鷹揚にうなずた。

 おずおずといった調子で、赤ずきんが拳銃(リボルバー)を手に取ると、側頭部に当てる。

「おっと待った。拳銃をそこに当てても即死はできないぜ。やるなら、拳銃を咥えて斜角を少し上に向けるか……眉間から狙うか、だな」

 小脳か脳髄を狙うんだよ、と小鳥遊は言う。赤ずきんはしばらく銃口を眺め、逡巡した。

「あのボクが銃を咥えて、次の大鴉(レイヴン)の番になったらどうするのです?」

「おなじように咥えるに決まってんだろう」

「………」

 しばし、銃口を眺めて、赤ずきんが困ったように沈黙し、

「あの、眉間にしましょう。眉間。大祖母(グランマ)がつきあってもいないのにキスしたりしてはいけないっていってました」

「……あー、あー、なるほど間接キスな。お前、意外とそういうの気にするタイプなのな」

「む、ボクも乙女ですよ?」

「はははは。ナイスジョーク」

 赤ずきんが頬を膨らませて、拳銃を眉間に押し当て、引き金を引いた。

 撃鉄が下ろされ、かちりと間の抜けた音が響く。

 銃弾は発射されない。

「まぁ、眉間(みけん)では案外死なないんだけどなぁ。ちょっと待ってろ」

 小鳥遊が席を外し、そしてすぐに戻ってくる。手には透明なビニール袋が3枚、そして、輪ゴムを持っている。

 小鳥遊が拳銃(リボルバー)を手に取り、

「間接キスが嫌ならこうすりゃいいだろう」

 その銃口を3枚の袋で覆い、口に咥えた。

 そして、引き金を引く。

 結果はさっきと同じだった。

 銃弾は発射されない。

「ほれ」

 小鳥遊が1枚目のビニール袋を外して、あかずきんへと手渡す。

「デリカシーがありません……」

 心なしか落胆したようなあかずきん。

 彼女は眉間に銃口をくっつけ、引き金を引いた。

 同じく撃鉄が落ちる音がして、弾倉(シリンダー)がまた1つ動く。

 銃弾は発射されない。

「まぁ、そういうなよ。むしろ、そういうの気にするのがマジで意外なんだが」

大鴉(レイヴン)の中でボクはどうなってるのですか」

「その赤い頭巾の由来を聞いた限り、あんまり気にする類には思えなくてな」

「ええ、返り血が目立たないからこの赤ずきんは大好きです。可愛いでしょ?」

 小鳥遊が拳銃(リボルバー)を咥え、引き金を引く。

「かわいいのは認める」

 そして、袋を外すと赤ずきんへと渡した。

「しかし、それ以外の部分がマイナスすぎるんよなぁ、お前……」

 ふんわりとした金髪にくりっとした金色の眼。

 白い肌にぱちりと長い睫が彼女の丸い目を彩っている。

 時代錯誤のような赤い頭巾であるが、可憐な少女である彼女には似合っていた。

 本当に見た目は可憐なのが罠だよな、と小鳥遊は目を細めた。

 彼の頭の中で疑似餌という言葉が思い浮かぶ。

「むむむ。……、けど」

 赤ずきんがためらいなく引き金を引く。

銃弾は発射されない。

そして拳銃を机の上に置き、満面の笑みで両手を挙げて万歳する。

「賭けは僕の勝ちです!」

 5回目となる赤ずきんの手番。

 銃弾は発射されなかった。

 となれば、必然――、弾が入っているのは最後の弾倉(シリンダー)だ。

「はは、なにいってるんだ?」

 小鳥遊が、机の上に置かれた拳銃(リボルバー)を手に取り、口に咥える。

 歯でしっかりと噛み、斜角をわずかに上げる。

 通常、生物の死とは小脳や延髄の破壊による身体生命維持に必要な部分が破壊され停止することだ。

 大型の拳銃であるなら、頭を打ち抜けばそれらの部分に損傷を与える可能性は高いが、拳銃(リボルバー)は違う。

 弾が小さいため、ともすれば致命的な部分に当たらない可能性があるのだ。

 だから、拳銃を咥え、自ら延髄の部分を狙う。

 もし、弾がそれたとしても発射の衝撃で延髄が破壊される可能性が高い。

 故に、小鳥遊の今の態勢は必然的に死亡する可能性が高く。

 そして、彼はためらいなく引き金を引いた。

 銃弾は発射された。

 

 

「せいぞんせんりゃくぅー、ってやつだ」

「わーい……痛っ」

 いつものペストマスク姿へと変身した小鳥遊。

 テンションの高いその言動に、赤ずきんがぱちぱちと拍手して追随しようとして、痛みに顔をしかめた。

 赤ずきんの右手にいくつかの裂傷がはしっており、未だ肉が蠢き直っている途中であった。

「んー、人間とは思えない早さの治り方してんなぁ」

「傷者になった責任をとって遊んでくださいね?」

「誤解を招くようなことを言うなよ」

 引き金が引かれた瞬間に伸ばされた赤ずきんの手が弾倉(シリンダー)ごと銃身を握り潰したため小鳥遊は無傷であったが、衝撃でしばらく呻いていた。

 暴発に近い状態となったが、幸い銃の暴発時の怪我の原因となる破片は赤ずきんの手の中に納まり、衝撃も彼女の手により大分緩和していたため小鳥遊に損傷は少なかった。

 代わりに赤ずきんの手がずたずたの酷いことになっていた。

 白い皮膚に容赦なく鉄片が刺さり、血がにじみ出ていたがためピンセットで1つ1つ取り除き、簡単な手当てを終えた。

「よーし、静かになー、一応隠密行動してるから」

「テンションが高いのは小鳥遊の方だと思いますよ?」

「まぁな」

 そして、朝食が済んだ後、闇医者に偽の診断を書くように依頼したり――無駄にぼったくられた――学校へのしばらく病欠を報告したり忙しかったが、それらを片付けた後、赤ずきんの知る、ザ・カーニバルの拠点の一つへと訪れていた。

 赤ずきんが言うにはいくつか拠点を持っているらしいが、知っているのはここだけらしい。

 昨日と同じく郊外のはずれにある人の寄り付かない場所に立っている普通のビルだ。

 ここになにやらボンベのようなものを運んだりしたらしい。

「妙だな」

「何がですか?」

「悪心を感じねぇ」

「……悪心ってなにですか?」

「あー、言ってなかったか……。まぁ、わかりやすくいうなら悪い心だ。こう人を傷つけようとか、こいつむかつく、とか。お前みたなあんまり感じねぇ奴は例外で、たいていの人間には備わってるものなんだが……」

 ある程度距離が離れていても、小鳥遊は人の悪い心を感じ取ることができる。ならば、目の前のビルからも同じく感じ取れるはずなのだが、どういうことか悪心を一切感じ取ることはできない。

「んー、となると」

 あっさりと隠れるのをやめて茂みから小道へと出る小鳥遊。

 赤ずきんが首をかしげて、その後に追随した。

「隠れて侵入するんじゃなかったのです?」

「いや、もう出払ったあとだろうな。これ」

 長年共にあった感覚だけに小鳥遊はこの悪心感知を信頼している。

 この感覚にひっかかるものがないとなると、なんらかの対策が施されてるか、あるいは――相手が既にいないか、だ。

 今回は後者だと、小鳥遊は断定した。

「やっぱりな」

 堂々と真正面から扉へと入り、中を見渡す。

 中は既に引き払われており、道具や荷物などは1つも残っていなかった。

「既に引き払った後か」

 何か置いてあったらしきところに誇りが積もっており、それ以外の場所との埃のつもり具合が違うところを見ると、直近まで何かあったのは確かなようだ。

 小鳥遊たちも決して遅くはないのだが、昨日ザ・カーニバルと遭遇してからすぐに拠点を動かしたのだろう。

 そこまでして守る計画が、この街で進行しているのかと思うと、小鳥遊はへの字に口を曲げた。

「とりあえず、しばらく探索してみるかね」

「家探しですか?」

「だいたいあってるな」

 しばし、二人はビルの内部を物色したが、特にめぼしいものは出ず、「金の目のものぐらいおいていけよ」と小鳥遊は愚痴っていた。

 

 

 くるりくるりと車輪が回る。

 ひじ掛けの先端が球状となっており、それに触れている手から神経の電気信号を読み取り、その大型の車椅子は稼働する。

 小柄な大祖母(グランマ)がすっぽりと入るほど大きく、椅子も通常の者とは違い、柔らかいクッションとなっている座・背もたれ。彼女の意志でその背もたれや首の支えの角度を調整することができる。

 その車輪も4つではなく6つとなっており、車いすの車輪というよりは自動車の車輪のような分厚いモノとなっている。

 特性の車椅子に座り、ゆったりと動いている大祖母(グランマ)であったが、その様子は落ち着いているとは言い難かった。

「大丈夫かしら、赤ずきん。あの度し難い(からす)に酷いことされないといいのだけど……」

「……逆、ではないか?」

 その隣を歩く4本腕の女性が困惑したようにつぶやく。

 大祖母(グランマ)は家族と認めた相手には懐深いのだが、盲信といえるほど相手を好意的に捉えるのが、欠点であると4本腕の女は思う。

 多腕というだけで気味悪がれれ捨てられた身としては、居心地の良い場所を用意してくれた大祖母(グランマ)のことは嫌いではないが。

 身内を殺した相手を心配する気など毛頭ないのだが、あの赤ずきんと共にいるのなら今頃、殺されているのではないかと多腕の女は思う。

 なにせ、あの赤ずきんときたら、遊びと称して出会い頭に殴りつけてくるわ、無邪気な顔で放火してくるわと、やりたい放題であった、その上、殴り返されたり、復讐されても喜んでいるのだから、手に負えないものだった。

 結果的に、彼女を気にかけていたのは大祖母(グランマ)ぐらいであったが、自業自得いうものだろう。

「それでお祭り(カーニバル)計画の方はどうなっております?」

「問題なし。X化合物は各地に配置中」

「よろしい。ああ……これでみんな家族になれますね。とてもいいことです」

 にこにこと柔和な笑みを浮かべる大祖母(グランマ)

 多腕の女も来るべく祭りの日を思い笑みを浮かべた。

 

 

 陽射しが窓から差し込む。

 かつては賑やかだったビルの内部であったが、今は外から入る雑音だけが響いている。

 風の音、虫の鳴き声、車の騒音。

 赤ずきんは廊下を歩きながら、かつての光景を幻視する。

 所せましと並んでいた箱、あの廊下を曲がった先には大きな部屋があって、そこに猛獣たちが檻に入れられ飼われていた。

 ふと、窓から外を覗くと、そこから見えるビルの前に広がる空き地が見える。

 つい先日まで、赤ずきんが慌ただしく洗濯物をもって歩いていた空き地であった。

 今はそれらすべてが夢だったように消え去っている。

 ふと、胸に去来する不思議な感覚に赤ずきんは首をかしげる。

 かつて通った学校が廃校になったと聞いたような不思議な感覚。

 赤ずきんにはそれが何なのかわからなかった。

「オオカミさんはわかりますか?」

「gruu?」

 赤ずきんが頭巾の中に話しかけるが帰ってきたのは唸り声だけだった。

「何に話しかけてるんだ、お前?」

「オオカミさんですよ」

 大鴉(レイヴン)が振り返って赤ずきんを見る。

 仮面で見えないが、きっと訝し気な目をしているのだろう、と赤ずきんは思った。

 小鳥遊は、内心、まぁコイツの電波は今に始まったことじゃないか、と納得して再び探索に戻る。

 ふわりふわりと羽のように二又に分かれたマントの先端が揺れている。

 その背中を見て、赤ずきんは考える。

 もし、この爪をあの背中に突き立てたらどんな反応をするのか、と。

 赤ずきんは鍵爪に変えた自らの手を小鳥遊の背中にかざした。

 鋭い人狼の爪が、小鳥遊の背後で、光を反射し、煌めいた。

 きっと柔らかい肉を引き裂き、脆い骨を簡単に折り、温かな内臓に届くだろう。

 けれど、一度、零してしまって簡単に殺したらつまらない。

 しかし、安心してください、ボクはお腹を縫うのは得意です、と赤ずきんは思う。

 だから、ちゃんと縫ってあげればしばらくは持つだろう。

 ああ、けれど、それをするともう遊んでもらえないかもしれない、と思い至り、赤ずきんははっとする。

 1日1時間とはいえ確実に遊んでもらえるのだ、それをふいにするのはとても持ったいないことではないだろうか、と赤ずきんは思う。

 けれど、いますぐ遊んでほしいのも事実である。

 本当のことを言うのなら、もっといっぱい遊んでほしいのだ。

 けど、遊んでもらえなくなるのは怖い……、と困ったように眉根を寄せるあかずきん。

 とりあえず、引き裂いてから考えようと、腕を振り上げようとした瞬間、小鳥遊の腕が蛇の如く自らの腰元へ伸び、拳銃(リボルバー)を抜くと、赤ずきんの眼前へと突き付けた。

「悪だくみかい、赤ずきん?」

 意を決した瞬間にそれを制される形になった赤ずきんの動きが止まる。

 予想していなかったタイミングで驚かされたに近い形になったため思考が一瞬止まったのである。

 いつもと違う悪心(あじ)を舌先で転がしながら、小鳥遊は言葉を続ける。

「やりたきゃやればいいと思うが、俺の方が早いから返り討ちにしても文句言うなよ?」

 ――あと、約束破ったら本気(マジ)で遊んでやらないからな。と小鳥遊が付け加える。

 そして、肩をすくめて、立ち止まった赤ずきんを放って進んでいく。

「……びっくりしたね、オオカミさん」

「gau……」

 頭巾の下から返事が返ってくる。

 多分、あのタイミングで撃たれても防げはした。しかし、それでも意識の外から唐突に拳銃をつきつけられ驚いたのは確かだ。

 まるで己の心を読んだような小鳥遊の動きに、赤ずきんは不思議なうれしさを感じる。

「ねぇ、大鴉(レイヴン)

「んー、何か見つけたのか?」

「違いますよ。ボク、いまとっても嬉しいのですけど、なんででしょう?」

「はぁ……? いや、俺に聞かれても知らねぇよ。精神感応(テレパス)じゃあるまいし」

「じゃあ、なんでボクの考えが分かったのです?」

「いや、全部はわかってねぇよ? ただ、お前から殺気を感じたから反応しただけだし」

「つまり。つまり、ボクのことを気に掛けて意識してくれてたのですね」

「まぁ……そうなるな」

 その答えに赤ずきんはにっこりと笑い、たったっと小鳥遊の横に並ぶ。

 ああ、話し相手がいるって楽しいな、と微笑み。

「なにしてるんですか、大鴉(レイヴン)。早く行きましょう!」

 困惑してる小鳥遊を置いて先に進んでいった。

 

 

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