レイがとある部屋で堂々と宣言してるそのころ。
「…………どこのどいつだ? 私の最愛に仕掛けてきたゴミは」
「シルヴィア様……」
ホグワーツの薄暗い地下。スリザリン寮内談話室にて、女王が怒りに身を震わせながら鎮座していた。そのそばには、従者のように控えている中性的な少女の姿があった。
怒れる女王に触れるべからず。
この数年でホグワーツ内では当たり前となった教訓だ。もし陛下をどうにかして鎮めたいならば、三人の友人を誰か一人でもいいから呼ぶこととも。
しかし残念なことに友人三人は他寮であり、談話室にいる彼女の怒りを鎮めることはできない。……それもあって、談話室には誰の姿も無かった。スリザリン寮に滞在しているあのダームストラング生でさえ、だ。
「僭越ながらシルヴィア様。『炎のゴブレット』はたかが生徒では手出しできぬ代物。そしてダンブルドア校長の仕掛けた年齢線を欺くのは至難の業。そこいらの者共では……」
そんな中でも恐れず女王……シルヴィアのそばに侍っているセルマ・ラングフォードは進言する。
あの女王に進言できる。それはセルマがこの一年で文字通り血を吐く思いで勝ち取った信頼ゆえだった。
セルマは進言しつつ、その傍らで主人に少しでも気持ちを落ち着けていただこうと紅茶の準備を進めていた。
主人は忠臣の進言に同意した。
「わかっている。私が探っているのは
「うっ!?」
主人より突然発せられた
セルマは思わず委縮してしまう。紅茶をいれようとしていたポットもその拍子に落としそうになるが、何とかその醜態だけは回避できた。
「し、失礼しました!!」
セルマは己のありさまを即座に恥じ、すぐさま背筋を伸ばし自身の主人に首を垂れる。
直角に頭を下げるセルマを横目に、シルヴィアは優美な様子で足を組み替える。
従者が様々な感情を抱えて怯えている反面、
「かまわん。お前がそう言葉にしてくれるおかげで思考が整理される。……それと、たかだか
「……も、申し訳ありません」
二度目の悪しき人のフルネーム。しかしセルマはできるだけ平静を保ちつつ謝罪の言葉を再度述べた。覚悟していたこともあり、二度目は落ち着いて対処することができていた。
こぽこぽ、と柔らかく立つ湯気。
セルマは紅茶の用意を終えてシルヴィアへと差し出す。しかし胸中では名前ごときで怯える不甲斐ない自分を叱咤していた。
……しかしそれは無理もないことだった。幼少から教え込まれたものはなかなか抜けるものではない。それをシルヴィアもわかっている。
「よい、だが努めよ……さて」
シルヴィアはセルマにそれだけ言って彼女が入れた紅茶を手に取る。ほのかに香る落ち着いた香りが鼻腔をくすぐらせ、シルヴィアの感情も幾分か落ち着いていく。
セルマの当初の予定通り落ち着きを取り戻したシルヴィアは思考にふける。
「ホグワーツ内、生徒たちの中で私たちを敵に回そうとする愚者はいない。教師陣も同じ……いや、服従の呪文……却下だな。ダンブルドアの陣にその対策がないはずもないし、そもそも『炎のゴブレット』がそれを許さんはずだ」
香りを堪能した紅茶を、妖しく潤うその唇に運んだ。
「ダームストラング、ボーバトン。クラウチにバクマン、そしてマッドアイ。最有力は腰抜けの裏切り者、カルカロフだが……む?」
ふと、口に含んだ紅茶の富んだ風味とさわやかな苦みに、シルヴィアは微笑みでセルマをねぎらう。
「セルマ、腕を上げたな。これはなかなかに美味い」
「えっ……あ、ありがとうございますっ!!」
シルヴィアのちょっとした褒め言葉に、ぶんぶんと幻のしっぽを振り回す忠犬セルマ。
そのかわいらしい様子に苦笑をこぼしたシルヴィアは懐からあるものを取り出した。
それは、昨年からお世話になっている共面鏡だ。
「そろそろレイから連絡があるだろう。それまでに思考をまとめておかねばな」
シルヴィアは愛しき彼を想い、共面鏡に軽く唇を添えながら再び思考の海に沈む。
………………
…………
……
……
…………
………………
そのころ、ホグワーツ魔法図書室にて。
「…………」
ギルバートは一人、蔵書を読みふけっていた。
普段ならば監督生や司書官が夜間であっても見回りに励んでいるのだが、さすがに今夜だけはそれもなかった。
それを読み切っていたからこそ、ギルバートは一人ここを訪れたのだ。
そんな彼が山と積み、早々と紙をめくり続けているのは……今まで行われた三大魔法学校対抗試合に関する書物だ。
……もともと、対抗試合の歴史やどんな試練であったのかという程度の知識は記憶に落としていた。しかしこんなこともあるだろうと、関係ある書物はどこにあるかも含めすべて把握していたのだ。
ギルバートがこの時間、この場所にいるのは、数多くある中でも必要であるものとそうでないものを区別するために訪れていた。
ぱたんっ、と。
誰もいない夜の図書室を割るように響く。
……と、同時に。何気ないようなギルバートの声も響いた。
「……おい、いい加減出てきたらどうだ」
ギルバートは顔をあげ、先より自身を観察していた者の方へ顔を向ける。
そこは一見して何んでもない本棚が並んでいるだけだった。
しかしギルバートがそう指摘したとたん、その声に応じるかのように本棚のあたりから溶けるように人の姿が現れ出でた。
「……いつから気付いていたのですか?」
現れたのはジェシカ・エリスだった。彼女はギルバートの半分血のつながった妹であり、お互いの仲はさしてよくはない。
ならなぜ、彼女がわざわざこの場に居るのだろうか?
「最初からだ。俺がどうして
「っ!? ……そうですか、目くらましの呪文。魔法省も我が家での魔法の使用は黙認。杖は形見でもあるあなたの母の、ですか」
「ほう? なかなかの思考速度だ」
「あなたに褒められてもまったく嬉しくありません」
ジェシカは正解したにも関わらず、ぶすっと表情をゆがませながら不機嫌にそう返す。
自身の家の衰退の理由が分かったと同時に、その時、すでに誰よりも魔法の腕が上だったことを思い知らされたからこその返答だった。
それほどギルバートとジェシカの間には確執がある。だけれど、ジェシカがわざわざ身を隠してまでギルバートを伺っていたのには理由があった。
それは……。
「……ふんっ。心配せずともレイはこれくらいの異常事態でどうこうできる輩ではない。対抗試合さえ自身の糧として、自分の願いを追うだろう」
……そう。ジェシカが毛嫌いしている兄のそばでわざわざその様を様子見していた理由は……安心したかったからだ。
自分を変えるきっかけをくれた人であり、兄よりも兄らしく自分と接していてくれた彼を……ジェシカはただ、心配していた。
その自身の抱える不安を、ジェシカはギルバートへ口にする。
「……三大魔法学校対抗試合は、多くの死傷者を……」
それを、即座に彼の親友たる秀才が切り捨てて見せた。
「
「……っ!」
淡々と、しかしその言葉に確固たる決意を宿らせて。
そう宣言したギルバートはすくっと立ち上がる。
「だからこそ、俺はここに来た」
杖を一振り、山となった書物がそれぞれ元あった場所へと飛んでいく。
次々と本が戻っていくさなか、ギルバートはジェシカへ警告を発した。
「おそらく今回の主犯は相当なやり手だ。一年目や二年目のように、不確かな成功を望むようなあいまいな策ではない。……貴様も備えろジェシカ。今年は、何か違う」
「……ええ、そうしましょう」
書物が全部戻ったことを確認し、ギルバートが杖をもう一振り。自分とジェシカに目くらまし呪文を施し、歩み始める。
ギルバートがかけた目くらまし呪文は、先のジェシカのものより格段に周囲に溶け込んでいた。
「……嫌味ですか?」
「効率だ。嫌なら掛けなおして構わん。まあ、見つかれば見捨てるがな」
「……ふんっ」
鼻を鳴らして歩いていく様は、見る人が見れば兄にとてもよく似ていた。だが残念なことにそれを指摘してくれるものは誰もおらず、ギルバートも鼻を鳴らしてそのあとに続いた。
「「…………」」
「あ、やっぱりギルバートいた。調べ物は終わった?」
「……ルーナ、なぜ俺たちが分かった?」
「? だってラックスパートがそこだけ避けてたんだもん。そんなのアンタしかいないから」
「なぜここに?」
「レイのこと、心配してるのわかってたから。いろいろ準備するために図書室行ったのかなって」
「……もう、何も言うまい。帰るぞ」
「うんっ」
「…………あの人にも、どうしようもないものがあるのですね」
………………
…………
……
……
…………
………………
そして最後の一人、アリスはといえば。
「…………っ」
「あ、アリスっ……」
談話室内にいるほぼすべての生徒たちの視線を一身に受け止めていた。
アリスのそばでは彼女の友人たちがあまりの圧力に怯えていた。……だがしかし、友人たちは彼女を離さんとばかりに手を、腕を、裾を、決して離さなかった。
…………猜疑の目だった。
お前たちがやったのか。なぜだ。私たちの邪魔をして楽しいの。目立ちたがりめ。調子に乗るのもいい加減にしてほしい。最低だ。
針の筵、では生ぬるい。もはや負の側面をまとった槍の筵だ。
しかし、それを。
「……むんっ」
アリスは正々堂々、受け止めて見せる。
並の人間なら……それこそアリスとともにいてくれる友人たちのように。うつむき、顔を上げることもできず、背を丸めて逃げるように立ち去ることだろう。
それを、
顔を上げ、前を向き、口をキュッと結び、背筋を伸ばして……。
たった一人で、大勢の人間に立ち向かっていた。
そして。
アリスは気合十分、変わらず猜疑と責める目を向けてくる大衆の前で大きく息を吸って……。
「……あのっ!」
「何してるんだみんなっ! 彼女が何をしたっていうんだ!?」
アリスが勢いよく啖呵を切ろうとしたところで、それよりも大きい声が談話室に割り込んできた。
「お、おいセドリックっ」
「僕を早々に部屋に押し込むからおかしいと思えばっ……!」
友人の制止を振り切り、セドリックと呼ばれた青年がアリスの前に躍り出た。
セドリック・ディゴリー。
ハッフルパフの七年生であり、人柄は温厚そのものでとても勤勉。クィディッチではハリー同様にシーカーを務めるほどだ。魔法の腕もセンスも、七年生の間では群を抜いている。
……それこそ、レイたちに勝るとも劣らないほどに。
だが、彼は驕ることはなかった。彼はまさしくハッフルパフを代表するにふさわしく、他人を好きになり、他人に好かれる……そんな好青年だ。
だからこそ。
だからこそ、彼はとても期待されていたのだ。ハッフルパフのみんなに。彼を知る人に。
三大魔法学校対抗試合の代表選手に選ばれるのだと。
ハッフルパフの英雄になってくれるのではないかと。
……それが、その希望が。見事に打ち砕かれたのだ。だからこそ、優しさの塊であるアリスに対してこの始末なのだ。まあ、無理はなかった。
幸いなのは、アリスと仲が良い者たちはアリスが、彼女の親友たちがそんなことをするはずがないと信じていることと……。
「アリス、みんなも大丈夫かい?」
「セドリックさん……」
アリスの仲の良い者たちの中に、当のセドリック本人がいたことだった。
「すまない、助けるのが遅くなって。僕のせいでこんな……」
「いいえ、大丈夫ですよセドリックさん。ありがとうございます」
アリスが微笑みでもって返事を返したことに多少驚きながらもすぐに微笑みを返したセドリックは、転じて隠していた牙を周囲へ向ける。
「君たち……っ!!」
しかし……。
「セドリックさん、私に任せてください」
「えっ? ……っと、あ、アリス!?」
庇ってくれようとしていたセドリックの横を抜け、アリスが再度大衆の前に自分の姿をさらけ出す。
アリスは深く息を吸い……そして。
「私たちは、何もやっていませんっ!!!」
「「「「「「「……っ!!?」」」」」」」
……未だかつて、聞いたことがなかった。
いつも笑みを浮かべて、おっちょこちょいで、陽だまりのように温かく、優しい。
セドリック同様、ハッフルパフにふさわしい彼女の、
先までのアリスへと募っていた敵愾心は吹き飛び、この場にいる全員が圧倒される。……そばにいた、セドリックさえも。
しかし彼女の怒りは、周囲を囲む生徒たちへのものではなかった。
「信じてもらえないのは仕方がないので構いません! ……けど、もしこの中にレイさんを……ただでさえ自分のことばかりで大変で、いつも……いっつもっ! 誰よりも頑張っているレイさんを貶めた人がいるなら!!」
アリスの体が怒りで震え、その瞳には涙を目いっぱいにためていた。
けれど、決してその涙をこぼすまいとアリスは袖口で涙をぐしぐしと拭う。
そこでアリスは一度、顔をうつむかせた。
「…………絶対に、許しません」
うつむいたアリスからこぼれ出たその声は、地の底からきていると錯覚するほど重たい声だった。
そしてその声は地の底から這い出る。アリスは顔を上げ、地から羽ばたくように高らかに宣言して見せた。
「
そう数多の生徒たちに言い放ったアリスは、一転くるりとセドリックへ向き直る。
「セドリックさん」
「えっ……あ、ああ、なんだい?」
アリスの宣言に気おされていたセドリックは慌てて答える。
セドリックがなおも穏やかに接してくれることにアリスは有難いと思いつつ、自身の思いを告げる。
「私も、セドリックさんが代表に選ばれると思っていました」
「えっ」
呆気にとられるセドリックをよそにアリスは続ける。
「でも、残念ですがレイさんが選ばれてしまいました。だから、私はレイさんを全力で応援します。ハッフルパフを裏切ったと思われても仕方がないので……ごめんなさいっ!」
「えっと、うん」
「では、失礼します!」
言いたいことだけ言って、アリスはセドリックに一礼。普段とは別人のようにきびきびと女子寮へと歩き出す。
アリスの気迫は依然そのままだ。彼女を囲っていた生徒たちは気圧されてしまい、彼女へと道を譲った。
アリスは足早にその真ん中を抜けて自室へと去っていった。
そのあとを慌てて追うように走っていくアリスの友人たちを見送りながら、セドリックはアリスの消えた女子寮への道を見つめる。
アリスがいなくなってようやく談話室がざわめき始めるが……そこにはもう、彼女への不信感を募らせているものは皆無であった。……ただただ、談話室内に居たたまれないような居心地の悪い空気が溜まっていく。
ハッフルパフ生はみな、アリスが本気で怒っていることを察し、そして彼女の親友たちが本当に何もやっていないことに納得したのだ。
その空気の変化を肌で感じながら、セドリックはただアリスが去った先を見つめ続ける。
……彼女はたった数言だけで、自身の疑いを晴らして見せた。
友のためを思い、友のために怒り、友のために力を貸す。
……果たして、自分にそれができただろうか。
セドリックはそんな彼女の姿を思い出しながら、一人優し気に微笑むのだった。
………………
…………
……
……
…………
………………
そして、またもや厄介ごとに巻き込まれたレイは、ハリーを連れてグリフィンドール寮への帰路へとついていた。
「さぁて、早くシルヴィたちと話し合わなきゃな。ったく、どこのどいつだよまったく……」
「……ねぇレイ」
その道中で、おもむろにハリーがレイへと声をかけた。
「んー?」
「ムーディ先生がさっき言ってたこと……どう思う?」
「ヴォルデモートがどうこうってやつ? ……まーあるかもなー」
ハリーの問いに先ほどのやり取りを思い返しながらレイはぼんやりと返す。
「そんな適当な……」
「だって今考えたってどうしようもないだろ? 俺たちを嵌めたやつは誰なのか。そもそも同じやつなのか。目的は何なのか。なんもかんもさーっぱりだ。……ああいや、命がかかってることはわかってるか」
レイはふいに足をとめ、今度はしっかりとハリーと向き合う。
「ともかく、俺が今やれることは三大魔法学校対抗試合を乗り越えることだ。頭使うのは天才秀才がやってくれる。俺は、俺がやれることをやるだけさ」
「レイ……」
このような状況であっても余裕をもって笑みを浮かべるレイに、ハリーは頼もしさを覚える。
「レイはすごいね。死ぬかもしれないのにいつも通りだ」
「いやまあ、どうやったって逃げられないならもう腹くくるしかないしな。あんま考えてないだけだよ。……ってか俺がすごいとか言いながら、お前もそうだろ?」
「えっ?」
不意打ちだった。
「普通の生徒なら、覚悟もなくこんなことになったらもっと泣き叫んだりとか、駄々こねたりするだろ? でも、お前は違う」
憧れの人からの称賛。
「戸惑いは当然、怯えもある。……けど、しっかり前を向いてる」
憧れの背を持つ人が、自分の目を逃さぬように見つめてくる。
「お前も無意識にわかってるのさ、やるしかないって。覚悟決まってるいい顔だ。……ぷっ、はははっ」
そこまで言ってレイは唐突に声を上げて笑い出す。
突然のことに戸惑うハリーであったが、そんな彼にレイは笑みを返した。
「お互い、ヴォルデモートのおかげで場慣れしすぎたな」
ニシシと笑うレイに、ハリーも惹かれるように笑った。
ひとしきり笑いあった二人は再び帰路につく。
レイの横を歩きながらハリーは心中で嬉しさに溢れていた。
そう、ハリーは嬉しかったのだ。自分の目標であり憧れでもあるレイが、自分を見てくれていることに。認めていてくれていることに。
ハリーの中の臆病風は、いつの間にか過ぎ去っていた。
そして、無事グリフィンドール寮へとたどり着いた二人を待ち構えていたのは……。
無言の圧を放つ同寮生たちであった。
「まあそうなるわな」
「……憂鬱だ」
二人は顔を見合わせ、ありがたくない出迎えに向かって歩を進める。
しかし、ありがたくない出迎えの中にも得難い友人たちの暖かな出迎えもあった。
「レイ、ハリーっ! 大丈夫だった?」
「二人とも、疲れたでしょう? そう思ってハーブティーを用意したの。とりあえず座りましょう?」
「レイだけじゃなく、ハリーまで対抗試合に参加させられたのはなにかあるだろ。いったい誰がやったってんだっ!」
まずはエステルとハーマイオニーが二人を心配してねぎらってくれた。次にロンがこの現状におかしいと声を上げる。
親友たちが自分の心配をしてくれることにハリーは心がほぐれていくのを感じた。
そんな中、レイはフレッドとジョージに絡まれていた。
「ようよーう我らが戦友」
「おうおーう我らが宿敵」
「「一体全体どうやってあの校長を欺いてみせたんだい?」」
フレッドとジョージが両側からレイの肩を組み問い詰めてきた。
レイも釣られてお道化て返す。
「よくぞ聞いてくれました! これぞ我らが秀才が開発した……ってばか!」
「「「アッハッハッ!」」」
三人が息の合ったコントで場を沸かす。
そのかいもあってか、妙な緊張感に包まれていた談話室が少しだけ緩んだ。
そこに狙ってか、レイに声をかけてくるものがいた。
「なぁ、レイの兄貴」
「ん? おぉグレン、フィーも」
「やはー、レイ兄♪」
自分を呼ぶ声に振り向いてみれば、そこにはエステルの弟、グレンが立っていた。彼の隣には妹のフィリシアもおり、のほほんと手を振っている。
グレンはあの時の決闘以降、いままでの敵愾心は鳴りを潜め、レイを妹同様、兄と慕うようになっていた。……今では、レイに魔法や戦い方の指導をねだるぐらいだ。
相も変わらず肩を組んでくる双子をあしらいながら、レイはそんな弟分に向き直る。
「どうした?」
「どうした?じゃねぇだろ兄貴。三大魔法学校対抗試合は結局どうなったんだよ」
「ああ、棄権も無理だから参加しろってよ。俺もハリーも二人とも。ホントヤんなっちゃうよな」
誰もが聞きたかったことをズバリとグレンが尋ねた。のだが、当の本人がなんともあっさりと答えたものだから場は騒然する暇もなく沈黙に包まれた。
再び静まり返り訴えてくる談話室……に異議を唱えるのはレイとハリー。
「だって仕方ないじゃん! 『炎のゴブレット』の決定からは逃れられない、ってお偉いさんに深刻顔で迫られたんだものっ!」
「あのダンブルドアだって頷いてたし、もう参加するしか方法はなかったんだ!!」
二人の必至な形相に、再び談話室がざわめき立つ。
しかしこの場にいるみんなが本当に聞きたいことはそれではない。
「兄貴、ハリーも。聞きたいのはそこじゃなくって」
「なんだよ?」
「だぁかぁらぁ……つって。まっ、そうだよな、兄貴はもちろん。ハリーも自分から入れるわきゃないわな」
グレンの言葉にようやくレイが納得する。それはハリーにも伝わった。
「……ああなるほど。俺たちがホントに入れたのか。どうやって入れたのかが気になってるわけね」
その言葉を聞いて、ハリーも続けて声を上げる。
「なら、みんながいるここで言っておくよ。……僕たちは入れてない。誰かが僕たちを陥れたんだ」
ハリーの無罪の声を聞き、談話室が本日一のざわつきをたたき出す。
「信じられない」「コルドウェルたちが手伝ったんだろ……」「ハリーにまで手を貸すの?」「レイはこんなの興味ないだろ」「でも戦うの好きだし」「そうだとして、なんでハリーを巻き込むんだよ」「……ハリーに頼まれたから?」「それでコルドウェルとエリスが手伝う? ありえないね」
多くの憶測が飛び交う。
しかしそれを……。
「あーもーめんどくせぇなぁ。お前らがどう思おうが、もーどーでもいいよ。今日はいろいろあって疲れたからもう寝たい」
レイがすべてをばっっっさり切り捨てた。
何も気にせず大きくあくびをしながら男子寮への階段を目指す。
……いつも通り、自分を貫き、他人の評価など歯牙にもかけない。
その姿は。その姿こそが。何よりの証明だった。
グリフィンドールの寮生たちが静かに納得している中、赤毛の双子がレイにある問いを投げかける。
「なあレイ、我らが友よ」
「お眠なところ悪いが、最後に聞かせてくれ」
「「この三大魔法学校対抗試合、お前はどうするつもりだい??」」
双子は相も変わらす人を喰ったような笑みを浮かべてレイの背に向けて尋ねた。
それに対して、レイは……。
「……んなもん、決まってんだろーが」
振り向いて、そこにあった顔は。
「優勝目指すに決まってんだろ。いい腕試しにもなる」
不敵に、好戦的に、闘争心をさらけ出して。
先の眠気はどこへやら。目をぎらつかせてレイはそう答えた。
「「ひゅ~っ! 」」
双子が口笛で囃し立て、ほかの寮生も釣られて大きい声を上げる。
談話室が盛り上がりに拍車をかける中、エステルが不安そうにレイに話しかける。
「でもレイ、三大魔法学校対抗試合は死んじゃう人もでてるんだよ? 腕試しなんて……」
エステルの不安はもっともであった。だがレイはそれを……たやすく切り捨てた。
「俺が今、どこまでやれるのか試せるチャンスだ。まあケガぐらいするだろうが、
「っ!?」
聞き捨てならない言葉。
エステルは問い詰めようとレイに食って掛かろうとしたが、当の本人は寝ぼけ眼だ。
「さって、もういいだろ。俺は寝るよ。おやすみ~」
「あっ、ちょっとレイっ……!」
エステルの制止ももはや眠気で耳に届いていないのか、レイは振り返ることなく男子寮の階段を昇って行った。
その背を見送るエステルの顔には不安の色が浮かんでいた。
彼女の頭に浮かぶのは先の思い人の言葉。
……どうでも、いい?
こんなに、こんなに心配してるのに?
分かってる、分かってるの。
自分勝手な思いだって。
……でも。
……ずくりっ。
「レイ……」
エステルの胸に突き刺さっている杭が、ひときわ強く疼いた。
次回、『つかの間の日常』。