選ばれし者と暁の英雄   作:黒猫ノ月

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どうもです。

新キャラ登場です!


8話

「レイの推測が正解だな。私もそれ以外は考えられん」

 

「……マジか」

 

「ギルはどうだ?」

 

「レイ、お前にしてはいい線だと言っておこう。俺も他の理由を五つほど考えたが、どれもこじつけでしかない。ここはかのアルバス・ダンブルドアのお膝元だ。何か世には出してはならない物を隠し、守っておくには最適な場所だろう」

 

レイはシルヴィアとギルバートと共に中庭で昨夜の出来事を話していた。今日は休日であり、レイは二人に呼び寄せ呪文のコツを教えてもらっていた。その休憩時間を利用して話したのだった。

 

「一体何を隠してるんだろうな?」

 

「さて、それは我々の知るべきところではないな」

 

「この愚か者が。そんなことを気にかける前にさっさと呼び寄せ呪文を習得しろ」

 

「ういーす」

 

レイはギルバートに素直に従って呪文の練習をする。それからしばらくはレイが黙々と練習し、シルヴィアとギルバートは読書をして過ごす。そのスピードは二人とも、特にギルバートはあっという間にページをめくっていく。

 

そんな穏やかな時を過ごしていた三人の元に、突然驚いたような声と共に何かが崩れる音が聞こえてきた。

 

「……ん? なんだ?」

 

「誰かが何かに驚いたような声のようだな。廊下の角でぶつかりそうにでもなったかな?」

 

「あれは本が崩れる音だ。何度か聞いたことがある」

 

「ほう、さすが読書家。何度かやらかしたことがあるようだな」

 

「ふん」

 

三人は各々していたことをやめて音がした方へと顔を向ける。そこには廊下に手をついて10冊ほどの本をばら撒いている少女と、その周りを囲む三人の少女がいた。

 

「ちょっとアリス、何躓いてるのよ! 本が全部落ちちゃったじゃない!」

 

「……ぁぅ、え、えと……ご、ごめんなさい」

 

「ごめんなさいじゃないでしょうよ。あーあ、本が痛んじゃったかも。マダム・ピンスに弁償してって言われたらアンタがしてよね」

 

「ふぇっ、そ、それは……」

 

「なぁに? なんか文句があるのぉ?」

 

「……ありません」

 

未だに地面に座り込んでいる少女は、周りを囲む三人に好き勝手に言われるがままにされる。その顔は無理矢理笑っているような顔だった。

 

「ちっ、塵どもが」

 

その光景を目にしたシルヴィアが盛大に舌打ちをする。ここまで露骨に感情を表すシルヴィアを見て、レイはかなりキテるな、と思いながらも自分も同じ心境だったので何も言わなかった。

 

そんな二人だったが、ギルバートはいつもと変わらぬ様子で眼鏡のブリッジに指を添える。

 

「あの馬鹿どもの名など知りたくもないが、座り込んでる愚か者は知っている。アリス・バウンディ、ハッフルパフの雑用係だ」

 

「雑用係?」

 

「優しいという触れ込みの中でもさらにお人好しで気の弱いあの愚か者は、ハッフルパフの馬鹿どもにいいように使われている。だから雑用係だ」

 

ギルバートはあいも変わらずいつもの態度を崩さない。しかし言葉の節々に感情が漏れ聞こえている。“愚か者”と“馬鹿”を使い分けてるのがいい証拠だ。

 

「……はぁ、優しいがモットーのハッフルパフも地に落ちたもんだな。シルヴィ」

 

「……なんだ、レイ」

 

レイは苛立ちを隠しきれていないシルヴィアを呼ぶ。

 

「行きたいんだろ? 行くぞ」

 

「……しかしここで偽善者ぶってなんになる? 私があの塵どもに言えば、確かにその場一時はあの子も助かるだろう。だが、その後に待つのはよりひどい扱いだ」

 

シルヴィアの言うことは正論だった。ここで無闇に助けに行かないだけ、シルヴィアは感情の抑制が長けていた。しかしレイはそれを一刀両断する。

 

「そうかもしれねぇな。けど、“お前はどうしたいんだ”? ここで見過ごすのがシルヴィのしたいことなのか?」

 

「……そんなわけがないだろう」

 

「なら行けばいい。前にも言ったろ? 誰かのための行動は、結局自分のためなんだよ。自分のために、やりたいようにすればいいさ」

 

シルヴィアはレイの話を聞いて思い出す。それはレイの信条とも言うべきものだ。これを聞いたときはなるほどと納得したものだ。

 

「だがそれではあの子に悪いだろう?」

 

「なら、シルヴィが“全部”助けてやれよ。天才のお前ならできるだろ?」

 

レイの無茶振りに、シルヴィアは苦笑して立ち上がる。

 

「……ふふっ、全くレイは無茶を言う」

 

「シルヴィならやれるさ」

 

「お前達。行くのか、行かないのかどっちだ?」

 

レイとシルヴィアを置いて、ギルバートはすでに行く気満々だった。その珍しさに二人は目を丸くする。そして二人で顔を見合わせて笑いあった。

 

「ほら、珍しくギルも関わる気満々だ。シルヴィ」

 

「ああ、そうだな」

 

そしてレイとシルヴィア、ギルバートの三人は四人の少女の元へ歩いて行く。

 

三人はすでに前を歩いており、その後ろをゆっくりもたついた足でアリスと呼ばれた少女が重ねた本を抱えて歩いて行く。しかし、それでは目の前が本に遮られて歩くことすらままならない。案の定、彼女はまた躓いた。

 

「あっ…………え?」

 

しかし、アリスは転ぶことはなく、本が散らばることもなかった。

 

「ちょっとアリス! あんたまたっ……えっ?」

 

「ねぇどしたのよ……うそ」

 

「んー? ……うぇ?」

 

前を歩いていた三人の少女はアリスがまたこけたのだろうと罵倒するために振り返る。しかし、次の瞬間には目の前の光景に絶句してしまった。

 

それはアリスがこけていないからではない。本が宙に浮いているからではない。……アリスを支え、本を浮かせている人物が信じられなかったからだ。それは、アリスも同様だった。

 

「…………ほぇ?」

 

「君、大丈夫だったか?」

 

「は、はひ」

 

シルヴィアは何が起こっているのか分かっていないアリスを見る。金髪を肩で切りそろえており、少しふっくらとした顔は将来性を十分感じさせる可愛さがあった。

 

「うむ、それなら良かった。……さて」

 

シルヴィアは何が起こっているのか分かっていないアリスへと向けていた微笑みから、一瞬で冷酷な面差しを見せる。

 

「ひぃっ……!」

 

「な、なななっ」

 

「…………っ!」

 

それを見た三人の少女達は恐怖に怯える。思い出すのはいつかの大広間での悲劇。自分達にもあれが降りかかるかもしれないという恐怖は、少女達をその場に縛り付ける。

 

「お前達、随分と面白いものを見せてくれたものだな? ん?」

 

シルヴィアの問いに少女達は誰も答えられない。恐怖に縛られている今、そのような余裕などなかった。彼女達の頭の中はすでに真っ白だ。

 

答えなど求めてなかったシルヴィアはそのまま続ける。

 

「優しさや気弱さに付け込んで虐めるのは楽しいか? あいにくと、私には理解できないのだよ。なにせほとんどの者は私にとっては弱者でしかないのだからな。それが当たり前なのだから虐める必要もない」

 

アリスを抱いたまま器用に肩を竦めるシルヴィア。そして、ゆっくりと口角を上げていく。

 

「……ああ、そうだ」

 

「「「……っ!」」」

 

少女達は無意識に気付く。シルヴィアが何かを思いついたようなその声は、自分達への死刑宣告なのだと。

 

シルヴィアは怯える少女達へと笑みを見せる。しかし、目は笑っておらず、冷酷さに鋭さが増す。そしてシルヴィアは杖を揺らした。

 

「お前達で試させてくれないか? なに、虐めは本当に楽しいのか確認するだけだ。……ああ、安心してくれ。傷跡や呪いはしっかり体と心に残るようにするから、2度と同じことをしようとは思わないだろう」

 

そしてシルヴィアはアリスを優しく立たせた後、ゆっくりと少女達へと近づいていく。

 

「い、いやっ! いやぁ!!」

 

「こ、来ないでっ、来ないでよぉっ!」

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ!」

 

少女達は思い思いに叫ぶが誰も助けてはくれない。遠巻きに眺める生徒も、とばっちりは御免だと知らぬふりだ。そもそも先のやり取りを見ている者もいたため、自業自得とさへ思う者もいた。

 

少女達は逃げれない。恐怖と威圧がその場に縛り付ける。シルヴィアの一歩が、大鎌を持って嗤う死神の近づいてくる音だった。

 

シルヴィアはとうとう少女達の目の前に立つ。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった少女達は杖を掲げる様子を見てることしかできず、それはとうとう振り降ろされ……。

 

「ま、待ってください!」

 

……その杖は振り下ろされることはなかった。死神の大鎌を止めたのは、その死神に助けられた少女……アリスだった。

 

「……この塵どもは君に酷い仕打ちをしていたと思うが?」

 

シルヴィアは後ろで自分を止めたアリスに、振り向くこともせずに尋ねる。シルヴィア自身、今の表情をアリスには見せられないと考えていたからだ。

 

しかしアリスはシルヴィアの言葉を否定する。

 

「ち、違うんですっ。そ、その……わ、私はなにをするにしても鈍臭くて、魔法薬学や呪文学でも失敗ばかりで……。この人達はその時に迷惑をかけてしまったんですっ」

 

アリスはシルヴィアが怖いのだろう。どもりながらも必死に言葉を紡ぐ。

 

「だ、だから私がお願いしたんです。お詫びに何かさせてくださいって! そ、それに、宿題で困ってる私に自分達のも見てもいいって言ってくれて……だからっ、そのっ……えっとぉ……うぅっ」

 

アリスは頑張って少女達を助けようと言葉を発するが、鈍い頭では必死に考えてもこれ以上は言葉を続けられなかった。最後は自分の不甲斐なさと恐怖で目尻に涙を溜めてしまう。

 

余談だが、宿題の件はそもそも答えを教えてもらっていた少女達が書き写すのが面倒臭くなり、アリスに書き写させたというのが真相だった。アリスはそのおこぼれに預かったに過ぎない。

 

そしてシルヴィアはそれを察することができていた。どうせ書き写させたついでだろうほぼ完璧に悟っていたのだ。

 

庇われた当人がそれを拒んだことで、シルヴィアはしばし逡巡する。しかし先ほどのレイの言葉を思い出し、刑を執行することにした。

 

塵掃除をするのは自分がスッキリするためだ、と。

 

それに見せしめを行った方が後々この子のためだろう、と。自分が嫌われることも覚悟で杖を再び振り下ろし……。

 

「はい、そこまでだ」

 

その杖を持った手を彼女が愛する友に握られた。この時、初めて当事者の少女達やアリス、遠巻きに眺めていた者達はレイとギルバートの存在に気付いた。それほどまでにシルヴィアが放っていた雰囲気は絶大だったのだ。

 

いつかの再現のようだ、とシルヴィアは思いながら自分を止めたレイを見る。

 

「レイ、何のつもりだ? 私は私のために塵掃除をしようとしてたのだが?」

 

暗に、お前が言ったことだぞ、と言うシルヴィアにレイは苦笑する。

 

「そうだな、止めたのは俺の都合だ。ちょっとその子に聞きたいことができてな」

 

「彼女に?」

 

シルヴィアはレイが自分を止めてまで聞きたいことというのに興味を抱いた。なので、大人しく杖を下ろすことにした。しかし、少女達へと向ける威圧はそのままに。少女達は一思いにされない分、文字通り生き地獄だった。

 

レイはシルヴィアがひとまず手を下すのをやめたのを確認して、アリスへと顔を向ける。

 

「あーっと、初めまして、でいいのか? レイ・オルブライトだ」

 

「ほぇ? ……あ、は、はいっ。は、初めましてっ、アリス・バウンディですっ」

 

突然の自己紹介に戸惑っているアリスを見て、とりあえずは泣くことはないかな、とレイは何気に気を使って話を続ける、

 

「聞いてたと思うんだが、バウンディに聞きたいことがあってな。ちょっといいか?」

 

「は、はいっ。私に答えられることなら……」

 

それにひとつ頷き、レイはアリスに尋ねる。

 

「何で逃げなかったんだ?」

 

「えっ」

 

「さっきのシルヴィは怖かっただろう? バウンディにその怒りが向いてないとはいえ、シルヴィの放つ威圧は周囲に及んでいたはずだ」

 

実際俺にも感じれたし、と言うレイ。アリスはレイが何を聞きたいのかいまだ理解できないでいた。

 

「俺は君を見てたけど、シルヴィがあいつらを脅してる時も怖がっていたじゃないか。そして、シルヴィを止めた後も恐怖を押し込めて必死に説得しようとしていた」

 

「……えっと」

 

「そのままシルヴィが暴れるのを見ていてもよかった。逃げてもよかった。シルヴィは君に怖がられることは分かってやってたし、ほとんどのやつは君がそうしても誰も文句を言わなかったろうよ」

 

「…………」

 

「だけど、君は逃げなかった。逃げてもいい恐怖から背を向けず、体を震わせて、目尻に涙を浮かべてもシルヴィという恐怖に立ち向かった。……俺は、どうして君がそうしたのか聞きたいんだ」

 

レイは尋ね終えるとアリスを真っ直ぐ見る。シルヴィアとギルバートも興味深くアリスを見る。

 

そんな個性的すぎる三人に唐突に見られるようになったアリスは頭が真っ白になる。視線を彷徨わせ、口を開いては閉じてを繰り返す。

 

しかし、次第に三人が自分を待ってくれていることに気付く。自分を見つめる視線に棘がない。彼らは慌てる自分を急かすことも、怒鳴ることもせず、ずっと待ってくれている。

 

それに気付いたアリスは胸に手を当てて深呼吸する。真っ白になった頭に様々な言葉や思いが浮かび上がり、それをまとめていく。

 

そんなアリスの様子にますます興味をもったシルヴィアはすでに少女達のことなど気にもかけてなかった。少女達は生き地獄から解放されて気絶している。

 

時間は刻々と過ぎていく。そしてアリスは俯いていた顔を上げてレイへと向き直る。その瞳には今までの怯えはない。

 

「お友達を助けたかったから、です」

 

アリスはそう、口にする。

 

「こいつらが、友達?」

 

「はい……そう思ってるのは、多分、私だけです」

 

アリスは悲しげに目を伏せる。

 

「でも……いつか、いつか。みんなとお友達って呼べるようになる日が来るかもしれません。私が頑張れば、認めてくれるかもしれません」

 

「…………」

 

「もしここで私が逃げてしまえば、もう2度とその機会はなくなってしまいます。だから……私は逃げませんでした」

 

最後まで言い切ったアリスは不安げに目の前の三人を見る。出来損ないの自分が精一杯考えて出した答えだ。これで納得してくれるだろうか、と胸の内は不安だらけだった。

 

……だからだろう。シルヴィア、ギルバートがアリスをより興味深く見ていたことに気付かなかったのは。そして……。

 

「……くくっ」

 

レイがとても面白いものを見るように見ていたことに気付かなかったのは。

 

「くくっ……あっはっはっはっは!」

 

レイは顔を右手で覆って大笑いする。突然の行動に他の三人がレイを見つめる。しかしレイは気にすることなく笑い続ける。

 

「レイ?」

 

その三人を代表してシルヴィアが心配そうに笑い続けるレイに呼びかける。今までレイがここまで大声で笑っていることなど一度もなかったのだ。あのシルヴィアが心配するのも無理はなかった。

 

「……はーぁ。いやぁ、笑った笑った!」

 

レイはそんな心配をよそに、満足そうに笑い終わって人心地ついている。これに今まで黙っていたギルバートが不可解なものを見る目でレイを見た。

 

「今の何が可笑しいというのだ愚か者」

 

レイはしかし、それにも機嫌良さげに答える。

 

「いやなに、少し昔を思い出しただけだ」

 

「昔だと?」

 

「こっちの話だよ。……バウンディ、悪かったな。真剣に答えてくれたのに笑っちまって」

 

「い、いえいえ! こ、こちらこそ、いっぱい待たせてごめんなさいっ」

 

アリスはレイへと深く頭を下げる。それを見てレイは苦笑する。

 

「それこそ気にするな。俺が聞いた側だしな。おかげでいい答えが聞けたよ、ありがとな」

 

「ふぇ? え、えと……ありがとう、ございます?」

 

アリスはレイが自分の答えのどこが面白かったのか分からなかったが、満足しているのは分かったのでほっと胸を撫で下ろした。

 

レイはそれに頷いて、自身の様子に戸惑うシルヴィアとギルバートへと顔を向ける。

 

「よしっ、満足したし行こうぜ」

 

「……なにを自分勝手に納得しているんだ愚か者が。説明をしろ」

 

「その通りだぞレイ。それにこのご……こいつらはどうするんだ?」

 

シルヴィアは先のアリスの言葉を思い出して、少女達を塵というのを途中でやめる。レイはそんなシルヴィアの問いにあっけからんと答える。

 

「ん? 放置でいいんじゃね? バウンディが目が醒めるまで面倒見てくれるさ。さぁ、行くぞ」

 

「な、お、おいレイ!」

 

「押すな愚か者が。自分で歩ける」

 

シルヴィアとギルバートの背を押して、無理矢理この場から離れようとするレイ。しかしその途中で足を止め、アリスへと振り返る。

 

「じゃあな、バウンディ。……そいつらと友達になれるといいな」

 

「えっ。……はいっ」

 

レイの言葉にアリスは不意をつかれたようだが、迷うことなく元気に頷いた。

 

レイはそれを満足そうに見たあと、前を向いて再びシルヴィア達の背中を押していく。シルヴィアとギルバートは抵抗を辞めて素直にされるがままにされ、三人はアリスの視界から消えていく。

 

そして、アリスが目の前の惨状に頭を抱えるのはすぐだった。

 

………………

…………

……

……

…………

………………

 

レイ一行は中庭での出来事の後、その足で大広間へと向かっていた。少し早いが、夕食を取るためにだ。

 

「……レイ、いい加減話してくれないか?」

 

そんな道中でシルヴィアが前を歩くレイに話しかける。レイは顔だけ後ろを向いて聞き返す。

 

「ん? 何を?」

 

「何をって……さっきの大笑いの件だ。私には君があそこで大笑いする理由が思いつかない」

 

シルヴィアの言葉に、ギルバートが眼鏡のブリッジを押さえて同意する。それを聞いたレイはああ、とさも今思い出したように頷いた。

 

「ちょっとな。……とある少年のことを思い出してたんだよ」

 

「とある、少年?」

 

シルヴィアはそれだけでは判断できないとレイの続きを待つ。しかし、そこにギルバートが自身の予想した補足を加えた。

 

「昔の友か?」

 

「まあ、そんなもんだ。そのとある少年とさっきのバウンディが重なって見えてな。つい可笑しくなっちまったんだ」

 

レイは立ち止まって、近くにあった窓の外を見る。

 

秋になって日が落ちるのが早くなり、すでに夕暮れと言っていい空色だ。様々な色に染まる空は、けれど“あの時の赤色”には決して染まらないだろうとレイは思う。

 

いつか優しい父親に戻ってくれると信じた少年と、いつか認めてもらって友達になれると信じている少女。そのためにどちらも恐怖から逃げずに、立ち向かった。

 

少年の結果は散々なもので、妹の無事と地の底に堕ちる父親を止めるために父親を手に掛けた。そして恐怖には負けなかったが、大切なものを失った。

 

 

だからレイは心から祈る。少女の……アリスの願いが叶いますように、と。

 

 

自分の手からこぼれ落ちてしまった願いを、代わりに叶えてくれることを祈って。

 

そんな夕陽に染まりながら祈り続けるレイを、シルヴィアとギルバートは見守る。

 

今レイが醸し出している雰囲気は、レイを知っているものなら誰もが驚くものだろう。照らす夕日のように淡く、暖かく、穏やかで。そんな純粋な優しさに包まれた彼を見れば。

 

そんなレイの姿を見てしまえば、過去に何かあったことなど誰の目に見ても明らかだった。

 

シルヴィアとギルバートはレイの過去に何かあることなどとっくの昔に気付いている。両親の話は出てこず、祖父と祖母、妹しか家族の話は聞かない。

 

また、レイの特異性はかなり目立つ。シルヴィアは天才でギルバートは秀才だ。他との特異性には理由がある。しかし、レイの特異性だけは理由がないのだ。

 

その理由が、おそらく過去にある。

 

そして、それはたとえ親しいものであろうと、他人がやすやすと聞いていいものではない。

 

シルヴィアとギルバートは視線を互いに合わせ、頷く。会話こそなかったが、二人の結論は一致していた。

 

レイが話してくれるまで、こちらから尋ねることは絶対にしない、と。

 

そう誓った二人は、さっそくレイに話しかける。

 

「この愚か者が、いつまで俺達を放ってそうしているつもりだ?」

 

「そうだぞレイ。寂しくなってしまうではないか」

 

レイははっとして、シルヴィアとギルバートへ振り返る。そこには先ほどの雰囲気はなく、いつものどこか達観したレイが立っていた。

 

「悪い悪い。夕日が綺麗でついな」

 

「おや、そんなものよりもここにもっと美しいものがあるのだが? 君はこれほどの美を持つものを侍らせていてもまだ不満なのかな?」

 

「……確かにシルヴィは綺麗だけどな。それとこれとはまた違うだろうよ」

 

「ふふっ、そうか? 思わず君の視線を釘付けにした夕陽に嫉妬してしまったよ」

 

「貴様は嫉妬とは無縁の女だろうが。逆に嫉妬を魔法で痛めつけて半殺しにするだろうな」

 

「レイ、ギルに酷いことを言われた。慰めてくれ」

 

「それで傷つくシルヴィじゃないだろ。ほら、行こうぜ」

 

「貴様のせいで、貴重で、帰ってこない、大切な時間を無駄に過ごしたのだが?」

 

「……すんません」

 

レイとシルヴィア、ギルバートはいつもと変わらぬ掛け合いをしながら、夕陽を背にして歩いていく。

 

今日はもう、その場所で暖かな優しさに照らされるものはいなかった。




如何でしたか?

次回、ハロウィンの招かざる者。

感想や意見、評価やアドバイスを心よりお待ちしております。
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