選ばれし者と暁の英雄   作:黒猫ノ月

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白水の匠さん、誤字報告ありがとうございます。


21話

バウンディ家に長期休暇の間お邪魔させてもらうことになったレイとシルヴィア、ギルバートはアリスと共に充実な日々を過ごしていた。

 

そんな四人がまず始めに取り組んだのは宿題であった。しかしそれに割く時間は三日にも満たなかった。

 

ギルバートは既に全てを終わらせており、レイも親孝行をしながらも半分以上は終わらせていたのだ。また、二人より先に来たシルヴィアはアリスに教えながらも二人共に四割を終わらせていた。

 

レイ達が早速と宿題に取り組む中、未成年によりいつも通りに魔法が使えないギルバートに代わって、レイとアリスが間違えた場合はその様子を見ていたエドナの手によって罰が降されていた。

 

エドナは自身が興味を持ったギルバートの開発した呪文を早速習得し、それの発動確認を含めて面白おかしく杖を振るっていた。その顔には悪童の笑みが浮かんでいたという。

 

それからの休暇は主にロネッタの家事の手伝いをしたり、エドナの暇つぶしに付き合うことで過ぎていった。特にエドナの暇つぶしに割いた時間は多く、そのお陰で闇祓いの心得や魔法戦闘のコツ、闇の帝王が暗躍していた当時の話など、学校や本では学べないことをレイ達は知ることができたのだった。

 

また昔からエドナに聞かされていたアリスも、そこに他三人の意見や疑問、見解が加わることによって自分の知っていたことが氷山の一角であったことに驚くのだった。……そんなアリスの額に穴が開きかけたのは言うまでもない。

 

仕事から帰って来たマットはそんな娘と友達の様子を見ても表情を変えることはなかったが、ロネッタとエドナには喜んでいることがバレバレであったのはご愛嬌だろう。

 

こうしてレイ達は一年と二年の境目である長期休暇を満喫したのだった。

 

………………

…………

……

……

…………

………………

 

「では、皆さん。気を付けて行ってらっしゃい」

 

「久々に有意義な時間だったよ。また来な、お前達」

 

充実した長期休暇を終えたレイ達四人は、キングス・クロス駅の9と4分の3番線でロネッタとエドナに見送られていた。残念なことにマットは仕事を抜け出せなかった為にこの場にはいなかった。そのことに拗ねた様子を見せていた夫を妻は優しく慰めていた。

 

「ロネッタさん、エドナさん。今回はお世話になりました」

 

レイがシルヴィアとギルバートの分も代表してお礼と共に頭を下げる。これに続いて二人も頭を下げたのだが、それを見たエドナが嫌そうに軽く手を振った。

 

「そんな肩肘張った礼なんて要らないさね。また老いぼれの暇つぶしに付き合ってくれたらそれでいいさ」

 

それを聞いたレイ達はエドナらしいその言いように顔を見合わせて笑い合った。そしていってきますと二人に別れを告げて、レイ達は列車へと乗り込んだ。

 

早めに乗り込んだ為に席には余裕があり、すぐに空いているコンパートメントを見つけて四人で座る。

 

それから出発までは四人で話すことはなく、各々が別々の作業を行なっていた。レイは教科書で予習に励み、シルヴィアはアリスを後ろから抱きしめる。そのアリスといえばせっせと編み物に精を出し、ギルバートは個人の本を速読していく。

 

約一月もの間、寝食を共にすれば話すことなどなくなってくるものだ。しかしそこに気まずい雰囲気など欠片もなく、バラバラのことをしながらも穏やかな時間が過ぎていく。

 

この四人にとって、四人全員が共にいることは最早当たり前のようになっていた。

 

そして列車は蒸気をあげ、重厚音とともに動き出す。それを感じたアリスは編み物の手を止めて窓の外を見やる。そこには子供達へと大きく手を振る家族の姿があった。

 

「いよいよ出発ですね」

 

「そうだな、これで君も晴れて二年生だ。新一年生に同い年だと勘違いされなければよいな?」

 

「あぅ、ありそうで嫌です」

 

「ならもっとしゃんとしろ泣き虫。このままなら年下に泣かされて醜態を晒すぞ」

 

「うぅっ!」

 

「なに、安心しろ。もしそんなことがあれば私が骨一本残さず塵に返してやるからな」

 

「過保護も大概にしようぜシルヴィ」

 

落ち込むアリスを腕の中で甘やかすシルヴィアにレイが呆れる。もうすでに慣れた光景だ。

 

列車が駅を出てしばらく。四人はまた各々の好きなことをやって緩やかな時間を過ごしていた。しかしそんな時、その時間を割くようにコンパートメントのドアをノックする音が聞こえた。

 

「ん? おっ、ステラじゃないか! 久しぶりだな」

 

「あっ、やっぱりレイとコルドウェルさん達だ! 久しぶりっ」

 

そこから可愛らしい顔をのぞかせたのは、綺麗な赤毛を靡かせたエステル・マクレイアだった。レイは一月ぶりに見た友人との再会に喜びを表した。

 

またエステルも自分が好きな人との一月ぶりの再会に胸を踊らせる。手紙でのやり取りは頻繁にしていたが、やはり会えない寂しさは埋められなかった。

 

そんな想い人であるレイへの手紙を書いている際、母親と妹にからかわれたがすごく恥ずかしかったのはここだけの話である。

 

エステルは激しく鼓動する胸を押さえて、本題を口にする。

 

「ねぇレイ、ここにあと三人入れるかな? 空いてる場所がもうなくて……」

 

その言葉にレイはエステルの背後を首を伸ばして見ると、見慣れた癖毛と赤髪が見えた。そしてシルヴィア達へと顔を向けると、シルヴィアとアリスが席を移動しているところだった。

 

「私がアリスを抱いていれば全員入れるだろう。入れるといい」

 

「す、少し恥ずかしいですけどっ、どうぞ……」

 

「さっさと入れてやれ。こっちは別に構わん」

 

「……ありがとな。ステラ、いいってよ」

 

「本当? みんなありがとう! ハーマイオニー、ジニー、入っていいって!」

 

エステルに連れられて入ってきたのはハーマイオニー・グレンジャーと見知らぬ女の子だった。いや、その女の子の赤毛は見覚えがあった。

 

「はーいレイ。久しぶりね」

 

「ど、どうも」

 

「おう、久しぶり。……あれ、ロンじゃないのか? さっき見慣れた赤毛が見えたからてっきりロンかと思ったんだが……」

 

「この子はジニーだよ。ロンの妹さんなの」

 

「じ、ジニー・ウィズリーです。これからよろしくお願いします」

 

レイ達の向かいに座り、緊張した面持ちで頭を下げるジニーにレイは気楽に話しかける。

 

「そんなに堅苦しくしなくてもいいさ。俺はレイ。こっちの美人がシルヴィアで、腕の中にいるのがアリス。んで本を読んでる眼鏡がギルバートだ。よろしくな」

 

レイの言葉に続いてシルヴィア達が各々自己紹介をする。それを受けたジニーは思ったよりも友好的な四人の態度に少しだけ肩の力が抜けたようだった。

 

自己紹介をそれぞれ終えたあと、レイは尤もな疑問を投げかける。

 

「それで、ハリーとロンはどうしたんだ?」

 

いつも一緒にいるはずの二人がいないのだから当然の疑問だった。それにエステルとハーマイオニーが戸惑ったように答える。

 

「私達も知らないの。9と4分の3番線に入るまでは一緒に居たんだけど、どうやらはぐれちゃったみたいで……」

 

「二人を探してたら発車時間が来ちゃって、それで慌てて乗ったんだけどそのお陰で空いてる席がなくなったのよ」

 

「ふーん、なるほどねぇ。ま、どっかにはいるだろうさ。あいつらのことだから今頃はぐれた三人のことをぐちぐち言ってるかもな」

 

「ふふっ、その光景が目に浮かぶね」

 

レイとエステル、ハーマイオニーはそう言って笑い合う。その様子を見たジニーがおどおどとレイへと話しかけた。

 

「な、なんかフレッド達の話してた印象と違うね」

 

「……あの双子はジニーに何を言ったんだ?」

 

悪戯小僧の笑みを浮かべる赤毛の双子を思い浮かべるレイに、

 

「えっと……常勝無敗の喧嘩好きで、三頭犬をものともしない怖いもの知らずで、一年生にしてホグワーツ内に一大勢力を作り上げた恐ろしい人って……」

 

「……あいつら」

 

レイはジニー以外の女性陣ががクスクスと笑う中、双子に復讐を誓った。この時、女の子達と歓談していた双子は唐突にとてつもない悪寒を感じたという。

 

「まあ、あながち間違いではないな。喧嘩好きは言い過ぎだが、ふっかけられた喧嘩は戦闘訓練と称して喜んで買っていただろう?」

 

「それにその喧嘩とか双子の悪戯も全部返り討ちにしてるから負けなしなのは確かよね?」

 

「コルドウェルさんとかエリスさんとか、すごい人達と寮を超えていつも一緒にいるのを見れば一大勢力と言えなくもない、のかな?」

 

上からシルヴィア、ハーマイオニー、エステルと順にそう言われてしまうが、レイは納得できずに否定する。

 

「いやいや、喧嘩はどうせ回避できないなら意味を持たそうとしただけで、ステラ達は知らないだろうけどシルヴィとギルには一回も勝ててないからな? それにたった四人で一大勢力とか言い過ぎだろ?」

 

必死で否定する様子を見てシルヴィア達は目を合わせて笑い合う。ここで自分がからかわれたことを悟ったレイは不貞腐れるのだった。これによって後に行われた双子への制裁が八つ当たり気味になったのは仕方ないだろう。

 

心優しい子熊に慰められるレイに、ジニーは笑みをこぼした。

 

「ふふっ、レイって面白い人なのね」

 

「……こんな時にその評価は不本意だ」

 

そんなことを宣いながらも、レイは不貞腐れていた状態から気持ちをさくっと切り替える。そんなレイにジニーは子供っぽい兄弟達と比べて好感を持つのだった。

 

それからは主に女性陣でコンパートメント内は盛り上がった。ハーマイオニーやジニーは偏見や兄弟の話による先入観から最初はシルヴィアとはギクシャクしていたが、それも話していくうちにすぐに打ち解けていった。ここが男子と女子の違いだろう。

 

そしてそんな女子の姦しさを尻目に、レイとギルバートは読書に励んでいた。レイは話を振られることもあったが、ギルバートは話に参加することもなく一貫して速読に徹し、すでに三冊目に突入していた。

 

そんな中、レイが読む教科書を切り替えたところでハーマイオニーが興奮した様子をみせた。

 

「あ、レイ! それってロックハートさんの本よね?」

 

「あ、ああ。こんな本でも一応は予習しないと……」

 

「こんな本!? とんでもないわ! ロックハートさんはとてもすごい人よ!」

 

「あー……」

 

レイはハーマイオニーのその熱狂さをなんとも言えない目で見た後、隣のギルバートを横目で見る。そのギルバートは眼鏡のブリッジに指を添えていた。

 

ギルデロイ・ロックハート。

 

マーリン勲章を授与され、闇の魔術に対する防衛術連盟の名誉会員であり、週間魔女のチャーミングスマイル賞を5回連続で受賞するという誰もが羨む素晴らしい経歴の持ち主である。

 

また、彼は自らが行って来た活動を冒険章として筆におろし、何冊もの本を執筆した魔法界を代表する作家でもある。その本は文字通り飛ぶように売れて、その整った顔も合わさって主に女性層に人気を博していた。そしてその本は今回のホグワーツにおける闇の魔術に対する防衛術の参考書にもなっている。

 

そう、つまりは今年の闇の魔術に対する防衛術の担当教師は彼なのであった。

 

そんなロックハートに対する二者の反応をレイが伺ったのには訳があった。それはホグワーツよりバウンディ家に今年必要な教科書などが記された手紙が送られて来たことから始まる。

 

手紙の中にはロックハートの本を七冊必要と書かれており、それを見たギルバートがあからさまに嫌悪感を示したのだ。

 

曰く、内容としては許容範囲だが、あれが教科書として成立するとは到底思えない。金の無駄遣いだ、と。

 

それを確かめる為にダイアゴン横丁へと向かい、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店で読んで見ると、レイ達はギルバートの言わんとしていたことを理解した。

 

ロックハートの本はユニークな表現で面白おかしく文章に起こしていたが、半分以上は彼自身のブロマイドであり、ページの端の方にちょこちょこっと本の内容が書かれていただけなのだ。

 

これを読んだレイ達はこんなものを買わなければならないのかと途方に暮れた。しかしここでギルバートが仕方ないと実家へと手紙を送ったのだ。

 

その結果、ギルバートがレイ達の分の本を用意してくれることになった。これにはレイ達も最初は遠慮しようとしたのだが、ギルバートが去年の誕生日の分だとでも思え、といって押し付けた。レイ達はこれに感謝をして受け取るのだった。

 

その後、新聞でロックハートがホグワーツに着任するとなぜかハリーと握手を交わしながら大々的に報道されたことで教科書の件にもレイ達は納得したのであった。

 

また、この時にギルバートは意味深な言葉を残していた。それは、この本の内容をロックハートが本当に行ったのか? というものだった。

 

ギルバートは今更いうまでもないがかなりの読書家だ。読んだ本の中にはもちろん偉業を達成した自伝を本に記したものもいくつもある。

 

そんなギルバートだからこそ、ロックハートの本を読んで気づいたことがあった。それは、自伝としての“癖”がロックハートにはないのだという。あえて言えば、臨場感がないということだった。

 

ギルバートはロックハートの本の隠された“癖”についてレイ達にこう語った。

 

奴の本はまるで新聞のようだった、と。

 

表現や抑揚で誤魔化してはいるが、節々にその特徴が見受けられるとギルバートは言う。つまりはロックハートが記者であり、本の内容はインタビューを得て書いたものではないのか? というのがギルバートの結論だった。

 

そう言われてしまえばレイ達にもそうとしか読めず、また人生経験が豊富なエドナもギルバートの意見に同意したことによって真実味が増した。これによってレイ達の中ではロックハート=ペテン師という方式が成立してしまっていた。

 

しかしこれにはなんの証拠もなく、ギルバートの感じた見解でしかない為、あまり鵜呑みにするなということでこの件については脇に置かれるのだった。

 

そして今、その脇に置いた件がコンパートメント内に舞い戻って来ていた。

 

レイ達の目の前ではロックハートがいかに偉大であるかというのを熱弁するハーマイオニーの姿があり、レイにしてみればロックハートを嫌悪しているギルバートがいつハーマイオニーへと致死毒を吐き出すか戦々恐々たる思いだったのだ。

 

ハーマイオニーは友達であり、ギルバートもまた然り。そんなレイにとってはこんな狭いコンパートメントの中で二人で険悪な仲になってほしくないというのが本音だった。

 

しかし、この一年でギルバートが自重するなど絶対にあり得ないと分かっているレイは、もはや半分以上は諦めている状態だった。

 

レイの隣でシルヴィアとアリスもギルバートを注視していた。二人もギルバートがいつハーマイオニーに仕掛けるかをそれぞれの思いで見ていたのだ。シルヴィアはニヤニヤと、アリスはビクビクと。

 

しかしその予想は良い意味で裏切られることになる。

 

「……っていうこともしてる本っ当に素晴らしい人なんだから! レイ、わかった!?」

 

「……あっ、えっ?」

 

「……貴方まさか聞いてなかったの?」

 

「い、いやいや! お、俺もまだこの人の本を全部は読んでなくてな。そんなすごい人だったのかと驚いてたんだ、悪い」

 

「なら良いけど……」

 

「まあまあ、ハーマイオニーも落ち着こう? ロックハートさんの凄さは授業でも分かるはずだから、ね?」

 

エステルがとりなしたことでハーマイオニーも矛を収めてレイはホッと胸をなでおろした。それはアリスもであり、シルヴィアは少しガッカリしていたのは良い性格をしていると言えるだろう。

 

女子陣は再び会話に花を咲かせていく。そんな中、レイはギルバートにこそっと話しかける。

 

「ギル、なんでさっき突っかからなかったんだよ?」

 

それをギルバートは鼻を鳴らして答える。

 

「なぜこの狭い中、ホグワーツに着くまで居心地の悪い状態を俺が作り出さなければならない」

 

「いやでも、お前そういうの気にしないだろ? 言いたいことを言うのがお前だろ?」

 

「貴様がお望みなら今からでもあの愚か者に言ってみせるが?」

 

「すみません、お心遣いに感謝します」

 

「ふんっ」

 

レイはギルバートへと深く頭を下げた。その様子を見ていたエステルとハーマイオニー、ジニーは疑問符を浮かべるが、シルヴィアは口元を手で押さえ、アリスは乾いた笑いを浮かべていた。

 

ギルバートは約1年前のアリスとの接し方より他人への配慮というのを少しづつ学んでいたのだ。例え頭がお花畑満載な女の子からでも何かを学び取る秀才であった。

 

こうしてレイ達一行を乗せた列車はホグワーツへと車輪を回していく。

 

もうすぐ、ホグワーツ魔法学校で二年目の幕が上がる。




次回、偉大なる魔法使いの最初の授業。
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