選ばれし者と暁の英雄   作:黒猫ノ月

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どうもです。

やっと全員出揃った!


10話

トロールを倒した後、緊張の糸が切れて泣き出してしまったアリスを廊下の真ん中でレイとシルヴィアが慰めていた。

 

特にシルヴィアはアリスを正面から抱きしめて背中をさすってあげていたのだが、その人肌の温もりという安心感はアリスに死の恐怖というものを余計に意識させてしまった。

 

その結果アリスをさらに大泣きさせてしまう。しかしこの時、最初は戸惑っていたシルヴィアも、子供のように自身に縋るアリスに対してとめどなく溢れる母性に襲われていたのだった。

 

それから少しして、アリスの泣き声を聞きつけたのかハッフルパフの寮長であるスプラウトとレイブンクローの寮長であるフリットウィックが駆けつけた。

 

教師二人は目の前の光景に唖然とするしかなかった。トロールが手足を縛られて寝かされており、大泣きする少女を今年一の有名人である二人が慰めている光景を見たら仕方ないだろう。

 

そんな驚きで動けないでいた教師二人にギルバートが近づき、何があったのかを詳細に話した。ギルバートはアリスが助けた三人の少女達からも既に事情を聞いていたのだ。

 

全てを聞いた教師二人は正気を取り戻し、とりあえず三人の少女達とアリスを医務室へと運ぶことにした。その際、レイ達も付いて行くことになったのだが、少しずつ落ち着いてきたアリスはしかしシルヴィアから手を離さなかった。

 

ぴとり、とシルヴィアを絶対に離さないというアリスの様子に、シルヴィアは溢れた母性にとうとう溺れてしまう。それはアリスが将来性を感じさせる可愛さを持っていたことも彼女を溺れさせた原因の一つだろう。

 

一行が医務室にたどり着くと、そこでレイ達はハリー達とミネルバ含む教師陣と合流した。エステルとハーマイオニーもかすり傷があるくらいで大きな怪我はなかった。

 

「レイ、無事だったんだね!」

 

「こっちは大変だったんだぜ?」

 

レイがハリーとロンから話を聞けば、ハリー達もトロールに襲われ、なんとか撃退したのだという。ハリー達が危機一髪の戦いを繰り広げる中、レイ達は一分足らずで圧勝していた。明らかにレイ達は過剰戦力だった。

 

これを聞いたレイはシルヴィアかギルバートをそちらにつければよかったと謝罪した。しかし、ハリー達もレイ達の方ではアリスがかなり危なかったことを聞いたために特に責めることもなかった。

 

そしてエステルとハーマイオニーは、レイ達も駆けつけようとしてくれたことを知って感謝の言葉を送った。それにレイは頷き、シルヴィアは微笑み、ギルバートは鼻を鳴らした。

 

その時にハーマイオニーは今までレイに対して思っていたことを告げ、それを含めて謝罪した。レイはそもそも気にしてなかったのでそれを素直に受け取った。どうやらこの経験を経て、ハーマイオニーも一皮剥けたようだった。

 

そうやってお互いの無事を確認しあってる中、アリスはようやく泣き止んでシルヴィアと一緒にベッドへと腰掛けていた。しかし、放心するアリスの手はシルヴィアのローブの袖を掴んでいた。

 

シルヴィアの自身に向ける優しさや頼り甲斐のある風格が、アリスを無意識に縋らせているのだ。シルヴィアはもうアリスが可愛くて可愛くて仕方なかった。

 

そんなレイ達にミネルバから沙汰が下った。友人を助けるためとはいえ、ダンブルドアの言いつけを破ったのだ。レイ達は仕方ないと甘んじて罰を受けるつもりでいた。

 

しかしそんな予想は外れ、レイ、シルヴィア、ギルバート、アリス、ハリー、ロンの六人はそれぞれ10点を貰うことになった。

 

「どんな理由であれ、言いつけを破ったことには変わりません。なので、10点です。これは貴方達の勇気ある精神に対してです」

 

なんともグリフィンドールの寮長らしい沙汰であった。この時、アリスは言いつけを破ったわけではないが、無謀な行動をとったことを踏まえての点数だった。

 

ミネルバのこの言いようには、レイ達の行動を高く評価しているということが隠されていた。しかしミネルバはそんな胸の内を話すことなくレイ達に解散を告げる。アリスや少女達も大きな怪我はないためその日のうちに寮へと帰ってよしということになった。

 

医務室を出て、各寮の分かれ道までレイ達は歩いていく。しかしその途中でシルヴィアと手をにぎり合うアリスへと声をかける者がいた。それは、アリスに救われた少女達の一人だった。

 

「……なんでアンタ、私を助けたのよ?」

 

それは少女にとって当然な疑問だった。自分はアリスが気弱で優しいことに漬け込んで、いいように扱き使っていたのだ。見捨てられこそすれ、助けられるとは思わなかったのだ。

 

アリスは目を腫らした顔を少女へと向ける。この頃にはアリスも既に落ち着きを取り戻していたのだが、その顔は不安で埋め尽くされていた。

 

正直に言っていいものか、でもそれで拒絶されたら……、と答えに窮するアリス。しかしそんな彼女の頭にレイの手がそっと乗せられた。

 

見上げるようにレイを見るアリス。レイは微笑み、ぽんぽんと軽く頭をなでた後にそっとアリスの背を押した。

 

背中を押されて少女達の前に出たアリスはレイへと振り返る。レイは力強く頷いてアリスを促した。それを見てもアリスも少し逡巡したが、すぐに意を決したように顔を引き締めてレイに頷き返した。

 

再び向き合うアリスと少女達。アリスは目を閉じ、胸に手を当てて深呼吸する。そして目を開け、少女の問いに答えを返した。

 

「私は、その……皆さんのことをお友達だと思っています」

 

その言葉に目を見開く少女達。まさか自分達がそう思われていたなどとは予想だにもしなかったのだ。そんな少女達に気付くことなくアリスは続ける。

 

「だから、助けたかったんです。大事なお友達を」

 

少女達はとっさに否定しようとする。その理由は友達か否かを言うためではない。そんな資格など自分達にはないのだと否定するために。しかし、それを勘違いしたアリスが遮る。

 

「分かってますっ。……皆さんが私を友達だなんて思ってないことなんて、分かってます。けど……」

 

アリスは一度顔をうつむかせ、肩を震わせる。そうして次に顔を上げた時には再び涙が浮かび上がっていた。

 

「私はっ、皆さんのことが好きだから! 初めて声をかけてくれて、ぐすっ、嬉しかったからっ」

 

アリスは涙を流して言う。どんな理由であれ、このホグワーツで一人ぼっちだった自分を、みんなの輪に入れてくれてありがとう、と。

 

少女達は何も言えなくなっていた。涙を流し、今までの思いの丈をぶつけるアリスに何を言っていいのかわからなかったのだ。謝るのも違う。どういたしましてと言うのも違う。……少女達は答えを持ち合わせていなかったのだ。

 

アリスは袖で涙をぬぐい、少女達へと向き直る。そしてついに、少女達へと答えて欲しい言葉がなんなのかを告げた。

 

「だからっ……だから私とっ、ぐすっ、お友達になってくれませんか!」

 

アリスは溢れる気持ちを精一杯込めてそう願う。その溢れる願いは、涙となってアリスの頬を伝う。

 

それを聞いた少女達は果たして……。

 

「…………ばか」

 

「っ!」

 

少女達の一人がそう口にする。アリスはやっぱりダメだったと再び涙が溢れそうになり……。

 

「……本当にばかな子、なんだからっ」

 

「え……」

 

いきなり抱きつかれたことで、涙がこぼれることはなかった。呆然とするアリスへと、抱きついた少女が大声で叫ぶ。

 

「私達なんかと友達になりたいだなんて、本っ当にばか!」

 

さらに残った二人の少女達もそれぞれアリスを抱きしめる。

 

「何言ってんの。この子がばかなのは前から分かってたじゃん。……でも」

 

「うん、嬉しいよぉ。アリス」

 

三人の少女達は一旦アリスから身を離し、笑顔を浮かべてその内の一人がアリスが欲しかった答えを告げた。

 

「助けてくれて、ありがとうアリス。私達とアンタはもう、友達よ!」

 

「…………」

 

少女が何を言っているのか、最初アリスは分からなかった。けれど、だんだんと言ってることを理解し始めたアリスは……。

 

「……ひっく、ほ、ほんっとぉ?」

 

この世にこれほど嬉しいことがあるのだと、初めて知った。それは嬉しすぎて溢してしまった涙が証明していた。

 

「全く、何泣いてんのよ」

 

「ご、こめっ……ぐすっ」

 

「ほら。本当だから、もう泣かないの」

 

アリスは再び少女達に抱きしめられ、それぞれに宥められながら良かった、良かったと涙を流す。

 

その光景をレイ達は優しく見守る。ハリーとロン、エステルとハーマイオニーは目の前の光景に戸惑いを見せていたが、しかし自分達が気安く邪魔をしてはいけないものであることは理解できていた。

 

この暖かくて、とても尊い素晴らしい光景は。

 

だから見守る。全てを理解してるであろうレイとシルヴィア、ギルバートと共に。

 

この日、アリス・バウンディは勇気と優しさを持って自身の願いを叶えたのだった。

 

………………

…………

……

……

…………

………………

 

そんな素晴らしき日となった翌日のことである。

 

「…………」

 

「おや、どうしたレイ? 私“達”の顔に何かついてるかな?」

 

シルヴィアはレイの何やら言いたげな視線を受け流し、腕の中にいるものを愛でながら朝食を取っている。

 

「…………」

 

「……え、えと、えっと」

 

レイは次にシルヴィアの腕の中にいるものを見やる。おどおどと今の自分の現状を理解できていない様子だった。それは、昨日念願叶って友人を作ることに成功したアリス・バウンディだった。

 

なぜ彼女がこんなことになっているかといえば、もちろん原因はシルヴィアにあった。彼女はあろうことか今朝早くにハッフルパフ寮前へと待ち伏せし、アリスが出てきたところを捕まえてきたのだ。

 

その時に昨日感動的な出会いを果たした友人達も一緒にいたのだが、友人達はシルヴィアが怖くてアリスが連れ去られるのを黙って見送ることしかできなかった。友人達は後にあの時のシルヴィアはトロールよりも怖かったと語っている。

 

泣き腫らしていた目元をシルヴィアによって元どおりにしてもらったアリスは、シルヴィアの腕に抱かれるがまま、されるがままにされている。そんなアリスの朝食のお世話もシルヴィアが行っていた。

 

「さあ、アリス。次は何が食べたいのかな?」

 

「ふぇっ? えと、あ、あの……こ、コルドウェルさ……」

 

「こらこら、シルヴィでいいと言っているだろう」

 

「そ、そんな恐れ多いっ……!」

 

アリスはその言葉に恐縮し、ただでさえ小さい体がさらに縮こめる。無理もない。シルヴィアはスリザリンの女王様、もしくは暴君と呼ばれるほどの人物だ。気弱な一介の女生徒ごときがそうそう関われるものではないだろう。

 

まあそれも、昨日シルヴィアに泣き止むまで……いや、泣き止んだ後も面倒を見てもらっていた時点で今更だとは思われるが。

 

そんなアリスの言葉にシルヴィアが悲しい顔で返す。

 

「そんなことを言わないでくれ。私は君を友と思っているのに、その友にそんなことを言われてしまったら私は……」

 

シルヴィアの心の底から傷ついたといった様を見て、心優しいアリスは大慌てだ。しかしレイとギルバートはそんなシルヴィアを見て看破する。騙されるな、あれは完全な演技だぞ、と。

 

「ご、ごごごめんなさい! え、えとえと……し、シルヴィ、さん?」

 

戸惑いながらもシルヴィアを略名で呼んだアリスを、シルヴィアは悲しげな様子を一変させて笑顔で抱きしめた。

 

「はぅあっ!?」

 

「ああ、ああっ……! 可愛いなぁアリスは!」

 

そのまま目を白黒させるアリスの頭を撫で、抱きしめ、愛でるシルヴィア。それを見てレイとギルバートは思う。ほらな、やっぱり演技だった、と。

 

「そうだ、昨日のように甘えてくれてもいいのだぞ? 君が満足するまで私がたっぷり甘やかしてやろう」

 

「あうあうあうあう」

 

ただでさえ自分の置かれた状況に混乱しているのに、さらに昨日自分がしでかしてしまった恥ずかしい醜態を話題に出されれば、アリスの頭がパンクするのは当然の帰結だった。

 

そんな目を回しているアリスを見てレイはため息を一つ、そろそろアリスを助けることにした。

 

「……シルヴィ」

 

「む、なんだレイ。たとえ君といえどこの至福の時を邪魔するのは万死に値するぞ?」

 

言葉の通り、レイにアリスを愛でるのを邪魔されて不機嫌になるシルヴィア。これはレイを特に気に入っているいつものシルヴィアからは考えられない行動だ。しかしレイはそれを意に返さずにシルヴィアに告げる。

 

「……その子を元の場所に返してきなさい」

 

「断る。この子の面倒は私が見る」

 

睨み合う両者と自分のせいでと涙目になるアリス。そして一貫して無視を続けるギルバート。グリフィンドールのテーブルの先端では、朝から剣呑な空気が場を支配した。

 

「面倒を見るって、そんなことできるわけないだろ? 返してきなさい」

 

「断る。この子の勉強を見たり、魔法の勉強を一緒にしたり、虐めようとする塵を灰も残さず燃やし尽くして守ってあげるんだ」

 

「その子にはその子のしたいこと、居たい場所があるはずだ。返してきなさい」

 

「断る。この子だって天才で優しくて可愛がってくれる私と居たいはずだ」

 

それから続く返してきなさい、断るの猛襲。しかしそれも長くは続かず、とうとう中々許してくれないレイにシルヴィアが先に痺れを切らしてしまった。

 

「レイ、どうして分かってくれないんだ! この子は私が責任持って最後まで面倒を見ると言っているだろう!?」

 

そこにスリザリンの女王様や暴君と呼ばれる姿はなく、駄々をこねる子供のような姿しかなかった。それはまるで……。

 

「貴様ら、会話が子犬を飼う飼わないで争う親と子のようだぞ」

 

今まで黙っていたギルバートが珍しく呆れたようにそう言った。そう、まさしくその通りの光景がそこにあった。しかしレイもシルヴィアもそれに全く反応しない。二人はこう見えても真剣なのだ。

 

余談だが、子犬呼ばわりされたアリスは密かにショックを受け、周りでレイ達のやり取りを窺っていた赤毛の双子はギルバートの言葉に思わず吹き出すのだった。

 

痺れを切らしてさらに睨みつけてくるシルヴィアの様子に怯むことなくレイは淡々と返す。

 

「そうは言ってもこの子にはこの子の人生がある。今日だって、昨日できた新しい友達と一緒に朝食を取りたかったはずだぞ」

 

「むっ」

 

「お前が面倒を見れば確かにこの子は一般でいう幸せにはなれるだろうさ。けど、それは本当にこの子の幸せなのか?」

 

「むむっ」

 

「それに、お前達は友達になったんだろ? なら、世話する云々ってのは友達に言うことなのか? お前の言う友ってのは、そういうものなのか?」

 

「むむむっ」

 

シルヴィアはレイが次々に告げる言葉に唸ることしかできなくなる。正論をぶつけるレイに何も言えなくなり、シルヴィアはとうとう押し黙ってしまった。……その腕は変わらずアリスを抱きしめていたが。

 

なぜシルヴィアがここまでアリスに固執するのかといえば……まあ、なんとなくわかるだろう。

 

彼女は昨日の出来事によってアリスを大変気に入ってしまったのだ。

 

誰よりも純粋で、優しく、勇気もある可愛く小さな女の子。努力や才能を愛するシルヴィアが、この天然記念物のような性格を持って生まれてきたアリスを気に入らないはずがなかった。その性格もまた、才能の一つなのだから。さらに激しく母性をくすぐられたこともあり、シルヴィアは現在アリスの虜だった。

 

「し、シルヴィさんっ」

 

そんな不貞腐れるシルヴィアにアリスが腕の中から声をかける。

 

「ん? なんだいアリス……そうだ! アリス、君からもレイに言ってやって欲しい。君も私といたいよな?」

 

「うぇ!? えっと、そ、そのぉ……」

 

シルヴィアの顔が迫り、勢いを殺されてしまったアリス。そんなアリスは恐る恐るレイを見て、彼が頷くのを確認して覚悟を決める。レイはもしシルヴィアが暴走しようものなら必ず止めるとアリスに保障したのだ。

 

心強い味方を得たアリスは、シルヴィアへと口を開く。

 

「そ、そのっ。お気持ちは大変嬉しいです。こ、こんな私とお友達だって言ってくれて……」

 

お友達という単語で嬉しくて涙目になるアリスの目元をそっとシルヴィアが拭う。

 

「こらこら。その涙は嬉しいが、あまり泣くものじゃないぞ。せっかくの可愛い顔が台無しだ。それにこんな、などと言うな。君はこの天才たる私にふさわしい友人なのだから、もっと胸を張りたまえ」

 

「は、はいっ」

 

シルヴィアの励ましと叱責に涙をこらえて頷いた。そしてアリスは話を続ける。

 

「わ、私もシルヴィさんと一緒にお勉強したり、お話ししたりしたいです」

 

「そうだろうそうだろう」

 

「けど……」

 

「け、けど?」

 

アリスの様子になにか不穏なものを感じたシルヴィア。しかしアリスは止まることなくシルヴィアの目を見て言い放った。

 

「ま、守ってもらうだけじゃ嫌です。面倒を見てもらうだけじゃ嫌です。私は鈍臭くて得意なことなんて何もないけど、それでもシルヴィさんに何かしてあげたいですっ。だ、だって……お、おおお友達、ですからっ」

 

「アリス……」

 

シルヴィアは感動していた。レイもギルバートも友であるのは間違いないが、こうして言葉で言ってくれることはない。この辺りが男と女の違いだろう。

 

初めての女の子の友達、かつ可愛く愛おしいアリスのその言葉に先の不穏なものは勘違いだったと思い直すシルヴィア。しかし、それは勘違いではなかった。

 

「な、なのでっ」

 

「うんうん、なんだいアリス?」

 

「わ、私にっ、構わないでください!」

 

「…………」

 

シルヴィアの息を呑む音が聞こえる。アリスはまだ人付き合いに慣れておらず、またその相手があのシルヴィアであったために言葉を選ぶ余裕はなかった。

 

これにはレイもやっちまったなぁ、と天を仰ぐしかなかった。しかしずっとそうしてる場合ではない。シルヴィアが何かしでかす前にフォローをしなければならない。

 

そうしてレイが口を開こうとしたところで先に隣から声が放たれた。

 

「この愚か者が、もう少し言葉を選べ」

 

先程無視されたこともあり不干渉に徹していたギルバートがアリスへといつものように毒を吐く。すると当然のようにアリスはそのままに受け取ってしまい涙目になる。

 

「ふぇ!? す、すすすみませんっ」

 

「……ふん、おいシルヴィ」

 

ギルバートはアリスの反応にやり難いのか、それ以上は追求せずにシルヴィアへと対象を変えた。これは我が道を行くギルバートには珍しいことだった。

 

「…………」

 

「おい」

 

「…………」

 

シルヴィアはよほどショックだったのか、茫然自失と佇むだけだった。昨日あれほどアリスが縋り、頼ってもらっていた分、今の言葉はかなり効いたのだろう。

 

ギルバートはため息と眼鏡の位置を整え、再びシルヴィアへと口を開く。

 

「貴様はなにを勘違いしている? そこの泣き虫の言葉をしっかり聞いていただろうが」

 

「う、うぅ……。な、泣き虫……」

 

ギルバートの言葉にいちいち泣きそうな反応をするアリス。そんなアリスに言いたいことが山ほどあったが、今はそれを無視することにした。

 

「お前のことは友達だと言っているだろうが。ただ、お前はそこの泣き虫を構い過ぎだということだ」

 

「……かまい、すぎ?」

 

シルヴィアは徐々にギルバートの言葉を咀嚼するように飲み込んでいいく。

 

「つまりは適切な距離を保てと言っている。俺やレイと同じようにな」

 

「てきせつな、距離」

 

「貴様でおいて考えてみろ。貴様は俺やレイに何でもかんでも面倒を見てもらいたいのか」

 

その言葉にシルヴィアは色のなかった顔を一瞬で顰めた。それは基本自由に、そして対等でいたいシルヴィアにとって受け入れがたいものだった。

 

「……嫌だ」

 

「そういうことだ。分かったならそこの泣き虫に言うことがあるだろう」

 

「ふぇ!?」

 

いきなり話を振られて驚くアリス。そしてギルバートの言葉を受けたシルヴィアは頷き、腕の中のアリスを名残惜しそうに離して正面を向き合った。

 

「……その、すまないことをした。少し暴走していたようだ。許して、くれるだろうか?」

 

アリスは顔の残像が出来るほどに首を縦に振る。

 

「は、はい! 全然大丈夫ですっ」

 

「……私の友で、あってくれるかな?」

 

「!……はいっ!」

 

今度は吃ることもなくしっかりと頷くアリスを見て、シルヴィアはようやくいつもの調子を取り戻した。

 

「そ、そうか! ……よかった。これからよろしく頼むよ、アリス」

 

「はいっ、よろしくお願いします、シルヴィさんっ」

 

「〜〜っやはり可愛いなアリスは!」

 

「はぅあ!?」

 

適切な距離をと言ったそばからアリスに抱きつくシルヴィア。それに慌てるが、どこか嬉しそうなアリス。女同士の友達とはこんなものなのかもしれない。

 

それを見ながら苦笑するレイは面倒くさ気にため息をつくギルバートに話しかけた。

 

「いつになく優しいじゃないか」

 

「ふん、ただ鬱陶しかっただけだ」

 

「そういうことにしておくよ」

 

「この愚か者が、分ったような口を聞くな」

 

女同士ではしゃぎ合い、男同士は静かにそれを眺める。剣呑だった雰囲気は、朝の清々しさに見合う空気を取り戻していた。

 

 

 

こうしてここに四人は集った。これより四人の物語がいよいよ幕をあげる。

 

 

 

余談だが、自由を取り戻したアリスはその日に少女達と昼食を食べようとしたのだが、シルヴィアに恐怖を植え付けられていたためにそれが叶うことがなかったのはここだけの話。




如何でしたか?

実を言えばここまでがこの作品のプロローグですね(・_・;
やっと主役達が揃いました! これからのこの四人の活躍をご期待ください!

次回、四階廊下の奥に眠る真実。

感想や意見、評価やアドバイスを心よりお待ちしております。これからも応援よろしくお願いします!
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