第1章、開幕!!
1話
「それじゃあレイ。楽しんでおいで」
「病気にならないようにね」
「分かったよ。じいちゃん、ばあちゃん」
蒸気機関特有の音や煙、そして押しては返す人混みの中、キングズ・クロス駅の9と4分の3番線にレイ達はいた。今日、レイはホグワーツ魔法学校へと入学する。
マクスウェル夫妻とアリアがレイを見送りに来てくれたのだが、例のごとくアリアはキングズ・クロス駅の“あちら側”までしか来れなかった。けれど、今回は笑顔でレイを見送ってくれた。
まさか柱に入り口を作るとは。つくづく魔法とはすごいものだとレイはこの場所の行き方を教えてもらった時は思ったものだ。
レイは最後にマクスウェル夫妻に手を振り、列車へと乗り込んだのだった。
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「ん、ここが空いてるな」
レイは比較的早めに列車に乗り込んだため、まだコンパートメントが空いてる場所があった。誰もいないコンパートメントに1人座り、荷物から教科書を取り出す。今回は薬草学だ。この科目についてはエーデルが詳しく、他の科目と比べても自信がついてきた科目だ。
教科書に目を通していると、列車がガタンという音と共に動き出した。喧騒は一際激しくなり、別れを告げる声が多くなる。窓を開けて親に手を振ったりしてるのだろう。
しかし、レイは変わらず教科書に目を向ける。マクスウェル夫妻は既にアリアの元に帰っている。今は何処か寄ってるかもしれない。そう思うと微笑ましくなって、レイは口元に笑みを浮かべた。
喧騒もある程度列車が駅から離れると落ち着きだし、今では列車の走る音だけがレイの耳に聞こえた。列車に乗るのが初めてであるレイはしかし、流れていく風景を楽しむこともしない。ただ列車が出す音に耳を傾けながら教科書を読みふける。
しかしそんなレイの元に、コンパートメントの扉が開く音が聞こえてきた。そこに目を向けると、こちらを覗きながらホッとため息をつく赤毛の女の子がいた。
「あ、ここ空いてる。ねぇ、座ってもいいかな?」
「ああ、いいぞ。……ほら、荷物を上に上げるぞ」
「あっ。……ありがとう」
「どういたしまして」
レイは少し強引だったか? と思いながらも、少し恥ずかしそうにレイの向かいに座る女の子を見て、まあいいかとレイ自身も元の場所に座った。そして閉じていた薬草学の教科書を広げ、どこからだったかとページを探していると向かいに座る女の子から声をかけられた。
「それって薬草学の教科書?」
「ん? ああそうだ。暇だったし、予習も含めてな」
「ほへー。勉強熱心なんだ」
「そんなもんじゃねぇよ。本当に暇だったからさ」
「それでも普通は教科書を読もうってならないよ。あっ、そういえば自己紹介がまだだったよね。初めまして、エステル・マクレイアです」
「レイ・オルブライトだ。レイでいい。よろしくな」
「こちらこそよろしくね。それじゃ私はステラでいいよ」
「分かったよ、ステラ」
レイは自己紹介を終え、改めてエステルを見る。綺麗な赤毛を胸元まで伸ばし、ハーフアップにして後ろで結んでいた。顔立ちはかなり整っており、自身の妹であるアリア以外の女の子とこうして話すことはなかったため、琥珀色の瞳でこちらを見るエステルに少し気恥ずかしくなって窓の外へと視線を向けた。
「? どうしたの? 窓の外に何かあった?」
「いや、なんでもねぇよ」
その様子を不思議がるエステルをなんとか誤魔化して、レイは他愛のない話に興じた。二人はしばらく盛り上がったのだが、その中の一つにハリー・ポッターという『生き残った男の子』が俺達と同じ学年でホグワーツに入学するという話があった。
「ハリー・ポッターってあれだろ。確かヴォル……」
「きゃぁ! ……もうレイ!『例のあの人』のことを名前で呼ばないでよ!」
「わ、悪い。名前を呼ぶだけでそこまで怖がるなんて思わなくてな……」
「それぐらい恐れられてるってことだよ」
エステルが顔に恐怖を貼り付けて、自分の肩を抱く。レイは名前を呼ぶくらいなんてことないと思うのだが、多分この反応の方が魔法族としては正しいんだと初めて理解した。未だに恐がっているエステルに、レイは本当に恐いんだなと素直に謝る。
「ごめん。次から気をつける」
「……うん」
それから少しの間、気まずい空気が2人の間に流れた。しかしそれは売店の女性がレイ達のコンパートメントを訪れたことで掻き消えた。
「坊ちゃん方、何かご入用ですか?」
「あー、そうだな……。ステラ、何か奢るよ。さっきのお詫びだ」
「えっ、そんな悪いよ」
「いいから、奢らせてくれ。罪悪感をなんとかしたい“俺のため”にもな」
「……ふふっ。自分のためなんて、そんなことをお詫びがしたいって言いながら言う人初めてだよ」
エステルはレイの言い草に引き締めていた口元を緩めた。
「俺の恩人の教えだよ。何をするにしても、結局は自分のためだっていうな」
「へー、なんか意味深だね」
「だろ?」
そして2人の間に和やかな雰囲気が戻り、売店からお菓子を買う。その間、売店の女性はレイとエステルのやり取りを微笑ましそうに眺めていた。
そんな出来事もあったが、あまり人と接することがなかったために他人と話すことに不安があったレイは、なんとかなるものだなと人心地ついていた。
そんな風に思っていたレイだったが、しばらくして今度はエステルが少し不安そうにしながら話しかけてきた。
「ねぇレイ。レイは寮の組み分けでどこに行きたいの?」
「寮? まあ一応グリフィンドールだけど」
「わぁ、そうなんだ! 私と一緒だね」
「ステラもか?」
「うん。けど、グリフィンドールに行けるか心配で……」
なるほど、とレイは納得した。そしてエステルの不安を拭うために、マクスウェル夫妻やミネルバから聞いた寮の組み分け方法を教えてあげる。
「そんなに心配することないぞ。寮の組み分けは確かにその人にあった寮に組み分けることにはなってるが、ある程度はその人の意思を尊重するそうだ。だからステラがグリフィンドールに行きたいって思えば行けるさ」
「……本当?」
「ああ」
レイの話に、それでも不安そうに上目で見てくるステラ。そんなステラにレイは迷わずに頷く。
「……はーっ。それを聞いて安心したよ」
「それは良かった」
「うちのママがね、私を脅してくるからどうしようかと思ってたの。そんなんじゃスリザリンに組み分けられるぞって」
「……やっぱりスリザリンって嫌われてるんだな」
「それはそうだよ! あそこに入る人は性格悪い人や闇の魔法に傾倒する人が多いらしいし、それに純血主義っていう馬鹿なことを言ってる人も多いって聞くよ」
それを聞いて、レイはミネルバからもらった本で読んだ内容を思い出した。
「純血主義……。ホグワーツ創設者の1人で、のちに他の3人と仲違いを起こしたっていうかのサラザール・スリザリンが掲げたっていうやつか」
純血主義はいわゆる魔法族至上主義と同義で、マグルとのハーフの子やマグル生まれの子を見下すという主義だ。特にマグル生まれの子は『穢れた血』と蔑むほどだ。
「そうそれ。レイって見かけによらず博識だよね」
「そうか?」
「……そこは一言余計だって言って欲しかったかな」
「悪いな、まだ人付き合いに慣れてないんだ」
「慣れてない?」
「ああ。ここ数年だとじいちゃんとばあちゃんと妹、あとミネルバさん……じゃなくて、よく来てくれるじいちゃん達の友達としか話さなかったからな」
エステルはレイの言葉にはっとするが、特にレイに気にした風がないので、自分が気にするのはダメだと思い至る。なので、少しふざけた感じで返すことにした。
「へー。ならしょうがないので許してあげます」
「それは恐悦至極」
2人は顔を見合わせて笑い合い、ステラは対応を間違えなかったことにほっとした。そして2人は再び世間話に花を咲かせ、それはもう少しで列車がホグワーツに到着しそうになる時まで続くのだった。
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列車が終着点にたどり着き、それぞれ制服に着替えたレイとステラの2人は列車を降りた。そこで2人は表情を驚愕に染めることになった。
「いっちねんせいっ! いっちねんせいはこっちだぞぉ!」
今まで見たこともない程大きな体をした毛むくじゃらの大男が声を大きく張り上げて新一年生の誘導を行なっていた。それを見てレイは思わず納得してしまった。あれほど目立つ人が誘導をすれば迷うことはまずないだろう。
「びっくりしたぁ。すっごく大きい人だね、レイ」
「あ、ああ。あれなら初めてホグワーツに来た奴も迷うことはないだろうな」
「あはは、そうだね」
レイはステラと笑い合う。ステラといると笑うことが多いなとレイは思いながら、大男の後を2人でついて行った。
ついて行った場所は湖畔で、そこには数人が乗れる小舟がいくつもあった。その一つに乗れと大男が言うので、レイはステラと一緒に乗る。
大男は全員が乗り終わったのを確認したのち、小舟は一斉に湖の沖へと動き出した。最初は船頭についたランタンの灯りしか一年生達を照らすものがなかったが、それもすぐに終わりを告げた。
「うわぁっ……!」
「これは……すごいな」
それは、湖畔の崖にそびえ立つ古代の城だった。その古代の城に取り付けられた多くの窓から溢れる灯りが一年生達を照らし、その壮大さを感じさせた。
多くの灯りに照らされた大男は、一年生達が驚きで口を開けているのを見て満足そうに頷いている。これはどうやら恒例のことのようだ。これを見せるためにわざわざ一年生だけを船に乗せてホグワーツへと運んでいるのだろう。
レイはまんまとしてやられたと思いながらも、これだけでホグワーツに来てよかったとも思ってしまうのだった。
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晴れた夜だからこそ見られる古代の城の幻想的な光景を目に焼き付け、湖を渡りきった一年生達は校内を歩いていく。大男は次に行く方向を告げるだけだったので一年生達は動揺したのだが、大男は迷うことはないので安心しろと言った。一年生達は不安げな様子を残しながらも言われた通りに歩き出した。
そんな大男は、最後に忘れていたように慌てて自分はルビウス・ハグリッドだと自己紹介を終えて去って行った。レイはそんな大男……ハグリッドの今までの行動と言動でどんな人物なのかを大体理解した。
「あのハグリッドっていう奴はおっちょこちょいみたいだな」
「あはは、そんな感じだったね。でも憎めないっていうかなんていうか……」
「本人は精一杯頑張ってるみたいだしな。悪気はないんだろう」
ハグリッドのことを話しながら階段を上っていくと、上りきった先の大扉の前で、ここにいる一年生達の中でもレイが最も知ってるであろう人物が立っていた。
「一年生の皆さん、ご入学おめでとうございます。私はミネルバ・マグゴナガルと言います」
ミネルバの出で立ちや声色に、レイ以外の一年生達はさっきまでの浮ついた感情を隠して顔を引き締める。周りの様子や隣でレイの袖をきゅっと握るステラに苦笑して、ミネルバを見る。そんな一年生達が自分に注目したのを確認した後、ミネルバは口を開いた。
「これより大広間にて各寮の組み分けが行われます。私がそれぞれ名前を呼びますので、呼ばれた者は速やかに前に出るように。何か質問は?」
ミネルバが尋ねるが、誰も何もないようだった。それを見てミネルバは口を開き、レイ達に背を向ける。
「ないようですね。では参りましょうか」
そしてミネルバに率いられた一年生達は次々と大広間への大扉を潜っていく。
「あのマクゴナガル先生って、すごく厳しそうだったね」
レイは未だに自分の袖を握っているステラの言葉に苦笑する。
「まあな。けど、厳しいだけじゃなくて根は優しい人だよ、あの人は」
「え? なんでそんなことがわかるの?」
レイはふと漏らしてしまった言葉にやってしまったと顔をしかめる。ここホグワーツではあまりミネルバと親しいことは知られないようにしようとレイは考えていた。
教師というのは平等に生徒達と接しなければならない。そんな中でミネルバが特定の生徒個人と親しいと分かれば、他の教師や生徒が騒ぎ出すだろう。ミネルバに恩を感じているレイからしてみれば、それは避けたいことだった。しかし。
「……あー、そうだな。もし組み分けで一緒にグリフィンドールに入れたら教えるわ」
「むむっ、そう来るか。よし、それじゃあ2人でグリフィンドールに入ろうね、レイ?」
「そうだな」
レイはステラになら話してもいいかなと思ってしまった。たった半日しか一緒にいなかったが、それでもステラの人柄は信頼できるものだとレイは感じていた。自分でも単純だと理解している分、どうしようもないなと自虐した。
「ほら、行こうよレイ」
「ああ」
レイはステラに袖を引かれて、大原間へと続く扉を潜るのだった。
如何でしたか?
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