選ばれし者と暁の英雄   作:黒猫ノ月

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烏瑠さん、貧血さん、ハマチーズさん、アントさん、甲零さん、テオーリアさん、ゲーム好き君さん、N-N-Nさん、誤字脱字報告ありがとうございます。


61話

「……で。なんで貴様はいつも厄介ごとに巻き込まれるのだこの愚か者」

 

「いやー、なんか……流れで」

 

死喰い人との一戦、そして火の海からの脱出からしばらく。レイは無事に親友たちのもとへと合流を果たしていた。

 

そのレイがギルバートよりお叱りを受けている場所は、レイたちの寝床であるテントの中だ。外から見たテントはこじんまりとしたものだが、中の空間は魔法で拡大されており、十数人なら余裕で入れるほどの広さを誇っている。

 

そんなレイたち四人が使うにはあまりに広すぎる空間であったが、今やテントの中は多くの人で埋まっていた。

 

……その人たちは、死喰い人たちの襲撃により避難してきた者たちであった。

 

話はさかのぼること一時間と少し前。

 

レイがいない間に死喰い人たちの襲撃を受けていたシルヴィアたちであったが、その時の対応は冷静そのものだった。

 

逃げ惑う人たちをよそに、自分たちの周囲の火消しを行って安全を確保したシルヴィアたちはその場で待機する選択を選んだ。

 

そうして一息ついてレイの帰りを待っていた一行であったが、ほとんどの人たちが逃げていき静かになったところで、一行の耳に人の声が入ってきた。

 

それはうめき声であったり、泣き声であったり……逃げ遅れた人たちの助けを求める声だった。

 

そして……それを心優しいアリスが黙って聞いていられるはずもなかった。

 

心のままにテントから飛び出そうとするアリス。本当ならここで彼女を止めるのが正解なのだろうが、しかしシルヴィアは微笑みで、ギルバートは深いため息とともにアリスを手伝うことに了承したのだった。

 

それからシルヴィアたちは逃げ遅れた人たちの救助にいそしんだ。

 

怪我で動けなくなった老人や親と逸れた子供たち、この騒ぎで杖をなくしてしまった人など。一行が助けたその数は十人強。テントの中に避難させてもらえたその人たちはアリスとギルバートで応急手当を施し、シルヴィアは一人テントの外で万が一の護衛を行うこととなった。

 

そんなときであったのだ。レイからメッセージが飛んできたのは。

 

後頭部に手を添えなが申し訳なさげに笑うレイに、ギルバートは頭が痛そうにため息をつく。それもそうだろう。待機を命じたはずなのに、なぜか死喰い人と一戦交え、かつ子供二人という明らかなお荷物を連れ帰ってきたのだから。その問題の死喰い人は、失神したままテントの外に無様に転がされている。

 

相も変わらないトラブル気質にギルバートが呆れていると、レイが連れてきた子供たちの外傷を確認していたアリスがフォローに入る。

 

「そんなに責めちゃダメですよギルさん。そういう優しいところがレイさんの素敵なところですから」

 

「勘違いするな泣き虫。俺は何でそのタイミングで死喰い人と出くわすのかと……」

 

「それこそレイさんは関係ありませんよ」

 

ギルバートをそう諭すアリスの姿は数年前からでは考えられないことだ。けれどそれは二人が確実に心の距離を縮めていることを意味している。

 

そんな仲良しな二人の姿にレイが苦笑していると、ギルバートがすかさず鋭い視線を向けた。

 

「おい貴様、何を笑って……」

 

「に、兄ちゃんをいじめるな!」

 

しかしそこで、レイが助けた姉弟の弟ケンがギルバートへと突っかかった。何とも勇ましいものだが、レイの足にしがみついて半ば隠れるようにギルバートをにらみつけている姿は愛らしさが勝ってしまっている。

 

少し遅れて姉のアンナもレイの背に隠れてギルバートへ責めるように睨みつける。

 

幼い姉弟の不意な攻撃に思わず口を閉ざしたギルバート。そこに品の良い笑い声が入ってきた。

 

「ふふふっ、これはギルの負けだな」

 

皆がそちらへと意識を向けると、そこには外の巡回から戻ってきたシルヴィアが口元を隠しながら微笑んでいた。

 

「あはは、そうですねっ」

 

「……ちっ。これだから子供は好かん」

 

理屈のきかない幼子ではギルバートも分が悪い。彼は舌を打ったあと、そっぽを向いてこれ以上のお叱りをやめるのだった。

 

その光景を可笑し気に眺めていたレイは、自分を庇ってくれた姉弟にレイを言う。

 

「アンナ、ケン。ありがとな」

 

「「うんっ」」

 

元気よくうなずいた二人の頭を撫でてあげた後、レイは親友たちとテント内の空き部屋に移動して今後のことについて話し合うことにした。

 

「まだ闇払いが来る様子はないんだよな?」

 

「ああ。来ていたとしても、死喰い人を優先して一般人の保護は二の次だろうな」

 

「そもそも闇払いは戦闘職。救助などは専門外だ」

 

「幸い命に係わる怪我をした人はいませんから、焦ることはありませんが……」

 

「問題はここに連中が戻ってきたとき、か」

 

そう言ってレイは辺りを軽く見まわした。

 

年配者は足や腕、頭に包帯を巻いて横になっており、子供たちは部屋の隅で固まってすすり泣いている。唯一いる家族連れも父親が頭部を強打して気絶してしまっていて、そのそばでは心配そうに母親と子供が寄り添っていた。

 

本来ならばすぐにこの場から避難できる魔法、『姿くらまし』で避難できればいいのだが、そうもいかないのが現状だ。あれは基本万全の状態で行うもので、怪我を負ったままで行えば身体がバラバラになるリスクは高まってしまう。

 

そんな時、レイたちにしわがれた声がかかった。

 

「本当にすまないねぇお若いの。わしの腰がこの調子じゃなければ、あんな奴らぎったんぎったんにしてやるのにのぅ」

 

テント内の各部屋には扉はないので、偶然そばにいたこの老人にはレイたちの話が聞こえてきたのだろう。

 

申し訳なさそうに頭を下げる老人は今も腰が痛むのか、腰に手を当てて柱に身体を預けていた。

 

「あ、おじいさんダメですよ。安静にしてないと」

 

見かねたアリスが駆けより、その老体を支えてゆっくりと椅子へ座らせる。

 

老人の腰痛が収まったところを見計らい、レイが彼に話しかけた。

 

「じっちゃんは魔法が得意なのか?」

 

「応とも。昔は闇の輩なんぞあっという間に蹴散らしたもんじゃわい」

 

ほっほと朗らかに笑う老人に感嘆の声をあげたレイはそれならと気合を入れなおす。

 

「んじゃ、俺たちもじっちゃん見習って頑張らねぇと。なぁお前ら」

 

レイの言葉に賛同するように仲間たちが各々声をあげる。

 

「ふふっ、そうだな。もしあの塵どもがこちらに顔を出したならば、灰燼に帰してやろう」

 

「はいっ! 絶対に皆さんを守ります!」

 

「ここまでくれば最後まで付き合ってやる。でないと危なっかしくて見ていられんしな」

 

そうしてレイたちが心を一つにする中、自分よりもはるかに年下の子供たちの勇ましい姿に老人は眩しそうに目を細めた。

 

「ほほ、最近の若者は軟弱じゃと思っておったが、なんとも頼もしいものじゃ」

 

いやーそれほどでも、なんてわざとらしく謙遜するレイの姿は一同の笑いを誘った。そこで一人笑うことなく、いつものように嘆息する秀才であった。

 

ひとしきり笑ったレイたちは早速行動に移す。

 

「俺とシルヴィは外の警戒、アリスとギルは中でみんなの護衛だ」

 

「妥当だな、だがいいか貴様ら。今回の目的はあくまでここの防衛。間違っても調子に乗って深追いなんぞするなよ?」

 

ギルバートの苦言に好戦的な二人は顔を見合わせて苦笑し、しっかりと頷く。そしてアリスはいまだ不安がっている子供たちの方へと足を向けた。

 

アリスの後に続き、レイとシルヴィアもテントの外へと歩き出す。

 

しかしそんなレイの裾を軽く引っ張る者がいた。

 

「……? ケン、アンナ?」

 

「……レイさん、行っちゃうの?」

 

そこには、不安げに瞳を揺らす姉弟の姿があった。二人にとって、レイだけが心のよりどころなのだ。

 

レイは安心させるように屈んで二人の頭にそっと手を置いた。

 

「大丈夫だ。ギルとアリスは信頼できるし、俺よりも強いからな。絶対二人を守ってくれる。俺も二人が早くパパとママに会えるよう頑張ってくるから、いい子で待っていてくれないか?」

 

「……うんっ、待ってる」

 

「ぼくも!」

 

「おしっ、いい子だ」

 

アンナとケンの返事を聞いたレイは最後にわしゃわしゃと二人の頭を撫でてあげた。

 

「待たせたなシルヴィ」

 

「いや、子供にやさしい君も素敵だ」

 

「そんなんじゃねぇよ。いつもの自己満足だ」

 

「ふふっ」

 

愛し気な微笑に居たたまれなくなったレイは、こういう話題では勝てないことを改めて悟るのだった。

 

………………

…………

……

……

…………

………………

 

半ば焼け野原となった夜明け前の草原を、残骸から零れる残り火が淡く照らし出す。

 

辺りは怖いほど静謐に満ち、本当にここで騒ぎがあったのかと疑いたくなるほどであった。しかしここでの騒ぎは紛れもない現実であった。

 

その証拠は……濃紺の空にさまざまと浮かび上がっていた。

 

「蛇と髑髏のモチーフ。ヴォルデモートを象徴する証、か。何とも自己主張の激しいことで」

 

「何度見ても趣味の悪いものだ。こんなくだらないことでいちいち誇るとは……塵どもが」

 

あれからしばらくの間、外の巡回をしていたレイとシルヴィアであったが特に何事もなく朝を迎えようとしていた。

 

その矢先だった。白の土台に濃紺のキャンパス、そこにあのマークが描かれたのは。

 

過去……闇の帝王、もしくはその手先が事件を起こした際にその現場には必ずこの証が空に描かれたという。つまりは……今回の事件は模倣犯ではなく、正真正銘、闇の帝王の手によるものであることの証明であった。

 

そしてこれが打ち上げられたということは……。

 

「ってことはあいつらも撤退したのか。これでいち段落だな」

 

首謀者たちが満足して撤退したという、今回の騒ぎの終息を意味する。

 

これでレイたちもお役御免。あとは魔法省からの救援を待つばかりである。

 

「むう、せっかく塵を掃除できると思ったのに……」

 

「おいおい、ギルに釘刺されたじゃねぇか」

 

血気盛んな親友に呆れるレイに、シルヴィアはにやりと口角をあげた。

 

「それは深追いは禁物、という話だろう? その場で片付ければ問題ない」

 

「おお確かに……じゃねぇよアホ」

 

「ふふふっ」

 

レイのノリ突っ込みにシルヴィアはころころと笑った。

 

敵が撤退したとはいえ、仮にも戦場でこの余裕。さすがはここ三年ほどで数々の困難を乗り越えてきた二人、といったところか。

 

……………だが。

 

「ま、とりあえずは戻るとするか」

 

「そうだな。塵を屠れなかった分、私の可愛い天使でこの鬱憤を晴らすとしよう」

 

その余裕ある姿が。

 

「なんかもういつも通りで止めるつもりはねぇけど。今のアリスは真剣だから、多分ふざけちゃダメだっつって拒否られんじゃね?」

 

「……………ぐふっ」

 

“彼ら”に、杖を抜かせてしまうこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「「ステューピファイっ!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「っ!!」」

 

夜明け前の仄暗き頃。

 

完全に不意ををついた攻撃。

 

気配を断ち、タイミングを合わせて放たれた失神呪文の数々。

 

並の相手ならば、あっさりと戦闘不能にする手際のよい襲撃だ。

 

……………そう。

 

「っら!」

 

「クハハっ!」

 

“並の相手”、であったならば。

 

呪文の発動前、自身への敵意によって襲撃を先に感じ取ったレイとシルヴィアはすぐさま防護呪文を放ち敵の先手を防ぎきる。

 

「なっ!?」

 

「バカなっ! 不意を突いたはず……!」

 

呪文がはじかれた閃光で不意打ちが失敗したことを襲撃者たちは悟った。その事実に驚きを禁じ得ない彼らは一瞬攻めの手を止めてしまう。

 

その隙を、レイたちは逃さない。

 

「そこかっ!」

 

まず動いたのはレイだ。

 

失神呪文が飛んできた本数から、襲撃者は四人。二人組で前衛と後衛に分かれている布陣だ。

 

レイは防ぎ切ったと同時に失神呪文が放たれた場所からある程度襲撃者の場所を割り出し、鍛え抜かれた脚力でもって前衛の一人へ駆け出した。

 

「さあ、これから逃れられるかな!」

 

即座にレイの行動を把握したシルヴィアは、彼と同じように、しかしより正確に後衛の襲撃者たちの居場所を把握し、そちらへ向けて杖を弾むように振るった。

 

その間に、レイが前衛の一人へ接近する。

 

人の輪郭が何となしにわかる程度の夜明け前のこの時は、接近戦が得意なレイに味方していた。

 

「なっ、速……っ!」

 

いきなり目の前に現れた人影に咄嗟に杖を振るおうとするが、その前にレイの拳が鳩尾にめり込んだ。

 

「か、はっ………」

 

「アンディ!? よくも……っ!」

 

レイにもたれかかるようにして気絶した仲間の姿をその傍で見ていた襲撃者の一人が慌てて杖を振りぬこうとしたが、それよりもレイのほうが早かった。

 

「ステューピファイ!」

 

わずかな動作で放たれた失神呪文が襲撃者を貫く。

 

「———————」

 

後ろにのけぞるように倒れていく襲撃者。

 

次々に前衛が倒されていく中、後衛はいったい何をしているのか。

 

その問いに、夜闇に響く耳障りな金属のこすれる音が答えてくれた。

 

「これはっ!?」

 

「なんっ、むぐっ!」

 

後衛二人は、突如として地面より伸びてきた複数の白い鎖によって雁字搦めにされていた。

 

その鎖はシルヴィアが狼人間となったリーマスを捕らえるときにも使われたものだ。並大抵の力や魔法ではほどくことは困難。それが手足から口元までジャラジャラと覆われてしまっているのだから、襲撃者たちには最早なす術もないだろう。

 

こうしてレイとシルヴィアはあっさりと襲撃者たちを返り討ちにしてしまったが、その手際はもはや学生のものでは収まっていない。

 

そんな中、二人はまだ気を抜いてはいなかった。それは敵がこの四人だけとは限らないからだった。

 

「流石レイだ。近接戦になってしまえば私も危ういな」

 

周囲を警戒しながらもレイのもとに合流したシルヴィアが素直な感想を述べるが、気絶した襲撃者たちを地面に並べたレイはそれを微妙な表情で返した。

 

「あの鎖見せられた後だと嫌味にしか聞こえないんだけど……今度また対策しねぇと」

 

「ふむ、なら私もまた付き合うさ」

 

「ん、頼むわ」

 

シルヴィアも鎖で捕らえた者たちを自分たちのもとへ引っ張ってきてレイが転がした二人の横に並べる。

 

戦闘の間にも徐々に濃紺は西に追いやられ、白と朱の光が荒野となったこの場所を照らそうとしている。……が、未だ夜は明けず、辺りは仄暗いままだ。

 

「ルーモス、光よ」

 

杖先に光を灯し、レイは襲撃者たちの顔を検める。そして……。

 

「……………あり?」

 

「「っ!??」」

 

ここでようやく、両者はお互いの間違いに気付くこととなる。

 

疑問符を浮かべるレイの視線の先には、到底死喰い人には見えない四人の大人の姿が。また驚愕を露わにする鎖に縛られた二人の見る先には、到底死喰い人には見えない幼さを残す子供二人の姿が。

 

痛いほどの静寂がその場を支配する。

 

そんな中、シルヴィアは一人声を押し殺して笑っていた。

 

「薄々予想していたから鎖で捕縛したが正解だったな。しかし……ククっ、君はそうでもなかったようだ。君のその反応はとても心がくすぐられるよ」

 

「……あの、シルヴィさん? こ、この方々はもしかして……」

 

ようやくレイも思い至ったようで、嘘であってくれと顔に張り付けながら親友に問いかけるが……現実は非常である。

 

「ああ、君の予想通り。この者たちは……」

 

その時、レイとシルヴィアの耳に人の話し声が聞こえてきた。

 

『騒ぎが聞こえたのはこの辺りだな! ……むっ、誰かいるぞっ!!』

 

『アンディたちがこっちを任されていたはずよね。 彼らじゃないの?』

 

『わからん。……おい、お前たちは誰だっ! アンディか!?』

 

少し遠くから複数の人の声が聞こえてきて、そのうちの一人が大きな声でこちらに問いかけてきた。

 

「……よし、逃げるか」

 

半ば現実逃避気味に言い切ったレイにもうひと笑いした後、シルヴィアがこう提案した。

 

「それも面白そうだが、ここは取りあえずこちらの二人に弁明してもらえばどうだろうか」

 

そう言ってシルヴィアが白い鎖を解いて、襲撃者……否、闇払いの二人を解放したのだった。

 

………………

…………

……

……

…………

………………

 

そのあと、誤解の解けた面々は改めて謝罪した。

 

まあどちらかといえば闇払い側に落ち度があるのだが、闇の紋章が打ち上げられた現場に堂々と突っ立っている人影があれば勘違いもするだろう。

 

その後、闇払いを四人相手取った子供ということでまたひと悶着あったが、レイの怪我人がいるから助けてほしいという言葉に救助しようという話になり、現在。レイとシルヴィアは夜の明けた緋色の空の下、避難場所である自分たちの拠点に何人かの闇払いを案内しているところであった。

 

「それにしてもすごいよね。まだ学生なのに正規の闇払いを四人もノしちゃうなんてさ。あとシルヴィアは本っっ当に美人だし、髪綺麗だよねー。いいなあいいなあ」

 

「ふふ、ありがとう」

 

シルヴィアは隣にいる紫髪の魔女からの真っ直ぐな称賛に微笑んで礼を言う。レイから見たその笑みは純粋に喜んでいるようだった。

 

闇払いの一行を自分たちの拠点へと連れていく最中、レイとシルヴィアは髪を紫に染めたトンクスと名乗る魔女と会話していた。

 

トンクスは今回が闇払いの初任務であるようで、比較的年の近いレイたちに親近感があるようだった。レイもシルヴィアもどこか子供っぽくてフレンドリーなトンクスには好印象だった。

 

「いや、向こうの不意を突いた感じなんで正面からなら負けますよ」

 

「ああ、ああ。そんな堅っ苦しいのはなしなしっ。気軽にトンクスって呼んでよ」

 

「え? ……まあ、トンクスがそれでいいなら」

 

「うんうん。あ、それでさっきの話の続きだけどさ、不意を突かれたなんて言い訳は私たちはしちゃダメなんだよ。だってもし二人が死喰い人だったらアンディたちは死んでるわけだしさ。それを含めて実力ってね」

 

まあこれマッドアイの言ってたことなんだけどねー、とトンクスが何気に口にしたのだがそこでシルヴィアが反応した。

 

「マッドアイ……『マッドアイ・ムーディ』か」

 

「そうそう! 闇払い一の変人で、一応私の師匠なんだけど、もうこれがすんごいスパルタでさあ」

 

「なあ、そのマッドアイって人は有名人なのか?」

 

そのあたりの著名人に疎いレイがそう尋ねるが、これにトンクスがオーバーに反応する。

 

「えーっ!!? レイ知らないの!? 一応闇払いの生きる伝説なんて言われてるんだけど」

 

「ほら、ミセス・バウンディが時々口にしていた『イかれた馬鹿野郎』というのがあっただろう。おそらくその人だよ」

 

「……ああっ、エドナさんのライバルだって人か!」

 

シルヴィアの言葉に思い当たる節があったレイは納得といった顔をするが、ここでトンクスが食いついた。

 

「ねえねえ。そのエドナってさ、もしかしなくてもマットさんのお母さんだよね」

 

「トンクス知ってんの?」

 

「そりゃあもう! マッドアイがいっつもあの性悪はーってぐちぐち言ってんの。それに昔は『闇払いの二柱』なんて言われてたみたいだし」

 

「へーっ」

 

こんなところで身近な人の話が聞けたレイは、さらにトンクスと仲を深めてシルヴィアとともに拠点への道を行くのだった。




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