今書き溜めしているのですが、1巻分はあまり主人公達が活躍しそうにない予感(・・;)
盛り上げなければ( ̄^ ̄)ゞ
夏の朝日が本を枕にして眠っている少年、レイ・オルブライトの顔にかかる。
「…………お?」
レイは眩しそうに目を細めて右手を翳す。どうやら買ってもらった呪文学の教科書を読んでいるうちに、いつの間にか眠ってしまったようだ。
教科書に自分の涎が付いてないことに安堵し、教科書を閉じて立ち上がる。足元には呪文学以外の教科書が積み重なって置かれていた。
「……明日、か」
レイは朝日が差し込む窓を開け、陽射しを浴びながらそう呟く。それは彼がホグワーツ魔法学校に入学する日だった。
あれから3年。
レイと彼の妹であるアリア・オルブライトは、一度ミネルバ・マクゴナガルに引き取られた。レイ達や父親のことは、魔法と呼ばれるものでマグル(魔法を使えない人達)の記憶から抹消され、レイはことなきを得た。
さらに魔法界でもレイは正当防衛が立証され、無罪放免となった。この時に、ミネルバと彼女が何よりも信頼するとある大魔法使いが力添えをしたことは公然の秘密となっている。
晴れて自由の身となったレイとアリアは、ここで違う問題に直面した。後見人の問題である。ミネルバはホグワーツ魔法学校の教師。しかも副校長を任せられている。長い間ホグワーツを離れることはできない。
そこで、ミネルバの古き良き知人であるマクスウェル老夫妻の元を訪ねることになった。夫妻はミネルバから事情を聞くと、快く2人を引き取ることに了承したのだった。これには、夫妻の間に子供がいなかったことも了承に後押ししている。
預けられた当初は戸惑いが大きかったが、夫妻の人柄と、時間が出来れば会いにきてくれるミネルバのおかげで少しづつ2人は打ち解けていった。
そして老夫妻とも本当の家族とまではいかないが、それなりにお互いが親しくなったある日、落ち着いた頃合いを見計らってミネルバがレイに話を持ってきた。それが一年前のことだ。
「レイ、貴方は魔法使いなのです」
レイはその言葉に驚くことはなかった。それよりも、魔法使いなのは自分だけでアリアは違うことの方に驚いた。アリア自身、かなり悔しがって挙げ句の果てには泣き喚いたことは苦い思い出だ。
ミネルバの話によると、レイたちの母親は魔法使いだったらしく、さらにミネルバの元教え子だったそうだ。そんな母親はマグルの父親と結婚し、レイとアリアが生まれた。レイたちは覚えていないが、母親が亡くなるまでは一年に一回ほど会いにきていたらしい。
レイたちの母親が亡くなったことで、その足も遠のいたミネルバだったが、そんなある日、レイが魔法使いであるということが判明した。これ幸いと、ミネルバはレイに魔法使いのことを教えるついでに、彼らの様子を見に行こうと彼らの家へとやってきたらあの現場だったのだ。
ミネルバはレイに自分が勤めるホグワーツ魔法学校に通うことを進め、判断をレイに委ねた。学費や教科書はホグワーツが面倒を見てくれるそうだが、杖や制服は自前で用意しなければならない。レイは老夫妻の負担になることはしたくなかった。
しかし、老夫妻は自分たちに気にすることはないと微笑みながらレイに入学を進めた。自分たちは子供もいないので、お金なら余るほどあるからと。それでも渋るレイに、最後の後押しをしたのはアリアだった。
「レイは今までずっと私のために辛い思いをしてくれたんだから、これから自分のために生きないとダメだよ」
本当は行きたいんでしょ? と、ここ最近『お兄ちゃん』と呼ばなくなったアリアに寂しさを感じながら、レイは内心が悟られていたことに苦笑した。そしてレイはホグワーツの入学を決断したのだった。
そしてつい先日、レイはダイアゴン横丁へと老夫妻とともに足を運んだ。アリアはマグルであり、特別な許可がないと基本マグルは魔法界に入れないため、自宅でお留守番だった。お土産を買って帰るからとなんとか宥めたのはこれまた苦い思い出である。
レイは机の上の脇に置いてある自分の杖を手に持つ。魔法の杖ならオリバンダーの店だと老夫妻に言われ、そこで自分にあった杖を買ったのだ。
木材はアカシアの木、芯材は不死鳥の羽根の魔法の杖。この杖がレイを選んだと分かった時のオリバンダー老の表情は驚きに満ちていた。
アカシアを杖材に使ったものは所有者を厳選するため、選ばれる者はかなり少ない。そして不死鳥の羽根を芯材にしてるものは、所有者の選り好みが激しい。よってこの二つを掛け合わせた杖は厳選に厳選が重ねられ、所有者が今まで現れなかったのだ。
しかし、レイはこの杖に選ばれた。オリバンダー老は驚きから戻ってくると、あまりよく分かっていないレイに言った。
「貴方は必ずや、偉大な魔法使いになることでしょう。杖に呆れられぬよう、研鑽を怠ることがないことを願いますぞ」
レイは偉大な魔法使いになるということに実感は沸かなかったが、努力を怠ることは絶対にないとオリバンダーに言った。レイは、自分を助けてくれたミネルバと老夫妻に恩返しをするために勉強を頑張ると決めていたのだ。
机の上で寝落ちしていたのはそのためだった。まだ杖を振ることはできないが、それでも杖の振り方や呪文、その効果などを覚えておこうと教科書を読んでいたら寝てしまったのだ。
その予習も、既に一年生の教科書を半分以上読み終えていた。今の所、不安なのは魔法薬学と変身学、魔法史だ。特に変身学は恩人であるミネルバの担当であるため、レイはミネルバに不甲斐ないところは見せられないと、半ば使命感にも似たものに追われながら勉強していた。
今夜は変身学をもう一度やろうと決意していると、コンコンっとノックが聞こえてきた。この元気の良さはアリアだな、とレイは気付いた。
「レイー、起きてるー?」
「ああ、起きてるぞ」
「朝ごはん出来たから食べよ?」
「分かった。すぐ顔洗って行くよ」
「早くねー」
ドアの向こう側でパタパタと遠ざかる音が聞こえなくなると、レイは背伸びを一つして、顔を洗うために洗面台へと向かった。
………………
…………
……
……
…………
………………
「レイ、おはよう」
「おはようレイさん。よく眠れましたか?」
「おはようじいちゃん、ばあちゃん。教科書を読んでたら寝落ちしてたよ」
「そうかいそうかい」
「あらあら。ちゃんとベッドで横にならないといけませんよ」
レイが居間に顔を出すと、マクスウェル夫妻が迎えてくれた。日刊預言者新聞から顔を上げてレイへと朗らかに笑うのがロイド・マクスウェルで、朝食をアリアとともにテーブルの上に並べながら微笑んで注意するのがエーデル・マクスウェルだ。
「ああ、今夜は気をつけるよ」
「今夜も勉強するんだ?」
「まあな。勉強して良いとこ行って恩返ししたいし、そもそも魔法を学ぶってワクワクするしな」
「うーっ。なんで私は魔法使いじゃないんだろ……」
「悪いな」
「ふんだ! 私だっていっぱいいっぱい勉強して、お金持ちになっておじいちゃん達に楽させてあげるんだから!」
お金の価値は向こうのほうが高いもん! と不貞腐れるアリアにレイは苦笑する。しかし不貞腐れながらも、マクスウェル夫妻やミネルバへと恩返ししたいと思う気持ちは一緒であることに心の中で嬉しくなった。
「レイもアリアも嬉しいことを言ってくれるねぇ」
「本当ですねぇ。でも、あまり気にしなくても良いんですよ。私達は二人が元気でいてくれるだけで幸せですからね」
「あ、ああ」
「うんっ」
アリアは元気に、レイは恥ずかしさが勝って顔を背けて頷いた。そんなことを話していると、朝食の準備が整ってエーデルとアリアも席に着いた。
「では、いただくとしようか」
「ええ。召し上がってください」
「はむっ……んー! おばあちゃんのパンは相変わらず美味しいっ」
「ふふっ。レイさんもいっぱい食べてくださいね」
レイはエーデルの言葉に頷いて、目の前のパンを大きく頬張った。
………………
…………
……
……
…………
………………
朝食を終えた後、レイは居間でロイドとお茶を飲みながら教科書から学んだことを話し、アリアはエーデルと共に家事に勤しんでいた。
レイ自身、エーデルの家事の手伝いをしたいのだが、マクスウェル夫妻が暮らしていた家はそこまで大きくはなく、嬉々としてアリアが家事を手伝うこともあってレイがやることがなかったのだ。
レイが変身学の難しさをロイドと共有していると、玄関より尋ね人を知らせる音が鳴った。
「あら、こんな朝にお客さんかしら」
「私出てくるねっ」
「アリアさん、お願いしますね」
パタパタと玄関に向かったアリアだが、少しするとはしゃぐ声が聞こえてきた。それだけで居間にいる3人は誰が来たかが分かり、顔を見合わせて笑った。
それは正解だったようで、はしゃぐアリアに手を引かれて居間に顔を出した尋ね人は、3人の予想通りの人物だった。
「ミネルバさんが来てくれたよー!」
「おはよう、ミネルバ」
「ミネルバ、よく来ましたね」
「おはよう、ミネルバさん」
「おはようございます、ロイド、エーデル、それにレイも。朝早くに訪ねることになってしまい申し訳ありません」
「何を言っているの。貴女ならいつでも大歓迎ですよ。さあさ、お座りなさいな。今お茶を出しますから」
「ええ、お願いします」
ミネルバは勧められたレイの隣の席に座り、レイが席を譲ってアリアがその隣に座った。アリアはマクスウェル夫妻と同じくらいミネルバのことが大好きで、こうしてミネルバが訪ねて来たときは、会えなかった分もそばにいようとする。
レイは立ったままでいようと思ったが、エーデルが座るように言ったのでしぶしぶロイドの隣に座った。
「ミネルバ、来てくれたのは嬉しいが忙しいのではないのかな」
エーデルがお茶を持って来たタイミングで、ロイドがミネルバに尋ねた。
「ええ。確かに忙しいですが、朝は比較的時間があるのです。なのでレイの様子を少し見に来ました」
明日からホグワーツ魔法学校が始まるため、副校長でもあるミネルバは自身の授業準備も合わせてここ最近はかなりの忙しさで過ごしていた。余談だが、時たまやって来ては現ホグワーツ校長のお茶目に振り回されて困っていると愚痴を零しているのはここだけの話だ。
「レイ、準備は進んでいますか?」
「後は教科書を詰め込むだけですよ」
「ミネルバ、レイは教科書を買ってからずっと教科書を読んで予習をしてるんですよ。夢中になりすぎて本を枕にするぐらい」
「それは素晴らしいことです。ですが、体に気をつけなければいけませんよ」
「き、気をつけます」
「しかもその理由が私たちへの恩返しだと言うんだ。嬉しいことじゃないかい?」
ロイドの言葉にミネルバは顔を少し歪める。
「……レイ、アリアも。私もその気持ちは大変嬉しく思います。しかし、私はそれだけに必死になって欲しくはありません。貴方方がしたいように生きて幸せになって欲しい。私にとって、それが1番の恩返しですよ」
「……はい」
「うんっ、分かった!」
ミネルバはレイとアリアの返事に満足し、お茶を一口含んだ。レイはミネルバとマクスウェル夫妻の想いが同じことに苦笑して、やはり変身術を頑張ろうと決意を新たにする。
それからもミネルバの質問というより確認にレイは答えていく。マクスウェル夫妻はミネルバが厳しく確認しているように見えて実は過保護になっていることに気付いているが、微笑みながら心の内に留めた。それは忙しい中でも時間を作ってレイのために訪ねて来たことからも明らかだった。
十分ほどで一通り確認し、ミネルバは軽く頷いて立ち上がる。
「レイも大丈夫なようですね。では、私はこれで」
「ミネルバさん、俺のために忙しい中ありがとうございます」
「気にすることではありませんよ。では、貴方がグリフィ……んんっ、良い学校生活を送れることを願っていますよ」
「ミネルバさん、玄関まで送るねっ」
「ええ、お願いします」
ミネルバは誤魔化すように咳払いをして、アリアとエーデルに見送られてホグワーツへと帰って行った。それを見送った後、エーデルは笑い声を漏らす。
「ふふっ。ミネルバったらよっぽど自分の寮にレイを入れたいのね」
「そうだね。まあ、心配しなくてもレイなら間違いなくグリフィンドールだよ」
「あら、分かりませんよ? レイはとても勤勉ですから、レイブンクローかもしれませんよ?」
「でもでもっ、確か優しい人が入れるところもあるんだよね? ならそこかもしれないよ?」
「ハッフルパフだね。レイはどこに行きたいんだい?」
ロイドがレイに尋ねる。
ホグワーツには寮が四つあり、それぞれグリフィンドール、スリザリン、レイブンクロー、ハッフルパフと呼ばれ、ホグワーツ創設者の名を冠している。
勇気あるものグリフィンドール。狡猾で偉大なスリザリン。知識を愛するレイブンクロー。優しさを共にするハッフルパフ。それぞれの特色にあった人を、創設者の遺産である組み分け帽子によって組み分けられる。
「俺はやっぱりグリフィンドールだな」
「……レイのことだから大した理由なんてなくて、どうせミネルバさんがいるからでしょ?」
「……何故バレた」
「レイのことなんてお見通しだもんっ」
「これはミネルバも喜ぶだろうねぇ」
「そうですね、あなた」
こうして四人は和やかに笑い合いながら今日一日を過ごし、夕食はレイがいる最後の日ということもあって豪華なものとなった。レイはマクスウェル夫妻の気持ちに心から感謝して、夕食をいただいた。
夕食後、レイは自室で朝の有言実行とばかりに変身学の教科書を開いていた。
「ふーっ。やっぱり難しいな……。向こうに行ったらミネルバさんに聞こう」
教科書から顔を上げ、そろそろ寝るかと考えていたらノックの音が響いた。
「レイ、起きてる?」
「ん? アリアか、起きてるぞ」
レイはいつものノックの音じゃなかったのでアリアと気付かなかった。それがレイに、アリアが普段とは様子が違うことを悟らせた。
「お邪魔します。あ、やっぱり勉強してたんだ」
「まあな。けど、そろそろ寝ようかと思ってたとこだよ」
「本当かなぁ?」
「そこは信じろよ」
そしてレイとアリアは顔を見合わせて笑いあった。ひとしきり笑った後、アリアはレイのベッドに腰掛けた。
「……ねぇ、お兄ちゃん」
ここしばらく言われなかった呼び方に、レイはかなり戸惑う。
「どうしたんだよ、いきなりそんな呼び方して」
「んー、気分?」
「気分て……」
レイは少しため息をついて、椅子を動かしてアリアと向き合う。よく分からないが、なにか大事なことがあるんだということには気付いた。
それから少し沈黙が降りたが、それもすぐアリアの言葉が遮った。
「……ありがとね」
「あん?」
「今まで、本当にありがとう。お兄ちゃん」
「…………」
そう言うアリアの表情はいつもの活発なものではなく、優しさと感謝に満ちていた。それが、アリアが心の底からそう述べていることを何よりも示していた。
レイはいきなり言われた感謝の言葉に少し唖然としたが、しかしすぐに自分も表情を緩めて素直に受け取ることにした。
「……どういたしまして」
「……うんっ。ご用事はおしまい! それじゃあおやすみ、レイっ」
「ああ、おやすみ」
アリアはいつものノリを取り戻して、元気に部屋を出て行った。レイは苦笑してそれを見送り、灯りを消してベッドに潜る。月明かりが窓からベッドの横を照らすのを横目で見ながら、レイは先ほどのことを思い返す。
「ありがとう、か」
レイは数年前を思い出す。あの地獄のような日々を。そしてふっと息を漏らして呟く。
「それはこちらのセリフだ」
アリアがいなければ、レイは心が壊れていただろう。アリアがいたから、レイは最後まで頑張ることができた。
「ありがとな、アリア」
静かな夜がレイを眠りへと誘う。……そして、レイがホグワーツへ向かう日がやって来たのだった。
如何でしたか?
一週間毎日投稿した後は、一週間に一回投稿になります。