赤ずきん! リメイク   作:イーストプリースト

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『8話 Q.――――――』

 

 日は高く昇り、騒乱はまだまだ止みそうにない。

 ビルの屋上から下界を覗いてみると、異形化した人員を相手に整列した機動隊の面々がポリカボネート製の盾でを壁を作りなんとか押し返している。

 耳を澄まさずとも、遠くで新たに乾いた発砲音が聞こえる。

 悪意も敵意も混じり合いすぎていて、把握するのも困難だ。

 轟音が響く、捕まっている手摺が僅かの震え、どこかでまた爆発が起こったのか、と小鳥遊は思った。

「それで、これからどうするの?」

 ふよふよとわずかに上下しながらワンダーガールが宙に浮いている。

 彼女は手のひらサイズの携帯電話を腰のポーチに戻しながら、小鳥遊へと尋ねる。

 まさか不倶戴天の相手であるワンダーガールとメールアドレスの交換をする時が来るとは思わなかった、と小鳥遊はスマートフォンを腰元のポーチへと戻した。

 よく壊れてなかったな、と小鳥遊は自分のスマートフォンに感心する。

 ばっさばっさ人を殺す小鳥遊と基本的に人死にを嫌うワンダーガールでは、根本的なところで合わないのである。

「俺はさっきった通りヤツラの本拠地に乗り込もうと思う。お前はピネロー……あー、くそ野郎がかどわかした人達の救出とか頼むわ」

 あと、ガーディアンシックス(G6)とかへの報告もなー、と付け加えた。

 ガーディアンシックス。

 超人(サイオン)改造人間(サイオン)魔法使い(ミスティック)機械使い(テクノマンサー)旧人類(ジャスティカ)異邦人(ハービンジャー)などなどに分類されるヒーローたちの代表で作られたヒーローチームである。実力はあるのだが、いかんせん数が少ないため、頻発する悪党(ヴィラン)の被害に後手に回っているのが現状だ。

 それでもヒーローたちの顔として深く認識されており、ヒーローと一般的に彼らを指し、在野のヒーローへの影響力も強い組織であった。

「まぁ……いいけど、死なないでよね。あなたみたいなのでも、死なれると気分が悪いんだから」

「むしろ、死んだほうが、これから出る死人が減ったんいいんじゃねぇのかな?」

 小鳥遊はくつくつと笑う。

大鴉(レイヴン)が死んだがボクが困りますよ。もっともっと遊びたいんですから」

「間接的に死ねっていうのやめろよ?」

 小鳥遊が自らの腹を摩る。

 もしワンダーガールが一度庇ってくれなかったら、死んでいたことだろう。

「……そういえば、聞きたかったんだけど、その子は誰なのかな」

「赤ずきん、だ。こいつが俺のところに押しかけて来たことがそもそも始まりなんだよ」

「え、大鴉(レイヴン)が誘拐したんじゃないの?」

「お前は俺がそんなことするように思うのか?」

 こくこくとワンダーガールが首を縦に振る。

 小鳥遊は頭を抱えた。このお人よしがそう思っているということは他の奴等はいわぬもがなである。

「いいか。俺は変態でもないし、誘拐するぐらいならさっさと撃ち殺してるからな」

「いや、誘拐も殺人も両方おかしいからね」

「そうですか? ボクは撃ち殺したり殺されたりする方が楽しいと思いますよ」

大鴉(レイヴン)、この子なんなの……?」

 物騒な物言いの赤ずきんに、ワンダーガールは目を白黒させている。

「頭がおかしいんだ、そっとしておいてやれ」

大鴉(レイヴン)、女の子はそれにひどいと思いますよ?」

 それに、と赤ずきんが付け加える。

「そろそろ行きません?」

 ちらりと赤ずきんがワンダーガールを見る。

 赤ずきんにしては珍しいじとりとした視線を受けて、ワンダーガールが不思議そうに眼をぱちくりとしている。

「な、何なの?」

「べっつーにー……です」

 っぷい、と赤ずきんが顔を逸らし、小鳥遊の裾を引っ張った。

 小鳥遊が面倒そうに視線をそらし、溜息を一つ。

「……俺達はそろそろ行くが、そっちはどうするよ、ワンダーガール」

「……私は救出と、この騒動を止める方に動こうと思うわ。また会えるかわからないけど、どうかあなたも無事にいてね、大鴉(レイヴン)

「あいよ。そっちもな」

 そして、ワンダーガールはあっという間に飛び去った。

 彼女の速度は隼もかくやというほどで、長くきらめく黒い髪をなびかせながら、ビルの下の争乱に加わり、瞬く間に異形化した人々を止めていく。 

 大きく息を吸ったかと思うと、相手を凍り付かせる息を吐き、誰かがビームを放出すれば同じく目からビームを撃ち返し、はたまた、高速で回転して竜巻を起こして一気に巻き上げていく。

 この分なら遠くないうちに、下の鎮圧は終わるだろう。

 小鳥遊がひとつ息を吐いた。腹部の痛みは止まらないが、事が終わるまでは問題なく持ちそうだ。

 赤ずきんがつまらなそうに下を見ている。暴力的な状況で彼女がそのような態度でいるのは珍しいものである。

 小鳥遊の裾を赤ずきんがひっぱり、

「ねぇ、早くいきましょう。ボクはみんなで遊びたいです」

 小鳥遊は片目を閉じて、先ほど悪心感知で読み取ったことを思い出す。

 彼の悪心感知は、悪心を五感で見たり読んだり舌で転がしたりできるが、同時に相手の記録を読むことも可能である。

 それでピネローの記録を読み取ったわけである。

 読み取った記録のうち、ここに来る前に居た、山奥にある寂れた山荘。

 恐らくは資産家のものと思われる豪邸、そこにザ・カーニバルの面々が陣取り、荷物などを運び込んでいた。

 推測であるが、そこを今の本拠地にしているのではないかと、小鳥遊は思う。

「ま、あとはいってみて、だな」

 確証はない。しかし、何の確実な手がかりがない以上、直接行ってみるしか手はなかった。

 

 

 赤ずきんに抱えられ、ビルの上を伝い、山の中へと入り、コンクリートで作られた山脇の道路や木の上を大きく飛び跳ね、小鳥遊達は悪心感知で覗いた山の奥へとやってきた。

 傾斜の大きな山面から、中腹ほどにある平地に設置された大きなテントを見ている。

 ここから周囲を見渡すと、反対側の山にある山頂へと至るロープウェイのワイヤーがおぼろげに見える。

 本拠地と断定したものの、確実にこの場所が本拠地という確証はなかった。

 しかし、ピネローの心の中を覗いたときに様々な物資や化合物Xを保管しているらしい場所はここのようだ。

 場所の通報自体はワンダーガールから伝わると思われるので、小鳥遊達は落とし前を付けることを優先することにする。

 少なくとも小鳥遊と赤ずきんに執着しているのは、ザ・カーニバルの一派である大祖母(グランマ)のはずだ。故に、大祖母(グランマ)さえ討てば、当面はザ・カーニバルの目から逃れることができる。はずだ。

 もしできないのであれば。

「なぁ、赤ずきん」

「なんですか?」

「もし、あいつら手を引かなかったら」

 赤ずきんが首をかしげる。

「あいつらが全滅するまで一緒に殺しまわろうな」

「! はいです! いっぱい殺して遊びましょう」

  やっぱり大鴉(レイヴン)と一緒にいると楽しい、と赤ずきん。

 誰に祈るかはわからないけれど、できれば、ザ・カーニバルのみんながこれであきらめなければいいな、と願う。そうすれば、大鴉(レイヴン)と一緒にみんなで遊ぶことができる。  

 赤ずきんの顔が自然とほころんび、大きな裂傷の入った手を撫でた。

「おかしいな……」

 小鳥遊が首をひねる。

 彼の持っている異能の1つ悪心感知。

 人の悪なる心を感じ取る異能であるが、それを用いても、あのサーカスの中から悪心を感じることができない。

 赤ずきんが狼の耳をぴくり動かし、耳をすまし、鼻をくんくんと鳴らして、んー、と考え込む。

「何も感じ取れない、か?」

大鴉(レイヴン)もですか。ボクの耳や鼻でもだれがいるかわからないです」

「もぬけのからなのかねぇ……」

「わからないです。入ってみますか?」

「物は試し、立ち往生しててもしょうがねぇしな」

 誰もいなくても何かの手がかりがあるかもしれない、と二人はテントにむかう。

 ぬかるんだ地面を踏みしめ、青い匂いの草を踏みつけ、テントが張られている平原に足を踏み入れ――

「どういうことだ……?」

 瞬間、小鳥遊は一人でテントの中にいた。

 

 

 薄暗い、赤いテントの下。

 小鳥遊はステージの上に立っており、周囲は木の板でできたリングとなっている。

 木の板には楽しげに風船を配るピエロの絵と、それを笑顔で受け取る子供たちが描かれており、板から隔離された後ろには観客席がステージを囲むようにしてすり鉢状に配置されている。

 この意味が分からない状況に対し、小鳥遊の動きは迅速だった。

 小鳥遊は身を低くしたかと思うと、地面を転がり、木の板の傍まで近づくと、身を低くしたまま、銃を出現させ、周囲を警戒する。

 赤ずきんは――いない。

 意味が分からないものの、どうやら赤ずきんと小鳥遊は分断されたようだ。

 立体映像(ホログラム)? 瞬間移動? 亜空転移?

 疑問が頭をかけぬけるが、確証は出てこない。

「あんまり警戒しなくてもいいですよ?」

 と周囲を警戒する小鳥遊に優しげな声がかけられる。

 小鳥遊は声の方向に向かい、銃口を向けた。

 悪心感知ではなにも感じ取れなかった。どういう絡繰なのか、小鳥遊は仮面の下で眉を吊り上げる。

 団員が入場するためにあけられている門、その近くに人影が見えた。

 それは手摺の先にある球体に手を置き、介助人もいないのにひとりでに動く車椅子に乗っている妙齢の女性であった。

大祖母(グランマ)か」

「はい、私は大祖母(グランマ)と呼ばれています。初めまして、というべきでしょうか、大鴉(レイヴン)

 大祖母(グランマ)大鴉(レイヴン)は面識がないわけではないが、落ち着いて話したことは皆無である。

「何のようだ?」

 銃口を大祖母(グランマ)に向けつつ、背後や団員が隠れることができそうなところを警戒する大鴉(レイヴン)。  

 普段なら悪心感知で隠れていても気づくのだが、今は悪心感知が正常に機能していない以上、それに頼るのは危険であろう。

 何の用かは知らないが、こうして大祖母(グランマ)がでてきた以上、彼女は囮の可能性も高い。首魁みずから姿を現すことで視線を誘導し、その隙に団員に囲まれて袋叩きにあったらたまらない。

 しかし、大祖母(グランマ)は特に意に介した様子はなく、むしろ、自然体そのものといったように、手を組み、にっこりと笑い、

「お話をしましょう。私はそのために出てきました」

「………はぁ?」

 唐突に申し出る。

 それに対して小鳥遊は困惑したように声をあげた。

 

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