今回はこの作品特有の個人的考察があります。暖かい目で見てください。
熱気覚めやらぬ決闘クラブの会場では、壇上より降りてきたレイとシルヴィアの両名を多くの者が讃えた。
レイは赤毛の双子に頭を抱えられ、その重みに疲労しきった身体では耐えきれず三人一緒に床に沈んだ。そんなレイの元にさらにグリフィンドール生をはじめとした者達が集う。
中でもハリーとネビルは心の底から嬉しそうにレイの元へと駆け寄り、レイを誉め殺した。ネビルなどはあまりの感動に泣く始末だ。
エステルは双子に起こしてもらったレイに、花が開いたような笑みと格好良かったよという賛辞を送った。
そんな男なら一度は言ってもらいたい言葉を、しかも美少女から送られたレイは、しかし照れることなく苦笑で返した。そんな澄ました様子が気に入らなかった双子は再びレイを床に沈めたのだった。
一方のシルヴィアといえば、主に一つ下のスリザリン生達に囲まれていた。元々の美貌とカリスマ性、天才という能力に惹かれてはいたが、今回の決闘が決定打となったのだ。
また、一年生はシルヴィアの恐怖を目の当たりにしたものは未だ少なく、それよりも目の前で行われた戦いと対戦相手を思い遣る彼女の様子に心を奪われたのだ。百聞は一見にしかずとはこのことか。
一つ下の少女達にお姉様と呼ばれて黄色い声を浴びせられているシルヴィアは、頬をひくつかせながらもなんとか微笑んでその子達を落ち着かせる努力をすることになった。……これがシルヴィアをお姉様と呼び、彼女の妹を自称する者達が出現した瞬間である。
当然激闘を繰り広げたレイとシルヴィアを称賛しないものもいる。それはスリザリンのマルフォイを始めとした二年生以上の純血や寮長であるスネイプだ。特に持て囃される二人を見るスネイプの顔は何かを思い出したような苦渋に満ちていた。
しかし数の暴力とはよく言ったもので、そんな者達は少数であり、多くの生徒達に持て囃されるのを黙って見ることしか出来なかった。
それからしばらくして、なんとか体裁を取り繕ったロックハートが今のをお手本にペアを組んで決闘を実践してみようと言ったのだが、しかしそう言われても誰一人動くことはなかった。あれほど高度な決闘を見せられても、どこを参考にすれば良いのかなど分からなかったのだ。
生徒達が戸惑ったように顔を見合わせる中、壁にもたれかかるレイの元へとエステルとハリー達が共にやってきた。見ても分からないなら本人に聞こうと考えたのだ。
疲れ切っているレイに頼るのは気が引けたが、レイはそんなエステル達を快く受け入れ、自分流の戦うための術を話していく。それを見た生徒達は次々とレイかシルヴィアの元へと再び集い教えを請うた。この際、ロックハートの元に来たのが十にも満たない女性徒だけだったことが、彼の心に深く傷を付けた。
レイとシルヴィアから基本中の基本を教えてもらった者達がそれぞれペアを組んで決闘を行なっていく。そうして順調に決闘クラブとして回り出した頃、とある問題が起きた。不満を溜め込んでいたマルフォイ一行がハリー一行を挑発したのだ。
売り言葉に買い言葉で、あわや乱闘に発展しそうなところにシルヴィアが現れた。彼女が現れたことで尋常ではない警戒をしていたマルフォイ一行であったが、シルヴィアは自ら手を下すことなどなく、一つ提案した。
それは、決闘で決着をつけろというものだった。シルヴィアのその言い様は、提案というより強制であったが。彼女からすれば見苦しい姿を見せるな、白黒はっきりつけろ、ということだろう。
ハリーとマルフォイはその提案に乗った。そしてシルヴィアが審判の元、ここに因縁の対決が繰り広げられることになる。
……この決闘が、ただでさえ微妙だったハリーの立場をさらに悪化させることなる。
………………
…………
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……
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色取り取りの紅葉を見せていた秋の季節を終えて、何色にも染まらない純白が空から舞い落ちる冬の季節となった。
クリスマスを三日後に控え、明日にはクリスマス休暇を迎える今日。突然授業が中止となり、生徒達は各自自身の寮への待機命令が下されていた。
そんな中、レイ、シルヴィア、ギルバート、アリスの四人は、ギルバートの意図のもと、待機命令を無視してとある小部屋に集まっていた。
「い、いいんですかギルさん。先生達の言いつけを破っちゃって……」
根が真面目で気弱なアリスは先生の言いつけを破る悪い子になるには抵抗があるようだ。しかしそんな彼女の弱音をギルバートは一刀両断する。
「バレなければ破ったことにはならん。ここは双子とともに見つけた、あの生徒いびりのためならばどんな苦労も惜しまないフィルチでさえ発見できていない隠し部屋だ。ダンブルドアでもない限り見つかりはせん」
「そ、そう言う問題では……」
「ふふっ、アリス。私と一緒に言いつけを破るいけない子になろうな?」
「うぅっ!?」
シルヴィアに後ろから抱きしめられながら言われてしまった『いけない子』と言う単語は、アリスに嫌でも意識させてしまう。そんなあからさまに落ち込む彼女をシルヴィアは恍惚の表情を浮かべながら愛でた。
愛しい子を苛めて悦に浸る最初の親友の姿を呆れと共に見ていたレイであったが、それは置いといて気になっていたことをギルバートに尋ねる。
「なあ、ハリーを犯人にでっち上げるのが後継者様の狙いだと思うか?」
端からハリーが犯人だと一ミリも思っていないレイを、ギルバートは咎めることもなくその問いに答える。ギルバート自身もハリーが犯人だとは露ほども思っていないのだ。
「ないな。そもそもそんなことをしても意味がない。ポッターは仮にも闇の帝王を退けたと言われている男だぞ? しかも生粋のグリフィンドール生だ。スリザリンの継承者とは真逆にいる者をなぜ犯人にすげ替えなければならん」
「そりゃそうだ。……今のところハリーが殆どの事件の現場にいるのは?」
「それは奴が完全な巻き込まれ体質だからだろう。“生き残った男の子”は生まれながらにして不幸を背負い込む運命なのかもしれんな」
鼻を鳴らしてそう言うギルバートに、やっぱりそうだよなとレイは腕を組んで頷いた。
レイとシルヴィアが素晴らしい決闘を行なったその日、ハリーはマルフォイとの決闘で自身が先天性のパーセルマウスであることを多くの生徒に知らしめることになった。
それが知れ渡ってからは、ハリーがスリザリンの後継者説が生徒達の間で現実味を帯びていくことになる。なぜなら、サラザール・スリザリンがパーセルマウスだったからだ。
パーセルマウスである者は数が少なく、さらにその使い手のほとんどは闇に従属している者達ばかりだ。かの闇の帝王であるヴォルデモート卿もそうだった。
それもあり、ハリーをよく知らない他寮の生徒達を始め、グリフィンドール生まで厳しい視線をハリーに向けていた。……そして、それに追い打ちをかけるような出来事が起こる。
また新たな犠牲者が現れたのだ。それはハッフルパフの生徒とグリフィンドール付きのゴースト、ほとんど首なしニックだった。その現場にはまた、ハリーの存在があった。
ハリーがその現場に立ち尽くすところを多くの生徒に目撃されて、疑いはより濃厚なものになる。その後に駆けつけたミネルバは自分の手には負えないとハリーを連れてダンブルドアの元へと向かった。
今日、いきなり授業が休講になったのはそのためだった。そしてこの問題について早急に集まる必要があると考えたギルバートがレイ達を招集したというわけだ。
おそらく未だ双子しか存在を知らない隠し部屋で、『いけない子』を意識して落ち込んでいたアリスが疑問を口にする。
「そ、それじゃあポッターさんがパーセルマウスなのも……」
「偶然だろう。後継者を名乗る馬鹿者もこれには驚いたことだろうな」
「そうですか……」
「……しかし、彼奴との関係性という話では偶然とは思えんがな」
「ほぇ? 何ですかギルさん?」
ギルバートが囁くように小声で言った言葉はアリスの耳に完全に届くことはなかった。何を言ったのか尋ねるアリスにギルバートは首を横に振る。
「いや、貴様が気にすることではない。大人しくその愚か者に抱かれていろ」
「は、はぁ……」
ギルバートがそう言うならと大人しく引き下がったアリスに続いて、愚か者呼ばわりされたシルヴィアが口を開く。
「それにしてもこの学校の生徒達は本当に根も葉もない噂や憶測が大好きだな。ギルが馬鹿者と蔑むのも分かる」
「まあなぁ。一年以上もいればハリーがどんなやつかは分かるもんだがな」
「それに去年ポッターさんは“例のあの人”から『賢者の石』を守ったっていう実績もありますしね」
「それが愚か者と馬鹿者の違いだ。くれぐれも落ちぶれてくれるなよ、特にそこの戦闘脳味噌と天然お花畑」
「「はい……」」
「ふふふっ」
ギルバートに念を押されて項垂れながら頷くレイとアリス、それを口元に手を当てて笑みをこぼすシルヴィア。少しの間狭い隠し部屋の中に穏やかな空気が流れた。
しかしいつまでもこうしてはいられない。ひとしきり笑い終えたシルヴィアがギルバートに本題を尋ねる。
「それでギル。私達をこのタイミングで集めた理由は何かな?」
ギルバートは眼鏡のブリッジに指をかけて答える。
「俺が調べている『秘密の部屋』の怪物についてだ。俺は初めて人が石になっている現象を目の当たりにしたのだが、予想通りあれは正確には石になってはいない」
ギルバートは今回事件が起きた現場を目撃していた。その際に視覚を頼りに現場を隅から隅まで確認しており、持ち前の頭脳をフル回転させて情報を整理していた。
「石になってない?」
「そうだ。魔法生物の中には確かに相手を石に変えるものもいる。しかしそれは本当に石になるのだ。あそこまで人間味を帯びたまま固まる現象を起こす生物は俺の知る限り存在しない」
「じゃ、じゃあどうして皆さんあのようなことになってしまったんですかっ?」
「落ち着け愚か者。順を追って話す」
シルヴィアがアリスを宥めたのを確認してギルバートは改めて自身の考察を話す。
「この場合考えられることは三つだ。一つ目は俺さえも知らない生物が存在する場合。二つ目は何かしらの現象が作用して本来の怪物の能力が発揮されなかった場合。三つ目はそもそも怪物などおらず、高位の魔法使いが怪物を装って襲撃している場合だ」
親指から一本づつ立てながらレイ達に話すギルバートは、そのうち最後に立てた中指を下ろす。
「だが、最後のやつは除外していい。ダンブルドア校長さえ欺き、それほどの力がある者が、わざわざこんなところでこんなチャチなことをするはずがないからな」
全員が納得しているのを確認してから、ギルバートは最初に立てた親指を下ろす。
「そして俺がここまで調べても出てこない生物など新種以外考えられんが、千年以上前の怪物が新種のはずがない。……まあ、千年以上世に出ていない伝説とも呼べる生物の可能性もわずかではある。だがそんなものがいればその時点でお手上げだ。新種だろうが伝説の生物だろうが、俺達が出くわしたならばその場で対処せざるを得ん。だからこれも今は置いておく」
それを聞いたアリスは恐怖と不安に駆られるが、アリスの様子を察したシルヴィアに強めに抱きしめられながら頭を撫でられたことで落ち着いた。アリスが再び話が聞ける状態になったのを確認し、ギルバートは二番目に立てた人指し指をレイ達の前に出した。
「よって二番目の可能性が一番現実的にありうるものであると俺は考察した」
「ふむ、なるほど。それを選んだ理由は分かったが、そう考えた理由は何だ?」
シルヴィアのその問いに、ギルバートは再び親指を上げた。
「まずは最初の事件。ミセス・ノリスが被害にあったものだが、この時その現場にはいつもとは違う何かがあっただろう?」
「いつもと違う? ……っ! そうか、床一面を水浸しにされた廊下だな」
「……ああっ! 確か嘆きのマートルとかいう女の霊が仕出かしたんだっけか」
その現場を目撃していたシルヴィアとレイはギルバートの求めていた答えを述べた。それに頷いてギルバートは続いて人差し指を上げる。
「次にコリン・クリービーが石にされた事件。それが起きた翌日の朝礼で、ダンブルドア校長が生徒全員に詳細を話したが彼は何と言っていた? そこの泣き虫」
「ふぇっ!? えっと、えっとぉ……っ」
いきなり指名されて焦るアリスは必死にその時のことを思い出す。早くしないとまた額を撃ち抜かれる、と頭の引き出しを次々に開けては締めていく。
それを見ていたギルバートがおもむろに懐から杖を抜こうとした時、アリスはギリギリ仕舞い込んだ引き出しを引き当てた。
「は、はいっ! 彼がいつも所持していたカメラには何も写っておらず、フィルムは溶けていた、ですっ!」
腕を天高く伸ばして答えを述べたアリス。ギルバートは懐に入れた右手をすっと元に戻した。それ見て、自身の答えが合っていたことが分かったアリスは心の底から安堵するのだった。
「自分の身の危険に関わることだ。それくらいすぐに出てくるように覚えていろ、この愚か者」
「はいっ、気をつけます!」
久しぶりにデコパンチを免れることに成功したアリスは元気よく返事をした。その愛らしさにシルヴィアは骨抜きだ。
その二者の様子にため息をついたギルバートは話を戻し、最後に中指を上げた。
「最後に今回の事件。被害者は二人、一列に並ぶように被害を受けていた。そして、二人のうち一人はグリフィンドールの寮付きゴーストだった」
ギルバートは上げた中指を揺らし、強調して続ける。
「一見最後の事件は特に不思議なところはない。しかし俺が見たところ、寮付きゴーストは他の者達とは状態が違った」
「えっと……石のようにはなっていなかった、ということですか?」
「そうだ。俺もまだ詳しく調べたわけではないが、痙攣、白目、垂れた涎。あれは人でいう瀕死状態だったのではないかと推測する」
ゴースト相手に瀕死などおかしな話だがな、とギルバートはため息をついた。確実性のない情報を公開するのが気に入らないのだろう。レイ達はギルバートがこの後寝る間も惜しんで調べ尽くすのだろうなと容易く想像がついた。
「そしてこのゴーストの状態が、怪物の能力が正しく発揮されていなかったことを証明している」
立てた指をすべてしまい、ギルバートは眼鏡に指を添える。
「ゴーストは確かに死にはしない。しかし魔法系統の影響は生きている人間と同じように受ける。ならば他の者達と同じように固まってなければおかしい。ということは、ゴーストは正しく怪物の能力を受けた、と結論付けられる」
「なら、人を瀕死に追い込むのが怪物の能力か?」
レイの問いにしかしギルバートは頷くことも否定することもなかった。
「結論を急かすな。確かに他の生徒の状態も、瀕死の亜種といえばそう見える。しかし今重要なのはそこではない。重要なのはなぜゴーストはまともに能力を受けたのにも関わらず、生徒は変わらず石のようになったのかということだ。これは残り二つの事件にも言える。泣き虫、なぜかわかるか? ここまでの情報を踏まえて述べてみろ」
「ふぇぇっ!? えと、えと……うぅ、すみません分からないです」
アリスは再びギルバートに問題を出されてここ一番の驚きの声を上げる。一度正解したからもうないと油断していたのだ。ウンウンと唸りながらお花畑な頭を全力で回転させるが、結局わからずに素直に謝罪する。
しかしギルバートも今回の問題は難しいと理解しているために、アリスの額にお仕置きすることはなかった。そのことにアリスは安堵するとともに、不甲斐ない自分が恥ずかしくなってもっと努力しようと誓った。
そんなアリスを尻目に、ギルバートは次にレイへと問いかける。
「……いいだろう。ではレイ、お前はどうだ?」
「うーん。水浸しにカメラ、ゴーストか。全く一貫性がなくて全然分からねぇ……」
「この愚か者が。誰がそこだけをピックアップしろと言った。ここまで全ての情報を踏まえろと言っただろうが」
「えぇー……。えぇっと、水浸しに猫、カメラに溶けたフィルム、一列に並んだ生徒とゴースト……うん、分かりまーせん」
どこかふざけた様子のレイに、ギルバートはいつのまにか懐へと手を入れていた。それを見たレイはすぐさま態度を変えて謝罪する
「ご、ごめんなさい! 戦闘脳味噌の俺じゃ分からないです、ギルバート先生!」
「……ふん。シルヴィ、お前は?」
反省した様子を見せたレイを見て、ギルバート鼻を鳴らして懐から手を出す。レイはふざけ過ぎも大概にしようと誓う。そんな二人が全くたどり着くことのできなかった問題であったが、最後に問われたシルヴィアだけは答えを導き出していた。
「ふむ……視覚、か?」
「ほう、なぜそう考えた? そこの愚か者二人にも分かるように説明しろ」
感心した様に眉をあげるギルバートの横で、愚か者呼ばわりされたレイとアリスはしゅんっと縮こまる。それを見て苦笑したシルヴィアは言われた通りに自身の考えを述べた。
「レイ、アリス。少し前にやったマンドレイクの授業を覚えているか?」
それに二人はもちろんと頷く。あそこまで印象的な授業を忘れる方が難しい。
「マンドレイクの叫び声は聞いた者を最悪死に至らしめる。これは聴覚に作用する典型的な能力だ。では、視覚に作用する能力もあると思わないか?」
ふむふむと頷く生徒二人を微笑ましく眺めてシルヴィアは続ける。
「それを踏まえて、最初の事件。ミセス・ノリスは猫だ。視線はかなり低く、水浸しとなった水面と近かった。だから怪物と遭遇した際、視覚に作用する能力を水面越しに見たために能力が正しく作用されずに石のようになった」
そこまで言われれば二人の理解は早かった。いかにもあっと驚いたように口を開けた二人はシルヴィアの与えてくれた情報を元に答えを導いていく。
「二つ目の事件では、クリービーさんはカメラ越しに怪物を見ていたから怪物の力がちゃんと発揮されなかったんですね!」
「そんで今回の事件だ。首なしニックは怪物を見たけど、生徒は彼を通して怪物を見たんだな! だから正しく能力が発揮されたゴーストとそうでない生徒の二人が発見された」
アリスとレイもようやく天才と秀才が至った結論まで辿り着く。それをシルヴィアは満足そうに、ギルバートはようやくかとため息とともに眺めた。
「これでようやく話が進むな。結論はこうだ。一つ、怪物は視覚的能力を持っていること。二つ、その能力は最悪死に至らしめるものであること。三つ、しかしそれは対処すれば石のようになるだけであり、後にマンドレイク薬で回復できること。この三つだ」
三度指を三本立てたギルバート。それを聞いたシルヴィアは、ギルバートが自分達を教師陣の言いつけを破ってまで集めた理由を悟る。
「では君が私達を集めたのは、その対処方法をいち早く教えようとしてくれたからか」
「端的に言えばそうだ。とりあえずこれを持て」
ギルバートが懐から平たい円状のものを三つ取り出す。それは手に収まるサイズであり、真ん中には水が薄く広がっていた。
「これは命名するならば水眼鏡だ。何か様子がおかしいと感じたら迷わず片目を瞑り、もう片方の目でそれを覗け。そうすれば死ぬことはない」
それはミセス・ノリスが実証済みだ、とレイ達にそれぞれ手渡す。渡されたレイ達は思い思いに水眼鏡の向こう側を覗き込む。
「あんまり向こうが見えないな」
「見え過ぎれば万が一がある。それぐらい分かれ愚か者」
「それもそうだな。……なぁギル、これってあと一個作れないか?」
「貴様ならそう言うと思ってもう作ってある。あとでグレンジャーに渡せ」
ギルバートはレイの言わんとしていることを既に読んでおり、投げるように最後の一つを渡す。それを受け取ったレイはギルに心より感謝を送った。
「本当にありがとな、ギル」
「迅速で素晴らしい対応力だ。さすがギルだな」
「ありがとうございますっ、ギルさん!」
レイに続いてシルヴィアとアリスも感謝する。それを受けたギルバートは三人から顔を背けて鼻を鳴らした。明らかに照れているのがバレバレであった。
そうして生暖かい視線を向けてくる三人に、ギルバートは一際表情を厳しくさせて誤魔化すように話を変える。
「最後に注意喚起だ。今まで後継者の襲撃は夜だったが、とうとう昼間にまで襲うようになった。教師陣もすでに言ってはいるが、常に二人以上で行動しろ。特にアリス、貴様は寮以外では俺かレイ、シルヴィの誰かとだ。いいな?」
「は、はいっ」
アリスも自身の実力不足を自覚しているため、ギルバートの言うことを素直に聞く。いつも過保護だ甘やかすなだと苦言を呈しているギルバートが過保護な様子を見せていた。これを見たレイとシルヴィアは顔を見合わせて苦笑する。
そんな時にふと、シルヴィアは思いついたことがあった。それをそのまま彼に尋ねる。
「なあギル。君はもう怪物に当たりをつけているのではないかな?」
ギルバートはその言葉に顔をしかめる。それを見てシルヴィアは流石にまだ分からないかと考えたのだが、彼女はまだ孤高の秀才を侮っていた。
「……はあ。おそらく、ではあるがな。候補はいくつかある」
「なんと……」
これにはかの天才も驚きの様相を見せた。そしてなぜギルバートが顔をしかめたため息をついたのかも気が付く。ゴーストの件と同じように予想で話したくはなかったのだろう。
しかしシルヴィアは自身の好奇心に従って自分の予想を上回った彼を表情を輝かせて尋ねた。
「では、僭越ながらこの天才めに教えてくれないかな?」
「あ、俺も聞きたい」
「わ、私も聞きたいですっ」
「……全く。堪え性のない愚か者どもだ」
再びため息をついたギルバートは仕方なくといった様子を隠すこともなく重い口を開いた。
「いいか貴様ら、これは憶測であり確定ではない。俺の言った言葉に囚われるなよ? 特にそこの泣き虫」
「は、はい!」
「……ならいいがな。ではまず、最も可能性が高い生物から話すぞ。その生物とは……」
ギルバートは朗々と自身の推測を語っていく。そしてこの狭い隠し部屋の中、三人の感嘆した様な声が響くのだった。
※次の投稿は金曜日です。
次回、レイの異変。