選ばれし者と暁の英雄   作:黒猫ノ月

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どうもです。

とうとう主人公の組み分け!


2話

大扉を潜った先は、またも一年生達を驚かせるものだった。大広間と言われるだけあってとても広く、ロウソクがいくつも浮かび上がり天井が文字通り天にまで届いている。その天井には夜空の星々がきらびやかに輝き、一年生達を祝福しているようだった。

 

レイとエステルの近くで、女生徒があれも魔法であると『ホグワーツの歴史』という本で読んだと言っているので、納得とともにしばらく見入っていた。

 

そんなレイ達新一年生がいるのは、大広間に並べられた4つの長机のちょうど真ん中だった。どうやらその4つの長机それぞれに、二年生以上の寮生達が座っているようだ。

 

そんな風にレイが周りを見渡していると、大広間の奥にホグワーツの教師であろう人たちが見えた。その中央に長い髭を蓄えた年老いた魔法使いが座っている。レイはあれがミネルバがいつも言っている現代最強の魔法使い、アルバス・ダンブルドアだと悟った。

 

そして、そんな大魔法使いの前には椅子とくたびれた魔女帽子が置かれている。マクスウェル夫妻とミネルバに聞いた、寮の組み分けを行う組み分け帽子だろう。ミネルバに名前を呼ばれたら、数多い生徒や教師、大魔法使いの注目の元、組み分けをしなければならないのかと少しウンザリしそうになった。

 

一年生が全員入ってきたところで大扉が閉まり、椅子の上にある魔女帽子が唐突に歌い出した。魔女帽子が歌うそれは、各寮の特色を表していた。

 

「うーん。スリザリンのところの真の友を得るってところは納得できないなぁ」

 

「本当にスリザリンが嫌なんだな」

 

「レイは違うの? グリフィンドールに行きたいって言ってたからそうなのかなって思ったんだけど」

 

エステルの言葉に、マクスウェル夫妻が言っていたことを思い出す。

 

「グリフィンドールとスリザリンは寮同士で確執があるってやつか」

 

「うん。それでレイはどうなの?」

 

改めて尋ねてくるエステルに、レイはどう返そうかと悩む。レイ自身は別にどこでもよく、ミネルバが寮長を務めてるからグリフィンドールに行こうかなと割といい加減な理由だからだ。

 

「俺は……」

 

「静粛に! ……では、ただいまより組み分けを始めます」

 

レイがどうしようかと考えつつ、とりあえず口を開こうとしたところでミネルバの声がかかった。

 

「またグリフィンドールで一緒になった時にな」

 

「……分かった。さっきのマクゴナガル先生のことと一緒に教えてね」

 

エステルはレイの返事に笑顔で頷いた。その表情には絶対にレイと一緒にグリフィンドールに行くんだ、と書いていた。レイもとりあえず誤魔化せたと安堵して同じように前を向く。

 

「では、今から名前を呼んでいきます。呼ばれた者はこの椅子にお座りなさい。この帽子が、貴方方がこれから7年間を過ごす寮を組み分けます」

 

そうミネルバは締めて、名前をイニシャルがAの人から呼び始めた。呼ばれた人が椅子に座り、ミネルバが組み分け帽子を被せる。すると、少しして組み分け帽子が寮の名前を告げた。呼ばれた寮は新たな仲間を盛大な拍手で迎え、組み分けられた一年生はその寮の長机へと向かう。

 

それを見ながらため息を一つするレイ。行かなくちゃダメなのかと嫌になるレイのイニシャルはA。つまり、順番はすぐに回ってきた。

 

「レイ・オルブライト!」

 

レイはミネルバに名を呼ばれ、仕方なく足を踏み出す。

 

「じゃあステラ。後でな」

 

「うんっ。私も行くからね」

 

そして少し振り返り、エステルと一時の別れを告げた。エステルも小声で返し、レイに小さく手を振る。レイはそれに背を向けながら手を振って歩き出した。余談だが、今年入学した一年生の中でもトップクラスの美少女を、列車を降りてから独占していたレイは周りの男子から憎しみを込めた目で睨まれていた。

 

レイはそんな自身に向けられる悪意には気付いていたが、それが嫉妬だとは理解できないでいた。実の父親より、憎しみや殺意は何度も向けられたことはあれど、嫉妬を向けられるなど初めての経験だったからだ。

 

なので、なぜ悪意を持って見られているのか理解できないでいたレイだったが、まあいいか、とその視線を受け流す。過去に壮絶な経験をしたレイにとって、こんなものはそよ風にすらならなかった。……だからだろうか。レイはこの時、自身に向けられる悪意なき視線に気付くことはなかった。

 

レイは人波をかき分けてミネルバの、そして組み分け帽子の前に立つ。注目を一身に集めていることにため息をしそうになるも、ミネルバの前でそんなことはできないとため息を飲み込む。ふとミネルバに視線を向けると、ミネルバの表情には隠しきれない喜びが垣間見えた。

 

ミネルバの心境は感無量の一言だった。あの時の少年がここまで立派に育つとは。今年は“あの子”も入学する。出来れば2人ともグリフィンドールに来て欲しい。そして友となって学校生活を楽しんで欲しいと心から願った。

 

レイが渋々と椅子に座る。ミネルバは感傷に浸ることをやめて、手に持つ組み分け帽子を掲げる。そしてレイがグリフィンドールに入りますようにと願い、レイに組み分け帽子を被せた。

 

組み分け帽子を被せられたレイは、頭上から聞こえてくる唸り声に耳を傾ける。それは何か迷っている声だった。

 

「これは、なんと……。うーむ、しかし。どうしたものか」

 

「何か迷うことがあるのか?」

 

「うむ、君は才能に満ち溢れている。どの寮に入っても、君は立派になれるだろう」

 

「……そんなに才能があるとは思えないがな」

 

組み分け帽子と会話できることに驚きながらも、レイは否定的な言葉を述べる。実際、レイの自己評価はかなり低かった。

 

「そんなことはない。君は勉学の大切さを知っている。知識を蓄えたいという願望もある。レイブンクローで君はより知識を高めることが出来るだろう」

 

組み分け帽子はいきなりレイの首を振り、レイブンクローの席を見せる。

 

「また、君は優しさに溢れている。その優しさを向けるのは自分のためだと胸を張って言えるものがどれほどいるか。君はハッフルパフで本当の優しさを知ることが出来るだろう」

 

次にハッフルパフの席を見せる。

 

「さらに、君はいざとなれば手段を選ばない狡猾さも持っている。また、本物のプライドとはどういうものかを理解している節がある。君はスリザリンで偉大な魔法使いへの第一歩を踏み出せるだろう」

 

さらにスリザリンの席を見せる。

 

「最後に、君は近年稀に見るほどの勇気を秘めている。恐怖に負けない精神力、傷つきながらも戦える忍耐力。大事なものを守るために立ち向かえる君は、グリフィンドールが最も相応しいだろう」

 

そして最後にグリフィンドールの席を見せた。それぞれの寮を組み分け帽子に無理矢理見せられたレイは、首を抑えながら最後の言葉に疑問を覚えたので尋ねた。

 

「なら、グリフィンドールで良いんじゃないか? 俺も行きたいって思ってるし。なんで迷うことがあるんだよ」

 

その疑問に組み分け帽子は深く頷いた、ようにレイは感じた。そんな組み分け帽子はレイに自身の胸の内を語る。

 

「君はこの組み分けをどうでもいいと考えているね? どこでも良い、どこへ行こうと自分のやることは変わらないからと」

 

レイはその言葉に目を見開く。誰にも言ってなかった本心を見透かされたからだ。

 

「確かに君の言う通り、私はこのまま君をグリフィンドールへ組み分けるのが正解なのだろう。だけどね、君の心の奥の奥を知らないまま組み分けるのはどうにも収まりが悪くていけない」

 

「…………」

 

「レイ、私は言ったね? 包み隠さず話してごらんと。確かに君はどこの寮でもうまくやれるだろう。けれど、今の君ではどこの寮に行こうとも、真の力を得ることは出来ないだろう」

 

組み分け帽子は言う。真の決意を持って、寮を選べと。君の本質は、君が願う想いはなんなのだと。それらの言葉がレイの胸を打つ。

 

「君の勉強に対する熱意は、君の向ける優しさは、君の手段を選ばない狡猾さは、なんのために、何をなすために必要なんだい?」

 

組み分け帽子はそれを最後に口を閉じた。レイはゆっくりと目を閉じて、自分自身に問いかける。互いの間に広まる静寂。果たしてレイの答えは……。

 

レイはゆっくりと目を開けた。その瞳には、今までにない熱がこもっていた。

 

「俺は……もう二度と自分の大切な人が傷つくのを見たくない。悲しむのを見たくない。苦しむのを見たくない。泣いてるのを見たくないんだ。……だから、俺は大切な人を守るために力が欲しい。俺がそんなところを見たくないから。……全ては、自分のために」

 

勉学も、優しさも、狡猾さも、それらは全て大切な人を守るために。大切な人を害するものへと立ち向かうために必要なのだと、レイはそう締めくくった。これが偽らざる本心だった。

 

組み分け帽子は満足そうに頷いた。

 

「うむ。己を知り、決意を持って目的をなすために行う努力は、何よりも力になる」

 

そう言って、組み分け帽子は声を張り上げた。

 

「グリフィンドーーールっ!!」

 

新たな仲間の誕生に、グリフィンドール寮の先輩達が歓声をあげる。しかしそれよりも、ミネルバやエステルの喜びようの方がレイには目についた。

 

「君の勇気に必要な力が得られることを私は願っているよ、レイ」

 

「……ありがとな、組み分け帽子」

 

レイは組み分け帽子に礼を言ってそれを脱ぎ、椅子から立ち上がってグリフィンドールの席へと向かった。その心は、今の時間帯とは真反対の青空が見えるほどの晴れやかさだった。

 

………………

…………

……

……

…………

………………

 

レイはグリフィンドールの在校生に歓迎されながら長椅子に腰掛ける。レイの後も同じように組み分けられていくが、周りの在校生が言うにはレイはかなり組み分けの時間が長かったらしい。

 

何を言われていたのかを聞かれるが、レイは曖昧に誤魔化しながらエステルが呼ばれるのを待つ。エステルはイニシャルがMだからまだ先だ。今はイニシャルがBの人が終わり、次はCの人が呼ばれようとしていた。

 

エステル以外はさほど興味がないので、適当に時間を潰そうとぼーっとしていた時……それは起こった。

 

「シルヴィア・コルドウェル!」

 

その名が呼ばれた瞬間、スリザリン寮の長机から歓声が湧き上がった。

 

「っと、なんだなんだ?」

 

レイはいきなりのことに思わず周囲を見る。すると在校生達が口々に小声で話しているのが見えたので、それに耳をすませる。

 

「おいコルドウェルって」

 

「ああ、純血主義の筆頭一族だ。しかも今年入学する奴はかなり才能があるらしいぞ」

 

「それであの反応か。ちっ、スリザリンに厄介な奴が入ることになるのか……」

 

在校生達の話を聞いていて納得した。よく分からないが、シルヴィア・コルドウェルという奴はかなり期待され、そして嫌われているようだ。レイは先ほどとは打って変わって興味が湧いたのでまだ呼ばれていない一年生達の方を見やる。

 

……そして、レイは生まれて初めて人を美しいと思った。

 

レイを含めた他の呼ばれた一年生達は人並みを掻き分けるように進んでいたにも関わらず、その人物の時だけは人並みが割れて、組み分け帽子のところまで一直線に道が出来ていた。それは、彼女が放つカリスマ性ともいうべきものがそうさせたのだろう。出来た道を彼女は悠然と歩いていく。

 

背中まで伸びたプラチナブロンドを靡かせて、今の光景が当然であるというふうに微笑みを讃える彼女の顔立ちは美しいの一言だった。キリッとした目元に小さく細い鼻。顔のパーツや輪郭、それら全てが美しく、またそれらのおかげでより美しさが際立っていた。

 

彼女の美しさは、大広間のほぼ全ての人々の心を独り占めにしていた。悪態をついていたグリフィンドール生さえも見惚れるほどだ。なぜこれほどの人物を見逃していたのだろうと思う者達が多いが、それは彼女が目立たないようにしていたに過ぎない。彼女にとって気配を消すなど造作もないことだった。

 

未だにほぼ全ての人々の心を掴んでいる彼女だったが、そうではない人も一部いた。現代最強の魔法使いや魔法薬学の教師、ミネルバもその一部だった。そして、レイもその一人だった。

 

確かに容姿は美しいという言葉以外に装飾がいらないほどに整ったものであり、驚いたのは事実だったがレイにとってはそれだけだった。

 

レイは過去の出来事により、人はいくらでも変わることを知っている。また、恩人であるミネルバも表向きは厳しさの塊に見えるが、その内に優しさを持っているのを知っている。それもあり、レイは人の内面を重視する傾向があった。スリザリンだから純血だからという偏見でレイは見ない。

 

あんな綺麗なやついるんだなぁと考えながら彼女……シルヴィアを見ていたのだが、レイのいる場所を通り過ぎる際にレイは彼女と目があった。

 

2人の間に会話などなく、レイを見るその視線には意味ありげな色が浮かんでいた。しかし、レイはそれがどのような意味を持つのかは理解できなかった。

 

首を僅かに傾げるレイ。それを見てシルヴィアはふっと笑い、レイから視線を外して前を向いた。その間は僅か数秒の出来事であり、2人のやり取りに気付いたものはごく僅かだった。

 

シルヴィアは何事もなかったように組み分け帽子の前へとたどり着く。そして優雅に椅子に座り、組み分け帽子が被せられるのを待つ。彼女が座れば何の変哲も無い椅子も玉座へと早変わりだ。

 

しかしミネルバはそんなシルヴィアに臆することもなく、変わらずに淡々と組み分け帽子を被せようとして……。

 

「スリザリン!」

 

組み分け帽子は即座にシルヴィアの行く先である寮を告げた。それは、彼女が考えるまでもなくスリザリンに相応しいと、偉大な魔法使いになれることを示していた。

 

今までで1番の歓声が上がる。スリザリン生は立ち上がったりハイタッチをしたりなど大喜びだ。

 

「やっぱりか」

 

「まあ、順当よね」

 

「しかし綺麗だったな」

 

「おいっ、スリザリンだぞ!」

 

「お前も見惚れてただろう」

 

「仕方ないわよ。女の私でも見惚れちゃったんだから」

 

レイの周りも騒がしくなる。それに構わず、レイはスリザリン寮の場所へと移動するシルヴィアを見る。その姿は変わらず美しく、彼女が座った場所にはすぐさま多くのスリザリン生がたむろし始める。しかしシルヴィアはそれに対応することなく優雅に佇むだけだ。

 

「静粛に! 静粛になさい!」

 

ミネルバの言葉を聞いても、喧騒はしばらく止むことがなかった。

 

シルヴィア・コルドウェルは、この日ホグワーツに自身の存在を大いに刻みつけたのだった。




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