選ばれし者と暁の英雄   作:黒猫ノ月

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皆さん本当にありがとうございます! これを励みとしてこれからも頑張っていこうと思います!!

…………最初見たときは(゚o゚ってなった。


47話

ホグワーツ全体を巻き込んだ大騒動であったが、最後にはミネルバの一人勝ちということで決着がついた。

 

迫り来る刺客を打ち倒し、時にはアリスやエステルの助けを借り、時には双子を囮にしながらも最後まで逃げ切ったレイ・オルブライト。

 

しかし、勝利の余韻に浸る彼を待ち受けていたのは……珍しく服装を乱れさせたミネルバ・マクゴナガルだった。

 

厳格なミネルバは、騒ぎを聞きつけたときに勿論止めようとしたのだが、流石の彼女と言えどもシルヴィアやギルバートを筆頭に多くの生徒達を相手取るのは無理があった。

 

結果、彼女は他の教師達同様返り討ちに遭い、騒ぎの終息を断念せざるを得なくなった。そんな彼女が最大の元凶であり、たった一人で行動するレイに目をつけるのは当然の流れと言えるだろう。

 

顔を青くさせて震えるレイに、ボロボロの様相を見せるミネルバが青筋を立てて杖を思い切り抜き払った。

 

瞬間、ホグワーツに響き渡る少年の絶叫。

 

その叫び声を耳にしたシルヴィアとギルバートは、聞き覚えのある声であったこともあり捜索の手を止める。すると、そんな彼らの前に……。

 

極寒の吹雪を纏わせた、鬼婆が姿を現した。

 

鬼婆のすぐ横ではぐったりとした犬っころが魔法で浮かんでおり、まるで見せしめのようであった。

 

その犬を見たシルヴィアとギルバートはすぐにそれが親友の変わり果てた姿であることに気がつき、顔を見合わせた後におとなしく両手をあげるのだった。

 

そして始まる悪鬼と化したミネルバによる断罪。多くの生徒達が犬猫に姿を変えられてしまい、この騒ぎは本当の結末を迎えることとなった。

 

悪鬼無双が終わると、騒ぎに加担した生徒達は大広間に集められた。そして、彼らは夜が明けるまでミネルバによる有難い説教を受けることになった。

 

余談だが、大広間に集められた生徒達の半分以上は犬猫だったという。

 

こうして、この騒ぎはのちのホグワーツ生達によって『ホグワーツ包囲網』と名付けられ、未来に語り継がれることとなる。

 

最後はアレであったが、突発的に行われたこのイベントは退屈していた生徒達にとって大変愉快な催し物だった。毎年行われるハロウィンまでの場繋ぎとしては十分過ぎるほどに。

 

しかし、非日常に浮き立っていた生徒達をドン底に落とす事件が発生する。

 

なんと、そのハロウィン当日に脱獄囚シリウス・ブラックが再び吸魂鬼の網を潜り抜けてホグワーツに侵入してきたのだ。

 

………………

…………

……

……

…………

………………

 

衝撃の事件から数週間ほど経った頃。生徒達の間では、『ホグワーツではハロウィンをまともに過ごせない』という新たな説が定着し始めていた。

 

ハリーやレイが入学してきてからの3年間、ハロウィンのたびに何かしら事件が起こればそれも仕方がないことだろう。

 

結局、シリウス・ブラックは見つけることが出来なかった。

 

シリウス・ブラックの侵入が発覚した夜は、生徒全員が大広間に集められて夜を明かすことになった。

 

その後は教師総動員でホグワーツ内外の捜索がなされたのだが、現代最強の魔法使いを以ってしても奴の影一つ見つけられなかった。よってシリウス・ブラックはすでにホグワーツにはいないと判断され、現在は平常運転で進んでいた。

 

そんな日常を取り戻した最中、我らが主人公は中庭にてとある少女達と向き合っていた。

 

「レイ兄、この娘はジェシーって言うの。僕の友達なんだぁ」

 

「へぇ、そうか。っと、一応初めましてだな、俺は……」

 

「紹介は不要です。貴方のことは存じてます。“アレ”と交流を持つなど気が知れませんね。そしてそこのおバカ、誰が貴女の友達ですか。勝手なことを言わないでください」

 

レイを兄と呼ぶのほほんとした少女……フィリシアの紹介に、性格のキツイ印象を受ける少女……ジェシカ・エリスは不快そうに片眉を吊り上げた。

 

レイが彼女達を見かけたのは偶然だった。

 

休日に珍しく一人で行動していると、道幅の広い石畳の廊下の端で教科書を手に何やら話し込んでいる二人を見かけたのだ。それだけならレイもわざわざ声をかけないのだが、フィリシアの隣にいる少女に見覚えのあったレイは好奇心に駆られてつい声をかけてしまったのが現在の状況だった。

 

「ジェシーは優しくて頭がいいんだよ。僕が授業とか宿題で困ってるといっつも助けてくれるの」

 

「それは貴女が目障りなほどおバカなだけで……って私の話を聞きなさいっ。何故この私が貴女のようなおバカの友達などにならねばならないのです!」

 

「えへへぇ、ぎゅーっ」

 

「きゃっ!? ちょ、やめなさいっこのおバカ!」

 

レイの目の前で姦しくはしゃぎ合うフィリシアとジェシカ。ジェシカはその言葉から拒絶が見て取れるが、彼から見た彼女はそこまで嫌そうにしているようには感じなかった。

 

なにかとギルバートから話は聞いているが、素直じゃないあたりこの兄妹似ているなと思わず笑みがこぼれた。

 

「ははっ、良かったじゃねぇかフィー。いい友達に巡り会えたんだな」

 

「うんっ」

 

「ちょっとそこの貴方! 世迷いごとを言ってないで早くこのおバカをなんとかなさいっ! アレの知り合いはこれだからっ……!」

 

ジェシカは顔を赤くさせて自身を抱きしめるフィリシアを引き剥がすようレイに抗議する。彼女の顔の赤さはどうやっても離れないフィリシアに四苦八苦したから……だけではないだろう。

 

レイはジェシカの抗議を無視して、仲睦まじい二人の様子を微笑ましげに眺めていた。

 

そんな中、レイ達の様子を少し遠くで眺めている一団があった。

 

「……けっ! フィーを手なづけていい気になりやがって」

 

レイ達……いや、レイただ一人を睨みつけながら、その一団の中心でグレンはそう吐き捨てた。そんな彼に同調するように、一団はレイを見るその視線に嫌悪を乗せて頷き合った。

 

グレンはホグワーツに入学してから早々に己が才能を開花させた。

 

闇の魔術に対する防衛術、変身術、呪文学などの魔法実技では好成績を叩き出し、持ち前の強気な態度からスリザリンとの諍いでもその実力を遺憾なく発揮した。

 

また、姉譲りであろうか。意外にも面倒見が良いところもあってグレンはたった二ヶ月ほどでグリフィンドールの一年生の中で“頼れる兄貴分”という立場に収まっていた。

 

彼の魔法実技の才能は不死鳥の騎士団であった父親と母親から順調に受け継がれたようだ。……なお、魔法薬学や薬草学などの座学についてはお察しである。

 

こうして一目置かれているグレンであったが、それもあって友達には困ってはいない。その彼が現在主につるんでいる相手が今彼といる者達だ。彼らは共通の思いを抱えており、その下に集まっていた。

 

その彼らが抱えている思いというのが、レイに対する嫌悪感だった。

 

しかしなぜ、彼らはそれほど接点のないレイに嫌悪感など抱いているのか。グレンは分かる。だが先も言ったように他の者達はレイと接点がないのだ。

 

ではなぜか。……端的に言えば、彼らはレイの人気が気に入らなかった。

 

レイのことを深く知らない一年生達にとって、彼の存在は不可思議の一言に尽きた。

 

談話室でよく勉強をしているということ以外特に変わったところはない平凡な少年。だがその彼はといえば、グリフィンドールの上級生の殆どから一目置かれており、グリフィンドール一の美少女にも想われている。

 

また、他寮でありながらも一際目立つ三人の人気者と平凡なレイは交流を持っている。しかもホグワーツでも最も美人であり、グリフィンドール最大の敵でもあるスリザリンに所属している女王様に、最愛と呼ばれ想われている。

 

自分達とそう変わらない少年が特別な対応をされている。そこには普段レイがプライドもへったくれもない低姿勢であることも彼らに不快感を持たせた。

 

……と、なんだかんだ言ってみたが、彼らがレイを気に入らない最大の要因は、今現在レイと楽しそうに談笑しているフィリシアだった。

 

姉譲りの将来性を感じさせる笑顔の可愛い面持ち。男女の距離を感じさせないフレンドリーさ。近くにいるだけで心が温まるような無邪気な性格。

 

そしてなんといっても、彼女は抜けているように見えるのに、なぜが隙がないようにも見える。手が届きそうで届かない、フィリシアはそんな不思議な魅力に溢れている美少女だ。

 

その高嶺の花を、姉と一緒に二輪も独占しているレイ。

 

思春期を迎えようとしている年頃の少年にとって、これは面白くないだろう。

 

そうしたレイに対する鬱憤が積もりに積もっている一年生達。それがグレンを中心に集ったこの一団の正体であった。

 

グレンは、自分の妹とその友達と未だに和気藹々と楽しげに喋っているレイを心底気に入らないと盛大に舌打ちを放つ。

 

しかしその時、彼の耳元に悪魔の囁きが聞こえた。

 

「…………へっ、いいねぇ。やってやるか」

 

先程まで嫌悪を露わにしていたグレンがいきなり機嫌良さそうに様変わりしたことに訝しんだ友達の一人が彼に声をかける。

 

「どうしたんだよグレン」

 

「あん? ああ、ちょっといいこと思いついてよぉ」

 

「いいこと?」

 

口角を吊り上げたグレンは、懐から杖を抜き去って構える。

 

……その杖先を、少し遠くで談笑するレイの背中に向けて。

 

これにはレイを気に入らない友人達も流石に慌てたように止めに入る。

 

「お、おいグレン! 流石に不意打ちはまずいだろっ」

 

「なに言ってやがる。あのクソ赤毛の双子なんざ日常茶飯事に悪戯かましてんだろが」

 

「そ、それはそうだけどよ……」

 

ホグワーツ入学祝いと称して、一度は双子の罠にかかったことがある面々が心を揺さぶられる。その追い打ちとばかりグレンは彼らの嗜虐心を煽った。

 

「お前らも見てみたいだろ? あの澄ましたクソ野郎が無様に這い蹲る姿をよぉ」

 

愉しげに杖を左右に振り、呪いを放つ準備をし始めたグレンのその言葉が決定打となった。

 

顔を見合わせた一同は、次には後ろめたい気持ちも姿を隠し、各々いやらしい笑みを浮かべてグレンが呪いを放つその時を今か今かと心待ちにする。

 

グレンが放とうとしている呪いは『引き攣りの呪い』だ。

 

対象者にこの呪いが命中すれば、その場所に延々と筋肉の引き攣りを起こさせる。その痛みは相当のもので、グレンが試しにスリザリン生相手に使った時は軒並み激痛で転げ回っていた。

 

この呪いは、グレンが対レイ用に覚えたものだった。

 

グレン達がいるのはレイの背後、いわゆる死角だ。グレンはタイミングを見計らい、その時を待つ。そして……。

 

「くたばりやがれ、バーカ」

 

レイが声を上げて笑った瞬間。最も気が抜けているであろうその時を狙って、グレンは呪いを放った。

 

多くの生徒が往来する廊下を駆け抜ける閃光。

 

それは廊下を歩く多くの生徒の目にも入り、思わず声を上げようとするが、その声がレイの耳に届く頃にはその呪いが直撃した後だ。

 

そしてレイに迫る呪いは、彼と話していたジェシカの目にも止まる。しかし当のレイは全く気がつく様子はなく、彼が死角となっているためにフィリシアも気づかない。

 

危ないっ!

 

彼女も他の生徒と同じように叫ぼうとするがもう遅い。

 

ジェシカが行動する前に、呪文は今も笑い続けるレイの背中へと吸い込まれていき……。

 

取ったっ!!

 

そう、グレンが確信した時。

 

 

 

 

 

グレンの身体は後方へと吹き飛ばされていた。

 

 

 

 

 

「がぁっ!!?」

 

訳がわからなかった。

 

真っ白になる思考。しかし全身に突き抜ける激痛がグレンの意識を奪わなかった。

 

それが、彼にとっては1番の不幸だったろう。

 

後方に吹き飛ばされた数十キロの身体は地上から数メートル離れており、くの字に曲がった彼の身体は凄まじい勢いで飛んでいく。

 

そして……。

 

「がっはぁっ!!」

 

細部まで美しい装飾が施されている硬い石壁へと激突した。

 

その衝撃は石壁を揺らし、激震を周囲に撒き散らす。衝撃を余すことなく全て身体で受け止めてしまったグレンは……。

 

「ーーーーーー」

 

呻き声を上げることもなく、静かに、数メートルの高さから落下した。

 

「「「「………………」」」」

 

そして訪れる、この場にいる者全員の肌を刺すような静寂。

 

誰もが……そう、誰もが今、目の前で起こった現実に目を見開き、大口を開けて呆然とする。目の前の現実を受け入れるのを、脳味噌が拒否しているのだ。

 

殆どの者が脳内処理と格闘している中、しかしただ一人、何事もなく正常に活動している者がいた。

 

「いやー、久しぶりだなぁ。こうして後ろから不意打ち食らうの。なんだかんだで二年ぶりくらいか? ……ああいや、最近双子に仕返し食らったばっかだった」

 

それは誰であろう……無防備に呪いを食らうはずであったレイ本人である。

 

場を支配する空気を全く読まない、呑気な声が嫌に周囲に響き渡る。

 

レイはそんな周囲のことなど、驚きで目を見開くフィリシアやジェシカのことさえも眼中にないといったように、呪いが飛んできた方角へと体を向ける。

 

その彼の右手には、いつのまにか杖が握られていた。

 

「しっかし、こうも白昼堂々と仕掛けてくるとは予想外だったぜ? 俺達を探る奴がいるって話だったから一応警戒してたんだがな。あーいや、それとは別枠か? ……ま、どっちでもいいか」

 

不意打ちを受けたにも関わらず、先程から全く動揺した様子も、怒っている様子も見受けられない。威圧することもない。レイはただ淡々と、飄々と、その場に佇むだけだ。

 

しかし、そこにいるのは普段のどこか達観した低姿勢の少年ではない。そこにいるのは……。

 

 

 

敵を打倒せんと静かに燃え盛る闘志を放つ、まぎれもない戦士の姿だった。

 

 

 

 

レイの放つ戦意に当てられ、誰一人として微動だにすることができない。しかし、それとは逆に大きく身体を動かす者達もいた。

 

他でもない、グレンの友人達である。

 

彼らは目の前で起こった兄貴分の顛末を、脳内がようやく受け入れ始めていた。そして眼前に佇む闘志の塊。

 

……彼らが、わずか先に見る自分の未来を予測するのは至極簡単だった。

 

全身を冷や汗でびっしょりと濡らし、あまりの恐怖で震えが止まらない。声を上げることもできず、しかし心中では絶叫をあげる彼らの元に……レイが一歩、また一歩と近づいていく。

 

「ん? どうしたよお前ら。喧嘩がお望みだったんだろ? 俺は逃げも隠れもしねぇからよ。先生達がくる前にさっさとやろうぜ」

 

「…………っ、……っ!」

 

静かに、しかし悠然と近づいてくるレイに、彼らはどうにもすることが出来ない。

 

逃げることも、叫ぶことも、ましてや……立ち向かうことなど、今の彼らには夢のまた夢であろう。

 

ことここに至って、彼らはようやくその身をもって理解したのだ。

 

 

 

凡人と呼ばれる男、その秘められし実力の一端を。

 

 

 

そして、とうとうレイが彼らの目前に立った。だがしかし、彼の前には勇敢に立ち向かう者など誰一人としておらず、全員が地に跪き、頬を濡らし、股間を濡らしていた。

 

無様を嘲るはずが、自分達が衆目に無様を晒してしまった。

 

仕掛けてきたにもかかわらず、ただ一人返り討ちにしただけでこの有様。これを目の当たりにしていたレイは、しばらくした後に静謐な闘志を己が内にしまい込んだ。

 

せっかく久々に身内以外で戦えると内心ウキウキしていたレイであったが、目の前の有様を見れば残念に思うよりも呆れる方が優ってしまった。

 

座り込んで震える彼らにため息をついたレイは杖を懐にしまう。それによって静寂に色が戻り、少しずつ喧騒が一帯を染めていく。

 

耳障りな囁きを耳にしながら、先生早く来ねぇかな、と嫌気がさしてきていたレイはふと、ここで目の前の彼らが見覚えのある寮色を身に付けていることに気がついた。

 

「……あん? お前らグリフィンドールか。しかも一年坊」

 

自身と同じ寮色を身に纏っていたことがきっかけとなり、全員どこかしらで見たことのある顔ぶれだったことを思い出したレイはそう尋ねるが、今の彼らに答えられる余裕はない。

 

それがわかっていたレイは特に反応することなく、どこでこいつら見たっけなぁ、と記憶の棚を次々と引き出していく。

 

そして、ようやく思い出したレイは……絶句した。

 

「うっそだろっ、まさかっ……!?」

 

自分の記憶違いであってくれと心の底から願いながら、レイは駆け足で返り討ちにした襲撃者の元へと駆け寄る。そして気を失ったその少年の顔を確認したレイは……再び絶句したのだった。

 

………………

…………

……

……

…………

………………

 

レイが生意気な一年坊に手荒な教育を施したその日の夜。彼の姿は晩餐が並ぶ大広間にあった。

 

「あっはっはっはっは! これは愉快だ。卑劣な不意打ちとは勇気を尊ぶグリフィンドールが聞いて呆れる。しかもそれを何倍にもされて返り討ち。あの駄犬にも良い薬になっただろうな」

 

「笑い事じゃねぇよアホ。っか〜やっちまったなぁ……」

 

「何を落ち込んでいるのだ愚か者、それで良いのだ。どのような者であれ、敵対してきたのならば全力で潰す。戦闘の基本だ」

 

「生徒同士の喧嘩に戦闘の基本を持ち出すのはどうなのでしょうか……」

 

グリフィンドール寮の卓にて頭を抱えて落ち込んでいるレイの周りには、いつものように彼の親友達が揃っていた。シルヴィア達も昼間の騒ぎについて大体のことは耳にしており、現在は当事者であるレイに話を聞いて真実かどうかを確認していたのだ。

 

ひとしきり笑って満足したシルヴィアが目尻に溜まった雫を掬いながらレイにその後のことを尋ねた。レイはいつまでも落ち込んでもいられないと自分の不手際を受け入れる。そして持ち前の潔さで気持ちを切り替えたレイは親友達にその後のことを語った。

 

グレンは駆けつけたミネルバによってすぐに医務室へと運び込まれた。

 

すぐにマダム・ポンフリーによってグレンへの治療が開始された。その間にミネルバはレイやフィリシア、ジェシカなどから事情を聞いていたのだが、全てを聞き終えたミネルバは怒りに顔を赤く染めた。

 

グリフィンドールとしてあるまじき行い。グリフィンドール寮長として誇りを持って勤めている彼女には許しがたいものだったのだ。

 

グレンが治療を受けている間、レイの闘気に当てられて意気消沈していた一年生達は追い討ちをかけるようにミネルバに般若のごとく叱られることとなった。一年生達のライフは見るからにもうゼロであった。

 

治療が開始されたから一時間後、無事治療を終えたマダム・ポンフリーによってもたらされたグレンの診察結果は全治一週間だった。

 

全身打撲に複数箇所の骨折、頭と内臓が無事だったのは幸いだった、ということだった。

 

その時、話を聞きつけたエステルがハリー達を連れて医務室に突貫してきた。その際マダム・ポンフリーから静かにと注意を受けたのだが、彼女としてはそれどころではなかった。

 

そしてエステルが見たものは、意識を失い包帯でグルグル巻きにされた弟の姿と……頭を深く下げて微動だにしない想い人の姿だった。

 

突然のことに思考が停止するエステル。しかし彼女の横でフィリシアとミネルバが事情を説明したことで徐々に脳内が稼働していき、少しずつ事情を把握していく。

 

それから少しして全てを理解したエステルは、未だ頭を上げないレイの肩にそっと触れた。レイに非はないと、こちらこそ弟が迷惑をかけてごめんと微笑みながら。

 

しかしレイが自身を許すかどうかは別問題だった。大切な人を絶対に守ると決めているレイにとって、一応大切なものの一人に入っているグレンをやり過ぎて傷つけてしまったことを心から悔やんでいたのだ。

 

それが分かっているエステルはハリーやハーマイオニー、フィリシアと一緒にしばらく落ち込んだレイを慰めていた。

 

余談だが、グレンの有様にレイの本気を見たロンは、間違ってもレイに杖を向けないことを誓っていた。

 

これにて一件落着……とはいかない。

 

ミネルバよって下されたグレン達の処遇は、グリフィンドールに50点減点、それと一ヶ月のホグワーツ内清掃の罰だった。もちろん魔法抜きで。

 

この事件を機に、グレンやその友人達のグリフィンドールでの立場は一気に失墜することになる。また、一年生達の間でレイの評価もガラリと変化を遂げることとなった。

 

これにて本当に一件落着。エステル達によってだいぶ持ち直したレイもすぐに解放されて、今ここに至っている。

 

「そ、それにしても驚きました。レイさんなら不意打ちでも杖だけを奪うことができると思うんですけど……」

 

話が一段落したところでアリスが意外そうにそう口にした。それはレイの実力をしっかりと把握しているからこその疑問だった。

 

「そうだよそうなんだよ。けど俺もちょっと気が張ってたっていうかなんというか……」

 

アリスの疑問に、レイは気まずそうに頬を掻きながら口を濁した。

 

たしかにアリスの言う通りだ。

 

普段のレイならば、いかに不意打ちとは言えどあそこまでの出力で武装解除などせず、正確に杖を奪うことだけが可能なはずである。

 

しかし、最近起こった様々な事柄がレイのリミッターを外させていた。

 

その事柄というのが、まずは双子から聞かされた自分達を探る者の存在だ。レイはその者に対して不干渉を決め込んではいたが、探るからには何か自分達に用があると考えて一応警戒だけはしていた。

 

次にハロウィンに起きた脱獄囚のホグワーツ侵入事件だ。脱獄囚が大切な者達がいるこの場所に侵入し、あまつさえ捕まえることが出来ず逃してしまっている。

 

近くに凶悪な脱獄囚がいるかもしれない。

 

この現状はレイにさらなる警戒心掻き立てるには十分だった。

 

そして最後に、ついでとばかりに赤毛の双子との激しい攻防を終えたばかりであったことも付け加えておこう。

 

以上三つの事柄によって、レイの警戒心はかなり鋭く尖っていた。

 

そんな状態のレイに害意を持って放たれた呪文。

 

もうお分かりだろう。簡潔に言ってしまえば、グレンはレイを襲撃するタイミングが凄まじく悪かったのだ。

 

だが、レイはそれを言い訳をするつもりはない。必要な時に必要な力を扱う。それこそが本当の力の扱い方だと考えているからだ。

 

言い淀むレイに不思議そうにこくっと首を傾げるアリス。そんな彼女とは違いレイの事情をあらかた察したシルヴィアが苦笑しながら口を開いた。

 

「アリス、この間シリウス・ブラックがここに侵入してきただろう? それもあってレイはある程度警戒していたのさ。そこにあの駄犬がちょっかいをかけたものだから大火傷、というわけさ」

 

「あっ。そ、そうだったんですね。……やっぱり、あの人はまたここに来るんでしょうか?」

 

不安そうに表情を暗くさせるアリスに、ギルバートが容赦なく現実を突きつける。

 

「来るだろうな。どうやら奴はグリフィンドール寮に用向きがあるようだ。それが人であれ物であれ、それを終わらせるまで奴は何度でもやって来るだろう」

 

「そうですよね……。よ、よしっ、私も気をつけますっ」

 

「当たり前だこの愚か者が。今更警戒など遅すぎるにもほどがある。貴様はこの二年で何を学んだのだお花畑め」

 

「え、やっ、ギルさっ……あうぅぅぅぅっ!?」

 

アリスの警戒心のなさにギルバートの杖先が久しぶりに唸る。

 

子熊のおでこに風穴が開きそうになる中、シルヴィアが何かを思案した後に一つ頷いた。

 

「……ふむ、そろそろ頃合いか」

 

「? なにがだよシルヴィ?」

 

「いやなに、レイとアリスを安心させてあげようかと思ってね」

 

「あん?」

 

「あたた……。な、なんのことですかシルヴィさん」

 

「…………」

 

レイ達の意識が自分に向いたことを確認したシルヴィアは、顔を寄せるように言う。顔を見合わせた三人は、彼女に言われた通りに机の中央に顔を寄せる。

 

そして同じようにその美貌を寄せてきたシルヴィアは、愉しげに口角を上げながら囁くようにとっておきの情報を提示したのだった。

 

 

 

「シリウス・ブラックの目的はハリー・ポッターだ。そして……奴には冤罪の可能性がある」




「はっ、はっ、はっ……。あ、あれがあの方が最愛と呼んで憚らない人の実力、本当の顔か……。やはり凡人というのはデマだったか」

人通りのない廊下に駆け込んだ少女は一人、肩を上下させながらそう呟く。

彼女は今日、とある目的があってレイに近づいていた。都合よく一人で行動していたこともあって、これ幸いとこのチャンスを活かすために彼が人通りの少ない場所に行くまで遠くから尾行していたのだ。

その時である。レイが隠していた強大な牙を曝け出したのは。

ずっとレイを遠くから見つめていた少女も、彼がなにをしたのか全くわからなかった。

やったことは単純だ。背後から迫ってきた魔法を振り向きざまに防ぎ、わずかな動作で武装解除呪文を放つ。

しかしそれを行なった時間があまりにも短すぎた。それをずっと見ていた自分にも分からないほどに。それほどまでに素早く、華麗な杖捌きだったのだ。

そして彼が静かに闘志を滾らせながら言い放った、自分達を探る存在がいるという言葉。

……私のことだ。

そう気付いた時には、少女はすでにその場を立ち去っていた。

ここまで走ってきた疲労と自分を探しているという緊張、自分のことがバレたらあの武装解除が襲ってくるかもしれないという恐怖。

少女は壁に背を預け、深く息を吐く。しかし胸の内に溜まる重く暗いものは出て行ってはくれない。そればかりか徐々に溜まっていくばかりだ。

ズルズルと、その重さに引かれるように少女の身体が下がっていき、最後には座り込んでしまう。少女は膝を抱えて顔を埋めた。

……どれくらいそうしていたであろうか。

突如少女は立ち上がり、短く息を吐いた。その顔には、なにやら覚悟を秘めた面持ちが見受けられた。

「謝ろう。誠心誠意謝罪しよう。調べた限りだが、あの人の性格ならば頭を下げて訳を話せば許してくれるはずだ」

ふんすと鼻息を荒くさせて気合いを入れる少女。そうと決まれば即行動だ。

少女は背筋を伸ばしてまっすぐ前を見つめる。そして人通りの少ない廊下から前へと足を踏み出す。

謝罪する相手の予定を頭に思い浮かべ、謝罪するタイミングを探りながら少女は生徒の波に紛れていった。



次回、天才を慕う少女。
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