選ばれし者と暁の英雄   作:黒猫ノ月

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感想を書いていただいた方に返信させていただきました。
返信が大変遅れたこと、深くお詫び申し上げます。


幕間 エリス家のお家事情

合法的なマグル商品を取り扱う大商会の一つ、エリス商会。

 

かつては前商会会長の急死やそれによる内部分裂、その隙をついて長い間商い競争を繰り広げてきたレドモンド商会の猛攻など、エリス商会は苦難の連続であった。

 

しかしそれも、若くして跡をついだ現商会会長であるウォーレン・エリスの鮮やかな手腕により乗り切ることに成功する。

 

それだけではない。ウォーレンはエリス商会とは因縁の関係であるレドモンド商会との長い商い競争に終止符を打ち、商品の区別化による同盟締結という大きな功績をもたらしたのだ。……まあその要因は彼の息子にあるのだが、そこまで漕ぎ着けたのはウォーレンであるので間違いではない。

 

こうして若き敏腕会長は名実ともにエリス商会にふさわしい男として認知されることとなった。

 

そんな彼だが現在、自宅の屋敷にある自室の書斎にて、妻のロザリンド・エリスと娘のジェシカ・エリスと向かい合っていた。

 

「……ジェシカ、それは本気で言っているのか?」

 

「はい、お父様。どうか私の次期会長候補としての決定を取り消していただきたく思います」

 

まっすぐにこちらを見つめて再度そう口にした娘を、ウォーレンは静かに見据える。その横ではいきなり告げられた正気を疑う娘の言葉に、ロザリンドが頭の中を真っ白にして絶句していた。

 

ウォーレンがジェシカから話があると面会を申し込まれたのは、彼女がホグワーツ魔法学校より夏季休暇のために帰ってきてすぐのことだった。

 

実の娘といえど、日々忙しい毎日を送るウォーレンにいきなり会えるわけでもない。事実ウォーレンの予定はひと月先まで埋まっていた。

 

しかし、“あの”ジェシカからの面会の申し込みである。いままで自身のことを避けているような節まであった娘からの言葉に、ウォーレンが話の内容が重大なものであると悟るのは早かった。

 

また、ウォーレンは過去に息子であるギルバートのことで失敗している。急な会長就任による激務によって構ってあげることもできず、ロザリンドたちによるひどい扱いに気づいてあげることもできなかったのだ。だからこそ彼は、子供たちのことで今度こそは間違えないようにと気を配るようにしていた。その彼がジェシカからの申し込みを無下にするはずもなく、次の日には娘のために十分な時間を確保していた。

 

そして翌日、書斎で一年ぶりの再会を果たした親子。久しぶりにジェシカを目の当たりにしたウォーレンは最初、驚きで目を見張った。

 

一年前までのジェシカは、いつも周囲を気にして神経質な印象を受ける子であった。また父である自分にさえ目を合わせようとはせずに顔を俯かせている子であった。そして……兄であるギルバートに憎悪にも似た暗い感情を向ける、総じて人好きのするような性格の子ではなかったはずである。

 

しかし今はどうであろうか。

 

背筋をピンッと伸ばして自身と面と向かうジェシカに以前のような陰鬱さは感じられなかった。いや、それどころか自信に満ち溢れているその姿は、彼女は嫌がるだろうが兄とそっくりであったのだ。

 

そうして驚いていた矢先であった。ジェシカから到底信じられない話が飛び出してきたのは。

 

そして冒頭へと戻る。

 

ウォーレンは出会い頭の驚きからはすでに回復しており、落ち着いてこちらの返事を待つジェシカを観察する。

 

次期会長になることはジェシカの……ひいてはロザリンド及びマクフォール家の悲願であるはずである。特にジェシカは次期会長になるためにつらい思いをしてきたはずだ。

 

で、あるはずなのに、ジェシカは言葉にする際も、そして今も動揺する様子は見受けられない。いや、それどころか、自身を見つめる瞳の奥からは確固たる決意の色まで見て取れるではないか。

 

大商会の会長として鍛えてきた商人の目でそこまで見抜いたウォーレンは、詳しい話を聞こうとしたところで邪魔が入る。……ほかでもない、ロザリンドであった。

 

「なにを……何をばかなことを言っているのっ! せっかくお父様が貴女の才を認めてご指名してくださったのに……」

 

「いいえお母様。お父様は……エリス商会のほとんどの皆様は私を認めてくださってなどいません」

 

「……っ!?」

 

いままで自分の言いなりであったジェシカからのまさかの口答えに、ロザリンドは思わず口を閉ざしてしまう。それだけではない。射貫くような力強い視線に、息をのむように気圧されてしまっていた。

 

ウォーレンが二人のやり取りを静観する中、そんな母の姿に内心でほっとしたのはジェシカである。兄や友のおかげで決意を新たにしたとはいえ、今までの恐怖心が消えたわけではない。だが、前に進むために、今は恐怖心になどにかまっている暇はない。

 

ジェシカは内心の怯えを悟られぬように、ロザリンドを追い詰めにかかる。

 

「私が選ばれたのは消去法であり……“あの人”にその座を譲られたからにほかありません。それはお母様もご承知のはずでしょう?」

 

「……そのようなことはありません。ジェシカ、妄言もたいがいにしなさい。さあ、早くお父様に間違いであると撤回なさい。さもないと……」

 

「鞭で私を打ちますか? それともマクフォール家の皆様とともに私を罵倒なさいますか? いつものように」

 

「なっ!?」

 

ウォーレンの目の前での突然の暴露。行き過ぎた罰の全容が明るみになり慌てるロザリンドであるが、しかしそれを聞かされたウォーレンは特に何の反応も示さない。ただ、静かに事の行方を見つめるだけであった。

 

動揺は隙となる。そこをジェシカはついてきた。

 

「お母様、いま私たちを支持しているのはエリス商会でも下のもの……成り上がりの品のない者たちだけです。エリス商会を支えているのは真に商いに誇りを持つ人たち。彼らの支持なければ、私の会長就任の先に待つものは……エリス商会のおわりです。」

 

「……そ、そんなことはありえません! マクフォール家の力があれば……」

 

「いい加減に現実を見なさいませっ、お母様!!」

 

「ひぇっ!?」

 

ジェシカの本気の怒声が書斎の本たちを揺らす。先ほどまであったロザリンドに対する怯えなどどこへやら。あまりに現状を把握していない母に、とうとう怒りが怯えを凌駕したのだ。

 

ロザリンドはロザリンドで、今まで言いなりであった娘の突然の反撃に素っ頓狂な声をあげて後ずさり。おかしなことに、今や母と娘の力関係は逆転していた。

 

ジェシカは怒りのままに続ける。

 

「マクフォール家の力? 笑わせないでください! 確かにマクフォール家はエリス商会誕生のころから支えてくれた古参の幹部。しかしそれはもはや過去の話。お母様、今現在マクフォール家が陰でなんと呼ばれているかご存知ですか?」

 

「そ、それは……」

 

「ええ、知っているはずです。エリス商会のお荷物、老害、寄生虫! まだありますが聞きますか!?」

 

ジェシカも言葉にするにつれて怒り以外の感情が声にのり、熱を帯びていく。そこにはいままで恐怖心によって抑制されていた彼女の本心からの叫びであった。

 

「否定できないでしょう! 自分たちは特に利益を生み出すことはなく、そのくせ商会内の運営にはいちいち茶々を入れる。それだけでは飽き足らず、他人の功績を横からかっさらいさも自分たちの功績のように胸を張る。いまやエリス商会の甘い蜜をすするだけの存在。ええ、ええ! まさしくお荷物、老害、寄生虫の呼び名にふさわしいですわね!!」

 

「…………」

 

もはやロザリンドも閉口するしかなかった。ジェシカの言うことには何一つ間違いなどなかったのである。マクフォール家もそこまでの影があるのにもかかわらず、今でもエリス商会の幹部の座にいるのは長い間商会運営に携わり培ってきた世渡りの上手さからであろう。

 

しかしそれもここまでである。なぜなら……。

 

「まあマクフォール家もここまででしょうね。お父様の反応を見るに、もうすでに何かしらの対応は済んでいるようですし。いままで無事だったのは……お母様と私に配慮してくださっていただけでしょう」

 

ロザリンドはその言葉に怯えたようにウォーレンへと振り返る。そこには、自身を無機質に見つめる夫の姿があった。

 

すべてその通りである。先ほどから半ば空気と化していたウォーレンは、すべて知っているからこそ大した反応を示さなかっただけである。……そう、すべてを。

 

「思えば、あの人に今までの悪行の証拠を握られた時から、マクフォール家の終わりは決まっていたのかもしれませんわね」

 

「……っ」

 

ジェシカの言うあの人、ギルバートがマクフォール家をはねのけたのはそういうことであった。確かに齢十にも満たない子供に証拠を握られて、これ以上こちらに手を出せば父や世間に公表する、と脅されるなど、衰退のこれ以上ない証明であろう。

 

「ようやくお判りいただけましたか、お母様。古びていたとはいえ大きな後ろ盾もなくなり、数人の幹部が本気を出せば簡単につぶされてしまう成金たちしか味方のいない私が、どうやってエリス商会を存続させることができるのですか?」

 

もはやジェシカの言葉に何一つ言い返せないロザリンドは黙することしかできなかった。

 

一番の障害が沈黙したことを確認したジェシカは再びウォーレンへと向き直る。ウォーレンは足を組みなおし、じっとジェシカを観察するように見つめる。

 

その無機質な視線を受け、ジェシカはひるみそうになる。一度公の場で口にしたことを撤回するということは大なり小なりウォーレンの立場に影響を及ぼすだろう。多大な迷惑をかけてしまうことは目に見えている。

 

……それでも、言わなければならない。

 

自分が自分となるために。

 

「お父様、ご迷惑をおかけすることを承知でお願いいたします。どうか、次期会長候補の件、白紙にしてくださいませ」

 

そう言って深く、深く頭を下げるジェシカ。しかし、ウォーレンは何も言うことはない。

 

それもそうだろう。まだ、ジェシカの話は終わっていない。

 

「……私は」

 

ジェシカは顔をあげる。

 

「私は、確かにあの人よりも劣っています。今まで何一つあの人に勝ったことなどありません。そんな私が何を言っても一蹴されるのがオチでしょう。……ですが」

 

臆することなく、ジェシカは言い切る。

 

 

 

「私は、必ずあの人を……兄を超えて見せます」

 

 

 

はっきりと、ジェシカはギルバートを……自分の兄と口にして、宣言する。

 

「私のやり方で、私が私として誇れるように。皆に認めてもらうのではない、これが私なのだと認めさせて見せます」

 

ジェシカは友から、兄からもらった自分という色を父へと見せつける。

 

 

 

「そして……あの傲慢な兄に、絶対にぎゃふんと言わせてやるのです!!」

 

 

 

 

最後には言葉遣いも投げ捨てて、素の自分までさらけ出してしまった。

 

ふんすと鼻息荒く気合をあらわにしたジェシカは、ようやく自分がウォーレンの前にいることを思い出す。しかし気づいた時にはすでに遅し。はっとしたジェシカはわたわたと慌てて取り繕うとする。

 

しかしそれを、笑い声が止めた。

 

「くくっ、はっはっはっはっは!」

 

ウォーレンは口元を抑えることもせずに豪快に空気を震わせて笑い声をあげる。それに呆気にとられるジェシカをよそに、彼はひとしきり笑った後に口角をあげたまま可笑し気に口を開いた。

 

「これはもう駄目かと思っていたが、どうやら私の目も曇ってきたようだな。……いや、ホグワーツでの一年がお前をここまで引き上げたのか」

 

東洋ではかわいい子には旅をさせよというが、よく言ったものだと独り言ちるウォーレンに戸惑うジェシカ。そんな彼女をよそに、ひとしきり自己で完結し終えたウォーレンがジェシカへと意識を向けた。

 

「ジェシカ、お前の決意は確かに受け取った。お前の次期会長決定は一時保留とする。私の名において、ローズやマクフォール家からは絶対に文句も手出しもさせないから、安心しなさい」

 

「へっ? あっ、いえ、ありがとうございます……」

 

醜態をさらしてしまったはずなのに、まさかの了承のお言葉。ジェシカも最初は驚いたものの、ウォーレンが本気で言っていることを察して恥ずかし気に頭を下げた。

 

「ローズ、お前にはあとで話がある。先に部屋に帰っていろ」

 

「…………はい」

 

ロザリンドは生気を失った顔のまま、トボトボと書斎をでていった。その後姿を何とも言えない表情で見送ったジェシカであったが、ふと視線を感じ振り返ると優し気な笑みを浮かべる父の姿があった。

 

もじもじと居たたまれなさそうにするジェシカにウォーレンはまた笑みをこぼす。

 

「くく、しかしジェシカがこんなにも元気な娘だったとはな。いやはや、やはり私は父親失格だな」

 

「い、いえそんなことは。……それよりもお父様、先のことは忘れてくださいまし」

 

頬を染めながらの娘の懇願にもう一度笑みをこぼしたウォーレンは願いを聞き入れる。……脳内フォルダにはしっかりと保存しながら。

 

「それでジェシカ、長期休暇はどうするのだ? ギルバートのように友人のところへ遊びに行くのか?」

 

ウォーレンの言う通り、ギルバートはすでにここにはいない。帰ってきて挨拶もそこそこに翌日にはレイ宅に向かってしまっている。休みの後半にはクィディッチ・ワールドカップの観戦に行く予定もある。そのチケットは息子への贈り物としてウォーレンが用意していた。

 

「いえ、私はお父様のお手伝いや勉学に励もうかと……」

 

ジェシカのやる気十分な返事にしかし、ウォーレン首を振った。

 

「せっかくの休みに何を言っているのだ。学生なのだから遊ばないでどうする。友人から何か誘いはなかったのか?」

 

「それは……」

 

図星である。ジェシカの親友であり、恩人でもある(絶対本人には言わないが)フィリシアよりうちに来ないかと誘いがあった。しかし次期会長を一から目指しなおそうとしているジェシカにそんな時間はない。

 

そう言って断った時はそれはもうフィリシアが駄々をこねたものだ。

 

その時のことを思い出して疲れたようにため息をつくジェシカの様子に、予想が的中したことを悟ったウォーレンは席を立った。そしてそっと彼女の肩に手を置いた。

 

「お前の気持ちややる気はよくわかった。……だがなジェシカ。そんなに焦る必要はない。十分に学生生活を楽しみながら、ゆっくりと力をつけていけばいい」

 

「で、ですが……」

 

「お前がそう逸る気持ちもわかるがな。ジェシカ、お前はギルバートではない。自分は自分なのだろう? それを気づかせてくれた友人を大切にしないでどうする。それに、たとえお前がここを継ぐことになっても、それはまだまだ先のことだ。私はそうやすやすとくたばるつもりはないからな」

 

声をあげて笑うウォーレンにつられて、ジェシカもぎこちなさげではあるが笑みを浮かべた。

 

「そういうわけだ、時間は十分すぎるほどある。どうせ学校を卒業した後に嫌でも手伝ってもらうのだからな。今は、学生らしく友人と過ごす時間を大切にするといい。わかったか、ジェシカ」

 

「……はい。ありがとうございます、お父様」

 

はにかんで返事をするジェシカに、満足げにうなずいたウォーレンはいいことを思いついたとばかりにジェシカに提案する。

 

「そうだジェシカ。友人たちを別荘に誘ってみたらどうだ? 湖畔沿いのあそこならいい思い出も作れるだろう」

 

「いいのですか?」

 

「もちろんだ、遠慮するな」

 

そう言って、ウォーレンはジェシカの頭をなでる。それにジェシカもまた、嬉しそうに笑った。

 

そこには確かに、あたたかな親子の姿があった。

 

………………

…………

……

……

…………

………………

 

書斎でウォーレンと別れたジェシカは、一人廊下を歩いていた。ウォーレンはこれからロザリンドと今までのこと、そしてこれからのことについて話し合いをするようだ。

 

おそらくマクフォール家はエリス商会から追放されることになるだろう。ロザリンドに関しては離婚……はないだろうが、今後エリス家では肩身の狭い思いをすることになるだろう。

 

そのことに思い至り、良心の呵責にかられたジェシカは立ち止まり胸元をきゅっと押さえた。

 

 

 

「……あら、エリス商会の未来の会長様がこんなところで立ち止まって何をしているのかしら」

 

 

 

そこに、ひどく艶めかしい声色がジェシカの背をなでた。

 

ぞわぞわとした背筋を這う感触に思わず身震いをしたジェシカは、それが誰のものかすぐに分かった。その人物に気取られぬよう、短く息を吐き、意を決して振り返る。

 

そこにいたのは……予想通りであり、予想以上の人物だった。

 

深い夜を連想させる黒髪を背に流し、満月のような金色の瞳は蠱惑的にジェシカを映している。そしてまるで人形のようなその美貌は老若男女問わず誰もが見惚れることだろう。最後にその美貌と黒髪に映える品の良い赤色のドレス。己に確固たる自信がない限り、逆にドレスに食われてしまうだろう。しかしそれを彼女は、しっかりと飼いならして自身の魅力の糧としていた。

 

上品な微笑みをたたえる彼女の名は、ユーニス・レドモンド。その美貌と智謀で数多の人を地獄に陥れた悪女であり、ギルバートの許嫁でもある。

 

ジェシカ自身はユーニスとあまり関わったことはない。パーティーやこのように通りすがりに挨拶を交わす程度である。その際に先のように皮肉が交じっているのはいつものことである。……それに対して角の立たないように愛想笑いで流すことしかできなかった自分も。

 

しかし、それは過去の話。

 

ジェシカはユーニスの魔性に気圧されそうになるも、ぐっとこらえしっかり金色の瞳を見返して答えた。

 

「ごきげんようユーニスさん。随分と情報が古いようですから教えて差し上げますが、私は次期会長候補を辞退しました。それではとてもあの人に勝てそうにありませんわね」

 

ジェシカの小生意気な反撃に、ユーニスは呆気にとられたようにパチクリ目を瞬いた。その子供っぽさは彼女の魅力にまた一つの可能性が見て取れる。

 

今まで言われるがままだった格下からのまさかの切り返し。普段の彼女ならば、ここで酷薄な笑みとともに生意気な口をきいたジェシカに相応の“躾”が行われることだろう。

 

だが今回はそのようなことはなかった。

 

「……へぇ。貴女、ようやく彼の優しさに気づけたのね」

 

「っ!?」

 

ユーニスにはジェシカの変化の過程などお見通しであった。

 

さらなる反撃を受けたジェシカは思わず絶句してしまう。結果は違えども、ユーニスにとってはジェシカなど子猫がじゃれてきているようなものなのであろう。

 

格の差を見せつけられたジェシカは声を何とか絞り出す。

 

「貴女は、知って……」

 

「当然でしょう? ずっと彼のことを見てきたのだから。私には向けられない彼の優しさを受けているにも関わらず、見当違いの憎しみで返す貴女に何度捻りつぶそうと思ったことか」

 

そう言って酷薄な笑みを向けるユーニスには流石のジェシカも怯んでしまう。

 

しかしそれもすぐに鳴りを潜め、ユーニスは肩をすくめる。

 

「でも、それに気づいて態度を改めたのだから良しとしましょう。今の貴女は面白そうだし、貴女に手を出して彼にこれ以上嫌われたくもないし」

 

ユーニスはひらりとドレスの裾をはためかせてジェシカに背を向けた。ユーニスの圧からようやっと解放されたジェシカはへたり込んでしまいそうになる。

 

だが、話はまだ終わっていない。

 

「お義父様にご挨拶でもと思っていたけれど、どうやらまだご用事があるようだし。ギルももういないみたいだし……そうだ。ねえジェシカ、暇つぶしにお茶でもしましょ?」

 

まさかのお誘いに咄嗟に断りそうになったが、ユーニスがこちらを振り向くその横顔から、まさか断らないわよねというぞっとぞっとするような圧が垣間見えてしまう。

 

「貴女に聞きたいことが色々あるの。ギルの学校での生活とか、そばにいる雌猫どものこととか、ね」

 

さ、行きましょ、と言ってユーニスは慣れたように客室への道を歩き始めた。

 

孵化したばかりの雛が歴戦の孔雀に勝てるはずもなく、ジェシカはユーニスに従うしかなかった。

 

絶対に後者が目的だと悟りつつ、ジェシカはおとなしくユーニスの後をついていく。

 

今度絶対にフィリシアに癒してもらおうと誓いながら、義妹の苦難は続く。




今年も大変お世話になりました。

幕間もこれでおしまい。次回からようやく四章開幕です!!
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