セピア調の物悲しい季節とは裏腹に、図書室にて慌ただしくも愉快な交流を深めたレイとマルフォイ。それから半月ほどが経過したが、レイの脅しと言う名の自主勉強の誘いにマルフォイは律儀にも顔を出していた。
他者に弱みを見せられないマルフォイの為に、勉強会はいつも図書室の陰となる場所で行われた。またレイは、親友達にさえこの秘密の勉強会のことは内緒にしていた。
特にシルヴィアなどは自分に隠し事をするレイに少し拗ねた様子も見せていたが、人差し指を口元に当ててウィンクする小悪魔的なレイに、これはこれでアリだなと結局満足げにしていた。なんともたくましいものである。
こうして親友達にも隠し通したレイは、図書室のいつもの場所で本を読みながらマルフォイを待つ。そして待ち人がやってくると笑顔で手を振り出迎える。
マルフォイはレイから向けられる純粋な好意と配慮に顔をしかめた後、今日も変身術の自主勉強に励んで行く。
時を同じくして、額に傷を待った眼鏡の少年も特訓に励んでいた。
その少年……ハリーは、過去の凄惨な出来事による吸魂鬼に打たれ弱いという弱点を克服しようと、闇の魔術に対する防衛術の担当教師であるリーマスの指導のもと、守護霊の呪文の習得に精を出していた。
数ヶ月の特訓の末、なんとか呪文の発動に成功したハリー。これなら吸魂鬼にも対抗出来るだろうとリーマスから太鼓判をもらったハリーは、今度こそ打ち勝ってやると決意を新たにして日常に戻ろうとしていた。
しかし、そんな時であったのだ。
赤毛の双子より譲り受けた『忍びの地図』。『悪戯仕掛け人』と呼ばれる者達によって作成されたその地図に、絶対に載るはずのないその名前が浮かび上がってきたのは。
ピーター・ペティグリュー。
両親を裏切った脱獄囚シリウス・ブラックを追い詰め、そして死んでしまった勇気ある男の名前が、そこにあったのだ。
ブラックについて何か手がかりがあるかもしれない。居ても立っても居られなくなったハリーは、地図と杖を手に深夜のホグワーツへと飛び出していったのだった。
………………
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「ピーター・ペティグリューが自分のすぐそばを通ったはずなのに周りには誰もいなかった、だと?」
「ああ、『透明マント』を使っていた様子もなかったみたいだ。3年間使い続けてる奴が言うんだから間違いないと思うぜ?」
レイは肩をすくめてシルヴィアにそう返した。
結局、ハリーはピーターを見つけることができなかった。彼の名前が載っていた場所に急行したのだが、なんと地図では自分のすぐそばにピーターがいるはずなのに辺りを見回してもどこにも見当たらなかったのだ。
何度地図と周囲を見比べても、ピーターはどこにもいない。しかし地図にはこちらに向かってくるピーターの名前がある。
近場に教室などの隠れられる場所もなく、周囲を警戒しているうちにピーターの名前は何事もなく慌てるハリーの横を通り過ぎていった。
このままではまずいとピーターを地図を頼りに追おうとしたのだが、そこでスネイプに見つかってしまう。
そのせいで地図を閉じざるを得なくなり、ピーターの追跡は不可能となってしまった。そしてハリーの行動を怪しんだスネイプによりあわや地図も没収されそうになったところで、リーマスがハリーを助けたのだった。
しかし防衛術の教室に連れてこられた後にリーマスには叱られ、結局地図もリーマスに没収されてしまった。「もし間違ってこれをブラックが手にすれば君の命はないのだぞ!」と。
まったくもってそのとおりであったため、素直に地図を預けたハリーは最後にピーターのことだけをリーマスに伝え、防衛術の教室を後にした。
リーマスに寮へと帰されたハリーは、翌日にロン達とレイを呼んで詳細を語った。全てを語り終えたハリーはその場でレイに意見を求めたのだが、レイとしても不用意なことを言うわけにもいかず、その場は分からないとお茶を濁すしかなかった。
レイのこの反応に訝しむ一同ではあったが、もし仮に何か知っていたとしてもそれを言わないということは何か理由があるということをこの三年の付き合いで知っているので、問いただすことはしなかった。
そんなハリー達の予想は的中しており、すでに彼らの知らないいくつかの真相をレイは手にしているのだが、それを言っても詮無いことだろう。
「『悪戯仕掛け人』と呼ばれる者達によって作られたあの地図は、俺も思わず唸るほどの完成度を誇る一品だ。おそらく地図に間違いはない。となれば……」
「ペティグリューさんは生きていて、今はこのホグワーツにいる。そしてどうにかしてポッターさんをやり過ごした、ということでしょうか?」
ギルバートの後を継いで、アリスは恐る恐る自分の答えを口にした。
レイ達が今いる場所は薪の配られた暖炉によって暖められた空き教室だ。レイが午後は予定があるということで、休日の午前中を使って集まっている。
一行は暖炉を囲むように椅子を持ち寄って座っているのだが、足を組み替えたギルバートがアリスの予想を肯定した。
「その通りだ。そしてシリウス・ブラックの目的も絞れてきた」
眼鏡のブリッジに指を添え、確信を得ているような口ぶりのギルバート。それを横で聞いていたアリスには心当たりがあった。
「……やっぱり復讐、でしょうか」
アリスは顔を俯かせ、ズキリと軋む心の痛みに胸を押さえる。それは『三本の箒』でシルヴィアが半分冗談で口にしたものであったが、彼女はなんとなくそうではないかと考えていたのだ。
心優しいアリスにとってそれはとても許容できるものではなかった。まるで自分のことのように辛そうにするアリスにシルヴィアが堪らず彼女を背後から抱きしめて少しでも和らげようとする。
赤の他人であろうと、こうして真剣に思い遣る彼女を、お人好しだと笑う者もいるだろう。だがしかし、秀才は笑わなかった。
「ふん、無駄な時ばかり察しがいい。だが、おそらくそれだけではない」
「ふぇ?」
ギルバートの言葉に驚いてアリスは顔を上げる。シリウス・ブラックの目的が復讐だけではないのなら、他に一体何があるのだろうか?
ギルバートはアリスが気落ちから回復して、こちらに真剣に耳を傾ける様を確認した後、自分なりの考察を徐々に展開し始めた。
「いいか? もし仮にピーター・ペティグリューが真犯人だとする。奴はポッター夫妻を裏切り、闇の帝王に売り渡した。この時点で奴にはもう闇の側にしか居場所は無くなってしまったのだが、そこで思わぬことが起こる。そう、闇の帝王の打倒がなされたのだ」
アリスが持ち直したことでシルヴィアも席に戻り、お手並み拝見と静聴する。
「シルヴィの従者の話では、闇の帝王は誰にもペティグリューの話はしていなかったようだが、そんなものは少し頭のいいやつであればすぐにご主人様を追いやった者の存在に行き当たる。……ポッター夫妻と仲良くしていた気弱でずる賢い友人の存在など、な」
レイはハリーのために少しでもブラックに関することを聴き逃すまいと、秀才の声を耳に入れながら頭の中で整理していく。
「それに思い至った奴は逃げ出した。こうして奴は光にも、闇にも居場所をなくしてしまい、誰からも追われる立場となったのだ。そして奴が最後に行き着いた結論が、もう一人の友人に罪をなすりつけて身を隠すという、どこまでも腐り果てた醜悪極まるものだった」
全てうまくいったピーターは、一時は平穏を手に入れられたのだろう。しかし、その平穏が長く続くはずがなかった。
友を裏切り、罪をなすりつけた罪悪感と後悔に苛まれ、もしかしたら自分の考えに気付いた誰かが殺しに来るかもしれない。いいやそれこそ、絶対的な力を持ったあのお方が……。
それはどれほど辛いものであろうか。彼の長い逃亡生活は、ただでさえ強くない心を容赦なくすり減らしていったことは容易に想像できた。
「全てを失い、長い年月を逃亡し続けたペティグリューは、何の因果か自分が追いやったポッター夫妻の遺産の近くに行き着いた。それこそ、手を伸ばせばあっさりと届くであろうほど近くにな」
レイとアリスが真剣に耳を傾ける中、シルヴィアだけがギルバートの言わんとしていることに気が付いた。
思い至ったシルヴィアは、友を売り、罪をなすりつけて堕ちていったピーターはまだ堕ち足りないのかとあからさまに不機嫌そうに盛大に舌打ちをした。
「ちっ、なるほどそういうことか」
「え、えと、シルヴィさん?」
シルヴィアの様相に不安そうにアリスが声をかけた。いつもなら心の清涼剤である彼女のその様子を目の当たりにすれば、すぐに機嫌も治して微笑みかけるのだが、ピーターのどうしようもない屑さにシルヴィアも自分の感情を持て余しているようだった。
それに気付いたレイがあえてなんでもないように声をかける。
「もう分かったのか?」
「ああ。私の予想通りならば、ピーター・ペティグリューは想像以上にクソだ。私の近くで息をしていると考えただけで虫唾が走る」
久方ぶりにこうまで不快感を示すシルヴィアに、そこまでのことなのかとレイとアリスはこれから耳にするであろう事柄に思わず身構えてしまう。
また、シルヴィアの反応を見たギルバートは彼女が自分と同じ結論にたどり着いたことを察していた。
「おそらくシルヴィの予想は的中している。いいかお前達、ペティグリューは馬鹿にも劣る屑ではあるが、脳なしではない。奴とて闇の帝王が死んでいないことなど承知の上だろう。奴は光と闇の両陣営に加え、自分のご主人様からも逃げていたのだ」
ギルバートはここで、この考察の核心となるであろう場所をレイ達に尋ねる。
「では、お前達に質問だ。今ここで闇の帝王が完全に復活したとする。そうなれば間接的に自分を死の直前に追いやり、それを見捨てたペティグリューに明日はない。……しかし自分のそばに、それはもうとっておきの捧げ物があれば、どうだ?」
「「っ!!」」
そして、ようやくレイとアリスはシルヴィアとギルバートが思い至った結論にたどり着いた。
そう、ピーターは……。
「……友達だけじゃ飽き足らず、ハリーまで売ろうってのかよ」
「そんな、そんなの酷いですっ、どうしてそんなことが考えられるんですか!」
シルヴィアと同じように不快感をあらわにするレイと、ピーターの愚かさに怒りを覚えるアリス。
普段は見られないアリスの怒りを見て、しかし冷静にギルバートは答える。
「人という生き物は、追い詰められれば追い詰められるほど本性がむき出しになるものだ。結局のところ、ピーター・ペティグリューという男がそれほど腐りきっていたというだけだ」
そんな男の考えなど理解できるはずもない、と憤慨するアリスをなだめすかしてギルバートはこの話の終着点へと発着する。
「シリウス・ブラックはアズカバンの牢獄で、どういった方法かは分からないがペティグリューがポッターのそばにいることを知ったのだろう。だから奴はこのタイミングで脱獄し、ホグワーツを目指したのだ。……親友の形見とも言えるポッターをペティグリューの手から守るために、な」
もし復讐が真の目的ならばもっと早くに脱獄して血眼で奴を探しているはずだ、と付け加えた後、ギルバートはいつものように締めくくる。
「お前達、分かっているとは思うがこれはあくまで俺が手持ちの情報と状況証拠から推察した仮説であり、本人に聞かなければ真相は謎のままだ。あまり過信してシリウス・ブラックに同情するようなことをするなよ?」
「あいよ」
「わ、分かりました」
いつものよう釘を刺したギルバートは短く息を吐いて証明を終了する。毎度のごとく素晴らしい慧眼を見せる彼にレイもアリスも頭が下がる思いでいっぱいだ。
それはシルヴィアも同じであり、天才の自分をも超える推理力には毎度舌を巻いている。そんな彼女だが、ギルバートの仮説を聴き終えると顎に白魚のような指を添えて物憂げに思案していた。
「ふむ、こうなってくるとあの『忍びの地図』が没収されたのが痛いな。あれさえあればブラックとペティグリューの居場所も筒抜けであったのだが……」
「そうだよなぁ。ギル、あの地図作ることって出来るか?」
言うまでもないが、『忍びの地図』はホグワーツにおいて素晴らしい効力を見せる至高の逸品だ。そう簡単に作れるものだはないだろう。それはレイも承知の上だが、ギルバートならもしかしたらという期待から出た言葉だった。
しかし案の定ギルバートは首を横に振る。
「出来ないとは言わんが、時間がかかるだろう」
「えっ!? 時間さえあれば出来るんですかっ?」
アリスから見ても『忍びの地図』はありえないほど高性能なものだ。ギルバートのキレ過ぎる頭の良さは理解しているつもりだが、それでも驚かずにはいられなかった。
アリスの驚きようを見たギルバートは、見くびるなと言わんばかりに片眉をあげて不愉快そうに鼻を鳴らした。
「まずはホグワーツ全体の把握から始め、立ち入り禁止区域や隠し部屋、挙句“あの”ダンブルドアのいる校長室も正確に網羅しなければならない。しかもそれが前提という難易度だ。そこからさらにインクや羊皮紙も特別なものを用意しなければならないし、工程もおそらく月単位でかかるはずだ。短く見積もっても半年はかかるな」
「ふわぁ。や、やっぱりギルさんはすごいですっ」
しかし、アリスのキラキラとした純真な眼差しを受けたギルバートは打って変わって気恥ずかしげにもう一度鼻を鳴らした後に彼女から顔を逸らす。
そんな二人の様子を側から見ていたレイとシルヴィアは顔を見合わせた後に微笑ましいと言わんばかりに苦笑した。
ペティグリューの話題によって周囲を漂っていた陰鬱な雰囲気が和らぎ、自分達が囲んでいる暖炉から発せられるほんのりとした暖かさが辺りに広がった。
そんな時だった。不意にレイ達のいる空き教室の扉が開かれたのだ。
扉から暖炉まではかなり距離があるために、万が一にも聞き耳を立てられていたとしても全容が聞こえるはずはない。しかし先程まで内緒話をしていたこともあり、少し警戒してレイ達は扉を開けた主の方へと顔を向けた。
するとそこには、継ぎ接ぎだらけのスーツを着た教師が扉の陰から教室内を覗き込んでいた。
「おろ、ルーピン先生じゃないですか」
「ああ君達だったのかい。誰もいないはずの空き教室に人の気配がしたのでね。少し覗いてみようと思ったのさ」
おどけたように肩をすくめて、ルーピンは空き教室へ足を踏み入れる。レイ達もリーマスに対しては好印象を持っているために特に不満を言うこともなく歓迎した。
レイ達のところまで歩み寄ってきたリーマスは顔を楽しげなものに変えてレイ達に尋ねる。
「それで、こんな寒い時にわざわざ空き教室に集まってどんな企み事をしているのかな? 君達ほど優秀な子供達が一度騒ぎを起こせば、ホグワーツ中が大混乱になること請け合いだからねぇ」
ほら、いつかの追いかけっこなんて傑作だったじゃないかと心底可笑しそうに笑うリーマスの姿は、悪戯が大好きな無邪気な子供そのものだった。
それを見たレイ達は顔を見合わせて苦笑する。もし仮に何か悪戯を企んでいたのなら真っ先に止めなければならないはずのリーマスには、自分達を止めようとする意思が全く感じられなかったからだ。
こういうところもリーマスが生徒に慕われている理由の一つだろうなと思いながら、レイが代表して答える。
「たしかにそこの秀才殿は双子と結託して悪戯グッズや魔法を研究してますけど、俺達は別に何も企んではいませんよ」
「おい貴様、またさらっと俺を売ったな? あれだけ追い回し痛い目に遭わせたはずだが、まだ仕置が足らんらしい」
「うっせ。この間ネビルを実験台にしたこと、まだ納得してないからな」
「あれは双子が勝手にやったことだ。俺は知らん」
「あん?」
「なんだ?」
「お、お二人ともっ、喧嘩はダメですよ!」
「と、いうわけだルーピン教授。私達は特段何も企んではいないよ。何分寮が別々なのでね、こうして空き教室でも使わないと落ち着いて談笑もできないのさ」
メンチを切り合うレイとギルバートの間でアリスが必死に仲裁し、それを見守っていたシルヴィアがレイと入れ替わり代表してリーマスに答えた。
「はは、そうかい。楽しそうで何よりだね」
リーマスは自身の目の前にある子供達のじゃれ合いを、尊いものを見るように目を細めて感慨深い様子を見せる。
それは過去を懐かしく思うものであり、過去を後悔するものであり、あったかもしれない過去を夢見ているものだった。
シルヴィアはリーマスが時たま見せるその様子にしかし、深く突っ込むことはしなかった。同情などしても意味などない。それはただリーマスを惨めにするだけだ。
そう思い、特に触れることもせずに杖を抜こうとするレイとギルバート、そして頬を膨らまして二人を叱るアリスを眺めていたシルヴィアであったが、そんな彼女にリーマスが独り言つように口を開いた。
「君達は本当に仲がいいね」
「……ふふ、そうだろう? 私の自慢の友人達だよ」
関わるつもりはなかったが、こうして何かを打ち明けようとするのを遮るほどシルヴィアはリーマスを嫌ってはいない。
「僕はね、今年教職に就いてからというもの、君達が羨ましくて仕方がなかった。寮を超えてどんな時も支え合う君達が。友人が間違いを起こしそうになったら全力で止める君達が。そして、グリフィンドールとスリザリンの垣根を超えて笑い合う君とレイが、ね。それは僕達では無理だったことだからね」
「教授はグリフィンドールだったのかな?」
「ああ、そうだよ。そして僕には3人の友人がいた。君達のようにいつも一緒にいたかけがえのない友人達だ。違うのは、全員がグリフィンドールであったことと、優秀さに付け上がって傲慢だったことかな」
少し訂正するならば、シルヴィアもギルバートもその有能さに比例した傲慢さはあるだろう。本当に違うのは、その傲慢さを受け入れ、かつ時には行き過ぎたプライドを正してくれる二人の存在だろう。
腕をブンブン振り回してぷりぷりと怒っているアリスを、レイとギルバートが喧嘩をやめて宥めている場面を眺めながらリーマスは笑みを浮かべる。
「ほら、前にも言っただろう? 君に似た友人がいたんだけど、彼は本当に優秀でね。テストは満点が当たり前で、クィディッチではいつもエースだった。それもあって他人を見下す悪い癖があったが、それでも僕にとって彼は僕を救ってくれた心の友だったんだ」
そしてリーマスは語り始める。そんな恩人の次に優秀だった勇敢でキザでスカした少年のことや、強者には媚びへつらい弱者には強く当たる褒められない部分はあったが、人のいいところを見つけるのがうまい少年のことを。
シルヴィアはたまに相槌を打ちながら静かに耳を傾ける。自分達のようで、けれど決定的に違う四人の子供達が繰り広げた面白おかしい学生時代の話を。
ひとしきり話して満足したリーマスであったが、次には先程までの楽しげな様子は鳴りを潜ませて再び悲しげな面持ちを見せ始めた。
「僕達に出来ないことはなかった。どんな不可能なことがあっても僕達なら可能にできるという自信があった。……思えば、その傲慢さが僕達を引き裂いたのかもしれない」
レイ達とリーマス達が決定的に違うところ。それは……友の悪いところを全力で止めに入れるかどうかだろう。
言葉で説得して、行動で示してそれでも聞かなければ殴り合ってでも。そして最悪、嫌われてしまうかもしれなくても。
それで嫌われるのならば、所詮それだけの関係なのだから。
リーマスは言う。自分は彼に救われたのだと。しかしその救われたという負い目が、恩人がスリザリンの彼をいたぶる手を止めるのを躊躇わせたのだ。
その結果、自分達はとある少年少女を決別させてしまった。決別してしまった少年の心に取り返しのつかない傷を負わせてしまった。
そして恩人の悪い面が目立ったからこそ、つい先日、生きていることが分かった彼に……裏切らせてしまったのではないだろうか。
「なるほど? それがかの『悪戯仕掛け人』の顛末ということか」
「っ!?」
後悔に握り拳を固めるリーマスに、突然そんな言葉が投げかけられた。
どこから話を聞いていたのか。今の生徒達の誰もが知らないはずの自分達の正体を見破った秀才、ギルバートはいつのまにかじゃれ合いをやめてリーマスを眼鏡の奥から見据えていた。その横ではレイとアリスが驚きで固まっていた。
「……どうして、わかったんだい?」
「ふんっ、簡単なことだ。貴方はポッターに『忍びの地図』の危険性を問うた。それは、あの地図の存在を知る者以外にはありえない。そして先程から貴方がシルヴィに話していた悪戯好きで優秀な友人達。そこまで情報が出そろえば自ずと答えは導き出せる」
「いやはやお見事。如何にも、私が『悪戯仕掛け人』の一人、ムーニーだ」
喧嘩をしていたはずなのにちゃっかりと自分達にも意識を向けていた秀才に感服し、リーマスは改めて自己紹介とともに大仰にお辞儀をした。
『忍びの地図』の製作者の一人だと分かったレイとアリスは尊敬の眼差しとともに手を叩いてリーマスを称賛した。
しかし、秀才にはリーマスの誤魔化しは効かない。
「貴方が過去に後悔するのは勝手だが、それを俺達に当てはめるのは不愉快だ。それにそこの泣き虫にも悪影響を及ぼす。ただでさえ先程まで見ず知らずの誰かのために鬱に浸っていたというのに……」
「ギルさんっ、そんな言い方……っ!」
アリスは自身の言いようよりも、リーマスに対する遠慮のない毒吐きに怒りを見せた。
しかしギルバートは涼しい顔でそれを受け流す。それにムッとしたアリスがさらに怒ろうとしたところで、当のリーマスから諌められる。
「いや、構わないよバウンディ。彼の言うことはもっともだ。君達は僕達とは違う。すまなかったね」
リーマスは朗らかに笑った後に頭を下げる。それを横目で見たギルバートは鼻を鳴らした後、特に何かを言うこともなかった。
ギルバートが謝罪を受け取ったと認識したリーマスは、自分のために怒ってくれたアリスにも礼を言い、軽く咳をして佇まいを直した。
「と、言うわけでだ。何か悪戯をするときに僕にも一枚噛ませてくれたら助言ぐらいはしてあげるよ。残念なことに僕は今教師という立場だからね。僕が率先して悪戯をするのは少々まずいんだよ」
お茶目にウィンクするリーマスにつられて、アリスも怒りを納めて笑顔を見せた。それを側から見ていたレイとシルヴィアもホッと一息ついて一緒に笑った。
しばらくそうしていたが、時計を確認したリーマスは少し慌てたように踵を返した。
「おっと、少しばかり長居をしてしまったね。時間ももうそろそろお昼に近い。君達も遅れないようにね。……あと、君達が末永く共に居られることを心から祈っているよ。では」
最後にもう一度レイ達に笑みを返してリーマスは空き教室を出て行った。その背を見送ったレイは感慨深げに息を吐いた。
「はー、まさかルーピン先生が『悪戯仕掛け人』の一人だったなんてなぁ。世の中狭いもんだ」
「でも、なんとなく納得してしまいますよね」
「だな」
笑い合う最愛と最可愛にシルヴィアも思わずほっこりしてしまう。そんな彼女をよそに、アリスが思い出したようにギルバートへと向き直った。
「それと、ギルさん! あんな言い方はないじゃないですかっ」
「その話は終わったはずだぞ。いつまでも蒸し返すな」
「むっ! ダメですっ、たとえ不本意だったとしても、もっと言い方とか……っ」
「なぜ俺がわざわざ取り繕わなければならない。間違っている方が配慮するべきだろうが」
「むむむっ!」
アリスはめげずにギルバートへと突っかかるが、誰が見ても勝ち目などないように見えた。
しかしアリスは負けない。頑張ってのらりくらりと交わすギルバートに手を伸ばして捕まえようと必死に叱りつける。
それを微笑ましく眺めていたシルヴィアであったが、胸の内ではリーマスのとある真実に一つ確信を得ようとしていた。
ボガートが化けた恐怖の対象は満月であること。定期的に休みを取るが、そのタイミングが夜に満月が昇る前後であること。そしてあだ名がムーニー、つまりは月を意味するものであること。
彼女の中の予想が、確信に変わった瞬間であった。
「みんな、少し聞いてほしい」
シルヴィアは手を大きめに叩き、自分に注目を集めようとする。それは功を成し、言い合っていた二人も、それを眺めていたレイもシルヴィアへと顔を向けた。
それを見て一つ頷いたシルヴィアが秀才へと確認を取る。
「なぁ、ギル」
「ふん、気付いたか。貴様はそこの二人と違い話が早くて楽だ」
どうやらギルバートはシルヴィアと同意見のようだ。これで自信を確実なものにしたシルヴィアは何のことだかわからないレイとアリスへ向き直る。
「レイ、アリス。ちょっと話したいことがあるんだ」
「あん?」
「ほぇ?」
お互いが示し合わせたように同じ方向と角度で首を傾ける最愛と最可愛の愛しさに、説明も全部投げ捨てて力一杯抱きしめたい衝動に駆られるが、今はその時ではないと理性を総動員して自重する。
その様子をギルバートが冷めた目で見ていたのだが、天才は一切意に介すことなく改めてレイとアリスへ向き直った。
「んんっ、良いか二人とも。心して聞いてくれ」
シルヴィアの様子に真面目な話だと悟った二人は同じく真剣な面持ちを見せて先を進める。
それを見て頷いたシルヴィアは、自身が得た確信を二人に打ち明けた。
「ルーピン教授なんだがな、彼はおそらく……狼人間だ」
次回、そして一年生達は。