※本日10時頃に誤って未完成品を投稿してしまいました。申し訳ありません。
レイ達がダンブルドアに助けられてから数日後。
ハリー達の四人は既に医務室から退院していたが、レイは未だにベッドの上に横になっていた。血の流しすぎと長時間痛みに耐えていた精神的疲労が原因と診断され、目が覚めない状態が続いた。
そんなレイだったが、自身の顔に優しく触れる感触に気付き重い瞼を持ち上げた。久しぶりの光に最初はなにも見えなかったが、薄目で光に慣れていくと自身の顔を覗き込む見慣れた美貌が最初に視界に映った。
「……シルヴィ、か?」
「ああ。おはよう、レイ。なんとも遅い起床だな」
シルヴィアは掠れ声で自身の名を呼ぶレイに優しく微笑み、額にかかった前髪をそっとはらう。
「ふん、起きたか」
「レイさんっ、お怪我の方は大丈夫ですか?」
目が覚めたレイに左右からギルバートとアリスの声がかかる。
いつもの不遜な態度で本を閉じるギルバートとレイが起きたことに嬉し涙を目尻に貯めるアリス。どちらも相変わらずのようだ、とレイは苦笑した。
「二人もおはよう。怪我は……痛みがないから大丈夫っぽいな」
「そ、そうですかっ。良かった、良かったよぅ……うぅ」
「ほらほら、安心したのはわかるが泣くことはないだろう」
「ぐすっ、ずみばぜんっ……」
「ふふっ、しょうがない子だ」
レイの無事に涙を流すアリスをシルヴィアが慣れた様子で慰める。それを見たレイは心配をかけてしまったことに胸が少し痛くなった。
「……悪い、心配かけたな」
「全くだ。貴様が寝ている間この泣き虫がうじうじうじうじと、目の前で鬱陶しいことこの上なかったぞ」
「うぅっ」
「こらギル。アリスがせっかく立ち直りかけたのに叩き落とすんじゃない」
「黙れ甘やかし。マダム・ポンフリーもダンブルドア校長も数日で目が覚めると保証しただろうが」
「それでも心配するのが友というものだぞ、ギル」
「ふんっ」
「……ははっ」
レイはシルヴィア達のやり取りを見て、無事に帰って来たんだなと笑みが溢れるのだった。
それからシルヴィア達はレイが寝ている間のことを話した。
まずはハリー達については、全員無事でレイの次に長く寝ていたハリーも既に退院済みということ。
次に『賢者の石』については、ダンブルドアがシルヴィア達が知っていることを確認した後、謎を解いたのにその結末を知らないのは気持ち悪いだろうと自分が壊したことを話した。
レイの一番気になっていたことであるネビルについては、ハリー達が誠心誠意謝罪した。そのネビルと言えば、レイが大怪我で入院したことを聞いて卒倒し、1日だけレイの隣で寝ていた。
最後に周囲のレイ達への反応については、危険な輩から大事なものを守った英雄として知れ渡っていた。隠しきれない真実を、嘘を交えた真実に挿げ替えたということだった。
「英雄、ねぇ? それなら本当に『賢者の石』を守ったハリー達だけだろう?」
レイはベッドの横に積み重ねられたお見舞い品を見ながらそう口にする。これらの中にはもちろんネビルや双子を始めとしたレイの友人のもあるのだが、ほとんどは顔だけ知っていたりするものばかりだ。
レイのその言葉にシルヴィア達はしょうがないものを見る目でため息をつく。アリスにまでそんな目で見られたレイは少なくない衝撃を受けた。
「な、なんだよお前ら」
「……レイ、君のお陰で彼らは誰一人大きな怪我を負うこともなく『賢者の石』を守りきることが出来たんだ」
「ポッターさんもマクレイアさんもすごく感謝してましたよ。レイさんは二人にとっての英雄なんですっ」
「そもそも話を聞いた限りだと、ポッター達が行かなくとも俺達の予想通り『賢者の石』は大丈夫だっただろう。貴様の行動は奴らの尻拭いをやらされたようなものだ。大人しく馬鹿どもにチヤホヤされるんだな」
「…………」
レイは三人の言いようにまだ納得してなかったが、大人しく受け入れることにした。
レイとしては、ただネビルの意思を受け継いだのとエステルとの約束を守っただけなのだ。そして、自分の大切なものを守るという誓いを果たしただけ。つまりはいつも通り自分のための行動だったのだ。
しかしこれはレイの問題であり、周囲がそう思うならこれ以上ぐだぐだ言っても仕方ない。レイは話を変えて、自分と戦った三頭犬のことを尋ねた。
三頭犬は、一頭が無事であればそこから得られる情報を頼りに他二頭も問題なく活動できる魔法生物だ。
レイは最初は順調に二頭の目や鼻を不能にさせたのだが、そこから三頭犬は無事な頭を確実にレイから守り残りの二頭がレイの相手をしたのだ。そのおかげで戦局が長引き、レイは身体を犠牲に扉に滑り込む羽目になったのだった。
レイとしても仕方なく三頭犬と戦ったために傷つけたという罪悪感があったのだが、ギルバートからすでに完治していることを聞いてホッと胸をなでおろした。
そこからレイが無茶したことへのお小言へと発展し、レイは三人に叱られながらも数日ぶりの親友達との会話を楽しむのだった。
………………
…………
……
……
…………
………………
レイが目が覚めた日は退院が許されず、一日置いて様子を見ることになった。その情報は瞬く間に広がり、ハリー達を始めネビルに双子などレイと親しい者たちは全員が顔を見せていた。
見舞いに来た人が泣いたり、笑ったり、心配したりと起きたばかりのレイには疲れる一日だった。中でもレイが三頭犬に少なくないダメージを与えたことで、飼い主たるハグリッドが来た時には見物だった。
レイの無事を喜ぶのはもちろん、ハリー達を守ってくれたことに感謝したいのだが、大切なペットを傷つけられたことに文句も言いたい。
そんななんとも言えない表情をしていたハグリッドの背中を押したのは、当事者であるレイだった。
レイが素直に頭を下げてハグリッドに謝罪したことで、ハグリッドも自分の気持ちに見切りをつけたのだ。すでに三頭犬の怪我は癒えていることもあり、ハグリッドも素直にレイに感謝を述べたのだった。
お昼にそんなことがあったお陰で、その夜はぐっすり眠ることができた。そして翌日には、動かさなかった筋肉の軋みを感じながらもレイは元気よく退院することができた。またその日は休日ということもあり、退院の際はシルヴィア達が出迎えてくれた。
「さて、レイが病み上がりということだし今日は一日ゆっくりしようか」
「試験も終わって宿題もないですしね」
「ならこいつのリハビリも兼ねて上の方に行くぞ。この間静かな場所を見つけた」
「へー、高いとこか。意外にこの一年、上の方には天文学の時以外行ってないよな。いいんじゃないか?」
「では決まりだ。レイ、もし辛くなったら遠慮なく私に……うん?」
シルヴィアがレイの心配をしていると、彼女の視界に知り合いの姿が映った。どうやら、廊下の柱にもたれかかる赤毛の少女……エステルはレイが退院するのを待っていたようだった。
そんはエステルはレイに気付いたのだが、シルヴィア達が一緒にいることにどうしようかと迷ったそぶりを見せる。それを見たシルヴィアは肩をすくめてレイの肩を叩いた。
「レイ、どうやら彼女が君に用事があるようだぞ?」
「彼女? ……お、ステラだ」
シルヴィアに言われて少し遠くにいるエステルにようやく気付いたレイ。それを見ていたギルバートはシルヴィアの意図を察して懐から羊皮紙と杖を取り出した。
「ここに行き方を記しておく。さっさと用を済ませて来い」
「今日は特にやることもありませんし、マクレイアさんの用事を優先してください」
「……分かった、行ってくるよ。ありがとな」
レイは三人の心遣いに感謝してエステルの元へと駆け出した。それを見送ったシルヴィアは髪を耳にかけながらエステルの用事を予想する。
「さて、レイに用事とはなんだろうな。……はっ!? ま、まさか愛の告白とかではないだろうな?」
「ふぇっ!? こ、こここ告白ですかっ!?」
「声を抑えろこの愚か者。貴様も下世話な詮索などするな」
ギルバートは眉をひそめて注意するが、シルヴィアは全く聞く耳を持たない。
「……ありえる、ありえるぞ。レイは彼女の窮地を二回も救っているのだ。しかも自らを顧みずに助けてくれたレイの姿は勇ましく雄々しかっただろう。そんな男として優れた姿を見て、女ならば惚れない方がおかしい」
「た、確かにその通りですっ。それにレイさんはとっても優しい人ですし……」
「その通りだアリス。さらにレイの風貌は一見普通に見えるが、どこか達観した大人びた雰囲気を醸し出している。子供っぽい男子を嫌がる年頃の女子のハートを鷲掴みだ」
「大人っぽいレイさんもギルさんもかっこいいですよねっ」
「……おや? 私はギルのことなど言ってないぞ?」
「ふわっ!?」
柄でもない女子トークに花を咲かせるシルヴィアとアリスに、こめかみをヒクつかせながらギルバートが杖を抜く。
「いい加減にしろ。人の感情はそうたやすいものではないだろうが。世間一般を貴様らの常識と重ねるな」
「ほう、ギルは女子の世間一般を心得ているのかな?」
「ち、違いますギルさん! い、い今のは言葉の綾といいますかっ、いえ、決してギルさんが格好悪いとかではなくっ……!」
挑発するシルヴィアと墓穴を掘っていくアリスに、ギルバートがキレる秒読みが開始されている頃。そんな三人の様子を知るよしもないレイとエステルは二人並んで歩いていた。
「よかったの? コルドウェルさん達と約束があったんでしょ?」
自身の顔を横から覗き込みながら申し訳なさげにするエステルに、レイは気にするなと首を振る。
「今日は一日四人でのんびりするだけだったしな。もし用事があればさすがにステラであってもあいつらを優先するよ」
先の約束を優先するのは当然だろ? と言われて、エステルはほっと胸をなでおろした。
「今日レイに会いに来たのは聞いてほしい話があったからなの。個人的なことだから余計に気にしちゃって」
「個人的なこと?」
レイはそっとエステルの顔を見やる。するとその顔には悩み事があると分かりやすく書かれていた。
「うん。……いいかな?」
「……分かった。とりあえず人気のないところに行くか」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
レイは元気のないエステルを連れて、自分が思いつく人気の無い場所へと向かう。そんな二人がしばらく歩いてたどり着いた場所は、レイがシルヴィアと出会った湖畔だった。
季節は夏目前ということもあって、程よい気温と湖畔から流れる涼しい風が二人を包んだ。
「風が気持ちいいね」
髪を抑えて憂の表情を見せるエステルの姿にやっぱり綺麗だよな、と改めて認識するレイ。そして自身も風を感じながら同意を示す。
「だろ? 入学したての時は勉強に行き詰まったらよくここに来てたんだ」
「むー、教えてくれたらよかったのに……」
可愛く頬を膨らませる彼女にレイは肩をすくめる。
「あの時にはハーマイオニーの事があっただろ?」
その言葉にあっ、と声を発したエステルは、湖の遠くを眺めるように前を向く。
「そっか。あれからもう一年ぐらい経つんだね。懐かしいなぁ」
「あの時はハーマイオニーもステラも日に日にやつれていってたから心配してたんだよな」
「えっ、私も?」
「ああ。友達の事を想えるのはステラの美徳だけど、あまり抱え込むなよ。それでしんどい思いをしてたらステラに想われてる奴も申し訳なくなるだろうしな」
もしそれでも抱え込んだらなら俺が相談に乗るよ、と言うレイを、エステルは眩しそうに見る。
「……かなわないなぁ、レイには」
「ん? 何がだステラ?」
レイはエステルの言葉に疑問を覚えるが、彼女はそれに答えることはなくここに来た本題を口にし始める。
「……レイはすごいよね」
エステルは変わらず遠くを見つめているが、その表情は迷いが見て取れた。
「勉強もできて、呪文も得意で、心も身体も強くて、勇敢で、優しくて……」
「…………」
「なのに、私には何もない」
胸元にぐっと結んだ拳を当てて、悔しげに思いを吐き出す。
「勉強も呪文も頑張ったけどあまり身につかない。心も身体も弱くて、臆病で、優しさも中途半端。……レイは私のことを友達想いの優しい子って言ってくれるけど、あの時も結局私はハーマイオニーの心を救えなかった」
「そんなことはないだろ?」
レイは絶対に違うと言い切れる。ハーマイオニーがあの時頼りにしてたのはエステルだ。彼女がいなかったら下手をすればハーマイオニーは病んでしまい、ずっと一人のままだったかもしれない。
しかしレイの否定にエステルは首を横に振る。
「それだけじゃないよ。レイとハリー達が喧嘩してる時も、結局私は何もできなかった。中途半端に行ったり来たりして、悪いのはハリー達なのに強くいうこともなかった」
レイは口を閉じては開いてを繰り返したが、結局何も言わずに黙って聞くことにした。エステルの話を全て聞かずに否定しても意味がないと思ったからだ。
そんなレイをよそにエステルは続ける。
「極め付けは今回の件だよ。ハリーも、ロンも、ハーマイオニーも。みんな仕掛けを突破するのに力を発揮したのに、私だけ役立たずだった。挙げ句の果てにはハリーの足手まといになっちゃったんだよ?」
エステルは湖畔から目を離してレイを見る。その顔は自分に自信をなくしてるように見えた。レイはそろそろ見て聞いていられなくなったので、杖を抜くことにした。
「『賢者の石』を守るんだって粋がっちゃってさ。バカだよね私ったぁっ!?」
そういう風に自嘲していたら、突然額に衝撃が走った。エステルはあまりの痛みにその場に蹲る。
「全くネビルといいステラといい、どうしてこうも自分を卑下するんだ……?」
あ、俺もか、とレイは独り言つ。しかしレイはどちらかといえば謙遜であり、二人の場合とは訳が違う。
そんなレイにステラは涙目かつ上目遣いで見上げる。美少女ということもあり、それは男子ならば効果抜群の威力を伴っていた。しかし普通の枠には入らないレイには効かなかったのだが。
「な、何今の?」
「ギル曰く、自分で作った超超初級の無言呪文だと。狙ったところに衝撃を与えるんだけど、少し前にようやくモノにしてな」
あと、まだ威力調整が甘いから加減はできないとレイは言った。エステルは額の痛みだったり信じられない言葉だったりで状況に追いついていない。
「自分で作ったって……」
「ギルは埒外だからな」
それで片付けるのはどうかと思うが、納得してしまう自分がいることにエステルは深く考えることを諦めるしかなかった。
「……俺とアリスは何度これを食らったことか」
何かを思い出すように哀しげにため息をつくレイ。それを見たエステルは額をさすりながら立ち上がる。なかなかの威力だったらしくその額は赤くなっていた。
「もうっ、女の子には優しくって約束したでしょ!」
「それは髪の話だろ? それに、今回は例外だ」
そう言ってレイはエステルに向き直る。真剣な様子を見せているため、エステルもこれ以上追求できなかった。
話を聞く姿勢を見せたエステルに頷いてレイは口を開く。
「まず俺のことな。ステラは俺がすごいとか色々言ってたけどよ、それは俺が“そうならざるを得なかった”からだ」
「そうならざるを、得なかった?」
おうむ返しにそう言うエステルにレイは頷く。レイは少年時代を思い返しながら話を続ける。
「詳しくは話せないが、とにかく俺は他人とは違うことが当たり前なんだ。ステラだってそう思ったことがあるだろ?」
「そ、そんなこと……」
エステルは否定したかったが、ふと思い出してしまったことがあった。それはハーマイオニーがまだ塞ぎ込んでいた頃、レイは何でハーマイオニーがあんなに傷ついているのかが理解できていなかった。
誰に何と言われようともどうでもいい、親しい人が自分を分かってくれるなら、と。
けれど人間そんなに単純ではない。陰口を叩かれたり無視されるのは他人であっても堪えるものだ。しかし、レイにはそれが当てはまらなかった。
その特異性は普段の生活でも証明されており、誰が何を言っていてもレイは全く気にしていなかった。
黙り込むエステルにレイは続ける。
「だから俺と比べるのはそもそもの間違いだ。……そしてだからこそ、俺はハリーやステラ達を尊敬するよ」
「えっ?」
エステルはレイの言葉が信じられなかった。レイが特別なのは何となくだが分かった。けど、あのレイが自分達を尊敬すると言ったのだ。信じられるはずがなかった。
驚くエステルを見て、レイは呆れたように笑う。
「ネビルもそうだけどよ。俺がお前らを尊敬するのがそんなにおかしいことか?」
「だって……」
レイはやれやれと首を振ってそう思う訳を話す。
「さっきも言ったが俺は特別だ。だけど、ハリーやステラ達は違う。普通に平和に生きてきたのに、恐怖に怯えながらも勇敢に立ち向かえるその姿は俺には眩しく見えるよ」
俺には出来なかったことだからな、と言って笑うその姿をエステルは正直直視できなかった。一目見ただけで胸がきつく締め付けられる、そんな顔をレイはしていたからだ。
エステルは締め付けられた胸を抑え、もう一度レイを見る。そこにはすでにあの顔はなかった。レイはそのような顔を見せたことなんて微塵も感じさせずにエステルと目線を合わせる。
「だから、そんなに自分を卑下しないでくれ。俺はステラを尊敬してるんだからな」
ニカッと笑うレイの表情や言葉には嘘がないことがわかる。それに嬉しくなるステラだったが、しかしそれは自分が納得するかどうかとは別だった。
「レイがそう言ってくれるのは嬉しいよ。でも……」
これ以上自分のダメなところなんて言いたくないと言い淀むエステル。そんなエステルを見たくないレイは何とかしようと言葉を紡ぐ。度々いうが、レイは人付き合い初心者である。女の子を励ますなどハードルが高いのだ。
「あーっと、ステラ。お前が役立たずだってハリー達が言ったのか?」
「そんなわけないよ!」
「だったらいいじゃないか……ってそんな簡単な話じゃないんだよな」
頭をかくレイは、ふと今のエステルの姿に既視感を覚えた。少しの間思い出していると、心当たりがあった。それは数年前の幼かったアリアだ。
父親からの虐待をアリアの分まで受けていたレイに、アリアはいつも謝っていた。
ごめんなさい、何も出来なくてごめんなさい、と。
レイは泣きじゃくりながら言うアリアにいつも同じ言葉をかけていたものだ。
お前が側にいてくれるだけでいい。
それがいつも泣いていたアリアに言っていた言葉。
レイにとってアリアはあの時父親以外では何よりも大切な存在だった。そんなアリアがレイのそばに居てくれるだけでレイは父親からの虐待を耐えることができたのだ。
特別な能力なんてなにもいらない。レイは大事な人がそばに居てくれるだけでどんなことにも立ち向かえるのだ。ただ居てくれる、それだけで幸せなのだから。
エステルと過去のアリアを重ねたレイは、物は試しにとあの時の言葉にアレンジを加えて話しかける。
「なあ、ステラ。俺はさ、優しいお前を好きになったんだよ」
「……えっ?」
レイの好きと言う言葉に思わず頬を染めて反応してしまうエステル。しかしレイにその気がなく真剣に話そうとしてることに気付いて今度は恥ずかしさで頬を染めてしまった。
「結構酷い言い方をすればな、俺はお前に勤勉さや勇敢さを求めてないんだよ。……それは多分、ハリー達もだ」
「えっと、本当に酷いね?」
エステルは恥ずかしさを誤魔化すようにレイを責めるように相槌を打つ。それにレイもそうだなと苦笑した。そして自分がエステルをどう思ってるのかを話し始める。
「優しくて思いやりのあるステラが、友達のことに一生懸命なステラが、いつも笑顔で話しかけてくれるステラが。俺は、ハリー達は好きなんだ」
レイの過剰とも言える褒め言葉に、エステルは今度は不思議と恥ずかしさに頬を赤く染めることはなかった。そして、自分のことが嫌になっていたエステルの胸の中に、その言葉が自然と抵抗なく収まっていく。
「そんなステラがそばにいると俺達は安心できるんだ。辛い時に頑張ろうって励ましてくれる。怖いことがあれば一緒に乗り換えようと震える手を伸ばしてくれる。辛いことも、怖いことも分かち合えるステラがいたから、ハリー達は『賢者の石』を守りきれたんだよ」
エステルはそう言って笑いかけてくれるレイを見て、何で自分がここまで素直に受け入れられているかに気付く。……いや、気付いてしまった。
勿論、レイが誰よりも信頼に値する人だと言うこともあるだろう。自分の気持ちを真っ直ぐに伝えるレイの言葉はどんな励ましや慰めよりも心に響くものだろう。
ではなぜか。それは今まで形になっておらず、どうしてかどうしてかと頭の片隅エステルを悩ませていたもの。それは……。
レイに対して募らせる、この恋心だ。
それを自覚したエステルは恥ずかしさで頬を染めるようなことはなく、なによりも喜びの方が優った。この人を好きになった自分が、心の底から誇らしかったのだ。
だからこそ、エステルはレイの言葉を受け入れられたのだ。
愛しい人の言葉は、なによりも力になるものだから。
そして同時にエステルはなぜ自分がレイに話を聞いて欲しかったのかをも悟った。
レイはエステルがそばにいると安心すると言ったが、それは彼女もだった。エステルもレイがそばにいると安心し、安らぎを覚えたのだ。
だから今回もレイに自分の話を聞いて欲しかったのだ。答えなんて求めていなかった。安心したかった。頼りにしたかった。……ただ、疲れた心を休ませるためにもたれかかりたかった。
エステルにとってレイはすでに心の拠り所とも言える存在になっていたのだ。
エステルがそうしてレイへの想いを再確認していた時、ふとレイの大きな掌が彼女の頭に乗せられた。それに気付いたエステルは少しだけ背の高いレイを見上げる。
「俺はなステラ。お前が後ろにいてくれたから恐怖や痛みなんかに負けなかったんだよ」
「え……?」
レイはエステルとのいつかの約束通りに優しい手つきで頭を撫でる。その掌からはレイの暖かさが伝わってくるようだった。
「何もないなんてことはないんだ、何も出来ないことなんてないんだよ。ただ居てくれる。それだけで力を与えてくれるってのは他の人にはないステラだけの力だと俺は思うよ」
「……うんっ」
愛しい人の言葉が、想いが、エステルの自身への負の感情を溶かしていく。それは雫となって頬を流れていった。
レイは静かに涙を流すエステルを優しく撫で続ける。そんな二人を湖畔からの風が陸に渡って優しく通り過ぎていく。
しばらくしてエステルは顔を上げる。エステルの顔には、愛しい人に褒められた花が咲いたような笑顔がそこにはあった。
次回、ただいま。
来週も月水金の18時に投稿します。