選ばれし者と暁の英雄   作:黒猫ノ月

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66話

曇り色の景色がホグワーツ周辺を満たしている。

 

鮮やかな紅葉が散っていき、ところどころ枯れ木を映す禁じられた森はかけたピースをそのままにしているパズルのようだった。

 

そこに北風が吹き抜ける。

 

行先はホグワーツ城だった。木枯らしに抱かれるようにたたずむ城は、冬の訪れを身を固めて備えているように見えた。

 

……だが、打って変わって。

 

ホグワーツ城内は連日熱気に包まれていた。

 

三大魔法学校対抗試合の代表選手が決まり、最初の試練である第一の課題を行う日時も徐々に迫ってきている。盛り上がらないわけはなかった。

 

そして、その代表選手に選ばれた一人であるレイはといえば。

 

「歴代の課題一覧と傾向をまとめると、まず第一の試練は目に見えて大いに盛り上がるものを採用していることが多かった。代表同士の一騎打ち、魔法生物の討伐、障害ありきの競争などだ。一騎打ちなら心配はない。競争については有利だと思われる魔法をシルヴィと打ち合って体で覚えろ。魔法生物は俺が弱点や対策をまとめておいた。さっさと脳に詰め込め」

 

「サンキュー、助かるよ」

 

ギルバートから三大魔法学校対抗試合の対策をありがたくいただいていた。

 

受け取ったレイはすぐにその羊皮紙に目を落とし、内容を把握するに努めていく。

 

それを確認したギルバートは短く嘆息し、自身の隣を見やった。

 

「本人が気にしてないのだ。お前たちがそう気にしても仕方ないだろう」

 

少々呆れたようにギルバートが仲間の少女たちへそう声をかける。

 

そこには日刊預言者新聞を手に顔をのぞかせ、不穏な気配を纏ったシルヴィアとアリスがいた。

 

「……やはり我慢ならん。レイ、少し出てくる。なに心配するな、私に任せておけばこのリータ・スキーターとやらは後日ホグワーツ城下の湖に浮かんでいるだろう」

 

「シルヴィ、ステイステイ」

 

「……レイさん、ちょっと待っててください。今からおばあちゃんにお手紙出して闇祓い経由でこの人ないないします」

 

「怖い怖いっ!? いつものアリスに戻って!! レイさんからのお願いっ!」

 

あのアリスでさえこのありさま。シルヴィアも含め女性陣がここまで怒りに身を震わせているのは訳があった。

 

そのわけが彼女たちの手にある新聞にある。

 

そこには大見出しに三大魔法学校対抗試合について書かれてあった。

 

それだけなら当然のことだと納得するだろう。何せ久しぶりに開催された催しだ、大見出しも当然。……しかし、そこに書かれた内容に大きな問題があった。

 

結論かつ端的に述べれば……そこにはレイに対するありもしない風評がてんこ盛りに綴られていたのだ。

 

『三大魔法学校対抗試合に現れた稀代のヒール!!』『不敵な笑みに浮かぶのは凡人を見下す鋭い瞳』『あのダンブルドアすら欺いたその手腕!』『凡夫たちの妬みやっかみを歯牙にもかけずに堂々と優勝宣言!』『生き残った男の子さえ彼の引き立て役、レイ・オルブライトの眼中に他代表の姿なし!!』『三大魔法学校対抗試合なんて所詮稚児の遊戯!? 彼が求めるものは血か、闘争か!!?』

 

などなど。

 

レイのあることないこと……一部、本当のことだが。9割は目立つレイを貶めて新聞読者に刺激を与える文言の数々が載せられていた。

 

これを早朝にフクロウが運んできたときなどすさまじいものだった。主に女王様の機嫌の急降下が。

 

新聞を読んでレイへ不躾な視線を送っていた者たちは即座に顔をそらしてその場で新聞を畳んでいた。

 

しかし女王がいなければなんてことはない。新聞を読むのは個人の自由だ。

 

あからさまな視線や内緒話は全くないが、レイが校内を歩くと居心地の悪い空気になってしまっていた。

 

「レイ、君はもっと怒るべきだ。これはマクスウェル夫妻も無関係ではない、君の大切なものを害するものだぞ?」

 

風評とはとても厄介なものだ。記事に挙げられているレイはもちろん、その関係者さえ記事通りの人間とみなされることはざらだ。

 

だからこそ一時の享楽のためにレイを晒し、彼の大切な人たちを巻き込もうとしているリータ・スキーターにシルヴィアとアリスは怒っているのだ。

 

だがレイは、自身の敵には厳しいこの男が。依然いつもの様子を崩さないのが彼女たちは納得できなかった。

 

「まあじいちゃんたちから自分たちは大丈夫だって手紙が昨日来てたし」

 

「何? 初耳だぞ」

 

「じいちゃんの友達に日刊預言者に勤めている人がいて、先に教えてもらったんだと。で、じいちゃんたちはそもそも隠居してて自分たちの家は仲のいい友人たちしか知らない。だからいやがらせなんかも心配ないってさ」

 

「で、でもこんなのひどすぎますっ!」

 

それでも納得しないアリス。彼女の目の端には涙が浮かんでおり、当人よりも怒り、心配していた。

 

アリスらしいと苦笑して、レイは彼女の金髪にそっと手をのせた。

 

「だから、三大魔法学校対抗試合に集中しろってさ。じいちゃんたちがそう言うんだ。なら俺はそうするように頑張るだけさ。だからアリス、お前の力を貸してくれよ。お前が治癒術を学んでくれるおかげで、俺は安心して戦えるんだからな」

 

「むうぅ……分かりました。レイさんがそういうなら、このことは放っておきます。えいっ」

 

アリスは新聞を暖炉へと投げ入れる。

 

「でもレイさんっ! 無茶しちゃダメなんですからね!」

 

「ウッス、アリス先生」

 

「ギルさんっ、課題ください!」

 

「いい気概だ。これとこれ、あとこれにこれだ」

 

アリスは気合十分にギルバートの許へ駆け寄っていった。

 

その元気な様子にレイは微笑みを浮かべる。

 

だがそばにはまだシルヴィアがいた。

 

「レイ、私はまだ納得してないぞ?」

 

「んじゃ、今度俺とお前で〆にいこう。そんで弱みの一つや二つ握っとけば問題ないだろ」

 

「!!」

 

殺しはダメだが暴力は良い。レイの歪んだ提案にシルヴィアは思わず呆気にとられる。

 

だが次には嬉しそうに、楽しそうに邪悪に笑った。

 

「……くっ、くふふふふっ! いいなそれはっ! 私と君にお似合いの初デート、といったところだな」

 

「デートにしては物騒すぎるけどな。ま、俺も思うところもあるし、俺たちなら誰にもバレやしないだろ」

 

「くははっ! ああ、楽しみだ」

 

シルヴィアにつられるようにレイも悪い笑みを顔に張り付ける。

 

「……わ、悪い顔してます」

 

いつもならそんなことはダメだと咎めるアリスも今回ばかりはそんなつもりはなかった。

 

「先まで貴様もあのような顔をしていたぞ」

 

「ええっ!?」

 

アリスはギルバートの言葉にびっくりして、渡された本をいくつか床に落としてしまうのだった。

 

 

 

………………

…………

……

……

…………

………………

 

 

 

ダームストラング専門学校の代表選手、ビクトール・クラムが初めてレイ・オルブライトという人間を意識したのは、ホグワーツにきて数日後のことだった。

 

朝食時、ダームストラングの生徒たちが見目麗しい女生徒たちへ声をかけ、ちょっかいをかけていた。

 

一人はプラチナブロンドの髪が朝日にきらめく絶世の美少女。もう一人は幼さが抜けないながらも、可愛らしさを体全体で表したような美少女であった。

 

男子校であるダームストラングにとって女子との交流は積極的に行いたいもの。

 

しかしながら、それを遠目から見ていたクラムからしてみれば悪手そのものだった。

 

きれいなバラには棘がある。

 

いや、そんな言葉すら生ぬるい。ちょっかいをかけていたダームストラング生たちは、竜の逆鱗に触れていたのだ。

 

自身に調子のよい笑みを浮かべて迫るにとどまらず、竜の大事な大事な華にまで手をかけようとしている。

 

竜は、まさに、暴れ狂う寸前であった。

 

しかし、朝から大広間が阿鼻叫喚の惨状を見せることはなかった。

 

 

 

「はいはーい。おバカな真似はやめましょーねー。寿命、縮めたくないだろー」

 

 

 

竜には、騎手がいた。

 

どんなに怒り、我を忘れても。その者の命令は絶対に聞き入れる。

 

いつの間にか現れていた竜の騎手、レイ・オルブライトは、ダームストラング生の手首をひねりながらその場にいた。

 

「レイ……」

 

「ここでお前が暴れたら大広間が血肉の池になっちまうだろ? イラつくのは分かるけど、ここは()()()にお任せってなぁっ! ギルっ!」

 

「やれやれ。朝からゴミ掃除とはな」

 

さらにいつの間にか現れていたギルバートがレイと協力してダームストラング生を片付けていった。

 

全部で五人。

 

まず、レイは自分が手首を掴んでいた者が怒りで抵抗しようとするので、その男子生徒を床に叩き落として失神させた。

 

それを見てとっさに二人が杖を抜こうとしたが、それはギルバートが奪い去る。瞬間にレイが石化呪文で無力化。残り二名。

 

しかし、劣勢を察し逃げようと背を向けていた。

 

……が、それをレイたちが逃がすはずもなく。それぞれ片足を持ち上げられて宙摺りにされたのだった。

 

この間、30秒にも満たない出来事であった。

 

その光景をクラムは茫然と見つめていた。

 

魔法の腕には自信があった。国のクィディッチ代表としてシーカーを務めていることもあって運動神経、反射神経にも他者に勝っている自負もあった。

 

だが、目の前の光景が、その自信を揺さぶってくる。

 

人数差をものともしない魔法の技量。無言で、素早く、正確な杖捌き。人一人を即座に無力化できる体捌き。胆力、精神力。……この場にいる生徒たちの中で、どれほどの者たちがレイとギルバートの技量を正確に把握できていただろうか。

 

果たして、あの二人と戦って。自分は勝てるだろうか。

 

……それ以降、クラムは自分の中でずっと燻ぶり続けていた。

 

三大魔法学校対抗試合の代表選手として選ばれるために『炎のゴブレット』に名前を入れた時もだ。

 

だから、もしかしたら選ばれないとも思っていた。

 

こんな弱気な気持ちでは、ゴブレットも認めてくれぬのではと。

 

……だが、『炎のゴブレット』は自分を選んだ。

 

その決定は純粋に嬉しかった。ゴブレットは自分を認めてくれたこと、自分にはやはり選ばれるに足る才能があったのだと。……余談であるが、これで気になる()()()()()()()に自信をもって声をかけられる、というのも喜びの中にあった。

 

しかしクラムにとっては残念でもあった。

 

自分が気になる彼は未成年で、この試合での参加資格はないのだから。

 

だがしかし、彼はどうやってか。『炎のゴブレット』に名を入れ、この試合に参戦してきた。

 

どうやら自分の意思で入れたわけではないようだったが、棄権できないと悟った瞬間。

 

 

 

『んじゃ、取ってみるか……『永遠の栄誉』ってやつを』

 

 

 

彼が放った覇気に、自分は圧倒されてしまった。

 

動くことができなかった。

 

なんと情けない、無様な姿であろうか。

 

……だが、それと同時に腹の底からふつふつと湧き上がってくる熱いものに、久しく感じなかった昂ぶりを覚えた。

 

これは、この感情は、思いは。

 

 

 

『俺の力を試す絶好の機会だ』

 

 

 

闘争心。

 

闘い、争う心。

 

熱く燃え滾るそれが、クラムの顔に自然と笑みが浮かび上がらせる。

 

クラムは笑う。

 

これで彼と思う存分、競い合えると……。

 

 

 

………………

…………

……

……

…………

………………

 

 

 

日のあるうちは未だ秋の様相を見せていたが、日が暮れてしまうとそこはもう冬のテリトリーだ。

 

着々と秋の領地を占領していく冬は、いずれ征服しつくして生けるものに厳しい寒さを押し付けるだろう。

 

「う~さむっ。ぼちぼち冬服も引っ張り出さなきゃな」

 

「…………」

 

徐々に寒さをため込んでいくような錯覚を覚えるホグワーツの地下を、レイは人を連れて歩いていた。

 

普通ならば夜間に校内を歩き回っていれば監督生や教師に見つかって罰則まっしぐらだ。

 

だが、二年生のころに校内という校内を調べ尽くしたレイたちにしてみればまず見つかることはない。見つかったとしても、目くらまし呪文や隠し部屋でどうとでもやり過ごせ……怪しいのも約一名いるが、見つかったなら仕方なし。

 

もはや門限など、レイにとってはないにも等しいのだった。

 

「……オルブライト、ここでいい」

 

「お、そうか」

 

レイの連れ、ドラコ・マルフォイの言葉に二人は足を止めた。

 

去年より勉強会という奇妙な関係を築いたレイとドラコは、今年もその関係を続けていた。なお、ドラコはレイが代表選手に選ばれたことでようやくこの関係も終わりにできると期待したが、レイが()()()()()でやめるはずもなく……。

 

レイが代表選手に選ばれてから次の勉強会に顔を出さなかった日の翌日、それはもうひどい目にあったことはドラコにとって墓場まで持っていく思い出となっている。

 

「んじゃ、最後まで気を抜くなよ~」

 

「待てオルブライト」

 

「おん?」

 

いつもならこのまま分かれているところに珍しくドラコから声がかかる。

 

「三大魔法学校対抗試合、結局君の名前を入れた犯人は分からないのか?」

 

ホグワーツ城では現在二つの派閥が形成されている。

 

レイとハリーがズルをしたか、してないかの二派だ。

 

まあ派閥といったが、実情は8対2のしてない派の圧勝であるのだが。

 

グリフィンドールはレイの気質から。ハッフルパフはアリスの堂々とした姿から。スリザリンはシルヴィアの怒れる様子から。ほぼ全員がしてない派であった。

 

だが何も反論しないギルバートのレイブンクローの大半、ほか二校の生徒たちはしてる派だった。

 

ドラコももちろんしてない派だった。シルヴィアの様子はもちろんだが、この奇妙な関係を続けて約一年。レイが三大魔法学校対抗試合にまったく興味がないというぐらいは分かるつもりだった。

 

その問いにレイは肩をすくめる。

 

「ダメだな。おそらくホグワーツ生ではないだろうってだけだ。それも確定じゃない」

 

「そうか……」

 

「んで、いきなりどうしたよマルフォイ。今までこの話題振ってこなかったじゃん?」

 

らしくないドラコの様子にレイは当然の疑問をぶつける。

 

「君が無理やり、脅して、参加させてる勉強会」

 

「恨みたっぷりですこと」

 

「事実だ……んんっ。ともかく、次は第一の課題の後だったな」

 

「そうだな。次は変身術をメインに……」

 

「オルブライト」

 

「お、おう。どうした?」

 

改まった様子を見せるドラコにレイも思わず背筋が伸びる。

 

だが、そこからドラコは何も口にしなくなった。

 

ホグワーツ城地下に静寂が戻ってくる。

 

レイはいたたまれずこちらから声をかけようと思ったところで、ドラコは重い口を開けた。

 

「三大魔法学校対抗試合、僕は君を応援しない」

 

出てきた言葉はレイへの応援しない宣言。しかしそれは当然ともいえる。

 

レイが自ら参加したわけではない。しかし同年代が、しかもグリフィンドール生が参加していて面白いわけはない。それはレイもわかっている。

 

「ま、まあそーだよな」

 

「…………けど」

 

だが、マルフォイが言いたかったことはこれではないらしい。

 

目を伏せ、口元をまごつかせる。

 

そして……。

 

 

 

「………………死ぬんじゃ、ないぞ」

 

 

 

レイから逃げるように顔を横にむけて、か細い声でそれだけを絞り出した。

 

しかし静寂があたりに漂う地下。それがレイに聞こえないはずはない。

 

最初何を言われたのか、レイは全く分からなかった。

 

脳みそがドラコという人物を改めて模索して、本当にこういう人物だったかを確認して。

 

……違います。ドラコ坊ちゃまはこんなこと言いませんと結論が出されて。

 

 

 

「ふ、ハハハ……っ!」

 

 

 

レイは心から嬉しくなって、笑った。

 

「なっ!? 君というやつは……っ!!」

 

「悪いっ! 嬉しくてついな!」

 

「なぁっ!?」

 

レイの純粋なその言葉にドラコは顔が燃えるように熱くなり絶句してしまった。

 

わなわなと震えるドラコに、もうひと笑い。

 

「ははっ。……ああ、死んでたまるかよ。ありがとなマルフォイ」

 

「ふ、ふんっ!」

 

思い切りそっぽを向いて押し黙るドラコ。……その姿にレイのいたずら心がくすぐられた。

 

「それにしてもねぇ、あのマルフォイ坊ちゃんがねぇ」

 

「な、なんだっ! 何が言いたいっ!!?」

 

「ぶぇっっっつにぃ~?」

 

「~~~~っ!!」

 

大声を出すわけにもいかず、手を出して勝てるはずもなく。

 

ドラコは顔を真っ赤にして、激しく地団太を踏むのだった。

 

 

 

………………

…………

……

……

…………

………………

 

 

 

マルフォイと別れ、レイも夜の校舎を散歩のような気楽さで帰路についていた。

 

今宵は月がなく、等間隔に外からこぼれてくるのは星明りのみ。それがより一層肌寒さに磨きがかかっているようだった。

 

レイが一人寮へ足を運びながら、暇つぶしに考えているのは三大魔法学校対抗試合を手伝ってくれる親友たちのことだ。

 

先のマルフォイのこともあって、自然とそのことが頭に浮かんだ。

 

「みんなにも感謝しなきゃな。あんなに調べてもらって、手伝ってもらって。これで勝てなきゃ……想像したくねぇなー」

 

レイはそう一人ごちながら……ふいに足を止めた。

 

廊下にほのかに光る星明りにつられて空へと目を移す。

 

冷たい空気は夜空を透き通るように澄み渡らせ、そこに無数の星々が様々な彩で飾り立てられている。

 

レイはそこに今の自分を重ねた。

 

輝きを放つ星々はレイを支えてくれる大事な人たち。だがそこに月が……自分がいない。

 

「……ふっ」

 

そのことに皮肉気にレイは苦笑をこぼす。

 

……レイはここ数日、ある思いが頭をのぞかせていた。

 

その思いは、絶対にシルヴィアたちも、エステルも、ハリーも許してはくれないなんとも自分勝手な考えだ。

 

そんな仲間たちの支えを無下にしようと考えてしまう自分を、目の前の夜空が表しているようで。

 

「…………だけど」

 

レイがそうぼやいた時だった。

 

「ハリー・ポッター、オルブライト様にございますっ」

 

「ありがとうドビー。……レイっ!」

 

薄暗い廊下の前方。曲がり角から甲高い声に聴き馴染んだ声が響いてきた。

 

レイは自分のことを棚にあげ、門限過ぎに平然と歩きまわっている友人に苦笑してその場で待つ。

 

そうして星明りのもとに現れたのは一人の屋敷しもべ妖精とハリーであった。ハリーの脇には古びた布と紙切れが抱えられており、おそらく件の透明マントと忍びの地図だろう。

 

無数の星明りでは顔色までは照らし出せない。だが、ハリーが少々興奮しており、頬がやや紅潮しているのはレイも何となく察せられた。

 

「レイ、レイっ。話したいことがあるんだ!」

 

「おいおいハリー落ち着けって。俺たちが今、どこで、何時にいるのかわかっているか?」

 

その予想は的中し、レイは落ち着かせるように手で押さえてそう諭す。

 

しかし横から声がかかった。

 

「大丈夫でございますオルブライト様。今この辺りには誰もおりませんので」

 

「お、おう。屋敷しもべってのはそんなこともわかるのか、すげぇな。ドビーはどうしてハリーと?」

 

「ハリー・ポッターがスネイプ教授に見つかりそうになっていらっしゃったので、僭越ながらお助けした次第にございます」

 

あー……、とレイはその光景がありありと浮かび笑みがこぼれる。

 

そんなのんきなレイであったが、ハリーが無理やり現実に引き戻した。

 

「じゃなくて! それどころじゃない、大変なんだレイっ! 第一の課題は、ど、どど……ドラゴンなんだっ!!」

 

ハリーがどもりながらも必死に口にした単語、ドラゴン。

 

さしものレイもその言葉に驚きで目を見開く。

 

……まぁ、驚きの半分はドラゴンで、もう半分は。

 

「なーんでお前が知ってるんだよハリー」

 

仮にも代表選手が、なぜそれを知っているのかという点だった。

 

課題の内容などトップシークレットもいいとこだ。しかもそれを代表選手が知ったんじゃなんの試練にもならない。

 

当然の疑問。だがその訳もハリーは話してくれた。

 

「ロンとハグリッドが教えてくれたんだっ。ロンのお兄さんのチャーリーって人がドラゴンの研究機関で働いていて、そこのドラゴンが今回使われるんだってっ!」

 

吐かれた炎で透明マントごと燃え尽きそうだったよ!! と言葉通り熱く語るハリー。

 

しかしレイはそれを聞いてもなお平静だった。さらにレイは疑問も投げる。

 

「ま、まあドラゴンが相手なのは分かった。……けどよ、なんでそれを教えてくれるんだ? 俺たちは友達だけど、仮にも敵同士だぜ?」

 

レイが冗談交じりに返すとハリーは苦笑で答えた。

 

「ぼ、僕はレイを敵なんて思ってないよ。ただ一緒にこの課題を乗り越えたいだけさ」

 

そのあまりに真っすぐな言葉と思いに、レイはきょとんとした顔をして……すぐに笑みを返した。

 

「…………ああ、そうだな。からかって悪かったよ」

 

その笑みには自嘲が含まれていた。

 

先まで頭にあった()()()()()()()。自分はどこまで行っても自分のことばかりだ。

 

レイの自嘲じみたその様子は、暗さもあってかハリーが気付くことはなかった。

 

「それにこれはマダム・マクシームとカルカロフも知ってるんだ。二人は必ずデラクールとクラムに伝えるはず。……君一人だけ知らないのは不公平だ」

 

「……お前ってやつは、まったく」

 

ハリーは最後までまっすぐにレイにそう言い放った。

 

レイはあの場で宣言してからというもの、自分の腕試しのことしか頭になかった。そう、つい先ほどまでも……そして、今も。

 

だがハリーは。

 

自分の命がかかっている状況でも、友達のことを考えて行動している。

 

それが、レイには果てしなくまぶしく見えた。

 

最初から最後まで、自分のことしか考えてない自分と違って。

 

……だからこそ。

 

 

 

「それでこそ、ハリーだ」

 

 

 

レイはハリーを認めているのだ。

 

「えっ?」

 

「ありがとなハリー。おかげで俺も踏ん切りがついた」

 

「……え……っと?」

 

「ああ、わかんなくていいよ。…………分かってくれるな」

 

レイは戸惑うハリーに答えることなく、背を向ける。

 

「さ、いい加減帰るか。ドビーが見てくれてるけど、こういう時こそ気を付けないといけないってギルが言ってた」

 

「ドビーめが案内いたします。さあこちらへ」

 

「あ、待ってよレイっ!」

 

戸惑うハリーをよそにレイはドビー先導の下歩き始めた。慌ててその背に追いついたハリーはその背を見やる。

 

憧れの人が最後に見せた陰のある様子に不安が押し寄せるがしかし、先を行く彼の背。

 

ここ数年憧れ続ける大きな背は今、そこにはない。だが……。

 

 

 

背中からでも分かるほどのあの気迫は何であろうか。

 

 

 

ハリーはその背を目にしながらついていく。

 

 

 

 

 

………………。

 

 

 

 

 

……当のレイは一人、先ほどとは打って変わって不敵な笑みを浮かべていた。

 

自分のことしか考えてない? そう、それが俺だ。

 

自分勝手に、我がままに、自由に。

 

すべては自分のために。

 

 

 

俺は、俺の道を行く。




次回、『第一の課題』。
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