教室に甚大な被害をもたらした二年生初回の闇の魔術に対する防衛術の授業から数週間が経った。
当時、ロックハートにより大変不愉快な思いをしたシルヴィアは二度と奴の授業など受けないと癒しの塊を抱きしめながら吐き捨てていた。
しかし、その癒しの塊であるアリスや最愛の友たるレイに諭されることでなんとか授業に顔だけは出すことにしたのだ。
どこぞの秀才を真似したように無愛想な様子で腕を組んで授業を受けるシルヴィアに、前回のことから学んだロックハートも無闇に関わろうとすることはなかった。……そのロックハートは授業の度に少なからず醜態を晒していたが。
それもあり、ロックハートファン以外の生徒達は彼が本当に本に書かれたような偉大な人物なのかと疑いを持ち始めていた。そんな中でもファンの子達は彼の醜態をお茶目なジョークと受け取っていた。熱狂的な信望は瞳を曇らせることを証明しているようだった。
そんなわけでシルヴィアはまったくとは言わないが、問題にはならなかったのだが、問題だったのはギルバートだった。彼はなんと、この数週間一度もロックハートの授業に出席していないのだ。
何故出席しなくなったのかといえば、聞けば納得の理由がある。
レイとシルヴィアの後にギルバートとアリスは闇の魔術に対する防衛術の授業を受けたのだが、前半はまったく一緒の自己満足による小テストだった。
これを見た瞬間、ギルバートの中で何かが切れる音がした。この音は誰の耳にも届くことはなかったのだが、唯一アリスだけはその小さな耳にその音が聞こえてきた。
学ぶことを尊ぶギルバートにとって、学びの場である授業にこのような自身の承認欲求を満たしたいという私情を持ち込むことは彼の信条を真っ向から冒涜する行為だったのだ。
アリスが気が付いた時にはもう遅かった。ギルバートはいきなり席を立ち、毒を吐くこともなく教室を去っていった。これにはロックハートおよび生徒一同は唖然と見送るしかなかったのだが、ただアリスだけが気付いていた。彼が心の底から激怒していることに。
そしてその日、ギルバートは他の授業にも出席することもなく、夕食にも顔を出さなかった。そんなギルバートを心配していたレイとシルヴィアはアリスから訳を聞き、レイはなんとも言えない表情を浮かべ、シルヴィアは再びロックハートへの嫌悪を募らせていった。
かなり頭にきていたギルバートであったが、翌日の朝食には何食わぬ顔で大広間に姿を見せていた。心配していたレイ達にロックハートに対する毒を吐く程度には落ち着いたようだった。
そんなこともあって、ギルバートは一度も闇の魔術に対する防衛術にの授業に出席することはなかった。あんなくだらないものに時間を費やすくらいなら死んだほうがマシ、と言ってその時間は自主勉強に励むことにしたのだ。
しかし一生徒にそんな勝手が許されるはずもなく、あれから数週間が経った今日、ギルバートは寮長であるフリットウィックに呼び出されたのだ。
「ギルさんっ、大丈夫でしたか?」
呪文学の教室から出てきたギルバートにアリスが真っ先に駆け寄る。それにギルバートは鼻を鳴らして返した。
「大丈夫も何もないだろうが愚か者。ただ呼び出されて注意を受けただけだ、大げさに喚くな」
「あぅ、すみません」
「おいおい、心配してくれたアリスにその言いようはないだろ?」
「そうだぞギル。特にこの子は君がキレた現場にいたんだ、心配もするだろうさ」
「……ふん」
アリスの後をゆっくりと歩いてきたレイとシルヴィアに諭されて、ギルバートはまた鼻を鳴らした。しかし今度は静かに息を吐いただけで、どこか気恥ずかしさが見て取れるようだった。
それを誤魔化すように眼鏡のブリッジに指を添えるギルバートにレイが呼び出しの結果を問う。
「んで、どうだったんだ?」
「……仕方なく、本当に仕方なくあの馬鹿者の授業にも出ることにした」
本当に心の底から嫌なのだろう。ギルバートは断腸の思いといった具合で吐き捨てたのだが、それを聞いたレイ達は驚いていた。なにせあのギルバートだ。彼ならばどれほど注意されようと、絶対に自分の意思を曲げないだろうから長期戦を予想していたのだ。
「えっ、お前素直に頷いたのか?」
「退学にすると脅されたのか? それなら私達が直談判するぞ。悪いのは確実に奴なのだからな」
「ふぇっ!? そ、そんな酷いですっ、許せません!」
それぞれが心底心配し、あのアリスでさえ徹底抗戦ですっ、とむんっと力む様子を見せていた。これにはギルバートも少し驚いていたが、後にいつものように無愛想に三人を諌める。
「早とちりするな愚か者ども。単純に説得されただけだ……ダンブルドア校長にな」
「ダンブルドア校長に? それほどの大事か? ……大事か」
「長い歴史の中でもたった一人で授業をストライキした者は少ないだろうからな。それが学年首席ならなおさらだろう」
レイとシルヴィアの言葉を聞き終えた後、ギルバートは中で何があったかを話し出した。
「最初はフリットウィック教諭だけだったんだがな、授業を出るように言われ、頑として首を縦に振らない俺の後ろにいつのまにかダンブルドア校長が立っていたのだ」
「……あれ? 私達はずっとここに居ましたけど、ダンブルドア先生は通りませんでしたよ?」
「しかもここは姿現しが出来ないはずだ。いかにして突如そこに姿を現したのか……やはりダンブルドア校長は埒外だな」
シルヴィアの補足の後にギルバートが続きを話した。
「ダンブルドア校長は俺の言い分はもっともだと言った後に、しかし授業には出ないと色々とまずいということで闇の魔術に対する防衛術に関することなら好きに勉強しても構わないから出て欲しいと言われた」
ダンブルドア校長ほどの人物に頭を下げられてしまえば頷かないわけにもいくまい、とため息をつくギルバート。話を聞き終えたレイ達は納得するしかなかった。
偽物とは違う正真正銘の偉大な魔法使いが一生徒に配慮し、さらには頭まで下げる。魔法省のお偉い方が聞けば目を剥く行為だろう。もちろん、偉大な魔法使いとして相応しくないとして。
しかし、それが出来るからこそダンブルドアは多くの人々から信頼と支持を持たれるのだろう。そんなダンブルドアの偉大さの一片を知り、感嘆のため息が漏れた。
それからレイ達はいつもより人通りが少ない石畳の廊下を歩いていく。今日は休日であり、生徒達は一週間に一度の休日を思い思いに過ごしていた。
今日は自主練もなく、宿題も早々に終わらせていたので湖畔で静かに過ごそうと外へ向かっていたのだが、その道中で集団が言い争う現場を目撃した。
緑と赤のローブを着た者達を中心に言い争っており、両者がぶつかり合う先頭ではレイのよく知る者達がいた。
「あれは……ハリーか。それにステラ達もいるな」
「服装からして今日はクィディッチの練習日みたいだが、どうやらスリザリンと被ったようだな。それでどちらも譲り合わずに言い争いに発展したんだろうな」
レイ達は少し遠くでその様子を伺っていると、ここからでも映える金髪をオールバックにしたマルフォイが何かを口走ったことで一気に不穏な気配が増した。
赤毛の双子を始め、クィディッチメンバーはもちろん、ロンとエステルまで怒りで顔を染めてマルフォイに詰め寄る。しかしそれをスリザリン側が応戦しようとマルフォイの前に出た。
今にも乱闘に発展しそうな一触即発の気配を察したアリスが少し顔を青くした。
「ど、どうしましょう。このままじゃ大変なことにっ……!」
「んー……まっ、ここで喧嘩しても誰も得はしないし、いざとなったら止めるか」
「ふんっ、面倒だが仕方ないか」
「……あの塵が。またくだらないことを言ってからに」
レイとギルバートがいつでも仲裁できるように杖を抜こうとした時、ふとシルヴィアのそんなつぶやきが聞こえてきた。彼女の五感は一般人よりもかなり鋭い。この距離でもマルフォイが口にした言葉が届いていたのだ。
そしてそれは、機嫌を急降下させるには十分な言葉であった。
それを察したレイが不思議そうに尋ねる。
「ん? シルヴィ、どうしたんだ?」
「……いや、君が知らなくてもいい……」
ことだ、と話を逸らそうとしたところで、向こう側に動きがあった。マルフォイが言った言葉が相当に腹に据えたのだろう。我慢できなくなったロンがいきなり杖を抜いてマルフォイに杖を向けたのだ。
「あ、やべっ」
「ここからでは届かんな。貴様ら、急ぐぞ」
「……ああ」
「は、はい!」
レイ達は駆け足で現場に向かったが、やはり一足二足遅かった。ロンが何かをマルフォイに掛けようとした瞬間、何かが杖から逆噴射してロンの方が後ろに吹っ飛んだのだ。
それを慌てて助け起こしたハリー達だったが、起こされたロンは顔を真っ青にして口元を押さえ、今にも吐きそうな様子を見せた。そしてついに我慢できなくなったロンは口から何かを吐き出した。
それは、中々の大きさを誇るナメクジだった。しかもそれは一匹では終わらずにロンは次々とナメクジを吐き出していく。
ロンの杖は入学式の日に暴れ柳によって折られており、まともに使えない棒切れと化していた。そのために杖が正常に機能せず、呪いを自身で受け止める結果となってしまったのだ。
そんなロンを見てマルフォイを先頭にスリザリン生は大笑いだ。実の弟を嘲笑うそれを見た双子は髪の色と同じくらい顔を真っ赤に染めて杖を抜こうとしたのだが、それを駆け寄ったレイが押さえた。
「フレッド、ジョージ。やめとけ」
「「レイっ! けどよ!」」
「いいから、今は落ち着け。……ハリー、ステラ、ハーマイオニー。早くロンを治せる人のとこに連れてってやれ。ここは俺達がなんとかするから」
レイの言葉を聞いた三人は頷き合い、レイに感謝を述べて青い顔をしているロンに肩を貸して連れて行った。それを見送ったレイは双子に事情を聞くことにする。
なお、あれほど嘲笑っていたマルフォイ含むスリザリン生はシルヴィアが冷酷に微笑みながら杖を揺らす様を見て一斉に口をつぐみ震え上がっていた。
「で、遠くで見てたけどさ。練習日が被って言い争ってたのはわかったけど、マルフォイのやつは何を言ったんだ?」
「……あのフォイ野郎、ハーマイオニーに口論で勝てないからって最っ低の言葉を言いやがったんだ」
「……俺達も絶っ対に口にしたくない、マグル生まれを貶す言った方が穢れるような言葉さ」
「言った方が穢れる?」
「……ちっ」
「…………」
「……まさか」
双子の言いたいことに気付けなかったレイだが、ギルバートとアリスは悟ることができた。元々聞こえていたシルヴィアは舌打ちをしてさらに冷酷さを増していく。
そんな中、珍しくアリスが怒りを示した。顔を赤く染め、目尻の端に涙を称えてマルフォイへと詰め寄る。
「どうして……どうしてそんなことが言えるんですか! どうして笑えるんですか! ぐすっ、そ、そんな自分が恥ずかしくないんですかっ!」
「な、なんだとっ!?」
役立たずで女王様の金魚の糞として有名なアリスに詰め寄られたマルフォイ。どうやらプライドが傷ついたようで、シルヴィアに牽制されていたが、一瞬だけ怒りの様子を見せた。しかしそれも、シルヴィアとギルバートに杖を向けられ、歯を食いしばって黙るしかなかった。
ギルバートはスリザリン生の牽制をシルヴィアに任せ、溢れる涙を拭うアリスの頭を杖で軽く叩く。
「……まったく、貴様が泣いてどうするのだ泣き虫。それにこの馬鹿者どもに何を言っても無駄だ。このような屑どもには貴様の言葉も、想いも届かんだろうさ」
「ぐすっ、ひっく……」
悔し涙を流すアリスをギルバートが自分流に慰める。そんなアリスの怒りを見たスリザリン生はバツの悪そうに体を揺らした。流れで嗤っていたが、実は純血でないものも多く、アリスの怒りと泣き顔が良心に突き刺さったのだ。
しかし罵倒した相手は犬猿の仲であるグリフィンドール生だ。素直に頭を下げれるはずもなく、居心地が悪そうに目を彷徨わせるだけだった。
レイは初めて見たアリスの怒りを見て、それほどのことをマルフォイが言ったのかと嫌でも気付かされた。
「まあ、なんとなく状況は理解したよ。とりあえず双子、杖をしまえ。そんなことを言う奴なんかのために罰則食らうなんて馬鹿らしいだろ?」
「「…………」」
レイの言葉になんだか出来ず不貞腐れたような顔をする双子に、レイは口角を上げる。
「それによ、見たところマルフォイは選手になったようだ。と、いうことはだ。“試合中に何があっても事故”だよな? ビーターのフレッド、ジョージ」
「「!」」
「なっ!?」
レイの言わんとしていることを瞬時に悟った双子とマルフォイは表情を一変させる。一方は顔を輝かせ、もう一方は顔を引きつらせる。
「「おまえってやつは最高だぜっ!」」
「なんのことだ? 俺は生憎とクィディッチには詳しくなくてな」
そう言って誤魔化すように肩をすくめるレイを見て、やっと双子は溜飲を下げる。また、ほかのグリフィンドールのクィディッチメンバーも試合で決着をつけてやると気合を入れた。
「まっ、あとはお互いのリーダー同士で決めてくれ。そこについては俺達は不干渉だ」
グリフィンドール側から不穏な気配が消えたことに肩の力を抜いてレイは振り返る。そこには杖を下ろしてアリスを正面から抱きしめているシルヴィアと眼鏡に手を添えるギルバートがいた。
そして、その奥のシルヴィアの圧力から解放されて深く息をしたりへたり込んだりするスリザリン生を見る。正確にはその先頭でレイを睨みつけているマルフォイを、だが。
「なあ、マルフォイ。一つ聞いてもいいか?」
「……はぁ? 君ごときが……っ!? な、なんだよっ」
マルフォイはレイを見下して突き放そうとしたが、シルヴィアのひと睨みに怯えて渋々だが答えた。女王様の過保護さにレイは苦笑して、この際に今まで聞きたかったことを尋ねる。
「おまえってさ、なんでそんなに怯えてるんだ?」
マルフォイは一瞬で頭に血が上った。レイがそう聞いてきたのは自分を馬鹿にしてるからだと捉えたからだ。……シルヴィアに怯える自分を見て、彼女の後ろでそれを馬鹿にしているように見えたのだ。
「オルブライト! コルドウェルの後ろにいるからって調子にのるなよっ!」
シルヴィアの恐怖よりもとうとう怒りが勝り、マルフォイはレイに杖を抜こうした。しかしそれを一瞬でレイが奪い去る。
「なっ!?」
「よっと、やっぱり早く無言呪文を覚えたいな。呪文を言うのと言わないのじゃ早さが段違いだし」
空中を舞ってレイの手元に奪われた自身の杖と、レイの鮮やかな手並みを見て唖然とするマルフォイ。それはほかにその様子を見守っていた者達も同様で、唯一双子だけが当たり前のように頷いていた。
「というかそうだよな、こんな聞き方したらそりゃ勘違いするよな。今のは俺が悪かったよ。ほら」
「な、え?」
そして素直に謝罪され、さらにはあっさりと奪った杖を返されてマルフォイは予想外の連続で思考が停止してしまう。そんな彼に気を使うこともなく、レイは自己で完結していく。
「うーん、ということは自覚がないのか。なら聞いても仕方ないな。悪いなマルフォイ、今のは忘れてくれ」
「は? いや、ちょっと……」
それじゃあな、とシルヴィア達を連れて離れていくレイをマルフォイはただ見送ることしかできなかった。
それから少しの間、中庭ではグリフィンドールのクィディッチメンバーのリーダー務めるオリバー・ウッドがこれからの競技場の所有権について話を切り出すまでなんとも言えない微妙な雰囲気が続くことになる。
そんなことなど気にもしないレイ達は、イレギュラーはあったが予定通り湖畔への道を歩いていた。
「ふんっ、怯えているか。貴様にしてはよく見ているな」
そんな中、ある程度歩いたところでギルバートが先のレイの言葉について口を開いた。
「なに? ギルは分かったというのか?」
「え、えと、どういうことなのですか?」
シルヴィアとアリスは男二人で共有していることが分からずに素直に尋ねる。アリスも既に泣き止んでおり、涙で濡れた顔もシルヴィアによって綺麗に整えられていた。
そうして尋ねる二人にレイは肩をすくめる。
「いや、明確ななにかが分かったわけじゃねぇよ。ただマルフォイって他人よりもかなり周囲のことを気にしてるなって思っただけだ」
そう言うレイを興味深げに見るシルヴィアとアリス。
レイは昔、父親の動向に逐一怯えていた時がある。父親の機嫌を損ねないように様々なことを気にしながら生きていたのだ。そして、その時とマルフォイの様子がなんとなく被って見えたからこその言葉だった。
そんなレイの言葉にギルバートが同意した。
「その通りだ。やつは純血を掲げて肩で風を切っているように見えるが、実際は違う。誰よりも周囲の目線や評価を気にしており、純血にふさわしい者であろうと薄っぺらいハリボテを纏っているだけだ」
「つまりは純血に相応しくないと思われることに怯えている、と言うことか?」
シルヴィアの結論にギルバートは頷く。
「おそらくあの馬鹿者の本性は気弱で根は優しいのだろう。しかし誇り高き純血たれと言う教育があの馬鹿者を歪ませた。だから常に親から言われた純血たる者であろうとし、周りの純血に合わせるように振舞っている」
「……ああっ。だからあいつの悪口ってどこか軽いのか! 周りに流されて言ったり、純血一派に見栄を張りたいために言ってるだけだがら、悪意や敵意ってやつがあんまりないんだな」
マルフォイに対して抱いていた疑問を本人からではなく、ギルバートに次々と教えてもらったレイはひどく納得したように何度も頷いた。実際のところ、先のギルバートの言葉はきっかけに過ぎず、悪意に敏感なレイだからこそ気付けたものだった。
レイとギルバートの話を聞いたシルヴィアはふむ、と顎に指を添えて考え込む。自分は気付くことなくレイとギルバートは気付くことが出来た。そのことに思うところがあるようだ。
そしてアリスはといえば、後悔の念に苛まれていた。
「わ、私はそんな事情も知らずにあんなことを……」
先程マルフォイに詰め寄ったことを思い出したのだ。しかしそんなアリスをレイ達は否定した。
「なにを言ってるのだこの泣き虫。くだらないことを抜かすな」
「ふぇ?」
「さっきも言ったけどマルフォイはそんな自分を自覚してない。その時点で罪の意識はないんだよ。そんな奴に同情するのはお門違いってもんだ」
「それにどのような理由があろうと、軽々しくあのような下衆な言葉を吐いていいわけはない。君の行いはとても素晴らしいものだよ、アリス」
アリスは三者三様に叱られ、諭され、褒められる。それはアリスの後悔を取っ払い、元気を取り戻させた。
「しかしギル、君もよく気がついたな。マルフォイなど君にとっては路傍の石以下の存在だろうに」
それはギルバートをよく知るからこその言葉だった。ギルバートは軽く鼻を鳴らして答える。
「……身近に、似たような奴がいたからな。たまたまだ」
「ほう? それは噂に聞いた愚妹殿かな?」
「……ふん」
ギルバートはただ、鼻を鳴らしただけだった。しかしそれだけでも答えを導き出すには十分だった。
「シルヴィ、それ以上詮索しなくてもいいだろ。さっさと行こうぜ」
「そ、そうですねっ、早く湖畔に行きたいですっ」
同じように察したレイとアリスが流石にシルヴィアを止める。彼女も素直に頷いてギルバートに謝罪した。
「それもそうだな。すまんなギル、つい興味が先行した」
「別に構わん」
こうして四人は湖畔へとたどり着き、広大な湖を眺めながらゆったりと時間を過ごす。湖畔ではしばらくの間、楽しげに歓談する声が遠くまで秋風に乗って届くのだった。
レイはこのとき、この一年は去年とは違い大きな事件が起きることもなくいつでもこのような時間を過ごせるとこの時は思っていた。
しかし、その期待は軽々と裏切られることになる。
なぜならばそれから一週間後、本来ならば様々な料理で幸せに包まれるハロウィンのその日に、誰もが予想だにしない事件が起こったのだ。
どうやら、運命はレイ達を平和には過ごさせる気はないようだ。
次回、秀才、反省する。