選ばれし者と暁の英雄   作:黒猫ノ月

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49話

「……くっ! エクスペリアームスっ!!」

 

「おっ、やるな。けどそれじゃ足元がお留守だ」

 

「うわっ!?」

 

着々と寒くなっていく休日の呪文学の教室から、呪文を撃ち合う音が聞こえてくる。

 

中を覗いてみると、教室の中央で杖を持って向かい合う少年と少女がいた。長年親友達と共にこの場所で自主練に励んでいるレイと、ついこの間からその自主練に加わったセルマだ。

 

少し視線を逸らせば、教室の端で二人のやり取りを眺めているシルヴィアとギルバート、アリスの姿が見える。

 

しかしながら、高みの見物も終わりがすぐそばまで来ているようだ。

 

「まだ……まだ終わってっ!」

 

「はいチェック」

 

「っ!?」

 

レイに足元を撃ち抜かれたセルマはすぐに態勢を整えようとしたのだが、その前にいつのまにか近寄っていたレイの杖先がセルマの額を捉えていた。

 

「……参りました」

 

「おう、おつかれ」

 

誰が見ても勝敗は明らか。セルマは大人しく降参を申し出てた。それに頷いたレイは膝をつくセルマに手を差し出して立ち上がらせる。

 

「さっきの振り向きざまの武装解除は中々だったぜ。不安定な体勢であそこまでしっかりしたものが撃てるんなら、三年生相手でも勝率は高いだろうな」

 

「ありがとうございます!」

 

「よしっ、武装解除はこれでマスターっと。なんだよセルマ、取り柄がないとか言いながら物覚えが良いじゃねぇか」

 

「いえそんな。これも全てレイ殿とギルバート殿がご指導してくれたお陰です」

 

「相変わらず硬いなぁセルマは。ほら、もっと自信持てって。一月足らずでここまで武装解除を扱える奴なんてそういないぞ? なぁシルヴィ」

 

唐突にレイに同意を求められたシルヴィアは、微笑みを浮かべながら最愛の意見に首肯した。

 

「確かにその通りだな。少なくとも私は君とギル以外には知らない。よく励んでいるな、セルマ」

 

「は、はいっ! ありがとうございます、シルヴィア様っ!!」

 

シルヴィアに褒められ、感極まったように大きな声で感謝を述べて頭を下げるセルマ。レイに褒められた時との雲泥の差に、レイとシルヴィアは思わず顔を見合わせて苦笑を零したのだった。

 

レイがセルマを連れてきてから一月程が経った。

 

その間にハリーがクィディッチの試合中に吸魂鬼に襲われて愛箒を失ったり、体調を崩したリーマスに代わりスネイプが闇の魔術に対する防衛術の授業の教鞭を取ったりしたが、この際は置いておく。

 

レイがセルマと特訓を始めた当初は戸惑いを隠しきれなかったシルヴィア達であったが、彼女達がセルマを受け入れるのはすぐだった。

 

セルマは誰に対しても慇懃な態度を崩すことなく、勉強熱心で努力も怠らない。好感が持てる少女だ。

 

対してこちらは、努力する者を好むシルヴィアに学ぶことを是とするギルバート、そして優しさの塊であるアリス。

 

少し考えれば、彼女達がセルマを敬遠する理由などこれっぽっちもないことがわかるだろう。

 

さて、では本題に入ろう。

 

レイがなぜ、セルマを特訓に誘ったのか。もちろん、最終目的はセルマの望みを叶えること。つまりはシルヴィアに仕えるための布石だった。

 

シルヴィアも一人の人間であるという事実をセルマに示したレイは、その次にまずは天才ではないシルヴィアのことを知ろうと諭し、その協力に一役かって出ることをセルマに約束した。

 

その約束の結果がこの特訓への参加だ。こうして交流を持てばシルヴィアの意外な一面に接する機会も増えるだろうということだ。

 

それだけではない。この特訓を通してセルマに自信をつけさせ、シルヴィアに不釣り合いという負い目を吹き飛ばそうというのがまず一つ。そしてもう一つは、シルヴィアの信頼を勝ち取ることを目的としていた。

 

『シルヴィは基本、自分のことは全部自分でやる。人に任せるより、天才である自分でやったほうが効率も出来もいいからな。けど、あいつは一度信頼したやつには効率や出来を度外視でそいつに物事を任せる傾向がある』

 

空き教室でセルマの手を取った後にレイは彼女にこう話した。それは自身の経験談だったり、シルヴィアの家族以上に大事な二人の使用人の話を聞いていたからこその言葉だった。

 

だからこそ、この特訓への参加だ。

 

交流を通してシルヴィアのことを深く知り、セルマのことを知ってもらう。腕を磨いて自信をつけ、切磋琢磨する姿を見せて努力を愛する彼女に好印象を持ってもらう。

 

これこそ、レイが考えた『シルヴィアに気に入られよう大作戦』である。後はセルマの努力次第、レイは約束通りセルマに手を貸したのだった。

 

そして作戦を開始して一ヶ月、作戦は順調に進行していた。

 

だが、彼にとって誤算だったことがあった。それは作戦開始一週間ほどでシルヴィアに彼の計画を悟られてしまったことだった。……それもギルバートとあのアリスにさえも。

 

しかしそれも仕方のないことだろう。他でもない、セルマが分かりやす過ぎたのだ。

 

一人だけ様付けであったり、シルヴィアとの会話の最中に緊張からどもったり、シルヴィアに少しでも褒められれば忠犬宜しく嬉しそうに幻の尻尾をブンブンと振ったりなどなど……。

 

もう心の底から貴女のことを尊敬していますと身体全体で表現するのだ。これで分からないほうがどうかしている。シルヴィアもどうやらセルマのことは覚えていたらしく、全てを悟った時は呆れたように苦笑をこぼしていた。

 

だがしかし、シルヴィアは悟ってもなおセルマの好きにさせている。それが彼女の答えだった。

 

もしかすれば、セルマの願いが叶うのもそう遠くないのかもしれない。

 

そんなこんなでシルヴィアに褒められて有頂天に達したセルマは、その勢いのままに休憩がてら壁際で呪文学の勉強に励んでいる。そして入れ替わるようにシルヴィアとギルバート、アリスの三人が教室の真ん中にやってきた。

 

「さて、ではこれより『守護霊の呪文』の習得、その最終段階に入る」

 

「おう!」

 

「はいっ」

 

秀才の言葉に元気よく返事するレイとアリス。向かい合う三人の横ではシルヴィアが腕を組んで微笑ましげにその様子を見守る。

 

「……とはいえ、すでに貴様らは有体守護霊の召喚に成功している。これには俺も驚きを禁じ得ない…………心底、本当に」

 

「すごい言われようだな、おい」

 

「あ、あはは。自分でもびっくりです」

 

呆れたように言うレイと戸惑うように笑うアリス。しかしそこに天才から待ったがかかる。

 

「何を言う。私の最愛と最可愛ならば当然の結果だ」

 

「黙れそこの甘やかし。この二人についてお前の意見はあてにならん」

 

「……まあ、そうだわな」

 

「そ、そんなことない……です?」

 

「み、皆が私に冷たい……」

 

教室の端で一人いじけるシルヴィア。しかし毎度のことであるため、アリス以外は我関せずだ。……この時、勉強していたセルマはシルヴィアの新たな一面に鼻息を荒くさせていた。

 

言うまでもないだろうが、彼らが『守護霊の呪文』の習得に励んでいるのは偏に吸魂鬼への対策だ。

 

魔法省はホグワーツにいる生徒を守るために吸魂鬼を派遣したと言って憚らないが、奴らにそんな思いがあるはずもない。奴らの目当てはシリウス・ブラックであり、隙あらば矮小な存在を喰らうことしか頭にはない。

 

そのような存在がそばにいる現状をレイ達が黙って見ているはずもなく、すでに習得しているシルヴィアやギルバートの下でここ一月と少しほど修練に努めていた。

 

あいも変わらず部屋の隅でくすぶっているシルヴィアをアリスが励ましている中、話が進まずイライラし始めるギルバートと気長に待つレイ。そんな時、とある疑問が浮かんだセルマがレイに尋ねてきた。

 

「あの、レイ殿。少しよろしいでしょうか?」

 

「ん? どしたよ?」

 

「『守護霊の呪文』はNEWTをはるかに上回る難度の魔法と聞いています。その発動方法は幸福なことを思い浮かべる必要があるとのことですが、レイ殿は何を思い浮かべているのでしょうか?」

 

セルマはこの一ヶ月、レイと共にいて気付いたことがある。それは彼が本当に自分と同じ凡才であるということだ。

 

最初こそ凡才というのはレイの謙遜だと決めつけていたのだが、それもすでに自分の愚かな間違いであったと認めている。

 

何度もシルヴィアやギルバートと試合い、その度に負けては敗因を学習して次に活かす。何度もギルバートに勉学の間違いを厳しく指摘されては、回数を重ねて必死に記憶していく。

 

そうしてレイが努力している様を、セルマはいつも目の当たりにしていた。だからこそ、気付いたのだ。

 

今のレイを形作っているのは弛まぬ努力の積み重ねなのだと。天才や秀才のブーストがあるとはいえ、それにくじけることなく彼らの期待に応え、自分の糧としたからこそ今の彼があるのだと。

 

レイへの認識を改めたセルマは、だからこそレイを参考にすることができる。自分もまた凡才。努力と根性で天才と秀才に並び立たんとする凡才が生み出した成果は、自分も諦めなければ必ずそこにたどり着けると思えるから。

 

セルマに問われたレイは何だそんなことか、と何でもないように笑って答えた。

 

「別にこれといって特別なことは考えてねぇよ。俺はただ……今この時を思い浮かべてるだけさ」

 

「今、この時を……?」

 

その答えは、要領をえないものだった。よくわからないと首をかしげる彼女にレイは笑みを穏やかなものに変えて、シルヴィアとアリス、そしてその二人を連れ戻しに行ったギルバートの三人をその視界に収める。

 

「俺にとっての何よりの幸福は、“今”なんだよ。俺に愛を注いでくれる家族がいて、ホグワーツっていう場所で何不自由なく誰かを守る力を手に入れることができて、友達と平穏に暮らせる何気ない日常があって……」

 

指折り数えていたレイは、最後に拳を握りしめた。

 

「……何より、シルヴィ達と出会えた」

 

彼の目に映る、三人の個性豊かな少年少女。

 

罪深い過去を持つ自分を受け入れてくれた。誰かを失う恐怖に怯える自分を抱きしめてくれた。無理無茶無謀を承知で突き進む自分の隣にいつもいてくれた。

 

アリス。ギルバート。そしてシルヴィア。

 

レイにとって、何物にも代えられない……大切な宝物。

 

「シルヴィ達と過ごせる今、この時こそが俺の幸せなんだ。あとは俺に幸せをくれたこいつらや家族、友人のことを考えれば……な? 簡単なことだろう?」

 

ニカッと笑いかけてくるレイに、セルマは何も言えなくなってしまう。……しかし、すぐに彼女は顔を綻ばせた。

 

「……はい、とても素敵ですね」

 

「そ、そうか? 別に大したことじゃねぇだろ」

 

「いいえ、そんなことはありません。私もシルヴィア様に出会え、そしてレイ殿に出会えた幸せを噛み締めて生きていきます」

 

「いやいやっ、そんな大それたもんじゃ……ってうぉっとっ!」

 

なにやら深く受け止めてしまったらしいセルマに慌てて否定しようとしたところでお腹に重たい衝撃が走る。

 

目線を下に向ければ、そこには感極まった様子でレイに抱きつく子熊の姿が。

 

「レイさんっ。私も、私も一緒です! 私もレイさんや皆さんといる時が一番幸せですっ。だから……っ!」

 

「お、おおう、落ち着けアリス。よしよし」

 

頭をグリグリと押し付けて愛情を示すアリスに戸惑うレイ。それを横で微笑ましげに眺めるセルマ。そして少し遠くで同じく眺めているシルヴィアとギルバート。

 

違いは一方は呆れ、一方は恍惚とさせていることだろう。

 

「奴はなにを恥ずかしげもなく吐かしているのだ」

 

「私の最愛と最可愛の織りなす友情……ああっ、尊い。これぞ至高」

 

「…………はぁ、愚か者ばかりだ」

 

眼鏡の位置を整えて、ギルバートは深くため息をついた。

 

それから特訓が再開されるまで30分ほどかかったという。

 

………………

…………

……

……

…………

………………

 

今年もようやくこの季節がやってきた。

 

大自然溢れるホグワーツ近郊は白一色に染まり、白に装飾された古城はより静謐に、荘厳にその威容を誇っていた。

 

しかしレイ達の姿はその古城にはなかった。クリスマス休暇を二週間後に控えた今日、彼らの姿は今年最後のホグズミードにあった。

 

「……ふぅ〜っ。ここのバタービールはやっぱりうまいなぁ」

 

「ふふっ。レイ、泡が付いているぞ?」

 

「おっとと」

 

しんしんと冷え込んだ身体を、一気に流し込んだバタービールが内から温める。ホグズミードにあるパブ『三本の箒』にて、レイ達一行は一息ついていた。

 

「レイさん、ギルバートさんも。いつもありがとう。あっ、この間のキープボトルはどうします?」

 

バタービールを運んできたこのパブの女主人、マダム・ロスメルタが可愛らしく片目を閉じて二人に問いかける。未成年に対して酒を勧めてくるお茶目な女主人に、レイは思わず苦笑をこぼした。

 

「マダム分かってて言ってるだろ。また今度双子と抜け出した時に貰うよ」

 

「ふふふっ、そうですか。校則違反もほどほどにね?」

 

「マダム、今度また酒を贈らせてもらおう」

 

もう一度だけウインクを返してマダム・ロスメルタは業務に戻っていった。

 

実はレイとギルバートの二人は二年生の学期末からマダム・ロスメルタとは知り合いだった。双子に連れられるままホグワーツの抜け道からホグズミードにやってきた二人は最初にここに連れられて彼女と出会った。

 

以来、時たま双子に誘われてここに来ては、大人達の目を盗んで四人でバタービールや時には酒を傾けながら交流を深めている。

 

子供の味方であるいけない大人の女性を見送ったレイ達であったが、すかさずアリスが苦言を呈す。

 

「もうっ、お二人とも! 抜け出すのはともかく、お酒はダメですよっ」

 

「いやー、悪い悪い。俺もそんなに興味はなかったんだけどな。ギルと双子のお勧めがこれまた美味くてついな」

 

たははっ、と笑うレイに頬を膨らませるアリス。そんな彼女の矛先はギルバートに向かう。

 

「ギルさんもです! 私達はまだ未成年なんですからっ」

 

「騒ぐな泣き虫、これも付き合いだ。俺もこいつも容量を弁えている、嗜む程度だ」

 

「むむむっ」

 

実際、ギルバートは家の関係で幼少の頃から酒を口にすることもあった。幼少の彼に酒を勧めたのが取り締まる側のお偉いさんであったこともあるというのは、世も末というやつか。

 

涼しい顔でバタービールを傾けるギルバートにアリスは一層頬を膨らませる。そんな彼女のあまりの可愛さにすでにノックアウトされているシルヴィアは、顔を蕩けさせながら彼女を宥めるために抱きしめて頭を優しく撫でる。

 

「アリス、そんなに心配ならば今度私達も付いていこう。そうすれば二人を止めれるし、皆で楽しく回れる。一石二鳥だ」

 

「そ、そうですね。分かりました、そうしますっ……あれ? それって結局悪いことじゃ……」

 

シルヴィアに諭されて流されそうになったアリスであったが、少しして悪事に誘われていることに気付きかける。しかしそこは天才。察しのいいアリスは嫌いだよと言わんばかりにナデナデしてハグハグして誤魔化しにかかる。

 

そんな風に目の前でじゃれ合う麗しき少女達をよそに、レイとギルバートは酒の話で盛り上がる。

 

そうしてしばらくは四人で和気藹々と『三本の箒』で有意義に休日を過ごす。間にマダム・ロスメルタに頼んでつまめる物を用意してもらって、それに舌鼓を打ちながら会話に花を咲かせる。

 

二時間ばかりそうしていたであろうか。話がいち段落したあたりで『三本の箒』に予期せぬ来客が入り口をくぐってきた。

 

「おや、あれは魔法省大臣ではないか。ダンブルドアへのお伺いの帰りかな?」

 

「あん? どれどれ……ああ、あれがそうか。初めて見たな、って後ろにミネルバさんとハグリッド、それにフリットウィック先生まで連れてるぞ。なんか物々しいな」

 

「マダムが大臣に吸魂鬼の件で文句を言っているな。おっと、宥めすかした後に奥の部屋に……ふむ、内緒話か」

 

ニヤリと口角を上げたシルヴィアは懐から杖を取り出す。フィルチの検査を潜り抜けて懐にしまっていたそれを見たレイが、それだけでシルヴィアがなにを仕出かそうとしているかを悟って呆れた声を出す。

 

「おいおい盗み聞きか? 趣味が悪ぃな」

 

「えぇっ!? だ、ダメですよシルヴィさんっ」

 

「いやなに、彼らの様子が少し気になったのでね。有用な情報が聴けそうだと思ったのだよ。仮に下らないことであっても、それは別に私達の胸の内に秘めておけばいいだけの話さ。ギル、アレを使うぞ」

 

「ふんっ、好きにしろ。俺も多少興味はある」

 

「ギルさんっ」

 

全員(一人仕方なく、一人反対棄却)の了承を得たシルヴィアは、慌てるアリスを抱きしめ宥めながらギルバートの開発した『聞き耳呪文』を唱える。その最初の一振りをミネルバ達が消えた奥の個室に続く扉に、もう一振りを空いたジョッキに加えた。

 

するとどうだろう。なんとジョッキからミネルバ達の声が聞こえてくるではないか。

 

ジョッキは声に合わせて振動しながら、側面についた水滴を底に落としていく。

 

ここまで来てしまえばアリスも諦めがついてしまう。また一つ悪い子になってしまった罪悪感に苛まれながら、せめてここで聞いたことは絶対に誰にも言わないことを誓う。

 

それからレイ達は誰一人口を開くこともなく、テーブルの中央から聞こえてくる内密の話に耳を傾ける。

 

その内容は、レイ達に大きな衝撃をもたらすものだった。

 

話をまとめるとこうだ。

 

脱獄囚、シリウス・ブラックは少年時代をここで過ごし、その隣にはいつもハリーの父親であるジェームズ・ポッターがいた。兄弟と見間違うほどに仲の良かった二人。それは大人になっても変わらず、ジェームズはブラックをハリーの後見人とした。

 

そのあと闇の帝王に狙われていたポッター夫妻は、ダンブルドアに『忠誠の呪文』を施してもらい、姿をくらました。『忠誠の呪文』はひどく複雑で難しい呪文であり、『秘密の防人』が口を割らない限り絶対に場所が特定されないという古い呪文で、夫妻はその『秘密の防人』にブラックを指定した。

 

しかし、それはたった一週間で暴かれる結果となる。

 

なんとブラックはあろうかとか闇の帝王に夫妻を売ったのだ。……そして夫妻は死に、ハリーは生き残った。

 

逃げたブラックは公では魔法省が追い詰め、捕えたとされているが、実際はそうではなかった。彼を追い詰めたのは、ブラックと同じくジェームズと仲良くしていたピーター・ペティグリューだったのだ。

 

そして追い詰められたブラックは、ピーターとマグル13人を巻き込んで魔法を放ち……全てを消し去った彼は、一人高笑いをしたのだ。

 

その場には、ピーターの欠けた小指が残されるだけであったという。

 

親友とその妻を裏切り、その友人を殺した。これがこれまでひた隠しにされたシリウス・ブラックの真の罪だった。

 

全てを聞き終えたレイは、一人重たい息を吐く。なにやら入り口付近が騒がしいが、今はそれどころではない。

 

「……シルヴィ」

 

「ああ。ピーター・ペティグリュー、ここに来て最も怪しい奴が浮上したな」

 

シルヴィアは自分の持つ情報と今得た情報を統合し、速やかに整理をつけていく。

 

レイがグレンをのしたあの日、シルヴィアは自分が隠し持っていた情報をレイとギルバート、アリスの3人に公開した。

 

シリウス・ブラックは冤罪の可能性があり、狙いはハリーである。

 

それを聞いた3人は、大小あれど驚きの様子を見せた。

 

夕食の後、誰にも知られることなくひっそり集まったレイ達はシルヴィアに詳細を求めた。

 

まず、なぜシルヴィアがそのようなことを知っているのか。それは、彼女の信頼する従者からもたらされたからだ。

 

セオドア。闇の帝王の側近として侍っていた過去を持つ男。

 

当時、彼はご主人様である闇の帝王よりとある任務を言い渡されていた。

 

それは、シリウス・ブラックの足止めである。

 

闇の帝王はセオドアに情報源を明かさなかったが、ポッター夫妻の所在を突き止めたから彼らを始末する間ブラックを足止め……あわよくば殺害するように命令を下したのだ。

 

そしてセオドアは言われた通りブラックを強襲し、小一時間に渡りやりあった。しかし嫌な予感を覚えたブラックは途中でセオドアを振り切り、撤退したのだ。おそらく、ポッター夫妻の元へと。

 

その話をシルヴィアはキングズ・クロス駅にて、ホグワーツ特急に乗車する前にセオドアに聞かされていた。彼女が乗車前にレイ達と一旦別れていたのはこのためだった。

 

『おそらく、ブラックはあの方にポッターを売った者に嵌められたのではないかと』

 

立ち去る前、セオドアは主人にそう言った。

 

ブラックの目的がポッターであるのは、それぐらいしか目的が思いつかないからという曖昧なものであったが、それもハロウィンにブラックがグリフィンドール寮に侵入しようとしたことでほぼ確かなものとなった。

 

「もし仮にピーターがブラックに罪をなすりつけ、生きていると仮定する。ブラックに追い詰められたピーターは咄嗟に小指を切り捨てて自身の周りを爆破。その爆破にブラックが対処しているうちにピーターは逃亡。上手く罪をなすりつけることに成功したピーターは今もなおのうのうと生きている、という仮説を立ててみたが、どうだろうギル?」

 

「……辻褄は合う、嫌という程な。こういう時こそ思い込みは厳禁だ。分かっているな泣き虫」

 

「は、はいっ。頭の真ん中に置きつつ、その端で別の可能性も考慮する、ですよねっ」

 

「分かっているならいい」

 

ギルバートに怒られなかったことにアリスは嬉しくなる。しかし今は不謹慎だと必死に顔を取り繕うが、上手くいかずにいびつな表情になってしまう。

 

その微笑ましさな場が和み出したところで、ふとレイは疑問に思ったことがあった。

 

「なあなあ、もしピーターが今も生きているとしてもどうやって身を隠してるんだろうな。やっぱ海外か?」

 

「さてな。情報がない以上はなにを推測してもただの妄想でしかない。今は無駄なことを考えるな」

 

「あいさー」

 

「いいや、もしかすれば案外近くにいるかもしれないぞ? ブラックが脱獄してここに来たのもピーターへの復讐が目的なのかもしれないな」

 

「……それは、とっても悲しいことです」

 

先程までの微笑ましい歪な顔はなく、今は心より悲しい面持ちを見せるアリス。

 

親友と呼べる仲だったはずなのに、裏切り、憎み、殺し合う。それは心優しいアリスには……いや、親友と呼ぶにふさわしい者達がそばにいるからこそ、アリスの胸に重く、重くのしかかるのだ。

 

もし仮に、自分達がそうなってしまったら……と。

 

しかし、誰であろうその親友達はそんな馬鹿げたことを考えるアリスを許しはしない。

 

ポカッ、ぺち、パァンッ!

 

「ふわわぁっ!!?」

 

俯き暗い顔をするアリスに下される三者三様の鉄槌。突然のことに痛みよりも驚きで顔を上げる。

 

そこには……。

 

「この愚か者が。馬鹿げた妄想に取り付かれるな」

 

「その通りだよアリス。私達がそのような結末を迎えるはずはない」

 

鼻を鳴らすギルバートと微笑みかけてくれるシルヴィア。そして、優しく頭を撫でてくれるレイ。

 

「たしかに未来のことなんてわからないし、俺達が絶対そうならないっていう保証はない。けど、たとえ自分が誰かを裏切りそうになった時、その前に絶対にこの中の誰が止めてくれる。そうだろ?」

 

その通りだ。あの時、トム・リドルに自分も言ったではないか。

 

自分が裏切りそうになったなら、その前に必ずみんなが助けに来てくれると。そう、信じられるのだと。

 

「……はいっ!」

 

アリスは元気いっぱいに返事をして、大輪の花を思わせる笑顔を浮かべた。

 

かつて、四人の少年たちが最後まで手に入れることのなかった尊くも素晴らしい光景が、そこにはあった。




お酒は20歳になってからっ(^_−)−☆

次回、立ちはだかるは凡人の壁。
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