選ばれし者と暁の英雄   作:黒猫ノ月

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烏瑠さん、ゼアムさん、甲 零さん、貧血さん、響@ユウキ推しさん、誤字脱字報告ありがとうございます。


54話

駄々をこねていた身を凍らせるような冬の寒さもようやっと落ち着き、鉛色の雲海に遮られていた太陽の日差しも大地へと届くようになってきた。

 

それもあって、日中は春の到来を感じさせる暖かさが身を包むのだが、一度日が落ちてしまうとここぞとばかりに冬の勢力が勢いを取り戻してくる。その勢いはホグワーツの中まで及び、夜はまだまだ防寒具が手放せない。

 

日が落ち、等間隔に並ぶロウソクの灯りを頼りに石畳の廊下を歩いていたハリーは、ふと首元を通り抜けていった冷たい風に思わず首をすくめた。

 

「う~寒いっ。夜はまだまだ冷えるね、ハリー」

 

「う、うん、そうだね。早く談話室に戻ろう」

 

薪が割れる心地の良い音と冷えた心身を暖めてくれる暖炉を思い浮かべながら、ハリーはロンとともに足早に廊下を歩いていく。

 

今の時間帯は夜も遅く、あと二時間もすれば日も変わる頃である。この時間の外出は校則違反だ。もしミネルバに見つかりでもすれば、罰則は免れないだろう。

 

まあその時には、ハリーが脇に抱えている『透明マント』を使えば難を逃れられるだろう。

 

こんな時間に外出。また何か厄介ごとに首を突っ込んでいるのかと思えば、ハリーとロンの側にはそんな時はいつも一緒にいるはずのハーマイオニーとエステルの姿がない。

 

では、何故二人は夜遅くまで外出していたのか。その答えは、早足で廊下を歩いていくハリーから出た。

 

「スキャバーズは見つからなかったね。……早く手当てをしてあげれればいいんだけど」

 

「もう探しても無駄だよ。君も見ただろっ!あの血塗れの部屋! 部屋に舞う猫の毛! 口元を血でベタベタにしたあのドラ猫! スキャバーズを食べたのは確かなのに、その飼い主は謝りもしないっ!」

 

「落ち着こうよロン。レイとステラも言ってたけど、えっと、スキャバーズのその……残骸はなかったじゃないか。きっと何処かに逃げて避難しているだけだよ」

 

教師やフィルチに見つからないよう、声を荒げるロンを宥めながらハリーは続ける。

 

「それにハーマイオニーもびっくりしててそれどころじゃなかったんだと思うよ。時間が経って落ち着いたらハーマイオニーも頭を下げてくれるよ」

 

だから諦めずに探そうよと説得するハリーに、ロンは腹に据えかねていると言わんばかりに鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 

今のでお分かりだろう。そう、つい先日、ハーマイオニーが今年飼い始めた猫のクルックシャンクスが、ロンの飼いネズミであるスキャバーズを強襲するという事件が起こったのだ。

 

以前からその二匹が追いかけっこを繰り返し、その度にロンとハーマイオニーが口げんかをしていたのだが、今回は口げんかで済むような状況ではなかった。

 

クルックシャンクスに襲われたスキャバーズは行方不明かつ生死不明。ハリーとロンの部屋の有様を見ればクルックシャンクスが仕出かしたことは明らか。

 

これにはロンが大激怒した。顔を真っ赤にしてハーマイオニーに問い詰めたのだが、ハーマイオニーもハーマイオニーで真っ向から対抗した。

 

クルックシャンクスが頭のいいことやスキャバーズを食い散らかした跡がないこと、スキャバーズにも非があったかもしれないことなどを並べ立てて反論したのだ。

 

飼い主としては自分のペットが可愛いのは当然のこと。

 

それからはもうロンとハーマイオニーの口撃の嵐。ハリーとエステルが割って入って止めたためにその場は収まったが、それからというもの二人は一切口を利くこともなく、絶賛仲違い中であった。

 

ハリーとエステルは二人の喧嘩に巻き込まれ、ハリーはロンに、エステルはハーマイオニーに付いている。そのため、この場にハーマイオニーとエステルはいなかったのだ。

 

友人の板挟みにあって、ここ数日気苦労が絶えないハリーは思わずため息をこぼした。

 

怒肩でドスンドスンと歩いていくロンの後ろを、少し遅れて肩を落としたハリーが付いていく。そのまま二人は食堂とはまた違う、上層が吹き抜けの石造りの広間へと足を踏み入れた。

 

広間にはが美しい装飾が繊細かつ細部に至るまで施されており、いくつかの石柱が二階三階と天を貫くように上へと伸びている。二階と三階の壁際には正面の窓際を除きバルコニーのように通路があり、それぞれの階に登り降りする階段はない。通路に沿って歩けば向こう側へと行けるのだが、その不便さもあってあまり二階三階からこの広間に訪れるものは居ない。

 

そしてこの広間の顔とも言える装飾。広間の正面にあるそれは、それぞれの寮を示す動物が描かれたステンドグラスだ。当時の芸術の粋で作られたであろう四枚のステンドグラス、それらは月明かりを通して儚げに広間に映し出されていた。

 

校則を守っていればまず見られないこの神聖とも言える光景。しかし、ハリーとロンは一切目もくれず広間を突っ切っていく。この広間を抜けて少し歩けば、寮へと続く移動階段はすぐだ。

 

ロンは苛立っていた。ハリーは頭を悩ませ顔をうつむかせていた。

 

 

 

……その無防備な姿は、襲撃者にとっては格好の餌食であった。

 

 

 

「うわぁっ!?」

 

「えっ」

 

突如鼓膜を貫いた親友の叫び声。ハリーは勢いよく顔を上げる。……そして、目の前の光景に脳髄が揺さぶられた。

 

 

 

「……このような方法は不本意なのだが、少し静かにしてもらおうか。大人しくしていれば危害は加えない」

 

 

 

「っ!! お、前は……っ!」

 

石柱の陰より出でたかのように。

 

夜闇に紛れ、己が身を漆黒に染めた両親の仇が、親友を後ろから羽交い締めにして首元に杖を突きつけていた。

 

「く、そぉ……」

 

「ロン!」

 

ハリーはとっさにしまっていた杖を手に取るために、右手を左袖に突っ込む。しかしそれを見た仇……シリウス・ブラックは再度警告を促した。

 

「おっと、動かないでくれよハリー。私も久々に杖を持ったものでね。そのつもりはさらさらないが、間違いがないとも限らない」

 

「くっ……!」

 

ブラックはロンから奪い取った杖を握り直し、ハリーをまっすぐに見つめる。暗がりから見つめるその瞳には、ロウソクの灯りがゆらりと怪しく揺らめいていた。

 

親友を人質に取られているというどうしようもない状況に、ハリーは歯を食いしばり、杖を握る右手をきつく握りしめる。しかし人質に取られているロンが叫んだ。

 

「ハリー、こいつの言うことなんか聞くな! 僕ごとやるんだっ!」

 

「……っ!」

 

ロンの決死の言葉にハリーは逡巡する。その最中もロンはハリーに自分を見捨てろと叫び続ける。

 

広間にはただただロンの声が反響する中、ハリーとブラックの両者はしばし見つめ合う。一方は感情の読めない怪しげな色をたたえ、もう一方は人を殺せそうなほどの鋭さを携えて。

 

両者が見つめ合うこと数十秒。ハリーは、自身の心の中で燃え上がる復讐の炎をどうにか押さえつけて……ゆっくりと、杖から手を離した。

 

それを見たシリウスはどこかホッとしたような様子を見せたが、それは暗がりでハリーにはよく見えていなかった。そしてそれもすぐになりを潜め、やつれた顔には感情は読み取れなかった。

 

「安心してほしい……というのは信じられないだろうが、私も用向きが終わればすぐにここから立ち去ろう」

 

その言葉を受け、何を白々しいとハリーは憎々しげにブラックに吐き捨てる。

 

「僕の、命だろ」

 

「っ!!」

 

吐き捨てられた言葉は、剣のような鋭さを伴ってブラックの心臓を貫いた。苦痛に呻くように顔を歪ませるブラックは、絞り出すように言葉を紡いだ。

 

「……そう、だな。君は知っているんだな、ハリー」

 

「知ってる! お前が、お前が父さんと母さんを死に追いやったっ! 僕から奪ったんだ!!」

 

その慟哭を受け、ブラックは一度瞳を閉じた後に口を開く。その声には感情を無理に押し込んだような色があった。

 

「……否定はしない。ハリー、私が憎いだろう。だがその憎しみはとっておくといい。今は先にやらなねばならないことがあるからね」

 

そう言ってシリウスは自身が拘束しているロンへと顔を向けた。

 

「君に聞きたいことがある。君の……」

 

 

 

……その時、一筋の閃光が駆け抜けた。

 

 

 

「っ!!」

 

シリウスは飛んできた呪文を反射的に杖を振って防ぐ。同時にロンの拘束が解け、その隙にロンはハリーの方へと転がり込んだ。

 

ハリーとロンは何が何だか分からぬままに顔を正面へと向ける。するとそこに……。

 

ダンッ!!

 

と地面を揺らすような大きな音とともに、ハリーとロンの視界に彼は現れた。

 

二人とシリウスのちょうど間、そこに膝を曲げて蹲る彼は、何事もないようにゆっくりと立ち上がる。彼はハリーとロンに自分の背中を見せつけるように、シリウスと相対する。

 

ハリーが誰よりも憧れる背中。誰よりも頼りになる背中。……ハリーは、感極まったように彼の名を叫んだ。

 

「レイッ!!」

 

名を呼ばれた少年……レイは、シリウスに対する警戒を一切怠ることなく、軽く後ろを見やり笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

時は少し遡る。

 

ハリーとロンが帰路についていた頃、時を同じくしてレイはとある少女達を寮へとエスコートしていた。

 

「ごめんなさい二人とも、こんな時間まで付き合わせてしまって」

 

「気にするなよ。元はと言えば俺の呪文が役立たずだったのが原因だし。それに俺が手伝って早くハーマイオニー達が仲直り出来るんなら、俺も嬉しいからさ」

 

「うっ。ご、ごめんなさい……」

 

「ふふっ、ハーマイオニー謝ってばっかりだよ? それぐらい素直にロンにも謝れればいいのに、ねえレイ?」

 

「ははっ、そうだなステラ」

 

「〜〜〜〜っ! もうっ」

 

友人達の冗談に怒りと恥ずかしさが綯い交ぜになったハーマイオニーは、顔を赤く染めて可愛らしくプイッとそっぽを向いた。それにレイとエステルは顔を見合わせてまた笑い合った。

 

ロンと大喧嘩繰り広げたハーマイオニーであったが、落ち着きを取り戻してからの意気消沈っぷりは凄まじいものがあった。

 

自室にてエステルの胸で泣きじゃくるハーマイオニー。エステルは不謹慎ながら、一年の頃を思い出して懐かしみながら泣きじゃくる癖っ毛の子猫をあやした。そのすぐそばでは、クルックシャンクスがどこか申し訳なさそうに主人に侍っていた。

 

それからしばらく、落ち着きを取り戻したハーマイオニーは先ほどのハリー達の部屋の惨状などを鑑みて、スキャバーズが生きていると推察した。

 

それはエステルも同感であり、二人はロンと仲直りをするためにスキャバーズを探すことを決めてその日は眠りについた。

 

夜が明けて翌日。ハーマイオニーとエステルは空いた時間でスキャバーズを探したのだが、これがなかなか見つからない。数日が経ち、これでは埒があかないということで、助っ人として呼ばれたのがレイだった。

 

レイは呼び寄せ呪文を習得しており、それで呼んでもらおうと考えたのだ。早速二人はレイの元を訪れた。

 

話を聞き、急な救援要請に快く快諾したレイは早速杖を振るったのだが……スキャバーズはやってこなかった。

 

呼び寄せ呪文は人や知能の高い動物など意思あるものには反応しないが、小動物ならば呼び寄せることができるはずである。これはどういうことかと他のもので試したら問題なく魔法は発動した。

 

何度試しても一向にスキャバーズはやって来ない。これには誰も理由がわからず、お手上げであった。頼りにしてくれたのに不甲斐ない結果となって申し訳ないと、せめて一緒に探させてくれとレイが申し出た。

 

しかし結局スキャバーズは見つかることはなかった。それなら仕方ないと、今日は解散して明日ギルバートにでも呼び寄せ呪文の不具合も合わせて聞いてみようということになり、レイ達は寮への帰路についているというのが今に至る流れだ。

 

ハーマイオニーの機嫌を戻しながら、レイ達はそれでも先生やフィルチにバレないように気を遣って移動階段を寮へと向かって降りていく。

 

しかし、あと少し降りれば寮へと続く入り口がある踊り場だというところで、レイ達のよく知る友人の驚いたような声が反響したようにくぐもって聞こえてきた。

 

「今のはロンの声、か? 俺たちが言えたもんじゃないが、こんな時間に何やってるんだ?」

 

「何か慌ててたような声だったよね。先生に見つかったのかな?」

 

「……多分、そこの通路からよ。確か4寮を表す動物達が描かれたステンドグラスがある広間に続いているはずよ」

 

ハーマイオニーはなんとも言えないような顔をして、すぐ降りた場所にある踊り場から奥に続く入り口を指差した。心の準備もないまま喧嘩中であるロンの声が聞こえてきたのだ。そんな顔をするのも無理はない。

 

「はぁ、しゃーない。スネイプ先生やミネルバさんだったら撤退、フィルチなら助ける、二人ともオーケー?」

 

「うんっ、分かった。ハーマイオニーは……」

 

「私も行くわ。多分ハリーもいるだろうし、彼も……まぁ、ついでに助けてあげましょう」

 

ふいっ、とレイ達から目線を逸らすハーマイオニー。素直じゃない彼女の姿に、レイとエステルは微笑ましくなった。

 

レイ達は帰路を変更して、移動階段の踊り場から広間に続く通路へと入る。早足で通路を通っていると、再びロンの声が一行の耳に届いてきた。

 

『ハリー、こいつの言うことなんか聞くな! 僕ごとやるんだっ!』

 

「「「っ!」」」

 

その声色と言葉より、先生に見つかった程度の事態ではないことを悟ったレイ達は顔を見合わせ、頷き合うと早足から駆け足へと速度を変えて通路を駆け抜ける。

 

それからもロンの余裕のない叫び声が先の方から次々と飛んでくる。レイ達はさらに速度を上げて、ようやく広間へとたどり着いた。

 

広間の二階部分に相当するバルコニーへと出たレイ達は、バレないように身を屈んで落下防止の柵に身を隠す。そしてレイは息を殺し、首を伸ばして柵の向こう側を伺い……次の瞬間、衝撃の光景が視界に飛び込んできた。

 

広間一階の中央、ちょうど月明かりから影となっている場所。暗がりで相対する両者。歯を食いしばり相手を睨みつけるハリーと、ロンを拘束している脱獄囚シリウス・ブラックがいたのだ。

 

気付かれないように身を潜めたレイは、ハーマイオニーとエステルに状況を説明する。

 

「二人とも、落ち着いて聞いてくれ。……あのシリウス・ブラックが、ハリーと相対してる」

 

「えっ!?」

 

「そんなっ!」

 

驚きの声を上げる二人にレイは静かにするように促す。

 

「シッ! どうやらブラックはロンを人質にとってるみたいだ。それでハリーも迂闊に動けないんだろうな」

 

先ほど通路で聞こえてきたロンの言葉と辻褄があったレイは、彼の勇ましさに感嘆しながらも自分たちの為すべきことをするためにハーマイオニーとエステルに指示を出す。

 

「いいか二人とも、俺が隙をついてロンを助け出す。二人は今からすぐにミネルバさんとダンブルドア先生を呼んで来るんだ。その間の時間は俺が稼ぐ」

 

「そんな、ダメよっ。いくら貴方でも無茶だわっ、シリウス・ブラックは例のあの人の側近だった人よ?」

 

「大丈夫だ、時間を稼ぐくらいならなんとかなる。早くしないとハリーが殺されてしまう」

 

「で、でも……っ」

 

たしかにそれが最善であることは頭では分かっている。でも感情がそれを許さない。

 

そうこうしている間も時間は刻一刻と過ぎている。両親の仇を相手に我慢できなくなったハリーがシリウスへと立ち向かうのが先か、はたまた問答に飽きてシリウスがハリーを殺すのが先か。

 

時間が惜しいとレイが有無を言わさず行動を起こそうとしたところで、今まで黙っていたエステルが口を開いた。

 

「ハーマイオニー、ここはレイの言う通りにしよ?」

 

「す、ステラ?」

 

らしくないエステルの行動に思わず目を見張るハーマイオニー。いつもの彼女なら、自分と同じく……いや自分以上にレイの身を案じるはずだ。

 

固まるハーマイオニーをよそに、真剣な顔をしたエステルがレイにもう一度尋ねる。

 

「本当に大丈夫、なんだよね?」

 

「おう、任せろ。必ず二人が間に合うまで耐えてみせる」

 

「…………」

 

レイの答えにエステルは押し黙る。その反応に不思議に思ったレイは、声をかけようとする。しかしその前にエステルがレイの手を取って、自身の両手で優しく包んだ。

 

「ステラ?」

 

「レイ、お願い。……無茶、しないでね?」

 

「!」

 

レイを見上げるその瞳は不安で彩られている。レイは安心させるようにエステルの両手にもう片方の手を重ね、真っ直ぐにエステルを見つめた。

 

「ああ、約束する」

 

それを受けたエステルは一度顔を伏せると、次には不安の色もなく元気よく頷いた。

 

「ハーマイオニー、行こ?」

 

「……分かったわ。レイ、気をつけてね。できるだけ早く呼んでくるから」

 

「おうさ。さって、始めるか……っ!」

 

そう言ってレイは、二人を見送ったと同時に、シリウスの一瞬の隙をついて失神呪文を叩き込んで二階の通路から下の広間へと身を乗り出した。

 

 

 

 

 

 

「よう、俺の友達が世話になったようだな」

 

「……私を前に随分と堂々としている。どこかの誰かを思い出すようだよ」

 

「それはどうも。そう言うあんたは噂よりも随分と穏やかだな」

 

「…………」

 

杖を手に持ち、正面から相対するレイとシリウス・ブラック。先の攻防で暗がりから躍り出た両者を、ステンドグラスを通して様々な色に彩られた月明かりが優しく照らす。

 

その神聖とも言える光景を、ハリーとロンは固唾を呑んで見守る。

 

「悪いが、アンタを捕まえさせてもらうぞ。アンタがいるとおちおち寝てもいられないからな」

 

「いいや、ここは失礼させてもらおう。目的が果たせないのは残念だが、長くこの場に居座っていればダンブルドアが飛んでくるだろう」

 

レイは胸の内で舌打ちをする。気が狂ってるなんて話だったが、シリウスはかなり冷静だった。しかしここでハイそうですかとむざむざ逃がせるはずもない。

 

杖で空を斬り払い、レイは闘志を燃やす。それに応えるように、シリウスはロンの杖を構える。

 

ピリピリと肌を刺すような闘気のぶつかり合いを直にその身をに受けるハリーとロンは、思わず一歩二歩と後退る。そして……。

 

「なら、力尽くで大人しくしてもらうっ!」

 

「果たして君のそれは勇猛か、蛮勇か。悪いが手加減はできないぞ……っ!」

 

 

 

色彩に彩る月明かりの下、両者から放たれた魔法が広間の中央で激突した。

 

 

 

 

 

 

目の前で繰り広げられる強者同士の攻防に、ハリーとロンは目を奪われていた。

 

レイが身を呈してシリウスを受け持ってくれているのだ。自分が狙われているのだから早くこの場から離れるのが最善だ。それはロンも同じであり、親友のためにハリーを引きずってでも連れて行がなければならない。

 

しかし二人は動かない。いけないとは思いながらも、呆然と呪文の応酬を眺める。

 

初撃がレイとブラックの中央で弾けた後、ブラックは背後に下がり石柱の陰へと。レイはすぐにブラックへと距離を詰めた。

 

石柱に隠れながらブラックはレイに呪いを放っていくが、レイはそれを防ぎながら着実に距離を詰めていく。

 

「埒があかないか。なら……っ!」

 

ブラックは無言呪文を軽々と扱うレイに感心しながら、これ以上距離を詰められる前に自ら石柱の陰からレイの前へと飛び出して第2戦へと移行する。

 

「さぁ、撃ち合おうか!」

 

「来いっ!」

 

ブラックが緩急をつけて失神呪文を放っていくが、その悉くをレイは捌いていく。そのお返しとばかりにレイも失神呪文をブラックへと縦横無尽に放っていく。

 

広間の至る所で、魔法の閃光が次々と煌めく。さながら夜空に瞬く星空のように。

 

正々堂々。

 

その言葉にふさわしいように二人は失神呪文や呪いをフェンシグのように撃ち合い、時には防護呪文で身を守る。第2戦は両者互角。そこでレイが動いた。

 

「ふっ!」

 

「っと!」

 

不意にタイミングをずらして放たれた失神呪文をギリギリで弾いたブラック。しかしその弾いた一瞬の隙をついてレイがブラックへと間合いを詰める。

 

「っ! 甘い!」

 

それに気付いたブラックは即座に返す杖で失神呪文を放つ。距離が詰めたことで避けるのが格段に難しくなった渾身の一撃。これは足を止めて安定して防ぐか、止めないにしても杖を振るという動作が必要になってくる。

 

しかし、レイはそのどれをも選ばなかった。

 

「……しっ!」

 

「何っ!?」

 

なんと、レイは失神呪文を紙一重で真っ向から避けてみせたのだ。

 

二年の頃に身体を使うことを覚えたレイは、それからシルヴィア達を相手に日々自分流の闘い方を磨いてきたのだ。もちろん最初の頃は無様に呪文が直撃することも多々あったが、それも今では過去の話。

 

目の前に迫る呪文の恐怖に怯むことなく、僅かな動作で避けてみせたレイは、ブラックの手が届く間合いに辿り着く。

 

子供とは思えないその胆力と技術に驚きを見せたブラックであったが、すぐに持ち直し、しゃがんでレイの足を払いにかかる。

 

体が前のめりになり、体勢が不安定なところに魔法使いとしてはあるまじき身体を使った不意の一撃。流石のレイもこれには対処できない。

 

「くっ……!」

 

体勢が崩れ、勢いのまま前に転びそうになったレイはとっさに受け身をとってことなきを得る。そしてそのままの勢いで横に飛んだ。すると先程までレイがいたところにブラックから放たれる呪いが着弾する。

 

避け切ったレイは横っ飛びの最中に自身も杖を振るう。しかしそれもブラックに防がれてしまうが、レイはそれを確認する前にすでにブラックへ向けて直進していた。

 

「早い……っ!」

 

すぐにまたブラックの間合いへと飛び込んできたレイ。魔法が間に合わないと悟ったブラックは左手を握りしめてレイの顔をカウンター気味に殴りにかかる。

 

レイはそれを、右腕で弾いた。すぐさまお返しとばかりに勢いのついたレイの左ストレートが鳩尾に放たれるが、ブラックの防護呪文で防がれる。

 

だが左が防がれたときにはレイの杖がすくい上げるように振るわれており、その先から呪文が放たれた。

 

「ふぅっ!」

 

すくい上げるところを視界に捉えていたブラックは半身になって目の前を通り過ぎる杖と呪文を躱す。そして左手で技後硬直をしている杖が握られたレイの右手首を掴んだ。

 

これで終いだとブラックが杖を振るおうとしたのだが、そこをレイが下からブラックと同じように右手首を掴み上げた。

 

互いが互いの魔法と呪文を封じ、僅か1分にも満たない攻防にひとまずの終止符が打たれる。

 

レイとブラックはお互いが息のかかる距離にあった。

 

両者ともが力の限り魔法の発動を阻止していることで、両腕の筋肉が悲鳴をあげている中、ブラックが下から睨みあげてくるレイにニヤリと笑みを見せた。

 

「なんとも、攻撃的な戦い方っ、だな……っ!」

 

それに返すようにレイも口角を吊り上げた。

 

「生憎、魔法だけじゃ……あいつらには勝てないんでねっ!」

 

「ははっ、君よりも強いのが、っまだいるのかい! 最近の子供はっ、くっ、おっかない、ものだっ」

 

レイとブラックはお互い何でもないように振舞っているが、単純なやせ我慢、意地の張り合いだ。だがこのままいけば、レイに軍配があがるだろう。

 

理由は単純、長年の牢獄暮らしで憔悴しているブラックでは、日々鍛え続けているレイに勝てる道理はないからだ。というよりも、ここまでレイについてこれていた時点でブラックは賞賛すべきである。今もなんとかギリギリのところで膠着状態に持ち込めているのだ。あと数十秒もしないうちにあっさりとレイへと形勢は傾くだろう。

 

ブラックは僅か先の未来を予期して、額に大粒の汗を垂らしながらそれでも口角を下げることはなかった。

 

「……はぁ、はぁっ。君のような子が、あの子の友人ならば……っ、しばらくは、安心だろうっ」

 

「っ! それは……っ」

 

どういうことだ、とレイが問い詰めようとした時、自身が握るブラックの右手首が不意に動いた。

 

「まだ、私は捕まるわけには、いかない。……悪いね」

 

 

 

瞬間、レイの視界が真っ白に染まった。

 

 

 

「ぐぁっ! これは……っ!」

 

レイは突如視界を襲った光の暴力に、思わず力を緩めてしまう。その隙をつきブラックはレイの拘束を振りほどき、逃走を図った。

 

ブラックが僅かな動作で放った閃光の魔法はすぐに収まったが、モロに食らってしまったレイの視界はしばらく戻ってはこない。……本来ならば。

 

ブラックの誤算は、彼の友人が同じような呪文を開発していたことだろう。つまり、対抗策はすでに打たれている、ということだ。

 

「ちぃっ! やられた!」

 

レイはバジリスク戦でギルバートがみせたスタングレネードのような魔法の対抗呪文を己に放ち、すぐに視界を取り戻す。

 

パッと辺りを見渡してブラックがいないことを確認したレイは神経を研ぎ澄ませる。すると、移動階段とは反対の方向に逃げていく靴音が反響して聞こえてきた。

 

「あっちか!」

 

レイはすぐにそちらに向けて駆け出すが、その最中に同じように視界を奪われていたハリーとロンへも処置を施しておく。真実を知るために、ここでブラックを逃すわけにはいかない。

 

「ハリー、ロンっ! もうすぐここにステラたちが先生を連れてやってくる! 俺はアイツの後を追うからそこで待っていてくれ!」

 

「あっ、まっ、待ってレイ!!」

 

レイはハリーの制止の声に耳を傾けることもなく、ブラックが逃げた入口へと姿を消した。




次回、本当の真実。
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